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2012-03-22 第180回国会 参議院 予算委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成二十四年三月二十二日(木曜日)    午前九時開会     ─────────────    委員の異動  三月二十一日     辞任         補欠選任      佐藤ゆかり君     渡辺 猛之君      山田 俊男君     青木 一彦君      渡辺 孝男君     草川 昭三君      寺田 典城君     中西 健治君      井上 哲士君     山下 芳生君      又市 征治君     福島みずほ君  三月二十二日     辞任         補欠選任      安井美沙子君     外山  斎君      山下 芳生君     田村 智子君      福島みずほ君     山内 徳信君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         石井  一君     理 事                 植松恵美子君                 川上 義博君                 武内 則男君                 徳永 久志君                 有村 治子君                 礒崎 陽輔君                 山本 一太君                 浜田 昌良君                 小野 次郎君     委 員                 石橋 通宏君                 大久保 勉君                 大塚 耕平君                 金子 洋一君                 小西 洋之君                 櫻井  充君                 谷  亮子君                 谷岡 郁子君                 外山  斎君                 友近 聡朗君                 林 久美子君                 姫井由美子君                 広田  一君                 牧山ひろえ君                 蓮   舫君                 青木 一彦君                 赤石 清美君                 猪口 邦子君                 片山虎之助君                 川口 順子君                 末松 信介君                 西田 昌司君                三原じゅん子君                 山崎  力君                 山谷えり子君                 渡辺 猛之君                 草川 昭三君                 竹谷とし子君                 中西 健治君                 田村 智子君                 山下 芳生君                 福島みずほ君                 山内 徳信君                 荒井 広幸君    事務局側        常任委員会専門        員        藤川 哲史君    公述人        慶應義塾大学経        済学部教授    土居 丈朗君        京都大学大学院        教授・同大学レ        ジリエンス研究        ユニット長    藤井  聡君        みずほ総合研究        所政策調査部主        任研究員     大嶋 寧子君        政策研究大学院        大学学長     白石  隆君        岡本アソシエイ        ツ代表      岡本 行夫君        地球システム・        倫理学会常任理        事        元駐スイス大使  村田 光平君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○平成二十四年度一般会計予算内閣提出衆議  院送付) ○平成二十四年度特別会計予算内閣提出衆議  院送付) ○平成二十四年度政府関係機関予算内閣提出、  衆議院送付)     ─────────────
  2. 石井一

    委員長石井一君) ただいまから予算委員会公聴会を開会いたします。  本日は、平成二十四年度一般会計予算平成二十四年度特別会計予算平成二十四年度政府関係機関予算につきまして、六名の公述人から順次項目別に御意見をお伺いしたいと存じます。  午前は、慶應義塾大学経済学部教授土居丈朗君、京都大学大学院教授・同大学レジリエンス研究ユニット長藤井聡君及びみずほ総合研究所政策調査部主任研究員大嶋寧子君に公述人として御出席いただいております。  この際、公述人の方々に一言御挨拶申し上げます。  本日は、御多忙のところ本委員会に御出席いただき、誠にありがとうございます。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。  本日は、平成二十四年度の総予算三案につきまして皆様から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。  次に、会議の進め方について申し上げます。  まず、お一人十五分程度で着席のまま御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑にお答えをいただきたいと存じます。  それでは、経済財政社会保障について、まず土居公述人にお願いいたします。土居公述人
  3. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) おはようございます。ただいま御紹介いただきました慶應義塾大学土居と申します。今日は、このような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。  お手元にございます平成二十四年度政府予算案に関連する所見と題しました参考資料に沿いながらお話をさせていただきたいと思います。  まずは、ただいま審議中でございます平成二十四年度の予算案に関連して、私の評価について申し上げたいと存じます。  財政が非常に厳しい中ではありますけれども、スライドの二枚目でございますが、抜本税制改革に向けた道筋を付ける税制改正が行われているということ、それから、社会保障の給付と負担をめぐる世代間格差縮小に向けた取組がなされているというようなことがありまして、これらは評価するべきものであろうというふうに私は思っております。  それと同時に、財政政策の信認を失わないようにする取組が更に必要であるというふうに考えておりまして、特例公債法の早期の成立を是非とも私としても期待をしたいと思っております。  それと同時に、震災復興、もう非常に重要な、この予算案の中でも盛り込まれている内容でございまして、巨大地震対策というものもこれは非常に重要であるとは思っておりますけれども、それとほぼ同じ確率で起こるというふうに経済学理論等では証明されております国債金利急騰対策ということも、これも必要であるということ、これは同程度に必要であるというふうに思います。その意味でも、これ以上の国債の増発というのは禁物であろうというふうに思っております。  先ほど簡単に触れましたけれども、例えば世代間格差縮小に向けた取組ということで、年金特例水準の見直しということは、このスライドの三枚目にございますように、物価スライドを止めたということによって意図せざるもらい過ぎというものが年金において生じていて、それが累計して七兆円に達しているということからいたしますと、若い人たちが安心して年金保険料を払うということになるためには、やはり世代間格差縮小というものは不可欠だろうというふうに思います。  続きまして、四枚目でございますけれども、我が国が直面する課題といたしまして、先生方ももう御承知ですので釈迦説法ではありますけれども、震災復興社会保障制度改革税制改革経済成長促進デフレ脱却財政健全化行政改革というものは、これらそれぞれ非常に重要なものであるというふうに私も考えておりますけれども、経済成長促進デフレ脱却というものを先にして財政健全化はその後でよいというふうに言っているような状況では残念ながらないのではないかと。  つまり、我が国が今成し遂げなければならない課題というのは同時達成をしていくことであって、これらを一つでも猶予するような状況にはない。私は、決してこれらは同時達成できないとは思っておりません。そう簡単なことではないとは思いますけれども、工夫をすればこれらはそれぞれに同時達成可能であると。経済成長財政健全化の両立など、いろいろな方策は既にいろいろと出されておりまして、それを是非ともこれから更に進めていただきたいというふうに考えております。  五ページには、これはよく使われる図でありますけれども、政府債務が非常に累増していると。もちろん、直ちにこれが財政破綻につながるとかそういうようなことを言いたいというわけでは決してありません。あくまでも、我が国財政は直ちに財政破綻の憂き目に遭うということではないにしても、今一%前後で発行されている国債というものが引き続きこのような低い金利で発行できるのかと言われると、決してそれほど安泰と言えるようなものではないと、低い金利であぐらをかいて国債を増発しているような余裕は残念ながらないのだろうというふうに思います。六ページにあるように、欧州諸国では、プライマリーバランスが黒字であるイタリアですら既に高い金利を払わなければならないような状況に追い込まれております。  七ページには、我が国状況について、これまでにも私が作成した図でありますけれども、政府債務の残高とそれを賄うことになる家計金融資産、これがどの程度余力があるかということを示した図であります。  家計金融資産は一千五百兆というふうに言われております。それに対して、家計は、住宅ローンなどでこれまた五百兆円ほどの負債を抱えております。そういたしますと、家計がほかの主体にお金を貸せる余力というのは、自分たちが借りている分を差し引いた残りの一千兆円程度ということになります。ほぼGDPの二倍といったところであります。  それに対して、同様に、我が国政府債務、これは国と地方合わせてということですけれども、これまた二倍の一千兆円程度ということになっておりますので、ほぼ金額的には同程度であると。もちろん、これによって国債消化が滞るかと言われると、海外からお金を借りればよいという話には当然なります。海外からお金を借りるということは、別に決して日本財政がそれによって破綻するということではないわけですけれども、海外金利は、御承知のように、我が国のような一%という低い金利で借りられるような状況ではありません。そういう意味では、金利上昇懸念というものが海外からより多くお金を借りることによって生じるということが考えられるわけでありまして、より低い金利で借りられなくなるということは、これから利払い費増加とか様々な形で悪い波及効果が起こるのではないかと懸念されるわけであります。  八ページには、金利上昇がもたらす影響ということで、これは日経新聞の図が非常にうまくかいてある図だと思いまして引用させていただいておりますけれども、今までは確かに長期金利が上がらない構造というものがありました。しかし、この構造はこれからも引き続きずっと維持できるかどうかというと、私はそうはいかないというふうに思います。まさに、長期金利が上がらないという構造が崩れると、様々な形での金利上昇圧力が掛かってまいります。  九ページを御覧いただきますと、これはもう本当に釈迦説法でありますけれども、財政赤字が増えると金利が上がるということから様々な悪影響金利上昇に伴う利払い費増加によって財政硬直化行政サービス悪化というものも懸念されますし、さらには、国債金利というのは我が国の中では最も低い金利ということですから、当然住宅ローン金利、企業が借りる金利国債金利が上がると上がってしまって経済の停滞につながりかねない。  さらには、私がここは一番重要な問題だと思っているのは、この借金を将来の世代にツケ回すということになると、世代間の不公平を助長しかねないということであります。まさに、財政赤字というのはそういう懸念をいたすところであります。もちろん、インフラを建設するための建設国債というのはそれはそれとしてありますけれども、御承知のように、我が国平成二十四年度予算案でもそうであるように、国債発行の大半は赤字国債という形になっておりますから、その赤字国債見合い行政サービスというのは、結局のところ、今を生きる世代が受けていて、将来世代はその財源負担を強いられるのみということになってしまうということは、私は看過できないことだろうというふうに思っております。もちろん、これは経済成長を促せば財政収支も良くなるのではないかという見方はあろうかと思いますけれども、私はそれほど楽観的ではないというふうに思っております。  十ページにございますように、まさにこの平成二十四年度予算案参考資料として出されておりますいわゆる後年度影響試算、この後年度影響試算の数字を見ますと、もし経済成長が促されて、それによって税の自然増収というものが増税なしに期待できるということだとしても、例えば二〇一三年度には一兆円弱、二〇一四年度には二兆円強といった金額の自然増収がもし二%経済成長上昇することによって得られるとはいえ、これによって連動して金利上昇する可能性があると。例えば、経済成長率上昇の方が高くて金利上昇は小さいということだとしても、プラス二%の成長、それからプラス一%の金利というところの見合いで見ていただいてもお分かりいただけるように、利払い費増加自然増収を上回るという財政構造になっているというのが我が国財政構造であります。  そういう意味では、税制抜本改革なしに利払い費増加を賄えるような税制にはなっていないということだろうと思います。もちろん、これに対するいろいろな批判というのはあり得て、この自然増収の計算というのはまさに税収弾性値が一・一という低い値で計算されているのではないか、本当はもっと成長すれば税収が大きく増えるのではないかという意見もあろうかと思いますが、十一ページに書かせていただいておりますように、税収弾性値が四というような話が世の中にはあるわけですが、これは致命的な欠陥を持っているということを私が図で簡単に皆様に御説明させていただきたいと思います。  税収弾性値というのは、釈迦説法ですが、税収増加率割る名目成長率ということであります。十二ページに、これまでの我が国国税収入の中でどれだけ国税収入が増え、名目経済成長率が増えたかということの実績値を点でプロットしております。これは一九八一年から二〇一〇年までのものをプロットさせていただいておりまして、特に赤い点、丸の印はまさに最近十五年間のものであります。  最近十五年の実績による税収弾性値平均値を取ると四であるという話があるのですが、それを図の中で何を言っているかというのを簡単に示したのが十三ページでございます。全く点の位置は同じ位置でありますけれども、税収弾性値というのは、先ほど定義を御紹介いたしましたように、税収増加率割る名目経済成長率ですから、ちょうどこの緑の直線原点実績値の点を結ぶ直線傾きがまさにその税収弾性値の大きさそのものを意味しているということであります。  この図を御覧いただいてお気付きいただくことは二つございまして、一つは、まず大きい傾きを持っている点というのは、マイナス成長をしているときに大きく税収減少しているという過去の実績を取って税収弾性値が大きいというケース。それからもう一つは、単に原点実績値直線を結んだ傾きというものが一体何を意味するのかということであります。これは、いわゆる大学経済学部で教える回帰分析回帰分析すらなっていないような分析でありまして、十四ページにございますように、基本的にはこれはきちんと実績値を積み重ねたところで回帰分析をして、その傾きをきちんと測るということによって初めて税収弾性値の真の値というものが得られるだろうというふうに思うわけであります。  そういう意味でいいますと、十五ページにイメージ図を載せておりますけれども、きちんと科学的な方法税収弾性値を測るべきでありまして、単に原点実績値直線を結んだ傾きだけを並べて、それを十五年合わせたから四だという言い方はこれは非科学的だろうというふうに思っております。  そういうことで、この科学的な方法で考えたときにその税収弾性値がどのぐらいかというのは、十六ページに橋本関西大学教授ほかの研究を御紹介させていただいておりますけれども、およそ一・一ということで、決してそれはアバウトに一・一と言っているわけではないと。経済成長促進というのは重要ですけれども、高くなったからといってどしどし税収が入るという構造ではないということであります。  さらにもう一点、受益負担世代間格差について触れさせていただきたいと思います。  十七ページに、これは内閣府の試算でありますけれども、御覧いただくように、世代間格差受益負担格差として非常に大きなものがあって、特に若い人たち受益負担関係からいうと、払ったほどにはもらえないのではないかと不信がっているということは、何とかしてこの国家財政においてもその不信、不安の払拭というのは必要だろうと思います。  その点に関していいますと、私は消費税財源とするということが非常に効果的なものであろうと。特に世代間の格差を是正するためには、消費税を上げて、その消費税が上がった分の年金物価スライドはそこは止めるという必要はありますけれども、高齢者の方にも消費税を御負担をお願いしながら世代間で負担を分かち合うという仕組み、これが消費税ではうまくできるというふうに思っております。  こんなデフレの時期に消費税を上げるということで本当に大丈夫なのかという声ももちろんありますけれども、むしろ消費税物価を上げる効果があるということで、十九ページに、私の試算でありますけれども、消費税を上げることによって、しかもこれを予告付きで上げるということによって消費者は将来の物価上昇期待というものを抱くと。しかも、これが段階的に複数回によって行われるということになりますと、当然、一旦消費税が上がったからといって、それによって買い控えているとまたたちまちすぐ近い将来に物価が上がるということが予想されるということですので、買い控えをしているわけにはいかないという意味で、その物価上昇があるということを意識させることを通じて消費前倒し効果というものが期待できるわけであります。  一九九七年の消費税増税のときは消費はほとんど減らなかったというのが経済学実証分析で最近明らかになっております。一世帯当たり一月の家計消費は五百円あるかないかぐらいの減少しかなかったというのがその結果でありますけれども、そういう意味でいうと、消費減少というのはさほど深刻なものではないというふうに思います。特に段階的に上げられるということになりますと買い控え減少させるという効果がありますので、それだけ消費前倒し効果というものが期待できるということで、消費税増税に伴う景気悪化というものはある程度食い止められるだろうというふうに思います。  二十ページには、さらには消費税増税というのは財政収支の改善を通じて円安要因になるということも触れさせていただいております。  時間の関係で先に行きたいと思いますけれども、二十二ページであります。  中長期的に申しますと、消費税というのは経済成長と親和的であるということが先行研究でも言われておりまして、個人所得税法人所得税を掛けるよりも、むしろ消費課税によって同じ税収を得るにはむしろ経済成長とは親和的であるということであります。二十三ページに欧州のこれまでの結果ということで、二〇〇〇年から二〇一〇年まで、まさにリーマン・ショックの影響も受けつつも欧州実質経済成長率三%前後の成長をこの間遂げていたわけですが、御承知のように、欧州諸国消費税率、いわゆる付加価値税率は二〇%前後という値でありまして、我が国が必要とする経済成長の戦略は、むしろ若干消費税率が高くなったとしても、経済成長が持続できるような産業構造にしていくことではないかというふうに思っております。  最後に、二十七ページから二十八ページにかけて消費税以外のことでも含めてですけれども、もし同じ税収を取るならば現在から将来にかけてどのようなタイミングで税を取るのが中長期的に見て経済成長を促すことになるかということについて触れております。二十八ページはそのイメージ図ということですけれども、同じ税収を取るのに、早めに税をより多く取ってそれ以上増税しないという形で取るのが左側、右側は、増税はできるだけ先送りしてその代わり将来にその取らなかった税の分を取るという、そういう形であります。  そういたしますと、実は、これは経済理論で言うところでは、税率を上げれば上げるほど経済活動を萎縮させると。ですから、当然増税はそれなりの経済活動萎縮効果が伴うということではあるのですが、その税率引上げ方は、上げれば上げるほど多く経済活動を萎縮させる、さらには、その大きさというのは、税率の大きさの二乗に比例する形で経済活動悪影響が及ぶということが経済理論としては知られております。  そういたしますと、例えば他意なく消費税ということで五%ということにいたしますと、その五%のときには、全く掛けないときに比べて当然しかるべき経済活動萎縮効果というのが生じております。これは一ということで大きさを表してみますと、もしこれを一〇%にすれば、税率は二倍で、その二倍の二乗で四倍の経済活動萎縮効果が発生すると考えられます。ただ、同じ税収を確保するということであるならば、いずれその税収を確保するための増税がその後者のケースでは必要となります。そういたしますと、例えば同じ税収を必要とするということであれば、例えば利子率がほとんどゼロであれば、五%で据え置いた場合には後々一五%ぐらいまで税率を上げなければならない。一五%のときは、五%のときの税の三倍の税率ということになりますから、三倍の二乗で九倍の大きさの経済活動萎縮効果が発生すると。そういたしますと、トータルで見ると、この両者は前者の方、つまり一旦先に上げてそれ以上上げないという方を選択した方が中長期的には経済活動を萎縮する効果が小さいという、そういうことであります。  そういう意味では、中長期的な視点からも税の取り方というのは考えていく必要があるのではないかというふうに考えております。  私からは以上です。ありがとうございました。
  4. 石井一

