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橘法制局参事 引き続きまして、第四章
国会の章の
主要論点及び
前回の主な御
議論について御
報告させていただきます。
申し上げるまでもなく、
日本国憲法は、その政治システムとして、いわゆる議院内閣制を採用しております。議院内閣制のもとにおきましては、
国会、両院制の場合には特に下院となりますけれども、この下院の有する内閣不信任決議権と、これに対抗する内閣の下院解散権によるチェック・アンド・バランスに基づいて、立法府と行政府がいわば
分離と融合する形で
責任政治のシステムが構築されているところと
一般に理解されております。
したがいまして、第四章
国会と次の第五章内閣の
論点は相互にリンクしているところなのでございますけれども、本日は、時間の
関係もございますので、基本的に
国会に特化した
論点についてのみ掲載してございまして、それ以外の例えば
国会の行政監視機能や首相公選制などに関する
論点につきましては、第五章内閣の章において取り上げることといたしております。冒頭、何とぞこの点、御了承、御容赦のほどお願い申し上げる次第でございます。
それでは早速、お
手元配付のA3縦長の
論点表に基づきまして、簡潔に各
論点の概要につきまして御
報告させていただきます。
まず最初は、第四十一条、
国会の地位、立法権についてでございます。
本条項は、「
国会は、国権の最高
機関であつて、国の唯一の立法
機関である。」という簡潔かつ格調高い
条文でございます。この
条文をめぐっては、例えば国権の最高
機関の法的あるいは政治的
意味など、
学説上も実に多くの御
議論があるところでございますけれども、衆議院
憲法調査会などにおいて特に
議論されてきた実務的な
論点は、唯一の立法
機関という文言に関する、
法律案提出権の制限に関する
議論でございました。
すなわち、
国会の構成メンバーでいらっしゃる
国会議員の
先生方が
法律案提出権を有することは当然でございますけれども、
現行法令上、
国会とは別の
権力機関である内閣にも
法律案提出権が認められております。
その一方で、本来的な権限者である
国会議員の
先生方の
法律案提出権につきましては、逆に、
国会法などによりまして、所定の賛成者を要する旨の制限が課されております。
さらに、衆議院におきましては、
会派所属議員が
法律案その他の議案の提出者、賛成者になろうとするときは、その所属
会派の党議を経た旨の国対
委員長など所定の役員の承認印、いわゆる
機関承認が必要との確立した先例もあるところでございます。
このような現状に対して、Aの欄に掲げた
明文改憲の御
主張は、
国会を真に唯一の立法
機関にするために、
法律案提出権を
国会議員に限定する
明文規定を置くべきであるとする御意見です。
これに対して、現在のままの運用で何ら問題はないとするのがC1の御意見です。
他方、Bは、議員立法の賛成者の員数要件、現在は、衆議院であれば、予算を伴う
法律案は五十人以上、予算を伴わない
法律案は二十人以上の賛成者が必要とされておりますけれども、これを、
国会法等を
改正して緩和すべきであるとの御意見です。
また、C2は、先ほど申し上げました
機関承認の先例を廃止すべきであるとする御意見です。
この
論点に関する
前回の御
議論におきましては、ここに掲げたA、B、Cいずれの
見解についてもこれに直接に言及される御
発言はございませんでしたが、間接的に、
国会の立法権に関連して、
共産党の
笠井亮先生が、
国会の役割である立法機能や行政監視機能、国政調査権等が実際に発揮されているのかを
検証する必要があるとして、多くの
国民が反対している重要
法律案が徹底審議もなされないまま強行採決される現状は
国会の立法機能を否定するものだとの趣旨の御
発言をされておりました。
次に、恐らく本日の最大の
論点であると思われます二院制に関する
論点について御
報告いたします。
まず第一の
論点は、二院制、一院制の是非それ自体に関する御
議論です。
憲法改正をして一院制を導入すべきとするのがAの欄の御意見であり、
現行の二院制を
