運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

2013-05-02 第183回国会 参議院 予算委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成二十五年五月二日(木曜日)    午前九時開会     ─────────────    委員の異動  四月二十六日     辞任         補欠選任      山下 芳生君     大門実紀史君      吉田 忠智君     福島みずほ君      中山 恭子君     片山虎之助君  四月三十日     辞任         補欠選任      斎藤 嘉隆君     川上 義博君      直嶋 正行君     高橋 千秋君      西村まさみ君     大久保潔重君      安井美沙子君     徳永 エリ君      寺田 典城君     中西 健治君  五月一日     辞任         補欠選任      大久保潔重君     西村まさみ君      川上 義博君     前田 武志君      高橋 千秋君     石橋 通宏君      岸  宏一君     磯崎 仁彦君      荒井 広幸君     舛添 要一君  五月二日     辞任         補欠選任      大門実紀史君     田村 智子君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         石井  一君     理 事                 小川 敏夫君                 小林 正夫君                 白  眞勲君                 松浦 大悟君                 青木 一彦君                北川イッセイ君                 山崎  力君                 谷合 正明君                 小野 次郎君     委 員                 石橋 通宏君                 大河原雅子君                 加賀谷 健君                 小西 洋之君                 田中 直紀君                 津田弥太郎君                 徳永 エリ君                 西村まさみ君                 藤末 健三君                 前田 武志君                 牧山ひろえ君                 赤石 清美君                 磯崎 仁彦君                 岩井 茂樹君                 宇都 隆史君                 岡田  広君                 末松 信介君                 谷川 秀善君                 中川 雅治君                 野上浩太郎君                 藤川 政人君                三原じゅん子君                 草川 昭三君                 横山 信一君                 渡辺 孝男君                 中西 健治君                 平山 幸司君                 森 ゆうこ君                 田村 智子君                 大門実紀史君                 谷岡 郁子君                 福島みずほ君                 片山虎之助君                 舛添 要一君    事務局側        常任委員会専門        員        小野 亮治君    公述人        慶應義塾大学大        学院経営管理研        究科准教授    小幡  績君        第一生命経済研        究所主席エコノ        ミスト      永濱 利廣君        経済評論家    上念  司君        元外務省国際情        報局長      孫崎  享君        キヤノングロー        バル戦略研究所        研究主幹        立命館大学客員        教授       宮家 邦彦君        ジャーナリスト  富坂  聰君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○平成二十五年度一般会計予算内閣提出衆議  院送付) ○平成二十五年度特別会計予算内閣提出衆議  院送付) ○平成二十五年度政府関係機関予算内閣提出、  衆議院送付)     ─────────────
  2. 石井一

    委員長石井一君) ただいまから予算委員会公聴会を開会いたします。  本日は、平成二十五年度一般会計予算平成二十五年度特別会計予算及び平成二十五年度政府関係機関予算につきまして、六名の公述人方々から順次項目別に御意見をお伺いしたいと存じます。  午前は、慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授小幡績君第一生命経済研究所主席エコノミスト永濱利廣君及び経済評論家上念司君に公述人として御出席をいただいております。  この際、公述人方々に一言御挨拶申し上げます。  本日は、御多忙中のところ本委員会に御出席いただき、誠にありがとうございます。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。  本日は、平成二十五年度総予算三案につきまして皆様から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いいたします。  次に、会議の進め方について申し上げます。  まず、お一人十五分程度で着席のまま御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。  それでは、財政経済金融について、まず小幡公述人にお願いいたします。小幡公述人
  3. 小幡績

    公述人小幡績君) 小幡です。おはようございます。よろしくお願いします。  座ってやれということですので、恐縮ですが、座ってやらさせていただきます。  安倍政権誕生以来、世の中は一部明るくなってきまして、これはやっぱり株高影響がすごく大きいのと、もう一つはやはり安倍総理の人格といいますか、格好いいリーダーシップというのが世の中を明るくしているということは事実だと思います。麻生大臣のお言葉によれば、オプティミスティック・デュオですか、明るい二人ということで、楽観的な二人が引っ張るということで世の中も明るくなるということだそうです。  実態からいうと、その株価影響、物すごい大きいと思うんですけれども、ただ、株価はかなり上がったんですけれども、株価影響は基本的に二つだと思っています。世の中がやっぱり明るいということになると前向きになるということは確実にあると思います。ただ、もう一つは、世界的な株価上昇の流れの中で日本もそれに乗っていると。そこで、円安ですとドルベースで見ますと割安になっていくものですから、ドルで見ると日本で見るほど上がっていないので、買いが続くということがあると思います。  あともう一つは、やはり金融政策が異次元と今言われる金融政策になります。その前、安倍総理では大胆な金融緩和ということですが、これが世界期待を持ち上げたところはあるというふうに思います。ただ、私自身はこの金融政策はかなりリスクの高い金融政策ではないかと思っておりますので、今日は、経済全般ということですけれども、その中でも金融政策中心にお話をさせていただけたらと思います。  資料は、何かパワーポイントというやたら無駄にでかい文字で書いてある資料中心にですけれども、時間もございませんので、後ほど御質問があればその中で何か御説明必要であればしたいと思いますが、大まかな話をしたいと思います。  まず一枚めくっていただいて、四つ問題点がありまして、インフレを起こすということですけれども、インフレ自体は良くないんだということが一つ期待インフレを起こすことによって将来前向きになるんだという話がありますが、期待インフレ率上昇というのもそのもの自体としては良くないということです。異次元金融緩和、とりわけ四月四日以降、日銀黒田新総裁になりましてからの金融政策というのは明らかに良くないというふうに思っております。  私自身円安長期的には日本経済に良くないと思っておりますが、ここは短期には意見が分かれるところであると思いますので、時間の範囲で最後に触れたいというふうに思います。  まず、インフレは良くないという話は大分広まってきたといいますか、皆さんも御理解されているかと思いますが、一枚めくっていただくと、リフレ政策というのはインフレを意図的に起こすことによって動かそうということですけれども、インフレ自体良くない。  今日たまたま、今朝といいますか、昨晩といいますか、FOMC、アメリカ中央銀行の方も政策決定会合がありまして、量的緩和続けますということですけれども、あれを読んでいただいてもお分かりのように、インフレを起こすという政策ではないですね。インフレが多少上がってきても、失業率が高いので頑張って金融政策続けますと。ですから、インフレが落ち着いてもらっている方が金融緩和を継続するという意味では、FRBにとっては、アメリカ中央銀行にとっては良いということですので、インフレが上がってくるまではとことん金融緩和しますよと、失業率が今とても高いので、多少上がってきてもちょっと目つぶって失業率優先でやりますよと、そういう政策ですので、インフレにしようという政策アメリカやその他の国でも基本的にはやらないということです。  日本だけデフレだという話があると思いますが、それは時間があれば後ほどということです。  金融政策インフレにはならないと。これは端的に言いますと、賃金水準が全体で下がっていきますので、どうしてもインフレにはならないと。ただ、景気回復はする可能性はあります。景気回復インフレとはまた別物ですので、デフレだからといって景気回復しないわけではありません。ただ、景気回復してくれば、結果としてデフレからインフレに徐々になっていくというのは当然なんですけれども、ただ、その状況インフレを起こしても、所得が上がらないままインフレだけ起こしても、むしろ、いわゆるスタグフレーションといいますか、インフレの下での不況が進むということになってしまう、一番悪い状況ですので。ですから、インフレを起こすということではなく、金融緩和を継続するというのは政策として、賛否両論あるんですけれども、あり得ると思うんですけれども、インフレを起こすということ自体意味がないということをもう一度御理解いただければと思います。  一枚めくっていただくと、賃金上がらなければ生活水準を下げるとか、そういう話はさんざん皆さん聞かされてきたかと思いますので、一枚めくっていただいて。  あとは、政府財政問題の解決になるんじゃないかという話がありますが、これはならないというのがコンセンサスだと思います。これはドイツ銀行ドイツのブンデスバンクのエコノミストアメリカについてシミュレーションをしているのが有名ですけれども、名目金利も上がってきますので、実質債務のもの、債務側ですね、借りている借金の実質額が目減りして税収が多少増えても借入金利はどうしても上がってきますので、トータルで見ると改善はしないということです。  一枚めくっていただいて、期待インフレ率上昇はいいんだという話。これは、ゼロ金利ですから、実質金利を更に下げるためにはインフレになってくれた方が、そのインフレになった下で日銀がゼロ金利を継続すればいいんじゃないかという話がありますが、低金利が相当続いていますので効果も出尽くした感もあり、設備投資需要投資ですね、これは金利というよりは実需に基づいてなされています。これはよく御存じだと思うんですけれども、世界的に需要が伸びていくアジアや新興国で、現地で製品開発もする方が効率的ということですので、投資するとすれば海外と。ということですから、やっぱり需要をまず出すということが重要ですので、実質金利の問題ではないです。  デフレスパイラルという話はもっとすごく大きな、物価下落が続いているときは物を買うのを控えて底値で買うと。これは株式市場等ではよく見られる現象ですけれども、日常生活では一般的には見られませんし、日本の現在でも見られないというふうに思います。  ただ、駆け込み需要を起こすかのような、インフレが起きると将来値段上がっちゃうんだったら先に買っておこうと、消費税が上がるときは必ずこういうことが起きるんですけれども、これは実はその反動減が物すごく大きくて、三から五に上がったときも駆け込み需要政府の方でも計算していたはずなんですけれども、その反動減駆け込み需要よりもはるかに大きいというのが過去の経験です。エコポイントのときも反動減はかなりきつかったのではないかというふうに思います。  めくっていただいて、デフレマインド脱却というのは、先ほど安倍総理麻生大臣政策ということで、デフレマインド脱却ということに取り組んでおられると思うんですけれども、これは資産市場には効きます。資産市場は、みんなが買えば上がるので、みんなが買うんだったら買おうと思うわけですね。ですから、全体のムードというのは非常に大きく影響します。どんなに日本の株が割安だと思っても、みんなが割安だと思っていてもまだ上がるのは先だと思っていれば、慌てて買う必要はないということでみんな急いで買いませんから、じゃ、先に上がるインドネシア買っておこうとか、そういう話になりますので、そういうのは資産市場には効いています。実際、株価も上がっているわけですけれども、普通の財市場では起きませんので、景気回復とは無縁だと思います。  一番大事なところですが、一枚めくっていただいて、大胆な金融緩和余り良くないということですが、金融緩和は逆説的ですけれども景気を悪くする可能性もあるということです。  極端な金融緩和がずっと進んでいますから、こうしますと、一番今日お伝えしたいことの一つは、資産市場と物の市場ですね、いわゆる実体経済市場とはつながっていますけれども別物だと。金融政策というのは、基本的には、金利を下げることによって実体経済での投資、実物の投資ですね、設備投資とかあるいは消費を喚起するということを目指しているのが金融政策なんですけれども、ゼロ金利になってしまうとなかなか厳しいので、長期金利を下げるためにいろいろな手段を取るわけですけれども、そうはいっても限られているので、結局、資産市場にとっては、金融緩和がずっと続く、お金がいっぱいあるということですと投資を増やそうということになりますが、証券投資は増えるんですね。  ですから、資産市場、いわゆる金融市場にはお金はどっと流れるんですけれども、実体経済にそれが及ばないということが世界的にも起きていますし、今のアメリカ金融緩和にも賛否両論あるのはそういうところで、バーナンキ議長もその辺を工夫して何とか実体に働きかけようということだと思います。日本銀行もそういうスタンスで従来から臨んできていると思います。このときに、リーマン・ショック前の金融バブルというのは、その金融緩和を、ある意味、テロとかエンロン問題とかいろいろありましたので、アメリカ金融緩和をし過ぎたために起きたというのが一つの考え方になっていますので、そういう意味では非常に経済にとってマイナスな場合もあると。  今回、現在の日銀金融緩和ですけれども、国債大量購入をするというのが一番のポイントですけれども、こうすると、従来国債を持っていた人たちは言わば追い出されるわけです。七割を日銀が買うということですと今まで買っていた人たちは買えなくなるので、これは恐らく買いが増えるわけですから、今ちょっと乱高下して混乱していますけれども、値上がりしてくる、方向としてはなると思うんですけれども、そういう値上がりしてメリットもあるんですけれども、結局追い出されてしまうので、その後どうしていいか分からない、困る。  特に、このとき、この二枚紙の、私、今度新しく出す本の、国債の本を書いたんですが、その本からの引用ですのでちょっと汚くて申し訳ないんですけれども、二枚紙の資料で何か円がある絵があると思うんですが、これは金利リスク量を絵にしたもので、要は、国債というのは買っている量だけじゃなくて満期が重要なんですね。つまり、二十年満期国債を持っているのと二年で満期が来る国債を持っているのではリスクが全然違いますので、長いものを持っている方がリスクがあるということです。そうしますと、普通、大手銀行よりも生命保険影響がすごい大きいということがあります。  ここで、ちょっと絵では分かりにくい部分もあるんですけれども、信金とか信用組合と呼ばれる中小金融機関は実はすごくリスクを取って長い国債を持っています。これは、彼らは小さいものですからコストそれなりに高いと、大手とはちょっと違うということでそれなり運用益を稼がなきゃいけない。融資も、地方経済融資先がなかなか減ってくる。その中で稼ぐとなるとリスク関係から国債投資が限定されることが多いんですけれども、その場合に、やっぱり短期のですと金融緩和が続き過ぎたために低くなり過ぎて、これでは赤字になってしまってもたないですね。ですから、だんだんだんだん高い方に押し出されていて、こんな長い金利を小さいうちが取って大丈夫なのかと思いつつ、ほかに手段がないものですから、そこを持ち続けてどんどんリスク中小にたまっていくと。  大手の方は、皆さん新聞等でお聞きかもしれませんが、どんどん、デュレーションと呼ばれるものですけれども、満期を短くして、二年とかそういうふうにしてリスク回避していくわけですね。国債もほぼ、長期もゼロに近づいてきて、価格もピークに近いという見方が広がっていますので、できるだけリスクを避けたいと。その中で中小は持たざるを得ないと。これは非常に危ない状況です。これは、融資に、じゃ国債を売って回ってくれればいいんですけれども、融資できるぐらいなら国債を買ってないというのが銀行の実情ですので、これは非常にリスクの高い政策ではないかというふうに思います。  一枚めくっていただくと、財政ファイナンスという話がよく出てくるんですけれども、財政ファイナンスとみなされるかどうかよりも実際に国債買い続けているということ自体が重要だと思います。  つまり、日本個人金融資産は一千五百兆円とか言われますけれども、一千兆国債に行っているということは民間に回る投資資金が足りなくなっていると。民間投資が出ないからという議論もあるんですけれども、これは鶏と卵の部分もありますが、ただ、ずっと資金が一番成長を生み出さない公的分野に行くというのは経済全体としては効率が非常に悪いので、成長を一番阻害しているのは国債大量発行残高ではないかというふうに思います。ですから、それは財政ファイナンスとみなされるかどうか関係なく、日銀が引き受けることによって金利が低くなり続けて発行しやすくなるというのは余りいいことではないのではないかというふうに思います。  一枚めくっていただくと、先ほどの中小金融機関が困るという話を安楽死という形でちょっと言葉を使ってみました。つまり、暴落はしないと思います、日銀買い支えて暴落させないと思うんですけれども、そうすると、どうしても資金中小金融機関にたまったまま動けなくなっていく、経済全体も大量の国債経済で抱えたままになって成長できなくなっていくと。こういう状況をここでは安楽死という言い方で、金融機関金融市場日本経済安楽死になるというふうに記述させていただきました。  もう時間もありませんので、大体金融緩和の話ししましたが、驚かすような金融緩和をさせると乱高下しました。先ほどの二枚紙の資料の二枚目を見ていただくと、四月四日以降の国債金利、これは先物ですけれども、乱高下の様子、これ皆さんよく御存じだと思いますが、起きています。乱高下はとにかく良くありません。価格が高い中で乱高下が起きるということはリスクが高くなっているということなので、これを機に国債利益確定して売ってほかのところへ行こうと。これが融資とかに回ればいいんですけれども、外債を買ったりとかでは良くない。株を買えば株が上がるという効果は一応あるんですけれども、そこもなかなか賛否ありまして、持続力があるかどうかというところもあると思います。  もう時間もありませんので、最後円安の話はちょっと余りできなかったんですが、基本的には交易条件が悪化するということですので、輸出企業の一部は利益が出ますが、これはしかも、雇用生産、増えないですね。なぜかというと、円高だからといって値段を上げていたわけじゃないんです。  例えば、アメリカ市場でBMWとレクサスが競争するときは市場で妥当な価格が決まってくるわけです、五万ドルとか。ですから、円高だろうが円安だろうが価格は基本的には変わりません。ただ、利益率は変わります。国内コスト構造は変わるし、調達場所は変わります。ですから、国内部品メーカーがちょっと一息つくというのは円安だとあります。利益は増えます。ですから、大企業、まあ自動車メーカー利益が増えると思うんですけれども、雇用生産も増えないというふうに思います。  ですから、それは利益が増えるのはいいので、いい部分もあるんですけれども、ただ、輸入コスト原油等輸入コストは上がるということもありますし、長期には日本経済にはマイナスだというのは、構造転換を図るには円高海外企業を買った方がいいんだという話でした。  最後、一枚の、公聴会の、望ましい政策をこちらに書きました。  今まで述べましたように、金融政策については、異次元量的緩和はやめた方がいいんだと、物価自体余り関係ないということです。ただ、緩和は続けた方がいいということです。  財政政策に関しては、やっぱり国債大量発行というのが一番の問題ですから、これは国債発行を減らした方がいいと。消費税の引上げは、駆け込み需要反動減が非常に怖いので、経済的に言うと余り良くないと思います。ですから、六、七、八、九、一〇と一年一%ずつ上げていくようなことができれば理論的には一番いいのではないかと思います。これを景気状況で変えるということになりますと、世界から国債マーケットに対する見方が悪くなって国債暴落リスクも出てきますのでそれはできないんですけれども、そこは消費税でなくてほかの景気対策でやったらどうかと。  雇用については、時間がありませんので、後ほど時間がありましたら御質問を受けたいと思います。  どうも御清聴ありがとうございました。
  4. 石井一

    委員長石井一君) ありがとうございました。  次に、永濱公述人にお願いいたします。永濱公述人
  5. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 第一生命経済研究所永濱と申します。本日はこのような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。  私は、民間生命保険会社のシンクタンクというところで経済の分析及び政策提言、これをやらせていただいておりまして、かねてから日本経済の復活には産業の六重苦の解消、これが不可欠だということを主張してまいりました。そういう中で、今回行われておりますアベノミクス、この政策はおおむね賛同できるものなのかなというふうに考えております。  そういう中で、ちまたにアベノミクスに対する誤解ですとかそういったものがはびこっているなというふうに非常に感じております。そういう中で、今回はその誤解に関して、どういうふうに違うのかということを中心に御説明させていただければというふうに考えております。  お手元の八ページ物なんですけれども、横長のA4の資料なんですけれども、こちらを基に御説明させていただきたいというふうに思います。  まず、一枚おめくりいただきまして、アベノミクス誤解という一つポイントといたしましては、いろんなマスコミ報道等で、円安が進んだことによって輸入物価が上がって非常に家計が苦しいと、中小企業も苦しいと、こういったような御批判がございます。ただ、結論から申し上げますと、足下の負担増、これは主因は円安ではなくて原材料そのものの値上げ、これが主因であるということでございます。  実際、年明け以降、いろんなものが値上げになりまして、私がいろいろ新聞報道等でピックアップしてみますと、消費者物価の構成品目に影響を及ぼすものでは十品目ぐらいあります。実際、それ全部消費者物価の押し上げで計算すると、大体〇・九%ぐらい押し上げるインパクトがあるというふうに計算しているんですが、実は、その中で非常に負担増の影響が大きいのは、ここに二ページ目のところに、サブタイトルのところにあります、小麦とガソリン、電気、自賠責保険、これによって実に〇・七%ポイント以上の押し上げということでございます。  じゃ、これらの要因は、どういった要因で値上げになっているのかということを見てみますと、まず自賠責保険につきましては、これはもう考えるまでもなく、円安の要因ではないというところでございます。  それから、実は自賠責保険のところが一番押し上げ効果が高いんですけれども、次に押し上げ効果が高いのはガソリンでございます。確かにガソリン、今年の二月から三月まで値上がりをして、これはやはり円安の要因は効いていたと思います。ただ、足下では商品市況が落ち着いていることで、ガソリンも七週連続で下がっているというようなことになっております。  さらに、次に大きい要因といたしましては小麦です。これの売渡価格なんですけれども、これは実は、資料を御覧いただきますと、二ページの左側のグラフでございます。小麦というのは、これはもう御案内のとおりだと思うんですけれども、政府の売渡価格、これ年に二回改定されると。今年の小麦の売渡価格は四月からの改定で九・七%上がったということなんですけれども、これ、基になっていますのが昨年九月から今年の二月までの小麦の買い付け価格ということでございまして、これは小麦の国際市況と為替の要因で効いてくると。  じゃ、この要因、どれぐらいが円安効果かということで計算をしてみますと、この資料にありますとおり、実は円安に伴う値上げの要因というのは四分の一でございまして、四分の三程度が国際的な小麦の値上がりであるというところでございます。そうはいっても、三月以降も円安が急激に進んでいるわけで、じゃ、それ以降小麦の値段は上がるんじゃないかというような御心配もあるかもしれませんが、これにつきましても、同じページの右側のグラフでございます。実は小麦の方も国際商品市況が今値下がりをしておりまして、幸いなことに円安の負担のところを小麦の値下がりのところで相殺してもらっているということでございますので、次の十月の価格改定のときにはそこまで値上がりする可能性は高くないのかなというふうに考えております。  それから、一枚おめくりいただきまして三ページのところでございますけれども、ここの部分がこれからも多分値上げが続いてくるということで結構負担になってくると思うんですけれども、電気料金でございます。  電気料金につきましては、値上げの要因といたしましては燃料費の調整制度でございまして、これは三か月前までの三か月移動平均の輸入価格で決まってくると、化石燃料のコストの。今ウエートが一番大きいのは天然ガスですから、それを、じゃ過去三か月移動平均で見て、為替の要因がどれぐらいで効いているのかということを見てみたものが三ページの左側のグラフでございます。  これ御覧いただきますと、実は半分強はLNGそのものの値上がりでございまして、こういった形でもろもろの値上げの要因をトータルで考えてみますと、〇・九%の値上げのうち円安の副作用というのは〇・二から〇・三%程度でございまして、これをもってして値上げが全て円安アベノミクスの副作用というような形での報道というのは、これは違うのかなというふうに考えております。  さらに、円安につきましては、短期的には輸入コストが値上がりするかもしれませんけれども、一方で、国内の生み出す付加価値の競争力を増すということを通じて家計の所得、企業の収益増加を通じて家計の所得の増加にも結び付いてくるということが予想されます。  実際に、これは内閣府が直近で発表しています最新のマクロ計量モデルの結果を引用してまいったものなんですけれども、三ページの右側のグラフを御覧いただきますと、これは円の対ドル一〇%減価の影響ということを見ますと、これ、民間消費デフレーターというのは、ある意味消費者、家計が買う、消費者物価に近いものなんですが、これの値上がり分に対して単位時間当たりの賃金の上昇の方が上回っているということからすると、こういった、若干タイムラグが伴うかもしれませんけれども、円安に伴う収入の増加というプラスの方が大きいことからすると、これは円安が副作用が大きいというところで批判することは少し違うと。むしろ、原材料のそのものの値上げ分をいかに相殺するかという方向性に持っていくのが正しい方向性なのかなというふうに思います。  特に、為替につきましては、いろいろ議論があるんですけれども、IMFとかOECDなんかで出しています購買力平価というデータで見ると、大体日本の適正なレートって一ドル百円強ぐらいですので、少なくとも、今までの円安というのは過剰な円高からの修正という段階ということを考えれば、この修正の部分を悪というふうにとらえるのは違うのかなというふうに考えております。  続きまして、一枚おめくりいただきまして、もう一つアベノミクスに対する批判でございますけれども、物価ばっかり上がってしまって賃金が上がらないというような批判がございます。  ただ、これも少し違うのかなというふうに考えていまして、四ページの左側のグラフを御覧いただきたいんですけれども、これはもう経済学的には非常にオーソドックスな理論でございまして、フィリップス曲線ということでインフレ率と失業率のトレードオフの関係を見たものでございますが、これも日本は非常にきれいな関係があるということでございます。  これは何を意味するかというと、それなりに物価が上がってくる、上昇では相当労働需給が逼迫してくるということでございまして、労働需給の逼迫を通じて賃金もそれなりに上がっている状況にあるので、賃金が上がらない中で物価ばっかり上がっていくということはなかなか考えにくいのかなというふうに考えております。  それから、株価なんかが上がる、円安、そういったことによって、マーケット的には盛り上がるけれども実体経済には波及は乏しいんじゃないかというような御批判もありますけれども、これも実際、例えば四ページの右側のグラフにありますとおり、過去の日本企業の売上高と株価の変化率を見ても非常に連動しているということからしますと、既に足下で資産効果で個人消費なんかも相当伸びているということからすると、やはり株価上昇円安というのは実体経済にも相当大きな効果をもたらすということが言えるんじゃないかなというふうに考えています。  実際に、足下では家計に恩恵というのが既に及びつつありまして、まずは家計が保有している千五百兆円の金融資産のうち、間接も含めて一割ぐらい株を保有していると思うんですけれども、そのうちの株の上昇というのはもう既に家計は恩恵を受けていると。さらには、残業代なんかも既に足下で増えているデータが確認できますし、非正規労働者中心でございますが、年明け以降雇用も増えていると。さらに、一部企業ではございますけれども、夏のボーナスも上げる企業が出てきて、民間シンクタンクの今年の夏のボーナスの予想を見ても軒並みプラスということからすると、徐々にではありますけれども、着実に家計にも恩恵が及んできているということだと思います。  こういった御意見に対してよく批判を受けるのが、そうはいったって、前回の戦後最長の景気回復のときには賃金増えなかったじゃないかというような御批判があります。これにつきましては、結論から申し上げますと、前回の小泉政権のときの戦後最長の景気回復のときには高過ぎる賃金の調整の段階にあったというふうに私は考えております。  具体的には、五ページの左側のグラフを御覧いただきたいと思います。そもそも、理論的には賃金というのは労働生産性見合いで決まってくるということになっているわけですが、このグラフを見ますと、過去の日本の労働生産性と実質賃金の関係を見てみると、やはりバブル期のころから賃金の方が高めになっておりまして、少なくとも二〇〇七年ぐらいまでは高過ぎる賃金の調整局面にあったと。なかなか、こういう中では景気回復が長く続いても賃金が上がりにくかったと。これは致し方ないのかなと。足下は労働生産性見合いで実質賃金動いておりますので、それなり景気が戻ってくれば、前回の戦後最長の景気回復のときよりも家計への恩恵というのは早く行きやすいのかなと。  実際に、五ページの右側のグラフを御覧いただきますと、前回の戦後最長の景気回復のときも、実は一時的に賃金は二〇〇五年、六年上がっていました。ただ、ここは二〇〇六年に日銀が拙速な金融引締めをやったりとか、資源価格の高騰、さらにはサブプライムローン問題、こういった外的な要因によって頓挫してしまったと、こういったような状況にあるのかなというふうに考えております。  次に、一枚おめくりいただきまして、そもそも今回の大胆な金融緩和について、やってもデフレ脱却できないとかバブルを生み出してしまうと、こういったような御批判もあります。ただ、こちらにつきましても、今の段階では必ずしもそういうことは言えないんじゃないかなというふうに考えていまして、そもそも今回日銀が行うことにした異次元金融緩和というのは、アメリカがこれまでやってきているグローバルスタンダードの金融緩和日本もやろうということにすぎないと。じゃ、なぜそういうことをやるかというと、実際アメリカで今のところは成果を上げているということは紛れもない事実だと思います。  実際に、六ページの左側のグラフ御覧いただきますと、これはアメリカのマネタリーベースの増加とアメリカ株価指数の数字を見たものですけれども、これ見ると、やはり量的緩和効果は非常に大きくて、株価上昇していると。バブルという御懸念もあるかもしれませんけれども、実際にこれについては、足下、アメリカでは全然バブルというふうな兆候は出ていないというふうに私は考えております。  さらに、アメリカについても、実際、じゃ、家計の方に恩恵は及んでいるかというふうに見てみると、同じページの右側のグラフですけれども、株の上昇からは一年ぐらい遅れましたけれども、アメリカの家計所得も個人所得も着実に拡大しているというところでは効果がやはり出ているのかなというふうに考えております。  一枚おめくりいただきまして、そうはいっても、アメリカが今足下で世界経済の中でも絶好調であると。これは大胆な金融緩和が非常に効果は大きいと思うんですけれども、それだけではなくて、例えば通商政策を積極的に進めるですとか、シェール革命の効果も大きいと思います。そういった意味では、確かに今のところアベノミクス順調に来てはいるとは思うんですが、アメリカに近い効果を上げるためには、やはりプラスアルファ、第三の矢、ここのところをいかに進めていくかが重要だと思います。  特に、アメリカ日本金融政策効果の違いといたしましては、アメリカについては、金融緩和をしてドル安になっても、エネルギーの価格ドル建てで取引されているので自国通貨が安くなった分値上がりするということはないんですけど、日本の場合は円ですから、ドルが上がった分原材料の価格も上がってしまうということからすると、いかにエネルギーコストを抑えるかというところがアベノミクス効果をより着実なものにするというところの大きな鍵を握っているのかなというふうに考えています。  さらに、通商政策のところもそうなんです。ここは、日本は今いい方向に進んできていると思いますね、この調子で行っていただければと思うんですけれども。  最後に、八ページのところでございまして、じゃ、エネルギーコストをどう抑えるかということなんですけれども、一番手っ取り早いのは安全な原発の再稼働だと思うんですけれども、なかなかそうは簡単にいかないものですから、そうなると、アメリカで起きたシェール革命、これを有効に活用しましょうということだと思います。  今、日本のLNGはジャパン・プレミアムという形で非常に高い値段で買い付けられておりますので、シェール革命なんかによる調達先の多様化なんかを交渉のカードとして、このジャパン・プレミアムをいかに抑えていくかというところが一つポイントですし、さらには、もう既に動きつつありますけれども、今、シェール革命の要因もあって世界的な石炭の値段が下がっているというところで、石炭火力、これが見直されていると。こういったところをやはり稼働率を上げて、石炭火力の比率を上げていくと。こういったところがアベノミクス効果をより高めていくというところで重要なのかなと。これは、紛れもなく第三の矢である成長戦略の分野になっておりますので、ここが大きな鍵を握っているというふうに考えております。  私からは以上でございます。御清聴ありがとうございました。
  6. 石井一