    委員長石井一君) ありがとうございました。  次に、藤井公述人にお願いいたします。藤井公述人
  5. 藤井聡

    公述人藤井聡君) 本日はかような機会をちょうだいいたしまして、誠にありがとうございます。  京都大学大学院並びに京都大学レジリエンス研究ユニット長を務めさせていただいてございます藤井でございます。よろしくお願いいたします。  本日は、皆様におかれまして、お手元資料、私の名前の記載させていただいておりますこちらの資料を御覧いただければと思います。なお、この資料京都大学藤井聡のホームページでも公表いたしているものでございます。  本日は、我が国日本国家予算の在り方を考えるに当たりまして極めて重大なお話をいたしたいというふうに考えております。それは、専門家皆様方の中には少なくともその一部、少なくともその一部でございますが、もちろん全てではございませんが、極めて重大な虚事が含まれていることがあるということであります。多くの先生方、国民の皆様方は、そんなばかなというふうにお感じかもしれません。しかし、世の中、うそ話がまかり通るということは何も珍しいことではございません。  例えば、資料の二ページ目を御覧ください。今から七百年も前、鎌倉時代の吉田兼好の徒然草の一節でございます。「世に語り伝ふることまことはあいなきにや多くや皆虚事なり」、これは、つまり世間で言われていることはほとんどうそ話だということでございます。さらに、「いひたきままに語りなして筆にも書きとどめぬればやがてまた定まりぬ」、つまり、学会やテレビ等で好き勝手なことを言って、そのうち筆にも書きとどめぬれば、すなわち教科書とかペーパーになってしまえば、どんなうそ話でも正しいものとされ、挙げ句に政策や法律にまで定まってしまうという恐ろしいお話でございます。これは、今より日本人がずっとずっと立派であったであろう大昔の話でございますから、今はそうであっても何も不思議ではないということが御理解いただけるかと思います。  では、本当に専門家皆様方の中に本当に間違ったことを口にしておられる方がいるのかどうかということについて、本日は、中でも特に予算編成上極めて重要な三つの虚事ではないかという疑いのあるお話を告発申し上げたいと思います。  一つ目のお話、それは三ページ目を御覧ください。消費税増税のインパクトは限定的だというお話でございます。  四ページを御覧ください。これは、まず異なった理論的見地からのグラフでございますが、宍戸駿太郎先生のマクロモデルDEMIOSに基づいて、消費税増税のインパクトを幾つかのケースで計算したものでございます。御覧のように、増税後すぐには影響は出ないのですが、どのケースでも三年目辺りから景気が大きく減速します。これは、ある年次の消費税増税のインパクトは数年間、単年度ではございません、数年間続くこと、そして、三年ほどたてばその前年、前々年の増税インパクトが累積をして大きく景気が減速していくこと、これが原因でございます。言わば、消費税増税は幻の格闘技の技の三年殺しのような効果を持つわけでございます。  もちろん、これは特定のたった一つのモデルの計算結果ではございますが、真っ当なモデルであれば、それらはいずれも同様の効果を算定していることが知られております。  五ページを御覧ください。御覧のように、一つの例外を除いて、たった一つの例外を除いて、どのモデルも、五年もたてば、一年ではないです、五年もたてば消費税増税によって四から六%程度GDPが毀損することが示されております。  なお、その挙動不審のモデルとは、何と政府内閣府のモデルでございます。驚くべきことに、このモデルは消費税増税の破壊的インパクトは年々なくなっていくという、私ごときには理論的には全く理解できない挙動を取ってございます。  このような重大な疑義をはらんだモデルをいまだ使い、これによって消費税増税を正当化しているのだとすれば、それは政府の国民に対する詐欺、詐称であるという重大な疑義が、断定はしておりません、疑義が浮かび上がります。是非、本モデルの抜本的見直しを政府に強くお申し入れいただきますよう、国会の先生方に平にお願い申し上げたいと思います。  さて、以上が理論的な指摘でございましたが、経験的にはどうかという点について六ページを御覧ください。  これは、幾つかの事例があるんですが、最も分かりやすい事例を今日は持ってまいりました。一九二九年のアメリカの大恐慌のときの政府の借金の対GDP比率のグラフでございます。御覧のように、消費税の導入を始めとした緊縮財政をしいたフーバー大統領期、財政は明確に悪化し続けております。借金は増え続けております。増税をしたのに借金が増え続けていると。ちなみに、積極財政をしいてからそれが減っていくという構造でございます。このときの消費税導入後、GDPは何と約半分にまで失速しております。  この歴史的事実を踏まえれば、消費税増税影響は限定的だという話が単なるうそ話であるという疑義が、当然ながらこれ疑義でありますが、疑義が濃厚であるということが分かります。  では、次のお話に参りたいと思います。七ページを御覧ください。  それは、社会保障費の自然増に対応するには増税するしかないというものでございます。これは、学者の先生方のみならず多くの政治家、メディアが繰り返し喧伝するもので、国民もそれはそうだと信じ、だから増税も仕方がないと考えている風潮があるように思います。しかし、これも極めて悪質な、真っ赤なうそである疑義が濃厚であります。  八ページを御覧ください。この図の棒グラフがGDP、赤の折れ線グラフは税収なのですが、御覧のように全くもって両者はぴたりと一致してございます。これはもう当たり前のことでございますが、GDPが増えれば税収が増えるという、当然の結果、ことを意味してございます。  こうした関係は、一般に、先ほどもお話ございましたですが、税収弾性値という数値で表現されているのですが、先ほど御紹介のあった昨年末の財政制度等審議会のペーパーが、こちらがあるんですけれども、これを精読いたしますと、このグラフに示されている名目GDPと税収がよく一致しているという事実を、何と、あえて科学的でないと、これだけ一致しているんですけれども、あえて科学的でないといって切り捨てて、あえて経済成長による税収増分は低いと、先ほど数値のあった一・一という数字を、これは私の目から見て、私は林知己夫賞という統計学の賞を取ったことがあるんですけれども、私の統計学の専門家の見地からして、何言うてはんのやろうというふうな感触を受けるような結論を付けておられます。しかし、学者として断定いたしますが、その部分の議論は極めて非科学的であって、統計学的にはでたらめとすら言い得るような議論が掲載されています。  したがって、経済成長による税収増分は低いという結論は極めて重大な誤謬が潜んでいる、これもまた疑義でありますが、疑義が濃厚であり、そのペーパーに書かれているよりもずっと高い税収弾性値が実態である可能性が極めて濃厚であると申し上げたいと思います。  更に言いますと、消費税率には常識的な上限があって、ずっと上げ続けていくということはこれは不可能であります。しかし、社会保障費は当面の間増え続ける見込みだということは皆さんも御案内のとおりでございます。ですから、増税で高齢化社会に対応という論理そのものがはなから破綻している疑義すらも考えられるわけであります。一方で、国民と政府の努力さえあれば、経済成長には制限がありません。ですから、高齢化社会に対応するために今目指すべきは、増税ではなく経済成長しか考えられないということを断定的に申し上げておきたいと思います。  では、経済成長は可能なのでしょうか。もちろん、それは可能であります。しかし、多くの専門家の皆さんは、もう経済成長なんてできないという論調をいつも、いつも、いつも口にされます。しかし、もちろんそれは真っ赤なうそである疑義が濃厚であります。  九ページを御覧ください。これは、本日最後の、三つ目のうそである疑義があるのではないかというお話の紹介でございますが、それは、積極財政では経済成長しないというお話でございます。  彼らは、積極財政は民業を圧迫したり、円高を誘発したりして、結局、積極財政効果は相殺されると、これはノーベル経済学賞のモデルもあるんですが、相殺されると主張をいたします。そうした論理の全ての根底にあるのが、国債を発行すると金利が上がるという論理なのですが、これがそもそも事実と乖離しているということをお話ししたいと思います。  十ページを御覧ください。御覧のように、国債発行が年々増え続けてございます。しかしながら、この理論に反して長期金利は年々、これ理論的には上がっていくはずでありますし、理論が間違っていれば一定でもいいんですけど、何と真逆に、低下し続けているという訳の分からない、理論的には訳の分からない行動を取ってございます。したがって、このグラフ一枚で、積極財政では経済成長しないという理論、論理そのものが現在の、現状の日本においては破綻している、適用できないということが分かります。  そのことは、十一ページのグラフからより明確に示されております。このグラフは、いろいろな情報を掲載しておりますが、一番下のちょっと分かりにくいんですが、緑色の財政収支の折れ線だけに御着目ください。これは、政府の収入、つまり税収と出費との差額、財政収支を示してございます。  御覧のように、バブル期、右肩上がりで財政収支は改善していきます。しかし、九一年のバブル崩壊で、当然ながら一気に右肩下がりに悪化します。赤の矢印書いているとおりであります。しかし、このとき積極的な、徹底的な積極財政を行った結果、九三年ごろから財政は改善し、財政収支悪化は和らいでいきます。  ところが、九七年に、増税をする、緊縮財政を採用した途端に、財政は再び右肩下がりに悪化いたします。ただし、それを見かねた小渕先生が九九年に徹底的な積極財政を果たします。そうすると、右肩下がりだった財政収支は一気に、これは一気にですよ、V字回復をし、右肩上がりに改善していきます。しかし、翌年には、残念ながら小渕先生は他界されます。そして、残念ながら、本当に残念なんですが、その後、小泉内閣による徹底的な緊縮財政が再び始められ、御覧のように二〇〇〇年ごろ、せっかく財政収支が改善していたのに、その改善がぴたりと止まってしまったのであります。  つまり、この経緯を素直に、虚心坦懐に御覧いただきますと、積極財政は確実に財政を健全化させていることは明白でございます。  一方で、緊縮財政を始めた橋本内閣、小泉内閣財政悪化させてしまったということが過去の日本の実際の経験なのであり、これはさきに紹介したアメリカの大恐慌の経験とぴたりと符合しているのであります。このことはつまり、財政出動は無効だという話が完全なるうそ話である疑義を明確に示しております。  その点をより具体的に示したのが十二ページでございます。この赤い線は名目GDP、青い線は公共事業費、この左肩が上がるのが公共事業費で、右肩がこう伸びているのが、灰色の線がこれは輸出であります。御覧のように、赤い線のGDPは、公共事業が多いときには伸び、あるいは輸出が伸びるときにも伸びているのであります。そして、どちらも小さくなればGDPは縮小をすると。  これは定義上当たり前なんでありますが、定義上自明なのですが、統計分析からは、公共事業のGDP上昇効果が輸出のそれの実に四倍程度であるということが示されています。この手の分析は、いろんなやり方によっていろいろと変わってくることはあるんですが、いずれにしても、この結果は、積極財政では経済は拡大しないという説が明らかにうそであるという重大な疑義を、これもまた疑義でありますけれども、明白に示しているのであります。  このように、消費税増税のインパクトは限定的だとか、高齢化社会では増税は不可避だとか、積極財政では景気拡大は無理だとかいう話は、全て論理的に実証的に簡単に論駁できる完全なうそ話である疑義が極めて、極めて濃厚であるのでございます。  では、真実の正しい経済政策というものはどういうものなのでしょうか。  十四ページを御覧ください。この表は、インフレ期とデフレ期でなすべき経済政策を完全に入れ替えるべきであると。インフレのときはインフレ対策デフレのときはデフレ対策をすべきであるということを主張するものであります。  インフレとは、そもそも経済が過熱し過ぎている状況ですから、その熱を冷ますために緊縮財政増税等が当然必要になってまいります。一方、デフレのときには、経済が冷たくなっている状況ですから、経済を暖める対策が必要であります。だから、デフレのときには消費税増税、例えば、あるいは公務員人件費削減等の対策などは論外中の論外なのであるということを強く申し上げたいと思います。それとは逆に、投資減税などの積極財政などが必要なのであります。つまり、インフレかデフレかの状況を見ながら、適切なタイミングで適切な経済政策を図ることこそが正しいやり方なのであります。  しかしながら、これは言われてみれば本当に簡単な話で、中学生でも分かるような話だと思うんですが、専門家の方はこの簡単なお話を口にされません。なぜか。その答えを十五ページに書かせていただいております。  実は、大恐慌以降、ケインズ先生の理論のおかげで、日本という唯一の愚かな例外を除いて、デフレは世界中で生じなくなりました。その結果、皮肉にもケインズ先生は、ケインズ自らのお力のおかげでケインズは死んだと言われてしまったわけであります。そして、インフレを前提とした理論だけが発展し、それが学会や定説の教科書として定まってしまったのであります。だから、今多くの専門家デフレに対する処方箋を知らないという事態を迎えることとなったのであります。  ただし、リーマン・ショックを経験したアメリカでは、既にここで申し上げた正しい経済政策の議論が始められております。是非、我が国日本でも、そんな当たり前の、理論的、思想的な大転換を全ての学者の先生方、そして全ての政治家の皆様方が果たさなければならないのではないかと、一人の学者として強く、強く強く強く申し上げたいと思います。  では、結論でございます。十六ページを御覧ください。  論理的、実証的、理性的に考えれば、デフレの今、消費税増税などによる緊縮財政は、デフレ悪化させ、財政悪化させ、倒産と失業者を増やし、そして自殺者数を増やし、挙げ句に被災地復興の大きな妨げになるということは、ささいなもので恐縮ではございますが、私の学者生命の全てを賭して断定いたしますが、明々白々なのであります。景気対策、被災地復興、円高対策、そして財政健全化のために、財政健全化も含まれてございます、財政健全化のために今求められているのは、積極財政をおいてほかに何もございません。折しも、東日本の被災地に必要なのは積極財政であることは万人が認めるところであります。  さらには、我が国は今、首都を壊滅させ得る直下地震が十年以内に十中八九の可能性で起こるであろうことが、そして、東日本大震災の十倍以上もの被害をもたらし得る西日本大震災も、二十年以内に同じく七、八割の可能性で生ずることが予期されております。それに対する備え、すなわち国土強靱化には、例えば年間で十兆円や二十兆円といった規模の予算が求められております。  しかし、今回の予算ではそれはたった四千八百億円しか計上されておりません。これは本当に必要な水準のたった数%、消費税よりも低いぐらいの水準のことしか計上されておりません。この程度予算であれば、我が国は何百兆円もの経済被害を受け、何万人、何十万人もの民が、無辜の民があやめられることとなるでしょう。逆に、十年累計で例えば百兆円、二百兆円の財政出動があれば、日本デフレは終わり、力強く経済成長し、国土が強靱化され、多くの、多くの日本国民が救われることとなるでしょう。  この当然の理性的議論を全て忘れ去り、万が一にも財政を出動せず、財政規律を過度におもんぱかりつつ消費税増税するような愚策がまかり通ったとするならば、その方針は経世済民、つまり、民を救うどころか、ただただ何百万、何千万という民を苦しめ続けることになることは必定なのであります。  そうである以上、政府そして国会の先生方には、もうこれ以上虚事に惑溺されて国民をあやめ続けるような蛮行を今すぐに、今すぐにおやめいただく勇気をこそ今まさに持たれませんことを、私が懸けることができる全てのものを懸けまして、心から強く強く祈念いたしまして、私の公述とさせていただきたいと思います。  どうもありがとうございました。
  6. 石井一