維持すべきとするのがCの欄の御意見です。
前回の御
議論において、一院制の導入を
会派として御
主張されていたのはみんなの党の
柿沢未
途先生であり、一院制を
前提に
憲法改正を目指すべきと明確に述べておられたのが
国民新党の平山泰朗先生でいらっしゃいました。これに対して、
民主党の鷲尾英一郎先生、
自由民主党の柴山昌彦先生、
公明党の大口善徳先生、生活の木村たけつか先生、そして
社民党の照屋寛徳先生らはいずれも
現行の二院制
維持のお
立場でございました。
次に、二院制を
維持するとしても、
現行のままの二院制で全く問題はないとする御意見は、これまでの御
議論においてはほとんどございませんでした。二院制を
維持するべきとする
見解の多くは、同時に、両院の役割分担やその構成メンバーの選出のあり方、いわゆる
選挙制度について、二院制の趣旨がより生かされるようにするべくさまざまな改善策が必要であると唱えておられました。
まず、両院の役割分担、権限
関係に関する
論点でありますけれども、ここでは、
明文改憲を
主張する御意見として、両院の性格の違いをより一層明らかにするため
憲法改正をすべきであるとするAの欄の御意見がございます。
具体的には、
一つ、現在、五十九条二項によって、衆参の議決が異なった場合に衆議院が再議決する際の三分の二以上という特別多数決要件を過半数に引き下げるなどして、より衆議院の優越を強化するべきであるとする意見や、二つ目、予算については、
現行憲法六十条二項の
規定によって、衆参の議決が一致しないときや三十日経過による自然成立など衆議院の強度の優越
規定が定められておりますが、しかし、この予算を担保するための歳入法案、例えば特例公債発行法案などは、
一般の
法律と同じように三分の二以上の特別多数決による再議決が必要となっているのは
憲法自体の中で整合性を欠くものではないかとして、このような歳入法案についても、予算と同様に衆議院の強度の優越が働くようにするべきとする御意見などがございます。
これらの
明文改憲の御
主張に対して、
憲法の
規定はそのままにして、
立法措置でできる範囲内の改善策、例えば、
国会同意人事に関する議決について従前あったような衆議院の優越
規定を定めることとしたり、また、両院協議会における協議手続について、
国会法あるいは両院協議会規程などを
改正して、より両院間の実質的な協議ができるようにするべきとの御意見もございます。これがB1やB2の御意見でございます。
これに対して、
現行法令の枠内の運用改善で対処すれば足りるとするのがCの欄の御
主張です。例えば、決められない
国会の象徴でもあった参議院の問責決議などはより慎重で抑制的な運用をすべきとの提言などがその具体例でございます。
以上御紹介した両院の役割分担に関する
前回の御
議論では、生活の畑浩治先生が両院協議会のあり方改善のための
立法措置を講ずるべきとの御
主張をされたほかは、いずれの
会派の
先生方も運用改善で対処するのが望ましいとの御
発言をされておられました。その中では、参議院の問責決議の是非に関する御
発言が多くの
会派からなされ、政権安定のために問責決議の制限が検討されるべきとか、解散制度がない参議院の問責決議は抑制的運用がなされるべきとの御
主張があった一方で、参議院の問責決議は行政への抑止機能を持つものであり、この効力を否定することは
憲法の理念に反するものだとの御
主張もございました。
もう
一つは、
国会議員の選出方法に関する
論点です。
まず、いわゆる一票の格差に関して、
明文改憲を行うべきとの御意見がございます。
これに関しては、先ほどの第三章
国民の
権利及び
義務でも
議論された
論点であり、一部重複いたしますが、方向性が異なる二つの
見解が唱えられております。
一つは、あくまでも厳格な
人口比例に基づく平等を求めるA1の
見解であり、もう
一つは、これとは逆に、
人口を基本としつつも、それ以外の要素をも勘案するべきであり、最近の
最高裁判決や
学説の多数説に見られるように、
人口比例原則に過度に拘泥するのは適切ではないとするA2の
見解です。
以上の二つの
見解は、衆参を特に区別した
議論ではございませんが、
論点表A3の御
