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参考人(
加藤秀治郎君)
東洋大学の
加藤です。
時間がありませんので、早速本題に入らせていただきます。
加藤一彦参考人の陳述とダブる点がありますので、その点は省略をさせていただきます。
まず初めにですが、
衆参の
ねじれについて、私は非常に重大な問題だと思っていまして、
ねじれの場合は、簡単に言いまして国政は麻痺していると思っております。
参議院については、弱い第
二院ではなくて、何らかの
改革が必要だと思っております。
それで、
衆議院の総
選挙になりますと
政権選択と言いますが、実はそうでないぐらい
参議院が強くなっていると思います。
衆議院の
優越は
形式的な
法律論でありまして、長らくそれに気付かないでいたのは、
自民党が
衆参で十分な議席を得てきたからであります。それで、
自民党、公明党の
連立政権が成ってからですが、
優越している
衆議院の総
選挙でも自由に
政権を選択できるという
状況にありません。
ドイツの場合ですと
連邦参議院だけで決まりますので、
連立している
政権同士も全く
競合関係に入ります。
ということで、私は、
衆議院の
優越は
部分的であり、半
優越とでも呼ぶべきもので、
法律の
議決で制限されていますから、ということで、総
選挙で勝った政党もまた、
首相は出せても円滑な
政権運営は保証されないというのが現状かと思います。
それで、
国会のことを
議論するとき、私は、
立法府だということで
法律を作るところだという
イメージを持たれると思うんですが、同じ
議会といいましても全く異なる
二つの類型がありまして、どちらも
日本人にはなじみがあるんですが、どういうわけか、
議会については
アメリカと
イギリスの
相違をほとんど認識しないまま
議論がされています。
基本的には、
議院内閣制か
大統領制かによって根本的に異なるわけでありますが、
議院内閣制の場合、極端なことどうなっているかといいますと、
イギリスのバジョットの有名な本で、「
イギリス憲政論」でありますが、下院の最も重要な
機能は
立法機能ではなくて
首相の
選出である。
首相の
選出は総
選挙が終わりますと自動的に決まりますので、
議会をやっているようなものではありません。ということは、狭義の
立法機能はどこが担っているかといいますと、
与党の
内閣が実質的に担っているわけです。
ということは、
イギリスと
アメリカは全く違うわけで、分けて考えなきゃいけないのでありまして、この点、ポルスビーという
アメリカの
政治学者が非常にきれいな形で
二つを分けて
議論しています。
日本の
国会についての
議論が混乱しているのは、この
二つについての
相違をわきまえない
議論が多いからであります。
立法作業の
議会、これは
ドイツ語的な表現を使いますが、
アメリカでは、英語では
変換の
議会と言いますが、
立法の必要な問題を明確にして
法律にしていく
役割を独立的に果たす
議会が
変換の
議会。
アメリカが典型で、社会の
要求を
法律にする。オランダ、スウェーデンもです。
これに対して、
イギリスは論戦の
議会でありまして、アリーナ、闘いの
議会というふうに言います。
議会は公式の論争の場でありまして、有権者に
対立点を明確に示せればそれでよいと考えるもので、ベルギー、フランス、
ドイツ、
イタリアなどがそうでありまして、ここは
立法部とはいうものの、
議会では
与党は
内閣の
法案を成立させることが任務でありまして、
野党は、それを阻止したり
修正したりするということよりも、
批判をするということであります。
五五年
体制下の
野党とちょっと混同されがちですが、阻止、
修正ということではなく、次の
選挙のための
批判をするというものであります。このような
議会は
政権交代が可能でないと意味を持ちませんので、
日本ではなかなか理解しにくかったかと思いますが、現在はその
状況が整いつつあると思います。
それで、
両院制、
三つありますが、先ほどの
お話にもありましたので、
貴族制、
連邦制、
参議院型ということでありますが、
日本の場合は
参議院型というのを取っているわけでありますが、創設時にほとんど
議論がなされていないで、どんな
両院制にするのかということが
議論されていません。戦前は
貴族院型ですから、民主的な
方向への変革を
衆議院が進める、それをチェックする、保守的なチェックをするのが
