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参考人(
村瀬誠君) 十三年ほど前からバングラデシュで天水を生かして、アマミズは天水と書きますけれども、天水を生かして安全な飲み水を全ての人に提供すると、そういうプロジェクトに取り組んでおります天水
研究所の代表の
村瀬です。今日はよろしくお願いします。(
資料映写)
本日は、天水活用の
国際協力のこの事業をどうやってサステーナブルに展開していくのかという視点から、ソーシャル
ビジネスの手法について
お話をしていきたいと思います。最後に幾つか問題提起をさせていただきたいと思います。
バングラデシュは、この
スライドにありますように、本当に開国以来、ちょうど去年で四十周年なんですが、もう深刻な水問題をずっと抱えているんですね。今でも大体六万人ぐらいの方が下痢で亡くなっております。一番右上のこの写真ですね、これ病院ですけれども、大体下痢患者ですね。昔はコレラだったんですけれども、最近は大腸菌だとか原虫類が多いですけれども、悲惨な状況があります。
それから、この赤いペンキは、実は井戸に赤いペンキが塗ってあるのは砒素で汚染されているということなんですね。有害な砒素です。これが六十六県のうち五十五県が汚染地区ということで、深刻な事態になっているんですね。この赤いペンキの井戸だけでも百四十万本ぐらいの井戸がこういう状態になっています。五万五千人ぐらいの方が砒素中毒の患者になっているということですね。こういうふうに、これはもう最終段階で、砒素の中毒って皮膚に沈着しまして、私は薬剤師なんですけれども、最終的にはがん化して亡くなる場合があります。治療が非常に難しいです。
もう一方、最近、これは今日のこの
委員会にも関係すると思うんですが、気候変動で
海水面がどんどん上昇していまして、塩害が深刻なんですね。ひどい場合は、
海水が大体三万五〇〇〇ppmなんですが、ひどい場合は一〇〇〇〇ppmも超えるときがあります。私も実際飲んで、池の水がみそ汁のような味してしまうわけですね。当然、腎臓がやられてしまいます。
その一方で、この一番左の上にありますような水くみですね。近いところでも一キロぐらい、下手したら一日二回、もっと遠いところは四キロを毎日歩くわけですね。これは女性の労働に対して、子供たちにとっても大変な負担になっています。こういうふうに深刻な水問題を抱えているわけですね。
で、ほとんどこの状態が改善されていないんですね。この図は一九九〇年から二〇一〇年ぐらいまで取ってあるんですが、いわゆるその安全な水が確保されていない人たちの
人口の割合が二三%ぐらいから、このグリーンのスポットですけれども、ほとんど変わっていないんですね。ダッカとかこういう
都市部は
水道が入って、まあ
水道も完璧じゃないんですけれども、ほとんど農村
地域ですね、こういうところでは一向に改善されていないままこういう現状になっているということです。これ、バングラデシュ政府が決めた目標と約一〇%ぐらいギャップになっているということがあります。なぜこういうことになるかというと、
水道の
インフラが来ない、非常に効率も悪いわけですね。ですから、今のような考え方でやる限り、多分これずっとこういう状態じゃないかと私は思っております。
そういう点で、私、今日申し上げたいのは、唯一の解決策は私は天水にあると思っています。天水ですね。この写真にありますように、空に無数の安全な蛇口があることに
世界の人が気が付けば、飲み水だけですけれども、相当救えると思っています。発想の転換なんですね。
天水は、御存じのように、海の水や川の水が蒸留、大気中に持ち上げられたものですから、砒素も入っていないですし、もちろんふん便の汚染もありませんし、塩分の問題もありません。したがって、ある
意味じゃ誰もが、本当に貧しい人から
お金持ちの人まで誰もがアクセスできる、非常に簡単に、しかも設備も簡単に取り付けられる。
水道設備のように配管も要りませんし、あるいは巨大な