主張は、両院の選出方法自体に違いを持たせ、二院制の機能をより明確にしようというものです。例えば、第一院たる衆議院について全
国民代表や直接
選挙の原則を
維持することは当然の
前提とした上で、第二院たる参議院の
選挙制度については、地域代表制や職能代表制、さらには推薦制の導入なども検討すべきとする
見解です。
これに対して、Bの欄の御
主張は、あくまでも
現行憲法の枠内で両院の
選挙制度に違いを持たせ、異なる代表機能を発揮させることを目指すべきであるとする
見解です。
この
論点に関する
前回の御
議論では、みんなの党の
柿沢未
途先生からは、
人口比例に基づく厳格な平等原則を
憲法に明記すべきとのA1の
見解が、これに対して、
自由民主党の柴山昌彦先生からは、
人口以外の要素の考慮を
憲法上明記すべきとのA2の
見解が述べられました。また、生活の木村たけつか先生からは、参議院議員の選出方法については、衆議院議員とは異なる方法を
憲法改正によって行うのが理想であるが、
現実には、
立法措置によって
実現することもあり得るとのA3あるいはBの
立場の
見解が述べられました。また、
民主党の鷲尾英一郎先生からは、
選挙制度の基本的枠組みについて
憲法上に
規定を設けるべきとの御
発言がありました。
他方、
共産党の
笠井亮先生からは、多様な民意を正確、公正に反映できるような
選挙制度を構築すべきであるとの
見解、また、
国民新党の平山泰朗先生からは、両院の権能の
分離を
前提として、
選挙制度の明確な区分けを検討すべきだとして、それぞれ、適切な
立法措置を講ずべき旨の御
発言もございました。
次は、議事手続などに関する諸
論点でありますが、まず、いわゆる通年
国会に関する
議論がございました。
現行憲法は、第五十二条において、「
国会の常会は、毎年一回これを召集する。」と定めるとともに、第五十三条において臨時会の
規定を設けるなど、
一般に会期制を
前提としているものと理解されております。
そこで、
憲法改正をして通年
国会、例えば衆議院議員の総
選挙から次の総
選挙まで、これは立法期とか議会期などと
一般に言われるものですけれども、これを
一つの会期として、必要に応じて休会をすればいいではないかとするのがAの欄の御意見です。
これに対して、
国会審議がスケジュール闘争になっているのは、
憲法の定める会期制それ自体に問題があるのではない、
国会法の定める会期不継続の原則に問題はあるのであって、
国会法を
改正してこれを廃止すれば足りるとするのがBの欄の御意見です。
もちろん、
国会会期の長期化については、長期の延長や適時適切な臨時会の召集など、
現行制度の運用で対処すれば足りるとするCの欄の御意見もございました。
次に、議事手続に関する特徴的な
見解の
一つに、
憲法五十六条一項に定める定足数に関する御
議論がございます。
現行憲法では、本
会議を開会しその議事を進める際にも、そしてもちろん、最終的な議決をする際にも、総議員の三分の一以上の出席がなければならないとする定足数が定められております。
しかし、議決の際の定足数は必要だとしても、開会して議事を進める段階での定足数は必ずしも必要ないのではないかとして、議事を開くことに関する定足数
規定を削除すべきとする御
主張がございます。これがAの欄に掲げた
見解です。
次に、国政調査権に関する
議論がございます。
現行憲法六十二条に
規定されております国政調査権の主体は、あくまでも議院、ハウスであり、あるいは
現行の
国会法、議院規則のもとでこの議院、ハウスから権限
行使について授権された常任
委員会や特別
委員会でありまして、議員の
先生方、メンバーの
先生方個々人が国政調査権を
行使できるものとはされておりません。本
会議や
委員会が国政調査の
行使主体であるということは、要するに、その発動の可否の判断は多数決、衆議院では与党
会派の意向に委ねられるということになります。
そこで、政府の行動を機動的かつ適切に監視するためには、野党、すなわち少数者による行政監視機能を充実させる必要があり、そのためには、まず
憲法を
改正して、より小さな単位の一定数以上の議員、あるいは究極的には個々の議員にも国政調査権を付与するべきではないかとするのがAの欄の