    委員長石井一君) ありがとうございました。  次に、上念公述人にお願いいたします。上念公述人
  7. 上念司

    公述人上念司君) 皆さん、おはようございます。(発言する者あり)ありがとうございます。  政治を志す皆さんは、挨拶は人間関係の基本だと思いますので、もう少し大きな声でお願いいたします。皆さん、おはようございます。(発言する者あり)ありがとうございます。経済評論家上念司でございます。  本日、私は、この場に来てお訴えしたいことは一つだけです。ここは国の政策を左右する場ですから、誤った情報によって誤った政策を選んでしまったら国が大変になると、このことをまず肝に銘じていただきたいなと思って今日はこの場に来ました。  例えば、戦前の近衛内閣末期、そして東条内閣に至るとき、対米開戦という誤った決断を誤った情報に基づいて日本政府は行いました。その結果、日本はどうなったでしょう。一旦国は滅びてしまいましたよね。  税と社会保障の問題、それから今回の経済、それから金融の問題、これら全て、誤った決断をすれば国民が塗炭の苦しみを味わうんだと、このことをまず肝に銘じなければいけない、そのために我々は正しい情報が何かということを見抜く目を持たなければいけないと、そのように思います。  私の資料はこちらの資料になりますので、お手元に、二ページめくっていただいて三ページ目を御覧ください。  これまで、大変残念ながら、誤った情報に基づいた政策が行われてきました。しかもそれが十五年間も続いていました。その誤った情報の根本原因というのは何かというと、まさにこの日銀理論というものであります。幸いにして黒田新体制はこの日銀理論を放棄しました。おかげで景気は良くなりつつありますが、ここで一旦ちょっとこの日銀理論というものを再検証していきたいと思います。  なぜ日銀理論が間違っているか。彼らの主張は、金融政策で物価を左右できない、物価は金融政策で決まらないということを言っていました。その様々なバリエーションとして、金利がゼロになったら何もできないとか、銀行貸出しが伸びなければ意味がないとか、デフレは中国の安価な製品が流入してくるから起こるとか、しまいにはデフレは人口減少で起こるなんというとんでもないでたらめを言っておりました。  これら一つ一つは簡単に論破できるんですけど、例えば、人口が減っているからデフレになっているのであれば、世界中の人口減少国全てがデフレになっていなければ話のつじつまが合いません。ところが、デフレになっているのは日本だけです。中国から安い製品を輸入している国は日本だけではありません。GDP比で見ればアメリカやオーストラリアの方がたくさん中国から物を買っています。ところが、アメリカもオーストラリアもデフレではございません。  ということで、こういった誤った理論に基づいて旧日銀の誤った金融政策を展開したことによって日本デフレは何と十五年も続いてしまったという大変恐ろしい状態でございます。仮に、日銀の言うことが正しくて、もしお金を幾ら刷っても物価に全く影響を与えないということが正しいのであれば、これはこれで非常にいいことだと思うんですね。なぜなら、毎年百兆円お金を刷ってこれを予算にしてもインフレ起こらないわけですから、無税国家が誕生しますよね。  つまり、彼らの言っていることはもうそもそもでたらめだったんですね。ところが、この政策を十五年間も我々はやってしまった。しかも、それを輪に掛けて増税までしようとしてしまったということで、日本経済はこの十五年間塗炭の苦しみを味わいました。  一番端的な例は、一九九七年ごろまで自殺者数は二万人ぐらいでしたが、九八年から三万人に増えて、一万人増えた状態がもう十五年間続いています。合計十五万人の方々経済苦を理由に亡くなっています。この亡くなった方の合計の人数は日露戦争の戦死者よりも多い人数です。一・五倍ぐらいです。まさに、とんでもない政策によって国民が塗炭の苦しみを味わった、それがこれまでの十五年間だったと私は思います。  次のページを御覧ください。実際にデータで検証しましょう。  日銀は一生懸命やっていたというような人がいますけれども、デフレと超円高を招いた日銀の大罪というこちらのチャートですね。御覧いただければ分かるとおり、日銀は他国の中央銀行に比べてお金の発行量が明らかに少ないです。全く何もやっていません。よく絶対量が多いという話をする人がいるんですけど、関係ないですね、市場が見ているのは変化率ですから。二〇〇七年のリーマン・ショック以降、どれほど積極的に貨幣の増加に取り組んだかというのはこのグラフを見れば一目瞭然なわけです。日本円の量が少ないから円高になり、お金の量が少ないからみんなお金を大事にして物を買わない、これがデフレの原因だったわけですね。ところが、四月四日の通称黒田バズーカによってこの誤った政策は放棄されました。結果、何が起こったのか、一応データで確認しておきましょう。  次のチャートを御覧ください。  まず、白川時代ですね。包括緩和という極めてインチキな、やったふりの金融緩和を行っていました。これは、これまでの輪番オペとは別に六十五兆円程度の基金を用意して、この基金の枠を増やしたり減らしたりすることで金融緩和をやったふりをしていたんですが、実際にはこれはほとんど何もやっていなかったに等しいです。六十五兆円のうち長期国債に充てられた金額というのはごく僅かで、その他のものはほとんど短期の債券と交換していただけです。デフレに陥った日本のような状況において短期の債券と貨幣を交換しても、お金お金を交換しているのとほとんど変わらないんですね。つまり、六十五兆円ものお金を用意して、ほとんどのお金お金お金の交換をするような意味のないオペレーションに使っていた、これが日銀の包括緩和の実態だったんです。  これを追及してくださいと、私は、民主党政権時代、民主党のいろんな幹部の方にお願いしたんですが、国会議員の方、一部熱心な方はいらっしゃったんですが、残念ながら執行部の方は余り熱心ではなく、これをやってもらえませんでした。  そして、安倍政権が誕生してからここを見事についていただきまして、こちらの表にあるとおり、白から黒へとオセロが反転するような金融緩和の実行が行われたわけです。基金を増やすという包括緩和を放棄して、二年でマネタリーベースを二倍に増やすという徹底した金融緩和が行われました。これが中心ですね。それから、日銀券ルールも廃止と。買入れとなる長期国債の対象も大幅に延長しました。  じゃ、その結果、何が起こったか。次のページを御覧ください。人々の予想が変わりました。  予想物価上昇率というのは市場で取引されている物価連動債というものを基に算出することができます。こちら御覧いただければ分かるとおり、私、丸を付けておきましたが、二月十四日に、自民党の西村康稔議員が質問して三党合意で日銀法を改正しろというようなことをおっしゃって、慌てた日銀がいわゆるバレンタイン緩和というのを行ったんですね。このとき、予想物価上昇率はマイナスからプラスに転換しました。  その後、日銀がこの効果を打ち消すために何もやらなかったんですが、その後、解散・総選挙、そして安倍内閣誕生、そして黒田バズーカ発射と続きまして、予想インフレ率は一気に一・六%まで上昇しております。明らかに期待の転換の効果がありました。  この期待の転換を受けて、次のページ、御覧ください。  まずは、その期待の転換の効果というのは資産市場に波及します。実体経済に波及するのは資産市場に波及した後なんですね。これ、よく株だけ上がって賃金上がらなきゃ意味がないじゃないかとおっしゃる方いるんですけど、逆に、賃金が先に上がって株が後から付いてくるなんてことが歴史上一回でもあったか、これを証明していただかないと話にならないと思うんですね。経済学のこれは基本中の基本ですけれども、金融政策効果は最初に資産市場に及びます、資産市場に波及した後、時間を置いて実体経済に及ぶんです。これが違うというんだったら、ノーベル経済学賞を取れますので、是非論文をお書きいただきたいと思います。  実際に見てみましょう。資産市場に大きな効果が及んでいるのは、もうこのグラフを見れば一目瞭然ですね。現実を見なければいけないんです。現実を見ないということが一番誤った情報によって国の政策を決めてしまう、そういう危険性をはらんでいるんですね。論より証拠、まずは資産市場に及んだ効果を見ましょう。このグラフ、どう見ても右肩上がりにしか見えません。右肩下がりに見える人は是非眼科の診断を受けたらいいんじゃないかなと私は思います。  では、次のページを御覧ください。実体経済への波及について、先ほど永濱公述人からも幾つか御指摘ありましたが、徐々にですが、波及が出ております。  私は二つの点について指摘したいと思います。まず、就業率の変化ですね。上の方のグラフを御覧ください。実体経済への波及というところですね。図四と書いてありますけれども、これは労働力調査から抜粋しました。一、二、三月、今年に入りまして就業率というのは大幅に、趨勢的に増えております。それから消費支出、こちらについても調べてきました。御覧いただければ分かるとおり、二〇一三年一月から急激に消費支出は拡大しております。もう少しこれ様子を見てくればかなりこれは上がってくるんじゃないかと、実体経済への波及というのもかなり出てくるんじゃないかと思います。  それから、私は各地方紙の経済欄よく読んでいるんですけれども、何々新聞という地方の新聞に、今年の高卒、新卒内定率は過去最高ですと、ここ十年で最高ですみたいな記事をたくさん見るようになりました。東北各県を私全部見たんですけど、全ての県でこういった情報は出ています。高知でも出ていました。佐賀でも出ていました。どの県でも今、県内の新卒、高卒そして大卒、内定率は過去十年で最高のレベルまで達しようとしています。今後、時間がたってくれば、これが改めてマクロ統計にも出てくるのではないかと私は思います。  ということで、その次のページを御覧ください。デフレ脱却に向けた五段階ということでまとめさせていただきました。この五段階というのは、現在日銀副総裁を務めていらっしゃいます岩田規久男先生が学習院大学時代にあるシンポジウムで講演されたときの内容を私がまとめたものです。  デフレ脱却には五段階があります。まず一つ目、中央銀行の大幅な政策転換、いわゆるレジーム転換が必要です。そして二つ目、予想インフレ率の上昇が必要です。いわゆる期待の転換ですね。これは既に起こりました。そして三つ目、インフレを予想した人々が値上がりしそうな資産を買い求めます。実際に値段が上がってきました。これも先ほど確認したとおりです。そして四番目、資産の担保価値が上がり、その効果実体経済に徐々に波及していきます。今はこの第四段階までデフレ脱却が来ております。  実は、小泉内閣、第一次安倍内閣当時の量的緩和政策も、この第四段階までデフレ脱却は進行していたんですね。ところが、二〇〇六年、ある人が裏切りました。当時の日銀総裁だった福井俊彦さんです。この人が二〇〇六年に量的緩和を解除してしまった。しかも、実際にはまだデフレ脱却していなかったんですね。にもかかわらず量的緩和を解除して、そして安倍政権はその後、第一次安倍内閣は崩壊していくという悲惨な末路をたどってしまったわけです。つまり、病気が治って、まだ手術が終わったばっかりの人に校庭を十周してこいなんというのは、とんでもないしばき主義なんですね。こういうことをやってはいけないと。日本経済は長らく病気だったわけですから、完全に病気が治るまでは金融緩和をやめてはいけませんし、まして増税もやってはいけない、できれば緊縮財政もやめた方がよいというのが経済学のおきてなのであります。  ということで、このまましばらく第四段階を続けていけば、五段階、しばらくは積み上がった内部留保を放出するだけで資金が賄えますが、やがてそれが足らなくなって銀行貸出しが増えてくるという段階に進行していきます。この段階になって初めてマネーストックが増えてインフレ率が上昇するんですね。にもかかわらず、アベノミクスを批判する人は、金融緩和をやった瞬間にマネーストックが増えないとか、やった瞬間にインフレ率が上がらないということをもって、金融緩和効果がないというようなことをおっしゃいます。これはとんでもない間違いかなということでございます。  では、次のページを御覧ください。次に、財政政策の役割について述べたいと思います。  ノーベル経済学賞ポール・クルーグマン氏の提言ということで、ニューヨーク・タイムズの四月二十八日に掲載されたコラムの方を私はここに抜粋しました。クルーグマンいわく、国の経済を家計で考えてはいけませんと。なぜなら、国の経済というのは、誰かの支出は誰かの所得なんです。誰かの支出が誰かの所得であるということは、全ての人が支出をやめてしまったら全ての人の所得がなくなってしまうということなんですね。今、アメリカやヨーロッパは緊縮財政をやっていますが、これは大失敗しています。  次のページを御覧ください。  先行事例、イギリスにありますけれども、彼らは金融緩和を一生懸命やったんですが、緊縮財政に転じて消費税を増税しました。その結果、失業率は全然減りません、実質GDPも伸びません、これが現実です。私たちも、もしデフレ脱却する前に増税してしまってはイギリスの二の轍を踏む可能性があります。  その次のページを御覧ください。  しかも、緊縮財政派が根拠としていた論文、ケネス・ロゴフとカーメン・ラインハートの論文というのがあるんですが、これは政府債務の残高がGDPの九〇%を超えると経済成長率がマイナスになる、このグラフでいうと青いグラフのような展開になるというふうに言っていた論文なんですが、実はこれ間違っていたことが今年の四月に分かりました。改めてデータを入れ直して同じ公式で計算し直すと赤いグラフの方になるんですね。つまり、緊縮財政財政再建における理論的根拠を完全に失ってしまったわけです。理論的にも全く根拠がない話になりました。これ、実は唯一の論文だったんですよ、緊縮財政を正当化するということです。  ということで、次のページを御覧ください。誰かの支出が誰かの所得であるなら、政府がここはお金を使って国民の所得にしていくということがとても重要です。  そこで、どうせお金を使うなら、民間のリソースを食わない、民間とはバッティングしないところにお金を使うべきではないかと。じゃ、どこに使えばいいのか。東日本大震災があって、南海トラフ地震、首都直下型地震が心配されている昨今、防災インフラにお金を使うことはこれ非常にいいことではないかと思います。民間お金を使わなくてしょぼくれているときには政府が代わりにお金を使って民間を豊かにすると、これが大事なことです。  ここに書いておきましたけれども、今、我々日本が抱えている様々なインフラはあと数年で耐用年数を迎えようとしています。これらの設備を更新するだけでも相当な財政支出が必要です。今は緊縮財政をやっている場合ではありません。より多くの支出をして国民を豊かにしていく、そういうことが大事ではないかと思います。  そして、次のページを御覧ください。  最後一つ、これだけ言わせてください。壊滅的損害の予防原則というものがあります。非常に小さなリスクでも、もしそれが発生したとき国が滅ぶような大きな被害が及ぶのであれば、そのことを防衛するために使うお金を出し惜しみしてはいけないという、こういう原則があります。これ気候変動の枠組み会議なんかで言われている原則なんですけど、是非この原則を防災・減災ニューディールにも適用していただいて、リフレ政策と大規模な財政支出をどんどん進めていただいて、日本経済を復活させていただければというふうに考えております。  御清聴ありがとうございました。
  8. 石井一

    委員長石井一君) ありがとうございました。  以上で公述人の御意見の陳述は終わりました。  それでは、これより公述人に対する質疑に入ります。  公述人は自己の意見を主張されるためにどうしても時間がオーバーになりぎみでありますから、質疑者の方はできるだけ時間を短めにお願い申し上げ、できれば十二時ちょうどに終了したいと思いますので、各位の御協力をお願い申し上げます。  質疑のある方は順次御発言願います。
  9. 小西洋之

    ○小西洋之君 民主党・新緑風会の小西洋之でございます。  本日は、公述人の皆様、お忙しい中に本委員会のために御見識を賜りまして、誠にありがとうございました。  私の方で、今お三方からいただいたお話の内容、それぞれ御主張が異なる点がございますので、まずそこについて確認をさせていただきつつ、あと、御三方の皆様、時間の制限等もございまして、アベノミクスの第三の矢、成長戦略についての言及というのが十分いただけていなかったところがあろうかと思いますので、後半は成長戦略についてそれぞれの御見解というものを伺わせていただきたいと思います。中心小幡公述人の方に伺わせていただきたいと思います。  初め、小幡公述人、それぞれ、永濱公述人、また上念公述人の方からお話をいただきましたけれども、まず永濱先生のお話といたしまして、今国民が直面している様々な物価高というものは必ずしも円安ばかりが原因ではないであろうというようなこと、あるいは実体経済への効果という意味で、株も上がり、残業代も上がり、ボーナスも上がっているというような動きがあるというようなことをおっしゃられました。かつ、この度の異次元金融緩和はバブルを生み出すものではないだろうというようなことをおっしゃっていたわけでございますけれども、それぞれの、まず現在の足下の景気状況というものについて、小幡公述人はどのように御覧になっているのかどうか、また、果たしてこのアベノミクスというものがバブルを引き起こすようなものはないものかどうか。小幡公述人は、国債暴落というものは御著書の中で言われているというふうにも承知しておりますけれども、そこのところを御説明お願いいたします。
  10. 小幡績

    公述人小幡績君) お答えしたいと思います。  資料ですと、後ろの方の、私、厚い資料最後の四枚ぐらいが日本経済の本当の問題、四、五枚かな、とかあると思いますが、永濱公述人との意見は八割ぐらい合っているところとありまして、二割ぐらいの差異があると思うんですけれども、確かに国債価格が下がっているのは非常にプラスです。これは恩恵として今、非常にラッキーだと思っております。それは、やはり中国の景気減速懸念が広がっていることから商品相場が下がっているということが、商品相場、原油とか金も含めてそれがプラスに働いていると。ただ一方で、本当に中国が景気減速してしまうと輸出も非常に痛手になります。世界全体が悪くなるので非常にそれは注意して、あっ、座っていいんですか、慣れていないもので済みませんでした。  それで、お話で、円安についてのお話もありましたので、やっぱり日本経済の本当の問題は何かという、私はスライドの方に書きましたが、日本経済長期停滞が続きました。これは非常に大きな問題だと思いますが、ただ、その経済が、状態がベストな状態でないということと、危機で明日にも崩壊してしまうということは全く別物だと思います。  日本経済的な病は、長期的な慢性疾患といいますか、構造改革、体質改善が必要な状況であって、財政金融の強力な出動による刺激策によって解決するものではないというふうに思います。バズーカとか矢とかで射るものではなくて、耕す、農耕的なもので一つ一つ雇用をつくっていく以外に解決策はないのではないかというふうに思っています。  それには二つ理由がございます。  そのところにも書いたんですけれども、まず、日本経済は危機ではなくて、アメリカとよく比べられますが、やはりアメリカは非常に活力のある経済で、アメリカほどグーグルとかそういう新しい企業が出てくるわけではありません。ただ、グリーとかディー・エヌ・エーとか日本なりの企業も出てきています。ですから、欧州の停滞に比べれば成熟経済としては非常に力強い底力を持った経済、ただ本領を発揮し切れていないところに問題があるということではあると思います。  一枚めくっていただくと、現在の経済政策は、金融財政もとにかく刺激して気分を良くしていこうということですが、これは二つの意味で効かないといいますか、長期には日本経済には余りいい影響を与えないのではないかというふうに思います。  なぜかといいますと、やはり日本経済は構造改革が遅れたと、これはもう二十年繰り返し言われていることですけれども、それに全て尽きると思います。つまり、高度成長期の構造、右上がり経済に依存した設備投資投資投資を呼ぶ構造、循環と。その後、不況になった後は、オイルショックの後は国内でその景気循環がある部分を輸出で何とか補おうということで、輸出の量は多くないんですけれども、一番苦しいときに輸出頼みになるという意味で非常に輸出に質的には依存をした経済になってきたと。その後はバブルで、何かこう資産価格が上がれば何とかなる、土地が上がれば何とかなると、このような構造だったんですけれども、これではやはり長期的にはもたないと。世界的にグローバル経済で競争が進む中で、やはり輸出でつじつまを合わせるのはなかなか難しいなというふうに思います。  アベノミクスで効いているのは株高円安なんですけれども、株高に関しましては、やはりどうも中高年、特に団塊の世代以上の消費は非常に活性化されたように見受けられます。先ほどの家計調査、三月の家計調査の住宅に関する消費というか投資はすごい増えて、ここはちょっと異常値みたいなところもあるんですけれども、これはやっぱり中高年の方は百貨店がいいとか、そういうのは、ほぼ雇用を終えて、あとは老後の生活ということですが、ここでは将来の見通しが、気分が明るくなり、持っている株が、高齢者に株偏っていますから、増えれば、その分老後の不安が気分的に減って消費すると、そういう動きによるもの。  あるいは雇用に関しても、一時的な円安で助かっているのは、付加価値が相対的に高い韓国などとぎりぎり争っている自動車やテレビなどによるんだと思いますが、これらの構造に働きかけても、過去の構造を維持したまま短期的にそこの需要が出てくると。  あるいは、雇用が維持されて賃金がベースアップになるということですが、例えば私、ビジネススクールですけれども、中途で三十ぐらいで辞めて一旦来て、またうちで勉強して出ていくわけですが、すごくいい仕事に就きます。ただ、中堅企業中小企業が多くて、まあ新興企業も多いんですけれども、給与水準は非常に低いですし、ベースアップとか定昇とか、そういう構造に全くありません。昇進も何もせず、年俸制で、一生同じ賃金で働くというような構造です。  アベノミクス円安で効いているのは、いわゆる大企業の古い伝統的なところの中高年の技術者、それに関連する一部の中小部品メーカーということですが、広い内需の新しく伸びてくるところは、まあ関係ないといいますか、全く影響を受けていないということです。むしろ、先ほどちょっとお話しできなかった部分でいえば、それ一枚めくっていただくと、やっぱり新しい現実としては潜在成長力が低下しているというのが問題で、需要ではないんだと。潜在成長力を上げるにはやはり若い労働力のレベルアップを図る。  一枚めくっていただいて、質の高い労働力を育てるというスライドを書いたんですけれども、これが一番の成長戦略で、これによって底上げを図ることが中長期には必要であって、これは、一時的な円安はむしろマイナスであって、つまり円高局面を利用して海外に工場を進出すると。つまり、海外需要を取り込むということは、そこで製品開発もしないと、現地の人を指導しながら一緒にやっていかないと伸びないです。これは、内閣府の数年前のデータでもありますように、海外に工場を移転した企業ほど国内雇用を増やしているというデータがあるんですね。つまり、いわゆる世界の優秀な労働力をうまく使って企業として伸びた企業だけが本社の社員を増やせると。  これは、韓国、今如実に表れていまして、韓国、円安のおかげで、まあ向こうは文句を言っているのかもしれませんが、ウォン高で困っているという話聞きますが、サムソンは唯一相対的に頑張っています。なぜかというと、サムソンが一番この世界的な工場戦略を進めていて、世界各地で生産しています。  ニュースでお聞きになられた方も多いと思いますが、アップルが急に配当をする、あるいは自社株買いをする、そのために初めて借金、初めてというか大量の社債を発行するということです。これは、海外投資して海外利益を戻してくるとアメリカでは課税がきついものですからできない、その分をやりたいということで、つまり、ほとんどの利益海外生産海外販売、海外利益なんですね。それをうまく利用すると。そういうことが進むためには、やはり円高などを利用して世界にポートフォリオ、工場のポートフォリオをつくっていくと。  日本人はそうすると雇用をどうするんだという話が聞かれますが、これはやっぱりプレーヤー、私の言葉で言えば、選手、現役選手からコーチへ移っていくんだと。つまり、世界中には生きが良くて若くて安くて質のいい労働力のあるところいっぱいありますと。その人たちを指導して、我々のノウハウを生かして、ウイン・ウインでいく以外に行く道はないと。円安などに頼って価格競争だけで勝負しようといくと、中国と戦わなきゃいけないんですね。中国はすごくお金持ちになってきて、中国は高くなって、もう賃金はもちろん向こうの方が高くなってくると、次はカンボジアと戦う、次はミャンマーと戦うと。永遠に生きのいい人たちと戦わなきゃいけない。  むしろそこを利用して、新しい構造の中でいかないと、だからこそ賃金も上がらないんだと。ずっと世界一安いところと戦っていくわけですから、それはどんどん下がっていかざるを得ないわけで、やっぱり役割を変える、そのために構造転換すると。そのためには、需要を喚起する財政金融の、ギャンブル的な出動ではなく、構造を変えるような前向きな新しい政策が必要ではないかというふうに思います。    〔委員長退席、理事小川敏夫君着席〕
  11. 小西洋之

    ○小西洋之君 小幡公述人、ありがとうございました。  小幡公述人のお考えというのは、リフレ政策というのは言わばギャンブルの政策であると、日本経済成長あるいは景気回復を果たしていくためには、日本が長年抱えている構造的な課題というものを戦略的に解決していくという取組がまず非常に重要であると、そのようなことをおっしゃっていただいたものと存じます。  上念公述人の御意見の中に、国土の強靱化ですね、ニューディール、民間お金を使わないときは政府お金を使うべきだということで、防災インフラへの投資が必要ではないかというようなことをおっしゃっておりましたけど、それについて、申し訳ございません、小幡公述人の御意見、いかがでしょうか。金融政策から経済政策全体の中で、そうした問題についてどのように評価なさるか。
  12. 小幡績

    公述人小幡績君) 上念公述人のあの演説の迫力に負けて、ちょっと中身を理解できていなかったところもあるんですけれども、予算委員会ということで、前回の補正予算でも機動的な大胆な財政出動をなされたと思いますが、一つ残念なのは、インフラは重要だと思います、とりわけ崩落事故がありましてメンテナンスが重要だと前から言われていることですし、非常に住宅投資を、個人の住宅でもむしろ、新築でどんどん買い換えるんじゃなくて、中古住宅をメンテナンスして、維持して、ある資産を生かしていこうと、これは成熟経済の一番正しいやり方だと思います。公共投資に関しても、非常に多くのインフラ、日本の優れたインフラ、非常に多数あると思いますので、そのメンテナンスというのは極めて重要だと思います。  それで、お金が非常にあふれていて、経済が右上がりで、需要がどんどん出てくる成長経済においては、人々が萎縮しているときに、民間投資をしないときに公的刺激を与えて投資で先導するというのが重要なんですが、我々はもう、民間も効率的な投資をしていますし、必要があればすると、ムードでしないというわけではないので。そうしますと、限られた財源、限られた金融資産の下で効率的な投資が必要ですので、補正予算でも、メンテナンスが重要だと、補修が必要だと言いながら結局新規の投資の額が圧倒的に多かったので、これは非常にもったいないといいますか。  ただ、補修は、確かに一時的には、一遍にはできないから、そんな五兆も六兆も一遍に補修はできないなんて議論はあるんですけれども、それでしたら、長く時間を掛けて補修にお金を使って、広く、一時的にどばっと機動的にやるのではなくて、長い目で非常に限られた資源を大切に有効に使っていくということが重要ですし、メンテナンスに使うと人手に渡りますから、物を使わなくて済むので雇用や所得に対しても非常に好影響だと思いますので、今後は公共投資に関しては補修やメンテナンスを中心に、活用法について、人にお金を掛けていただきたいというふうに思います。
  13. 小西洋之

    ○小西洋之君 ありがとうございました。非常に高い御見識をいただいたものと存じます。  それで、それぞれお三方の公述人アベノミクスについて御検証をいただいているわけでございますけれども、第三の矢と言われる成長戦略、成長戦略は一体どうあるべきか。小幡公述人からは今そうしたお考えをいただいておりますけれども、永濱公述人、あと上念公述人、ちょっと簡潔に、成長戦略の要になる取組はこういうものであるということをお聞かせいただけますでしょうか、御順番に。
  14. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) それじゃ、簡潔にお話しさせていただきたいと思います。  私の場合は、冒頭でもお話しさせていただいていますとおり、産業の六重苦ということを解消することが日本経済における最大のポイントだというふうに考えています。そういった意味では、国内企業活動をするのに障壁のある規制なり負担増なり、そういった部分一つ一つ抵抗勢力に屈せずに撤廃していくというところが最大のポイントだと思います。  そういう中でも、やはり日本の場合は諸外国に比べるとエネルギーのところが非常に弱いものですから、ここの部分をいろいろ外交等々も含めて下げていくというところも必要ですし、さらには、法人税の引下げみたいな部分海外に比べればやはり高いと。さらには経済連携協定、ここは今のところ順調に進んでいる感じですけれども、ここを積極的に進めていくと。さらには、労働規制みたいなところも、やはり日本は解雇規制なんかもあって非常に労働が流動化しにくいというところがありますので、そういったところを解消していけば日本経済の復活というのも可能なのかなというふうに考えております。
  15. 上念司

    公述人上念司君) 御質問ありがとうございます。  私は、まずアベノミクス、一番最初に取り組んでいるのは需要の増加ですので、需要が増加して供給能力が足らなくなるときの供給能力を増やすための政策成長戦略だと思っています。供給能力の制約を与えているものというのは、先ほど永濱公述人がおっしゃったとおり、様々な規制ですので、規制の見直しというのは進めていかなければいけないとは思います。  これはいろんな既得権益が絡みますので、供給が足らなくなったというときに始めても間に合わない可能性がありますので、話合いは今から始めてほしいというふうに思っていますが、ただ、もう片方で、じゃ何でもかんでも自由にすればいいかというと、これまた間違っていまして、例えば米軍基地や自衛隊の基地の周りの土地取引、これ本当に自由化していいのかどうか。今は自由に取引されていますけれども、外国の良からぬ勢力がそこに拠点を築いて監視するなんということがないように、やはり安全保障というのは国の経済のインフラの基本ですから、そういう国家観のある成長戦略というのを是非お願いしたいなと。  これはまだこれから個別具体的に話し合っていかなければいけない問題なので、これだというような決め打ちは、いわゆる計画経済じゃないですからね、日本は自由主義経済ですから、そういうことはちょっとやらずに、個別具体的に話し合って決めていく問題かなというふうに思っております。  以上です。
  16. 小西洋之

    ○小西洋之君 ありがとうございました。  安倍政権も、第三の矢の要というのは規制改革、具体的には特区制度などというふうにおっしゃっています。永濱公述人はもう少し幅広くいろいろな成長戦略のことについてお話しいただきましたけれども、その規制改革あるいはその手法の一つである特区制度について少し御議論をさせていただきたいんですけれども、私、実は民主党政権の時代に、民主党の政策調査会の中の成長戦略を担当する部門で規制改革と特区制度の担当の事務局長を二年にわたって務めておりました。  私は元々総務省や経済産業省で働いていて、まさに役人時代に、なぜ我が国は規制改革ができないのか、縦割りの問題あるいはいろんな抵抗勢力等々の問題、それを打ち抜くためにはどういう規制改革の進め方をしなきゃいけないのか、またどういう特区制度が必要なのかということで、いろんな政策を立案し、またその陣頭指揮を執ってまいりました。具体的には、今、日本最強の経済特区、総合特区というものがございまして、一昨年に法律を作りましたけれども、国際戦略特区あるいは地域活性化特区といいまして、国際は七つ、地域活性については三十七認定をしております。  昨今、アベノミクスの中で第三の矢と言われている経済政策、その特区制度について、国家戦略特区をつくるというようなこと、大阪やあるいは東京、名古屋ですね、そうした大都市圏につくると言っていますけれども、その内容を聞いていますと、そこの公共交通機関を二十四時間使えるようにするですとか、あるいは外国のお医者さんがそこで治療できるようにするですとか、本当に今、日本が抱えている構造的な問題ですね、小幡公述人がおっしゃっていたような、そうしたものが今政府が想定しているような規制改革の取組あるいは特区の取組というもので解決できるのか。  私は、二年余り規制改革や特区制度を自ら立案して法律を作り、また実行も陣頭指揮しておりました。その経験からしますと、規制改革や特区制度は一定の効果はある、一定の効果はあるんですけれども、小幡公述人がおっしゃっていただいたような未曽有の社会的実験だと私は思うんですけれども、このアベノミクスという、そこのリスクを十分担保し切れるだけの効果を皮膚感覚として政策の当事者の皆さんはどれぐらいそこを把握しているのだろうかという私は思いがございます。  小幡公述人に伺いたいんですけれども、人材の育成を始めとする社会の基盤、成長を勝ち取るための社会の基盤づくりというようなもの、あるいは規制改革をするにも、個々のものを規制改革する、目の前のものだけではなくて、社会のリデザインというようなことを小幡公述人は提唱されているというふうに理解しておりますけれども、規制改革というのは、あるべき社会というのを描いて、それに必要な規制改革を戦略的にやっていくものだというふうに理解しておりますけれども、そうしたことも含め、あるべき成長戦略、今の政権の足りないところを含め、御指摘いただけますでしょうか。
  17. 小幡績

    公述人小幡績君) お話しさせていただきます。  規制改革は大変重要だと思います。特区も非常にいい試みだと思います。ただ、重要なのは、規制はとにかく外して自由にやれば新しいものが生まれるわけではないと思います。元々、今の制度、仕組みがあって新しい制度に移るわけですから、そこにはビジョンとデザイナーがいないと育たないというふうに思います。  町づくりでも、その町のデザインをするには、ビジョンを持ってデザイナー、責任を持った設計者が町を描かないといけない。今のところデザイナーがいなくて、とにかく何かできることを部分的に自由化していけばいいというような規制改革ではやはり混乱を招くだけだと思います。ですから、新しい制度に移るためには、新しい世界での新しいデザインをつくった上で古い制度から移ると。ただ壊すだけでは何も生まれないというふうに思います。  そのときに、つくるのはやっぱり一つ一つ地道につくっていかなきゃいけないところがありまして、それは今言ったこととやや矛盾するように聞こえるかもしれませんが、全体のデザインはするんですけれども、町づくりと同じように、個々の経済主体、個々の人間がその町を結局育てていくものですから、そこは自由に育てるように、その育つという余地をつくった上でフレームをつくっていくということが重要だと思いますので、その二つの視点が非常に重要。  それで、しかも、やはりそれを育てるのは個々の人間……
  18. 小川敏夫

    ○理事(小川敏夫君) 公述人、恐縮でございますが、質問者の時間が来ておりますので簡潔におまとめください。
  19. 小幡績

    公述人小幡績君) はい、分かりました。  個々の人間を育てるということが重要だと思います。  ありがとうございました。
  20. 小西洋之

    ○小西洋之君 一言。  ありがとうございました。民主党政権が行いました規制改革、あと総合特区の法律というのは今までの自民党政権ではできていなかった画期的なものでございます。(発言する者あり)
  21. 小川敏夫

    ○理事(小川敏夫君) もう時間が来ておりますので。
  22. 小西洋之

    ○小西洋之君 そうしたものを引き続き続けるとともに、ただ、それでもこのアベノミクスリスクというものを第三の矢で果たして補えるのか、そこについて我々もしっかり追及していきたいと思います。  ありがとうございました。
  23. 小川敏夫

    ○理事(小川敏夫君) 質疑者は、公述人意見を含めて質疑者の時間の中で収まるように、以後よろしくお願い申し上げます。
  24. 岩井茂樹

    ○岩井茂樹君 自由民主党の岩井茂樹でございます。  今日は、三人の公述人の皆様、本当にお忙しいところ貴重なお話ありがとうございました。  私は経済の専門家でも何でもございませんので、少し間違っていることを質問するかもしれません。少し解説を織り交ぜて詳しく教えていただければと思います。また、先ほどのお話の中で触れられたことについて再度重なって質問するかもしれませんけれども、御容赦願います。  私は、失われた十年、上念さんのお話によりますと十五年ですかね、失われた十五年の原因は日銀金融政策の誤りであったと、こう考えております。一九九〇年代後半から現在までの日本の不景気の原因は何だったのか、簡単に御説明、お三方、お願いいたします。小幡公述人からお願いいたします。
  25. 小幡績

    公述人小幡績君) やっぱり構造改革の中で、三つの過剰の整理ということだと思います。雇用過剰、設備過剰、債務過剰と、この整理が進んだのが九〇年代と。これはやっぱりバブルの反動としてどうしてもやむを得ないことですし、危機になってしまいましたけれども、それが原因だったと思います。  その後は、新しいグローバル経済に移行する中、なかなか新しい構造にうまく転換できない中でもがいていたと。それが潜在力を発揮できなかったというのがその後の五年といいますか、二十一世紀の不況といえば不況、景気が良かった部分もあるんですけれども、だというふうに思います。  以上です。
  26. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 私のその、これまでの日本経済の低迷は、やはり発端はバブルの崩壊だと思います。  そこで、最近の欧米諸国のバブル崩壊後の状況を見てみると、確かにバブル崩壊した悪影響は出るんですけれども、その後、大胆な金融緩和によって自国通貨が安くなって経済が復活すると、そういうメカニズムが働いたわけですけれども、日本の場合は、当時、日米貿易摩擦なんかもありましたけれども、やはり日銀金融緩和が足りずに、バブル崩壊したにもかかわらず円高で、デフレに陥ってしまい、今に至るということだと思います。  さらに、そういった中で、やはり日本企業のグローバル化への対応の遅れ、日本政策のところもあると思うんですけれども、そこも停滞の一因になっているというふうに考えております。  以上です。
  27. 上念司

    公述人上念司君) 三つの原因があります。  一つ目は、日銀政策スタンスですね。三重野総裁以来、引締めは早く、緩和は遅くという極めて誤ったダブルスタンダードを日銀は用いてきました。これがそもそもデフレを発生した原因です。  二つ目は、この誤った政策スタンスを政治が修正できなかったと。それは、日銀法を一九九八年に改悪してしまった、これが原因ですね。  そして三つ目は、日銀が全ての原因だということをマスメディアがちっとも報じなかったと、誤ったとんでも経済論ばかり吹聴して真実を国民に告げなかったと、そして国民がしばらくそれを信じてしまったというのが三つ目の原因じゃないかと思います。
  28. 岩井茂樹

    ○岩井茂樹君 ありがとうございます。  私、個人的には、金融緩和を行いインフレ率が高まると物やサービスへの需要が高まるので、やはりその原因というのは日銀金融政策の誤りだったのかなと、こう思っております。  今までの日本の不景気の原因が、先生、お二方になると思うんですけれども、日銀金融政策の誤りであったということでありますと、行き過ぎた引締め政策にあるとしたならば、いわゆるアベノミクスにおいて真っ先に大胆な金融緩和を行うということは妥当な政策だと思うんですけれども、その辺をもう少し詳しく教えていただけますでしょうか、永濱公述人
  29. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) まさにおっしゃるとおりで、グローバルスタンダードな経済政策の中で最も遅れていたのが日本金融政策だと思いますので、そこに第一の矢を打ったということは非常に評価すべきだと思います。  ただ、そこで私、個人的には、じゃバブルが絶対起こらないかというと、私は起こるリスクもあると思います。ただ、これまでの過去の世界経済を見た場合、やっぱりバブルというのは起こさないと思っても起きてしまう可能性はあるわけですね。いろんな国に実際これまでバブルとその崩壊が起きてきているわけですが、そういった国と比較しても、これまで十五年以上デフレから脱却していない国と経済のパフォーマンスを比較したら、明らかにバブルとその崩壊を続けている国の方がパフォーマンスがいいわけですね。  そういうことを考えると、まず最初にやらなければいけないのは、バブルのリスクはあるにしても、デフレから脱却するというところが最優先の課題だということだというふうに考えております。
  30. 上念司

    公述人上念司君) すごく極端な例を申し上げます。七〇年代の南米ですね。ブラジルは数千%のインフレに苦しんでいましたね。その当時の実質経済成長率と日本デフレに陥ったこの十五年間の実質経済成長率、比べると、ひどいインフレだったブラジルの方がまだましなんですよ。  私たちが本当に恐れなければいけないのはデフレなんですよね。ところが、デフレはいいものだとか良いデフレとか訳の分からないことをマスコミが吹聴して、しかも日銀総裁までデフレがいいなんて言い出すような、本当にもう亡国に近いようなことがまかり通っていたわけですね。これをやっぱり正常化するということが最も経済政策としては一番最初に取り組まなければいけないことだったと思うので、アベノミクスの第一の矢は極めて正しいというふうに思っております。
  31. 岩井茂樹

    ○岩井茂樹君 ありがとうございます。  お三方の中でリフレ政策についてお話が多少あったかと思います。リフレ政策に対しては、株、不動産の価格上昇するだけで庶民にはなかなか恩恵がないというような、これは誤った話なのかもしれませんが、そんな話がございます。しかし、例えば株、不動産の価格上昇すれば、その保有者が支出を増やして、その支出を受け取った人が更に支出を増やしていくというような、回っていくというような感覚があると思うんですけれども、このように、株、不動産の価格上昇は波及していくものだと、こう考えております。その過程において、広くあらゆる個人に株、不動産価格上昇の恩恵が行き渡っていくのではないかなと思います。あるいは、株、不動産の価格上昇によって関係会社の資金調達が有利になって設備投資が増えていくというような話もあろうかと思います。  このように、金融政策部分だけで完結するものではなくて経済全体に影響を与えるもので、庶民にも影響が私は及んでくると思うんですけれども、その点に関しまして、お三方、お願いいたします。
  32. 小幡績

    公述人小幡績君) 理論的にはそうなんですけれども、その程度がどの程度かと。プラスであることは間違いないと思います。アメリカはその効果が各国の中で大きい方だと言われていて、日本アメリカに比べると小さいと言われています。  前回の二〇〇三年からの七年の景気回復の局面も円安株高が進みました。このときの計量分析、いろんな専門家の論文の分析がありますが、多数派の意見は、株高による消費増加というのはプラスはあったけれども量は極めて小さかったと、円安を含めた輸出増の効果による雇用、所得の回復が景気回復のほとんどの理由だったというのが多数派の意見というふうに理解しております。今回がそのときと同じかどうかはいろいろ議論があるところではないかと思います。
  33. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 資産価格がいい意味でも悪い意味でも経済影響を相当及ぼすというのは、バブルのときにあれだけ日本国民が踊って、バブル崩壊でこれだけ日本経済が苦しんだということからしても明らかだと思います。実際に資産価格実体経済に及ぼす影響が限定的であれば、仮にバブルが崩壊してもこれだけ悪影響が出たということはなかったということだと思います。  実際に、これあくまで個人的な試算なんですけれども、今回の円安株高、要は去年一年間の水準と比べると為替で大体二十円近く、株でも四割ぐらい上がっているんですけれども、仮にこの円安株高が持続するだけでも、むしろ今年度よりも来年度の経済成長率の押し上げ効果というのは乗数効果で効いてきて、一・八%ぐらい私の計算では押し上げると。一方で、消費増税の悪影響というのはマイナス一・二ぐらいというふうに計算しているので、実は、今回の円安株高効果だけでも消費増税の悪影響を相殺して余るぐらいの効果があるというふうに個人的には考えております。  以上です。
  34. 上念司

    公述人上念司君) 先ほどのスピーチの中でも申し上げましたが、資産市場上昇効果というのは時間を置いて実体経済に及びます。これ、逆の場合も考えたらいいと思うんですけど、バブルが崩壊したのは、株は一九八九年ですよね、ピーク。その後、土地バブルのピークは九一年でした。九二年の段階で、私、実は新卒の就職活動をやっていたんですけど、まだ売手市場でした。つまり、バブルが崩壊した資産市場影響というのはまだ及んでいなかったんですね、しばらく。九二年、九三年、九四年と来て誰も気付かず、九七年ぐらいの不良債権問題になって初めて、あっ、これは実体経済に及んでいるんだとみんな気付きましたよね。  これと逆のことが今起ころうとしているんです。資産市場が良くなってしばらくたってから、ああ、やっぱりアベノミクスは良かったんだということがいずれ皆さん実感できるようになるんじゃないかなというふうに思います。  以上です。
  35. 岩井茂樹

    ○岩井茂樹君 ただいまバブルというお話が出ました。金融緩和を行うとバブルの副作用があるというような、そんな懸念を持っている方々も多いかと思います。私は、インフレターゲットを採用すればインフレ率を一定に保つので、そのようなことが、実はバブルの崩壊自体が起こらないんではないかなと、こう考えているんですけれども、そこで、インフレターゲットについて少し御質問したいと思います。  黒田日銀総裁は、二年程度で消費者物価を前年比の二%上昇をさせるというふうに言われました。このインフレターゲットに関して、出口戦略が見えないんではないかというような話、いつインフレ株高を引き締めるかの判断基準が分からないといった、そんな批判ございます。インフレターゲットは永続的に消費者物価の上昇率を二%前後に維持させる政策ですので、そもそもそれ自体が出口戦略ではないかというようなお話もありますけれども、この点に関して、インフレターゲットの考え方、お三方の考えをお聞かせください。
  36. 小川敏夫