    委員長石井一君) いや、学者を辞めて立候補を勧めますよ。ありがとうございました。  次に、大嶋公述人にお願いいたします。大嶋公述人
  7. 大嶋寧子

    公述人大嶋寧子君) おはようございます。  みずほ総合研究所の大嶋と申します。本日は、このような場にお招きいただきまして、大変有り難く、光栄に思っております。  私は、民間のシンクタンクで雇用労働政策を見ております立場から、本日は、これまでの話とはちょっと変わりまして、現役世代社会保障をめぐる問題につきましてお話をさせていただきたいと思っております。  本日、このような横長の資料を持ってまいりましたので、こちらに合わせてお話を申し上げたいと思います。  早速ですが、一枚おめくりをいただきまして、左側に私が最近出版をいたしました本の表紙を載せています。ただいま絶賛発売中ではございますが、今日こちらを載せましたのは宣伝のためではもちろんございません。本日私が申し上げたい点を端的に表していると考えたからです。  具体的には、働く意欲を十分発揮できない社会が到来していて、そしてまた、一度転落するとそこからはい上がることが難しい、そうした状況が家族の生活基盤を不安定化させているだけでなく、将来の日本成長の基盤も揺るがせている。そうした状況に歯止めを掛けるために、今、家族の生活基盤を安定化させる、現役世代が上ることのできる階段を整備することが重要という点でございます。  それでは、スライドの三枚目を御覧ください。  家族の生活基盤が不安定化している背景には、安定した雇用機会が急速に縮小しているという問題がございます。実は、そのあおりを真っ向から受けているのは男性です。スライド三の図表は、男性と女性の正社員の数の推移を見たものですが、女性については、二〇〇〇年代半ば以降、下げ止まり、持ち直しの傾向が表れているのに対し、男性については減少傾向が続いています。その背景には、製造業、建設業、卸・小売業、そして運輸業といった、これまで男性に安定した雇用機会を提供してきた産業でその機会が急速に縮小しているということがございます。そうした結果、男性が働いて家族の生活を丸ごと支える、そうした仕組みが大きく揺らいでおります。  資料の四枚目を御覧ください。  しかし、問題はそこにはとどまっておりません。というのも、スライドの四枚目の左側の枠でお示ししましたように、現在の家族をめぐる問題、例えば結婚や出産が当たり前ではなくなっているとか子供の貧困が拡大している、また、不本意な非正社員が増えている、そうした問題が将来の日本成長基盤を揺るがしているからです。具体的には、少子化の進行であるとか子供の成長機会が制約されているとか労働生産性が伸びにくい社会の構造が生まれている、そうした問題でございます。こういった状態が超高齢化時代を日本が乗り切るための余力をそいでいる、そうした状態が今の日本であると考えます。  スライドの五枚目を御覧ください。  そうした問題の中でも最大のものは、言うまでもなく、結婚や出産をしたいと思う人が大部分を占める世の中でそれが当たり前ではなくなっているという問題です。一九八〇年代より日本の未婚率は上昇傾向にございますが、二〇一〇年には三十五から四十四歳で男性で三割、女性で二割が未婚の状態です。近年の研究が示しているのは、少子化の背景として男性の雇用が不安定化していること、そうした中で結婚が難しくなり、未婚化が進み、少子化が進んでいるということでございます。  現役世代の生活基盤が不安定化する中で子供の貧困率も高まっています。社会の中でちょうど真ん中程度の所得水準、更にその半分以下で暮らす子供の割合は、二〇〇九年に一五・七%、実に七人に一人の子供が貧困の状態にございます。子供が置かれる経済状態は、子供の健康、成長、そして学力に大きな影響を与えることが内外の研究で明らかになっております。  これに関して、スライド五の図表は、OECDの加盟国について、横軸に子供の貧困率、縦軸に子供の科学分野の学力の関係を見たものです。これを御覧いただきますと分かりますように、子供の貧困率が高い国で子供の科学分野の平均的な学力が低下する、そうした傾向が御確認いただけるかと思います。日本はと申しますと、過去二十年間で子供の貧困率が五%ぐらい上昇しています。そして、その傾向にはまだ歯止めが掛かっていません。つまり、子供の貧困を放置することは、日本の科学力や技術力にも影響しかねない問題だということです。  六枚目を御覧ください。  本来、正社員になりたいのに正社員になることができない不本意型の非正社員が日本で増えています。その数を推計いたしますと、大体二〇一〇年で四百万人ぐらいいると考えられます。このような非正社員の増加は労働生産性の伸びにくい社会を生み出している懸念がございます。  労働生産性は労働者一人一人が生み出す付加価値を表しますが、労働力が急激に減少する日本のような社会では、一人一人がどれだけの価値を生み出すことができるかが経済全体の成長力を大きく規定します。しかし、非正社員が増加するような社会あるいは企業の中では、安い労働力を利用できるために労働生産性を高めるような設備投資あるいは技術革新を企業が抑制してしまうこと、また、職業能力を高める、そうした機会が不足する労働者が増えるために労働生産性が伸びにくい傾向があることが海外の実証研究で明らかにされています。  スライドの七枚目を御覧ください。  このほか、今後労働力の減少を加速させる問題も顕在化しかねません。日本の正社員の働き方は、長時間労働を前提とするいわゆる職場に密着した働き方が標準となっています。そうした働き方が今現在でも女性の就業を難しくしているということはよく知られていますが、今後は、親の介護による離職を増加させる懸念が大きいと言えます。スライド七の図表は、介護を必要とする高齢者の数を私の方で推計させていただいたものです。要介護者は七十五歳を超えると急速に増加しますので、団塊世代が七十五歳に到達する二〇二〇年代前半、それ以降急増すると考えられます。  それでは、団塊世代の子供世代、団塊ジュニアの状況はどうかと考えますと、兄弟数の減少、未婚率の上昇によって、家族の中で、あなたは働いて、あなたは介護をしてというような役割分担が難しい、そうした状況にございます。つまり、団塊世代が介護を担うようになったとき、それを一人で担い、離職する、そうした方が増加しかねないという懸念がございます。  八ページ目を御覧ください。  日本では現在、失業や不安定雇用からの脱出がどんどん難しくなっています。近年でも、男性の非正社員の割合は二割を超えていますし、また、男性正社員の中でも年収三百万円未満の割合が急速に上昇しています。質の良い仕事が急速に少なくなる中で、一度失業するとなかなかそこから抜け出せない構造が生まれています。男性失業者のうち一年以上の失業者の割合は急速に上昇しています。その割合は二〇一〇年には四五%に上り、国際的にも高い水準となっています。一度失敗するとなかなかそこから抜け出せないような社会の構造は、例えば成長分野に転職してみようとか自分で事業を起こしてみようとか、そうしたチャレンジを難しくしている懸念がございます。  このほかに、不安定雇用の労働者が高齢化した際に生活保護の受給者が急増する懸念がございます。総合研究開発機構の分析によりますと、バブル崩壊後に生じた就職氷河期世代がワーキングプアとして働き、高齢期になったときに生活保護を受給する場合の追加的な財政負担は二十兆円近くに上る懸念があるということです。これまで申し上げたような将来の問題が顕在化いたしますと、経済成長率の抑制であるとか社会保障負担増加、そういったものによって家族の生活はより不安定化しかねません。そうした今でも、今現役世代の生活不安定化に歯止めを掛けることが非常に重要と考えています。  スライドの九枚目を御覧ください。  こうした状況に対しまして、自民党政権時代も含めて、国が大きな問題意識を持ってきたことは確かだと思います。ですが、今現役世代の生活の不安定化にも少子化にも子供の貧困にも歯止めが掛かっていない、そうしたことを考えますと、これまで以上に抜本的な対策が必要ではないかと私は考えています。そのために、私は、まず現役世代社会保障位置付けを見直すことから始めるべきではないかと考えます。  これまで、現役世代のための政策は、子育て支援であるとか格差・貧困対策といったように一部の人、特に一部の困った人のための対策位置付けられてきた面があると思います。ただ、一部の困った人への再配分政策というのは、受益者と負担する人の距離を遠くしてしまうので、その政策を弱くしてしまうという問題がございます。また、現役世代をめぐる問題は、長期的に見れば、今、日本で生活する人全ての将来にかかわる問題です。そうした意味では、現役世代への政策は日本の将来基盤の確立戦略として位置付け直した上で、教育政策、雇用政策、社会保障政策全ての枠組みを、現役世代が働くことを支えるということを軸に見直していく必要があるのではないかと考えています。  スライドの十枚目を御覧ください。  その柱と考える政策を私の方で三つほど挙げさせていただきました。その一つが、今も強化されている途中にございますが、再就職を支えるセーフティーネットを抜本的に拡充することです。  二〇一〇年の失業者は三百二十四万人でしたが、このうち雇用保険を受給していた人は約七十万人程度にとどまります。こうした状況に対して、二〇一一年には求職者支援制度という雇用保険を受給できない人のための支援制度が導入されましたが、その対象者は年換算で二十五万人程度にとどまります。失業時の生活リスクを緩和する代わりに求職者の労働市場への復帰を強く背中を押す、そうした支援をきめ細かく社会の中に張り巡らせる必要があると考えます。  このほかに、働くことが有利になる政策も重要です。これは、海外ではメーク・ワーク・ペイ政策と呼ばれるもので、勤労を条件に低所得者の所得を底上げする政策ですとか、最低賃金の引上げを行うような政策を指します。このような政策が重要なのは、働いても生活できないという状態が働くことから人を遠ざけるという側面があるからです。  総務省の統計を見ますと、非正規労働者のうち、雇い止めなどで過去一年間の間に離職して、一時的にせよ働くことを諦めてしまう人の割合は七%程度に上ります。これは、働く世代として決して少ない数ではございません。ですが、働いて生活できる見通しがあれば、働くことを諦めない足掛かりとすることができます。また、先ほどセーフティーネットの充実の話をしましたが、セーフティーネットを今受けている人も、働いて生活できる見通しがあれば、セーフティーネットから脱出するインセンティブとすることができます。  最後に、共働き世帯への支援を挙げたいと思います。  家計の所得・消費データを見ますと、過去十五年近く男性世帯主の収入は減少を続けています。これに対し、世帯主の配偶者の所得はほとんど上昇していないというのが現状です。つまり、世帯主の収入の減少に対して、家計は、もう一人働いて収入を増やして応戦しようというのではなくて、支出を抑制するという防戦一本やりを迫られている状態です。  女性が本格的に働いて収入を伸ばしていく、そういう見通しが立てば、もう一人子供を持ちたいなとか、あるいは家族に我慢させていたあれを買ってあげたいとか、そうした希望が顕在化する、そうした効果期待できると思います。これは、言い換えれば、家計が自助努力で生計を安定させる、その選択肢を増やすことになると考えます。  十ページ目に課題を挙げています。  最大の問題は、言うまでもなく財源でございます。日本の極めて厳しい財政状況の中で、これまで申し上げたような支援策を行おうとすれば、所得の再配分の強化というのはある意味避けられないと考えています。特に、高収入の現役世代への課税の問題、年金水準の高い高齢者の課税の問題、あるいは相続税制の見直しなどは緊急に検討がなされるべき課題ではないかと考えています。  また、共働き世帯の増加は子育ての環境を悪化させるという見方もあるかもしれません。ですが、最近の調査では、子供に虐待をしたことがあるのではないか、そうした不安を持つ女性の割合は、子育てに専念する女性の方で高いという傾向がございます。これは、育児に専念する女性が、夫の長時間労働であるとか地域社会の崩壊によって孤立化しやすいという問題があるかと思います。私が申し上げたいのは、女性が働いているか働いていないかが重要なのではなく、子育てを支える地域や人、専門家とのつながりが重要だということです。  最後に、現役世代社会保障の強化は自助努力を阻害するのではないかという御指摘もあるかと思います。確かに、受け身で待っていれば支援が降ってくる、そうしたタイプの支援では懸念は大きいと思われます。これを避けるためには、働くための努力を支える支援であるということを現役世代への支援策の目的として明確に位置付けることが必要と考えます。  最後に、十二ページ目になりますが、現役世代の働くことを支援することで何を目指すのかを整理させていただいております。  それは、結婚や子育てをしやすい社会であり、子供の成長機会が確保される社会であり、また、リスクが十分に保障されるので、転職や起業にチャレンジしやすく、職業能力の形成の機会が豊富な社会です。また、日本の宝とも言える高い労働意欲が維持され、労働力のロスが少ないので、高齢化の社会への抵抗力が強い社会だと考えます。そうした社会を目指すという観点からも、現役世代への政策の長期的な意義と役割について、これまで以上に国にはっきりとしたスタンスをお示しいただけないかと考えております。  以上でお話を終わらせていただきます。
  8. 石井一

    委員長石井一君) ありがとうございました。  以上で公述人の御意見の陳述は終わりました。  それでは、これより公述人への質疑に入ります。  公述人の熱心な御意見で、十分少々遅れてスタートいたします。午前の部は十二時に終了したいと思いますので、それぞれ七人の質問者は一、二分ずつ短縮をしてやっていただきたいと存じます。
  9. 金子洋一