見解です。同じ趣旨のことを、
現行憲法の枠内で、
国会法規の
改正などの
立法措置でもって
実現できることをまず行うべきであるとするのがBの欄の
見解です。
議事手続に関する四番目の
論点として、国務大臣の議院出席
義務に関する御
議論がございます。
憲法は、六十三条におきまして、内閣総理大臣その他の国務大臣の議院出席の
権利と
義務について定めております。
しかし、
国会への出席
義務につきましては、
国会会期中における国務大臣の外交のための海外出張などが必要以上に
制約されているとして、
明文改憲によってこれを緩和するべきであるとするAの欄の御
主張がございます。
これに対して、そのようなことは、国権の最高
機関である
国会の役割、権威を低めるものであり、また、そもそも議院内閣制のもとでは、閣僚の
国会出席
義務こそが行政監視機能の重要な要素であって、出席
義務の緩和などは認めるべきではないとするC1の
見解もございます。
他方、真に必要な海外出張についてはこれを認めるべきであるが、それは運用で対処すれば足りるとするC2の
見解もございます。
以上の議事手続に関する諸
論点に関して、
前回の御
議論では、まず、通年
国会の採用について、生活の木村たけつか先生、みんなの党の
柿沢未
途先生から、
明文改憲によって
実現すべきとの御
主張が、
公明党の大口善徳先生からは、
立法措置あるいは運用によって実質的に対処すれば足りるとの御
主張がなされました。
また、議事の定足数の削除につきましては、
自由民主党の柴山昌彦先生、生活の木村たけつか先生から、
明文改憲に賛成する旨の御
発言がなされております。
閣僚の議院出席
義務の緩和については、柴山先生、木村先生、両先生のほか、みんなの党の
柿沢未
途先生、
国民新党の平山泰朗先生からも、
明文改憲に賛成する旨の御
発言がなされておりました。これに対して、
社民党の照屋寛徳先生からは、閣僚の議院出席
義務の緩和は問題であるとのC1の
見解が、また、
公明党の大口善徳先生からは、必要に応じて運用の改善を図れば足りるとのC2の御
見解が表明されております。
最後に、政党に関する条項を
憲法に設けるべきかどうかという御
議論について御紹介申し上げます。
現代
国家においては、外交や防衛、治安
維持などにとどまらず、
社会保障の分野など行政活動の役割が飛躍的に増大した、いわゆる行政
国家、
福祉国家の現象が顕著になってきており、そのような中において、
国民と議会を媒介する組織として、かつ複数政党の存在を
前提とした、政府・与党対野党という
意味での実際的な
権力分立の視点からも、政党の存在はますます重要になってきていると言われます。まさしく、政党なしには現代民主主義は機能し得ないと言っても過言ではないわけでございます。
このような政党の公的性格に鑑みて、これを
憲法に位置づけて、その政治活動の自由とともに、必要な規律について定めるべきであるとするのがAの欄の
見解です。
これに対して、現に、政党助成法その他の政党を対象とした
法律もあるのだから、政党法といった
立法措置で足りるとするのがBの欄の
見解です。
他方、そのような
明文改憲の
主張や政党法制定の
主張は、公
権力による政党の内部
秩序に対する介入をもたらす危険性があるとして、あくまでも政党については現在のまま、自由な私的結社として位置づけておくことこそが民主主義の
観点から望ましいとするCの欄の
見解もございます。
前回の御
議論における政党に関する御
発言では、
民主党の鷲尾英一郎先生と
自由民主党の柴山昌彦先生から、
明文改憲によって対応すべきとのAの欄の御
見解が、また、生活の木村たけつか先生、みんなの党の
柿沢未
途先生、
国民新党の平山泰朗先生からは、政党法などの
立法措置のレベルで対処すべきとのBの欄の御
見解が述べられました。これに対して、
公明党の大口善徳先生、
共産党の
笠井亮先生、
社民党の照屋寛徳先生からは、理由づけはそれぞれ少し異なるものの、そのような
措置は必要ないとの御
見解が述べられております。
以上、かなり駆け足になってしまいましたが、御
報告は以上でございます。ありがとうございました。