    ○理事(小川敏夫君) では、今回順番を変えましょうか。
  37. 上念司

    公述人上念司君) ありがとうございます。  インフレターゲットの出口戦略ということでちまたで言われていますけど、これは、出口戦略というのはインフレターゲットをやめることではないんですよ。二%以上物価が上昇したらその時点で金融緩和はやめますというだけの話で、インフレターゲット政策自体をやめる話とは全然違います。この点、まず誤解がないようにというのが一つです。  それから二つ目は、現時点で出口政策を議論しないことがまさにインフレターゲットの効果を最大限にすることの非常に重要なポイントになるんじゃないかと。まだデフレから全く脱却していない段階で、デフレ脱却したらどうしようなんて心配する必要はないんですね。  私の師匠であるイエール大学の浜田宏一先生は言いました。グリーンの先に崖があるからといって、まだ大分手前なのにパターでゴルフをやるような人はいませんということです。崖を心配する前にまずはグリーンに乗せることを考えなきゃいけないので、余計な情報はない方がいいというふうに思いますので、現時点で出口政策を議論すること自体が時期尚早であるというふうに申し上げたいと思います。  以上です。
  38. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 私はインフレ目標二%については、実は私は本当に正直に二%までインフレ率を持っていくとバブルになる可能性はあるんじゃないかというふうに考えています。  といいますのも、これ、構造は変わるか分かりませんけれども、あくまで今の時点での日本経済構造から見ると、いわゆる働きたい人がみんな働ける、いわゆる完全雇用失業率というのを計算をすると二・八%ぐらいになるんですね。実際インフレ率が二%行ったときの失業率計算すると、二%台前半ということは完全雇用を、下回る失業率になるということで、そこまで本当に金融緩和をやったらバブルのリスクがあると思います。  ただ、だからといって、じゃ、二%目標を出さざるべきかというと、それはやっぱり二%目標は出さなきゃいけないんですよ。それは何でかというと、リフレ政策というのが期待に働きかける政策であって、仮に日本は二%行ったらバブルになっちゃうかもしれないからといって、一%というままだと多分期待に働きかけられないと思うんですね。それは何でかというと、先進国のインフレ目標というのは大体二%が中心なので、という意味では目標は二%はいいと思うんですけれども、じゃ、正直に二%に行くまでどんどん金融緩和を続けたらいいかというと、その辺はもしかしたら柔軟な対応が必要になってくるのかなというふうに思います。  そういう中で、これまでのアメリカのFRBの動きを見てみても、実際に金融政策の目標なんかも柔軟に変えたりとかしていますし、更に言うと、大胆な金融緩和の出口ってこれまでどこの国もやったことがなくて、恐らく最初にやるのってアメリカだと思うんですけれども、そういった意味ではアメリカの出口の状況日本は学習することができると思いますので、その対応を十分分析しながら日本はうまく出口に向かっていくと。  ただ、出口というのは、先ほど上念さんがおっしゃったように、まだ全然考える時期ではなくて、今の状況ではもうデフレ脱却することに最大限労力を費やすということが最も重要だと思います。  以上です。
  39. 小幡績

    公述人小幡績君) 一番の問題は、やはり資産市場実体経済との間はつながっているんだけれども別物だということなんですね。だから、インフレにならなくても資産市場、株式市場がバブルになることはありますし、こっちが盛り下がっていてもコストによってインフレになることはあると、そういう問題だと思います。ですから、八〇年代のバブル期も、よく言われる議論ですけれども、インフレ率は三%程度と、ハイパーインフレーションから程遠い、しかし資産市場は明らかなバブルだった。  ですから、インフレ率にも注意しつつ、資産市場にも注意しつつバランスを取った金融政策が必要であって、インフレターゲットは歯止めにはいいとは思うんですけれども、インフレを起こすことに躍起になって資産市場のバブルを放置するというのは危険だと思います。  現状はバブルかどうかというところは意見が分かれるところで、ごくごく一部、バイオ関係やゲームなどに個人投資家が群がっている、株式へ群がっている現象は一部で見られ、そこはバブル的だと思うんですけれども、全体が今の時点でバブルだとは思っていません。今後、なる可能性はあると思います。その市場国債市場ではないかというふうに思っています。
  40. 岩井茂樹

    ○岩井茂樹君 ありがとうございます。  インフレターゲットによってインフレ率を一定の範囲内にコントロールすることができればバブルは生まれないのかなとやはり思うんですけれども、バブルは、はじけたらバブルですけれども、はじけなかったら好景気というような、裏腹のそんな話もあるのかなと思いながら、インフレターゲットを採用した諸外国が良好な経済のパフォーマンスを示しております。インフレ率を一定の範囲内にコントロールすることによって、先ほども言いましたように、バブルをはじけさせないということが大事かなと思っております。  そこで、少し数値的な話になるんですけれども、数値というか技術的な話になるんですけれども、インフレターゲットに使用する消費者物価指数というのが幾つかあろうかと思います。コアCPIかコアコアCPIか、はたまたそのほかの指標がいいのか、その点に関して上念公述人永濱公述人、お願いいたします。
  41. 上念司

    公述人上念司君) 私は、自分の著作でも一貫して主張しているんですが、金融政策の目標はコアコアCPIで行うべきだと思います。コアコアCPIからは生鮮食品とエネルギー価格が除外されています。これは何で除外しなければいけないかというと、レタスの値段は三か月で三倍になったりするわけですよ。原油価格も国際投機筋のいろんな市場での悪さによって乱高下すると。こういったものに国のマクロ経済政策が左右されてはいけないという立場から、絶対に金融政策はコアコアCPIで行うべきだと思います。  それからもう一点、資産市場がバブルになったかどうかというのは、資産市場というのはこれは資産価格ですから、需要と供給で決まるんですね。だから、需要が多いのに対して供給が少ないわけですから、供給を増やすための政策を別途行えばいいと私は思うんですね。金融政策をこれに割り当てると、あの三重野総裁のときの過剰なバブル潰しのようなことになって、結局、資産市場以外のところももう焼け野原みたいになってしまうと。こういうことを二度と繰り返してはいけないと思いますので、資産市場に惑わされずにかつ適正な金融政策を行うためにはコアコアCPIということを強調しておきたいと思います。  以上です。
  42. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 私に関しましては、インフレ目標の数値というのは余りこだわりはありません。  というのも、目的というのは、CPIを厳密に何%まで持っていくというのが目的ではなくて、要は日本経済デフレから脱却させて好転させていくということが重要ですから、そういった意味では、CPIでもCPIコアでもコアコアでも、それぞれの、どれかが二%ぐらい行けばこれ相当好景気になっているということなので余りこだわりがないんですが、ただ一方で、デフレ脱却というそこの判断については、私、個人的にはやはりGDPデフレーターがプラス、すなわち名目成長率が実質成長率を上回ると、こういった状況にならないとデフレ脱却とは言えないんじゃないかなというふうに思います。そういった意味では、デフレ脱却にはGDPデフレーター、これで見て判断するというのが最適だと考えております。  以上です。
  43. 岩井茂樹

    ○岩井茂樹君 もう時間がなくなってまいりましたので、最後質問とさせていただきます。  小泉政権時に戦後最長の景気拡大を実際に達成をいたしました。しかし、そのときの企業が内部留保をため込むだけで、庶民には景気回復の実感がなかなか湧いてこなかったんではないかというようなことが批判をされております。  この原因は、日銀が、先ほどお話にもありましたように、金融緩和にコミットしないで、経営者はこの景気回復がいつまで続くかということ、あしたがどうなるか分からないというような不安、そんな状況だったことが原因かと思っております。内部留保をそのため取り崩せなかったのではないかなと、こう考えているんですけれども。  今回のアベノミクスにおいて、日銀金融緩和に強くコミットをしておりますので、経営者は将来に向けてやはり強気の予想をしまして内部留保も取り崩す可能性があるのではないかなと、こう考えているんですけれども、この点に関して永濱公述人上念公述人にお願いいたします。
  44. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 実は、企業が内部留保をためているというのは、日本企業に限らずアメリカも含めてグローバル企業が結構そういう状況にありますので、先進国の企業景気が良くなったからといって投資対象の主体になるかというと、そこは難しいと思うんです。  ただ、今、日本のこれまでの企業状況を考えると、やっぱりデフレというのはお金の価値が上がっていくわけですから手元にお金を持っておくと。逆に言うと、お金を持っておくことによるプラスに対して、それを上回るような投資対象がこれまでデフレで出てきてこなかったということだと思うんですね。そういった意味では、実際にデフレから脱却できるような状況になってくれば、投資超過にいくまではいかないと思いますけれども、これまでためてきた貯蓄超過の部分については少しは出ていくというような好転は期待できるのかなというふうに考えております。
  45. 上念司

    公述人上念司君) 内部留保をため込むのは、ため込んだ方が得だからですよね。ため込むよりも使った方がより大きな利益を得られるとなれば、多分企業は使ってくると思います。  戦後すぐ、これはアメリカの話ですが、モンゴメリーワードというカタログ通販のパイオニアみたいな会社がありまして、ここはまた大恐慌みたいな恐ろしいことが来るかもしれないと思って投資をけちったんですね。けちったら、結局今はモンゴメリーワードというのはほとんど潰れちゃったんですよ。シアーズとかがアメリカの百貨店のシェアで圧倒的に上になってしまったということで、要は信じずにため込んだ人が損をする世の中をつくることが大事なんじゃないかなと、そのためにはやっぱりインフレ目標の達成が重要だというふうに思います。  以上です。
  46. 岩井茂樹

    ○岩井茂樹君 以上で終わります。ありがとうございます。
  47. 横山信一

    ○横山信一君 公明党の横山信一でございます。  本日は、三名の公述人の先生方には大変に御示唆に富む御意見をちょうだいいたしまして、大変にありがとうございます。  私も経済に対してはもう本当に素人でございますので、とはいえ、国の大事なかじ取りをしていく、その役割を担っているという立場から御質問をさせていただきたいというふうに思います。  先ほどの三名の先生方の御意見の中で、とりわけ上念公述人から、日銀の総裁の考え方というか、日銀の考え方についての厳しい御意見もありましたが、まずそこから伺っていきたいと思うんですが、日銀政府の下にある一機関ということで、言ってみれば政府による解任権を含む日銀法の改正ということも公述人はお考えだというふうに思いますけれども、先ほどの話の中で、一九九八年の日銀法の改正が悪かったんだという話もありました。そうであれば、この日銀の独立性というのは本来どのようにあるべきなのかということをまずお聞きをしたいというふうに思います。  金融政策上、政府が取る政策日銀金融政策が本来一致してなければいけませんし、その上で独立性をどう保っていくのかという、その辺についての御所見を伺いたいというふうに思います。
  48. 上念司

    公述人上念司君) 御質問ありがとうございます。  中央銀行の独立性というのは、これはもうワールドスタンダードで決まっています。基本的には、手段の独立性を持っているというふうに考えるのが中央銀行の独立性です。目標の独立性というのは中央銀行は持っていません。なぜなら、これは公務員試験でもテストに出ると思うんですけど、行政の民主的な統制という点から考えて、選挙で選ばれたわけでもない日銀職員が目標も手段も勝手に決めていいなんてことは、これはあってはならないことなんですよね。目標はあくまでも国民に選ばれた政府が決めて、それを実行するのが中央銀行であるはずなんです。  ところが、一九九八年に改正された日銀法は、この点に対する記述が極めて曖昧です。二条には物価安定ということが書いてあるんですけど、それは日銀の理念だと。理念なんですよ。そして四条、政府との関係は、政府と連絡さえ取れば何やってもいいと取れなくもないような、そういう曖昧な条文になっていると。それを彼らは悪用して、二〇〇〇年に金融研究所の政策研究ペーパーの中で、目標の独立性は手段の独立性の中に含まれていますというようなとんでも条文解釈をやらかしたんですね。これは明らかに憲法違反なんで、厳しくこれはレポート書いた人を追及してほしいんですけれども、そういったとんでも解釈が行われてきて、マスコミがそれを吹聴するために、一部の国会議員の方も、日銀の独立性は統帥権の独立のように神聖不可侵なんだというふうに思い込まされてしまったんですね。これが全ての悲劇の始まりだと思います。  今、アベノミクスでやっていることというのは、この日銀の独立性というものを手段の独立性というワールドスタンダードに戻すというごくごく当たり前な作業であって、別に独立性の侵犯でも何でもないんですね。実際に通貨の信認はちっとも揺らいでおりませんし、皆さん財布の中にはまだちゃんと日本銀行券が入っていると思いますので大丈夫だと思いますので、これどんどん進めていただきたいなというふうに思います。  以上です。
  49. 横山信一

    ○横山信一君 今のお話にもちょっと関連しますが、先ほどのお話の中で、日銀法の改正に触れたら日銀がそこに反応したというお話もございました。今回、政権交代する前に安倍総裁が日銀法の改正に触れたと、そういうこともございました。そういう意味では、日銀と国会との関係といいますか、国会がどのようなかかわり方をするのがこの金融政策あるいは経済対策に好影響を及ぼしていくのか、その辺についても御意見があれば上念公述人に伺いたいと思います。
  50. 上念司

    公述人上念司君) ありがとうございます。  まず、目標は政府が決めて、日銀に達成させることを義務付けると。義務付けるというからには、これ罰ゲームがなきゃ駄目なんですよね。目標というのは数値ですね。客観的な数値、それから達成までの期間、もし達成できなかったときの罰ゲーム、この三つがそろって初めて有効な目標と言えます。これが中央銀行のコミットメントと言われるものですね。  白川総裁時代の日銀というのは、数値目標も曖昧、期間も曖昧、罰ゲーム一切なしですから、あれはもう本当にマスコミ向けのリップサービスで、ちっとも約束したことにはならないんです。現在の日銀は、目標の数値は明記しました。そして、達成までの期限二年と切りました。最後、罰ゲームの点については、これはちょっと多少意見は分かれますが、岩田副総裁は達成できなければ辞任するとまでおっしゃいました。  こういったことを今後も進めていくための枠組みをもう日本銀行法の中にビルトインすると。今、曖昧な規定になっていて、時の政権によってちょっと変わっちゃったりするんですね。これを、もう本当に二度とこのデフレ不況を再発させないために、日銀法の中に明確に書き込むということがこの日本経済を未来永劫デフレに陥らせないための非常に有効な手段なんじゃないかなと私は思っております。  以上です。
  51. 横山信一

    ○横山信一君 ありがとうございます。  それでは、またちょっと視点を変えまして、先ほど永濱公述人の方からイザナギ景気を超える戦後最長の景気回復の話がありまして、それが実際に所得というか給料に反映するまでのタイムラグのお話もございましたけれども、デフレ脱却するには、最終段階としてやはり家計の収入が増えるということが大事だと思うんですが、金融経済政策の良しあしというのは企業業績に反映されやすいわけですけれども、一方で家計の収入に反映されるまでには時間が掛かると。これを短縮するにはどうしたらいいか、お考えがございましたら教えていただきたいというふうに思います。
  52. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) ありがとうございます。  いかに家計の収入に波及させるかということなんですけれども、これなかなか難しい問題があって、例えば強制的に企業に人件費とかそういうのを上げろと言っても、それはやっぱり企業活動の制約につながる形で、場合によっては産業空洞化とかを招きかねませんので、そういった意味ではそういう方向性というのは余り良くないのかなと。そういった意味では、一つの方向性としては、もう既に出ております、雇用ですとか賃金を増やした企業には税制優遇しますというような法的な措置があるわけですけれども、そこは景気が実際良くなってくれば一定の後押しの要因にはなってくるのかなというふうに考えています。  この賃金にどれだけのタイムラグがあるかということでいうと、先ほど申し上げた話にも結び付くんですけれども、前回はそんなに、時間がすごい長かったんですけれども、今回は、先ほど申しましたとおり、企業が相当人件費を適正なところまで削減しています。足下で、それこそ今景気、実は回復局面に入ってまだ半年もたっていないわけで、その年の春闘であれだけ一時金ではあるものの満額回答出たというのはこれ異例でございまして、一年ぐらい前倒しの感じがするんですね。そういった意味からすると、恐らくこの調子で景気がいけば、今期の企業業績というのは相当良くなってくるということになると、恐らく来年では多くの企業が一時金を増やすということになってくるでしょうし、そうなると、その次の年ぐらいにはベースアップ、こういったところを決断する企業も増えてくるのかなと。  そういった意味では、具体的な制約をするのではなくて、実際、今回もやっぱり安倍首相のそういった企業経営者の方への呼びかけ、アナウンスも効いたと思いますので、そういった働きかけをしていくというところが最も望ましいのかなというふうに考えています。
  53. 横山信一

    ○横山信一君 これは全員にお聞きをしたいと思うんですが、多くの国民が恐らく不安に思っていることだと思うんですが、それはインフレターゲット、先ほどの岩井議員の質問にもありましたけれども、二%程度で安定的にコントロールできるのかという、そこの懸念というのがもう多くの国民の皆さん共通して感じておられるというふうに思うんですけれども、このような懸念に対してどのように考えるのか、三人の公述人の皆様にお聞きしたいと思います。
  54. 小幡績

    公述人小幡績君) その懸念は余りないんではないかなと思います。ハイパーインフレが起こるという議論がありますけれども、資産市場でバブルになる懸念は十分にあるんですけれども、実体経済でハイパーインフレが起こるという状況には今全くありませんので、その心配は不要だというふうには思います。ただ、資産バブル、国債バブルについては非常に注意が必要だと思います。
  55. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 私の考えといたしましては、例えば今のアメリカを見てもそうなんですけど、アメリカインフレ目標的なもので二%という数字があるんですけれども、実際アメリカは別に二%も行っていないわけで、それに対して批判が出ているわけでもないわけですよね。そういった意味からすると、そこまで厳密にその二パーに持っていくと、合わせるという必要はないのかなと。  そういった意味からすると、確かに打ち出しの意味でのインフレ目標二年で二パーというのは分かりやすくていいと思うんですけれども、場合によってはこれから、例えば多くのいろんな先進国で掲げているインフレ目標で少し幅を持った、例えばデフレ脱却して経済が安定してきた状況であれば二パーを例えば一パーから三パーとか、そういう形で柔軟な形に目標を広げる形で対応していくというところが望ましいのかなというふうに考えております。
  56. 上念司

    公述人上念司君) 非常にちょっと極端な事例でお話ししますと、どれほど金融政策インフレの抑制に効果があるかという点についてちょっとお話ししたいと思います。  もし二%を超えてインフレ率が一〇パー、二〇パー、場合によっては何千%と行ったらどうなるのかということで、一九八九年のアルゼンチン、これは年率四五〇〇%ぐらいのインフレでした。その後、カバロ財務相という方がカバロ・プランというのを実行しまして金融引締め政策を行った結果、一九九二年にはアルゼンチンのインフレ率は年率七・二%ぐらいまで一気に下がりました。つまり、金融政策というのはこれぐらい効くんですね。  なので、インフレが行き過ぎることはそんなに心配しなくても、最悪の場合は白川さんにもう一回総裁やってもらえばデフレに戻るんじゃないかなと、これ冗談でよく言っていますので、ぐらいの効果はありますので、余り御心配いただく必要はないんじゃないかというふうに思います。  以上です。
  57. 横山信一

    ○横山信一君 ありがとうございます。  上念公述人から先ほど我が党の防災・減災ニューディールに触れていただきまして、大変に感謝申し上げます。考え方もよく理解をしていただいているというふうに思うわけでありますけれども、アベノミクスの第二の矢としての機動的な財政政策、そしてまた、ここが今注目されているところでありますが、その中で大規模な公共投資というのが大きな柱になってくるわけでありますが、ちょうど前政権のときにコンクリートから人へという、これは多くの国民から割と好意的に受け止められたんですが、残念ながらそのさなかに東日本大震災が起こってしまって、一方で公共事業の必要性というのが大きく見直されたという、そういう経緯もございます。  そういう中にあって、防災・減災ニューディールというのは、もう一度その防災という視点から公共施設を見直していこうと。太田大臣も、今年はメンテナンス元年だというふうにも言われているわけでありますけれども。  ちょっと細かな話になりますが、私は北海道出身で地方にいると。そういう中で、小泉総理がされたときの、あの、先ほど来言っている、イザナギ景気を超える景気回復世の中で騒がれているときに北海道はどういう状況だったかというと、依然として景気はずっと低迷していたわけですね。その一つの要因として、やはり公共投資が大きく減っていったということがございます。  デフレ脱却する、今は割とこういういいムードになっているわけですけれども、それが地方に及んでいくにはやはり大きなタイムラグが必要になってまいります。この地方にまで景気回復を施すにはどうするべきなのか。私は、その一つとして公共投資は重要だというふうに思っておりますけれども、これはお三方に伺いたいと思うんですが、地方に景気回復を及ぼしていくにはどうしたらいいのかということについて、御意見があれば伺いたいと思います。
  58. 上念司

    公述人上念司君) 御質問ありがとうございます。  私も全く同感でして、公共事業の役割というのは非常に大きいと思います。あえて言わせていただくと、デフレ脱却するには金融政策だけでも大丈夫なんです。ただ、脱却するまでに時間が掛かるんですね。  それから、デフレというのは、いわゆるデフレーション的な問題、物価が下がるという問題とデプレッションという不況の問題と二つの問題がありまして、そのデプレッションの方の状況を改善するにはやはり公共投資というのは非常に重要です。これは、先ほどクルーグマンのコラムを紹介しましたけれども、誰もお金を使わなくなれば誰も所得を得られなくなる、これが国民経済ですから、民間がしょぼくれているときは企業の代わりに政府お金を使うと、これがいいことだと思います。二年掛かるデフレ脱却をもし公共投資で一年で済ますことができるなら、これを使うことに我々はちゅうちょする必要は全くないというふうに考えています。  以上です。
  59. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 私の考えといたしましては、まず公共事業につきましては、私はできるだけ抑制すべきだと思います。  そうはいっても、そうはいってもですね、これ国土交通省の試算だと思うんですけれども、それこそ老朽化したインフラの改修だけで五十年で百九十兆必要だという試算もありますので、そういった意味では、もう最小限にとどめるだけでもある程度の公共事業というのは、これはやらざるを得ない状況だと思います。そういう形で地方経済、ある程度の下支え要因になるというふうに考えています。  それに加えて、地域経済の活性化という意味では、私はやっぱり観光と農業だというふうに考えていまして、観光についてはもう既にアベノミクス効果円安で外国人観光客が結構増えていますけども、この辺をもっとビジットジャパン、クールジャパンなんかとも併せてアピールすることで外国人観光客を少なくともドイツ並みぐらいに増やすということをすれば相当効果が大きいというふうに考えています。  それから、やはり地方で考えれば農業ですね。特にここについては農業改革が必要だと思うんですけれども、一つのいい例としては、例えばオランダというのは人口も国土面積も九州と同じぐらいなのに農産品の輸出額というのは世界第二位なわけで、非常にシステマチックな農業をしているということからすると、日本も、時間は掛かるかもしれませんけど、改革をすることによって農産品の輸出という形で地域経済の復活に貢献する可能性が高いんじゃないかなというふうに考えております。  以上です。
  60. 小幡績

    公述人小幡績君) 時間もありませんので。  人をつくるということで、やっぱり北海道は北海道ならではの地元の人を育てると。一つ具体的に挙げると、高等専門学校というのがございまして、ロボットコンテストがかつて有名だったと思うんですけれども、工業ではすごい成功していると思うんです。それを農業、観光、その他コンテンツ、いろんなものを広げる、そして大学院レベルのものも一緒にやって、グローバル戦略も立てられる、語学もやる、法律もやる、海外企業も買収できるようになる。そうやって人を育てていくことが、一つ一つ雇用をつくっていくことが唯一の道ではないかというふうに思っております。  以上です。
  61. 横山信一

    ○横山信一君 以上で終わります。
  62. 中西健治

    中西健治君 みんなの党の中西健治です。  今日は公述人方々、どうもありがとうございました。  幾つか確認をさせていただきたいというふうに思います。  まず、小幡公述人にお伺いいたします。  レジュメの中でも、金融政策インフレは起こせないと、こういうふうに明言をされておりまして、お話の中でも、景気回復の結果としてインフレは起こることはあり得るけどと、こんなようなお話でありましたけれども、金融政策インフレは起こすことができるけれども副作用が心配だという意見が多いのではないかと思います。インフレは起こせないというのは割と新鮮な意見かなというふうにも思うんですけれども、それはなぜかということについてまずお伺いしたい、確認したいというふうに思います。
  63. 小幡績

    公述人小幡績君) 起きないと思うんですが。  お金が流れたときに、それが、皆さん物を買えば物の値段が上がると、物を買わずに金融資産を買えば金融資産の値段が上がると。ということで、物にお金が流れず金融市場お金が流れれば金融市場が上がる、国債価格が上がる、株の値段が上がる。ところが、物の消費は多少増えたとしても物の値段が上がるまでは行かない。現状で、需要不足の中では、多少の需要不足の中では生産を増やしても値段は例えば車でも上げてこないと思いますので、簡単にはインフレにはならないと思います。行く行くは多少のインフレになってくるという事実を否定するものではありません。
  64. 中西健治

    中西健治君 次に、永濱公述人にお伺いしたいと思います。  お話の中で、為替レートについて、少なくとも購買力平価から割高過ぎる円高の是正の過程は悪ととらえるべきではない、こんなようなお話でした。そして、その購買力平価というのはIMFですとかこういったところでは百円強ですよと、こういうお話をされておりましたけれども、では逆に、この百円強を超えてくる、購買力平価を超えてくる円安については、これを悪と考えるべきだというお考えでしょうか。
  65. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) ありがとうございます。  それについては、私は、マクロ経済全体で考えれば、特にデフレから脱却できていない状況では悪じゃないというふうに考えています。  ただ、そうはいっても、やっぱり円安というのは全てにプラスではなくて副作用を及ぼすところも出てきますので、そういった意味では、恐らく今後百十円、百二十円と円安に進んでいく可能性もありますから、そういう中で、そこの為替は別に放置しながら、一方では副作用が出てくるところについて個別の手当てをしていくというのが、これ政治的な最も望ましい判断なのかなと。逆に為替市場はなかなか介入して動かせるものではないですから、そういったような対応が望ましいのかなというふうに考えております。
  66. 中西健治

    中西健治君 続きまして、やはり永濱公述人と、あと上念公述人にお伺いしたいというふうに思います。  先ほど、出口戦略についてどう考えるかという質問が他の委員からありました。それに対して、上念公述人は時期尚早だというふうにお答えになっておりましたし、永濱公述人もやはり今は考えるべきではない、このようなことをお答えになっておりましたけれども、私ちょっと、そうしたことを聞きまして、やはり新鮮だなというか、びっくりしたなという部分もございます。FRBのような中央銀行が表向きにはこうしたものは議論するのは時期尚早だと言うことについては、それはそうだろうというふうに思うわけでありますけれども、皆様のようなお立場の方々がそういうふうにおっしゃるということについては、割と申し上げたとおりびっくりしたなというふうに思います。出口戦略を考えながら金融緩和政策手段というのを取っていくというのがやはり正しい姿なのではないかなというふうに思っている人が多いんじゃないかなというふうに思います。  特に、将来的には、中央銀行日銀金融システムの安定と物価の安定という大きな二つの目標を持っているわけでありますから、この二つの目標がぶつかり合う可能性についてどのようにお考えになっているのか、お二人の公述人にお聞かせいただきたいと思います。
  67. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) ありがとうございます。  御質問の件でございますけれども、私もニュアンスとしてはあくまで公にすべきではないという意味での言い方でございまして、当然、例えば自分が政策担当者であれば、もちろんあれだけの大胆な緩和をする場合はやはり出口のところも当然頭の中には考えておかなければいけないということだと思います。  ただ、やはり表立って言うには、やっぱり日本アメリカ状況が全く違う部分でいえば、アメリカはまだデフレに陥っていない国であって、日本は既にデフレに陥ってもう十年以上も脱却できていない国ですから、少なくともそういった出口のところを考えるには、デフレから脱却して、例えば消費者物価が一%ぐらい上がってきた部分で実際に議論し始めるというところがタイミング的には望ましいのかなというふうに考えております。
  68. 上念司

    公述人上念司君) ありがとうございます。  私は出口戦略を我々が議論する必要は基本的にないと考えています。  理由は、出口戦略というのは、これはあくまでも手段の独立性に含まれるものであって、政府は二%というインフレ目標を与えているわけですから、それを超えてしまったら、その二%までに戻すというのがまたこれ日銀の次のコミットメントになりまして、どのような手段を使うかというのはこれは日銀の裁量に任されているんですね。逆に、目標を達成できなかったらこれは厳しく責任を取らせるべきだというふうに思いますので、余り出口戦略を議論することは、手段の独立性というものに対して、政治家だったら政治による介入というような批判を招きかねないので、私は余りこの出口戦略というのは議論してもしようがないんじゃないかなというふうに思います。  以上です。
  69. 中西健治

    中西健治君 続きまして、小幡公述人にお伺いいたします。  今、上念公述人永濱公述人の白川体制、白川日銀についての評価というのは大体分かるような気がするんですけれども、小幡公述人は黒田日銀総裁の今の異次元金融緩和については非常に批判的だというふうに思いますけれども、それでは白川日銀についてはどのような評価をされていらっしゃるんでしょうか。
  70. 小幡績

    公述人小幡績君) 一言で言うのは難しいかもしれませんが、誠意を持ってベストを尽くしたのではないかというふうには思っております。
  71. 中西健治

    中西健治君 誠意を尽くしてという、ベストを尽くしたということだと思いますが、取ってきた政策についてどのようにお考えになっていらっしゃるかということについてお伺いしたいと思います。
  72. 小幡績

    公述人小幡績君) できる範囲で、ゼロ金利という制約の下でできる限り可能な金融緩和を行ってきたということで、時間を使ってよければちょっとだけお話しすると、二つ今の考え方と違うというふうに思います。  一つは、資産市場ではなく実体経済にとにかく働きかけたいということで、資産の大量購入によって資産価格を動かすことに関しては非常に否定的だったと思います。これは欧州の中央銀行はそういうスタイルです。アメリカは確かに違います。ですから、欧州のスタイルに非常に近いというふうに思います。  それで、成長基盤融資等を見ても、なるべく資産市場で吹かすといいますか、力任せに量的緩和で資産をばんばん買って資産市場が上がることによって何とかするのではなく、銀行が直接企業融資する実体経済に働きかけるルートを何とか探ろうといろいろ工夫してなかなか成果が出なかったというのが結果だったというふうに思います。
  73. 中西健治

    中西健治君 端的にお伺いしますが、白川総裁の下での日銀金融政策は今後も続けていった方がよかっただろうというふうにお考えでしょうか。
  74. 小幡績

    公述人小幡績君) 最後、物価目標を導入したことは良くなかったというふうに思います。ただ、それ以前の政策に関してはバランスの取れた妥当な政策だったというふうに思います。
  75. 中西健治

    中西健治君 ありがとうございます。  続きまして、永濱公述人にお伺いいたします。  賃金上昇というのはタイムラグを伴って景気が良くなってくれば起こり得るというお話だったと思います。その中で、これから物価が、二%の目標といってもこれは年率二%ですから、もし達成するということになると、二年、三年となってくるとそれは複利で効いてくるというような水準ということになってきますが、それだけ賃金の上昇というのは幅として見込めるものかどうかということについてお伺いしたいと思います。
  76. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) これは実は消費増税分入れるか入れないかで話が違ってくるんですけれども、恐らく、過去のインフレ率と賃金の関係で見てみると同程度の上昇は見込めると思います。ただ、そこに消費増税が来年の四月から乗ってきますと、そこはその部分は伸びませんので、そういった意味では、消費増税分も考えれば、やはり目先は負担の増加の方が上回ってしまうというところは致し方がないのかなというふうに考えております。
  77. 中西健治

    中西健治君 今の確認ですけれども、要するに消費増税の部分で、増税五%ですから、それが物価に、全て効いてくるわけでないにしても、かなりの部分効いてくると。その部分に関して言うと、可処分所得、実質賃金、こうしたものは追い付かないだろうなと、こういうふうにお考えだということでよろしいでしょうか。はい、分かりました。  そうなりますと、これは永濱公述人小幡公述人、ではお三方にお聞きしたいと思うんですけれども、景気がひょっとしたら良くなるかもしれない、というか良くなる兆候が見れているわけでありますけれども、そんなまさにそのときに消費増税を行うべきなのかどうかということについてお伺いしたいと思います。
  78. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) そこにつきましては今後の景気状況次第だと思うんですけれども、実は私、大胆な金融緩和には賛成の一方で、やはり行き過ぎた財政規律が崩れることによる信認の低下というところも若干懸念をしております。そういった意味からしますと、これだけ今の円安株高状況が続けば相当景気は良くなる可能性が高いということからしますと、やはり景気がいいというところを前提として消費増税はこれは致し方ないのかなというふうに考えております。
  79. 小幡績

    公述人小幡績君) 先ほどもちょっと述べたように、消費増税は必要だと思います。今、永濱公述人がおっしゃられたように、国債市場の信認、日本政府財政に対する信認から見ても、財政構造改革ということで進めることは必要。  ただし、五から八は非常にインパクトが大きいので反動減景気悪くなるのは見えていますので、政治的に可能かどうか、法律的に可能かどうか分かりませんが、理論的には、六%、七%、八%、九%、一〇%と、一年に一%ずつ景気状況によらず上げるのが望ましいのではないかと思っております。
  80. 上念司

    公述人上念司君) 税率を上げることの目的は、税収を増やすことだと思います。ところが、税率を上げても税収が増えないんです。なぜなら、まだ日本デフレ脱却していないからです。各国の先行事例を見れば分かるとおり、イタリアもポルトガルもスペインもイギリスも、消費税増税して増収になったかどうか、是非皆さん、データ確かめてください。景気が悪いときに税率を上げても税収は増えません。ということは、財政再建できませんので、税率を上げる意味がないということなんですね。  私は、消費税を増税するなとは言いません。財政再建もした方がいいと思いますが、それは税収を増やすことが財政再建になると考えているからです。だから、税率を上げて税収が増えるようになる状態になるまで増税は延期すべきだというのは、これはもう経済学の基本的な考え方からして妥当な結論なのではないかと思います。  以上です。
  81. 中西健治

    中西健治君 どうもありがとうございます。  今のお三方のお答えの中で、小幡公述人にちょっとお伺いしたいんですけれども、反動減駆け込み需要に比べて大きいということを先ほどのお話の中でもおっしゃっておられましたけれども、これはどういう理由によるものなんでしょうか。
  82. 小幡績

    公述人小幡績君) 私は、九七年の増税のときに、当時大蔵省主税局というところにいたので目の当たりにしたんですけれども、やはり皆さん、三から五というと、二%上がるというよりは、一・六七倍になるんで非常にインパクトが大きい。それに、欧州と違いましてたまにしか起きない。あのとき、引上げは初めての現象ですから非常に話題になりまして、みんな一生懸命駆け込んで買ったんですね。ですから、やっぱり駆け込み需要は物すごく、予想よりもそもそも駆け込み需要が大きくなる、ですから、その分反動減ももちろん大きくなる。  ところが、反動減の方がより大きい理由は、駆け込む人は、必ず後で買おうと思っていた人が、予期していた人がまず買うわけです。ところが、そのときは買おうと思っていなかった人が引上げ後に、例えばエコポイントがなくなった後に突然テレビを買う必要が出てきた。例えば、テレビがちょっと調子悪くなってきたと、そうしたときに、エコポイントがちょうど終わった瞬間に買うのは何となくばかばかしく思えてきて後悔してしまう。だから、テレビを買うのをむしろ逆に諦めて、自分はテレビ要らないというふうに思い込ませると、そういうふうな需要が出てきますから、上がったのを見て、今買うのはばかばかしいのでやめようという意識が非常に強く働くので反動減の方がより大きくなると、そういうふうに私は解釈しております。
  83. 中西健治

    中西健治君 お三方に最後質問ですけれども、国債市場でこれまで、これまでというのは去年ぐらいまでかもしれません、日銀総裁が替わる前までかもしれませんけれども、Xデー、暴落の危険性があるんじゃないかということをよく言う人がいました。今もいるのかもしれません。Xデーというのはあるのかどうか、それぞれお聞かせいただきたいと思います。
  84. 小幡績

    公述人小幡績君) 暴落は、やはり生命保険会社等が為替を含んで外債投資、為替変動を見込んで外債投資に一気に流れたときは危ないんですけれども、そのために日銀は多分出動すると思うので、暴落しない形で国債市場の非効率、バブルがずっと残っていく状態が続くのではないか。ただ、金融市場はその分効率性を失っていくというふうに思います。
  85. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 日本の場合は、御承知のとおり経常収支も黒字でございますので、すぐにそういうことが起きるとは思っておりません。ただ、このままデフレから脱却できずに、税収がずっと下回り続けて、公的債務、これのGDP比が上がり続けるということが続くと、いつかのタイミングでなる可能性はあるのかなと。逆に言うと、今回のアベノミクスが成功してデフレから脱却できるということになれば、その可能性は極めて低いのかなというふうに考えています。
  86. 上念司

    公述人上念司君) もし仮にXデーが三年以内に起こるとすると、確実に億万長者になる方法があります。これ私、本に書きましたので是非読んでいただければと。日本政府がこの方法をやると、逆に日本政府が億万長者になってしまうので破綻できないですよね。  これ、要は保険があるんですね。日本が今破綻する確率というのは、世界的に見て大体〇・六%ぐらい、二百年に一回あるかないかというふうに言われております。三年以内に破綻するなら、この利ざやを抜いて日本政府は大もうけできますので、是非やっていただきたいなというふうに思っております。  以上です。
  87. 中西健治

