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参考人(
山形辰史君) ただいま御紹介にあずかりました
日本貿易振興機構アジア経済研究所の
山形辰史と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
私は研究者でございまして、しばしば外務省から
ODAの
評価の
事業を担当するということを何度かいたしまして、そういったようなプロセスを経まして
ODAに関して
知識を得まして、そういったような
経験を基にして、本日、お話をさせていただきたいと思っております。
本日、私が用意しましたテーマは、「トップ・ドナーからスマート・ドナーへ」というものでございまして、お手元に一枚紙が配られているかと
思います。これに沿ってお話をさせていただきたいと
思います。
まず一番目に、「トップ・ドナーでなくなった
日本」。これはもう既に共通
認識として
皆様お持ちいただいているかと
思いますけれども、一九九〇年代は先進国の中の一位であったわけですけれども、現在は五位になっていると。また、これは
ODA総額で比較した場合でございますけれども、これがこの比率となりますと、これが
国民総所得で割った比率となりますと、先進二十三か国中二十一位になっていると。また、この
国際協力、
ODA以外に貿易、投資、例えば、より低所得の国から貿易を受け入れているかどうかといったような基準でありますとか、難民、移民の
受入れがあるかどうか、あるいは平和維持
活動に協力しているかどうかといったような要素を勘案した指標を用いますと、これが二十七か国中、
日本は二十六位になっているというようなことでございまして、
先生方は、御出張、こちらの
委員会のプロセスで
調査にいらっしゃったりする機会が多いというふうに伺っておりますが、私自身も
途上国に参りますと、まず、
日本がこれまで行ってきました
ODAに対して非常に温かい感謝の意を伝えられます。これはもうほとんど例外なくそうだと言ってよろしいかと
思います。非常に感謝されている。これは事実なんですけれども、一方で、我々が
認識しなければいけないのは、そういったような感謝は、そういった
途上国からほかのドナーに対してもなされているということです。
例えば、中国の
援助に関して、
日本に対してはいろいろその短所ですとかを
受入れ国が我々に伝えることがあったとしても、それはその被
援助国が中国の
援助を感謝していないという意味では全くありませんし、中国に対してその被
援助国がどういうふうに気持ちを伝えているかというと、私
たちに伝えているのと同じような感謝の気持ちを伝えているだろうという
認識をまず私
たちは持つ必要があります。
日本が
ODAの額としても減少しているわけですけれども、これは仮にかつての額を維持していたとしても、今現在はほかのドナーが増えていますので、中国のみならず中東諸国もそうですし、ラテンアメリカ諸国もそうですし、民間のフィランソロピーの資金もかなり増えている。ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ・ファウンデーションですとか、ヘルス、保健の
分野ですとかなりの額を出している。そういう中で、相対的にどうしても
日本の地位というのは下がらざるを得ない、そういう
状況の中に我々今後も置かれるんだろうというふうに思っております。
日本もこれから非常にこの
ODAの額を増やしていくということは、恐らくどんどんとドラマチックに増やしていくということはできないというふうに考えるとしたならば、我々は、
トップドナーであることから違うタイプの行動様式に転換しなければいけないというふうに思っておりまして、それを私は本日スマートドナーというふうに申し上げたいということでございます。
では、どういうスマートドナーになるべきなのかということですが、手本として私が考えますのがヨーロッパ諸国です。なぜかと申しますと、ヨーロッパ諸国は通常、多くの国が最初から小さいからです。小さい国がドナーとしてどういうふうに立ち働いた
らいいか、行動した
らいいかということを欧州諸国は知っている。そういう小さい諸国がどうやって大きいドナーと今まで対抗してきたのかということを申し上げますと、二点ございます。
一つは、量で勝負できなければアイデアで勝負するんだと。例えば、北欧のドナーは自負を持っている。それは、私
たちは額ではかなわないけれども、人権という意味ではほかのドナーよりいい
援助をやってきたんだという自負を持っておられるわけです。それが
受入れ国にどういうふうに
評価されるかというのは、いろいろなケースがあるかと
思いますけれども。
また、フランスは国際連帯税ということで、
国際協力のための財源を増やそうというふうに提案をして、一定程度実行しておられる。航空券に税金を掛けるですとか、それから金融取引に税金を掛けるといったような案が出ているということでございますし、イギリスはグレンイーグルス・サミットのころに債務免除、この二〇〇五年のころの債務免除は
世界銀行ですとかIMFへの債務であったかと
思いますけれども、そのほか、革新的資金調達ですとか一般
