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中谷(元)
委員 今回訪問した
ドイツ、
チェコ、
イタリアの三カ国は、いずれも
憲法裁判所を設置していました。
憲法裁判所は、司法
機関であると同時に、
国民代表機関である
議会が制定した
法律について、場合によってその有効性を否定するような
判断をすることもあるために、
政治的な性格を有する
機関となっており、
政治的性格を有する以上、その
民主的正統性を根拠づける仕組みとするために、
裁判官の任命方法に工夫が見られました。
ドイツの連邦
憲法裁判所は、
ドイツ南部の
カールスルーエにあり、この地名自体が連邦
憲法裁判所のことを指す名称になっています。
裁判官は、半分が
連邦議会、もう半分が
連邦参議院によって選出され、任期は十二年、再選は不可能ですが、この選出方法が
憲法裁判所の
民主的正統性、独立性を根拠づけています。
チェコの
憲法裁判所は、
憲法秩序を擁護する司法
機関と位置づけられており、
裁判官は
大統領が任命をし、
上院の同意が必要となっております。任期は十年、再選は可能で、
憲法改正に関する
機関としては、コミュニティーとしての
憲法法律委員会と、コミッションとしての
憲法審査会の機能があり、
憲法だけでなく
上院の規則も扱っておりました。
また、
チェコでは、
憲法とともに
憲法的法律というものがありまして、この
憲法的法律というのは、
憲法を追加したり変更するためにあるものであります。
憲法の本文を変更するときは、
憲法的法律を制定し、それによって
憲法を
改正することになっているというのは、非常に勉強になりました。
イタリアでは、十五人の
裁判官で
構成され、三分の一は
大統領により任命され、三分の一は
議会の合同
会議により、残りの三分の一は最
高司法
機関により選任され、
法律の合理性、国の
機関の
権限の訴訟、
大統領の弾劾、
国民投票の
権限を有しております。
これまで、
国民投票は、原子力発電所の稼働、建設について行われました。
投票率五四・八%、
賛成九四%、圧倒的多数の結果、ベルルスコーニ政権の
意思が覆され、原発再開を断念したことがありました。
イタリアは、ラテン諸国として初めて
法律審査権の不可能というドグマから脱却をし、広範な
権限を有する特別の
憲法裁判所を創設しましたが、その選出や
判断にも
議会の一定の関与を認めており、これが
憲法裁判所の
民主的正統性を確保しているんだなと感じました。
次に、
憲法審査についてでありますが、
各国ともに
憲法裁判所が行っています。
ドイツの連邦
憲法裁判所は、二〇〇八年及び二〇一二年に
連邦議会の
選挙制度について
違憲判決を行っており、
立法機関の
判断を尊重しつつ、
政治の枠組みに介入することも積極的に行ってまいりましたが、これも
憲法裁判所の
民主的正統性を担保する仕組みがあるからこそできたものであります。これは抽象的違憲審査制と呼ばれているそうですが、具体的事案から離れて違憲審査権を行使しております。
我が国においては、
法律の違憲審査を行う最高裁判所は、通常の司法裁判所の系列に位置づけられ、純粋な司法
機関であり、純粋な司法
機関である以上、
政治から独立した存在であると位置づけられております。しかし、抽象的違憲審査制を採用する場合には、提訴案件、提訴権者、
裁判官の選任方法、裁判の効力が明示されているのが通例でありますが、
憲法にはこのような規定がありません。
私は、今回の欧州の
憲法裁判所の機能、
役割を見るにつけ、三権分立から独立した
機関、つまり、違憲審査を行う裁判所は、その問題の
政治的事情や現実的な背景も考慮する必要があると考えまして、
憲法裁判の際には、国権の最高
機関たる
立法府としての
議会の
政治判断への積極的な介入を期待する必要があるのではないかと考えます。
これまでの自衛隊訴訟や定数訴訟に対して最高裁は
判断を下しておりますが、具体的事件を離れて、抽象的に
法律、命令が
憲法に適合するかしないかを決定する
権限を有しているのでしょうか。また、
裁判官にそのような能力があるかどうか、その選出や
判断に
国民や
国会の一定の関与や承認が要るのではないかと思いますが、欧州では、こういった
国会の関与というものがあったわけでございまして、今後、
裁判官の任命方法など、違憲審査を行う裁判所の
構成や位置づけについても、それに対応した形にする必要があると感じました。
また、
日本の場合、違憲
立法審査権は、付随的なものとされ、通常の裁判事件の審理を進める上で必要な場合に初めて行使されることになっております。ただ
制度がある、
法律の
条項があるというだけで、違憲、合憲の確認を求める訴訟を起こすことはできない仕組みになっておりまして、国政の基本にかかわる問題に、いたずらに違憲、合憲を確認するような訴訟を抑えることができますが、
国会において少数
意見として退けられるようなテーマにおいて違憲の確認を求めたい場合には、それが難しくなりまして、場合によっては、少数派の人権救済が難しくなっております。我が国も、早急に
憲法裁判所の導入を検討すべきであると感じました。
最後に、
ドイツ、
イタリアとともに、
日本は、枢軸国としてさきの大戦において日独伊三国同盟を結び、敗北をした国家であります。その教訓を生かして、この三カ国には、
憲法において平和主義が盛り込まれているという
共通点がありました。
ドイツの
憲法裁判所は、戦前に司法がしっかりしなかったためにナチスに支配された
歴史の繰り返しを防止するために設けられた戦う民主主義の理念を持って、法治国家、民主、自由な秩序に対する危険を排除しておりました。この戦う民主主義というのは、私は、非常に大事なものだと思います。
また、
イタリアにおいても、反ファシズム、レジスタンス活動で戦ったキリスト教民主主義勢力と社会主義勢力の
妥協の産物で、第一条第一項で、
イタリアは勤労に基礎を置く民主的共和国であるとされ、第十一条では、
イタリアは他の人民の自由を侵害する手段及び国際紛争を解決する手段としての戦争を否認すると、条件つきながら戦争の否認を宣言いたしておりました。そして、
イタリアは、他国と等しい条件のもとで、
各国の間に平和主義と正義を確保する
制度に必要な主権の制限に同意するというふうに述べております。
日本国憲法でも平和主義がうたわれております。その精神は永久に不滅なものであるとして、今後とも尊重していかなければならないと感じたわけでございます。
さまざまなことを今回の
憲法議論に生かしてまいりたいと思っております。
以上です。ありがとうございました。