    中西健治君 どうもありがとうございました。
  88. 平山幸司

    ○平山幸司君 青森県選出の平山幸司です。  三人の公述人には、貴重なお話をいただきまして、ありがとうございました。  冒頭で小幡公述人の方から、株高と人柄で世の中が明るくなっているというお話がありまして、一方では、金融政策はこれはリスクが高いというお話ですね。永濱公述人には、ガソリンや小麦、電気料金が上がっているのはこれは円安の副作用ではないというお話で、なるほどなと思いました。また、上念公述人には、正しい情報を見抜く力ということで、現実を見るというお話、非常に重要だなと感じました。  そこで、この現実を見るという部分で、私、青森県の選出でございますので、先ほど横山委員からも少しありましたけれども、地方の立場からアベノミクス効果について三方に御意見をお伺いしたいと、こう思っています。  青森県は全国でも所得が本当に最低水準にありますね。基幹産業は農林漁業が中心です。その中で、例えば地方では国土強靱化、若しくは先ほどありました防災・減災ニューディール政策による大胆な財政出動により、公共事業による地域の活性化への期待もあるわけでありますけれども、一方で、地方の現場では、小泉政権以来のシーリングを設けた予算削減によって公共事業を請け負う業者の数は激減しています。また、震災復興に青森からも被災地に向かっているということで、なかなか業者が人手不足があると。今年は豪雪であったんですけれども、その豪雪対応もできないほど極端に人手不足があるという状況。先日も地元の業者からお話をお伺いいたしました。  こうした中で、報道では一斉にアベノミクスによって円安株高景気が良くなったと、こう言っておりますけれども、地方の実態はそのような実感は全くないんですね。そこで、株高でもうけた人や賃金が上がったと、こういった話もほとんど聞きません。よって、アベノミクスによって具体的な効果として、地方では今の段階でどのようなことがあるのか、若しくはその効果があるとすれば、今の段階で出ていなくてもいつごろ期待できるのか、この時期的なもの、これをお三方にその見方をお伺いしたいと思います。
  89. 上念司

    公述人上念司君) 御質問ありがとうございます。  まず、今現在出ている効果という点に関しては、皆さん、年金とか健康保険、加入されていると思います。こういったところの資産運用が非常に楽になってきていますね。間接的ではありますが、年金や保険を通じて全国民にアベノミクス効果というのは今波及しつつあります。    〔理事小川敏夫君退席、委員長着席〕  じゃ、実際に自分の収入が増えるのはいつかということなんですが、これは先ほどから申し上げているとおり、実体経済の波及へは時間が掛かります。場合によっては二年、三年ぐらいというふうにも言われています。歴史上の事例を幾つか出すと、一九三〇年、昭和恐慌というのが始まりました。その後、一九三一年の終わりごろ、高橋是清によるリフレ政策ですね、今のアベノミクスみたいな政策が行われて、最終的にその効果が波及して数字に出たのは一九三三年、二年後でした。大体こういう歴史データが参考になるのではないかというふうに思います。  あとは、より早く自分の収入を上げたい人は、ちょっと転職を考えるとか、廃業していた建設会社の人ももう一回ちょっと起業して、立ち上げてそういうものに公的融資を活用するとか、そういう形で自ら成果を取りに行くというような積極的な行動も必要なんじゃないかなというふうに他方思います。  以上でございます。
  90. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) ありがとうございます。  まさに御指摘のところ、私も仕事柄、いろいろ全国、地方に講演に行って経営者の方のお話を伺いますので、まさにそのとおりだなというふうに感じるんですが、そういった中でも、じゃ全く効果が出ていないかというと、実際私が聞いた話でも、この前、今治に講演に行ったときには、今治のタオル作っている中小企業の経営者の方にお話を伺ったんですけれども、円安で飛ぶように今海外から受注が来て売れているというような話を聞いていたりですとか、あと、やっぱり外国人観光客が増えたりというような話も聞いています。  あと、某中小企業では、一時期前までは円高で、出荷先の大企業が、海外の方に受注した方が安いからというところで受注先を変えられて大変な状況だったらしいんですが、ここもとの円安によって受注が戻ってきたみたいな話も聞いていて、徐々にではありますけれども、地方にもちょっとずつ明るい兆しが出てきているのかなと。  ただ、やっぱりそれって、なかなか景気って、例えばお風呂を沸かすときのお湯の温度と同じようになかなかすぐには熱くならないので、しばらく時間が掛かるのかなと。実際にどれぐらいの期間かというと、やはり明確に国民が恩恵が、豊かになったなというような実感ができる時期でいいますと、賃金の中でも基本給のところがマクロで見て上がっていくような状況のタイミングということを考えると、やっぱり二、三年ぐらいの辛抱が必要なのかなと。ただ、間違いなくいい方向には行っているということは言えるんじゃないかなというふうに思います。
  91. 小幡績

    公述人小幡績君) ありがとうございます。  観光だと思います。円安による観光と、それに連動した農業ではないかと。  私、たまたまですけれども、昨年、青森に三度行きまして、三沢と浅虫と、あと斜陽館にも行きまして、今朝も黒ニンニクを、奥入瀬の、食べてから来たんですけれども、非常に青森、初めて行ったんですけれども、三度行きまして非常に魅力に取りつかれたところがございます。ところが、青森に行ったことがある人間は意外と少なくて、観光は東京とか増えているんですけれども、やっぱり青森を知ってもらうということがすごく重要だと思います。  その青森で感動したのは、やはり人材が非常に優れていると。ストーブ列車というものにも乗ったんですけれども、ああいうのもすごく上手なんですね。ほかの東北の県よりも圧倒的に上手だなというふうに思いました。そういう人材も恵まれて、物もあるんですけれども、やはり余りグローバルには宣伝されていないということで、やっぱりグローバル展開を踏まえた上での人材育成により観光、農業が発展していくと。円安というのはそれに対しては追い風だとは思いますので、その点は効果があると思いますが。マイナス面の輸入コスト増によるガソリンや電気料金というのはあるとは思いますが。  以上です。
  92. 平山幸司

    ○平山幸司君 ありがとうございます。  今お話をお伺いいたしまして、小幡公述人には何回も来ていただいて、本当にありがとうございます。是非宣伝していただきたいなと思うんですが。  お伺いして感じたこととしては、現実に成長戦略として、今後、農業であったり観光であったりという、そういった人材を育ててグローバル化していくというのはこれからの成長戦略という部分になるのかなと、こう思っておりますけれども、現時点におけるアベノミクスによって果たして地方の経済が良くなっているかどうかという部分に関しては、ちょっと具体的に、こういうところが本当に良くなっているなという実感は、実際に私も、昨日もまた戻ってきて、向こうにいる時間が多いんでありますけれども、やはり実感として感じることはなかなかできていないというのが地方の本当の声だと思うんです。  一方で、最後小幡公述人の方から、物価上昇によって、実際に今アベノミクス一つの大きなものとして日銀金融緩和によって物価を上昇させるというようなことが行われるわけでありますけれども、地方の方ではなかなか所得が上がらない中で物価が上がっていくという状況が生まれますと、先ほど言われました二、三年の間でも、給料が上がらない、若しくは年金生活者に関しましては物価スライドによって年金が下がっているという状況もある中で、幾ら副作用ではないとしても、目標として物価を上げるということをしていくというふうになるわけでありますので、結果、生活コストは上がる、一方で収入は上がらない、若しくは減っていくというような状況であるとすれば、これは地方経済にとって非常に厳しいものなのではないかなと、こう感じるわけでありますけれども、その辺について各公述人から考えをお伺いできればと思います。
  93. 小幡績

    公述人小幡績君) 今お話しになったとおり、アベノミクスは、株高円安によって、都市部を中心とした一部の大企業と富裕層に非常に効果が限定的、そこには割とはっきりと表れていると思います。地方ではコスト高のみが掛かり、今後も恩恵というのはこのままでいくと見込まれないのではないかというふうに思います。
  94. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 先ほどの御質問ですけれども、恐らく収入が上がらない中で物価ばかり上がっていくという状況は多分あり得ないのかなというふうに考えていまして、逆に言うと、収入が上がらない中ではそんなに物価は上がらないと思います、これまでの経験則で考えても。私、個人的にも、実際に日銀インフレ目標を二年で二パーと言っていますが、多分相当困難な状況だと思います。  そういう中で、私も先ほどのお話で最後の方に触れさせていただいたんですけれども、多分アベノミクス効果を最大限発揮するには、今の一本目の矢に加えてやっぱり三本目の矢でいかにエネルギーコストを下げるかというところが、ここが必要であって、特にやはり地方経済にとってみたら、ここの政策が電力自由化なんかも含めてどのような形で進んでいくかというところが大きな鍵を握るのかなというふうに考えております。  以上でございます。
  95. 上念司

    公述人上念司君) 私も永濱公述人と同じで、物価の構成要素というのはほとんど人件費なので、人件費が上がらない中で物価だけが上がるというのは原理的にちょっとあり得ない話だと思います。  とはいえ、金融政策だけを全開に吹かして財政を緊縮してしまう、ましてや増税してしまうと、イギリスと同じように、マネタリーベースは増えるけれども、ちっとも失業率が下がらないでむしろ上がってしまうというような現象を招きますので、何とか増税を延期するか阻止する形で財政政策のサポートも十分に行う必要があるのではないかというふうに考えます。  それからもう一点、これまで日本の人口というのは地方から都市にがんがん流入してきたんですが、唯一この流入が止まった時期があるんですね。その時期はいつかというと、これはバブルの時期です。これはデータが示しています。景気が物すごく良くなると実は地方経済にも波及して、東京に出てこなくても地方で仕事があるんですよね。こういう状態までやっぱり持っていかなきゃいけない。ただ、バブルがいいというわけじゃないですよ。景気が良くなると人口の都市への流入というのも止まってくるということもありますので、こういうプラスの面も是非考えていただきたいなというふうに思います。  以上です。
  96. 平山幸司

    ○平山幸司君 ありがとうございます。  今お話をお伺いして、結局、人件費が上がっていかなければ全体の物価も上がらないんですよというお話、これはそのとおりだと思うんですね。しかし、今、私は小幡公述人の話が非常に説得力あるなと思っていまして、全体のパイの中で、やはり都市部であったり一部の富裕層であったり、その人たちが占める割合というものが、非常に重点を置いて政策を行っているのかなという感じがするんです。  というのは、全体のパイの中で地方の人口はもちろん少ないですし、なかなか経済部分に関しても大きなものはない。しかし、やはり地方の立場で物を考えさせていただくとすれば、人件費が上がるというのは都市部で、一部の富裕層で、先ほどお話がありましたように、大企業でボーナスが上がっているといえばそれが全部上がっているんだという雰囲気が醸し出されているという感覚を私は感じております。  そこで、最後質問でありますけれども、小泉内閣の際も戦後以来のイザナギ景気と先ほどもお話が出ておりましたけれども、その中でも地方は非常に厳しい状況であったという現実があります。そのときに大きな格差社会であったということ、これも現実を見てそのとおりであったと思うんであります。  今のアベノミクスに関しても、私の感覚でいうと、このまま進んでもやはり地方は非常に厳しい状況に追い込まれるのではないかなと、こう感じておりますけれども、唯一、全体的には景気経済がマクロ的に良くなるといっても都市と地方の格差が広がってしまうのではないかという懸念に対して、この格差解消をするためにどういうことをすればよいかということに関して、各々公述人から御意見をいただきたいと思います。
  97. 石井一

    委員長石井一君) 誰からです。
  98. 平山幸司

    ○平山幸司君 皆さんから。
  99. 石井一

    委員長石井一君) いや、あと一分ですから。
  100. 平山幸司

    ○平山幸司君 じゃ、小幡公述人
  101. 小幡績

    公述人小幡績君) これは非常に難しいんですけれども、やっぱり人材を育てるためにお金を各地方に回すということだと思います。東京を中心とした各地方に非常に魅力が残って、産業力もあるし、人材もそろっているというのが、日本が韓国やほかのアジア諸国の急速に発展している国と違うところだと思いますね。地方の活力は絶対に生かさないと日本全体が長期的には下がると思います。なので、地方に人材を育てるお金政策で付けるということは政策的には重要ではないかと思います。
  102. 平山幸司

    ○平山幸司君 終わります。ありがとうございました。
  103. 石井一

    委員長石井一君) ありがとうございました。  今のところ十分遅れて進行をいたしております。質問者も公述人も、その点よろしくお願いします。
  104. 大門実紀史

    大門実紀史君 大門です。お忙しい中、ありがとうございます。  今日は、新進気鋭の若手の学者やエコノミストがお集まりでございます。ただ、伺っていると、やっぱりエコノミスト経済学者の方というのは極端な方が多いなと思いますね。必ずこうなる、自分は正しいというのがね。私は、そういうところが大変気になるわけですけれども。大抵余り当たらないんですよね、今まで。国会で十二、三年こうやって見ていますけど、竹中平蔵さんから始まっていろんな方がいましたけれど、まあなかなかそのとおりはいかないわけでございます。  ですから、政治は、学者の方々の御意見を、エコノミスト方々の御意見を参考にすべきはすべきなんだと思いますが、うのみにしちゃいけないと。特にその点では安倍さんは今ちょっと危ないかなと私は思っているんですけれど、小幡さんは、みんなが右向けというときに非常に勇気のある明快な発言をこの間、小幡先生されておりますけれど、どう思いますかね、安倍さんは。
  105. 小幡績

    公述人小幡績君) ちょっと困りましたね。  ただ、非常に原理主義的なところがあるような気がします。とにかくインフレを起こすことが大事だというのは、状況次第だと思うんですね。今おっしゃられたように、インフレが賃金上昇の引き金となるようなインフレであればそれは起きた方がいいですし、ただ、日本の現状では、雇用状況からいって、雇用確保を最優先してきましたので、特に地方、非正規の賃金は今まではずっと抑えてきた、その状況で、とにかくインフレが解決するというような原理主義的な考え方は非常に危険であるとは思います。  ただ、私は別に勇気があるわけでも何でもなくて、正しいと思う経済学では常識的だったこれまでの意見を述べているだけですので、特に勇気はありません。
  106. 大門実紀史

    大門実紀史君 とにかく、国会というのは国民のために批判的な議論をする場でございます。だから、自分だけが正しいとかそういうことではなくて、いろんな面で、いろんな角度で議論をしなきゃいけない点がありますので、是非、学者、エコノミスト皆さんもいろんな角度で、全て正しいじゃなくて、きちっと見てもらうのが皆さんのお仕事ではないかとちょっと思ったものですから申し上げておきます。  余りもう時間がありませんので、いろいろもう出ましたので全員には質問できないと思うんですけれど、私は第一生命研究所のレポートはよく読ませていただいておりますけれど、今回の永濱さんの賃金の問題はちょっと曖昧かなと思ったりするものですから、まず伺いたいんですけれど。  二〇〇五年、二〇〇七年のときも、小泉構造改革ということで、一応企業の業績が上がって、利益も上がって、輸入インフレと言われたような状況もありましたし、円安も百二十円ぐらいまで行きましたですよね。しかし、利益が出たにもかかわらず、永濱さんがおっしゃったように、一部、一時、賃金を上げたり、いろいろなことがありました。竹中さんとよく議論をしたんですけれど、そもそも日本の労働分配率が高いから調整しているんだというのは、それもありましたけど、それはもう九七年ぐらいから始まっておりまして、あの二〇〇五年、二〇〇七年のときに急にやった話でもないですね。  申し上げたいことは、やっぱりみんなで真剣に考えなきゃいけないのは、本当に賃金が自動的に上がるのかと、このままいけばですね。これは、安倍さんも麻生さんもそこのところは鍵だと、どうしたら上がるのかということを真剣に考えておられるので、ちょっと楽観的なお話だったのかなと思うんですけれど、本当に上がるのかと、ほっといてですね。やっぱり何か政策的に手を打たないと私は難しいんじゃないかと思うんですね、過去の例からいって。その点いかがですか。
  107. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 確かにおっしゃるとおり、特に先進国の賃金というのは、経済のグローバル化の中で、やはり新興国の安い労働力が入ってきていますので上がりにくいというところはあると思います。  そういう中で、先ほど、過去からも人件費の調整はされているというお話があったんですが、実際、私の資料の五ページ目の左側のグラフを見ますと、実際に企業が本腰を入れて賃金の調整を始めたのって二〇〇〇年以降でございまして、やはりここの調整というのは非常に異常だったのかなというところだと思います。  そうはいっても、冒頭で申したとおり、なかなかグローバルの賃金が高い中でという意味では上がりにくいという環境はあります。そういう中で、実際、私の資料の中で、この三ページの右側のグラフなんですけれども、これというのは円安効果なんですけれども、実際これだけ賃金が上がるという話ではなくて、為替レートが変わらなかったときと比べてどれぐらい上押し圧力があるかというところだと思います。  そういった意味からすると、トレンドでいうと、やっぱり新興国の台頭によって日本の賃金に押し下げ圧力が掛かってくるので、何もしなきゃ多分下がっちゃうんだと思うんですね。そこにどれだけ円安とか今のアベノミクス効果で押し上げるかというような効果をお話ししているというところでございます。  ただ、そうはいっても、これもまた五ページの右側のグラフになるんですけれども、そういった賃金調整が非常に厳しい状況の中でも、あれだけ長く景気が回復が続いたら賃金はやっぱり上がる時期がありましたので、この回復が続いてくれば表面上も賃金が上がるという期待が持てるんじゃないかなというふうに考えております。
  108. 大門実紀史

    大門実紀史君 私は、物価目標二%の関係でいきますと、二%本当に物価が上がるには、賃金は四%ぐらい上がらないと物価は二%上がらないと言う方もいらっしゃいますし、逆に言うと、二%本当に上がるんだったらば、大体生活物価の方が、全部じゃないですよね、生活物価の方がウエートが高く上がらないと全体は二%上がらないと。  つまり、生活物価が上がるということも含めますと、賃金は逆の面からいくとやっぱり四%ぐらい上がらないと生活が苦しくなるということになるわけで、ただ上がるという意味じゃなくて、やっぱり二%の関係でいくと四%ぐらいの賃金が上がらないと人々の暮らしは良くならないという意味で、そんなに上がるのかと、上げるようなことになるのかというふうに思うわけですね。  二%そのものはどうかという問題もありますから、その議論を机の上でしても仕方ないんですけれど、少なくとも、この過去の数値からしても、事例からしても、時世からしても、そう簡単には上がらないし、内部留保がたまったからといって簡単には賃金に回しません。だから、あれだけたまっちゃって、内部留保の問題も、今、国会でも安倍さんや麻生さんも内部留保に触れるぐらいの焦点になっているわけですね。  済みません、小幡先生に伺いますけれど、先ほどちょっと時間がないのではしょられたのかと思いますが、小幡先生の資料の中にも、若干日本の賃金構造のことが触れられておりますけれど、このままでは私は上がらないと思うんですけれど、やっぱり政府が手を打たないと上がるということは、自動的には上がらないんじゃないかと思うんですが、ちょっとここに書かれております構造の問題も含めてコメントをいただければと思います。
  109. 小幡績

    公述人小幡績君) 全体で上がらないのは、団塊の世代で大企業の付加価値のある労働力がマーケットから出ていって、若い非正規雇用が加わってくるので、平均で見たら必ず下がると思います。上がるためには、新しく入ってくる若い世代あるいは非正規で増えてきている世代、彼らの賃金を上げないといけない。それのためには、非正規でなく、非正規、正規でいえば正規ですし、付加価値のある労働力になるような支援を、学校をつくるとかいろんな労働支援を政策でしていく必要があるというふうに考えています。
  110. 大門実紀史

    大門実紀史君 最後に、じゃ、上念公述人に伺います。  先ほど、出口戦略はもう言わなくていいんだと、今はと。そういう勢いの、精神論は分かるんですけれど、実際問題、この前この場でも、予算委員会でやったんですが、日銀があと二年後に百九十兆も国債を買入れ残高で抱え込むわけですね。その数字を見て人々がどう思うかが一番大事で、そんなこと言う必要はないんではなくて、あの数字を見て、あれだけ買っちゃって、どうやってあれを、出口というか、吐き出していくのかと。一遍に吐き出したら暴落ですよね。何年掛かるのかと。そういうふうに見て国債の信認、信用についても人々が考えますので、何か出口戦略出すとか出さないじゃなくて、人々の気持ちに対して、ああいう巨額の買入れ、これが本当に国債の信用を落とさないのかと、そういうことにこたえる必要があるという意味で、私は出口戦略という言い方はしませんけれども、ちゃんとした見通しがないと人々はどう取るか、マーケットがどう取るか分かりませんよという意味で申し上げているんですが、その点でいかがですか。
  111. 上念司

    公述人上念司君) 御質問ありがとうございます。  国債買い入れた理由というのは、国債のマーケットというのは非常に大きいんですね。これが株とか若しくは商品市場なんかだったりすると、売るときにちょっと売っただけで物すごい暴落が起こってしまうと。ところが、国債というのは持ち続けて償還期限まで持ち続ければ自然とそれ以上買わないで残高は減っていくというものですから、国債でこういうオペレーションをやるというのは基本中の基本です。  それから、あともう一つ、二百七十兆円という数字を見てどう思うかというのに関しては、全くそれに根拠がないということが、ロゴフ・ラインハート論文で否定されたということを先ほど公述で私申し上げました。実際には、債務残高と金利関係というのはそんなに明確な相関関係というのはないということがこれ学問的にもほぼ証明されたと私は思っておりますので、余り日銀の独立性にかかわる手段の問題について国会の場で議論するというのはいかがなものかというふうに私は思います。  以上です。
  112. 大門実紀史

    大門実紀史君 終わります。
  113. 谷岡郁子

    ○谷岡郁子君 みどりの風の谷岡郁子でございます。よろしくお願いいたします。  昔、随分昔になるんですけれども、ポール・サミュエルソン博士と個人的にお話をして質問をしたことがございます。その当時、レーガノミクスですとかサプライサイド・エコノミーというものが非常にはやった時代で、あなたはなぜシカゴ学派の人たちにくみしないのかということを私は質問したんです。その答えは、私の経済学は一部の金持ちをより金持ちにするという少数のためのものではなくて本当により多くの人々を公正に幸せにするためでありたい、だから私は、もし自分が論理として間違っていてさえも、多くの人々を幸せにしないような経済学にはくみしたくないのだと、はっきりおっしゃいました。  そこで、皆さんにお伺いしたいんですが、本当に世代間の格差がひどくて、そして新しい分野でクールジャパンとか言われながら、実際にアニメーションをやっている二十代の若者の平均賃金が百十万円だと言われています。このような不公正な状況というものを是正する経済学というようなことを皆さんはどのような形で処方箋をお考えになるのか、三人の方々に簡略にお答えいただきたいということを御質問申し上げたいと思います。どなたからでも結構です。
  114. 小幡績

    公述人小幡績君) 難しいですよね。それは一番重要なところなんですけれども、ただ、やっぱりアニメが日本ではやったのも政策的に介入をしなかったからだという説もあるぐらい、やっぱり自由にアニメを見る消費者あるいは作りたいという気持ちがある若者たちがそのマーケットに入ってきたと、それが活力を生み出したという説もございます。  ですから、これはなかなか難しいんですけれども、産業が発展してきたときに、所得の問題があればそのときに横から少し支えるぐらいの政策しか打ち手はないのではないかと思いますが、ただ、政策的な対応が必要であることは間違いありませんが、その一方で、新しい産業というのは、やはり政府が所得を支えたり賃金を支えたりするということのない世界の方が生まれやすいという事実も残念ながらあるということもあると思います。
  115. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 私が考えますのは、結局、現役世代をいかに豊かにするかということは、国内にどれだけ潤沢な雇用環境を、雇用機会をつくるかということだと思います。やっぱりそういう意味から考えると、結局雇用を生み出すのは企業でございますので、企業国内で活動しやすい環境をつくるということが最大のポイントだと思います。  そういった意味では、今の円安株高というのは効果的だと思いますし、実際に今回の円安に伴って、実は海外に移転しようとしていた某自動車メーカーの工場なんかも移転をやめたりとか、あとは、公的な支援がなければ自力で経営できないような企業が受注が非常に来ているとか、そういう状況もありますので、効果はあると思います。  加えて、そうはいっても、日本の場合は少子高齢化でやはり世代間の不公平というのがありますので、そこは何をすべきかというと、これはやっぱり社会保障のところはある程度全体を削らなきゃいけないのかなと、そういうことをしないとやっぱり現役世代に負担が重くのしかかってしまいますので、そういった意味では社会保障の改革、ここもやっていかないとなかなか世代間の不公平というのは解消できないかなというふうに考えています。  以上です。
  116. 上念司

    公述人上念司君) 世代間格差とか、それから若者の雇用環境を悪化させてきた原因というのがデフレなわけですから、デフレによって企業活動が不活性化することによって雇用も消極的になりますし、賃金も減っていくと。だから、まずはデフレを解消するということが大前提ですね。デフレのままで幾ら再分配政策をやっても効果がありません。まずはデフレ脱却する、これが前提条件です。ただし、デフレ脱却したからといって再分配政策が、デフレ脱却だけで一緒にできるのかというと、それはまた別で、再分配政策というのはまた別途考えていく必要があります。  先ほどのアメリカの例じゃないですけれども、一九七〇年代まではアメリカの高額所得者の実効税率は九〇%だったんですね。それがレーガノミクス以降どんどんどんどん減らしていって、今三割、三七%ぐらいかな、非常に低くなりました。結果として何が起こったかというと、富める者はより富み、貧しい者は余り変わらないという、こういう現実になりました。できれば、日本の場合はこういうことを繰り返さずに、デフレ脱却する政策を進めながら、かつ、世の中がもうちょっと平等になるような政策をまた別途、リフレ政策とは別に再分配政策というのを考えていく必要があるというふうに思います。  以上です。
  117. 谷岡郁子

    ○谷岡郁子君 私もその点では上念公述人と同じでして、やはりレッセフェールで公正な分配がされるとは思わないと。本当に欲望の大きな人たちはほかの人たちに分け前をあげたくないという、その構造の中で、言わばその出版社が、例えばあるいはその制作会社が、テレビ局が実際の現場にお金を渡していないということが問題であって、これは分配の問題であって、全体のパイの大きさの問題ではないというふうに私は考えておりますし、またそういうことも、経済学の方でも、いかにもっと本当に再分配をきちっと誘導できるような経済があり得るのかというのを是非お考えいただきたいと思います。  次の質問に移りたいというふうに思います。  麻生副総理を始めとして、百六十八名ですかの国会議員の方々が靖国に参拝をいたしました。その是非を私は今全然聞こうと思いません。信仰の自由とかそういう問題を考えようとは思いません。ただ、それがいわゆる経済にとって、復活をしなければいけない日本の今の経済に対する刺激の問題として、韓国や中国、あるいは各国が偏狭なナショナリズム、あるいは不必要なナショナリズムだというふうにかなり欧米でも言われているようなことは、これは経済的にプラスなのかマイナスなのか、その点についてコメントをお聞きしたいと思います。
  118. 上念司

    公述人上念司君) 端的にお答えします。  中立です。どちらの影響もないと思います。
  119. 谷岡郁子

    ○谷岡郁子君 どうしてですか。
  120. 上念司

    公述人上念司君) 靖国神社の参拝によって実際にどれぐらい貿易量が減ったかとか、それから実際にどれぐらい日本製品が売れなくなったとかいうのは、定量的なデータは全く確認されていないので、もうこれは中立と言わざるを得ないですね。現実が何も反応していないと。  以上でございます。
  121. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 大変申し訳ないんですけれども、そこに至るまでの発言については私の親会社の方から控えるようにということを受けておりますので、大変申し訳ない、個人的には意見はあるんですが、ここでは控えさせていただきたいと思います。失礼いたします。
  122. 石井一

    委員長石井一君) 永濱公述人、親会社ってどこですか。
  123. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 第一生命経済研究所でございます。
  124. 小幡績

    公述人小幡績君) 親会社はいませんので自由に答えたいと思いますが、経済にはマイナスだと思います。中国人観光客が減っていますから、これはマイナスであることは否定し難い事実。ただ、経済と外交はやっぱり別の部分もありまして、経済が全てに優先するわけでもないので、外交は外交としてまた難しい問題があるのではないかと。専門家ではないのでそれ以上は分かりませんけれども、ということだと思います。
  125. 谷岡郁子

    ○谷岡郁子君 今の点で少し分からない点があるんですね。というのは、期待感だとかそういうものが経済を活性化するためにとても重要だということは、この間様々な経済学者、皆さん含めておっしゃっている部分が一方にあって、一方に、いわゆる気分の問題であったり、いわゆる隣人との関係みたいなものは関係ないんだというふうに、例えば今、上念公述人がおっしゃったということについて、やはりそういうもの、社会学的な様々な人間的な要素というものは当然経済の中に入るんではないんですか、その辺はどういうふうに御説明なさるんですか。
  126. 上念司

    公述人上念司君) 期待とか気分という、日本語の国語では同じ言葉ですが、いわゆる物価の、物価上昇率に対する期待ですね、期待といったら、我々普通は期待インフレ率のことをいいますから、それにどのような作用があったのかということは、これは定量的に検証する必要があると思います。  この間の靖国参拝で果たして日本の物価上昇、予想物価上昇率ですね、BEIがどれぐらい影響を受けたかというのは、グラフ上これはすぐに確認できることなので、是非、御自身の目で確かめていただいて、いわゆる経済学的な意味での期待にどのような影響を与えたかというのを判断していただければ、これ一番公正なんじゃないかなと。私は見る限り全く影響はなかったというふうに言わざるを得ないというふうに思います。  以上です。
  127. 谷岡郁子

    ○谷岡郁子君 ありがとうございます。  それと、先ほどの話で少し再分配の問題に、もう一度小幡公述人に戻りたいというふうに思うんですけれども、先ほどおっしゃったことで、ある意味でアニメーターのようなところは規制緩和をしなければならないんだというような形をおっしゃったんですね。しかし、実際に再分配の問題として、あるいはその原稿料であったり、それからデザイン料であったり、実際の現場作業のところでどんどんそこら辺の取り分が減ってきて、例えば、個人の問題だけではなくて、親会社、大企業の取り分はあるけれども、末端は小さくなってきている。これはどのような形で解消されるんでしょうか。
  128. 小幡績

    公述人小幡績君) 日本は、やっぱり法律は整備されていると思うんですけれども、その実施がなかなか不完全だと思います。例えば、最低賃金を厳密に守るとか、あるいは独占的地位の濫用、つまり、取引会社がその地位を利用して取引先を絞るというようなものは公正取引法の方で禁止されているはずですけれども、それの現実上の実施がうまくいっていないと。ですから、そこの実施を高めるために、いろんな、実務上の人員を増やすとか、何らかの手だては必要だとは思います。
  129. 谷岡郁子

    ○谷岡郁子君 終わります。
  130. 福島みずほ

    福島みずほ君 社民党の福島みずほです。  今日は、三人の公述人の方、本当にありがとうございます。  まず初めに、小幡公述人にお聞きをいたします。  四大銀行金利を上げるということが報道されておりますが、このアベノミクスの後、金利というのはどうなっていくんでしょうか。
  131. 小幡績

    公述人小幡績君) 一般的には金融緩和によって金利は下がるというふうに見込まれていたわけですが、四月四日の異次元金融緩和により国債金利乱高下しまして、皆さん混乱している状況だと思います。ですから、住宅ローンを下げようとしていた金融機関もあれば、あれ以後やはり上げることにした金融機関もあり、今後、非常に不安定。不安定というのは、一番、金融市場金利にとっては良くない。将来が分からないので、どうしていいか分からないので取引や投資が減るということなので、非常に現状は良くない状況だというふうに危惧しております。
  132. 福島みずほ

    福島みずほ君 インフレになり、今日、インフレが本当に二%になるかどうかということについては、永濱公述人も簡単にはそうならないというお話でしたけれど、物価が上がり、賃金が思ったように上がらない、金利が上がり、ローン負担が増え、国家公務員、地方公務員の賃金は明らかに下がり、年金も下がり、生活が苦しくなるということを国民の皆さんは一番心配しているんではないかというふうに思っています。  今後の国民生活に対して本当にどうなるのかという点について、改めて小幡公述人永濱公述人、それぞれお願いします。
  133. 小幡績

    公述人小幡績君) 問題は、アベノミクスと言われるその金融緩和等の影響は一部の特定のところに偏りがちだと。例えば、株を持っている資産家の方に偏る、高所得者に寄る、都市部の人たちに寄る、あるいは大企業に寄ると。その一方で、デメリットとして、コストが上がる、輸入コストも含めてですね。為替等によりコストが上がるということは全員に広くわたるということなので、低所得者層あるいは地方の人たちにとっては負担の方が大きくなるということで、非常に人によって影響が異なってくると。とりわけ、すごく大ざっぱに言うと、弱い者ほど痛みを受けるような構造にはなっていると思います。
  134. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) そもそも前提として、今回の政策がない状況であっても日本経済は非常に厳しい状況でございまして、そこで、いかにできるだけその悪い状況から好転に持っていくかというところが今回のアベノミクスだと思うんですけれども、そういった意味では、部分的には悪影響、好影響を受けるというのはあるかもしれませんけれども、経済全体で考えれば、やはりパイの拡大がプラスに効く政策をしていると。そういうことをすれば、実際に、例えば株で上がってもうけている人だけではなくて、雇用機会も増えてくることになれば、今まで職に就けなかったような非常に生活水準の低い人にもやはり恩恵が及んでくると。何よりも今までの政策に比べれば、間違いなくマクロ全体で考えるとまだましな状況になるのかなというような政策をしていると思いますので、それをやらなかったときとの比較で考えると確実にいい方向に行くんじゃないかなと。  一方で、そうはいってもやはり割を食ってしまうところも一部ありますから、そういったところについては、先ほどもお話ありましたけれども、再分配で配慮していくというところが必要になってくるんだろうというふうに考えています。
  135. 福島みずほ

    福島みずほ君 再分配という考え方が極めて重要だと思います。  小泉構造改革のときに、労働法制の規制緩和し、タクシー、ハイヤー、バスの規制緩和をし、社会保障を二千二百億円ずつ毎年カットしたために、貧困率は上がり、格差は拡大し、現在、非正規雇用率が三五%、女性は五四%が非正規雇用率で、年収二百万円以下の人が一千二百万人。明らかに、社会の中の再生産、若い人たちの結婚しよう、子供をつくろうという意欲も本当に未来が見えない状況です。  また、この期に及んで、産業競争力会議で竹中平蔵さんなどが加わり、もう一回、労働法制の規制緩和、派遣の規制緩和、ホワイトカラーエグゼンプション、それから解雇の規制のルールの緩和化などを言われていると。あるいは正社員についても、いろいろ限定付きの正社員をつくろうという動きもあります。  先ほど永濱公述人が、あの資料を見ますと、アベノミクスで例えば残業が増えれば残業代が増えるし、あるいは新たな新規の採用があるんじゃないかというのもあるんですが、実際は、今残業代が実際は払われていない長時間労働などもあります。  それで、三人の公述人にお聞きをします。小泉構造改革における労働法制の規制緩和など、もう一回、切り捨てる政策をもう一度やるべきではないと思っているんですが、その点の評価についてお聞かせください。
  136. 石井一

    委員長石井一君) それじゃ、今度は上念さんから。簡潔にどんどんやってください。
  137. 上念司

    公述人上念司君) 先ほど一つ前の質問でもお答えしましたが、アメリカは一九七〇年代まで高額所得者の実効税率が九割ぐらいだったんですね。そのころの方がアメリカの国全体の経済パフォーマンスは良かったんです。つまり、高額所得者に対する増税というのはこれ真剣に考えるべきなんじゃないかなと私は思っています。  働き方云々に対する政府の介入がどれぐらい必要かということに関しては、これはいろんな議論がありますので、ちょっと私はこの場では何ともどの結論というのは言いにくいですけれども、少なくとも高額所得者に対する税金がちょっと安過ぎるんじゃないかなということはありますので、そちらは私はむしろ、所得税増税になっちゃいますけれども、これはむしろ賛成かなというふうに思います。  以上です。
  138. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 規制緩和については、私もあれもこれも緩和すべきではないと思います。特に、良くなかった一つの例としては、やっぱりタクシーの規制緩和によって、タクシーってサービスを受ける側が選べないわけじゃないですか、そういう中でああいう形で緩和してしまうと、タクシーの台数が増え過ぎてしまって、タクシーの運転手をされている方々の労働環境が劣悪になってということもありますので、そういった意味では、それは見分けをしてやっていかなきゃいけないと。  ただ一方で、やはり規制によって、特に農業ですとか医療分野みたいなところに規制があるがゆえに、本来潜在的な需要があるのに需要が出現していないというような分野も多くあると思いますので、そういったところは実際やっていくと。さらに、エネルギーの分野なんかについても、もっと規制を緩和すればコストが安くなって我々の生活が楽になるというふうなところもありますので、そこは必要だと思います。  もう一つ、先ほどの質問に付け加えますと、再分配は当然必要なんですけれども、再分配するためには財源が必要であって、そのためにはやっぱりパイの拡大がないと、税収といいますか、それがないわけですね。そういった意味からすると、やっぱりできるだけ強いところは強くして、そこでしわ寄せがあったところに税収で再分配すると、そういう姿が国の経済を豊かにする中では最も望ましい姿なのかなというふうに考えております。
  139. 小幡績