浄水処理装置も要らないわけですね。私は、このバングラデシュの農村部においては、塩分問題は特にそういう点からいえばもう天水しかないと思っております。
海水の淡水化というのも
一つの方法としてあるんですけれども、これは膨大な
お金が掛かります。それから、ここはしょっちゅう停電がありますので、こういういわゆる
日本のハイテク
技術はほとんど適用は難しいと思っています。メンテナンスの問題も含めていきますとコストの問題もかかわってきますので、そういう点では天水はただですから誰でも使えるということで、私は非常にメリットがあると思っています。
ただ、
日本のように何でもかんでも天水で使おうとすると、これは無理です。バングラデシュの屋根もそんなに大きな屋根がありません。ただ、トタン屋根なんですけれども、通常の住宅の屋根ぐらいの大きささえあれば、年間降水量が二千ミリ近くありますので、
東京の一・五倍ぐらいですね、一・五倍も行かないか、一・二五倍ぐらいでしょうか、ありますので、非常に天水のポテンシャルが高いと。飲み水だけであれば、質的にも量的にも賄えると思っているんですね。
これは、私、六年前に完成した、六人家族が一年間通じて飲み水を賄えるタンクです。大体四千四百リッターあります。これさえあれば乾季も乗り切れるわけですね。御存じのように、バングラデシュというのは雨季と乾季がありまして、半年間はほとんど雨降らないので、どうしてもこういうタンクが要るわけですね。私はこのタンクの普及をドネーションでなくて、このタンクを販売しております。
今日、
一つ申し上げたいのは、今までの
国際協力の基本はドネーションだったのですけれども、私はこの考え方を変えていかなきゃいけないと思っております。理由は幾つかあるんですね。
一つ目は、このドネーションというのは、ある
意味ではオーナーシップが働かないんですね。ですから、いわゆる管理されていかないという問題点があります。このドネーションの中にはアフターフォローとかモニタリングの経費が入っておりませんので、私、数多く見てきましたけれども、これはバングラに限らないんですけれども、例えばひびが入ったり、あるいは故障、雨どいが外れたとしても修理されないんですね。結果的には使われなくなっている、そして放置されていくという事態がたくさんあります。これは大変な
国際協力の資金がせっかく使われているのにかかわらず、建物が造りっ放しで、後は朽ち果てていくのをたくさん見てきました。これはまさに、こういう状態を突破するには、私はやっぱりドネーションだけのやり方は限界があるんじゃないかと思っているんですね。そういうことで、こういうソーシャル
ビジネスの方法に踏み切ったわけです。もう
一つは、ドネーションによってオーナーシップが育まれるということですね。
もう
一つの問題点は、ドネーションはずっと続かないんですね。通常、
国際協力の資金の期限が大体三年なんですね。三年過ぎると、プロジェクトも終わると資金も切れて、結局、天水のプロジェクトそのものが消えてしまうという、これは天水に限らないんですけれども、そういうスタイルがあります。これは役所のスタイルなのかもしれないんですけれども、いわゆるサステーナブルじゃないわけですね。非常に無責任なわけです。私はそれを、何としてもその
国際協力の枠組みを変えていかなきゃいけないと思っています。これは是非御論議いただきたいと思うんですが。
これは、この写真見ていただくと象徴的な絵ですよね。これ実は、私、百基ぐらいこれを付けたんですけど、通常こういうペインティングはしておりません。実は、ここの女性がこのペインティングしたんですね。私がこの現地に行ったら、済みませんと言うわけですね。
村瀬さんのタンクに絵かいちゃいましたと言うんですね。どうしてかいたんですかと聞いたんですが、村医者の奥さんなんですが、自分自身この天水を飲むことによって下痢が止まった、それからもう
一つは水くみ行かなくて済んだ、ですから、私は非常に天水に感謝しているんだと。その気持ちも込めて、天水は花を育むんで、命を育むんで絵をかきましたと言うんですね。それが
一つの理由だと。
もう