    ○金子洋一君 民主党の金子洋一でございます。  本日は、土居先生、藤井先生、大嶋先生、大変お忙しい中をお越しをいただきまして、本当にありがとうございます。  まず、早速お尋ねに入らせていただきます。  私、大嶋先生のお話については正直申し上げまして守備範囲外でございますので、土居先生、藤井先生に主にお尋ねをさせていただきたいと思います。もちろん、土居先生、藤井先生、大嶋先生おっしゃること、大変に共感する点多々ございますけれども、例えば所得再配分の問題ですね、土居先生のお考えになっている、あるいは藤井先生のデフレへの取組といった点で大変共感をいたしますが、あえてお尋ねをしたいこと、意見の違うことをお尋ねをさせていただきたいと思います。  まず、土居先生にお尋ねをしたいと思います。  先生のこの配付をしていただいた大変詳細にわたる資料の中で、まず六ページ、欧州諸国国債金利上昇ということでデータをいただいております。簡単に御質問を申し上げますと、これだけ欧州金利が上がっている中で、なぜ日本国債にコンテージョンが起きないのかという点でございます。  先生は、日本国債の国内での消化余力というところで、七ページですが、一般の政府債務家計資産ということでお示しになっておられます。これですと、家計の資産が徐々に余力がなくなっていくと、消化がしにくくなっているというふうに読めるわけでございますけれども、私は、日銀の資金循環統計などを見ていますと、むしろ一般政府の貯蓄超過あるいは資金不足というのは企業の貯蓄超過、資金不足と密接に関連をしていると、単年度で見ますとほとんど逆の方向に、正反対に動いているという事実がございますので、企業からの資金が国債の方に回っているのではないかなと思っております。  その点につきまして、まず土居先生にお尋ねをしたいと思います。
  10. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 御質問どうもありがとうございます。  私自身は、この図は家計金融資産だけを絞っておりますけれども、当然金融市場には、いわゆる企業の資金余剰によってそれが運用される、その中で国債が購入されるという、そういう部分もあるというふうに思っています。ただ、根底のといいましょうか、その本源的な貸し手となり得るものは誰なのかという、そういう観点からいたしますと、企業も他人から負債や株式によってお金を調達しているという立場にあって、やはり本源的なお金の出し手というのは究極的には家計になるだろうということで、確かに、短期的には企業の資金余剰があって、それによって国債が消化されることで確かに金利上昇することを防ぐということはできているということがありますけれども、今後は高齢化によって我が国金融資産は減る方向にあると。つまり、ライフステージの中で、若い人たちは貯金を積み増し、高齢者は貯金を取り崩すというライフステージは、これは人間の宿命でありますけれども、その中で、高齢者の比率が増えていくということになりますと、相対的には家計金融資産減少する方向に我が国はあると。  そういうことを考えますと、企業の資金余剰に頼ってばかりいると、いつの間にやら本源的なお金の貸し手である家計金融資産がどんどん減ってしまって、振り返ってみると、結局は国債も誰も国内では買ってくれなくなるかもしれない、追加的に買ってくれなくなるかもしれないと。その反面、海外からお金を借りるというウエートが多くなるということが起こるのではないかと。そういう見方を少し捨象して、簡素化してお示ししたのがこの七枚目のスライドというふうにお考えいただければと思います。
  11. 金子洋一

    ○金子洋一君 ありがとうございます。  企業のその資金余剰の動きの方が単年度で見ますと明らかに一般政府の動きと関連をしておりますので、ベースになる部分で家計というのはあるのかなという気はいたしますけれども、その資金のお金の動きの方が重要であるのではないかなと私は思っております。  そして、今先生のお話の中で、国外からの資金の流入のお話がございました。これ、先生のお話の中にあったんですけれども、海外との金利の裁定のお話です、国債金利の裁定の話。これは冒頭の欧州国債金利とのコンテージョンがなぜ起きないのかということとほぼ裏表のお尋ねになるんですけれども、これだけ長期間海外金利が違っていると。つまり、海外との金利の裁定が行われていないというのは、これは、将来起きるぞと見るべきなのか、それとも、やはり日本の場合には何らかの要因があってそういった裁定が起きないというふうに見るべきなのか、先生はどうお考えでしょうか。
  12. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 御質問ありがとうございます。  今のところ、まさに欧州財政危機に端を発した金融の混乱、これによってまさに先生御承知のように円高が起こったということがあります。この要因は、目下の我が国国債の増発要因よりも大きなマグニチュードで金融市場を席巻したというふうに私も思っておりますので、円高によって、その金利裁定の部分は、御承知のように、単純に金利の高い低いということだけではなくて、将来の為替レートの変動の期待というものも当然金利平価では起こってきますので、そこのどちらの動きの方が早い、ないしは大きなインパクトを持ち得るかということであります。ですから、為替レートで調整される方が大きいと金利差は残ったままということになって、我が国金利は低いままということは、当然これは起こるということは私も承知しております。  ただ、いつまでも、いつの場面も、どこでもこういうことが続くかというと、ひょっとすると金利の方がより感応的に動くという場面が将来起こるかもしれない、その点については私は若干懸念をしておるという、そういうことでございます。
  13. 金子洋一

    ○金子洋一君 ありがとうございます。  今のお話の中の先生のおっしゃったことを私なりにかみ砕いて解釈をしますと、つまり、今後円高が続くような状況ですとこういった金利の差というのがあり続けるというふうに考えてよろしいんでしょうか。
  14. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 御質問ありがとうございます。  まさにおっしゃるとおりでございまして、要は、円という資金を持つときに、いわゆるキャピタルゲインと申しましょうか、円高によって資産価値が増加するということだから、別に円の資産として金利を高く要求しないということは起こり得ると思います。  ただ、いつまでもこんな円高であっては困る、ないしは円安にもっと政策のかじを切れないかと、こういうお話もあったりいたしますので、円安の刹那になりますと、当然円で持っている資産を取り崩そうとするとか、ないしは円で引き続き持つということであるならば、円の価値が目減りする分だけきちんと、インカムゲインといいましょうか、金利をもっと高く要求しないと持ち続けられないよというふうに海外から言われるという可能性が出てくるとは思います。
  15. 金子洋一

    ○金子洋一君 ありがとうございます。  となりますと、円高期待が続く限りこういう状況が続いてしまうというのか、続くというのか、そういうようなことでよろしいのかと思います。  また土居先生に続きましてお尋ねをさせていただきたいと思います。それは、金利上昇の問題です。  例えば、先生の資料の十ページで、これは財務省の資料ですけれども、名目経済成長率が上がれば金利上昇というふうに書いていただいております。私は、ここにかなり疑問があります。と申しますのも、これは例えば日銀の白川総裁なども、最近は、金利上昇にはいい金利上昇と悪い金利上昇がありますとおっしゃるようになりました。いい金利上昇というのは景気回復に伴う上昇で、悪い金利上昇は、まさにおっしゃるような、国債の信用不安から起こる金利上昇ですというふうにおっしゃっています。  ただ、その点と離れましてでも、果たして名目経済成長率が上がって必ずしも金利が上がるのかどうかという点を私はお尋ねをしたいと思っておるんです。というのは、恐らく世の中で言われておりますリフレ政策というものがございまして、物価を何らかの金融政策で上げていくと。そうなりますと、リフレ政策に反対をなさる方というのは、そういうことをしますと国債金利も直ちに上がるというお答えの仕方をなさいます。言い方を変えると、フィッシャー効果が直ちに効く、あるいはもっと言い方を変えると、長期的な均衡状態に常に経済があるという御主張だと思います。  私は、それ、かなり疑わしいと思います。例えば、大恐慌の状態、アメリカの大恐慌の状態でも、あるいは日本の場合でも、一九三二年なり三三年を底に物価は淡々と上がっていきました。ところが、長期の金利にしても短期の金利にしても、我が国も米国も三二年、三三年から恐らく四〇年ぐらいまで右肩下がりでした。つまり、それ以降というのは戦争に入りますから。七、八年はずっと金利は下がりっ放しの状態になったわけです。また、そんな昔のことじゃ分からないよという声もありますので、じゃ、直近の欧州なり米国の経済を見ておりますと、マイナスの実質の金利がもう三年以上続いております。  ですから、ここで前提にされているような、経済成長率が上がれば金利上昇、直ちに上昇という意味ですけれども、というこの試算というのはかなり疑わしいと思うんですが、先生はこの点についてどうお考えでしょうか。
  16. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 御質問ありがとうございます。  私自身は、これが必ず起こるということを申し上げたいというわけではありません。むしろ、財政収支をより底堅くきちんと見ておくには、一番悪いシナリオと申しましょうか、良くないシナリオであったときにどういうことが起こるかということをきちんと見定めつつも、もしうまくいけば、それはボーナスとしてその原因を何らかの形で国民が享受すればいいというふうに思っておりますから、もちろん私自身も経済成長を促すということには大賛成でありますし、これはこれとして取り組むべきだと思っておりますけれども、もしそれがうまくいかなかったとしても、そこでひどい状況にならないように考えておく必要があると。  そういう意味では、別にこれは、単に自然増収がこんな程度しか上がらないんだから経済成長してもしようがないということを言いたいわけでは決してありませんで、むしろ経済成長をすればそれなりの自然増収が上がるような税制改革をきちんと施しておくと。これは増税するかしないかということは全く別問題といたしまして、我が国の環境として税制改革をきちんと整えて、それによって経済成長とともに税収も多く入り、それによって財政もよりその収支が改善するような構造に変えていく、つくっていくということが必要なのではないかというふうに思っております。    〔委員長退席、理事川上義博君着席〕
  17. 金子洋一

    ○金子洋一君 ありがとうございます。  要するに、最悪の状況に対して備えておくのが為政者の務めだというふうにおっしゃっているんだなと受け止めさせていただきました。  今申し上げましたけれども、大恐慌のときには実質金利が非常に低い状態が続きました。現在の我が国経済状況を考えますと、やはり大恐慌に比較可能な非常に厳しい状態にあると思います。先ほどちらっと申しましたけれども、物価上昇させて実質金利を下げるという発想で様々な政策提言が行われておりまして、私もそれに賛成をしておるんですけれども、反対をなさる方はフィッシャー効果を例に挙げられると。  土居先生、そして藤井先生、お二方にお尋ねをしたいんですが、金利の今後の上昇の仕方ですね。つまり、何らかのショックがあって物価が上がった場合、それは金融政策を緩和したことが原因になるのかもしれません。そういった場合に、果たして大恐慌のときのように物価は上がるけれども金利の方は余り上がらない状態が続くとお考えなのか、それとも、いや、そうではなくて、もう直ちに調整をされて名目の金利も上がってしまうんですというふうにお考えなのか、土居先生、藤井先生にそれぞれお尋ねをしたいと思います。
  18. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 金利に関連いたしまして、私自身は、もちろん金融政策のスタンス次第というところはあろうかと思いますけれども、特に大恐慌の例を挙げられました。  大恐慌の話に関連して、私自身の認識を述べさせていただきますと、なぜ金利がそんなに急に上がらなかったのかというと、やはり企業の資金需要がアメリカ国内ではそれほど多くなかった。端的に言えば、アメリカが太平洋戦争に突入するまでは本格的な景気回復はなかったということだろうというふうに思いますから、そういう意味でいうと、民間の資金需要もそれほど多くないという中で金利がどしどし上がるということには必ずしもならないだろうと思います。  そういう意味でいいますと、日本経済、今これからどうなるかということでいいますと、これから民間の資金需要がどれだけ伸びるのか、さらには政府がどれだけ国債を増発するのかということによって資金需給が当然そこで規定されてまいりますから、もし需要側の方が多くなってまいりますと、当然、金利上昇圧力が掛かってくると。それは、ひょっとすると、私が一番懸念しているのは、国債を過度に増発してしまうと金利上昇の引き金を引いてしまうことになるかもしれないということを懸念しております。
  19. 藤井聡

    公述人藤井聡君) 今後の金利の動向でございますが、基本的には日本銀行の金融政策がどういうスタンスになるか、依存しているという、土居先生と全く同じところでございますが。  今後の動向でありますけれども、金利が上がるか下がるかということは、結局はデフレ脱却できるかどうか、すなわち民間の方々、まあ海外の方も含めてでありますけれども、基本的に日本の場合は、国内の民間の方々が投資を積極的にしようと、すなわち将来に対して明るい展望を、期待が上向いて将来に対して明るい展望を持てば、それは金利が上がってくるという可能性が出てまいると思います。一方で、このままデフレが放置され続ければ金利が上がるということはかなり考えにくいだろうというふうに思われます。  そして、したがって、これは金融政策だけではなくて実は財政政策とも関係がありまして、今、土居先生がおっしゃったように、国債の発行による懸念というところの部分が当然あるということは私は否定はしませんが、国債を借りたので政府は何もしないということは絶対にあり得ませんので、借りたことで何かをするわけでありますから、そのときに何をするかというと、当然ながらデフレ対策を徹底的にやるというような、金融政策と財政政策をドッキングするような、パッケージでやるようなことになれば、そうすると初めて金利が、デフレ期待がなくなってインフレ期待になって金利が上がっていくというようなことになるかもしれません。  したがって、金利がどうなるかということについてのお答えは、これはもう自然現象ではありませんのでお答えはできませんとしか言いようがありません。すなわち、政府がどういう態度を取るのかという、その一点に掛かっているということであります。そして、重要なのは、仮に実際の海外のヘッジファンドの投売りというのがなくはないとは思いますけれども、実はその割合というのは当然ながら今低いわけですね、海外の方が持っておられる。とはいえ、それが起こったとしても、そのときに日本銀行が毅然と全て買い支えますと、一言毅然と言えば金利が上がるということはちょっと考えにくいと思います。したがって、政府と日銀のアコードの取組というその積極的なデフレ脱却政策とともに、日銀が、僕がきちんと金利上昇を抑えますということを宣言するだけで、実際にそれを宣言するだけで実際に買いオペレーションを掛ける必要がなくなってしまうというようなことが起こるということもあると思います。  したがって、金利がどうなるかというのは、これは太陽がどっちから昇るかとか隕石がどこから降ってくるかとかという話と違って、これはもう政府がどうするかという、その一点だけに掛かっていると言って過言ではないということだけは申し上げておきたいと思います。  以上でございます。
  20. 金子洋一

    ○金子洋一君 ありがとうございました。  両先生とも、国債の扱い方、そしてその吸い上げたお金の使い方に掛かっているという御返事をいただきましたので、大変私も安心をいたしました。  これもまたお二人の先生にお尋ねをしたいんですけれども、財政再建ということになりますとIMFが達人ですが、IMFもやみくもに財政再建をすればいいのではないと。増税を先にやってから財政再建に入ると失敗する例が多いというようなことをたくさん例を挙げて言っております。むしろ、歳出削減から入った方がいいんじゃないかということを度々言っておられるわけです。私もなるほどそうなのかなというふうに思っておるんですけれども、そういった観点から見ますと、最近の政府の中期財政フレームなどに対する御評価、土居先生、藤井先生、どんなものになっておられますでしょうか。
  21. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 中期財政フレーム、まさに民主党政権になってから作られたということでありまして、一つは、評価できる点は、これは財政運営のスタンスという意味であって予算の中身というところには関係ない部分でありますが、いわゆる中期的な視野を持って財政運営を単年度の予算をつくっていくということで、これはイギリスの仕組みに倣った面があるというふうに承知しております。そういう意味でいいますと、中長期的な視野を持って単年度の予算編成をするという仕組みを何とか埋め込もうという取組をなさっておられるという点は、私は高く評価しております。  ただ、中身の問題ということになりますと、もう少し願わくばそれぞれの、せめて社会保障とそれ以外ということぐらいまで切り分けたところで歳出抑制をどういうふうに図るかということを更に一歩踏み込んで予算編成をしていくような取組が今後なされるということであれば、もっともっとその価値が高まってくるのではないかと思います。  やはり単年度単年度で毎年予算を切った張ったといって、今年は減らされたけど来年は取り返すぞとか、そういうような話ではなくて、三年間なら三年間見渡したときにどのぐらいその社会保障の各費目の予算が必要となるか、それを工夫すればどうやったら節約できるのか、そういうようなところを見渡しながら単年度の予算を編成していくという、そういうスタンスというものが、これは今後、日本財政運営、予算編成過程の中では是非とも必要なことなんではないかと思っています。  最後に一つだけ申し上げさしていただきますと、やはり社会保障給付の効率化、重点化ということは更に必要でありまして、特に医療と介護の連携とかそういうようなものを更に進めることによって、質を落とさずに予算を抑制しながら国民のためになるということは、まだまだいろいろ工夫ができる余地が残っているというふうに私は思っております。そういう意味では、社会保障給付の効率化、重点化ということは、特に支出が多いがゆえにインパクトも大きくて、そのメリットも大きいだろうというふうに考えております。
  22. 藤井聡