    公述人小幡績君) やみくもな規制緩和は良くないと思います。原理主義的な規制緩和は良くないと思います。前回も問題が出ているわけですから、デザインを持って、新しいデザインの下でやると。  それで、現状でブラック企業などの話題があるように、被雇用者側が非常に現場で弱い立場にある中でやるのは良くないので、そこの手当てを考えた上で規制を変えていくべきだというふうに思います。
  140. 福島みずほ

    福島みずほ君 小幡公述人にお聞きをします。  賃金を上げるためにはどうしたらいいのか。インフレが良くない四つの理由というのも書いてありますが、アベノミクスの負の部分というか問題点は小幡公述人は今日おっしゃっていらっしゃるので、言い足りない点、二分ありますので、教えてください。
  141. 小幡績

    公述人小幡績君) 賃金を上げるのはなかなか難しいと思います。結果的に付加価値があってグローバルに太刀打ちできるようになっていかないといけないわけですから。例えば、ドイツが意外と下がらないのは、価格競争していないものばっかり輸出しているということが通商白書等でも分析されています。ですから、構造を長期的には変えていくことが必要です。  ただ、短期的には、学生とかを見ていますと、賃金が低くてもしようがないみたいなところもあって、いい仕事ができればいいという人も増えてきています。だから、その現実に合わせた、ただやみくもにとにかく賃金を上げるということではなく、現場で若い人たちがやりたい仕事ができて、それが正規、非正規でもう二つに、真っ二つに分けるような状況ではなくて、柔軟な雇用制度ができ、ただ、その背後には現場の被雇用者の権利が、実際に法律上ある権利が守られるような状況を整備していかなきゃいけないので、実はその権利の実現にもっと政府がそこは直接的に関与して、形式的な検査ではなくて、実際に被雇用者の権利が守られているかということを担保していくような制度あるいは行政をしていく必要があると思います。
  142. 福島みずほ

    福島みずほ君 一分余っちゃったので、じゃ永濱公述人、先ほど発送電分離とかいろいろおっしゃいましたけれども、時期がずれている。つまり、今の政府は、消費税は来年八%も上げるだろうし、増税になるだろうし、発送電分離やいろんなところはもっと先なんですよね。そうすると、アベノミクスでがあっと景気がいい部分はあるが、再分配やみんなに行くのに時間が掛かると思いますが、その点の現実政治について一言教えてください。
  143. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) ここもいろいろ異論はあるかもしれませんけれども、例えば電気料金が高いところでいうと、やっぱりできるだけ安全性を確認した上で原発を動かすというところが、将来的にはなくすにしても、そこは短期的にある程度対応できる部分だと思いますし、更に言うと、ここはどこまでが短期的というか分かりませんけれども、やっぱり高過ぎるLNGを買っているわけですから、そこを何とか交渉をうまくすることで安くしていくとか、あとは、国内の省エネは今でも進んでいますけれども、それをより高めることによってよりコストを下げるというような政策をもっと進めることが効果があるのかなというふうに考えております。
  144. 福島みずほ

    福島みずほ君 ありがとうございました。
  145. 片山虎之助

    片山虎之助君 片山でございます。  三人の公述人の先生方、ありがとうございました。お聞きしていまして、大変面白い。皆さんやっぱり個性があるというか主張が違って、アベノミクスに対しても大変いい評価もあるしそうでない評価もあるんで、大変勉強になりました。  しかし、私は、アベノミクスというのは今のところは成功していると思っているんですよ。それは、日本中がとにかく、この前もここで言ったんだけど、明るくなったわね。自分が得するより損するよりも、そういうことが大変大きいんですよ。景気の気は気分の気、気持ちの気、元気の気ですからね。それをやっぱり刺激しない法はないんで、それはいいんだけれども、しかしこれからですよね、これからなんで。  その第一の矢は、これは金融緩和すればいいんで、主として日銀がやるんだけれども、これもいろんな議論がありますよ。それから第二の矢は、予算を出すんだから、財政出動なんだから、これも今までは大分窮屈だったから喜ばれている。しかし、これから出し方や何かは大変問題があるんで。第三の矢の新成長戦略が一番大きなこれから議論になるんですけれども、これはまだ、出てくるかどうか分からない。  そこで、三人の先生方に、公述人皆さんに、これからアベノミクスがどうなると思うのか。しかし、おまえ、そんなことを言ったって安倍政権がいつまで続くか分からないじゃないか、まあ続きますよ、しばらくは。しばらくの長さは分からぬけどね。だから、そういうことを前提に、アベノミクスの運命やいかにということをちょっと言っていただきたい。一年後でも二年後でもいいわ。  それから、アベノミクスに対して肯定的な先生も否定的な先生もおる、真ん中の先生もおる。どう直すと言うべきなのか。もう全部駄目だみたいな、小幡先生はそれに近いわね、やや。だから、それじゃどう直すのか。あなたは学校をつくればいいと言うけど、学校をつくるだけでそうなるのかどうか。デフレ脱却するのが目的じゃないんですよ。日本経済を活性化して国民の生活や仕事をちゃんとすることなんですよ。デフレ脱却することはその単なる手段なんだから。  そういう点でひとつ、三人の先生方、よろしくお願いします。分かりやすくお願いします。
  146. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) ありがとうございます。  私、個人的には、希望的な観測でございますけれども、基本的に今の政策というのは全般的に産業の六重苦の解消の方向に向かおうとしていると思いますので、これがうまくいけば、まさにそれに近い政策を既にやっているアメリカのような方向に行ければいいんじゃないかなというふうに考えています。  アメリカはどういう方向性に行っているかというと、大胆な金融緩和と通商政策と、あとはシェール革命が起こったことが大きいんですけれども、これによって何が起こったかというと、国内の立地競争力が高まって製造業の国内回帰というのが起こっています。  実際に、私の資料の七ページの右側のグラフを見ますと、これ、日本アメリカドイツの製造業の雇用者数の推移を見ているんですけれども、これ、実際に今、日本は下がり続けているわけですけれども、空洞化で、ドイツアメリカ、どちらも増えています、上がっていますと。いずれも、やはり国内の立地競争力を高めるという政策を最大のポイントとして進めていることからすれば、日本の方も実際にうまくいけば製造業の国内回帰で製造業の雇用も増えていくというような方向に行っていけば望ましいなというふうに考えています。
  147. 片山虎之助

    片山虎之助君 うまくいくということなんですか。
  148. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) はい。うまくやればいくと思います。
  149. 片山虎之助

    片山虎之助君 うまくやれば。それ、だからどうやるのよ。それを聞いているんです。
  150. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 実際、ですから、金融政策は今のところいい方向に行っていると思います。あとは、第三の矢のところで、いかにグローバルから見て逸脱している政策、ここを……
  151. 片山虎之助

    片山虎之助君 もう分かった、時間がない。
  152. 上念司

    公述人上念司君) ありがとうございます。  私の、じゃ、大胆予言をお伝えしたいと思います。余り当てにならないみたいな意見もありましたが、是非やってくださいということなんであえて言いますが、分岐点は二つあると思います。  一つは、まず大胆な財政支出ができるかどうか。これは、いわゆる緊縮財政派の方がたくさんいらっしゃいまして、国家の財政を家計に例えるという、こういう間違った議論を吹聴している方はたくさんいますので、人々がお金を使わないと人々の所得も増えないんだと、これはマクロ経済では当たり前の話ですよ、誰かが使ったものが誰かの所得になるわけですから。これを国民にきちっと理解させることができるか、これが一つ目です。  二つ目は増税を延期できるか。今もう既定路線になっちゃっていますけれども、絶対に、増税したら、これ、アベノミクス腰折れちゃうと思います、先行事例は全部失敗していますから。イギリスは、金融緩和あれだけ大胆にやったにもかかわらず、消費税を二・五%上げたら実質GDP上がっていないですからね。失業増えていますからね。  この先行事例をよく研究して増税をストップできれば、これは安倍政権は支持率が高いまま長期政権になると思います。逆に、結局緊縮財政派に負け、増税も既定路線どおりということになると、この金融緩和によって得たメリットを埋めて余りあるぐらいの大きなマイナスをその時点で食らって、意外と支持率は早めに急落し短命内閣になってしまう、そういうおそれがあります。なので、安倍政権を何とか早めに終わらせたい人は金融緩和に反対するという行動に恐らく出るんじゃないかなと思いますので、お気を付けください。  以上です。
  153. 小幡績

    公述人小幡績君) アベノミクスに関しては、金融政策に関しては行き詰まるのではないかというふうに思っています。  金融緩和影響円安株高に出ていますけれども、そろそろ打ち止めというか、というところがありますので、これ以上の効果を望むというのが必ず市場の方では出てくるので、じゃ、次は何をするんだと。ところが、黒田さんは、御本人もおっしゃっているように、もうやれることは全部一気にやってしまったと。そういう戦法といいますか戦略だったので、今後やることが非常にないので厳しいと。それで、しかも国債をもう七割買っていますから、更に国債を買うとなると、非常に日本経済上も財政上も国債漬けになり悪影響が徐々に出てくるのではないかと思います。  学校をつくる以外に何かないのかということですが、政策で、やはり日本経済、グローバル化の中で国の経済が一気に浮上するような、一挙解決みたいなのは無理だと思います。政策の力というのは非常に限定的だと思いますので、なかなか寂しいですけれども、こつこつ、一人ずついい人材を育てていく以外にないのではないかと。それは地方において特にそうだというふうに思います。
  154. 片山虎之助

    片山虎之助君 上念先生のは分かりやすい。力強いしね。大変極端だけれども、あるいは正しいかもしれぬわね。ただ、あなたのは、全部金融財政だけで、公の支出だけで、そういうところだけに頼るというのは良くないので、基本はやっぱり民間の意欲や投資の姿勢ですよ、あるいは国民の協力なんで。だから、あなたが言うと、もう第一と第二の矢さえあればいいようなことになるので、私はやっぱり第三の矢だと思いますよ。そこの点について補足したい意見があったら言ってください。  それから、小幡先生の言われる、やっぱり成熟した人材やしっかりした雇用というのは必要ですよね。しかし、それは付いてくるものじゃないかという気がしてしようがない。それはいろんな意見があるんですよ。いろんな意見があるんですけれども、その点、何というのか、学校というのか、そういうことだけで十分なのかなというどうも気がするんですけど、いかがですか。もう少し分かりやすく言ってください。もう時間がないから。どうぞ。
  155. 上念司

    公述人上念司君) ありがとうございます。  第一の矢と第二の矢を前提として第三の矢が必要だという意見には私も賛成です。  第三の矢として具体的に何をすべきかということですが、私はこれは永濱公述人意見と全く同じで、エネルギー政策についてきちっと考えていく必要があるんじゃないかと思います。現状、原発が止まっている状態で、非常に高いエネルギーコスト日本は払っています。毎年三兆円ぐらいというこのコストは明らかに余計なコストですから、安全な原発は勇気を持って再稼働するということも含めて日本のエネルギーや安全保障というのは立て直す。これは民間には絶対できないことですので、また政府がというと怒られるかもしれませんけど、これはまずアベノミクスに推進していただきたいと。  その安定的なエネルギーのインフラがあって、安定的な金融政策があって初めて民間の活力というのは私は出てくるものだと思います。そこには余り私は政府は介入すべきでないと思っていますので、自由な意見が出てきて自由な起業が行われれば日本経済は復活するというふうに思います。  以上です。
  156. 片山虎之助

    片山虎之助君 安倍政権の弱点の一つはあなたが言われたとおりでしょう。もう一つはエネルギー政策なんです。私は、一つは地方分権政策だと思っている。それからもう一つは、やっぱりエネルギー政策についてもっとしっかりしたあれ出さにゃいけませんね。これが、今日はアベノミクス的なことが中心なんだけれども、これからの大きな課題だと、その点は同感です。  小幡さん、何かありますか。
  157. 小幡績

    公述人小幡績君) さっきの、雇用はいいですか。学校はいいですかね。
  158. 片山虎之助

    片山虎之助君 学校ばかり言うからもうちょっと……
  159. 小幡績

    公述人小幡績君) だから、雇用が大事な理由は、ケインズもそう言っているんですけれども、働き続けることによってしか成長しないので、今、正規、非正規、就活で失敗するとずっと非正規のままで終わりですから、そこを担保してあげるために学校も強化して、最初からそれなりに使える人材にして入れる。その後、働き続ける中でいろいろ勉強していかないと、一つ企業で一生というのはもう無理なんで、長く働かなきゃいけないですから、なのでやるということですね。
  160. 片山虎之助

    片山虎之助君 いや、小幡さんね、今の教育制度で学校だけつくっちゃ駄目なんですよ。教育制度そのもの全体を見直さないと、いろんな。学校をつくることじゃないんですよ。教育の在り方をもう少し議論をすることだと私は思いますよ。  そこで、第三の矢の新成長戦略の柱は何だと思いますか。もう一分しかないから、済みません、三十秒ずつでひとつ、三十秒じゃ駄目か、二十秒か、答えてください。
  161. 上念司

    公述人上念司君) 私は、先ほど申し上げましたとおりエネルギー政策中心にやっていくべきだと思います。
  162. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 私も、エネルギープラス日本の高いエネルギー技術を海外に輸出することで世界のエネルギーコストを下げるということです。
  163. 小幡績

    公述人小幡績君) 医療、介護を中心とした地方都市の新しい町づくりだと思います。
  164. 片山虎之助

    片山虎之助君 分かりました。ありがとうございました。
  165. 舛添要一

    舛添要一君 お三方、ありがとうございました。  一つだけ質問します。私が今からしゃべりますことにコメントしてください。  今日はマクロ経済の話をお伺いして、私はずっと大胆な金融緩和ということを申し上げてきたんで、そういう方向で今の安倍内閣がかじを切っているというのは大変結構だと思います。ただ、少しミクロの側面、特にグローバル経済の中で、日本企業がいかにして競争力を保ち、いいパフォーマンスを上げるかと、そういう視点がどうしても必要だなというふうに思っております。  同僚の議員からもいろいろ質問ございましたように、最終的には仕事をしている従業員の給料が上がらないといけない。そうすると、経営者の立場から見たときに、なぜ給料を賃上げをしないのかと。それはいろんな理由があるんで、特に内部留保ばっかりためているじゃないかと、そういうことがあるんですけれども、一つは、例えば賃上げに回る前にどこに行くかというと、株主の配当ということがあります。外国人株主が三割近くになっていると配当性向が非常に高いというような問題がある。そうすると、いわゆる株主資本主義みたいなのでいいだろうかということで、これは経済財政諮問会議でも日本型資本主義の試みのような議論が行われています。  ただ一方、投資をしようという気になるような、そういう企業でなければ要するにお金はそこに入ってきませんから、じゃ、どんどん増資をして会社を広げていこうと、それから国際的な競争の場で勝ち抜いていこうと、こういう企業にするためにどうすればいいかと、非常に日本企業は国際的に見て遅れている側面があります。だから、早く会社法の改正をやりなさいというようなことを申し上げているわけですけれども。  そうすると、片一方では株主資本主義というものに対する反論も試みないといけないけれども、グローバルエコノミーの中で日本企業が競争力を保っていくためには必要な条件がいろいろあって、それは制度改正を含めていろいろあると思いますので、そういう問題意識を私は持っております。  それで、お三方に今の私の問題意識に対してそれぞれどのようなお考えをお持ちかということをお答えいただいて、それで終わりにしたいと思います。  ありがとうございます。
  166. 小幡績

    公述人小幡績君) 御指摘のとおりだと思います。  中小企業がもう最近はグローバル化を進めているというデータがあります。その伸び率が非常に大企業よりも高くて、倍々で伸びていますが、ただ数が非常に少ない。そこはやっぱり人材不足やノウハウ不足で、技術はすごくいいものを持っているのに、世界を目指そうとするとどうしていいか分からないと。やはり日本型というと、今のところは商社を使うとか、そういう形で商社の活躍の場が広がってきているというのが現状で、地方銀行とかも大手銀行を見習っていろんなノウハウを吸収しつつ地域を支援しようという動きがあって、私はこれは徐々に進んでいて、非常に日本経済はいい方向に進んできていると思います。ただ、ペースは遅いので世界の変化には付いていっていないのは事実です。ですから、議員がおっしゃられたように、政策を進めていただくのは大変すばらしいことだとは思います。  やはりグローバルに進めないときはグローバルアライアンスが、提携企業がうまく取れないと。それで、株主も、何か日本企業をいじめて、ただ株を上げてもうけて逃げる人が多かったものですから、そうじゃなくて、投資家として付加価値を持ってきてくれる、取引先や提携先や合併先を持ってきてくれるような、本当の意味での長期のいいグローバルな資本家を呼び込むような政策が必要だと思いますので、基本的に賛成でございます。
  167. 永濱利廣

    公述人永濱利廣君) 基本的に私も今の小幡先生と意見が近くて、実際、やっぱり日本中小企業なんかを回っても、非常に技術が高い、世界で打って出れるところがあるんですけれども、問題なのは、中小がゆえになかなか外に販路を拡大したりとか、そういうところがなかなか難しいというところがあって、それは例えば農産品なんかにも言えて、日本にも非常にいい農産品、果物なんかがあっても、やっぱり個別個別の地域でちょっとずつ海外に出しても、相手は安定供給を求めているわけですし、そういった意味からすると、日本の本当にいいものを、公的な支援でいえば、いかに取りまとめて一括で売り込んでいくかというところが非常に大きなポイントになってくるのかなということからしますと、そういう点で、公的な分野、部門の貢献といいますか、競争力強化に結び付けることができるのかなというふうに考えております。
  168. 上念司

    公述人上念司君) 私は、痛くない注射針で有名な岡野工業の岡野社長さんに直接お話を聞いたんですが、岡野社長いわく、日本の大企業には技術はないと、あらゆる技術は、我々中小企業の社長方が自分のリスクをしょって、それでつくっているんだと、それを買いに来るのが大企業で、売ったときに権利を守るような、そういういろんな法務部門とかいろいろあって守ってくれるのは大企業なんだと、それとうまくやっていくには、特許は大企業にあげましょうと、発案者に名前載っけてください、その代わり守るときは一緒に守るんですよと、そういうような契約をやっていかなきゃいけないということをおっしゃっていました。  こういったこと、いろんなプラクティスが既に日本国内にたくさん存在していて、本当にちっちゃい企業でもグローバル化して、この部品がなければもうこのでっかい工場は動かないみたいな技術を持った、そういう中小企業日本には実はたくさんあるんですね。そういうベストプラクティスを集めて、実際にどういうことをやってきたのかというのをうまく制度として、会社法の中とか、それから外為法の規制なんかも関係あるかもしれませんし、入管法の問題とかもあるかもしれませんし、そういったところに集めて調整していくという地道な作業が必要なんじゃないかなと。やっぱり成功者に学ぶということがビジネスにおいては一番重要なんじゃないかと私は思っています。  以上です。
  169. 舛添要一

    舛添要一君 終わります。どうもありがとうございました。
  170. 石井一

    委員長石井一君) 舛添要一君、御協力ありがとうございました。  以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。  この際、公述人方々に一言御礼を申し上げます。  本日は、有益な、また意欲的な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。(拍手)  午後一時に再開することとし、休憩いたします。    午後零時九分休憩      ─────・─────    午後一時開会
  171. 石井一

    委員長石井一君) ただいまから予算委員会公聴会を再開いたします。  平成二十五年度総予算三案につきまして、休憩前に引き続き、公述人方々から御意見を伺います。  午後は、元外務省国際情報局長孫崎享君、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹立命館大学客員教授宮家邦彦君及びジャーナリスト富坂聰君に公述人として御出席をいただいております。  この際、公述人方々に一言御挨拶申し上げます。  本日は、御多忙中のところ本委員会に御出席いただき、誠にありがとうございます。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。  本日は、平成二十五年度総予算三案につきまして皆様から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いいたします。  次に、会議の進め方について申し上げます。  まず、お一人十五分程度で着席のまま御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。  それでは、外交・安全保障について、まず孫崎公述人にお願いいたします。孫崎公述人
  172. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 孫崎享です。よろしくお願いいたします。  本日、お招きいただきまして、大変に光栄に存じております。  まず最初に、TPPの問題に言及いたしたいと思っております。  TPPは、日本の将来を決める大きな岐路です。今日の外交問題で最も重要な課題であると言えます。TPPには様々な問題がありますが、ISD条項は国家の主権を揺るがす重大課題です。  これまでの経済交渉は国家対国家でした。ISD条項によって企業が国家を直接訴える。米国では弁護の優劣がしばしば判決を左右しますが、ISD条項にかかわる裁判では、企業は巨額の資金を投入いたします。裁判の基本理念は経済活動で、受入れ国の法律や制度で期待される利益が得られなかったときに訴えることができるものです。健康、土地活用、政府調達、知的財産権、規制、税等広範な分野が対象になると見られております。  皆様に質問いたします。次のケースをどのように考えるか。  政府企業に廃棄物処理施設許可を与えたが、有毒物資による近隣の村の飲料水汚染等でがん患者が多数発生する等のとき、危険が提訴され、地方公共団体が施設利用の不許可処分にした。  有害毒性の指摘がある添加物を持つガソリンの輸入を禁止した。  薬品には副作用があり、その調査を十分しなければならないが、新薬の特許申請に対して臨床実験が十分でないと許可を与えなかった。私は、和歌山県の講演でこのことを提起し、皆、それは当然であろうとの反応でした。  では、TPPになるとどうなるのか。NAFTAの例で見てみたいと思います。  メタルクラッド社がメキシコ連邦政府から廃棄物処理施設の許可を受けて投資、有害物資による近隣の村の飲料水汚染等でがん患者が多数発生されとされ、地方公共団体が施設設立の不許可処分をした。これに対して企業は提訴し、約一千七百万ドルの賠償の判決が出ました。  カナダ政府が人体有害毒性の指摘があるガソリン添加物MMTの輸出を禁止すると、同製品生産会社である米エチル社は確実な証拠もなくこれを規制しているという主張をし、結局、カナダ政府は千三百万ドルを支払い、和解をいたしました。  カナダ政府は米国製薬会社イーライリリー社の注意欠陥多動性障害治療剤の臨床実験数が不十分であるとして許可を与えず、会社はこれをカナダの最高裁判所に持ち込んだが、カナダの最高裁判所はこれを却下。今度は、イーライリリー社はISD条項でカナダ政府を訴え、その額は約一億ドルです。  憲法では国会が最高機関となっておりますけれども、ISD条項はこの法律を裁くのです。日本では最高裁の判決が最上位です。ISD条項はこの判決を裁くのです。  次に、尖閣問題について言及いたしたいと思います。  日本にとって、棚上げが最も望ましい方向であると思います。日中双方が主権を主張している中、日本の管轄を認める、軍事力を行使しないとの暗黙の了解、そして、管轄継続であれば、領有権主張に将来有利に展開いたします。この中、最も重要な点は、紛争を回避することにあります。  中国は領有権主張を強めていますが、紛争解決策としての棚上げは以前主張しております。一九七九年の読売新聞社説は次を述べています。  日中双方とも領土主権を主張し、現実に論争が存在することを認めながら、この問題を留保し、将来の解決にまつことで日中政府間の了解が付いた。それは共同声明や条約上の文書にはなっていないが、政府政府のれっきとした約束事であることは間違いない。約束した以上は、これを遵守するのが筋道である。  今日、日本政府の立場は棚上げの合意はないという見解である。しかし、栗山元外務次官は昨年、アジア時報に次を記述いたしました。  筆者(栗山)はこのような経緯を踏まえると、国交正常化の際に際し日中間において、尖閣問題は棚上げにするとの暗黙の了解が首脳レベルで成立したと理解している。七八年の経緯に触れた後、七二年の国交正常化のときの尖閣問題棚上げの暗黙の了解は一九七八年の平和友好条約に際して再確認されたと考えるべきであろう。  ちなみに、栗山元次官は日中国交回復のとき条約課長の任に当たっております。  次に、尖閣諸島で武力衝突で日本側が有利に展開することはない。中国は、従来より台湾を正面に据え軍隊を配備してきた。ここでの戦闘機の配備を見れば、尖閣諸島周辺の制空権は中国が握ると考えられる。中国は短距離、中距離弾道ミサイルを配備し、更にクルーズミサイルを有している。戦闘になれば、飛行場の滑走路破壊ぐらいは容易であり、軍事的に日本が優位に立てることはないと考えるべきである。在日米軍基地も同じ危険の中にある。  この中、日本が取るべき道は平和的手段を模索することである。  第一に、相手の主張を知り、自分の言い分との間で各々がどれだけ客観的に言い分があるかを理解し、不要な摩擦は避ける。今日、日本人で中国がいかなる法的根拠で尖閣諸島を主張しているかを知っている人はほとんどいない。  第二に、領土紛争を避けるための具体的な取決めを行う。  第三に、国際司法裁判所に提訴するなど解決に第三者をできるだけ介入させる。  第四に、緊密な多角的相互依存関係を構築する。  第五に、国連の原則、武力の不行使を全面に出していく。  第六に、日中間で軍事力を使わないことを共通の原則とする。主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵。  第七に、現在の世代で解決できないものは実質的に棚上げし、対立を避けることである。あわせて、棚上げ期間は双方がこの問題の解決のために武力を利用しないことを約束する。  第八に、係争地の周辺で紛争を招きやすい事業につき、紛争を未然に防ぐメカニズムをつくる。漁業、資源開発。  次に、集団的自衛権の問題。  集団的自衛権は、柳井元駐米大使を座長とする有識者会議の事例を中心になろうと。重要なポイントは、日本で討議されている集団的自衛権は、国連の集団的自衛権を想起させるが、これは国連の理念と対立する理念である。  国連の理念は次を基軸としている。第二条第四項、全ての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。第五十一条、この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力行使が発生した場合には、個別的又は集団的自衛権の権利を害するものではない。つまり、各国は武力行使を慎む、万一武力行使をされたら集団的自衛権が発生するというものである。  しかし、今日、米国が行っている戦略は国際的安全保障環境の改善のためという名目であって、このとき相手国の攻撃が実在することを必ずしも必須とはしていないということです。実は、この戦略は一六四八年のウェストファリア条約から今日の国連憲章につながる西側の思想の対極にあるものである。この戦略に従って、日本の軍事的参加を求める集団的自衛権の行動が付随的に出てくる。あくまでも、攻撃は米国及びその同盟国側がスタートすることを前提としている。  こうした戦略がいかに間違ったものであるかは、イラク戦争、アフガニスタン戦争が明確に示している。かつ、イラク戦争では各国がその是非につき公的機関で検証を行っているが、日本は、国会を含め十分な検証を行うことなく、同じ過ちを犯す集団的自衛権に突入しようとしているのは極めて遺憾な現象であると見られます。少なくとも、集団的自衛権の推進者は、イラク戦争につき、なぜ間違ったか明確な答えを示すべきであります。  この関係で北朝鮮に言及しておきたい。  北朝鮮は、日本向けとなり得るノドンを二百発から三百発実戦配備していると言われる。国民を守るという意味で、ミサイル防衛の実効性は全くない。  北朝鮮については、かつてキッシンジャーが述べた外交を展開すべきである。イ、核保有国の戦争は、中小国家であっても核兵器の使用につながる。ロ、核兵器を有する国は、それを用いずして全面降伏を受け入れることはないであろう。一方で、その生存が直接脅かされていると信ずるとき以外は戦争の危険を冒す国もないと見られる。無条件降伏を求めないことを明らかにし、どんな紛争でも国家の生存の問題を含まない枠をつくることが米国外交の仕事である。  今日の日本外交を見るに、中国、韓国、北朝鮮の立場に配慮をすることなくいたずらに強硬論をぶつ傾向があるのは大変危険である。欧州であれ東南アジアであれ、武力を使わず平和的解決を行うメカニズムを構築している相互依存を高めることが武力衝突を避ける最善の策である。  御清聴どうもありがとうございました。
  173. 石井一

    委員長石井一君) ありがとうございました。  次に、宮家公述人にお願いいたします。宮家公述人
  174. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 委員長ありがとうございます。宮家邦彦でございます。  私、二十七年外務省におりまして、一度もこちらで座ったことがありませんが、今回はその機会をいただいたことを大変光栄に思っております。  先ほどは、TPPから始まって個々の問題についてお話がありましたので、私はもう少し幅広い戦略的な発想、私が個人的にどう思っているかをお話ししたいと思います。一応ペーパーを作りましたけれども、必ずしもこれに沿うかどうか分かりません。  昨日、韓国から帰ってまいりました。韓国でシンポジウムがありまして、中国、アメリカ、韓国、台湾、それからヨーロッパ、関係者がいろいろ、学者等が集まりましたけれども、非常に状況が変わったなということを強く思いました。  まず、東アジアの現状でありますが、ここに書いたとおりでございます。相互依存の環境の下ではありますけれども、西太平洋の海洋覇権について米中間で対立が始まったと私は思ってここに書きました。恐らく五年前であればこういう書き方はしなかったと思います。しかし、この五年間の間に大きな変化があったなと思いました。そのポイントを五つここに書きました。  まず一つは、中国の台頭でございます。中国の台頭が平和的である限り、これはもう大歓迎でございます。是非そうしてほしいと思います。ただ、それが始まってもう何年もたちますけれども、どうやら力を背景として、すぐにではないかもしれませんけれども、段階的に現状を変更しようとしているのではないかという懸念、これはあくまでも仮説です、仮説ですが、そういう懸念が増えているというのを私も思っておりましたが、実際に昨日ソウルでも同じようなことを言う人が多かったです。そこで、やっぱりそうなんだなということを強く思いました。  そして第二に、もっと大事なことですが、中国の圧力増大というものを抑止しようとする関係国が、いろいろ動きが出てきております。それを、あるアメリカの学者はリバランスと呼んでおります。リバランスというのは、アメリカだけじゃなくて、周辺諸国も中国の圧力に対応する形でバランスを取るような形の動きをしているというのが現実だと思っております。いいか悪いかは別としてです。  そして第三に、昨日も特に思ったことですが、東アジア諸国でのナショナリズム、民族主義の高まり、そしてそれが相互に影響し合う応酬になっていると、こういう指摘もありました。私は、民族主義というよりも、ペイトリオティズムと言いますが、英語では、愛国主義という言葉であればみんなアメリカの人も含めていいけれども、どうもナショナリズム、偏狭なナショナリズムが台頭しているようで、非常に気になるということを言っておりました。これも私、強く感じたことでございます。  それから四番目でありますが、北朝鮮の議論ももちろんいたしました。北朝鮮は、この状況、すなわち米中がこれからどのような形で協力をしていくのか、対立をしていくのか分かりませんけれども、そのはざまの中で生き残りを図っている。そして、中国は北朝鮮を見放すことはないだろうと足下を見ているし、それからアメリカと韓国も絶対戦争なんかできないだろうと足下を見ている。ここで生き残りを図っているんだろうなあと。まあ三代目のぼんぼんでありますからどうなるか分かりませんけれども、もし彼らが引き継いだ会社が小さなファミリービジネスであればいいんですけれども、それを理解しないで、もしかして大会社を引き継いだと勘違いをすると大きな誤算が生ずる可能性があるということでございます。  それからもう一つ御指摘申し上げたいのは、ASEAN、インドの問題であります。  確かに、フィリピン、ベトナム等は中国との関係で非常に自己主張を強めている部分がありますけれども、必ずしも全ての国がそういうわけではありません。むしろ、その間で自己主張をするよりも利益の最大化を図っていると、こういう印象を私は今、東アジアについて持っているわけでございます。  そこで、五分たちましたので、今度は中東の話をちょっといたします。  私もアラビア語が専門だったものですから、中東地域のことを若干理解しているつもりであります。ちなみに私は、一九七二年、日中の国交正常化のときにちょうど大学に入りましたので、中国語を第二外国語として勉強し、日中友好青年でありました。その人間がいつの間にかアラビア語になってしまったのですが。  中東では実は何が起きているかというと、やはり一番大きな、戦略的に地政学的に大きな問題は米軍の撤退だと思っています。米軍がイラクからもう既に撤退をいたしました。そして、二〇一四年の末までにはアフガニスタンから撤退をいたします。  ここで何が起きるかというと、もちろんそれがいいか悪いかは別として、常に力の空白が生まれるわけでございます。その力の空白、例えばイランのシャーが倒れたとき、イランがシャーが倒れて、それからイラン・イラク戦争が始まりました。それから、アフガニスタンで内戦が始まりました。そして、そこでアフガニスタンにソ連が入ってきました。ソ連が撤退した後、力の空白を埋めたのがターリバーンでありアルカーイダでした。それが九・一一を生んで。  こういう力の空白に焦点を当てて中東を見ていきますと、これは、今起きていることは、私はオオカミ少年であることを祈っていますけれども、残念ながら、中東はこのまま安定の方向に向かうというよりは、次の紛争と言っていいんでしょう、の種が今まかれている可能性があると、これも仮説ではございますけれども、思っています。つまり、中東は我々が思うほど、米軍が撤退することによって、ああ、良かったね、これでもう安定したねという状況ではない、むしろ逆になる可能性があるということでございます。  シェール革命が起きて、アメリカは中東から依存を減らして出ていくんだという議論もありますが、これは間違いだと私は思います。むしろ、アメリカは残っていくだろうと思います。その上で、しかしながら、もう非常に、悲しいかうれしいかは別としまして、厳粛なる事実は、米軍はもう冷戦時代のような二正面作戦、陸軍を使う二正面作戦がもうできなくなっているということでございます。  逆に言うと、一昔前であれば、中東で米軍が戦う、いいか悪いかは別としてですね、戦った場合でも我々は東アジアの抑止力を心配する必要はなかった。なぜならば、アメリカは二正面作戦ができたと我々は信じていたからであります。しかしながら、今の現実は、アメリカはそれはできない可能性がある。その場合に、では中東でもし紛争なり誤算に基づく摩擦が起きる、同時に東アジアでも何らかの紛争なり誤算に基づく対立が起こる、これを同時に対応できるかという問題が軍事的には生じてくると思っています。  私は、間違っても誤解のないように願いますが、私は戦争をすべきだと言っているんではありません、戦争をどうやって回避するか、そのためにどのようにして話合いをすると同時に抑止をするか、そういう観点からお話を申し上げているつもりでございます。  最後に、あと数分ございますので、二〇二〇年までに日本が何をすべきかという話を申し上げます。  なぜ二〇二〇年かというと、これから富坂さんからお話があると思いますが、私は、十年ぐらいたちますと、中国の社会が、経済社会の本質が変わっていく時期に来ると思っています。という意味では、二〇二〇年までに中国が変わっていく、そして、場合によっては東アジア地域の戦略環境に激変が起こる可能性がある。それに十分備えた外交・安全保障政策を我々は持っているのかという観点から六つポイントをお話しします。これは仮説ではありません、私のざれごとでございます。  第一は、今のように外交・安保が各省庁でばらばらになっている状況、これは何とかしなきゃいけないと思っています。迅速かつ機動的な政策の企画立案と実施、これはもう、例えばNSCというのは一つの議論でありましょう。しかし、私はNSCにこだわるつもりはありません。しかしながら、この戦略環境の激変に対応できるだけの組織を我々は持っているかいないかという問いはされるべきだと思っています。  それからもう一つ、先ほども申し上げたように、中東と東アジアはこれから一つになっていく、戦域的にも一つになるし、政策的にも非常に関連が相互にするようになってくると思います。そういう状況の下では、今の政府の全体で、例えば外務省であれば中東局とアジア局が、申し訳ないですけど、全くばらばらに動いているはずでございます。ほかの省庁も恐らく同じでありましょう。しかしながら、中東の情勢と東アジアの情勢は実は一つだという発想でこれからは政策を考えていかなければいけない。なぜか。それは、中国の西側は中央アジアだからです。  中国のことを本当に真剣に考えるのであれば、北京と日本の往復だけでは駄目なのです。これは、モンゴルもあり、ウイグルもあり、チベットもあり、それでやれと。何か騒動を起こせという意味ではありません。しかしながら、彼らの利益がそこにもあるということ、そしてそれを踏まえた上での中国との付き合い方を考えるべきだという趣旨で、やはり中東政策と東アジア政策というのは一つのものだというふうに思っております。私が中国と中東と両方やったから手前みそで申し上げているのかもしれませんが、私は、この問題意識は少なくともアメリカ人の友人も共有してくれているので、これでいいと思っております。  時間がありませんので次へ行きますが、もし中東と東アジアでクライシスが同時に発生した場合、これどうなるかといいますと、恐らくアメリカは中東の方に引きずられていく可能性が高いと思っています。したがいまして、東アジアにおいてはもちろん対話も大事、交渉も大事、しかしそれが破れたときに抑止をしなければいけない、抑止は破れてはいけないのであります。その不足する抑止力をどうするかという問題がこの三つ目に書いてございます。海上警察力というのは海上保安庁のことを指しております。  それから、この二十年、三十年、私は常に思うことでありますが、日本においては対中政策についてミニマムのコンセンサスもありません。全く意見が対立したまま、両方で。いや、それは結構なことだと思いますが、議論であれば。しかし、政策として昇華させるためには、与野党であれ、親中派であれ、嫌中派であれ、誰でもいいんですが、ミニマムのコンセンサスだけは必要であります。これがない限り、足下を見られてまともな外交ができない、こういった悪循環に陥るだけだと思っています。  それから、もう二点だけ短く申し上げますが、軍事力というのは一種のはさみみたいなものでありまして、はさみというのは物を切るためにあるわけであります。しかし、もちろん自分を切ることもできる、自分を傷つけることもできます。じゃ、物を切るためにはさみは要らないのかと。やっぱりはさみは要るのであります。物は使いようなのであります。はさみは使いようなのであります。軍事力も同じだと私は思います。軍事力について、過度なタブー視とか、それから過去の失敗に引きずられることなく、タブー視しない冷静な議論というものをやっぱり東アジアそして中東の安全保障を考える場合にはどうしても必要な視点であろうと思いました。  最後が、偏狭なナショナリズムではなくて健全なペイトリオティズムをというふうに書きました。  偏狭なナショナリズムに日本が、私はそうではないと信じておりますけれども、もしなってしまえば、これは中国と韓国と全く同じ土俵で、同じつまらない戦いをすることになるわけであります。それは日本としては絶対すべきでは私はないと思います。日本には多くの愛国主義者がいて、それは昔の愛国何とかではなくて、それと全く違う意味での愛国主義があるべきであります。偏狭なナショナリズムよりは愛国主義の方が私ははるかにいいと思っております。  これで私のお話を終わらせていただきます。ありがとうございました。
  175. 石井一

