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玄田参考人 働き盛りと呼ばれる年代が何歳から何歳に当たるのか、いろいろ考え方はあろうかと思いますが、おおむね、二十ぐらいから、六十歳を手前にした五十九歳ぐらいまでは少なくとも
働き盛りの年齢には含まれるであろう。
では、学校を卒業して、
働き盛りであり、ただ、一方で、
仕事はしていない、加えて、
専業主婦のような結婚をしているわけでもない、そういう
方々が一体今何人ぐらいいらっしゃるのか。
総務省統計局が昨年に実施いたしました
社会生活基本調査から試算いたしますと、その数は約二百五十六万人に当たります。ざっと、恐らく
大阪市の
人口と同じぐらいに当たるのではないでしょうか。
では、その
働き盛りで、結婚していない、そして
仕事をしていない、加えて、ふだんの
生活の中でずっと一人でいるか、せいぜい
家族としかかかわることがない方がどのくらいいるのか。それを同じく
社会生活基本調査で試算した結果が、お
手元の
資料の三ページ目にございます。この棒グラフを見ていただくと、一番右側になりますが、今申し上げた、
働き盛りでありながら
仕事をしていない、結婚していない、そして、ふだんはずっと一人か、
家族だけしかかかわる人がいない人が、今、百六十二万人に達しているわけであります。
なかなか、こういう数字だけですと、その規模を理解することは必ずしも容易ではありません。
厚生労働省が計算している
フリーターの数が約百七十万人強でありますので、実際、誰とも
かかわりがない、友人、知人との
かかわりのない
人々が、実は
フリーターと同じぐらい今
日本の中では存在しているわけです。
この、ふだん誰とも
かかわりのない、働いていない
働き盛りの
人たちのことを、私
たちは、今、
孤立無業者というふうに呼んでいます。英語ではソリタリー・ノンエンプロイド・パーソンズ、略して
スネップ、ぜひ
アイドルグループと間違えないようにしていただきたいんですけれども、
スネップというふうに呼んでいます。今、そういう
スネップに当たる
人たちが百六十二万人。その棒グラフを見ていただくと、この十年間で八十万人も急増している現実があるわけです。
実は、この
孤立無業者が急増している現実というのが、今回の
生活保護の問題、
生活困窮者の問題、そして、子供の
貧困の問題と密接にかかわっているということを、少しデータに基づきながらお話をさせていただきたいと思います。
では、こういう
孤立無業者がどういう
人たちなのかということを、少しその性格を明らかにしたいと思います。
資料のページをめくっていただき、五ページを
ごらんいただけますでしょうか。上側の図には、男女別の、先ほど見ました六十歳未満の未婚無業者に占める
スネップ、
孤立無業者の割合を計算したものです。この割合が、二〇〇〇年代から、男性、女性とも急増していることがわかります。加えて、あわせて、各年次とも男性がたくさん含まれます。
ああ、
孤立無業者、引きこもりのことかというふうに思われる方もいらっしゃるかもしれません。実際、引きこもりのように、半年以上ずっと家から出られない方が
孤立無業者の中には多々含まれています。ただ、一方で、ふだんは外に出ている、ですので、見かけた限りでは全く
孤立無業者かどうかわからない。ただ、一方で、調べてみると、誰とも
かかわりのない方もたくさんいらっしゃいます。傾向としては、男性の方が多くこういう
状態にはなりやすい。引きこもりにかかわるNPOなども、やはり男性の方が多いのではないかというふうなことをしばしばおっしゃることがありますが、孤立無業は男性がなりやすい傾向があります。ただ、一方で、女性も含まれます。
加えて、衝撃的なのは、下の、年齢による分布です。
やはり無業者に占める
スネップの割合を計算したものですが、二〇〇〇年代の
前半もしくは中ごろまでは、
孤立無業者は、三十歳を超えると孤立しやすいというふうな傾向がありました。十代、二十代のうちは、子供のころ、学校時代の友人との
かかわりがある。
仕事がなくても、友人が励ましてくれて、頑張ろうぜとか、こういう
仕事があるみたいだよ、そういう話があって、就業に近づくことができた。