    公述人藤井聡君) 御質問の御趣旨、全く私も同意でございます。  今の政府の考え方は、基本的に、理論的には、ちょうどこの土居先生の資料の中にございますので、これを使いながらお話ししたいと思うんですが、二十七ページに課税平準化政策という、このバローさんの一九七九年のペーパーの理論が書いてございます。この手の理論はいろんな前提があって、これこれこういうときには使ってよろしいと、これこれこういうときには使えるかどうか分かりませんということが全部、薬と一緒というか処方箋が書いてあるんですね。これが使えるのはデフレがないときに限られると、バローさんはそれは直接書いておられないですが、ペーパーの趣旨からすると、これ、デフレのないときということが前提です。  なぜかというと、次のページの二十八ページ、これ要するに、今税金を取って何かをやっても、将来税金を取ってやっても、まあ将来の方が負担があるので大変ですという話なんですが、今ここで議論しているのは、今、税金とかあるいは財政を出動して、財政を出動してデフレ脱却できれば将来の負担が低くなるという効果が一切入っていないんですね。ですから、バローさんが悪いんじゃなくて、これを今、日本で使う方がおかしいという話でございます。  これは別の言い方をすると、デフレを放置するというのはデフレという大きな超巨大な負債を後世に残しちゃうことなんです。デフレというツケを後世に残すことなんですね。それを分からないと。一般の方はデフレという認識が余りないでしょうし、一般の方はデフレというものがどれだけ恐ろしいかということについて十分御理解されていない一方で、何か税金のツケとかいうと、ああ、何か飲みに行ってツケが回ってきたのかなとかという、分かりやすいというだけはあるんですけど、デフレというのは、これは専門家からするとどちらも同じ話でありますから。  しかも、今明確に、財政をきちんと拡大してデフレ脱却を明確に行っておけば、デフレによる将来の毀損、これは、私は今日はペーパーを渡してないですけど、数千兆円程度の毀損をもう十五年前とかの財政出動の失敗によって我々はもたらされているというような試算もあるぐらいですから。これは期間費用ですから、何といいますか、ほんまはめっちゃようなっているんやけど、今はこんなんやからということで、今こういうことで、言い方悪いですけど、気付いていないんですけど、ほんまやったらここまで行ってたというここの部分があるんですね。それがデフレの恐ろしさで、なかなか一般の方は気付かないところではあるんですが。  したがって、今、政府は今デフレであるということの問題を全く理解していないということについて私は大きな懸念を感じます。  このデフレについて、ちょっともう少しお話ししてもよろしいですかね。よろしいですかねって聞いたらあかんのですかね。  これのページで、私の資料の補足資料で三十二ページ、これマリナー・エクルズという、これはエコノミストなんですが、彼はルーズベルト大統領にニューディール政策を進言した方であります。後にFRBの議長になった。真のエコノミストの方だと私はいつも尊敬申し上げているんですが、彼はこういうことを言っております、デフレとの戦いということについて。  敵国との戦争から人命を守るために使われるのと同じ政府債務が、平時においては、失意と絶望から人命を守るためにも使われるのであると。すなわち、彼にとってデフレの戦いというのは敵国との戦いと同じだということをおっしゃっているんですね。戦争を戦うための政府の能力に制限がないのと同様に、恐慌と、すなわちデフレ、大不況と戦う政府の能力にも制限などないのであるとおっしゃっているわけですね。両方とも人的資源と物質的資源、頭脳、そして勇気のみに懸かっているというふうにおっしゃっておられます。  今日の公述でも、もうとにかく勇気をお出しくださいと先生方にお願い申し上げましたし、彼が言っているのも、結局、勇気だけが必要だと。しかも、先ほどの御質問の金利というのも、政府がどうするんだということに懸かっているんだということを、何度も繰り返しますが、経済というものは政府の政策によって大きく変わってくるものでございますので、その一点を絶対に忘れないで政府の政策の方針を考えていただきたいと思いますし、今の現政府の方針は何かもう自然現象みたいに金利のこととかを扱っていらっしゃって、それはいかがなものかとしか私は思えないところでございます。  以上でございます。
  23. 金子洋一

    ○金子洋一君 ありがとうございます。  続きまして、土居先生に税収弾性値の問題でお尋ねをいたします。  資料十一ページなんですが、税収弾性値四には致命的な欠陥があるというふうにおっしゃっています。私は、ちょっとここの議論がよく分かりません、正直申し上げまして。バブル直前数年間の税収弾性値は一・六ぐらいでした、平均をしますと。一九九八年以降の平均が、単純平均が四ぐらいで、内閣府の作りました与謝野さん肝煎りのデータでも三・一幾つあります。標本数が少ないので単回帰は問題だと書いておられますけれども、たしかに標本数が少ないから回帰分析をするのは問題かもしれませんけれども、平均値自体取ることに何ら問題もなかろうと思います。  また、先生の資料の中では、十二ページですけれども、一九九五年から二〇一〇年を丸で取っておられますけれども、一九九五年から一九九七年、八年ぐらいまでというのはまだ我が国経済デフレに陥っていませんので、やや性質が違うのかなという気もいたします。  その後、いただいている税収弾性値の大きさ(4)、十四ページですけれども、税収増加率と名目経済成長率だけでは結果を信用できないと書いておられます。ここも私よく分かりません。正直に申し上げまして、名目経済成長率が大きくなればなるほど税収が増えるというのは、これは当然GDPの実数があるわけですから、そこに各部門のGDPがこのくらい伸びて、そこには、背景にはもうけというのがあると。そのもうけに対して課税をされる、納税をするという形になりますので、まさに税収増加率と名目経済成長率というのはこの一対一対応で分析をして何ら問題がないのではないかと思います。むしろ、そのほかの、他に影響を与える変数というようなものを入れる方が恣意的ではないかなと思いますので、こういったやや素朴な疑問かもしれませんけれども、この点についてコメントをいただければと思います。
  24. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 御質問ありがとうございます。  確かに単純平均という数字があるわけですけれども、私が思いますのは、追加的に名目成長率が一%増加したときに追加的にどれだけ税収が増えるのかというところを見るには、やはり単純平均、いわゆる平均消費性向と限界消費性向という考え方と似たようなものなわけでありますけれども、限界的なところでどれぐらい税収が増えるのかというところをやはりつかむべきではないかというふうに思っておりまして、その意味では、原点からの傾きということよりかは、むしろ回帰分析をしたところでの傾きと。  それからもう一つは、他の変数を入れるということに関連して申しますと、例えば円安になって景気が良くなって、税収増税せずとも増えた、もちろん名目成長率も何がしか上がっているということはあるかもしれないと。そういたしますと、そのときには確かに、かなり高い税収弾性値実績値としては定義上観察されるということはあると。逆は逆で、円高になればそうなると。そこの他の変数、つまり経済環境をコントロールせずに数字だけ生で定義上の数字として取ってくるということだと、やはりそこはいろいろな影響が除去できていないのではないかという、そういうような見方でありますから、そこは、回帰分析という手法を使うならば、それは、ほかの変数を説明変数として入れることによってそこはコントロールできると。  そうすると、残されたところで、測ったところで、特に限界的な、スライドで申しますと十五ページのような傾き、こういう形として測られるところが、まさに追加的に、一%経済成長率が伸びたときに追加的にどれだけ税収増加率が増えるかというところを測り取ることができるのではないかと、そういうような考え方であります。
  25. 金子洋一

    ○金子洋一君 おっしゃること、よく分かります。ただ、やはり円安になれば名目成長率も多分上がるでしょうし、円高になれば下がるでしょうから、そういった意味では、円安、円高といった数字を入れてコントロールをして計測する意味というのは、少なくとも実務家的にはないだろうというふうに私は思っております。  では、最後に藤井先生に一問お尋ねをさせていただきます。  モデルの件なんですけれども、例えばIMFのモデルを見ていますと、GDP比で一%財政赤字を削減をすると内需が同じく一%分縮小をする、ただし輸出が増加をするというモデルなんですね。輸出が増加をするというのは自国通貨安になるということです。何で財政削減をして自国通貨安になるのかというと、可能性としては、それだけクラウディングアウトが起きていて国内の金利が上がっているということを前提にしているモデルです。  となりますと、我が国のモデルにこういったIMFのモデルあるいはIMFの影響を受けた現在の内閣府のモデルを当てはめることはおかしいんではないかというふうに思われるわけですけれども、先生はいかがお考えでしょうか。
  26. 藤井聡

    公述人藤井聡君) 御質問ありがとうございます。  まさに私も全く同感でございます。本日の虚事の三でしたでしょうか、クラウディングアウトなんて起こっちゃいないということが完全にデータで分かっているわけであります。起こっていないどころか、両者の動きは真逆になっているということでございます。  要するに、資金需要が今全然国内になくて、お金がこれはもう銀行の中にも余っておりますし、しかも日本銀行の中にまで余ってしまっているというような状況でございますから、クラウディングアウトの起きようがないと。しかし、IMFのモデルはこれはインフレ前提といいましょうか、そういう超過預金がないということが前提のモデルで、クラウディングアウトが起こるということが前提になっておりますので。  これも何度も申し上げますけれども、そのモデルですとかこんなのは全部架空の、そもそもモデルなんて虚事みたいなものですから、使うときには相当注意をして使わないといけないのに、ここに、偉い学者先生が言うたからといってばあっと使ってしもうたら、普通の人が聞いたら、何か、ああ、それでええんかなと思ってしまうというところが非常に悪質な行為になっているんじゃないかなと私いつも感じるんですけど。  今回の、まさに御指摘になった今の日本のモデルを使って計算をしているというのは本当に重大な詐称の疑義があるんじゃないかと先ほど申し上げたとおりでございますので、是非、先生方のお力できちんと政府にちゃんとしたモデルを使うように御進言いただくように、御調整いただくようにお願いしたいと思います。  以上でございます。
  27. 金子洋一

    ○金子洋一君 どうもありがとうございました。  終わります。
  28. 渡辺猛之

    渡辺猛之君 自由民主党の渡辺猛之でございます。  三人の公述人先生方には、本当に聞きごたえのある御意見を賜りまして、誠にありがとうございました。私は全く専門外でございまして、一素人として、今日は三人の先生方の御意見を大変有意義に拝聴をさせていただきました。質問も先生方の専門分野から少し外れた質問になるかもしれませんけれども、どうかお許しをいただいてお答えをいただければということを思っております。  まず最初に、それぞれ三人の先生方にお尋ねをしたいんですけれども、今回、社会保障と税の一体改革、これは増え続ける社会保障費をどうすべきかというところで、消費税の議論を始めとして税制改革の話が出てきていると認識をしておるわけですが、まず先生方の基本的なお立場、スタンスとして、社会保障費の抑制についてどのようにお考えになっておられるのか、お聞きをしたいと思います。  特に大嶋先生は、社会保障費の新たな使い道ということで、働くことを支える社会保障の抜本強化という御説明をいただきましたので、大嶋先生には、特に高齢者社会保障費についてどのようなお考えをお持ちなのか、お聞かせをいただければと思います。
  29. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 御質問ありがとうございます。  私は、私も先ほど少し触れましたけれども、社会保障の給付の効率化、重点化というのはまだまだ余地があるというふうに考えております。  特に、医療と介護の連携を深めることによって、例えば病気をなさって入院なさる、だけれども病気が治癒されて、それでもう別に入院は必ずしも必要はないということでありながら自宅に戻るということがなかなか難しいという場合には、本来ならば、そこに介護施設があってそちらにお移りいただくということが、社会保障給付の面から見ても、病院にお残りいただくよりかは介護施設にお移りいただいた方がそれだけ給付が抑制できるという利点があります。  それでいて、別にその御本人にとっては、むしろ病人扱いされるよりも、病気が治癒しているわけですから、より回復に向けたリハビリができる介護施設でいろいろなトレーニングを受けられるとか、そういう自分の体調に合ったサービスが受けられる。それでいて、実はその方がむしろ介護給付と医療給付のその合計した金額はより少なくて済むと。質を低くせずに給付は抑制できるという利点があるというところであります。  今の状況は、それぞれのつかさつかさでといいましょうか、病院は病院、介護施設は介護施設ということでそれぞれ御専門があるので、どうしてもなかなかその垣根がうまく越えられないというような面もいろんなところでありますので、そういうところは改めていく必要は私はあるとは思っていますけれども、そういう工夫をすることを通じてそれなりに抑制できるということはあると思います。  さらには、年金に関連いたしましても、御承知のように基礎年金は半分税で賄われております。必ずしもそれは御本人が若いときに納められた保険料財源になっているわけではない部分なわけであります。もちろん、その給付の権利ないしは給付の金額というのは若いときに払った保険料に対応するということにはなっておりますけれども、財源そのものというのは税金で賄われることが、基礎年金の半分ということになっておりますので、その部分は、より多く公的年金を受けられる方については少し御辞退いただくというか、給付を抑制するということですけれども、そういうような工夫をすることで、必ずしも高齢者の方に生活の支障を与えるというようなことにはならずにそれなりの給付抑制効果というものも期待できるという、そういうことがあろうかと思いますので、いろいろ工夫をこれからも積極的にしていくべきなのではないかというふうに考えております。
  30. 藤井聡

    公述人藤井聡君) 社会保障の問題は国政を考えると極めて重要な問題であることは、これは論をまたないと思いますが、実は社会保障政府が行おうとするときにはお金がないといけないと、これも当たり前でございます。  そのお金はどこから来るかというと、日本人のGDP以外からは来ません。まあ善意の外国があってお金をようさんくれはるんやったら別ですけど、誰もくれないので、結局、日本人が稼がないといけません。したがって、社会保障を十分ちゃんとしていくためには経済成長するということ以外に道は基本的にありません。  もし仮に経済が十二分に成長し切った後であるのならば、あとは税制をいろいろ変えたりとか、そうすることで富の分配の方法を変えるということは当然ながら考えられるわけでありますが、今問題になっているのはデフレーションであって、経済成長しないということが一番の問題なのであります。  先ほども大嶋公述人のデータでもございましたように、成人の男性の働いている人がどんどん減ってきているというデータがありましたが、あれはデフレだからそうなっているわけであって、そこの減ってきはった部分のところに、いや、お金あげなあかんわいうて社会保障をやっているわけではありません。いやいや、その前にその人の仕事をつくりましょうよというのが筋であります。  したがって、社会保障と税の一体改革ということの議論の前提には日本はもう成長しないということがあって、何というんでしょうか、とんでもない勘違いを今の政府がしているとしか僕には思えません。  これは、福祉は、もうよく言われることで、田中角栄先生も昔からおっしゃっていますけれども、福祉は天から降ってこないんですから自分で稼ぐしかないんです。これは、家で考えると、自分の家でおじいちゃん、おばあちゃんが増えてきて、そしたら若い子は、そしたら俺ちょっと頑張らなあかんわいうて、それで自分がお金あげる分を分配する、分配を考える前に、どんな仕事しようかというのを考えるのが普通の発想でありますから、それが日本経済成長を果たさなければならないということであって、おじいちゃん、おばあちゃんが増えるんだったら、そこの男の子はタフにならないといけないというだけの話であります。これが第一点であります。  当然ながらそれでも漏れ落ちてくる方がおられるので、そういう方に対しては、当然ながらセーフティーネットで社会保障をきちんといろいろとやっていかないといけないと、これは当然であります。  もう一個、成長のこと、成長しなくてもいいよということの議論で一番重要なのは、先ほどから何度も議論になっております税収弾性値の話であります。  先ほど時間がなかったので細かいところを申し上げられませんでしたが、もうちょっと、土居先生には恐縮なんですが、土居先生の資料の十二ページを御覧いただいて、もう僕は今日時間が、これ学会やったらこれだけで僕は三十分、一時間ぐらいしゃべってもええんですけれども、今日はちょっと簡単にだけ申し上げますけれども、これ回帰モデル、要するに、横軸、これ十二ページですと、横軸が名目経済成長率で、経済成長が伸びるとあと税収がどれだけ増えたかということをプロットしているんですね。  おっしゃっているのは、いろんな要因で変わるから、何か要因でこうやりましょうと、そういうことをおっしゃっているんですけれども、要因の中で一番大きな要因は赤と黒なんですよ、これでいうと。赤は何かというと、これはデフレのときです。黒はインフレのときです。  だから、経済状況で全然違うのは、インフレのときとデフレのときで全然違うので、例えば実際ここでRIETIのモデル、二〇〇八年の橋本先生のモデルが引用されて、それが一・一前後やからこれでええんやという話があるんですけれども、そのモデル、僕は全部読んだんですよ。  そうすると、法人税のモデルのフィットといいまして、何といいますか、法人税のモデルがどこまでいいモデルなんかいうのを示している尺度があって、大体〇・九以上ないとあかんのですけれども、もう〇・三ぐらいしかないんですよ、そのモデル、デフレのときには。インフレのときには適合しているんですけれども、デフレのときには全然使ってないんですけれども、そのモデルを見ると、まあちょっと、〇・三で使われへんからインフレのときのやつを使ってみましょうとか書いてあるんですよ。  ですから、もう元々インフレのときにしか使えないような分析でやっているのを、こんなこと分かるのはほとんどいないと思いますよ、政治家の先生方でも。学者の先生でもやっぱり統計のこととか分からぬ人、経済学の中でもたくさんおられるんです。統計のことも経済のことも、全部のことを分かっていないとこういうのは分からないですから。それで、そんなペーパーを読むやつなんておらんやろと思ってはるんやと思うんですけれども、僕、ちゃんと読んでいるわけですよ、そういうのは。  それでいきますと、一番、何といいますか、回帰の線を引くときに、要するに、何かどこかありましたよね、これですわ、これで、だから、何かいろいろと条件によって線が変わるから、この線は一定なんだと、こう言うんですけれども、だから一番変えなあかんのは、その赤の、インフレのときとデフレのときで変えなあかんということで、インフレのときをのけて赤だけで見ると、それで回帰線引いたら、ざっと引きましょうよ、例えばこんな感じで。そうしたら、四パーのとき一〇パーですから、もうこの大ざっぱな計算だけで、今やった僕の、藤井重回帰モデルで今やった、これだけでも目分量で二・五ぐらいの弾性値があるんですよ。  だから、一・一なんというのはもうめちゃめちゃな話であって、RIETIのモデルだって、こういう分析をしているんじゃなくて、マクロモデルをいろいろと積み上げて、それでシミュレーションして、そのシミュレーションするときもどこかから持ってきて、何か政府の将来予想値か何かぶち込んで、そのモデル自体は合っているかもしれませんけれども、入れているデータが間違えているのと違うかと僕は思っていたんですけれども、そこまでまだちょっとチェックしていないですけれども、また今度必要だったらチェックしますけれども。  いずれにしても、一・一というのはもう考えられないんですよ。だから、これは、なぜこんなことしてはるのか、僕にはもう意味が分かりません。誠実でないか、うそをついているのか、ほんまにちょっと、何というか、何もしていない、僕、今何もしていないですけれども、もう本当に何をしてはるのやろと、偉い方がいっぱいおられてというふうに思います。  いずれにしても、経済成長したら税収は増えるんですよ。だから、その当たり前の当然の事実を見過ごして一体改革なんか言うのは、これもう絶対におかしいと断定しておきたいと思います。  以上でございます。
  31. 大嶋寧子