    委員長石井一君) ありがとうございました。  次に、富坂公述人にお願いいたします。富坂公述人
  176. 富坂聰

    公述人富坂聰君) ジャーナリストの富坂と申します。本日はお招きいただきましてありがとうございます。  ジャーナリストとして週刊誌に籍を置きまして、それからフリーランスとして約二十五年間、中国報道に携わってきました。私のその視点から、幾つかの視点で特に日本と中国との外交関係についてお話しさせていただきたいと思います。  まず一つ御指摘しておきたいのは、皆さん日本で普通に接する中国の情報というのは、これは非常に精度が低いということを申し上げなきゃいけないと思うんですね。精度が低いと言うと語弊があるかもしれませんけれども、これは書き切れないと言った方がいいかもしれないですね。  というのは、皆さん新聞の紙面を御覧いただければ分かると思いますけれども、例えば国内の政治に割かれているスペースと中国に割かれているスペース、比べてみていただければ分かると思いますね。あれだけ広い国で、あれだけいろんなことが起きている国で、国際報道面のほんの小さなところで中国が紹介されていると。つまり、ぎゅっとした、非常に特異な情報だけがそこに詰め込まれているということですね。そういう中で、中国というのは、そこでキーワードとして生まれたことがかなりパターン思考化として日本人の脳みその中に入っているという問題があるということを申し上げなきゃならないなと思いますね。  例えば、昨年秋に起きました反日デモですね。これ、デモを起こした人々、デモの直後に中国の各地の公安が二十九人指名手配したんですけれども、この人たちに共通していたのは全員無職だったということですね。そういう、この無職であるそのデモを起こした人々と全体の中国というのを一つの中国という一つの主語でくくって話することには、もちろんこれは限界があるということを見なきゃいけないわけですね。  中国が一つの主語で語られるということについては、やっぱりどうしても読者に分かりやすくするためにこれは一つの主語で語っていかなきゃいけない。つまり、ですから、その反日デモも後ろで糸を引いていた人がいるというロジックに変わっていくということですね。しかし、これは現実はそうではないわけですね。ただ、日本で一旦そういうふうな認識で始まってしまいますと、もう既にこれは修正することはできないと。そういう情報を基に日本が対中国の外交を決めていくということは極めて危なっかしいということは言わざるを得ないと思いますね。  これは、例えば国際的に見たところでも同じようなことが言えるんですね。私は中国取材していて、中国が北朝鮮に対してすごく影響力があって、何かのときにぱちっとスイッチを切れば北朝鮮が干上がってしまうというようなことを言う中国人、ほとんどいないですね。特に、日本でも中国がキーだ、アメリカも中国がキーだと、北朝鮮問題は中国がキーだと言うんですけれども、そんなに自信を持っている中国人、私は、いるんでしょうかと、すごく不思議になりますね。実際には、もう北朝鮮は中国の言うことなんか聞かないというのが実情じゃないかと思います。  私は二週間ぐらい前も中国行っていましたけれども、ある番組で北朝鮮分析を、中国のトップクラスの北朝鮮分析をする人間たちを集めて座談会をやったテレビの関係者に聞いたところ、どうですかと、中国は見通せますかと言ったら、いや、我々ははっきり言ってあの国の見通しなんか何にもできないから予測なんか立てられるわけないじゃないかという答えが返ってきました。これは私、正直なところじゃないかなと思います。ただ、日本では、不思議と中国が一ひねりすればすぐに北朝鮮が何か変わるというようなすごく短絡的な思考があるということですね。だから、その辺のところにおいて、やっぱりちょっと、まず情報はどうなのかというところから考えていかなきゃいけないこの問題かなというふうに感じます。  例えば、中国に関しては、日本の書店に行って見ていただければすごく分かりますけれども、もう明日にでも崩壊するか、それかもう二十年後にはアメリカをしのぐ国になるかと、どっちかの本しか並んでいないですよね。この極論がずっとあるというのは、実は日本にだけ見られる現象ではなくて、これはアメリカでも全く一緒で、アメリカの議会でもドラゴンスレイヤーとパンダハガーといってどっちかになってしまう。これは中国と向き合った国の特徴なのかもしれませんけれども、日本と中国の今の距離を考えると、そろそろこのいわゆる単純な中国観というのから脱却していかないと苦しいと。  ちなみに、ちょっと私申し上げておきますと、明日にでも中国が崩壊するという記事を書け、若しくは物すごくアメリカを超えるような超超大国になるぞと、中国が大変だぞという記事を書けと。これは、どちらも明日にでも私はできます、自信がありますし。しかも、非常に説得力を持って、いろんな材料を持って皆さんに御提供することができますし、これは難しいことではないですね。同時に、物すごく戦略にたけていて強い国で好戦的な国だというふうに描くことも、これはもう材料にあふれています。逆に、非常に平和を愛し近隣諸国とうまくやっていきたい国であるということを描くのも実は簡単であるということですね。そこをちょっと考えておいていただきたいと。  だから、それは一方の情報だけをとらえて書けば、今、日本の書店にたくさん並んでいる本みたいなことになるということが前提ですね。だから、そういうことではないところで中国を考えていくことはできないのかというのが私の一つ目の提案ですね。  それでもう一つ日本には今、対中国外交を嘆く言葉がすごくあふれておるんですね、自虐的と言ってもいいかもしれないですけれどもね。一つそこで考えていただきたいのは、そんなに悲観すべき状態なのかということは、私は常々考えますね。  というのも、尖閣諸島の問題というのはちょっと特殊な状況なので、ここでは時間の都合で私触れませんけれども、国と国の利害ということを考えますと、二〇一二年は反日問題もありましたのでちょっと特殊になりましたけれども、日本は毎年中国から三兆円近い貿易黒字を稼いできたではないでしょうかということですね。何か取られていると、技術が取られているとか中国にやられているというふうに言われているんですけれども、圧倒的貿易黒字を築いているのが日本で、しかも中国が、中国の経済一つの柱であった貿易、輸出、これで要するに中国が輸出を伸ばして黒字を稼げば稼ぐほど自動的にこれは日本の部品をたくさん仕入れて加工しなきゃいけないので、自動的に日本の貿易黒字が広がるという構造までつくり上げているわけですね、日本は。だから、そういう意味で、本当に今、日本の多くの国民が嘆いているような、やられたやられたというような状況なのかということから考えると、私はそうではないと思いますね。  仮に、これまでの中国の台頭ということを考えますと、確かにGDPで日本を上回る規模になりましたけれども、そういう発展の中で、例えば日本がそれにくみをしない、中国と距離を置くということやったときに、じゃ中国は台頭しなかったかというと、そうではないと思います。それはあっという間に欧米の企業がその穴を埋めて、日本がその枠外に置かれたというだけのことなので、日本はそういう意味では別に選択を誤ったわけでもなく、日本はそういう世界のトレンドの中で日本が取るべき利益をきちんと取ってきたということを言ってもいいのではないかなと思います。  ですから、それが世界経済のトレンドですから、だから、幸せな時期がやってくるというのは順番にやってくるだけの話ですね。そこはもう中国だけに渡さないというのは、これは日本一国がそんなことを考えてもなかなか難しいだろうということではないかと思います。だから、私は、これはそれほど悲観することではなくて、日本は割とうまく中国を使いこなしたんじゃないかなという視点は今逆に必要なのではないかなと思います。  それで、更に言えば、中国にじゃ配慮するのかということをよく言われるんですね。中国に配慮すべきと、そういうことをよく言われますけれども、配慮する必要はないと思うんですね。だから、日本日本がやるべきことを淡々とやればいいと思うんですね、別に配慮する必要はないけれども。ただ、日本の利害を考えた上でベストな選択をしていくというのが私は重要ではないかなというふうに思います。  中国は今、中国経済絶好調というふうに認識されていますけれども、もう、ちょっと今陰りが見えてきていますね。先ほどちょっと宮家さんの方からも触れられましたけれども、なかなか厳しい状況にありますね。  中国は今二つ流行語がありまして、中所得国のわなというのと、もう一つは、日本は老人になる前に金持ちになったけれども、中国は金持ちになる前に老人になってしまったという二つの流行語があるわけですね。これはどういうことかというと、世界の工場として世界からの投資を集められた時期というのはもう終わったということですね。その非常に幸せな時期に、中国はある幾つかの世界に通用するブランドを持ちたかった、しかしできなかったということですね。そういう中で、これから要するに世界が中国に向いていた投資というのが別の国に向いてしまう、これを中所得国のわなといってかなり焦っていますね。  そういう状況でありますので、そこで日本が実際に本格的に警戒して何をしなきゃいけないと、中国を封じ込めなきゃいけないという状況なのかというと、私はもう少し冷静に見た方がいいと思います。  その一方で、いわゆる日本がこれまで弱腰で、弱い姿勢であったからこそ中国が増長したというような議論が日本民間にはかなりありますけれども、じゃ本当に中国を日本が少し態度を変えたことで封じ込められるかというと、私はそれはちょっと、それはまた逆にその現実性がないんじゃないかなと思います。  これは現代の社会で出していい例かどうか分かりませんけれども、一九六〇年代、七〇年代は中国とソ連との関係が非常に悪化したところで、これはたくさんの論文も出ていますけれども、実際に核戦争のぎりぎり手前まで行ったという状況がありました。そのときは、中国もソ連が核ミサイルを落とすという選択を知っていたとも言われていますね。そういう中でもソ連との対決姿勢は一向に崩さなかったというのがあります。そういう過去の例もありますので、力で、じゃそれを、隣にある国を、例えば北朝鮮も含めて本当に日本が思うような外交を力で実現するということが現実的なことなのかというと、私はそうは思わないですね。  だから、そういう意味でいうと、やはり少し、いわゆる日本が現実的な道として中国とどういうふうに付き合っていくのかというのは、少し今の姿勢からは変えて考えていかなきゃいけないなと思います。  私は、最初に述べた中国報道の部分にも関連しますけれども、森に行ってその森の恵みを何か取ってこようと思えば、そこにはスズメバチもムカデもおるわけですね。しかし、スズメバチ、ムカデばっかりおるということばっかりを強調しても、それは正確なことではないと思いますね。しかも、それが分かっているならば、それなりの対策を取ればいいということではないかなというふうに思います。  今、少し私心配しているのは、中国の宣伝戦に日本が逆に乗っけられてしまうんじゃないかなということがありますね。というのは、これは昨年秋に訪中しましたパネッタさんと習近平さんの会話の中で始まったことですけれども、日本世界反ファシズム戦争勝利の成果を否定しという言い方をしているわけですね。つまり、これは言い直すと、ファシストが復活していますよ、日本で、ということを言ったわけですね。  これは、今年に入って習近平さんがロシアに訪問した後ある大学で講演したときにも引き継がれた価値観で、つまり中国はもう宣伝戦に入っているということですね。まあ宣伝戦略に入っているということですね。この宣伝戦略というのは、日本を、あの国はまた再びちょっと怪しい動きをしていますよということに押し込めていこうということですね。だから、ある意味、これは私は現代の田中上奏文ではないかなというふうに見ております。  だから、そのときに日本が、日本の社会を見てくれ、どこに軍国主義者がいますか、どこにファシストがいますかと、これはもう当然ほとんどの日本人が共有できる感覚じゃないかなと思います。  しかし、中国にとってそれが本当であろうとなかろうと余り関係ないということですね。これは、世界がそのキーワードを利用して日本を封じ込められればいいということなので、取りあえず世界に向かって一つ宣伝力のあるキーワードを投げてきたということですね。そういう中で日本がどういう動きをするかによって、中国は、ほら見てください、中国の言ったとおりでしょう、日本の今の現状を見てくださいということになっていくんじゃないかなと思います。  だから、ちょっと最後、時間がちょっと押してきましたけれども、最後一つ私も申し上げたいのは、そういうざっくりした大まかな対中戦略ということではなくて、より具体的にどこをどう穴を埋めていこうと、それは将来心配されることは何かということを具体的に埋めていくという方向に考え方を変えた方がいいんじゃないかなと思います。  例えば、これは本当に数え上げれば切りがないのですけれども、例えば、尖閣諸島の次に来る問題は何ですかと聞かれて答えられる方というのは何人いらっしゃるのかなと思いますね。例えば、長崎の周辺にある小さな島がいっぱいありますけれども、次そこ来ませんかと。中国の周辺の海はもうほとんど魚が捕れない状態になっていますので、漁師はこれはもう大量に日本に向かってくるというのは、これはもう見えているわけですね。だから、そこに蓋をしていますかということですよね。  あとは、今、中国経済ちょっとがたがたになってきている中で、ある意味日本市場を荒らすような、いわゆる過剰生産になった製品なんかがどっと日本に流れ込んでくるかもしれないとか、そういった様々な問題が考えられる。  だから、日本としていわゆる大きな対中戦略というのをがらりと変えるということじゃなくて、個別の問題に対処していくということが重要なんじゃないかなというのが私の考え方です。  どうもありがとうございました。
  177. 石井一

    委員長石井一君) ありがとうございました。  以上で公述人の御意見の陳述は終わりました。時間厳守で、四十五分ちょうどであります。  三者三様の特色がある御意見の陳述に感謝をし、それでは、これより公述人に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  178. 田中直紀

    ○田中直紀君 民主党の田中直紀でございます。  今日は公述人皆さん方、どうもありがとうございます。よろしくお願い申し上げます。  孫崎公述人からはTPP、そして尖閣、集団的自衛権のお話がございました。また、宮家公述人からは東アジアの情勢、中近東の情勢ということで、大変ありがとうございます。富坂公述人からは中国の情勢ということで、大変参考になりました。ありがとうございました。  総論といたしまして、アメリカはオバマ大統領が二期目に入りましたし、習近平中国の体制に替わったということでありますし、朴大統領、韓国、我が国は安倍首相が五年ぶりに再登板と、こういう首脳陣が替わったところでございまして、その中で、やはり我が国の政策一つの大きなものは米国と。これは総論でありますから御感想で結構でありますが、米国はここ数年、やはり政治、経済、軍事の面で、中国に対してそういう面では苦心をしながら対応を進めてきておるんだと思っております。  そういう中で、三公述人に、ワンポイントぐらいで結構でありますが、米中関係の押さえどころといいますか、今何を目指して、日本としてそれを考慮にしていかなければいけないかと、そんなことをちょっと公述人皆さん方一人一人にまずお聞きしたいと思います。
  179. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 二点御説明させていただきたいと思います。  まず第一点、米国は一九七五年からずっと東アジアでは日本を一番大事だと思ってきました。しかし、二〇一〇年ぐらいから、指導者層及び国民両方とも中国を一番重要であると、このような意識の変化があるということが一つであります。  それからもう一つアメリカ政策決定の中では、いわゆる軍事派、中国を脅威と見てこれにどう対応しようかとするグループ、そして、その中で日本の軍事力を使おうとするグループ、これが一つ。それからもう一つ、G2構想を主張していますけれども、世界が米中という二つで決定していくという方向になるんではないか。これは金融、それから産業グループだと思います。この二つのせめぎ合いがあって、アメリカの対中政策は厳しい路線と柔らかい路線が入り乱れてくると。  しかし、最終的に、現状でオバマ政権が、オバマ大統領がどちらを取るかといいますと、私は軍事対決ではなくて中国との関係を持つということだと思います。その意味で、安倍首相が今いろんな強硬路線を出している、それに対してアメリカ政府が待ったを掛けている、これはアメリカ・オバマ政権の対中配慮が影響しているものだと思っています。
  180. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) ありがとうございます。  アメリカと中国の関係というのは、一言で言うのは非常に難しいですが、ある意味では愛憎相半ばする関係なんじゃないでしょうか。一方で相互依存が進んでおりますから、お互いに別れるわけにはいかない、協力しなきゃいけない、それは当然だと思います。  しかし、これはアメリカの軍人だけではなくて、それから安全保障の専門家だけではなくて、最近ではビジネスの世界でも、中国のやり方はやっぱりおかしいんじゃないか、違うんじゃないかということを本気で言う人たちが増えています。私も、先ほども申し上げたように、五年前であればG2論とか、今おっしゃられた、そういうものがあったかもしれないと思います。しかし、今私は、G2論なんていうことを言うアメリカ人、聞いたことありません。それはないですね。もうその時代は過ぎていると思います。  ただ、アメリカが中国に対してやろうとしているのは封じ込めではありません。あんなでかい国を封じ込められるはずがないのです。アメリカは、先ほども申し上げたように、西太平洋における現状を維持する勢力として中国がこの地域の国際社会の責任ある一員として参加してもらいたい、しかし、それに対して現状を変えようとするんであれば、それは話が違いますよと。こういう非常に微妙な、複雑な、アンビバレントといった言葉を使っていいかどうか分かりませんが、そういう関係だと思います。
  181. 富坂聰

    公述人富坂聰君) 宮家公述人とも重なるかもしれませんけれども、今後の米中関係を決定付けるのは、これは中国が国際社会のルールに適合できるかどうかということに懸かっていると思いますね。  その中で、中国が国際社会のルールに適合できるかどうかということを決定する要因というのは、中国の膨大な人口の大半を占めているいわゆる民意の部分だと思います。ここの、私は上半身と下半身と呼んでいますけれども、上半身の部分は非常に国際社会のルールもよく分かって適合する能力も高いですけれども、そうでない人をたくさん抱えていると。あとは、例えば中国の中でどうしてもそういう膨大な人口を食べさせていかなきゃいけないというところで無理をしなきゃいけない部分があると。そこの部分をやっぱりケアしていかなきゃいけない分だけ約束を守れなかったりとか、そういうことの姿が中国を見せていくと思います。  そういう意味で、中国は中国のルールを作っていくかもしれないという圧力は、国際社会はあると思います。それを代表して受け止めるのが多分アメリカではないかと。私は、そういう中で中国が国内問題をきちんと制御できるかどうかということに懸かっているというふうに見ています。
  182. 田中直紀

    ○田中直紀君 どうもありがとうございました。  各論に入りますが、孫崎公述人にお伺いします。  TPPのお話がございました。もうこれは参加国のルール作りということでしょうから、アメリカ型のルールが日本で受け入れられるかという最大の問題が交渉の中であると思います。ISD条項、いろいろなところで訴訟が起こっていますし、昨年は六十二件あったと、こういうことでありますから、そういう中に我が国の皆保険の医療問題、そしてまた逆に、農産物は下がりますが薬品はアメリカはもっと上げてくれと、そんなに安売りするなと、こういうことを言っておりますから、上がったり下がったり、ルールは変更になるわけであります。  そういう中で我が国のこの制度が耐え得るかどうかと、本当にその交渉は、ISD条項は大変な問題になるんだと思いますが、今、外交でもやっておられたんですが、外交力としてこれを処理できる状況にあるかどうかというのをちょっとお聞かせいただきたいと思います。
  183. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) ないと思います。これは極めて明確であって、これまで合意されている事項について新たに交渉することはないという原則は成立しております。そして、TPPはもはや最終段階に入り、七月の会議、九月の会議、ここで基本的な合意をするということですから、今まで合意されたことを覆すということはありませんし、したがって、新たにISD条項というような基本原則について日本が変えられるはずがありません。  このような問題について、あたかも日本が交渉力で変えられるというようなイメージをつくっているというのは極めて危険なことだと思っております。
  184. 田中直紀

    ○田中直紀君 次に、尖閣問題に触れられております。  七二年の国交正常化の尖閣問題の棚上げ、これに準じたらどうかという御提案。今の政権ではその問題については、棚上げ論については触れられておりませんが、個人的にはそこまで戻してもらった方が私は妥当ではないかという思いもありますが、民主党としてはそれぞれ議論があるところでございます。公明党が、これは党内議論程度が報道されたんだと思いますが、棚上げ論が一時報道されました。  そういう中にあって、安倍政権は、棚上げ論は存在しないんだと、領土問題は存在しないと言う以上棚上げ論は存在をしていないと、こういうスタンスであります。日中関係、大変尖閣問題が双方感情的になっている状況もあろうかと思いますが、首脳会談を、これ内閣でありますから、何とか手だてを考えてするべきだと思います。  どうなんでしょうか、この国と国との関係はどういうふうに進展したらよいのでしょうか。
  185. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 私は、一九七二年の田中角栄あるいは一九七八年の園田外務大臣、この人たちがなぜ棚上げに合意したか、この点についてもう少し現在の日本人は考えてみるべきであろうかと思っております。それは利点があるから。その利点は紛争をしない、これが一番重要なことだと思っております。  その意味で、棚上げをもう一度真剣に日本国民そして国会の先生方、御検討をいただければ有り難いと思いますし、この問題で非常に重要なポイントは、棚上げの合意があったにもかかわらず、その当時の関係者があったと言っているにもかかわらず、現在の政府はないと言っている、歴史を改ざんして行動しようとしている、これは非常に危険なことだと思っています。
  186. 田中直紀

    ○田中直紀君 集団的自衛権についてお伺いをいたします。  今日たまたまアンケートが載っておりますが、集団的自衛権の行使につきましては、自衛隊が一緒に戦ってよいというのは全体の二三%にとどまっていると、集団的自衛権を行使できるようにすることは避けている、米国と一緒に戦うべきではないというのが六六%になっていると、こういう、国民の感情はそのような状況であります。  そんな中で、当然、安倍政権は集団的自衛権の行使を検討するということでありますし、日米軍事協力を詰めようという姿勢を打ち出しているわけでありますが、これはマイナスもプラスもあるという議論が非常に多いわけでありますけれども、東アジアの平和と安定にはどんな影響があると思われますか。孫崎公述人、お願いします。
  187. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) まず重要なことは、日本の領域に対して外国が攻撃をしたときには、日本及びアメリカは各々自国の憲法に従って行動を取るということが日米安保条約で決定されております。したがって、集団的自衛権というのは、イラク戦争あるいはアフガニスタン戦争、このような問題に日本の自衛隊を派兵すると、このような問題であると思います。  もう一つ、東アジアの状況に関しては、例えば北朝鮮のテポドン、これを準備している段階で先制攻撃をすると、このような考え方に結び付き、ノドンで日本が反撃される可能性がありますから、この集団的自衛権を東アジアで適用していこうとすることは日本の安全にとって極めて危険な状況をつくり出すと思っております。
  188. 田中直紀

    ○田中直紀君 どうもありがとうございました。  宮家公述人にお伺いをいたします。  御主張された中で、海洋問題にもこの東アジアの現状の中で述べられております。今の状況からいいまして、日本は中国とのこの不測な危険を海上で回避をするために海上連絡メカニズムを締結をしていこうと、こういうことで進めてきておるわけでありますが、なかなかその交渉も進んでおらないという状況でありますが、この海洋の安定ということにつきましてもう少し御説明をいただくと有り難いと思いますが、いかがでしょうか。
  189. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 東アジア地域における海洋の問題というのは、東シナ海の尖閣にとどまらない、より広範な問題であります。特に南シナ海での島嶼をめぐる問題については、向こうの方が長い衝突の歴史がございます。二〇〇八年に中国が初めて尖閣の水域に公船を入れた。そして、その後、二〇一〇年、二〇一二年と、これ民主党の時代でありますけれども、ああいうことが起きたということですね、一つは。これは、恐らく中国側の戦略というものが変わったんだろうと私は思っています、そうでないことを祈りますが、私が間違っていることを祈りますけれども。  一九七〇年代の棚上げについて、それがあったかないか。それがなかったとおっしゃったのはたしか民主党の政権だったと思いますが。ですから、その意味で民主党も自民党もコンセンサスがあると私は思っています。  しかし、この問題をもちろん放置することはできません。二〇〇八年以降何が起きたかといえば、中国が海洋の戦略について、それまで南シナ海で適用していた戦略をついに二〇〇八年以降は東シナ海においても適用を始めたというふうに考えるべきであり、その意味では、尖閣の問題というのは単に日中間だけの問題ではなくて、南シナ海の東南アジアの国々とも共通の懸念なり共通の問題意識を持つ大きな問題だと思っています。そのコンテクストの中で、その意味の中で、今おっしゃいました日中間の海上での衝突を防止するいろいろなメカニズムの議論、これを考えていくべきだと思います。  南シナ海では既に、コード・オブ・コンダクトといいまして、拘束力のある行動規範、これを作ろうとしております。そういった動きと連携をするかどうかは別としまして、日中間の話合いというものもそういうものを念頭に置きながら行われるべきだと思っています。
  190. 田中直紀

    ○田中直紀君 宮家公述人にもう一問、中東湾岸地域の現状についてお話をいただきました。  我が国はパレスチナを認める立場で臨んでおるわけでありますし、亡くなられましたアラファト議長にも私はお会いしたことがございます。日本に何しに来られるんですかと言ったら、日本の技術をもってガザだとかほかの領土を結んでくださいよというような、そんな大変夢のある話をされておりましたが、この精神を生かしつつ中東が安定していくことが望まれるわけでありますけれども、やはり日本が中東に果たすべき役割というのは多くのものがあるんだと思います。  この際、どのようなことをやっていくことが大事か、宮家公述人にお伺いをいたしたいと思います。
  191. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) それは大変厳しい御質問で、私は外務省では一体何をしたかという御質問と同じでございまして、非常にじくじたる思いがございますが、やはり問題は二つ、パレスチナ問題とそれから湾岸地域でございます。  パレスチナ問題については、簡単に申し上げれば、アラファトさんとお会いになったというのは大変良かったと思います。私も一度だけお会いしたことがあります。あの時代に手を打てなかったことが悔やまれてなりません。残念ながら、今の状況はパレスチナ側自体が分裂をしてしまっておりまして、交渉相手がなかなか出てこないという状況でございます。これが非常に残念であります。  それから、もう一つ大事なことは、やはりイランの問題でございます。イランがいい悪いというよりも、中東地域において核兵器が拡散していく可能性があるということ、これは中東地域にエネルギーを依存する私どもとしても、それから東アジアの諸国全体としても極めて大きな問題だと思っています。  その二つをどうしても、日本はいろいろな役割を果たしたかったんですが、なかなかそこまで私自身はできませんでした。申し訳ありませんでした。
  192. 田中直紀

    ○田中直紀君 富坂公述人、ちょっと質問が少なくなりましたが、ジャーナリストの皆さん方の御努力というのは我が国にとっても大変大事なものだと思います。中国そしてまた韓国を始め諸外国のニュースについて、皆さん方の御努力のことをちょっとお伺いして、時間がありませんので終わらせていただきますが、よろしくお願いいたします。
  193. 富坂聰

    公述人富坂聰君) ありがとうございます。  我々も本当に、いろんな意味で正確な情報を伝えたいというふうな気持ちは持っておると思うんですけれども、ただ、報道においてはやっぱり普通であるということを伝えるのがちょっと難しいもので、例えば、最初のところで触れられませんでしたけど、反日デモというのも、昨秋の反日デモみたいな分かりやすい場所でやっていればいいんですけれども、それまでのデモというのは、私はほとんどのデモを現場で見ているんですけど、まず現場に行って困るのは、そのデモが発生するのを見付けるのが難しいと。ですから、もう二十万円ぐらいの取材費を使って行って空振りに終わる機器をいつも背負ってやっておったわけですね。  そういう意味でいうと、やっぱり北京市でデモが起きたといっても、どこで起きるかというのをつかまえるというのがまず最初に難しいということがありましたので、そういうことがあるということを御理解いただきたいと思います。
  194. 田中直紀

    ○田中直紀君 どうもありがとうございました。終わります。
  195. 宇都隆史

    ○宇都隆史君 自由民主党の宇都隆史であります。  三人の公述人の先生方、本当に貴重な時間をありがとうございました。しかしながら、与えられている時間も私少ないものですから、質疑応答あるいは意見交換、宮家公述人中心にやらせていただきますことをどうぞお許しください。  宮家公述人の中で、五年間の大きな変化があったんだという話が前提にありました。私は、安全保障、外交というのは、ともすると今ちょっと感情論がそこに含まれがちで良くない傾向にあるなと思っていまして、やっぱり極めて現状を正しく、リアリズムを追求して認識した上で議論をしなきゃいけないなというふうに思っております。  宮家公述人からは、五年間の大きな変化、幾つか指摘をいただいたんですけれども、それ以外にも私幾つかこれに補足をしてちょっとお話をして、御意見を求めたいと思うんですが、一つは、やっぱり経済の面での大きなバランスの変化、特に、米国と中国の相対的な変化が軍事力あるいは政治力に及ぼしていることは非常に大きいんだと思います。  それから、北朝鮮の核開発それから長距離ミサイルの技術力の成功というのが思いのほか早かったんではないかなと。これによって、我が国は、孫崎公述人が先ほど公述の中で述べられましたように、短距離ミサイルの影響下にはもう入っているわけですけれども、これまで影響下に入らなかったような国々、例を挙げれば米国等も北朝鮮の軍事力の影響下に入ってこざるを得なくなる、そういう状況変化はあったんだろうと思います。  また、各国が今ナショナリズムが非常に強くなり過ぎていると。この愛国主義のペトリオットイズムの方ではなくてという話がありましたけれども、その背景にあるのは、一つは二〇一二年に起こった全世界の指導者交代。それによって、指導者がやはり国内の世論をしっかりまとめ上げなければならなくて、国内に対して強気の外交姿勢を示さなければならないという背景もあったやに思います。  そして、もう一つ、我が国の国内事情としてこの五年間で大きく考えるべきは、三・一一の東日本大震災。これは武力紛争とかそういうものではなかったですけれども、自衛隊という実力組織を使うという意味では史上空前の規模で、延べ人数十万人をもってして、政治はもう全てそれに掛かりっ切りになってしまって、ほかの外交はもう本当に手薄になってしまった。それから得るべき教訓というのもあるのではないかと思いますが、まずこの環境の変化について、私の認識、どうお考えでしょうか。
  196. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 全くおっしゃるとおりだと思います。  第一点目の経済のバランスの変化、これを一番過信しているのはもしかしたら中国かもしれないですね。二〇〇〇年に私が北京にいたときには、アメリカに対してあんな強気ではなかったと思います。もっとよく冷静な対応だったと思いますが、もちろん一部の軍人だけではなくて、アメリカに対する、もうアメリカは何するものぞ、アメリカから学ぶものはない、アメリカはもうこれからディクラインなんだ、低下していく、力は弱くなっていくんだと、こういう意識が芽生えているのは非常に危険なことだと私は思います。  それから、北の核開発が早かった。確かにそうかもしれません。しかし、一九九四年からやっていますので、彼らなりに頑張っているんだろうと思います。困ったことだと思います。  ナショナリズム、確かに二〇一二年の交代、どの程度影響があったのかは分かりませんが、全てナショナリズムの問題は国内の問題が主でございます。これは中国も韓国も、場合によっては日本もそうかもしれませんが、皆同じ問題を抱えていると思います。  それから、三・一一の自衛隊、これはやはり自衛隊の役割というものを、日本国内だけではなくて、一部の国は別としまして、東南アジアの国々等は正確に、そして冷静に評価をしていると私は思います。
  197. 宇都隆史

    ○宇都隆史君 ありがとうございます。  この五年間のその変化を今共有をできたと思っているんですけれども、そこから抽出される一つのキーワードは、五年前とは明らかに我が国を取り巻く外交、安全保障の環境は変わっていて、その変化に見合った我が国の努力がやはり求められている時代になってきているんではないかと思っています。  孫崎公述人は公述の中で、TPPを少し除きまして、例えば尖閣の問題で、中国との紛争を回避するために棚上げ論が望ましいんではないかというお話、あるいは実際に尖閣で武力衝突になれば制空権は確保できないからあくまでその選択はすべきではないんではないかというお話、あるいは集団的自衛権の話、あるいはミサイル防衛の話、どれもこれも、ある意味真実をついているところはあると思うんですけれども、ある意味、それは五年前、中国との対立、衝突、これが比較的まだまだ先のことであろうという予測に基づいた時点での対応でしか私はないような気がするんです。  今これだけ顕在化した中で、じゃ、我として何もしなくていいのか。例えば、二百発、三百発、ノドンに今頭の上から脅威にさらされる状況の中で、我としてはなすすべを全く考えないのか。あるいは、制空権が取れないからといって、じゃ、毎年毎年四兆七千億掛ける一体自衛隊の予算は何のための予算なのか。そういうことを真剣に議論していく時期にやはり今来ているんだろうと思います。  その中で、宮家公述人から、まさにこの第三で、二〇二〇年までに、この二〇年というのはある意味ざっくりとした区切りだとは思うんですけれども、二〇二〇年までに日本がすべきことということで六つの具体的な提示をいただきました。その中の幾つかを抽出して議論させていただきたいと思います。  まず一つ目は、外交・安全保障政策、これを実際に企画立案する組織が必要だと。NSCの話にも言及されましたけれども、私はまさにそうだと思っています。  今、我が国の安全保障の戦略、一番上に掲げられる戦略といったら防衛計画の大綱ぐらいでしょうか。でも、実際にはそれは国家戦略ではなくて、あくまで防衛省が今の法律の中にのっとって防衛省としてできる範疇だけを書き込んでいるにすぎない戦略なわけですよね。国を守るために、例えば経済戦略であったり金融、あるいは食料の話、エネルギーの話、様々なものが戦略として大本にあって、その基に受けた防衛戦略ではないような気がします。こういう国家戦略というのはやはりつくっていくべきである。  その中で、一つ私が、大きく今の時期に考え直さなければいけないのは、いつまで我が国は本当に盾としての、あるいは専守防衛、つまり相手に脅威を与えるような空母、戦術兵器、ミサイル等を持たないという国の防衛のスタンスといいますか基本指針といいますか、これを保っていきながら、かつそれで国の存続というのを担保できるのかなと、非常に元自衛官としては疑問に思うところなんです。  この件に関して御意見をお願いします。
  198. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) ありがとうございます。  多岐にわたる御指摘で、どこから始めていいか分からないんですが、最後部分から参ります。  日本が戦後、新しい国に生まれ変わったという意気込みで軍事力の行使それから軍事力の保持について非常に自制をしてきたこと、これは事実だと思います。そして、それは多くの国々によって理解され、評価されてきたと思っています。その資産というものは我々は失ってはいけないと思います。  しかしながら、そのような自制なりそのような意味での平和主義というものが正確に理解されない人たちもいるということが、実際にミサイル撃つ人もいるし、いるということもこれまた現実である、これが恐らくこの五年間で一番大きな違いなんじゃないでしょうか。  つまり、我々が善意で、そして自制をして、その善意というものは周りの国はみんな善意で返してくれるという前提であれば、それはそれでいいと思いますけれども、実はそうじゃないんだということがさすがの日本人も分かってきたんではないでしょうか。それが私は二〇〇八年から今の一番大きな違いであり、そのことを考えれば、今まで重ねてきた資産というものを維持しながらも、しかし理解してくれない人はこれは仕方がないんですけれども、理解してくださる方がほかにもおりますので、その国々には理解を求めながらも、少しずつでもいろいろな役割を果たしていくべきだと私は思います。
  199. 宇都隆史

    ○宇都隆史君 まさに今、宮家公述人からおっしゃったように、我が国は国連が憲章で述べている世界平和の理念にのっとった国の関係を築こうとしているわけですよね。孫崎公述人からもありました国連憲章第二条の四、全ての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、国際連合の目的と両立しないほかのいかなる方法によるものも慎まなければならない。このことを慎まない国が近くにある、その上で我々は独立を保っていかなければならない、そういうことを真剣に考えなければならないんだと思います。  そして、三点目に宮家公述人が、この不足する東アジアでの抑止力、これを補完するために海上警察力、防衛力の整備が必要だというお話がありました。私は、これは特に法的な整備がとても必要だと思っています。船の量とかそれだけではなくて、何を言わんかとするかというと、現在尖閣で起こっていること、これは我が国の主権にかかわるようなことに対して我が国の本来警察作用である海上保安庁が作用、仕事をしているわけですよね。平時において、主権、独立にかかわるところは軍隊がその防衛作用として、国家として仕事をするというのがこれは国際常識だと思うんですが、そこの、俗に言われる、マイナー自衛権などと言われる言い方もしますけれども、平時における国家の独立あるいは主権確保のための自衛権の作用、これはどうあるべきだとお考えですか。    〔委員長退席、理事小川敏夫君着席〕
  200. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) これは大変難しい問題だと思います。一般論としてはおっしゃるとおりだと思うんですが、やはり私の見るところ、今尖閣をめぐるゲームというのは、もう一つ次元が違っていて、これは不思議なことですけれども、お互いに、誰が挑発する側で誰が挑発しないかを競うゲームだと思っています。もっと分かりやすく、これはいい表現かどうかは別ですけれども、分かりやすく申し上げれば、誰がナイフを抜いたのか、どっちが先に手を出したのか、これを国際社会が見ていて、そしてそこをある意味で支持、不支持の切り口にする可能性があるということでございます。  ですから、日本は一般論として自衛権それから抑止力としての自衛力はもちろん必要なんですが、このゲームについては中国が軍事力を使う、これは挑発であります。それに対して日本が自衛力で対応する、これは自衛権の行使であります。しかし、お互いにそこまで行っていないんですね。お互いに軍事力ではない、パラミリタリーではありますけれども、海上保安庁とそれから漁政にしろ海監にせよ、非軍事力、パラミリタリー同士のある意味でゲームですから、そこのところはどっちか、まず先にミリタリーの若しくはナイフを抜いた方が実は負けという非常に複雑なゲームでございます。そのことをよく理解しながら緊張緩和に向けて進んでいかないと、簡単に軍事力の問題を議論するというのは、実は南シナ海でもそうですけれども、東シナ海においても非常に危険なことだと思います。
  201. 宇都隆史