一つの理由があると。これは私は非常に感銘を受けたんですが、この地区は二〇〇七年にシドルという巨大なサイクロン、台風に遭いまして、村が全滅したんですね。池の水も全部
海水が入っちゃいまして飲めなくなってしまったんですね。国連のユニセフが幾つか、たくさんじゃありません、幾つか無料でこの同じようなタンクを付けていったわけです。村人たちは、このお医者さんの奥さんのタンクを見て、あなたは
お金持ちのくせに、ある程度
お金あるのに、あなたはユニセフからもらったんでしょうというふうに言われちゃったんですね。この方はそれに対して、いや、そうじゃなくて、これは
お金を出してでも自分の命を守る価値があるんだと、そういうことでこのタンクに絵をかいたというんですね。まさに私はこれはすばらしいオーナーシップの表れじゃないかと思いました。
これ、このコンクリートのタンクですね、大体二万タカ、今ちょっとレート変わっていますけれども、タカがほぼ同じ円と思ってください。これ大体二万円ぐらいします。今はセメント上がっていますから、三万円ぐらいするかもしれませんが、まあ二〇〇八年の時点では二万タカぐらいだったんですね。
ただ、いろんな人と話していると、いや、
村瀬さんのタンクはいいんだけど僕らは買えないよという話があったんです、高過ぎると。もっと安いタンクを
開発してくれないかという問題提起があったんですね。昔からバングラデシュの人たちは、モトカという、こういう素焼きのかめで飲んできた
歴史があります、天水をためて。
これもちょっと
お話の
紹介で、是非
紹介したいことなんですけれども、天水いっぱいにしても自分は飲んでないんですよ。なぜ飲まないんだと聞いたら、これ一番いい水なんで、お客さんが来たときとお友達来たときこれを飲ませるんだと言うんですね。自分たちは池の水で我慢する、ポンド・サンド・フィルターの砂でろ過した水で我慢するんだと。私はバングラデシュの農村の人たち、すごく優しいな、温かいなというふうに思いました。
何としても、この容量じゃしようがないんですね、百リッターぐらいですから。ただ、このモトカというのは素焼きですからすぐ割れちゃうんですね。ですから、これじゃしようがないと。ですから、何とか安くて、そして容量がもっと大きくて、これはモトカの、ジャンボモトカですね、そういうものはできないだろうかということで
世界中調べた結果、結論は、タイにあったジャイアントジャーという素焼きじゃなくてモルタル製のかめなんですね。これを私はタイからバングラデシュに移転して、それを広げられないかと思って、バングラデシュの左官屋さんを二人タイに派遣しまして
技術移転に成功しました。これがこの造り方のステップなんですが、マザーモールドという母型の型を造りまして、それを基にしてこの外枠の型を造るんですね、
左側ですね。この型を立ち上げまして、そして泥を塗って、その上にモルタル
処理して、乾いた後、この内側の型を抜くとでき上がるんです。ちょうどリンゴの中をくりぬいたような形、実だけくりぬいたような形で、非常に強固です。これはタイならではの
技術ですね。ちょっと
日本にもバングラデシュにもない
技術ですけれども、この移転に成功しました。そして、現在、このAMAMIZUのプロダクションセンターをつくりまして、量産が始まっております。
これが設置風景ですね。非常にシンプルです。屋根に降った雨を、これはフレキシブルパイプといいまして、通常は、今これは外側に出してますね。ここはインレット、入口なんですけど、この白いパイプは外側に出しております。大体十分くらい外に水を流しっ放ししまして、きれいになった時点であの中に差し込めば、きれいな天水だけがたまるということになります。
これも、分割払でより多くの人たちが買えるようにということで、最初に二千タカ払ってもらいまして、ダウンペイメント、その頭金を払ってもらいまして、利子はありません、六か月間で返していただくと。大体住民の皆さんと
議論すれば、三千タカぐらいなら何とか買えるかなという話がありましたので、まずそこを目指したわけですね。これで今現在動いております。