貴族院というんですが、それに代わる
参議院として何をやるのか、非常に曖昧なまま推移をしてきていると思います。
それで、
参議院の
選挙制度についてはすぐ
独自性というようなことを言いますが、これは混乱のもとでありまして、そこに
イタリア出身で
アメリカの代表的な
政治学者サルトーリという人の定式を引きましたが、一方の
優越が明確で
両院の
権限が不
均衡、
衆議院がもっと強ければ
両院の
勢力の
構成は似ていなくても構わないけれども、似ているならば似なければいけないということでありまして、私なりの訳のようなことを掲げますと、
参議院の
権限が弱ければ
ねじれは放置してもよいが、
権限が対等なら
両院で与
野党の似たような
勢力関係を保たなくてはいけないということであります。ですから、
参議院だけ独自の
選挙制度などということは根本をわきまえない
議論ではないかと私は思っております。
憲法制定の経緯では、
先ほどお話がありましたが、マッカーサーが
一院制でいいんじゃないかというとき、部下が、まあ
日本に譲ってもいいというところで、
参議院つくりたいという話を出てきたとき割と簡単に認めますが、そう検討しないままで来たもので、
憲法上、
参議院の
権限は強力なのでありますから政党化するのは必然的であります。しかし、政党化されない
参議院が可能であるような形で
日本では
参議院のことをずっと
議論してきたと思います。
それで、
改革の
方向性としましては、暫定的な結論を申し上げますと、私は
権限関係を変えることは絶対必要だと思っております。そして、それは
参議院をただ弱くすることではなくて、両方残す場合も、
参議院の実質的な力を増大させる
可能性があると思っています。遅らせる
議院、
修正の
議院ということであります。それで、
両院制で
組織、
構成を変えようというのですが、これは簡単ではありませんし、下手に変えるとここが問題であります。
二番目は、手続、
運営をどうするかというんですが、これは幾らでもやることがあります。
国会法は非常におかしい
法律でありまして、
憲法上は
議院自律権というのが決められているにもかかわらず、
参議院は
参議院のことを
参議院で決められないということであります。
あとは、
党議拘束を
衆議院、
参議院またいでおります。ですから、やるなら
党議ではなくて
衆議院は
衆議院の
会派規律、
参議院は
参議院の
会派規律としなければいけないと思っております。
あとは、
党議拘束を掛ける時期をいつにするかということでありまして、基本的には
権限を変えなければいけないと思いまして、私は
衆議院の再
議決のハードルを過半数に下げる、それで再
議決の前に
一定の
冷却期間を置くということで、遅らせる
議院として、その間、六十日ぐらいが適当かと思いますが、
世論調査などが行われますから
衆議院も単純に再
議決をしないと思います。そうしますと、六十日の間に
参議院の言っていることの方がいいじゃないかということになれば、
権限は弱まりますが、
参議院の主張したことが実質上実現する道が開かれると思います。
そういうことで、ほかの案を考えるとしたら何があるかということでありますが、
一院制的なものに移行するというんですけれども、
一つは、
日本ではありませんが、
両院合同会。ノルウェー、オーストラリア、ブラジル、インドなどがやっているんですが、各院の
代表者が集まるのではなくて、
両院の
議員がそのまま集まって採決をするという、これであります。これをやるとどうなるかといいますと、
参議院選挙のたびに今では
連立の組替えの
可能性が出ているわけでありますが、今度は
参議院と
衆議院、現在、数を大まかに言って
衆議院二に対して
参議院一ですから、
参議院の変化がもろに、
拒否権を持っている
参議院の力がそのままストレートにでなくてサイズに応じた形で
連立を組めばいいということで、かなり柔軟な形になってくるかと思います。
これをやりながらということで、私は、
思い付きのようなんですが、
参議院選挙のたびに、例えば二〇一三年に当選した方は六年後に半減する、さらに六年後は
改選なしということを決めながらやるとかというようなことをやれば、段階的に、いきなり
廃止というよりは円滑にいくのではないかということで、
思い付きのようでありますが、こういうことを書いたことがございます。
結論的にどんなことが言えるか。私の考えですが、まず
三つの案でありますが、一番目が、
衆議院の再