    ○宇都隆史君 今の御意見に強く賛同いたします。  恐らくこれはバイの、一対一の土俵に上がってしまっては非常に危険なゲームだと思うんです。第三者がどういうふうにこれを判断するか、国際社会はどういうふうに見るか、そのことをよく見ながらお互いにカードを切っていくゲームだとは思うんですね。ですから、短絡的な答えはやっぱり求めちゃいけない。これはもう長期化することを覚悟の上で、ただ、そのときに切れるカードの数が少ないとやっぱり勝てないわけですね。ですから、我として頭の体操をしっかりした上で、今我にできないこと、そこをできるように備えておこうということでの法整備というのはやはりしていくべきなんではないか。それを切るかどうかというのは、やはり時の環境であったり政府の覚悟であったり、あるいは国民世論ももちろんこれは関係してくるんだと思います。そのことをちょっと申し上げさせていただきました。  その上で、偏狭な民族主義ではなく健全な愛国主義を、これは非常に納得のいく話なんですけれども、じゃ、具体的にそれをどうやって構築していくかというと、なかなか難しい問題ですよね。  私はこういうふうに実は思っているんです。戦前の、大東亜戦争に突入したときのやっぱり環境というのは、非常にナショナリズムが高揚し過ぎて、その背景にあったのはやっぱり政治の腐敗、それから非常に弱腰外交と言われた、国民から見ると相手に対して譲歩するような外交姿勢、経済の疲弊も相まって、国民の中に非常にうっくつとした思いが高まっていった。その国民の中にうっくつした思いを高まらせないことというのも一つの大切なことだと思うんです。  そういう意味では、我が国は、先ほど申し上げましたとおり、第三者の目をしっかりと意識をしながら、国際ルールとそれから法律にのっとった適切な政治衝突、政治対立と言ってもいいと思うんですけど、これは避けるべきではないと、私はこのように感じているんですけど、宮家公述人、いかがでしょう。
  202. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) おっしゃるとおりでございます。  先ほどの尖閣の例で申し上げれば、なぜ我々がいろいろな準備をしなきゃいけないかというと、それは中国と戦うため若しくは衝突するためではないのです。本当の目的は、中国がやってきたことが、これが、南シナ海でやってきたことが、そして東シナ海でやっていることがいかに国際法上おかしなことか、そして理不尽なことか、それを理解してもらうためであります。  同様に、日本のいわゆるペイトリオティズム若しくは国を愛する気持ち、これはもうみんなあると思いますが、決して国際的に説明できないものであってはいけないと思うんですね、国際的に説明できるものであるはずです。それを説明できるルールというのは、まさにおっしゃったように、国際法のルール、そして法の支配、そのようなものに基づいたやり方だと思います。それがある国とない国、これを国際社会は見ているんだと思います。
  203. 宇都隆史

    ○宇都隆史君 もう一点、御意見をお伺いしたいんですけれども。  国際社会に我々がやっている正当性というのをやはり訴えかけていくといったときに、より我々とその価値観を共有できる国とはよりタイトな関係を築いておきたいと思うものだとは思うんです。その中で、同盟の在り方ということに関して、個人的な意見で結構です。  私は今、日米を協同しつつ国家を前に進めているのは、これはもう選択肢がないわけですから仕方がないと思うんですけれども、やはり一対一のバイの同盟関係というのはいろんな方面に作用してしまい過ぎますから、TPPもその一環かもしれません、非常に危険なことだと思っているんですけど。その中で、例えば豪州、オーストラリアですね、あるいはインド、こういう国々とも、同盟のレベルはさておき、ほかの国々よりもより強固な、これは軍事的ではないです、政治的ないろんな経済連携も含めて近しい関係を築き上げていく、国々を拠点拠点に置いていく、これは外交戦略上非常に必要だと思いますが、いかがでしょう。
  204. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 先ほどの公述人のお話では、集団的自衛権の問題を先制攻撃との関係で御説明されました。それはそれで結構だと思いますが、集団的自衛権の問題というのは、基本的に同盟の双務性といいますか、自分たちがやられたら助けてくれる、向こうがやられたら今度は助けに行く、これは当たり前の、同盟の基本中の基本ですね。その部分が実は問われているんだと思います。  その意味で、今いろいろな議論が日本国内で行われておりますし、これはもうずっと何十年も行われていることでありますから、もしこれに結論が出るのであれば、そしてそれがある意味で一般国民に理解されるのであれば、方向性としてはですよ、個人的に、また、すぐ今やるということではありませんが、基本的には安全保障条約というのは、そもそも今のものでも相互安全保障なわけでありますから、相互性というものと、それから多国間という方向に行くのが本来であれば普通だと思います。  ただ、日本については、いろいろな理由があってそこを憲法上の解釈をしてきましたから、別の、そこの部分は今まではそうではなかったと思いますが、もし解釈が変わることがあって、そしてそれが国民に理解されるのであれば、大きな方向としては多国間化そして双務化、これが正しい方向だと思います。
  205. 宇都隆史

    ○宇都隆史君 ありがとうございました。  最後に一点だけ、富坂公述人、お願いいたします。  公述人のお話の中で、中国の宣伝戦に我々乗っけられているんではないかというお話がありました。私は、日本のメディア、これ非常に乗っけられている気がしてならないんですね。ですから、是非、メディア御出身といいますか、今評論家としても御活躍の富坂公述人から、民間ロビーという観点で、我々日本メディアはこの日本政府を裾野から支えるためにどういう宣伝戦を考えておくべきか、この話を一言でお願いいたします。
  206. 富坂聰

    公述人富坂聰君) 一言でってなかなか難しいんですけれども、ただ、やっぱりメディアというのが、どうしてもボリュームゾーンの代弁者になりがちだということがありますね。だから、そういう意味で、どうしても非常に大衆受けがいい切り口に偏ってしまうというところがありますので、だから、そこのところではこれは実は中国も最近は全く同じ体質を抱えていて、党の宣伝部ががっちりコントロールしているというのはすごく間違いで、そういうことはなくなってきているわけですね。  だから、そういうことでいうと、本当に、むき出しの民意と民意がぶつかるようなことを後押ししてしまう役割を今後のメディアが果たしかねないなというのがありますので、そういう意味では、むしろ政治が冷静に外交をやるために民意のヒートアップというのを抑えていくような報道はやっぱり必要かなというふうに考えます。
  207. 宇都隆史

    ○宇都隆史君 終わります。
  208. 谷合正明

    ○谷合正明君 公明党の谷合です。  お三人の公述人の皆様、大変今日はありがとうございます。  まず初めに、宮家公述人にお伺いいたします。  今日の最初の冒頭の発言では触れられていなかったんですが、事前にいただいた資料の中に、「正論」の今年の二月号に宮家公述人が日中関係のことを含めたいろいろ論文を書かれております。なるほどなと読ませていただきました。特に最後のくだりで、こちらから紹介しますと、日中、日韓関係が良好であれば、有事の際に日米同盟はより効果的に運用できる、逆に中国や韓国との間に不必要な摩擦が生ずれば、米国の対日信頼感は薄れ、日米関係がいざというときに機能しなくなる、こうした事態を回避する現実主義的アプローチも忘れてはならないと。至極当然だなと私も理解したところでございます。  この場でございますので、この意味するところを改めて御説明していただくとともに、今日までの民主党政権、そして政権交代して自公の、安倍総理の下で外交が行われているわけでありますが、今日その意味で事態は改善の方に向かいつつあるのかどうか、この辺の認識をまずお伺いしたいと思っております。
  209. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) ありがとうございます。  特に私が力を入れて書いたパラグラフを読んでいただいてありがとうございます。正直な話、昨日韓国に行って、今もう一度私が自分で書いたことを聞かされると、まさに正しいことを言ったなと思いました。  今の状況というのは、やはり日本というものに対する注目が非常に強まっている時期である、これは事実だと思います。そして、ある意味で韓国、そして余り言いたくはないんですが中国、どちらも内政上の理由若しくは様々な理由から、ある意味日本を、悪者と言っては失礼、ディーモナイズといいますか、悪者に仕立てることも含めていろいろな宣伝戦をやっているように思いますが、その部分で今、日本は必ずしも十分、今までもそうですけれども、十分その日本の立場というものを説明し切れていない、そういう感じを今回ソウルに行って強く感じてまいりました。  非常に興味深かったのは、そのようないろいろな日本に対する批判に対して、実は一番ニュートラルに、しかし一番客観的に物を見ているのは、やはりアメリカそしてヨーロッパだったということをつくづく思いました。  したがいまして、やはり日本がこれから生きていく道というのは、もちろん中国と韓国と仲よくすることを前提に置いてですけれども、欧米諸国との関係ももう一回更に良くする努力を怠ってはいけないなということをつくづく思いました。
  210. 谷合正明

    ○谷合正明君 そこで、民主党政権が政権交代して、今日五か月政権交代たっているわけでありますが、この五か月間に対する評価というものはどのようなものでしょうか。
  211. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) この五か月間の、私は安倍政権の一員ではありませんので評価をしようがないんですが、もし独立した一コメンテーターとして申し上げるとしたら、ある意味で、中国との関係でいえば、二〇一〇年、二〇一二年の負の遺産、これを受け継いでいかざるを得なかったわけですね。それから、韓国との関係でも、これは日本側というよりも韓国側ですけれども、大統領の上陸ということがあって、その負の遺産をある意味で引き継いでいかざるを得なかった、これは客観的な事実だと思います。  その中で、過去五か月間の中でどうかといえば、率直に申し上げれば、選挙期間中については自民党の立場について一部懸念を持った人がアメリカにもいました。ところが、それが、政権が実際に始まって数か月たって、あっ、どうもちょっと違うなと、いいんじゃないかというところまで来ていました。そこでまたいろいろな報道があったために、今また、あれっというところでみんな首をかしげている状況というのが本当に本音だと思います。  ですから、まだ評価を出すには早いとは思いますけれども、やはり中国とも韓国とも不必要な摩擦を避けて、そして話合いをする努力を続けながら、欧米諸国での日本見方というものも十分配慮をしていかなきゃいけない。これが私、今、日本にとって必要なことだと思っています。
  212. 谷合正明

    ○谷合正明君 どうもありがとうございます。  日中関係について引き続き伺います。三人の公述人の皆様にそれぞれ伺いたいと思います。  尖閣諸島をめぐる問題で、特にこの日中関係が緊張した状態というのが続いております。一方で、両国の首脳がしっかりと意思疎通できる状況になっていくということも重要でございます。日中首脳会談ということで先ほどもお話がございましたが、しかしこの置かれている状況は、例えば日中韓首脳会議、サミットで日中の首脳が顔を合わせるという機会が、これが開催されないという見通しになっているし、また、政党外交ですね、例えば日中友好議連がこのゴールデンウイーク期間中に中国訪問、これも取りやめになるとか、なかなか政府外交も政党外交も対話のきっかけがつかめない状況に陥っているのかなと思っております。  そういった状況の中で、しかし、さはさりながら、両国の首脳がしっかりと意思疎通できる状況をつくっていくということは大事だと思うんですが、この状況の中でどのように首脳会談の実現に向けて道筋というものを描けるのか、それぞれ三人の公述人の皆様にお伺いしたいと思っております。
  213. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 首脳会談というのは非常に重いものです。国家の最高責任者が発言する。不用意な発言はしちゃいけないと思います。それが前回の野田首相の対応が非常に疑問を持たれたことと同じです。そういうことからいくと、私は現在のように、日本政府が間違った歴史認識を行って間違った政策を判断している、このときにおいて中国との首脳会談を行わない方が望ましいと思っております。
  214. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 日中間の対話というのはいろいろなチャンネルがあります。  私が学生時代だった七〇年から八〇年代まではこれはすばらしい関係でした。九〇年代以降も、ここにおられる方も含めて努力をされて、政治レベルでのチャンネルがありました。残念ながら、そのチャンネルというものが世代交代が起きている。そして、新しい日中関係の環境の中で以前とは同じような交流がなかなかできないような状態になっている。日中の首脳レベルが会談ができないときこそ、まさに政治レベルでありながらハイレベルの、公式ではない、しかし本音で話せるチャンネルというものが機能する時期だと私は思います。  私も、孫崎公述人がおっしゃるとおり、仮想な条件の下で、若しくは不必要な条件の下で無理して首脳会談をしなければいけないと必ずしも思っておりません。しかし、その間にやはりいろいろなチャンネルで対話を続けていくこと、これは極めて大事でありますし、特に政治レベルの対話というものがまた復活することを強く希望しております。
  215. 富坂聰

    公述人富坂聰君) 私は二点、これは偶然ですけれども、皆さん意見一致ですね。  まず、首脳会談を行わなきゃいけないということの目標設定自体がおかしいと思います。それは別にしなくてもいいんではないかなということがあると思います。それは、一つには、危機と共存していく、少しの摩擦と共存していくということが日本が慣れた方がいいんじゃないかなということを少し考えています。  第二番目として、現状で追い付く話ではないので、それはどういう意味かといいますと、中国の場合は、こういう場合に外交のトラックというのは、もう外交部だけではなくて、政党間外交をやるような中連部があり、それとか外交学会というかOB外交がありと。もう本当七つ八つのそのトラックがばあっと一斉に動き出して外交をやるわけですね。そういう意味では、日本はやっぱり余りにもチャンネルが少な過ぎるというのがあります。  だから、それは、私は今から始めるということでいえば、ふだんからこういうときに動けるような、いわゆる二本、三本の予備のトラックというのを幾つか動かしておくという状況をつくり上げるということをやっていかないと、とても追い付かないなというふうに思っております。
  216. 谷合正明

    ○谷合正明君 富坂公述人は、様々なチャンネルをつくるということでございまして、私は、政府・政党外交と申し上げました。ほかにもパブリックディプロマシーということで民間外交等もあるんだと思います。マスコミの報道の在り方もあるんだと思いますけれども、その意味で、もう少し改めてこのパブリックディプロマシーについてどういうところを強化すべきなのかというところの御示唆があればお話ししていただきたいと思います。
  217. 富坂聰

    公述人富坂聰君) 例えば、研究所を介した形で日ごろからいろんな人を招いていく。あと、例えば中国の外交学会に類するような組織も日本としてつくっていくのも必要だと思いますし、そういう意味では、やっぱりいわゆる民間のシンクタンクを中心にもう少し外交的な要素をそこに与えていくということで、ふだんからの往来を厚くしていくということが重要じゃないかなというふうに考えています。
  218. 谷合正明

    ○谷合正明君 どうもありがとうございます。  最後に、海上連絡メカニズムについて伺います。  この海上連絡メカニズムにつきまして、尖閣をめぐる対立が軍事衝突に発展する事態というのは絶対に避けなきゃならないということで、一つの具体的な策としてもこれが協議されてきたわけでございます。しかし、なかなか進展も、尖閣の国有化以降、進展も止まっているやに聞いております。  一方で、先月、四月二十六日には日中防衛当局間の局長レベルの協議が行われて、合意には達しておりませんけれども、協議ができたと、このこと自体は有意義なことと考えております。防衛当局間だけでなくて、例えば海上保安庁でありますとか海上法の執行機関を含めた多層的な海上連絡メカニズムというものを構築する必要があるんだと思いますが、その必要性と、またそれに向けて課題について宮家公述人に伺いたいと思います。
  219. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) ありがとうございます。  おっしゃるとおりだと思います。特に海上保安、それから海監等、今度新しく国家海洋局、新しい組織ができて、五つの、若しくはそれ以上のいろいろな中国側の海洋の政府機関が一つになったらしいということであります。チャンネルが一つになったことは有り難いことで、五つばらばらにいいかげんなことをやられるよりははるかに一つにまとまってくれた方が助かる、話合いもしやすいということではよかったと思いますが、さあ果たしてどの程度中国側が今そのインセンティブがあるだろうか、動機付けがあるだろうかとなりますと、これはやはり事務レベルで話すだけでは不十分である、政治的な方向性というものが中国が上から来ない限り、事務レベルでやってもらちが明かないということは残念ながら事実だと思います。  したがいまして、やはり両方のトラックをバランスよく動かしていく。特に中国側は、政治的な判断ができ、政治的な決断ができ、政治的な責任を負える人を、日本でいれば、その人を尊敬し、その人と腹を割って仕事をするというのが私の今までの経験でございます。そういう方がこの委員会から一人でも二人でも増えて、そして中国側とちょうちょうはっしやっていただけることを切に望む次第でございます。
  220. 谷合正明

    ○谷合正明君 時間になりましたので、終わります。どうもありがとうございました。
  221. 小野次郎

    小野次郎君 みんなの党の小野次郎です。  三人の公述人の方にはお忙しいところを来ていただきまして、大変有効な、有益な話を聞かせていただきました。特に孫崎さんには、私も、勤めた役所は違いますけれども、やはり国際畑が長かったものですから、孫崎国際情報局長ですかね、でおられたときにはインテリジェンスの世界として仰ぎ見る存在でありましたけれども、今日こうやって質問できる機会を与えていただいて大変光栄に思っています。  また、宮家さんとは、同い年生まれで共通の知り合いも大変多いんですが、世界中のいろんなところで一緒に仕事したり出会ったりしましたけれども、最近は何か安倍総理夫人の外交ブレーン、さらには安倍総理自身の外交ブレーンとだんだん遠く奥深くに入っていかれて、なかなか親しくお話をする機会がなかったんですが、今日はこうやって質問できるのを大変うれしく思っております。  富坂さんには、日ごろから、今僕も中国の関係が極めて日本にとって深刻だという中で、勇ましい議論ばかりがテレビや何かで流れている中で、いつも大変冷静なコメントをされているお姿を見ておりまして、一度質問してみたいなと思っておりましたので、今日は大変いい機会を与えていただいたとそれぞれ感じております。  ですから直截に伺わせていただきますが、同じ脱却の中でもデフレ脱却アベノミクスの評価というのは上がっていると思うんですが、これはまず富坂さんにお伺いしますけれども、同じように安倍さんは戦後レジームからの脱却というのを掲げているんですが、こっちの方について、安倍政権の誕生というのは対中国外交の面ではどのように評価されておられますか。
  222. 富坂聰

    公述人富坂聰君) 一言で申し上げますと、これは尖閣問題と同じぐらい強い興味で見守られていると思います。  実際、多分現地の新聞を全部翻訳して日本にもし紹介したとしましたら、日本人びっくりすると思うぐらいの原稿がこれに関して出ていると思いますね。だから、そのことの認識というのが日本側にないというのは、私は今後の展開を見る上でちょっと心配だなというふうに正直考えております。
  223. 小野次郎

    小野次郎君 同じ質問で恐縮ですが、孫崎公述人にも同じ御質問をさせていただきたいと思います。
  224. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 私は、歴史的な問題についてタカ派的な路線を出すということは、中国、韓国だけでもなくて、アメリカ、そしてイギリス、こういった西側の諸国の人たちにも懸念を生じているということは考えておくべきだと思っております。
  225. 小野次郎

    小野次郎君 今、孫崎さんからも、アメリカ等という西側の、ヨーロッパ、欧米の国の名前も出ましたけれども、そこで宮家さんにお伺いしたいんですけれども、この安倍政権の戦後レジーム脱却を唱える路線についてオバマ政権はどのように見ているんでしょうか。
  226. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 私はオバマさんと友達でもありませんので、オバマ政権が何を見ているかは私は分かりません。  しかし、少なくとも、過去数か月間のやり取り、私も間接的に聞いたこともありますが、それを見る限り、例えば、安倍さんの訪米一つ、それから最近の、国務長官同士、外務大臣と国務長官、それから国防長官と防衛大臣のいろいろなやり取りを見ている限りにおいては、やはり日本というものを、安倍さんになっても、そして、多少のいろいろな懸念を言う人がアメリカにいることもこれまた事実ではありますが、政権の中の人からそのような話を聞いたことはありませんし、むしろ、そこのやり取りを見て、発言されているところを見ると、やはりアメリカ日本を頼りにしているなと、これは間違いなく言えるだろうと思います。
  227. 小野次郎

    小野次郎君 次に、TPP参加問題についてお伺いしますけれども、孫崎さんから、いろいろ深刻な問題、ISD条項について具体的にも例を挙げてお話がありましたけれども、あえて逆の質問をさせていただきますが、皆さん、TPPのマイナスの面や不安の面ばかり議論されるんですけれども、TPP参加のプラス経済効果ないしその規模というのはどのように認識されていますか。
  228. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) これがTPP参加の問題の一番大きい問題だと思います。プラスはほとんどない、マイナスは物すごく多い、このバランスだと思います。  具体的に申し上げますと、一番期待されるのはアメリカです。しかし、アメリカの関税は基本的に二%ぐらいになっておりますから、これが下がって日本の貿易が伸びるということはほとんどありません。かつ、日本の輸出、二〇一二年ぐらいを見てみますと、アメリカへの輸出というのが日本の輸出の一五・五%ぐらい、他方、中国、香港、台湾、韓国、これを合わせると三八・八%ぐらいです。このようなことを思うと、日本の目指す相手先がどこであるか、その相手先がTPPに入っているかどうかということを見れば、TPP参加のプラスというものが極めて少ないということがお分かりになろうと思います。    〔理事小川敏夫君退席、委員長着席〕
  229. 小野次郎

    小野次郎君 宮家さんにも、同じ問いで恐縮ですが、TPP参加の、お分かりになる範囲でいいんですけど、プラスの効果の方をちょっと、もし何か認識があればお話しいただきたいんですが。
  230. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) TPPというのは単なる貿易交渉ではありません。これはアジア太平洋地域における自由でそして公正でそして円滑な貿易の流れを、枠組みをつくるものであり、同時に、そのような流れを通じて、この地域全体が公正で法の支配に基づくしっかりとした社会として発展していくことを目指している、非常により戦略的な目的を持ってつくられているものだと私は理解をしています。  したがいまして、短期的にどこの国ともうかるもうからないの議論も大事でしょう、それを否定はいたしません。しかしながら、我々が今考えなければいけないのは、日本が、人口が減って、そして市場が小さくなって、そして活力がなくなっているときに、日本という国をこのアジア太平洋地域においてどのような国にするか、そういう戦略的な発想があるかないかだと思います。それがない人は反対するでしょう。しかし、ある人は恐らく、難しいことがあってもやはりここに懸けてみるしかないというふうな判断をされるのも私は十分理解ができると思っています。そこは戦略的な発想のあるかないかというのが大きな違いだと私は思います。
  231. 小野次郎

    小野次郎君 それでは次に、集団的自衛権の議論に関してでございますが、まず宮家さんにお伺いします。  孫崎さんは先ほど、このミサイル防衛というのは、基本的、全くと言ったと思いますが、たしか、ほとんどかな、とにかく効果がないんだとおっしゃられましたけれども、このミサイル防衛システムの抑止力についてどういう認識をお持ちですか。
  232. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 今まで日本は、パワープロジェクション、兵力投入能力をできるだけ制限をしてきました。それから、飛び道具をできるだけ持たないようにしてきました。今後どうなるかはまた国民の判断が問われると、また判断に従ってやればいいと思いますが、少なくとも今までやってきた中で最も戦略的に意味があって最も効果的な、それは単に軍事的に撃ち落とせるかどうかだけではなくて、悪意を持って日本に対してミサイルを撃とうとする国が抑止される、しかしこちらからは何一つ攻撃をしないという意味で極めて有効な兵器システムだと私は思っています。これこそ日本に最もふさわしい兵器システムだと私は思っていました。  私は、どの国とは言いませんけれども、ある国が私が担当の時代にミサイル防衛やめろということを強く言っていました。私はその方に何と言ったかというと、いや、どうしてそんなことおっしゃるんですかと、もしあなたの国が日本にミサイルなんか撃つ気が全くないんだったら、友好国だったら撃たないでしょうと、ミサイル撃つ気がなかったら何の問題もない兵器ですよと、ミサイルを撃とうという悪意がある国だけが困る兵器ですよということを申し上げました。その方は黙ってしまいました。
  233. 小野次郎

    小野次郎君 富坂さんにお伺いしますけれども、今憲法改正の議論がいろいろ出ています。特に、第九条の第二項というところの軍備に関する部分の改正の議論もあるわけですけれども、中国など周辺諸国との安全保障環境にとって、そういったその九条二項を改正して、今は持たないとなっているものを何らかのものを持つんだと、こういう形になるんだと思うんですが、そういう議論というのはこの周辺の安全保障環境にどのような影響を及ぼすとお考えですか。
  234. 富坂聰

    公述人富坂聰君) これは先ほどお答えした問題と全く一緒だと思うんですけれども、基本的には中国は非常な、過剰な反応をすると思います。私、四月の中旬に日中ジャーナリスト会議というのがありまして、そこに出ておりました。でも、相手方のジャーナリストの代表が一番気にしていたのもやっぱりそこでしたね。  そのときに、これは日本人が聞くと非常に意外だと思うんですけれども、中国人はみんな日本のことをすごく恐れていると、もう日本が怖くてしようがないということを言いますね。この感覚は日本にはなかなか伝わらないんですけれども。そのときに一人の人がこういう言い方をしましたね、虎のおりに掛けていた鍵を外すと、それは怖いという言い方をしましたね。だから、私はその場で、要するに日本は虎じゃないと、いつ虎にしたんだということをお答えしましたけれども。  結局、そのことというのはやっぱり日本がゆっくり説明していかなきゃいけないことなので、私は、変えるということ自体そのものについて別にそれほど大きな抵抗は個人としては持っていませんけれども、ただ、それが大きなハレーションを生むということがあれば、それを要するに今やることで非常に日本が得をするのかどうかという、国益という観点でしっかり見直してほしいなというふうに思います。
  235. 小野次郎

    小野次郎君 最後に、孫崎さんにお伺いします。  さっき、勝手に孫崎さんのお話を宮家さんにだけ質問しましたので、もうちょっと御本人からお話があるかもしれないと思って、その点です。  つまり、ミサイル防衛の話というのは、確かに宮家さんのお話にも一理あるんですけれども、他方で、何百というオーダーの考えられる発射機に対して、あの数の迎え撃つシステムでどれぐらいの効果があるんだろうかと私も、多分多くの国民もクエスチョンマークがあることも事実なので、もう一度、今の宮家さんの話も踏まえた上で、孫崎さんからこのミサイル防衛の抑止力ってどういうものなのかというのをちょっと認識をお話しいただきたいのと、最後に、全く異質のことですけれども、憲法改正の話にちょっと関係するんですが、私は、集団的自衛権の話ばかり議論によくなりますけど、やっぱり国連憲章に基づく国際安全保障について、もし改正の議論をするのであれば何らかの言及をすべきなんじゃないのかなという気をむしろ私なんかは持っておりますが、その認識について孫崎さんのお考えと、二つお願いしまして、私の最後質問とさせていただきます。
  236. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) これは技術的に、ミサイル、中距離弾道弾、こういうようなものが降りてくるときに、秒速二キロあるいは三キロ、四キロと、これだけのスピードで来るんですよね。野球のピッチャーが投げるときには時速百五十キロ、秒速三十メートルぐらいです。秒速三十メートルのスピードが野球の球。これに対して二キロから七キロのスピードなんですよね。そして、どこに行くかは分からないということですから、一般の国民を守るという意味合いにおいて、ミサイル防衛が役に立つということはこれはあり得ない。少しでも理科系のセンスを持てば、考えていただければあり得ないということがすぐに分かると思います。  それから最後に、国連憲章、私は国連憲章というのは我々人類がこれからも大切にすべきだと思います。それはどういうことか。一番重要なことは、お互いが自ら最初に攻撃をしない、軍事的な攻撃をしないことによって安全を保つ。それによって、第二次世界大戦以降、戦争というものは激減したんですよね。ということですから、御指摘のように、国連憲章を大切にする、この気持ちは尊重していった方がよろしいかと思います。
  237. 小野次郎

    小野次郎君 これで質問を終わります。三人の公述人皆さん、ありがとうございました。
  238. 森ゆうこ

    ○森ゆうこ君 生活の党の森ゆうこでございます。  今日は、三人の公述人の先生方、大変有意義なお話、ありがとうございました。それぞれの先生方の御主張、いろいろと立場は違い、また視点も違うんですけれども、大変興味深く聞き入っておりました。  まず、孫崎公述人質問をさせていただきたいと思います。  先般、主権回復の日ということで式典が開催をされました。非常にこれシンプルな疑問なんですけれども、いわゆる保守論客と言われる人たち、それから、特に安倍政権、安倍総理を始め日本の独立だ自立だとこう声高に言う方たちは、なぜか、これは印象としてなんですけれども、米国に対しては、特にこの間の日米首脳会談もここまでお土産を持っていくのかとか、余り戦略的に我が国の国益をできるだけ確保するような主張をされていないのではないかというふうに、なぜか保守であるというふうに自らおっしゃっている方に限って対米追従ではないかというふうな印象を持つような言動というふうに思うんですけれども、なぜそういうふうになるのか。そうでないというならそうではないというふうにおっしゃっていただきたいと思いますし、なぜそのようなことになるのかということについて、先生、もし御見解があればお聞かせいただきたいと思います。
  239. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 主権回復の日、これは二つのものがありました。一つはサンフランシスコ条約で日本が独立するということ、もう一つは日米安保条約です。そして、日米安保条約とともに地位協定があった。この日米安保条約をつくるときにダレスがどのようなことを言ったのか、アメリカの交渉。我々が望むだけの軍隊を望む場所に望む期間だけ持つ、これが今日まで続いているんですよね。ですから、世界を見渡していただければ、外国の軍隊が自分たちの思うような条件でい続ける、こんな国はほとんどないですよ。  ということで、政治家、役人も含め日本の国に対して奉仕する者、それは少なくとも、外国の軍隊が不必要に、そして一方的な条件でいるという状況は少なくとも直していかなきゃいけない、これが主権回復の日の欠けている論点だったと思っています。
  240. 森ゆうこ

    ○森ゆうこ君 ありがとうございます。  今の御指摘、私も共感をさせていただきたいと思います。我が国がどのように自らの主権を守っていくのか、どう考えていくのかということについて、まずは虚心坦懐に米国と話をするというところからスタートしなければならないのかなというふうに思っているところです。  ところで、宮家公述人に伺いたいんですけれども、そういう意味でいいますと、先ほど孫崎公述人から御指摘のありましたイラク戦争についての検証ということについては、まだきちんと我が国においてはなされていないというふうに、私もそのように理解をしております。米国、そして英国においても検証がなされているというふうに私は認識しているところですけれども、宮家公述人は中東についてもお詳しいということもありますけれども、あのイラク戦争についてはどのように評価をされていらっしゃるでしょうか。
  241. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 中東アフリカ局長になったような気分でありますが、私は、八二年から二年間バグダッドに、アラビア語研修が終わった後の最初の勤務がバグダッドでした。申し訳ないけれども、非常に厳しい独裁政権、多くの人が理不尽に殺されていきました。これがイラクの実態であったと思います。  それが八二年でありますが、それから二十年全く変わらない。そして、累次の国連安保理決議というものを全て無視をし、そして、十分な検証を受け入れなかった、これによって国連安保理決議に基づいて武力行使が行われたと考えております。
  242. 森ゆうこ

    ○森ゆうこ君 しかし、ここで宮家公述人と論争するつもりはございませんけれども、大量破壊兵器というものはなかったわけでございまして、その大前提のところが崩れているという指摘もございます。  公述人とここは論争する場でもございませんので次の質問に移りたいと思うんですけれども、富坂公述人に北朝鮮問題について伺いたいと思います。  事前にいただいた資料にも書いてありましたけれども、北朝鮮が国際的に孤立をしているかというと、そうではないという記述がございました。私もそれは実感をいたしております。新潟県選出でございまして、北朝鮮拉致問題にかかわる中で、国際的な世論を高めようということで、各国と協調して、各国の議員と連携してというような活動も行いましたけれども、非常に北朝鮮というのはしたたかで、特に金正日のときには非常にしたたかで、今何か国なんでしょうか、百三十か国以上の国と国交があり、しかも、政党の代表として、海外からおいでになる国の、東南アジア諸国の代表あるいは各国の議員の皆さんとお話をするときに、北朝鮮の拉致問題の解決に是非協力をしてくださいという話をしますと、それまでとは態度が一変して北朝鮮の肩を持つような発言をされる国が大変多かったということで、その現実というものを私たちは見なければならないというふうに思っております。  今の、政権が替わったわけですけれども、ジャーナリストという立場でいろんな情報をまたつかんでいらっしゃるかと思いますけれども、この北朝鮮問題についてもう少し御解説をいただければと思います。
  243. 富坂聰

    公述人富坂聰君) 御指摘のとおりだと思います。  実際に、核実験を最初に、核疑惑が出て以降も外交関係を結ぶ国が増えているわけですね。ですけど、日本から見ていると、孤立して明日にでも崩壊するという報道一辺倒ですね。だから、これはある種、ちょっと願望が記事になっちゃっているようなところがありまして、正確ではないと思います。  実際に、北朝鮮をめぐる動きというのは、北朝鮮も非常に準備がよくできていて、例えば原油の問題にしても銀行の問題にしても、これは制裁されることを前提で挑発に出ていると思いますので、それを止めたところで即座に効果があるということは私は期待できないと思います。  その一方で、日本が北朝鮮をめぐる外交の中で世界各国とすごく私はずれているなと思うところが一点あるんですけれども、それは、一つ、北朝鮮をめぐるテーブルに着いたときに、日本は割と真面目に北朝鮮から核兵器を取り上げるとかそういったことを考える。これ一生懸命そこに向かっていくんですけれども、ただ、各国、一緒にテーブルを囲んでいる人たちが考えていることは、一つの、北朝鮮から核をなくすと、朝鮮半島の非核化というゲームの中で、それが終わったときに自分がいかに有利なポジションを他の関係した国の中で得るかというもう一つの価値観を持って臨んでいるということですね。ですから、もう少し複雑なゲームを日本以外の国は戦っているということがあります。  そういう中で特に際立っているのが中国で、中国は、六か国協議重要だと言いますけれども、ただ、現実には、やっぱりこれは二国間で北朝鮮と向き合っていこうということはもう明らかだと思います。ですから、二〇〇八年ぐらいからもう急速に北朝鮮との距離を縮める外交に転じています。二〇〇九年には中朝友好年というのを定めまして、往来を加速した。  しかし、ここのところに来て、やはり国民の突き上げもあって、北朝鮮に対して、実際には自分たちが余り影響力ないということもだんだんと世界も分かってきたということも分かりつつあるので少しずつ態度を変えていますけれども、ただ、今のところ北朝鮮を取り囲む状況というのは、決め手を持っている国は一つもないし、決め手を持っている状況もないというふうに私は見ています。
  244. 森ゆうこ

    ○森ゆうこ君 北朝鮮の核、ミサイル、そして何よりも同胞がまだ拉致された状態なわけですから、この拉致問題を解決するためには、大変迂遠なようですけれども、やはり国際協調、国際世論を高めていく、日本に協力してくれる国、一生懸命協力してくれる国を増やしていくということに力を注ぐべきだというふうに思っております。そういう意味で、日本は国際社会に対する宣伝がやはり相変わらず下手であると。  一方で、今回、やっぱり口実を与えてはいけないわけですよね、ファシストの復活であるという口実。そういう宣伝の材料を与えてはいけないわけでして、日本はこんなに平和で、平和を愛し、協調的な、そして自然とも共生の理念を持っている、そういう国民性は日本人以外にはないというふうに我々は思っているわけですけれども、上手に宣伝し、対外的にそういうことを発信しなければ理解してもらえないわけで、私も非常に家庭的で優しいと自分では思っているんですけれども、これは宣伝しなければ誰にも分かってもらえないわけですから、そういう意味で、このファシストの復活と、日本の右傾化という誤ったマイナスのメッセージがこれ以上拡散しないようにというふうに思いますので、富坂公述人のおっしゃった意見には非常に私は同感できます。  そういう意味で、日本としてもっとここを宣伝していくべきであるというふうにアドバイスがあればいただきたいのと、あわせて、宮家公述人には、先ほどのお話ですと安倍内閣のブレーンということですので、是非今のような視点で安倍内閣に対してサジェスチョンをされてはいかがかというふうに思いますので、その点について何か御意見があれば是非お願いします。
  245. 富坂聰