ところが、二〇〇〇年代半ばから後半になると、実は、二十代の若者ですら、孤立する傾向が急速に高まっていく。もう三十代とか四十代とか、中高年の問題ではなく、若くして誰とも
かかわりがない、そういう無業者が大きくふえていっているわけであります。
加えて、次のページをめくっていただくと、学歴別の孤立無業、無業者に占める割合が計算されています。
孤立無業者は、かつては、やはり高校中退者、最終学歴でいえば、中学卒の
方々が
孤立無業者になりやすい傾向がありました。学校を中途退学して、そのまま友人、知人との関係を失ってしまい、
仕事もない、ずっと一人である、これが
孤立無業者の中の一つの大きなグループとして存在していました。
ところが、近年、一番最近の二〇一一年の
調査を見ますと、大学もしくは大学院卒でも、
仕事がなくなると、もう誰とも
かかわりがないという
人たちが急速にふえていって、もう特定の学歴の問題ではなくなっているわけであります。
男性が多い、三十代が多い、中途退学者が多い、そういう傾向に加えて、女性もふえている。そして、若年の
孤立無業者もふえている。また、大学に進学した
孤立無業者もふえている。やや語義矛盾には聞こえるかもしれませんが、
孤立無業者が社会に一般化している、もっと言えば、誰でもが孤立した無業者になるという傾向が
日本全体で急速に強まっているわけであります。
この孤立無業がふえた原因として、インターネットの影響があるのではないか、つまり、ネットさえあれば、特定の誰かに会わなくても、いろいろなことが事足りてしまう、インターネットの影響なんじゃないか、そうお考えになる方もいらっしゃいます。しかし、事実はどうやらそうでないようであります。
七ページを見ていただきますと、ふだんどのくらいインターネット、例えば電子メールを使っているか、情報検索をしているかを見ますと、実は、
孤立無業者の方が、友人と
かかわりのある無業者に比べても、インターネットを
利用していません。
孤立しているということは、多分、電子メールを送ろうにも、送る相手先もない、また、いろいろな趣味、関心が広がらないということで、情報を検索しようにも、したい
内容がない。つまりは、インターネットが普及したことが孤立を広げたのではなくて、むしろ孤立者は、インターネットからも遠ざかっている。
今、さまざまな就労
支援、対策など含めて、インターネットを使った
支援というのが二〇〇〇年代へ入って考えられています。ただ、恐らくは、こういうインターネットは、十分には
孤立無業者へ届いていません。実際、みんなが携帯電話を持っていて、パソコンを使っているという時代になっているような印象がありますが、実際には、必ずしもそうではないわけであります。
加えて、重要なのが、次の、
最後の九ページをめくっていただきますと、就職ということとの関係です。
無業者の中には、
仕事をしたいと思っていて、実際にハローワークに行ったり、求人雑誌を見て
仕事を探していらっしゃる方もたくさんいらっしゃいます。一方で、
仕事はしたいとは思っているんだけれども、さまざまな理由で、
求職活動までは行っていない、また、
働き盛りでありながら、もう働くことは無理だというふうに諦めていらっしゃる方もいらっしゃいます。この
仕事を探していない方、また、働くことを諦めていらっしゃる方のことを、通常、ニートというふうに一般的には呼ばれているわけであります。
孤立無業者は、働くことをしていない、働こうとしていない、
求職活動をしていない割合が大変たくさん、多く含まれています。加えて、深刻なのは、
孤立無業者のうち、
家族との
かかわりだけはあるという人の方が、実は、むしろ、
仕事を余り探そうとしていないということが多い。
何とか
家族の支えがあるから、
家族に面倒を見てもらっているうちは、今は
仕事がなくても何とかなる、恐らくそういうふうに思うのは通常であろうかと思います。ただ、
家族の守りがあるからこそ今は働かなくてもまだ何とかなる、そういう
状態が続いているうちに、
家族もいつまでも生きているわけではありません。
家族と不幸にも離死別した後には、大変厳しい
状況が待っているわけであります。
別の
調査を使って調べてみますと、
孤立無業者の中には、
生活保護を受けることはもういたし方ない、もしくは今すぐにでも受けたい、そういうふうに感じている方はたくさんいらっしゃいます。