議決の要件を過半数にする、再
議決までに六十日の
冷却期間を置くということでありまして、これをやりますと、
両院を存続することになりますが、
参議院は
修正の
議院ということで、
権限は弱まりますが、実質は強くなると思います。これは、私がこれまで
参議院議員の方にこの案を述べさせていただいたことがあるんですが、
最初は、結論を言いますとほとんどの方は賛成しませんが、三十分なりなんなり掛けて
お話ししますと、それもいいですねということで、かなり御理解をいただけると思います。
二番目は、
両院協議会の
改革で、これは
国会法の改正でできることでありまして、現在の
国会法の
両院協議会は、まさに
機能しないように工夫してつくったような
両院協議会になっておりまして、これでは動かないのは当然であります。
御承知のように、各院を代表する
協議委員ですが、半数でございますが、賛成側から十人、反対側から十人出てきて、
成案は三分の二なきゃいけないということで、これでは動きようがありませんが、ここにも
衆議院の
優越というようなことを少し盛り込んでもいいのではないかと。それで
成案が出る
可能性が出てきます。
あとは、
成案の条件は過半数に下げて、どうせその後、
衆議院、
参議院とその案を審議するわけですから、ここでの規定がそのまま生きるわけではありません。したがって、
両院協議会の在り方は早急に改めた方がいいと思います。
それで、三番目が
一院制への移行案でありますが、
二つほど書いておきました。
一つは、経過措置として、先ほど言いましたように、
両院合同会などを設けてそれを活用するんですね。そうしますと、段階的に
一院制に移行するのはスムーズにいくと思います。それで、現在、定数削減のことが
議論されていますが、簡単に言いますと、定数削減しないまま
衆議院議員も
参議院議員も合わせて
一院制にすれば、ここの
両院合同会みたいなものが本会議になるわけですから、かなり難しくなく移行することができるかと思います。それを、
あと一気に行う方法もあろうかと思いますが、いずれにしても
憲法の改正が必要ですが、現在のような形のものを放置するということは非常に問題が多いと思っております。
それで、そこの表で簡単に
二つのタイプを並べましたが、
日本は
議院内閣制を基本としていますから、
イギリスのように
国会は討論するところというところで、
与党が作った
法案を通す、
野党はそれを
批判する、次の
選挙で勝てばいいというものでいいと思いますが、その場合は、下院の
優越を明確にして実質的に
一院制に近い運用にするか、
あとは
一院制にするということであります。
アメリカのようにやれという
議論が
日本でも出るわけでありますが、根本的にどこが違うかといいますと、補助スタッフですね。
日本はほとんどいないに等しいのでありまして、現在公費で雇われている秘書の方は三名いますが、失礼ながら、名前が政策秘書と付いている方も含めて全部総務的な秘書ですね。少し中途半端に増やしたところで
選挙対策に従事するような秘書の方が増えるだけで、
アメリカですと上院
議員は四十七人、平均ですね、下院
議員ですと十七人も秘書がいますから、政策立案というようなことは
議員が担える条件が整っておりますが、
日本はそういう状態にないのに
アメリカのようにやれということで、名前が
立法府だということで、
法律を作るところが
国会だという
イメージにとらわれて
議論していますが。
イギリスの
議会は全くそうなっていませんで、
議員会館なども実にお粗末なもので、このポルスビーが、翻訳もありますが、
議員さんがコートを着て、そのコートをどこに入れるかというと、
議員食堂の横にロッカーがあるだけで、そこに置く。そこで物を出したり入れたりしていると、後ろを食堂のウエートレスさんが通ってぶつかってしまう。そういう状態で
イギリスは
議会が
運営できるということは何かというと、非常にシンプルな、
議員数は多いけれどもシンプルな形で
運営できる
国会というものをつくっているわけでありますね。
ですから、
日本で、
アメリカと
イギリスの
相違をわきまえないで、何となく
立法府なんだからこれをしろ、あれをしろということを言っているのは非常に
議論としておかしいのではないかということであります。
参議院で申し上げるには非常に失礼な
意見を申し上げさせていただきましたが、時間になりましたのでここまでとさせていただきます。
どうも御清聴ありがとうございました。