    公述人富坂聰君) 御指摘ありがとうございます。森先生が非常に優しい方ということは私もよく存じ上げておりますので、宣伝上手じゃないかなと思います。日本も是非先生に倣っていただけたらと思いますが。  本当にそういう意味でいいますと、やはり日本というところは内向きなところが時々ありまして、それをそのまま海外に出してしまうと非常に誤解されるということがあって、特に私らの世代ですけれども、六十年間平和を通したということは、これは十分に世界に対して通用する価値観だと思うんです。ひょっとすると、その六十年間をわざわざ否定して、世界が持っている最も先鋭的な部分最後尾に付く必要はないかなと私は思います。  むしろ、何といいますか、私らの世代の持っている一つの特徴として、軍備を拡張することに対して制限を加えられたので、逆にそれに対してオールマイティーな考え方をし過ぎるというのがありまして、ただ、実際に非常に武力だけで他国を言うことを聞かせるとか、そういうことというのは個人のベースでもなかなか難しいことであると思うんですよね。  ですから、そういう意味で、その価値観の有用性というのは実際どうなのかなというのはやっぱりきちっと考えていって、むしろ日本として、森先生がおっしゃられたような価値観を一つの形にして、分かりやすい一言で世界にアピールできるような宣伝戦を仕掛けていけたらより効果的かなというふうに考えます。
  246. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 私が誰かのブレーンだとかなんとかおっしゃる方がおられましたけれども、確かに七年前に私が公邸連絡調整官であったことは事実であります。しかし、今は全く違います。私は独立した一研究者であり、それ以上でもそれ以下でもありません。もし私が本当にブレーンであれば、この場所にはいません。その誤解のないようにしていただきたいと思います。
  247. 森ゆうこ

    ○森ゆうこ君 失礼しました。  孫崎公述人最後にTPP……(発言する者あり)済みません、一言で結構でございますけれども、TPPその他、我が国の進むべき外交、一言でというのは大変ですけれども、これだけはというのが一言ありましたら、よろしくお願いいたします。
  248. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) TPPを含め実態をしっかり見極める、これが一番重要なことだと思っています。
  249. 森ゆうこ

    ○森ゆうこ君 ありがとうございました。
  250. 田村智子

    田村智子君 日本共産党の田村智子です。  公述人皆さん、ありがとうございます。  東アジアの緊張を軍事的に解決しようとすると莫大な軍事費が必要になっていくんだなと、そうなると今の憲法の立場で外交努力をしていくことが本当に求められるんだということを私的には再確認ができました。  私、大変時間が短いので、孫崎公述人に御質問を絞ってさせていただきたいと思います。  私も、四月二十八日に行われた主権回復の日の式典についてまずお聞きをしたいんです。  サンフランシスコ平和条約発効の日だということが理由なんですけれども、やはりこの条約によって米国領土とされた沖縄の皆さんが抗議集会開かれたのは、これ当然のことだと思いますね。先ほどの御発言にもあったんですけれども、この平和条約で確かにアメリカによる占領は終わったと、だけれども、同時に同じ日に安保条約で全土基地方式も取られたという問題があると。  私、それだけでなくて、そもそもサンフランシスコ平和条約そのものもやっぱりいろんな問題があったというふうに思います。この条約には千島列島、沖縄、奄美、小笠原諸島の放棄と、これはポツダム宣言の領土不拡張の原則を踏みにじるような中身が書き込まれ、また、日本の侵略によって最も大きな被害を受けた中国は条約の協議や調印には招待されず、韓国政府は参加を認められなかったと。こういう経過を見てみますと、日本固有の領土がどの範囲なのかということを中国や韓国政府と合意する場が言わば棚上げされてしまったんじゃないのかというふうにも思うんです。  こうした事実見ると、戦後の日本の外交が大変ゆがんだ形で始まった、戦後五十年以上を経てなおロシア、中国、韓国と領土についての問題を抱える大きな要因となったのがサンフランシスコ平和条約だとも言えるのではないだろうかと。孫崎公述人の御意見をお聞きしたいと思います。
  251. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 恐縮ですけれども、サンフランシスコ講和条約についての評価は私は異なります。あの時点で日本は、ソ連を、中国、そういうようなものを含めて講和条約を結ぶということは非常に難しい状況だったと思います。少しでも早く独立したい、この思いは私は正しかったと思います。したがって、その後、ソ連とそして中国と国交回復をしたわけですから、それを一連のセットとして考えれば、何もソ連とか中国との関係を無視してきたわけじゃない。サンフランシスコ条約は確かにそういうことがありましたけれども、その後、日本はちゃんと国交回復をしておりますから、大丈夫だと思います。  領土の問題、これは非常に複雑です。複雑ですけれども、我々が弱い立場から交渉しなければならないという状況があったとしても、そのとき合意したものは守らなきゃいけないと思っております。  サンフランシスコ条約だけではなくて、ポツダム宣言、我々は受諾しました。ポツダム宣言に何を書いてあるか。日本の主権は本州、四国、九州、北海道とする、その他の島々は連合国側が決めるものに局限する。では、あのときポツダム宣言の受諾をしないという選択があったか。日本にはなかったです。ということですから、それぞれの場において我々は必ずしも十分な条件でない形で条約等を結ばなきゃいけない。結んだものは、私は、これをよほどのことがない限り大切にしていくべきだと思っています。
  252. 田村智子

    田村智子君 御意見としてはありがとうございました。  ただ、このサンフランシスコ平和条約をやはり完全な主権回復の日として政府が式典を今後も行うということについては、やはり先ほどお話のあった日米安保条約とまさに一体化して結ばれたということで考えると、これは大きな問題があるんじゃないかと思うんですけれども、その点での御意見を。
  253. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) まさに御指摘のとおり、四月二十八日、これはサンフランシスコ条約が発効した日。同じく、日米安保条約とその当時の日米行政協定、これの発効した日。後者は極めて対米従属の強いもの、独立ということを誇れるような問題ではない。このような状況で、我々があのときの状況がすばらしくてその体制を現在も維持していくという思いを込めてなら、それは行うべきでないと思っています。
  254. 田村智子

    田村智子君 ありがとうございました。  もう一点、先ほどTPPの問題について御発言をいただきました。  TPPの原則は例外なき関税撤廃及び非関税障壁の撤廃と。これはお話あったとおり、日本の農業や食の安全はもちろんですけれども、政府が関与する医療制度とかあるいは産業全体に非常に重大な内容をもたらすものだと私たちも考えています。私、それだけ大きな中身を持つ条約が首相に一任をされて交渉参加が決定されるということが、これは私たち国会議員としてはもっと大問題にしていいのではないかというふうに思うんですね。  アメリカはもちろん、オバマ大統領と安倍総理が合意をした、一定の合意をしたからということでの参加踏み切りということで報道されましたけれども、元々大統領にTPPの交渉権はなくて、アメリカは議会にTPPは交渉権があると。だから、日本が入るかどうかということもアメリカの議会の承認が必要だということですから、果たして、オバマ大統領と中身も非常に曖昧なああいう約束でもって首相一人の判断でTPPに参加をするというふうに決断がされたということ、非常に問題だというふうに思うんですね。御意見をお聞きしたいと思います。
  255. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 私は、手続よりももっともっと重要なのは内容だと思っています。  その内容は、私はこれ、物すごい選択を迫られていると思うんですね。企業利益を最優先する国際システムに入っていくか、あるいは、我々が考えるべきは健康であり生命であり地域格差であり所得格差、そういうようなものを総合的に考えていく体制を維持するか。後者は日本の法律なんですね。後者は日本の国会が決めたことを最重視する。それを覆して企業利益を最優先するISD条項に入るというのは大変に危険な選択であって、これは私は、国会議員が、自分たちの権限にかかわる問題ですから、もっと真剣に議論していただきたかったと思っています。
  256. 田村智子

    田村智子君 内容について私ももう一点お聞きをしたいんですね。  実は、私もこれまで農業、食料の問題だけではないという立場で、厚生労働委員会の方では、TPP参加によって日本の薬価とか公的医療保険の制度が大きな影響を受ける、その危険性が高いということを取り上げてきました。ところが、民主党政権時代も今の自公政権の厚生労働大臣も、正面からこれを否定されています。今の大臣は、もしも心配な条項があれば留保すればよいということまでおっしゃっておられるんです。留保が認められるかどうかというのも分からない下で、これは大変無責任な答弁だなというふうに私自身受け止めているんですけれども。  孫崎公述人、いろいろアメリカの業界団体がこのTPPに懸ける勢いというのもいろいろ研究をされていると文献で読んでいるんですけれども、この公的医療や私たちの医療の保険の制度、ここに与える影響というのをどのように評価されているか、御意見をお聞きします。
  257. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 御指摘のように、薬価の問題であるとか、既に御説明しましたように裁判に訴えられているんですよね。カナダ政府が生命に必ずしも安全でないかもしれないということを行政が決め、裁判所が決めたものについて、一億ドルの訴訟を起こしているんですよ。多分、これは何らかの形でカナダが負ける、妥結をするか、そういうような選択をされている。  そして、考えていただければいいのは、基本的にアメリカ的な社会を日本が今受け入れようとしているわけですけれども、じゃアメリカの社会で保険がどうなっているか。今、三万五千ドルの年収の人たち、それ以下の人たちは、保険に入っているのが、三〇%が入っていないんですよ。日本の国民は健康保険というのがある。保険でもって生命が守られている。しかし、米国の制度を導入するという形になれば、このTPPによって、国民健康保険が最終的には私は日本人の今のような健康を守る制度から大きく逸脱していくと思います。
  258. 田村智子

    田村智子君 終わります。ありがとうございました。
  259. 谷岡郁子

    ○谷岡郁子君 三人の公述人方々、今日は大変いろいろ勉強になっております。  それぞれの皆さんから、いわゆる偏狭なナショナリズム、あるいはニューヨーク・タイムズが言うところの不必要なナショナリズムというようなことが今言われているんですけれども、この観点で富坂公述人にまずお聞きをしたいのは、インドネシア、フィリピン、マレーシアのようにほかのASEANの国々、我々は今、欧米ですとかそれから中国、韓国の反応ということを特に言っているんですけれども、ASEANの国々はこの問題についてどのような反応あるいは懸念等がありましたら、それについて教えていただきたいんですが。
  260. 富坂聰

    公述人富坂聰君) これ、一つまとめて申し上げるということはなかなかできないと思うんですけれども、実際に現地で、例えばインドネシアなんかは日本軍が残って現地の独立を支えたりとか、例えばミャンマーなんかは独立の軍隊はほとんど日本がつくったようなものですから、そういった意味での日本に対する距離感というのはそれぞれ違うと思うんですけれども。  ただ、私がこの中での宣伝戦略ということで申し上げたのは、これはそれぞれの感情とは全く別の問題として、日本と例えばフィリピン、日本とインドネシアという問題になったときに、日本に対していわゆる中国が仕掛けた、日本にファシストが復活しているとか、そういったことを利用する、利用して日本との交渉を有利にしようという働きがだんだん起きてくるということですね。だから、そういうことでもうありもしないものが要するに実態としてでき上がってしまうと。ですから、私は戦前のときでいう田中上奏文の再来というふうに申し上げたんですけれども。  ですから、それぞれいわゆる日本に対しての距離感は全て違うと思いますし、中には非常に日本に対して優しい反応をする国あると思いますけれども、ただ、国際交渉というのはそういうことではなく、非常にシビアに自分たちの利益について追求してくる場になると思いますので、ですから、そういう意味では、そうした交渉の場に一つでも日本にとって不利な要素を入れるべきではないというふうな観点で申し上げました。
  261. 谷岡郁子

    ○谷岡郁子君 交渉の面だけではなくて、多分その世論というようなものも含めてそれぞれの国々の政策あるいは外交等に影響を与えると思うんですけれども、孫崎公述人にお聞きをいたします。  今の点で、ありもしない中国が仕掛けた宣伝戦というふうに富坂公述人がおっしゃったこと、ありもしないというふうに孫崎公述人もお考えですか。
  262. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 少なくとも、尖閣諸島、これをめぐる論議においては、私は中国がおかしいことを主張しているとは思いません。歴史的に彼らなりの論拠がある。我々には我々の論拠がある、しかし向こうには向こうなりの論拠がある。この向こうの論拠がとんでもない非合法で一方的であるという形はできないと思います。  そのことは、例えば一九七一年、沖縄を日本に返還するときに、米国は領土問題について、日本、中国のどちら側にも付かないということを言っています。もしも中国の主張がおかしければ、それは間違っているということを言えたはずですから、そういう意味で、相手の主張というものは何らかの根拠があるので、その根拠がどれだけ大丈夫かということを検証してみる必要があると思っています。
  263. 谷岡郁子

    ○谷岡郁子君 ここまでの会議の中で私たちが理解ができることということは、健全なナショナリズム、当然の国益の追求というものと、いわゆるある種の不必要なとか偏狭なとか言われるナショナリズム、この境目が一体どこにあるのだろうかという問題であり、そこの分けるものは一体何であろうかということこそが問題になっているということが一つだと思い、そして、しばしばディスコミュニケーションといいますか、いわゆる海外からの見方日本人の感覚というものがずれてしまうということの中には、例えば国語の問題があるのかもしれないし、外交レベルでの稚拙さがあるのかもしれませんし、はたまたメディアの問題であったり、研究機関の問題であったりするのかもしれませんけれども、今お考えになる中で、何が偏狭とそれから健全なナショナリズムの分岐点であり、そしてこれを今後、バリアというようなものを越えて相互理解を進めるためには、何を、どこを考えるのが重要になっていくのかという問題をそれぞれお三方からお伺いしたいと思います。
  264. 富坂聰

    公述人富坂聰君) 偏狭なナショナリズムかどうかというのはなかなか難しいところなんですけれども、ただ、現在、日本を取り囲む国際環境、例えば台湾にしても韓国にしても輸出主導型の経済だった時期が長いということ、そうすると経済成長、数字が伸びても国民所得が全く上がらないと。例えば、台湾なんかは一〇%の成長をしても国民の所得は数千円しか上がらなかったというケースもあって、いわゆる本当に数字だけ見たら与党が圧勝するだろうという状況の中で非常に選挙に苦戦する。つまり、少し政治が弱くなっているところで民意とのバランスの中で生まれてくるというのは一つあると思います。  これとまた尖閣の問題というのはちょっと私は違うと思うので、少しそれを説明させていただきたいんですけれども、尖閣をめぐるもの、確かに孫崎公述人がおっしゃったように、日本側も棚上げということで答弁した記録もあると思いますけれども、例えば、じゃ中国側が全くそれは触らなかったかというと、そうじゃないですね。例えば領海法を制定したりして、それは要するに棚上げというのには値しない行動も起こしてきた。さらに、ここに加えて日中中間線という問題があって、その中間線の決めている最中に、つまり、まだ話合いの途中であるにもかかわらず勝手にエネルギーの開発をしていったりとか、そういうことが積み重なってきて日本に強い警戒感が生まれたという土壌があったというふうに考えられます。  ですから、今、もちろん私はここは冷静に判断していかなきゃいけないという立場に変わりはありませんけれども、ただ、ある意味、それは日本がある種そこはきちっとしたラインを持って接しなかったことによる過剰反応ができているということも言えると思うんですよね。ですから、引き過ぎてもいけないし、攻め過ぎてもいけない、バランスが重要なんですけれども。だから現在、要するに尖閣というのは静のバランスから動のバランスに変わったというふうに私は位置付けているんですけれども、静のバランスというのはもう両方が全く触らないで置いておくと。  済みません。じゃ、もう長くなりましたので、これで次の方に。
  265. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 御質問に端的にお答えすれば、偏狭なナショナリズムかどうかのポイント、基準は二つあります。一つは国際的に説明ができるかどうかであります。それからもう一つ国内政治上の理由によって動いているかどうか、これを私はいつも見ております。  例えば、一つの例を挙げますと、昨日ですけれども、ある欧米人から私は聞かれました、何で日本はあんなことをやるんだと。いや、そうおっしゃいますけど、じゃフランスはアルジェリアに対する戦争と植民地主義を謝りましたか、ドイツはホロコーストについては謝りました、しかし、世界で戦争と植民地主義に対してああいう発言をしたことはほかに国ないんですよと言ったら、ああ、なるほど、そうかと言われました。そういったことの積み重ねだと私は思います。
  266. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 少し視点が違うんですけれども、各国とも軍事的な形で解決をしたいという人がいる、各国とも平和路線をやって妥協をしようという人たちがいる、これにどう反応するかというのが非常に重要だと思います。  一九六九年、中ソ国境紛争を行ったとき、中国には戦争をやるんだということをやっていた林彪という人がいました。同じように、これを軍事衝突にしてはいけないという周恩来がいました。だから、我々がどの立場、ナショナリスティックになるかパトリオティックになるか、こういうような問題も、相手がどのような問題であるかということについて冷静な分析をし、それに対応していく必要があると思いますし、そういう意味では、私は、今の中国は一九六九年の中ソ国境のときを考えれば圧倒的に軍事的行使がいいという人の勢力は弱いと思っています。
  267. 谷岡郁子

    ○谷岡郁子君 ありがとうございました。終わります。
  268. 福島みずほ

    福島みずほ君 社民党の福島みずほです。  今日は、深い知識とそれから見識に基づくそれぞれの発言、本当に勉強になります。どうもありがとうございます。  まず初めに、孫崎公述人に対して、北朝鮮へどういう外交を展開すべきかという点で、レジュメにあるんですが、余り発言が、さっき時間が短かったので、是非教えてください。レジュメに「国民を守るという意味で、ミサイル防衛は、実効性は全くない。」と書いてありますが、その点についてもお願いいたします。
  269. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 北朝鮮のノドンは二百発—三百発実戦配備をされているわけですから、北朝鮮が日本に攻撃をしようと思ったときに、これを軍事的に防ぐという方法はありません。これが第一です。  北朝鮮外交、私も最近、朝鮮大学校へ行って講演をしたんですけれども、一番大切なことは、私は、西側が行うべきメッセージは、我々は北朝鮮の体制及び国家、これを軍事的に破壊するということはしない、これを明確に打ち出すことが一番いいことだと思います。残念ながら、イランの問題、北朝鮮の問題、体制を変革するということが最優先されている。そのときには、向こう側は軍事的にあらゆる対応をする。この負のサイクルを断ち切ること、それは、日本としてできることは、我々は軍事力を使って北朝鮮の体制、国家を転覆する、これには加担しない、これを明確にすることだと思っています。
  270. 福島みずほ

    福島みずほ君 孫崎公述人に更にお聞きします。  憲法を、日本国憲法を明文改憲あるいは解釈改憲で集団的自衛権の行使をしようという主張もありますが、それについてどう思われますか。
  271. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 残念ながら、今、米国の一部は憲法改正をしてほしいという人がいますけれども、同時に、憲法改正がなくても我々のやってほしいということをやっているじゃないかという考え方があります。だから、そういう意味で、憲法改正じゃなくて解釈改憲。  それから、もっと恐ろしいのは合同演習。自衛隊が今、陸軍、陸上でどんどん合同演習をやって、実質的に集団的自衛権の意図することをできるような感じになっているということですから、憲法改正だけではなくて、解釈改正、それから実行、軍の訓練、共同演習、こういうもので進んでいく、こちらの方も併せて見ていかなきゃいけないと思っています。
  272. 福島みずほ

    福島みずほ君 宮家公述人にお聞きをいたします。  北朝鮮に対して日本はどのような外交をやるべきでしょうか。
  273. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 余りにも漠としているので、ちょっとお答えに窮します。  もちろん、北朝鮮が国際社会、それから国連が決めたいろいろなルール、そして諸決議、さらには拉致問題の解決をしてくれる、これが基本的な立場だと思いますし、それ以上でも以下でもないんじゃないんでしょうか。
  274. 福島みずほ

    福島みずほ君 宮家公述人のところで、偏狭な民族主義ではなく健全な愛国主義よということが非常に印象に残ったんですね。また、富坂公述人が、中国は軍拡という面からも見れるが、一方で平和を愛するという人々であるという面もあると、単純に決め付けられないという点も今日非常に実は印象に残りました。  日本で、例えばヘイトスピーチ、在日の人たちに対するヘイトスピーチや、やはり排外主義が以前よりも高まっているんではないかということを大変危惧をしています。ナチス・ドイツのユダヤ人差別などもありましたし、日本でも、日系アメリカ人の強制収容所問題が第二次世界大戦中アメリカで発生をしました。  今のヘイトスピーチに象徴されるような排外主義的な動きをやはり変えたいというふうに非常に思っていて、そのためには外交、政治の役割、メディアの役割も大きいと思います。  お三方に、富坂公述人、宮家公述人、孫崎公述人にそれぞれ、私たちはどうやって偏狭なナショナリズムを超える社会をつくることができるかという点について御意見をお聞かせください。
  275. 富坂聰

    公述人富坂聰君) 私は、まず第一に、いわゆる、やっぱり窮乏させるということですね、国民を過度に窮乏させたりとか将来不安を抱えさせたりというのが一番の問題だと思います。  これは、特に貿易摩擦の中で起きてきたこと、事例を見てもそうですけれども、私の最初の話の中で触れた中国の、もうほとんどそういったものが貧困の中から生まれているというのもありますので、ですから、ある意味、国民に対しては過度に窮乏させるようなことをさせないというのが第一だと思いますが、ただ、目下の国際環境の中、かなり厳しい競争になってきていますので、そういうことは本当に政治がしようと思ってもできないケースもあると思いますので、そういう中で私はやっぱり言葉とか制度でそういうものを守っていくというのができれば一番いいと思っているんですけれども、第一に、恐れとかおびえとか、そういうものを持たせないために、やっぱり安心させるメッセージというのがたくさん社会にあるべきだなと思っています。
  276. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 私の最後の文章を読んでいただいてありがとうございます。  私、一言申し上げますが、偏狭な民族主義という場合には、私は主として外国で今起きていることを申し上げています。決して日本のことを申し上げているわけではありません。  今の中国、二〇一〇年代の中国を見ていると、私、実際何年か住みましたので感じたことですが、確かに日本国内にもヘイトクライムの問題はあるかもしれません。しかし、それをはるかに超える大きな問題が中国には私はあるように思います。あたかも千九百何十年代かの日本のような非常に危険な状況が、一部ですけれども見られます。そういうことをやっぱり直してもらわなきゃいけない。  じゃ、なぜ私はそういうことを言うかというと、日本もそこは分かったわけです、いろいろ学んだわけです、一九四〇年代以降ですね。それと同じことを中国が、同じ教訓を学んでほしいと思います。
  277. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 私は、外務省にいましたときに、いわゆる悪と呼ばれていた国々に多く勤務いたしました。ソ連の悪の帝国、五年間いました。悪の枢軸のイラク、イランにいました。  そこで考えていることは、これらの国々が悪と言われる側面を持っていても、基本的には共通の価値観で共存できる、紛争しないでいくということができるということだと思います。その点を見ないと、我々が極めて偏狭な、相手の国というのはいつでも倒すべきだというような感じになりますから。かつてのソ連との間でも西側社会は共存できると判断した、ということは、今の多くの国々とは私は共存できると思っています。
  278. 福島みずほ

    福島みずほ君 富坂公述人が中国に関して非常に詳しく知っていらっしゃるということで、やはり日本のメディアで、一方で中国の食べ物のことやいろんな記事を見ると、やはりびっくりしたりとかということが正直あるんですね。ですから、中国と日本は非常に貿易も密接ですし、中国との関係改善のために、富坂さんが、こういうことはできるんじゃないかというアドバイスがあれば、一言お願いいたします。
  279. 富坂聰

    公述人富坂聰君) やはり、中国が日本にとってどういう役割を果たしているのかというのを、これは目立たない部分なんですけれども、非常にコンスタントに日本にとって役に立っているということをやっぱりもう一回認識すべきだと思いますね。  だから、そういう意味で、合わないところだけをクローズアップしてしまいがち。私は、森に行って森から何かを得るときには、やっぱりムカデとかスズメバチがいる、それはそれなりに対策を取らなきゃいけないけれども、それが森の全てではないという部分で、やっぱり森の恵みの方をクローズアップしていくというのは、なかなかこれは実際メディアでも難しいんですけれども、やっていかなきゃいけないことかなと思います。
  280. 福島みずほ

    福島みずほ君 宮家公述人に一言、中東の専門家ということで、今、シリアも含めてイランの状況など緊迫しておりますが、アドバイスを一言お願いします。
  281. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) これもまた大きな質問で、どうしましょう、シリアだけ、一言だけ申し上げます。  シリアがなくなる、若しくはシリアの政権が替わるというのは、ただ単にリビアのような状況とは全く違う、構造的な中東における力のバランスの変化が起きます。ですから、シリアでちゃんとした政権をつくるということが私は肝だと思います。
  282. 福島みずほ

    福島みずほ君 ありがとうございました。
  283. 片山虎之助

    片山虎之助君 片山でございます。  三人の公述人皆さん、御苦労さまでございます。ひとつよろしくお願いいたします。  ずっと今日私も聞いておりまして、やっぱり中国の目覚ましい台頭で、好むと好まざるとにかかわらず、世界は二大強国時代に入ったなと、こう思いますね。それで、日本は大変関係ありますから、私は日本の立ち位置が大変難しくなったなと。特にアメリカとの距離感、中国との距離感。  そういうことの中で、やっぱり今までやってきた日米同盟は、これはもうしっかりと強化していく、中国とは戦略的互恵関係だと、ずっと言っていますよね。この基本的なスタンスはいいんでしょうね。どうぞ、三人の公述人皆さんの御意見をお聞きします。
  284. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 私は、日米関係は近年、極めて隷属的な関係を増していると思いますから、これは修正すべきだと思っております。
  285. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 日米関係については委員おっしゃるとおりだと思いますので、付け加えることはありません。  それから、日中関係については戦略的互恵関係、戦略的互恵関係って何なのか、私も何十回も考えましたが、よく分かりません。しかし、よく分からないからまとまるんだろうなと思います。したがって、そこはある程度ほわっとしたところがあって私はいいと思います。
  286. 富坂聰

    公述人富坂聰君) 一番重要なことは、やっぱり中国が国際的ルールに適合できるかどうかという、その導きを私は、できたら日本にその役割を果たしてもらいたいと思っています。
  287. 片山虎之助

    片山虎之助君 戦略的互恵関係、私も分からないんですけれども、一言で言えば、得のときは手を握ろうということですよ。そうだと思っているんです。  それは基本的に、あの国が普通の国になるまではそれしか方法がないんじゃないかと思いますよ。いかがですか、もう一言ずつ、両公述人
  288. 富坂聰

    公述人富坂聰君) たしか中国が戦略的何ちゃらかんちゃらというふうに言い始めたのはロシアとの関係だったと、最初に言い始めたんだと思います。  やっぱり、それはなかなか触れにくい微妙な関係のときに、でも、それでも仲よくやっていきましょうということで、それよりも、日中関係でいうと、もう大同小異とかいろんな言葉がこれまで使われて、ある意味少しの問題は残しつつも、まあ仲よくやっていきましょう、利益のところでは手を結びましょうという解釈だと思います。
  289. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 委員のおっしゃるとおりなんですが、一言だけ付け加えさせていただくと、例えば二〇〇六年のときのある意味の決着というのは、まだ靖国に行くか行かないかというところで、ある程度のほわっとした解決が可能だったんですね。  ところが、今問題になっているのは領土でありまして、領土があるかないかは言わないとか、あるかないかってあるに決まっているわけですから、それはある以上はおまえのか俺のかということになってしまって、ちょっと六年前、七年前と比べて解決の、何というか、方策が難しいなという気はいたします。
  290. 片山虎之助

    片山虎之助君 孫崎さんは隷属関係と言われたですか、日米は。隷属関係ですか。例えばどういうところですか。
  291. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) オスプレイの配備です。
  292. 片山虎之助

    片山虎之助君 それは、日本の意思、日本の意向を聞かずにと、こういうことを言われているわけですか。
  293. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 沖縄県民の七割、八割が反対している、これを実施する理由というのは、私は、アメリカの意思に従う、これ以外に理由はないと思っています。
  294. 片山虎之助

    片山虎之助君 私どもはおとつい沖縄に行ったんですよ。地方公聴会というのもやらにゃいかぬものですから、被災地ともう一つ、沖縄に行こうということで委員長以下行きまして、公述人の御意見は聴き、知事さんや市町村長さん、皆さんの御意見は聴いたんですけれども、普天間の辺野古移設は沖縄では非常識なんですね。ところが、恐らく沖縄県以外では沖縄以外の県外移設が非常識なんですよ。私は、大変乖離がありますよね、この認識に。これはどうすればいいですか。まず、孫崎さん。
  295. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 私も実は、四月二十八日、沖縄に行っておりました。そちらで自民党の県連会長も含めて向こうのテレビで話をしました。  大きなことは、私は、今沖縄の人たち日本の情勢はかなり分かっていると思います。だけれども、残念なことに、日本の国民、本土の方ですね、これが、沖縄の人たちがどのような考え方を持っているかということについての認識は非常に低いと思います。例えば、向こうの琉球新報であるとか沖縄タイムス、どのような報道をしているかというのはほとんど知らない。非常に大きな乖離がある。  我々としてできることは、沖縄の人にこうしてくれという要求を私は余り持っていませんけれども、日本のこちら側、いわゆる本土側は、もう少し沖縄の人たちがどのような感じを持っているかということを理解してあげる必要があると思っています。
  296. 片山虎之助

    片山虎之助君 あの沖縄の二つの新聞、同じような記事ですね。あれは、二つあるなら別々に書いたらいいんですよ、立場。どれを読んでも同じみたいな。  そこで、あなたの言われるようなことを言っていると、普天間は固定化になるんですよ。いいんですか。
  297. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) それは政治的な決断であると思っております。と申し上げますのは、海兵隊は日本の防衛とは基本的に関係がない、そのことを理解すれば、海兵隊は私は米国本土に帰れる可能性があると思っています。これは、日本側が頑張って米国との交渉をするかどうか。  そして、その当時、二〇一〇年、ジョセフ・ナイが、普天間問題で我々が自分たちの意思を貫くということは日米関係全体にマイナスであるという発言をしておりますから、そういう意味では、米国に帰るという方策は、私は真剣度によって変わると思います。ドイツからは米軍が引いていきました。
  298. 片山虎之助

    片山虎之助君 今の御意見を含めて、普天間問題、宮家さん、どうですか。
  299. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 私は不幸にも日米安保を十年やりました。北米局に二回行って、ワシントンにもおりました。海兵隊が日本の防衛に役立っていないということはありません。これが抑止力として十分機能しております。したがって、その点については私は意見を一致いたしません。  しかし、沖縄県民のことを考えろという御指摘はそのとおりだと思います。我々、私も十年やりましたけれども、自分でもこれで大丈夫だろうか、常に考えて、で、御批判も受けてまいりました。それは、ただ単に一九四五年以後だけではなくて、その前からある沖縄と本土の関係、この問題を我々が正確に理解、我々というのはヤマトンチュですが、正確に理解することは絶対に必要なことだと思います。  しかしながら、それと、それを理解することと日本全体の安全保障を考える、これは別でございます。
  300. 片山虎之助

    片山虎之助君 富坂さんはどうですか、今のところ。
  301. 富坂聰

    公述人富坂聰君) 非常に、正直ちょっと難しい問題だと思うんですけれども、少なくとも、やはり私は、沖縄の負担というものを、地理的な問題もあると思いますけれども、やっぱり別の地域が、県外が一部受け入れていくと、少なくとも姿勢だけでもそれは見せていかないと、なかなかこれ、これ以上に押し付けていくというのは難しいと思います。
  302. 片山虎之助

    片山虎之助君 孫崎さんと宮家さんは外務省御出身ですけれども、私はもう外務省というのはかねがね隠蔽体質だと思っているんですよ。TPP、前の政権のときから今の政権に至るまで情報を出しませんわね。私は、事は外交交渉で、秘密のこと多いと思いますよ。しかし、もう少し出して議論をしないと、国民は困りますよね。OBからしっかり言ってくださいよ。二人の責任ですよ。よろしくお願いします。  終わります。
  303. 石井一

    委員長石井一君) 時間を短縮していただいた御協力に感謝し、最後舛添要一君、お願い申し上げます。
  304. 舛添要一

    舛添要一君 ちょうど一月前に北京に行ってまいりました。唐家センさん始め向こうの要人と公式、非公式に何とか日中関係を良くしようということで話をしましたし、それから、これからは若い世代が日中関係の鍵を握ると思っておりましたので、清華大学で学生を集めて講演しました。私の率直な印象は、肩肘張らずにいろんな議論をすればいいじゃないかと。だから、歴史認識についても、もう中国の学生はみんな私に食って掛かるかなというぐらいの予防線を張って行ったけど、全然そんなことはない。本当に日本の学生と大学で講義しているのとほとんど変わらなくできたということなんですが、私は大きな宿題を持って帰ってきました。それは、どうすれば日中関係を良くすることができるか。その後、閣僚の靖国参拝があったりいろんなことがありまして、私が知っている限り、唐家センさんはその後、日本の政治家と会うのを拒否していると思います。非常に残念なので、そういうことを打開する。  そこで、尖閣の問題について、我々の主張は、それは近代史においては少なくとも日本の固有の領土であるということを言い続ける。しかし、中国は、いや、ちょっと待ってくれと、五百年前考えてくれというようなことで、これは意見が違うんです。そうすると、彼らは領土問題そこにあるじゃないかと、先ほどちょっと宮家さんがおっしゃったように。こっちはないと。こういうことをやっていたんじゃ、そこから全然話が進まない。そこで、我々を含めて、国会議員を含めて、与野党を超えてちょっと知恵を働かせようじゃないかということで、その後一か月、一生懸命知恵を絞りつつあるんですけど、なかなか、さあどうするものかというのがあります。  それからもう一つ、これは日本国民にも是非理解してもらいたいのは、戦争をしたと。アメリカとは正面から戦争して日米戦争、太平洋戦争なんですけれども、日本人の中国に対する意識で戦争したという意識が余りないんじゃないかと。つまり、日華事変とか事変のレベルであって、何か内乱みたいな感じで、しかし戦争ですから、中国にとっては正面から戦争している。だから、その戦争観自体が違うんで、そこはやっぱり歴史認識のずれが出てくるような気もしています。そういう思いを抱いて、前の丹羽大使は領土問題あるとはっきり認めなさいというようなことをおっしゃったと思いますが、それはそれで日本政府の立場は違う。  さあそこで、この尖閣の問題をどう解きほぐしていくのかということで、是非お三方のお知恵も拝借したいということで、三人の方々の御意見を賜りたいと思います。
  305. 孫崎享

    公述人(孫崎享君) 私の結論は、一九七二年、一九七八年、日中において起こった棚上げ、これに戻ることが紛争を回避する最大のものだと思います。お互いに自分のものだという主張をしている、これは一九七二年のときにもそのような認識をしたんです。もしもこの問題を正面から切っていったら日中の合意ができないということで棚上げするということに日本の外務省も踏み切ったということですから、その問題に戻って友好関係を発展させる、それが最大だと思っています。
  306. 宮家邦彦

    公述人(宮家邦彦君) 私は、一九七〇年代の棚上げ論はもう機能しないと思っています。先ほど富坂さんからもお話がありましたが、一九九二年に領海法を作った。そして、なぜ作ったかというと、実は一九九二年にアメリカ海軍はフィリピンのスービックから出ていったときなんですね。つまり、そこでパワーバキュームができたことによって中国が動いた、これが第一ですね。それから第二は、二〇〇八年の末に領海に入ってきた。これはまた大きな話でありまして、私、個人的には、台湾で政権が替わったことによって中国側はより自己主張を強めたと思っています。今や一九七〇年代の話はもう元へ戻らないと思います。  それでは、棚上げが絶対駄目かということは、私はそれは否定しません。新しい形の棚上げがあってもいいと思います。しかし、それは七〇年代の棚上げではなくて、二〇一二年、一〇年、二〇〇八年、この問題をよく念頭に置いた上で日中間で考えていく問題であって、一九七二年のように中国がその能力を持たなかった時代の議論をしてももう始まらないと思います。もし戻るんだったら、彼らは一九九二年の領海法を破棄してもらわなきゃいけない、それが私の考えです。
  307. 富坂聰

    公述人富坂聰君) 私は、棚上げというのはもう最終決着地点としては現実的だと思うんですけれども、これは変な形でそれを持っていっても、ある種のヘルペスのように人間の抵抗力が落ちたときには必ずうわっとなると思うんですね。  それともう一つは、やっぱりこれはガバナンスが効いているのかどうかということですね。例えば、海で誰か少しでも勝手なことをやったときには一瞬にして火が付くと思うんですね。だから、例えば本当に指の先まで政権がガバナンスしていてきっちり守れるのかというと、私は、今後の中国は極めて苦しい状況にあるというふうに見ています。  一方で、じゃ危機を高めればいいのかと。危機を、これはコントロールできる範囲で危機を高めるなら本当に高めた方が解決には進むというふうに思いますけれども、やはり今この危機を高めたときに、多分コントロールできない危機に転化していく可能性の方が高いと思いますので、ある意味消去法での棚上げという意味ではフェードアウトというか、それが一応現実的かなというふうに見ています。
  308. 舛添要一

    舛添要一君 終わります。ありがとうございました。
  309. 石井一

    委員長石井一君) 以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。  また、委員各位の、質問者各位の御協力により時間以前に終了できましたこと、感謝申し上げたいと存じます。  この際、公述人方々に一言御礼を申し上げます。  本日は、有益な、そして活発な、個々の意見の違うところもたくさんございましたが、委員にとりましては誠に有益な御意見をちょうだいし、誠にありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。(拍手)  次回は来る五月七日午後零時四十五分から委員会を開会することとし、これをもって公聴会を散会いたします。    午後四時散会