いろいろ、このプロジェクトはJICAの資金協力もいただいてやっているんですが、この準備
調査の中で非常に興味深いデータを手にしました。この
スライドがそうなんですけれども、私は
お金なくて厳しいよという女性とか男性が言っているわけですが、実は、その方が一年間に払っている水のコスト、水くみに千二百五十タカ払って、実は下痢が一年間で五回ぐらい、平均です。そうしますと、千七百五十タカで、両方で三千タカ実は払っているんですね。もし、このAMAMIZUタンクを普及していけば、いわゆるこういうコストが削減されますし、いわゆる水くみからも解放される、下痢からも解放されるということで一石二鳥な効果が分かったんですね。
去年、雨季からスタートしまして、これ見て分かりますように、雨が降り出すと、皆さんどんどん欲しいということで、去年だけで約二百件付けております。これも非常にローテクです。運ぶのも、リキシャそれからエンジンボートを使って、こうやって運んでおります。エンジンボートも、いろいろ皆さんとこうやっていく中で九基まで運べることが分かったんですね。一個が二百五十キロありますので相当重いんですが、九個運べます。この積卸しをどうするんだっていうんで、ちょっと私も頭を悩ましたら、バングラデシュの人たち、村人たちがみんな参加で積卸しも協力してくれるんですね。非常に皆さんが協力的です。
あるいは、この
左側は、十キロ離れますととても運び切れないので、サテライト
工場とストックヤードを造っています。去年は、地元の小学校から運動場の半分を是非使ってください、村人たちの命を救うためなので使ってくださいということで、現在ここを拠点にして、サテライト
工場が開いて、その近くにストックヤードもあります。現在、五百基ぐらいもう生産が進んでおります。
この
技術がちょっと特殊なので研修が要るんですね。ですから、AMAMIZUの研修センターも去年つくりました。去年だけで九人卒業しまして、私の
会社で雇っております。ですから、このように、こういうAMAMIZUを造り、トレーニングすることによって、地元の雇用機会にもなるんですね。
最後の
スライドになりますけれども、今後、私自身やっぱりこれを持続的な
取組にしていかなきゃいけないということで、まず現地で法人をつくろうと思って今準備しております。今月中に天水
研究所の現地法人、スカイ
ウオーター・バングラデシュが誕生する予定でおります。ここでこのタンクを販売、設置しまして、そこの得た収益の一部をNGOの雨水市民の会バングラデシュという、そこに還元しまして、そこで左官工の職業訓練とオーナーシップの育成を図るというふうな
取組で現在プロジェクトを進めております。
それで、最後になりますけれども、
国際協力、この私自身の経験から
一つ結論といいますか、自分なりに得た経験から言えることをちょっと申し上げたいと思うんですが、やはりこれからの
国際協力の支援の
在り方、これをやはりドネーション一辺倒から、ソーシャル
ビジネスを含めた、インテグレートされた、そういう
国際協力の
在り方に転換していくべきじゃないかと思うんですね。これが一点です。
そのキーワードが
三つあります。
一つはサステーナブル。もう
一つはアフォーダブル、つまり住民がアフォーダブルに受け取れるレベルですね。
お金の問題もあるし、
技術のレベルの問題もありますし、管理も難しいものじゃアフォーダブルじゃありません、非常にシンプルなものが必要です。それから、省エネであることも大事ですね。それからもう
一つ、もっと大事なことはオーナーシップですね。この
三つを挙げたいと思います。
こういう観点から、今までの資金援助の
在り方なんですけれども、どちらかというと、資金援助の内容が施設の建設だけで終わっちゃっているんですね。やはり、これからはそれだけじゃなくて、いわゆるその設備、施設のメンテナンス、あるいはオーナーシップの育成、こういうところにきちんと
国際協力の資金の対象にもしていって、フォローをしていくべきじゃないかなというふうに思っております。
御清聴ありがとうございました。