財政支援といったような新しいアイデアをヨーロッパが出していくことによって、額で勝負するのではなくてアイデアで勝負しようという政策を取っているというふうに私は考えております。
次に、小さいドナーは、一か国では力が弱いということで協調行動を取る、それによって小さい貢献を大きく見せるという政策を取っていると
思います。これは、そもそもEUという連合体をなぜヨーロッパがつくらなければならなかったかといえば、アメリカには小さい国だけでは対抗できなかったからということで、それがこの
国際協力にも適用されているかと
思います。したがって、EU自体も
援助をしている、それからそれぞれの国も
援助している、これを使い分けているということがヨーロッパの取っている政策の
一つであるというふうに考えております。
具体的に申しますと、先ほど
杉下先生が
選択と
集中ということをおっしゃいました。私、ニカラグアの
ODAの
評価をいたしましたときに、スウェーデンが、二〇〇七年ごろだったと
思いますけれども、ニカラグアから撤退するという判断をして、それをニカラグア
政府に伝えるという
時代に
ODAの
評価をしたことございますけれども、そのときにスウェーデンは、いろいろ政策に関してニカラグアに注文を付けると同時に、EUは残るんだと、スウェーデンは撤退するけれども、EUは残るから自分
たちはEUを通じて今後も協力していきますという姿勢で、
選択と協調の、実際のトランジションと申しますか、プロセスに足を踏み出すことができるということでございまして、この協調行動を
選択と
集中のためにも用いているということを目にいたしました。
それでは、
日本が他ドナーと協調して
援助を行うということにどんなメリットがあるのか。私は、これから相対的な
日本の地位が下がっていくとしましたら、ほかの国と協調せざるを得ないというふうに思っておるわけなんですけれども、これまた具体的に私が目にしました事例で申しますと、二〇〇六年に私はマダガスカルの
ODAの外務省さんの
援助評価の
評価主任をいたしましたんですけれども、マダガスカルにおいて
日本は
トップドナーではありません。
トップドナーの
一つがフランスでありまして、
一つここでちょっと記しましたアロウトラ湖という湖の周りでフランスが米の生産のプロジェクトをやっておりまして、その隣で
日本は、フランスよりはちょっと
規模の小さいプロジェクトを始めるところでございました。
そういったようなときに、私もその
ODA、そのときの
評価で提言し、それを採用されましたのは、これから
日本が始めようとしている米のプロジェクトをマダガスカルの中で宣伝する際に、フランスと協力して、フランスのプロジェクトとペアにして宣伝すべきだと。なぜならば、フランスのプロジェクトは大きくて、既に一定程度の成果を上げており、
日本はまだこれからという
状況だったんです。そうしますと、フランスの、何といいますか、既に上がっている成果を
日本がこれからやることの推定値と申しますか将来像として使うことができるというような形で、小さいドナーである方が
援助協調をより有効に使えるということがございます。
また、より最近の例ですと、昨年十一月の釜山
援助効果向上ハイレベルフォーラムがございましたけれども、その際に、これは私、非常に
JICAあるいは外務省の皆さん偉いなと
思いましたんですけれども、韓国がリーダーシップを取って行ったこのハイレベルフォーラムにおいてアジェンダを決める際に、日韓米の協力によって、このアジェンダに沿ったような本を出版し、それをこのフォーラムの際のロードマップにするといったような
取組がありまして、実際、ヨーロッパが行っている
援助協調、それに対して
日本がくっついていくといったタイプの
援助協調ではなく、むしろ
日本側がより有効に
日本の協力を使えるような
援助協調というのが、今後のトップではなくなる
日本の行動として意味があるのではないかというふうに思っております。
まとめさせていただきます。
スマートドナーを、今申し上げましたようなものを具体的にどういうふうに定義するかと申しますと、他ドナーと時には競争し、時には協力するというスマートな振る舞いをする。
以前は、
日本は
トップドナーでありましたので単騎独行でよかったわけです。
日本がまずは先導し、ほかの小さいドナーが
日本を見ながら、じゃ、自分の国はどうしようかなというふうに考えるということでよかったわけですけれども、それが
トップドナーではなくなったとすれば、周囲のドナーがどういう行動様式を取っているのか、どういう気持ちでいるのか、どういう
状況にいるのかというのを敏感に察知しながら
日本が
援助協調をする。この国に今この
分野で協力を仕掛けるべきだというような
取組をすべきだと。
これは、じゃ、難しいことなのかと申しますと、
日本企業は通常
海外でやっていることだろうというふうに思うわけです。
日本企業が必要に応じて、現地の
企業ですとかあるいは競争相手と時には提携するといったようなことは常々行われていることでございます。
トップドナーでなくなる、これがもう致し方ない
状況だとしたならば、また私としましては、
日本が挑戦者的な新興ドナーとして、行動様式といいますか、心構えを変えてスマートに
援助をしていくべきだというふうに考えております。
以上です。ありがとうございました。