    公述人大嶋寧子君) 御質問ありがとうございます。私の方は、社会保障の抑制について御質問をいただきました。  まず、社会保障費の大部分を占めます高齢期の経済状況を見ますと、非常に格差が大きい。中でも高齢期の所得の状況として一番注目すべきは、貧困率が非常に高いということで、特に高齢単身世帯、女性については、試算によりますが、三割が貧困、あるいは試算によっては五割が貧困という状況にございます。そうした中で、高齢期の低所得の方が肩身の狭い思いをするような抑制というのもまた非常に難しかろうと考えています。  その一方で、やはり急速に社会保障費が膨脹している状況を考えますと、抑制というものを考えていかざるを得ないのかなと思います。  次回の年金制度改革におきましては、例えば年金支給開始年齢の更なる引上げということについては先送りとされておりますが、ただ、こうしたことについても、諸外国の状況を見ますと、日本より平均寿命が低くて、また高齢化率も低い国で英、米、独のような国で六十六、六十七から六十八への引上げというものも検討されていまして、決定した国もありますけれども、日本も、私的年金の充実ですとか、あとは年金受給の前倒しに関する要件の見直しなども含めた上で、支給開始年齢の引上げ等の対策は行っていかなければならないのかなと思っています。  また、支給の抑制とはちょっと話が異なりますが、年金収入に対する課税の問題もあると思っています。公的年金等控除につきましては、現役世代に対する給与所得控除と比べまして少し寛大な設計になっております。しかも、年金収入が高まると控除枠が拡大するということを踏まえますと、例えば大企業で働かれて企業年金が充実して年金水準が高い方でそうした優遇が大きくなるというような状況にもございますので、そうした年金に対する課税の問題についても見直していくことが必要なのではないかと考えております。
  32. 渡辺猛之

    渡辺猛之君 ありがとうございました。  大変聞きごたえのある議論だと先ほど申し上げましたけれども、そのきっかけをつくっていただいたのは、藤井先生が様々な疑義を呈していただいたからだと思っております。全てとは言いませんけれども、土居先生、その疑義の中で何か反論があれば一つに絞ってお答えいただきたいと思います。
  33. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 渡辺先生には大変感謝を申し上げたいと思います。公述人は自ら進んで発言できないという立場でございますので、私に与えられた機会を有効に生かしたいと思っております。  税収弾性値に関連いたしましては、確かにデフレ期のこの赤い丸にしている点というのは、これは、その実績値を単純平均したら四だという数字が出ているサンプルがその赤い点であるという、そういうことを示すために、その点をプロットの色を変えているだけでありまして、別に私は、ここがデフレ期だとか、ここがインフレ期だとか、そういうようなことを念頭に置いて議論をしているわけではありません。  それからもう一つ考えていただきたいことは、確かに、税収弾性値が高かったら税収は多く増税しなくても入ってくるということはあるかもしれないけれども、それはギャンブルをはらんでいるということを、つまり、必ず、絶対、百%高い税収が入ってくると言えるかどうか分からないというところが一番大きなポイントであります。もし多くの税収が入ってくれば、それはボーナスとして国民にきちんと分け与えればいい。私自身は、経済成長を促すということには大賛成でありますし、デフレ脱却も当然進めなければいけない。付け加えて言うと、消費税率を引き上げることによってデフレ脱却するという可能性すらあると私は思っているわけです。つまり、物価上昇する期待を抱くきっかけになる。  それは、細かいところはおいておきますけれども、デフレ脱却するとか経済成長を促すということは、これは当然機会を見付けてきちんとやっていくべきで、早期にやるべきだというふうには思っておりますけれども、それによって確実に多くの税収が入るかどうか分からないと。だけれども、底堅くきちんと税収が入ってくるというところはどこぐらいまでなのかということを見定めながら考えて財政運営を行っていくという必要があって、どうやら一・一ぐらいの税収は底堅く今の税制でも入ってくるだろうと。これ以下になるということは余り考えにくいということですので、まず少なくともその税収増加というものを経済成長の果実として得るということはよしとしようと。  それ以上得られる可能性というのはもちろん私は否定はしませんが、それによって、それをあらかじめ期待して、もし取れなかった場合はそれが財政赤字になってしまうというようなことになる。さらには、世代間格差を拡大させてしまうというようなことにならないようにするためには、底堅く入ってくる税収をまずは基本として財政運営をし、より多く入ってきた税収があればそれはボーナスとして活用するということを考えるという、そういうスタンスで臨むべきではないかと思います。  それからもう一つ、その赤い点のところを回帰分析すればという話がありますが、残念ながら、その赤い点のところの多くは左下の領域に入っておりまして、マイナス成長のときに大きく税収が落ち込んだという実績値に基づいた点であります。そこが回帰分析で測られたときに、それで傾きが大きいから税収弾性値は大きいというのは、景気が悪くなったという実績で測っているということが大きいということですから、もちろんデフレの要因とか、デフレでないときのというのは、それは標本を分けて分析するということは当然これはあり得ることですけれども、決して、その実績値の全てがいい、つまり経済成長がちょっとでも上がれば多く増えたということがあっての結果でそうなるというわけではないというところは、あえて付け加えさせていただきたいと思います。  それから、最後にもう一点だけ、課税平準化理論という話ですけれども、これはインフレ、デフレ関係ない理論であります。ですから、ここは貨幣的な要因を加味していないということですので、決してデフレのときだからこれは当てはまらないという話ではありません。もう一つ言えることは、もちろん、先ほど来申し上げているように、経済成長による望外な、望んでいないような税収増が得られたということは、別にこれは私は否定するつもりはありませんが、仮に成長しなかった場合であってもそういう税負担の時間軸の配分というものがあるので、経済成長を促す観点からも、できるだけ増税は先送りしない方が中長期的な経済成長を促す可能性を秘めていると、こういうことであります。
  34. 渡辺猛之

    渡辺猛之君 ありがとうございました。  本当に議論が尽きないと思うんですけれども、私はほかの質問も幾つかさせていただきたいと思っておりますが、ただ、政治家というのは空気を読むというのも大事だと思っておりまして、今の土居先生のお話を聞かれておられました藤井先生からお話しされたいという空気を感じ取ったものですから、もし藤井先生、何か御意見あれば簡潔にお願いをしたいと思います。
  35. 藤井聡

    公述人藤井聡君) じゃ、簡潔にお話ししたいと思います。  まず弾性値のお話でございますが、底堅くというのは大変結構なんですけれども、それで、そのリスクの問題と、今日、虚事一で御紹介した増税をしたときの物すごい巨大なネガティブインパクトのリスクがあるわけです。このリスクをどっちをどうするんだということを申し上げたいために虚事一と虚事二を並べているわけでございまして、あとはもう先生方の御判断でございます。私は、もう明白じゃないか、もう論ずるまでもないと思います。  しかも、これは税収弾性値が一・一でも、仮に一・一でも二パー伸びて、二パー伸びるんやったらそれだけで、だから名目成長率のGDPのあれが二%あったら、まあそれで一兆円とか伸びるわけですから、それでもう、大体社会保障費の自然増って一兆円ぐらいですから、よろしいですやんという話であります。  一・一でもそうですけれども、更にもっと、一・一でも経済成長したらあと一兆円賄えるという話でありますし、一・一はさすがに低過ぎるということで二ぐらいでおおよそ見積もっておいて、仮に足らなかったとしても、またそれはいつもどおり、もう何十兆円と国債は発行されている資料をいつも、今も拝見していますから、そういう格好で対応するしかない。それで、それがずっと累積してどうしようもなくなったときに考えればいいだけの話であります。  今既にそうなんだとおっしゃるかもしれませんけれども、だって、一兆円とか二兆円程度のそんな小さな話でございますから、いや、それは底堅くとかという議論というのは私にはちょっと、まあ弾性値がゼロとかだったらまた別ですけれども、ちょっと私には納得できないところがあります。あとはもう先生方の御判断でございます。  以上でございます。
  36. 渡辺猛之

    渡辺猛之君 ありがとうございました。  それでは、先ほどの金子先生の中では一言も答えなかったので、大嶋先生、幾つか聞かせていただきたいんですけれども。  先生のお話を聞かせていただきまして、働く女性の増加と、それから子育てしやすい環境というのが先生のおっしゃりたいことだと思います。ただ、このような取組は、女性の社会進出、さんざんいろんな場面で提言をされてまいりました。しかしながら、働き方とか、あるいは意識の問題もあると思うんですけれども、そういう転換がなかなか進まず定着もしていないのが現状だと思います。これ、先生は何が原因だとお考えになられますか。
  37. 大嶋寧子

    公述人大嶋寧子君) 御質問どうもありがとうございます。  女性の就業につきましては非常にたくさんの問題がありますので、これが原因ということを端的にお示しするのは非常に難しいと思いますが、ただ事象研究等の研究も踏まえますと、よく知られているように、やはり保育というのは非常に効くと。あともう一つは、長時間労働など、先生がおっしゃいましたような働き方の問題、そしてもう一つ、そうはいっても、やっぱり女性に現実問題として育児、家事の負担が偏りがちな中で、キャリアの両立の可能性と、そして育児、家事の負担もある程度担い得る、そうした魅力的な働き方が非常に少ないということが挙げられるかと思います。  保育と長時間労働の問題につきましては、釈迦説法な面もありますので、女性にとって魅力的な働き方の問題を挙げさせていただきますと、今、長時間労働を前提とするような働き方と、今は子育てのために働いていないという状況を、ギャップを乗り越えるのが非常に難しい状況です。  そうした中で私が重要と考えているのは、例えば仕事や職場が限定される代わりで、正社員、職場限定型正社員とか職務限定型正社員と言われる働き方ですが、これは仕事や職場がなくなると雇用契約が解除される可能性も出てまいりますが、その代わり残業やあと転勤といったものがないということで、女性にとってある程度働きやすい仕事であり、キャリアの形成の可能性がある働き方と言えます。  もう一つは、やっぱり非正社員という働き方の魅力を高めていくということが重要かと思います。今現在の非正社員という働き方も非常に多様ではございますが、全体に企業の能力開発投資の機会というものも非常に少のうございます。そうした中で、能力開発投資を行う、非正社員に対して能力開発投資を行うような企業に対する優遇策を拡充することですとか、あとは、例えば一定期間働いた後で無期雇用に転換するような雇用契約を結んで、そのための条件も明記しているような場合には、そうした労働者を雇う企業に対して優遇を行うような形で、女性が働く場というものを増やしていくということが重要なのではないかと考えています。  ありがとうございました。
  38. 渡辺猛之

    渡辺猛之君 ありがとうございました。  女性の働きやすい環境ということは、今、先生幾つか御提言もいただきまして、大変分かりやすい、また理解できるお話をしていただきました。  その一方で、先生、先ほどの公述の中でも御指摘をいただいておりましたけれども、男性の雇用の場ということについて先生のお考えをちょっと聞かせていただきたいと思います。    〔理事川上義博君退席、委員長着席〕
  39. 大嶋寧子

    公述人大嶋寧子君) ありがとうございます。  男性の雇用の場は、特に、先ほども申し上げましたように、男性が働いてきたような産業で雇用が縮小しているという状況を考えますと、今後、男性だけで働くというようなモデルは非常に難しくなってくるかと思います。  その前提の上で男性の雇用の場というものを考えた場合に、やはり付加価値の高いサービス業というものを育成していく必要があると思います。今、雇用が伸びているのは医療や介護の分野ですが、なかなかそうしたサービス業というのは商品を在庫で持っておくことができないので、どうしても柔軟な雇用への依存度が高くなりやすいという問題があります。  その一方で、医療、介護ほどには伸びていない産業に情報通信業がありますが、この情報通信業は、一九九〇年代と比べると、二〇〇〇年代に付加価値の生産額が約三倍ぐらいに増えていまして、また、一人当たりの付加価値生産額も全産業の平均と比べると二割ぐらい高いという状況です。そして、その情報通信業での雇用の増大の中身を見ますと、男性正社員が中心となっているということがございます。  そうしたことを考えますと、産業政策の面で付加価値が高いサービス業を育成できるような環境が必要ですし、そうしたサービス業を自分で起こしてみようとか、そういったチャレンジを支援するようなセーフティーネットというのもやはり重要なのではないかと考えています。  以上です。
  40. 渡辺猛之