また、過去の経緯を見ると、子供のころに親友と言えるような人間がいなかった、友人がいなかったに加えて、例えば、中学生のころにふだん会話をする先生や親以外の大人が一切いなかった。子供の
貧困のうち、経済的な
貧困だけではなく、人間関係の
貧困の中で大人になってきて、ずっと人との
かかわりを持つということが非常に苦しいというふうな
状態の中で孤立無業はふえているわけであります。
これから、さまざまな
貧困、
生活困窮を防いでいくためには、この孤立無業の増加に何とかして歯どめをかけなければならないだろう、そういう必要が今まさに迫られていると思っています。
では、一体どういう対策が必要なのか。一つのキーワードはアウトリーチです。
アウトリーチという言葉、自立
支援等々の専門家の中では一般に使われている用語になりましたが、社会全体では全くまだ認識がありません。
支援の提供者が、
支援の場で、
支援を必要としている人を待っているのではなく、さまざまな理由で
支援の場に伺えない人に対して、むしろ
支援の提供者がみずから足を運んで悩みを聞き、
相談に乗り、また
支援のサポートを具体的にしていく。そういう、みずから外に出ていって、困っている人に対して行き届いたサポートをしていくアウトリーチが、まさに孤立無業、
スネップには必要になります。
では、何が大事なのか。そういうアウトリーチのできる人材が残念ながらまだまだ
不足をしています。今でも、引きこもりの
支援者ですとか、さまざまな
状況にある
人たちをアウトリーチし、
支援している
人たちもたくさんいます。ただ、数としては、この
孤立無業者の急増に対してはまだまだ
不足している現実があります。
かつて、若者自立・挑戦プランが策定され、その中でさまざまな若者
支援の対策に国が乗り出すということが二〇〇〇年代半ばぐらいにありました。たまたま、
政府の関係者にこういうお話をさせていただいたことがあります。国が若者の
支援に乗り出すことは大変すばらしいことだと思う、ただ、もう一つ大事なことがある、それは、若者を
支援することも大事だけれども、若者を
支援する若者を
支援する。これも同じくらい大事で、
支援者をもっとサポートしていかなければ、お金や
制度を準備するだけでは、孤立した
人たちを社会につなぎとめることはできない。その
支援者
支援の必要性というのを強く感じています。
また、就業に対する
支援だけではなく、
孤立無業者の中では、例えば一人っ子で、
病気で寝たきりの
家族を介護する、その世話で手いっぱいになってしまって外に出ていく余裕もないといったような、福祉面のサポートをまだまだ必要としている
方々もたくさんいらっしゃいます。介護
制度ができて、それ自体は
孤立無業者が社会に出ていくきっかけになりましたが、ただ、それだけでも十分ではない現実があります。福祉面も含めた
支援者の育成というのはまだまだ重要です。
加えて、もう一つ重要なものを述べるとすれば、やはり孤立無業を予防する。子供の時代からさまざまな大人に出会い、体験し、時には褒められ、時には叱られ、そのような経験をする子供
たちがもっともっとふえていかなければ、孤立無業の増加には歯どめがきかないと思います。実際、今、文部科学省も、キャリア・スタート・ウイークという形で体験学習の普及に力を入れていっているようです。
ただ、もっと共同
生活をしながらさまざまな
人たちと出会う、いろいろな大
人たちに出会う機会というのは、まだまだ必要なのではないでしょうか。
地域の体験学習の中で、それまで不登校ぎみであった子供
たちが学校に行くようになったという事例が兵庫県で報告されていたり、また、人間関係が非常に不安があった子供
たちが、大人に言葉で褒められるだけではなくて目で褒められる、それでいいんだよ、それができれば大丈夫だよ、そういう体験をする中で、社会とかかわる、人とかかわる、困ったときにも素直に、助けて、教えてと言える、そういう経験を子供
たちがしていかなければ、孤立無業の予防というのは難しいのではないかと思っています。
まだ十分認識のない孤立無業の問題に目を向けていくことも、これからの
生活困窮、
生活保護、そして子供の
貧困対策の一つの重要な視点なのではないかと思い、お話をさせていただきました。
ありがとうございました。(拍手)