    渡辺猛之君 ありがとうございました。  藤井先生のお話を聞いておりまして、私、最もやっぱり共感できるところが、昨年の三月十一日にこの部屋で、決算委員会のときだったと思いますけれども、東日本大震災が起こりました。あのときは、東京はまだ電気も通じておりました。それでも、本当に帰る足を失った皆さん方がまさに道路上にあふれておりまして、あの光景を見ておりまして、やっぱり私ども政治が取り組まなければいけないのは、危機をいかに回避をしておくかということは非常に大事だというふうに思っております。四年で七〇%と言われている首都直下型地震が万が一この集積する東京に起きたらということを考えますと、やはり先生がおっしゃる強靱化というこの観点は早急に対応しておかなければいけないことなんだろうなというふうに認識をしております。  そこで、土居先生、少しお話の中で触れられたんですけれども、建設国債の活用について、土居先生、どのようにお考えになられるのか、少しお話伺わせていただけたらと思います。
  41. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 御質問ありがとうございます。  私は、震災直後の昨年から、震災復興のための支出の中でインフラ整備に回る部分というのは建設国債のようなもので対応するのがいいのではないかというふうに申し上げておりました。  つまり、極端に言えば、震災がなかったとしても五年後、十年後に更新投資をしなければならないという道路とか橋とかが被災地にはあったであろうと。それが残念ながらいろいろ被害を受けてしまったということであるならば、そこの部分について、もし震災がなければ五年後、十年後に建設国債を出しながら更新投資をしていたであろうということですから、それが五年、十年前倒しで行われるということになったと。もちろん、規模は違いますけれども、そういう可能性というのがあるので、当然そのインフラは後世にもいい影響が及びますから、そこの部分については建設費を将来にわたって延べ払いをしていくというような形で賄うということは十分にあり得るだろう。  ただ、どしどし、百兆とかという単位でそれをやるというほど、残念ながら我が国経済財政の環境はそれを許してくれる状況ではないだろうというふうに思っておりますから、まずは優先すべきものから重点的にやっていくということによって、少なくとも単年度の国債発行をある程度抑制していくと。つまり、きちんと国内で国債が消化されるような状況国債を発行しながらインフラ整備していくという形にしないと、それは被災者のためにもならないだろうというふうに思っております。
  42. 渡辺猛之

    渡辺猛之君 今の御質問を藤井先生にもお答えをいただきたいと思っておりますし、藤井先生にもう一つ加えてお答えをいただきたいんですけれども、まずはデフレの解消をしなければいけないということでありますが、言い方を換えれば、ここしばらくの間、公共事業はデフレ状態に近かったんじゃないかということを思っております。単純に落札率の議論だけで、九〇%を超えていたら、これはもう談合だとか無駄遣いだとかいうようなことがありましたけれども、公共投資というものが正しくデフレ脱却あるいは景気の回復に向けて効果を表すためには、やはり適正な価格で市場に出されなければいけないというふうに、私はそう思っておるんですけれども、その公共事業の適正価格という観点からも少し先生の御意見伺わせていただきたいと思います。
  43. 藤井聡

    公述人藤井聡君) まず、建設国債お話から申し上げたいと思います。  列島の強靱化、国土の強靱化は、公述でも申し上げましたとおり、純粋に経済学的なことだけを考えても、極めて効果的な、効率的な経済対策であると思います。  なぜならば、最悪の場合には六百兆円、七百兆円程度経済被害があるというような計算もされております。うまくいけば二つ合わせて百五十兆とか二百兆ぐらいで収まるかもしれないですけれども、それぐらいの被害が起こることが分かっているときにそれを、二十年ぐらいの長期間で最も合理的な行動は何かということを考えると、それを放置するとそうなると。  ところが、例えば百兆円、二百兆円程度予算を使っておくと、それがほとんどもう半減とか三分の一とかになるという可能性があって、しかも、最も重要なのは人命がたくさん助かるということでありますし、場合によっては、もうその大地震によって、単なる経済被害だけではなくて日本の国家、この国の家そのものが本当に破壊してしまって、もう諸外国の思いのままにされてしまうというような、そんなめちゃめちゃな将来がやってくるかもしれないということを考えると、無策でいるというのは莫大な経済被害が経済学的に言ってあると思いますので、それに対してきちんと、百兆円、二百兆円というのは、今現状で聞くと何か大き過ぎるような数字に聞こえるかもしれませんけれども、長期的な天下国家の考え方からすると、それほど高いものでは決してないというふうに思います。  具体的に、単年度的にそれは今年百兆とか二百兆と申し上げているわけではなくて、年間十兆とか二十兆円ずつ投資していけばいいのではないかという主張であります。これは九〇年代の投資の水準のようなものであります。もう実際、この十五年間の間に公共投資の水準はもう半分以下になってきてございますから、それをもう一度元に戻せばそれで事足りるのではないかということが一点であります。  具体的にそのお金をどこから持ってくるかということでありますけれども、一つは、銀行の中にたくさん民間の方が、先ほども少し申し上げましたが、民間の方が借りられなくて残っているお金が百七十兆円ぐらいあります。これは実際既に国債には回っているんですが、まだ余力があります。同じようなことが、日本の銀行以外の金融機関のところにもそれがあるということが一点。  それから二つ目は、今デフレーションでありますから、デフレであるということは、本来はインフレにしていくことが経済にとって重要でありますから、インフレにしていくということのためには紙幣が市中の中にいっぱい出回るということが必要であります。これもまた、その紙幣はどこからくるかというと、日銀からやってくるわけであります、金融政策から。逆に言いますと、今、デフレだから適正なインフレに持っていくためには、政府、日銀は紙幣を市中に供給していかなければならないと。それが仮に百兆なのか二百兆なのか分からないですけれども、その供給していくときに震災復興並びに強靱化に使っていけばいいんじゃないかと、これが二つ目の財源であります。  すなわち、今、既に供給されたものが、銀行に塩漬けになっているものを国債でやって使うと。二つ目のお金は、金融政策で日銀の政策の中で調達してくると。そうしてくると、先ほど税収弾性値が何ぼかという議論はありますけれども、いずれにしても税収が弾性値ゼロということはないですから、税収が上がってきます。その分もこの百兆、二百兆円の財源になるでしょう。  さらに、本来ですと、先ほど御質問でもありましたのですけど、本来の増税はそうなって景気が暖まってきたときにやるものでありますから、そのときに景気を調整する意味消費税率を一%、二%、三%とか上げていくことを通じてさらにまた財源ができてくるということで、ここまで考えると、百兆円、二百兆円というのは全然荒唐無稽な数字ではないということが言えますし、たった十五年ぐらい前を考えますと、アメリカとの日米構造協議の中で日本は四百三十兆円の公共投資を拡大するということを確約したわけですね。ですから、その程度の水準は、経済大国日本から考えると二百兆円というのは決して大それた数字ではないということを最後に申し添えておきたいと思います。  受注の話でありますが、例えば、現在の被災地において、受注貧乏という言葉が現地では言われています。これはどういうことかというと、結局入札価格の制度の中でとにかく安いもので取らないといけないと。仕事がないよりあった方がまだましなので、社員を雇わないといけないので、養わないといけないのでということで、もう赤字覚悟で受注しているというのがたくさん出ています。したがって、この最低の入札価格の問題を本当にクリアしないと、建設業、幾ら受注、発注しても建設業は何も、結局どんどん貧乏になっていくということが分かってきました。  例えば、昨日は青森に行っていたんですが、たくさん今被災地のお仕事されているんじゃないですかと申し上げたところ、いや、全然我々できないんですと。なぜかというと、単なる隣の県なのに、隣の県に行って労働者の家賃とか交通費が出ないので、行ったら貧乏になることが確実なので行けないんですと、そんなことで、実際に被災地に行くと建設業者の方が足りないといって困っていて、不調になっている案件が三分の一ぐらいあるんですよ。むちゃくちゃな話で、とにかくもう価格もちゃんとしないと幾らお金を付けたって駄目になります。  更にもう一個付け加えたいのが、中央政府ががっとやっても必ず裏負担の問題というのがあって、地方財政の問題も関係してきます。ところが、地方の財政もかなりデフレの中で逼迫していますから、ちゃんと交付税交付金のような格好で裏負担をしてさしあげないと公共事業が前に進まないということになります。  したがって、今とにかく進めれば、それで公共投資を単純にやればそれで、それは大事なんですよ、それだけでいいというわけではなくて、いろんな仕組みを解消していかないと、これは本当に前に、デフレ脱却というのは難しいだろうということを最後に申し添えておきたいと思います。  以上でございます。
  44. 渡辺猛之

    渡辺猛之君 ありがとうございました。  もう残り一分になりました。本当ならここで終わらなければいけないんですが、簡単に一言ずつ、土居先生と藤井先生にお尋ねをしたいと思います。  日本国債は破綻すると思われますか。簡単にお答えいただきたいと思います。
  45. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 御質問ありがとうございます。  破綻させないようにしなければならないと思っています。決して破綻をする直前まで来ているとは思いませんが、私が危機と呼んでいるのは金利上昇懸念というところでありまして、金利上昇するというのは、別に日本国債もバブル絶頂のころは六%、七%という金利を払っていた場面もありましたから、別にそれがいかぬというほどの金利ではないんですけれども、さすがに残念ながら今の我が国経済にその金利上昇の備えが不十分であると、それは巨大地震対策も不十分だけれども金利急騰対策も不十分なものですから、そこは懸念をしております。
  46. 藤井聡

    公述人藤井聡君) 全く土居先生に同意でございます。  一点だけ付け加えるとすると、本当にやらないんだ、金利を上げないんだと、きっちりとやるんだということを政府、日銀がきちんと言えば確実にできるんだということを信じれるというふうに、それだけの国力を我々日本国家は持っているというふうに、そこも申し添えておきたいと思います。  以上でございます。
  47. 渡辺猛之

    渡辺猛之君 ありがとうございました。
  48. 竹谷とし子

    竹谷とし子君 公明党の竹谷とし子でございます。  本日は公述人皆様、ありがとうございました。私からはまず、同じ女性である大嶋公述人にお伺いしたいと思います。  今日は、社会保障を一部の人、特に生活が困難な方々のための問題ととどめるのではなくて、社会全体、特に現役世代が働くことを支えるという視点で社会保障を強化すべきという御提案をいただいたというふうに思いました。  人口減少時代の到来で、二〇三〇年には三人に一人が高齢者、三世帯に一世帯は単身世帯と推計されるように、人口構成も家族構成も大きく変わっていくと思います。支え手である現役世代、その数が減少すると同時に、長引く不景気で安定した仕事を得る機会減少して、今年の大学生の就職率も八割、また高校生はもう少し少ない、そういう状況の中で、仕事のスキルを身に付けるという機会もなくなっていっていると思います。同時に所得も減少傾向にある。そうした中で、これを転換していくために、私ども公明党の青年委員会でも、今後の社会の担い手である若者に視点を当てた公明ユースビジョン二〇三〇というものを三月に、検討を重ねて中間報告として発表させていただきました。  現代は、ライフスタイルの多様化から、正規雇用の夫、専業主婦の妻、子供二人という世帯をモデルにした昭和型の社会保障、これからの転換が必要だと考えています。先生からは共働き世帯の支援強化という点でお話がありました。これは、結婚や子育てしやすい社会をつくるということで非常に重要だというふうに私も思います。とともに、厳しい環境の中で一生懸命に働きながら子育てをされている一人親の御家庭への就業支援、これが非常に重要であると私は考えています。より付加価値の高い仕事に一人親の世帯の親御さんたちが就けるように支援をしていく、スキルを身に付けられるような機会を御提供していくということも必要だと思います。これによって将来における貧困や格差の固定化を防いで、また子供さんの成長機会を確保するために大事だと思います。  この点、大嶋公述人のお考え、もう少しお伺いできればというふうに思います。
  49. 大嶋寧子

    公述人大嶋寧子君) 御質問ありがとうございます。  先生御指摘ございましたように、一人親の女性の貧困率は日本では国際的にも非常に高い状況にあります。そうした理由の一つには、セーフティーネットをなかなか利用できないということもありますし、また育児と仕事、両方を一人で背負うということの中で、なかなか細切れの仕事を脱し切れないというような状況もあると理解しています。そうした中で、一人親の就業状況に関する調査というものも行われていますが、看護ですとかそういった技能職の女性については比較的安定した仕事を得やすいという状況があるということが明らかにされています。その一方で、仕事が細切れになる中で、例えば一人親で、一人でお子さんを育てていらっしゃる女性で正社員に就いている場合でも、その仕事の質が下がってきたり、あと深夜労働が多い仕事になったりという問題もあると指摘されています。  こうした中で、私、一人親の、一人で子供を育てている女性にとってやはり重要だと思うのは、一つは、本当によく言われていることですけれども、安心して子供を預けられる質の高い保育というものがやはりもう少し充実させていく必要があるのではないかと考えています。そのほか、先ほど申し上げたように、技能のある女性については比較的安定した仕事に就きやすいという状況がありますので、その職業能力形成を安心して行える環境というのが重要だと思います。  今、求職者支援制度等で大体基本的には半年間の技能形成の機会というものが得られていますが、その分の所得が保障されたとしても、職業訓練が終わればまたすぐに仕事に戻らなければいけない、そうした状況が今まさに子供を育てていかなければいけない女性にとって十分かということは、ある程度検討しなければいけないというふうに考えています。  そうした中で、もう一つは、やはり一人親の女性というのが、これまで男性が働いて家族を支えるというものがスタンダードの社会保障の中で見逃されてきたという面が非常に大きいと思いますので、こうした一人親の方でも二人親であっても、もう少し大家族であっても、子供を安心して育てられる社会をつくるのだというような姿勢を強く打ち出していただきたいと私は思っております。
  50. 竹谷とし子

    竹谷とし子君 ありがとうございました。  続きまして、藤井公述人にお伺いしたいと思います。  先生に質問させていただくのは、復興特と国民生活調査会そして今回と、三回目になります。だんだんだんだん先生の考え方に近づいてきているような気もしないではありません。  私は今、東北の被災地の復旧復興の御支援、また、今国のいろんな政策がありますけれども、現場のニーズとマッチしていない細かい部分もありますので、それをお伺いしに通い続けているんですけれども、行かせていただくたびに、瓦れきの山を見て、これ処分するところも視察させていただきましたけれども、もう本当にため息が出ます。そして、それを処分するための費用にももう莫大な税金が掛けられている。これも本当に必要なものだと思うんですけれども、これが首都圏で起きた場合、また西日本の都会の地域で起きた場合、もう大変なことになるなということを痛感をいたします。  先生の資料の中でも、首都圏で起きた場合は推計被害が百十二兆円から三百五十兆円、西日本でも推計八十六兆円から数百兆円規模というお話があります。そして、発生確率も高まってきています。  リスクというのは影響額と発生確率から計算されるものだと思います。私はそのリスクに見合う投資を事前にするべきだなというふうに思います。瓦れきの山を生む前にそれに投資するべきだというふうに思いますので、今建設国債を発行してそれに備えるというのは、既に需要があるわけですから、非常に妥当な政策だというふうに私は思っております。  これ、前回も先生に質問したんですけれども、ただ、公共投資ということに対して国民の皆様は無駄遣いの温床になるという、そういう印象を今も持たれていると思います。私も政府の行財政改革の必要性、様々な形で訴えておりますけれども、無駄を生まないための公共投資、無駄を生まないためにどうしたらいいですかというふうに質問させていただいたときに、強靱な国土計画、合理的な国土計画を作って、それに従ってやっていくんだというお話ありました。  この合理的な計画を立てるにはどうすればいいのか。合理的な計画だと思って立てても、そこにはいろんな政治家の、いろんな地域の思惑が入ってくると合理的じゃなくなります。それをどう合理的にするか、その方法論を教えていただきたいなというふうに思います。
  51. 藤井聡

    公述人藤井聡君) どうもありがとうございます。  まさにおっしゃるとおりでございまして、計画をきちんと立てると。そのためにどう合理的にしていくか。これは、合理というものがどういうものなのかというのは、実はこれはほとんど神のみぞ知るものであるとしか言いようがないと思います。実際にどういう地震が来るのか、来ることはこれはもう間違いないことでありますが、どういう格好で、津波の高さがどれぐらいで、どれぐらいの震度で、どこが液状化するのか分からないところがあります。  そういう不確実な中でどれだけ合理的にやっていくのかというのは非常に難しいところであると思いますが、やはり第一に、公共事業というものにまつわるいろいろな国民の皆様方の理解の中で、大きな誤解が含まれてしまっているということが多くあると思います。例えば、道路を造っても影響がほとんどないんじゃないかとか、公共の交通機関を造ってもそれは結局負債だけ生むだけじゃないかと。そういうような議論がある中で議論をしていくと、結局、専門家皆様方の世論と乖離したところで作らざるを得なくなっていきます。そうすると、そこに今おっしゃったような無駄が入り込む可能性が僕は実はあるかもしれないというふうに思います。専門家の方とかがきちんとしていればそれで問題はもちろんないわけでありますけれども、国民から乖離すればするほどにそのチェックが利かなくなるということがあると思います。  したがって、私が本当に思いますのは、国民世論としてどういう国土強靱化の計画を立てたらいいのかということを、本当に普通のバラエティー番組とか、何かニュース何とかとか、そういうところで普通に議論をして、何か一日、ひねったらどこかで何かそんなことを議論しているような状況になれば、要するに議論がオープンになって、公明正大になって、国民がその合理的な計画を作っていくということができると思います。  そこで重要なのは、みんなで作った計画にこれはなりますから、それが失敗したとしても自分の責任でありますから、そういう格好で、僕の理想としては本当に国民世論の中できちっと作っていく必要があると思います。  しかし、当然ながら、それは専門家ですとか政治家の先生方の力は不要であるということを申し上げているのではなくて、国民に信を問うのはやはり政治家の皆様方であったりとか、専門家が僕はこう思うんだということを、国民の皆様方が、本当にそれは専門家ではなくて普通の市井の民が、何か新聞読んで、ああ、そりゃそうやろなというような状況の中にそういう議論が入っていけば合理的な計画ができるだろうと思います。  本当に僕は個人としてはそういうことを作りたいと思いまして、個人でできることは出版をしたりとかいろいろなところでお話をしたりとかということでありますが、それは僕個人だけでなくていろんな方がいろんなところで議論をしていって、場合によっては僕が今主張していることの中で改善すべきことというのは当然ながらあろうかと思いますから、それはいろんな方で、みんなとお話をしていけばそういう合理的なものができていくと思います。  ただ、そういう世論が形成されない範囲においては、これはもう本当に急場でございますから、もう十年以内とか三年以内とか五年以内とかに地震が起こって、死んだ後に何かじゃ、そろそろ議論しようか言うてたらもう意味がないので、そういう意味では政治家の本当にきちんとした決断とか、あるいはそのときに、どの専門家あるいはどの理論が正当なのか、専門家にもたくさんいろんな方がおられるでしょうから、どの政治家が、それこそ虚事を言っていなくて、これは虚事なのかということを見極める眼力が政治家の先生方には必要になってくると思います。  僕は、どうなんでしょう、五年とかでほんまにここが、もうここ大丈夫なんですか。ちょっとまた一回調べてみて、ここの建物とかね。これ本当に心配なんで、僕が命がとかじゃなくて、皆さんが死んでしもうたらもうこの国めちゃくちゃになってしまいますから、ちゃんともうそれやってもらわなあかんとかと思っておりますので、そういうことに関しては、計画を立てなくても絶対にやらないといけないことというのはこれは明白にありますから、こういうことは徹底的にやっていったらいいと思います。  それで、国土計画の合理化というのは今申し上げたようなところでありますから、もうどっちも走りながらやるんでしょうね。絶対にやらなければならないものということをもう少しだけ申し上げますと、もう例えば国会議事堂を絶対守っていただきたい。これは防災をしてください。防災というのは、どんな大きな地震の揺れがあっても潰れないと。あと、政府、官邸も全部そうであります、霞が関とか。それの地下には完全な衛星通信とかそういった核シェルターみたいなものを置いといて、周りがもうむっちゃくちゃになっても何とか指揮系統ができるようにしていただきたい。それから、消防署とかの何かその前の、細かい話ですけどピロティーとかすぐ出動できるようにしておくとか、何かほんまに、どう考えてもやらなあかんことっていっぱいあるんですよ。東京湾の液状化でもうごろんとなってしまったらむっちゃくちゃになることはもう分かっているんですよ。  ですから、もうそこは本当に専門家信用していただいて結構だと思います。それプラス、国土の強靱化というのは、国土をどう分散化していくときに、新幹線を造って企業をどっちに立地させていくかということも国土強靱化の重要なところでありますから、そこはやっぱり国土計画のスキームになりますから、今申し上げたような国民的世論というのが必要になってくるんじゃないかなと。  ちょっと何か雑駁なお話で恐縮でございましたが、そんなふうに考えてございます。  以上でございます。
  52. 竹谷とし子

    竹谷とし子君 ありがとうございます。  その国民の議論、世論をつくっていくということが本当に必要だなと思っております。  私も今、防災のお話で個人演説会や政治学習会へ行ったときに、自助、共助をお願いしますということを申し上げております。これは、やっぱりそれは国民の皆様自分たちでやっていただくことで、政府がいざというときにやらなければいけないこと、本当にやらなければいけないことに集中することができますので、それはお願いしています。  でも、国土計画というのは非常に専門性が高いので、防災の話にしても国民の皆様の議論を守り立てていくというのは、いかに興味を持って話を聞いていただくかって私はいつも話すたびに反省しながら挑戦をしているんですけれども、国土計画って専門性が高過ぎて、国民的議論ってなかなか盛り上がらないと思うので、やはり私は専門家がしっかりと煮詰めていって、政治家がやはり合理的な考えを持って、全体最適の考えを持ってこれは取り組んでいかなきゃいけないことではないかなと思っておりますので、先生の御著書もしっかり勉強させていただきたいと思います。  続きまして、土居先生にお伺いしたいと思います。  今、赤字財政の中で、支出に見合うもの、歳出に見合う歳入を、その中で税収が今不足しているので、増税についてお話しいただきました。  私も、これからの金利上昇を考えますと、今非常に歴史的にも極めて低い金利水準の中で、今の公債費の平均が利払い費一・二九%。そのポートフォリオを見せてもらうと随分短期で運用しているものが多いので、金利上昇したときにもうダイレクトに利払い費が増えると。今の一般歳出の中で一〇%超が利払い費であるということで、金利上昇について私も非常に懸念を持っております。  国民の皆様からいろいろ御意見いただきますけれども、多くの勤労世帯、私と同じ世帯の人たちは、必要なんだから税金を上げることはやむを得ないだろうというふうに考えていらっしゃる方は多いように思います。ただし、政府が無駄遣いをしているのが許せないのであると。私も行財政改革で徹底した透明化が必要だというふうに思っておりまして、取り組んでおります。  それはそれでやっていくとして、とはいえ、やはり赤字財政が続いた場合の問題があります。今、債務のGDP比がグロスで二倍になっているという状況で、戦後急上昇し続けていますが、それは戦前から見た場合に同じカーブを描いています。そして、戦後のインフレでそれが解消されています。そこで途切れています。  これからプライマリーバランス、ゼロに持っていくにしても、今ある借金をどうやって返すのかということについて、土居先生のお話を伺いたいと思います。
  53. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 御質問ありがとうございます。  まさにこの巨大な政府債務、もちろん真面目に返していくということを念頭に置いた場合には歳出削減ないしは税収増加を見込まなければいけないということですが、仮に百年ぐらいの長きにわたったところでの財政運営を考えた場合に、恐らく緩やかなインフレによってそれが自然とその名目額が目減りしていくことによって、実質価値が目減りしていくことによって、その債務は事実上インフレによって返しているということにせざるを得ない部分というのは幾ばくかは出てこざるを得ないだろうと。それをなしに、その全部を歳出削減と増税によって賄うということになると、なかなか大変な思いを国民に強いることになるだろうと。  そういう意味では、三方一両損と言っては変ですけれども、本来財政赤字がなければもう少し行政サービスができたかもしれないけれども、その分は少し抑制をお願いしながら、本来もう少し政府債務がなければ税負担が軽くて済んだだろうけれども、政府債務があるのでその分少し税負担を多くお願いをするとともに、債務者と債権者との間の関係という意味では、緩やかなインフレを少し続けることによって、そのインフレによって実質価値が目減りする分というのは、本来はインフレがなければもう少し債権者、お金の貸し手にお金が渡っていたところが、実質価値が目減りするということを通じてそこの部分は少し御負担をお願いするというような、そういう緩やかなインフレと、もう少し今よりかは増税もせざるを得ないでしょうし、さらには歳出削減もある程度はやらなきゃいけないという、そういうようなバランスの問題になってくるのかなというふうに考えております。
  54. 竹谷とし子

    竹谷とし子君 ありがとうございました。  最後に、大嶋公述人にもう一点だけお伺いしたいと思います。  私は、これから女性が日本を変えていく大きなキーになるというふうに思っていますけれども、女性が社会の中で働いていく、これから結婚して子育てをしていくという、そうやって希望を持っていくことが重要だと思うんですけれども、働く女性への支援策として一番最も今重要なものは何だというふうにお考えになるか、率直にお伺いできればと思います。
  55. 大嶋寧子

    公述人大嶋寧子君) ありがとうございます。  実証研究に基づいてお話をいたしますと、やはり一番効いてくるのは保育なのかなとは思います。これはすごく当たり前過ぎることに聞こえるかもしれませんけれども、やはり一番効いてくるのは、三世代同居とかも効いてくるんですけれども、全ての方が三世代同居できるような状況ではありませんので、そうした場合、やっぱり一番安心して預けられる質の高い保育というのが非常に重要だと思いますが、それ以外にも、やはり働く女性を応援していくという上では、働く女性が増えることが日本経済にとって極めて重要だということをもっと明らかにしていくことが重要だと思います。労働力が減少する中で、また仕事の中身が変わっていく中で、女性が働かなければ日本家計はもっとぐらついてしまうし、経済成長にも大きくかかわってくると、そういったことってなかなか実は女性は知らなかったりする場合も多いと思います。そういったことをもっともっとアピールしていかなければいけないと思います。  また、女性自身も、働きたいという女性も増えていますけれども、実際その希望を生かせる場がないということがすごく女性の意欲をくじいている面もありますので、先ほどの繰り返しになりますけれども、魅力ある職場というのをどうやって増やしていくのかというのも非常に重要だと思います。  ありがとうございます。
  56. 竹谷とし子

    竹谷とし子君 ありがとうございました。  終わります。
  57. 中西健治

    中西健治君 みんなの党の中西健治です。  本日は、三人の公述人の方々、お忙しい中どうもありがとうございます。大変興味を持ってお話の方を聞かせていただきました。  それでは、質問をさせていただきます。  まず、土居先生にお伺いしたいと思います。  私、土居先生のまとめられた本は幾つも読んでおりまして、是非いろいろ聞いてみたいなという質問はたくさんあるんですが、そんな中で、まず、今日もおっしゃられておりましたけれども、消費税は逆進的ではないということをおっしゃられておりますけれども、これ、生涯にわたって所得に消費が比例的だということが根拠になっているのかなというふうに思いますけれども、ただ、今の現状からすると、なかなか所得が低い人はその低所得から抜け出せないというようなことですとか、生活必需品に限って言うとやはり逆進性というのは非常に高いんじゃないかなと。  要するに、高所得者がいずれ高いものを買うということで比例的になるということが根拠になっているのだとすれば、やはり生活必需品についてより注意深く考えなきゃいけないんじゃないかなと思いますけれども、そこら辺はいかがでしょうか。
  58. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 御質問ありがとうございます。  まさにおっしゃるように、消費の中身が低所得者の方と高所得者の方と違うというところはおっしゃるとおりだと思います。ただ、仮に逆進性というところで、負担率を消費税にして取ってみたといたしましても、今の五%の税率ということを前提としたところで、低所得者の方は大体おおむね三%の負担率、高所得者の方はおおむね二%の負担率と。  もちろん、これは税率を上げるとその負担率の差が大きくなるとはいえ、負担率の差ということでいうと、むしろ社会保険料負担率の逆進性の方がより大きいというところがありますので、もう少し低所得者の方の、食料品のことそのものは非常に重要なんですけれども、そこに軽減税率を設けて低所得者だけじゃなくて高所得者も食料品を買うことで恩恵を受けてしまうというよりかは、むしろ例えば所得税の給付付き税額控除のような形、もちろんそれを導入するにはいろいろな前提条件必要ですけれども、より低所得者にターゲットを置いたところで、きちんとある種の税の還付といいましょうか、消費税で一旦は払っていただくけれども、それを別の形で低所得者に重点を置いた給付をして、そこで多少食料品に税を多く払っているということになったとしても、別の形でお金が返ってきているのでその分の負担は相殺されていると、そういうような形にした方が、高所得者からきちんと税を取るということにはうまくいくということになろうかと思います。
  59. 中西健治

    中西健治君 続きまして、藤井先生にお伺いしたいと思います。  藤井先生のおっしゃること、大変共感するところも多くて魅力的だなというふうに思いましたけれども。  まずは、これも質問じゃないんですが、内閣府の財政計算のモデルについて、私自身もかねがね疑問に思っておりまして、これまで何度も質問を投げかけております、パラメーターですとか中身について。満足いく回答というのは一切返ってこないということですので、先生がモデルの抜本的改革が必要だというふうにおっしゃったのはまさに我が意を得たりというふうに思いましたけれども。  それとは別に、公共投資によって経済成長を目指すということになっていきますと、その中での効率性ということも重要ということになってくるのではないかと思います。どのような投資を選んでいくのかということなんですが、強靱な国土をつくるということも一つの物差しにはなるかと思いますが、純粋な経済効果ということもやはり物差しになるのではないかというふうに思いますが、どういうふうに決定していくのか、選択していくのかについて御意見をお伺いしたいと思います。
  60. 藤井聡

    公述人藤井聡君) どうもありがとうございます。  公共事業をどういう格好でやっていくのかというのは、これはもうまさに政治の中心に位置する議論ではないかと思います。大ざっぱにまず申し上げますと、公共投資の経済的な効果というものは二種類あります。一種類は事業効果であり、一種類は施設効果であります。事業効果という方が今日主に議論している、例えばケインジアン的な、公共投資を行ってデフレギャップを埋めて、それを通して経済成長を果たしていこうということで、フローの効果ですね、これを効果的にやっていくという議論と、それからどういう物を造るのかと。物を造ると、それだけで、例えば新幹線が通ると流通が大きくなって、それで経済成長していくということがあります。実は、公共投資にはこの二つの大きな効果があると。それぞれ個別に議論が可能だと思います。  前者の方のフローの効果については、やはり今、日本国民で最も困っていらっしゃる方々から公共投資をしていくことが効果的になるだろうというふうに思います。もうおなかいっぱいの方よりも困っていらっしゃる方。これ、どこかというと、大ざっぱに申し上げまして、どう考えても地方の方々であります。交付税交付金のそれができたときの哲学と全く同じような議論でありますけれども、地方において投資が今行われていないと。その投資をすることを通して地域経済を守っていくという効果一つ考えられると思います。  ただ、この議論をやっておりますと、地方にまた無駄な物を造るのかという議論になりますが、その議論は、これ実は施設効果の議論であって、また別の議論になります。したがって、公共事業の選択のときには、施設効果とフロー効果のどっちも見ないといけないんですが、フロー効果だけで見ますと、そういうところがあるということを申し上げたいと思います。  実際、建設業に関連の方というのは、雇用の一割とか、地域によっては二割とか、関連まで入れると三割、四割まであるということがありますので、そこの公共投資を削っていくということは本当に抜本的な経済減速政策になっているということは、これはもう地方によっては火を見るより明らかであります。これが一点であります。  後者の施設効果の方でありますけれども、より経済成長させていく投資は何か。それについては、簡単にざっと御紹介しますと、私の資料の例えば二十ページとか御覧いただきますと、過去の国土計画の百年の歴史を見ますと、きちんと新幹線を始めとした投資を行ったところは政令指定市になり、その投資が行われなかったところは衰退しているということがもう歴史で分かっております。今、人口の分布が格差があるというのは、実はその格差政府が意図的につくり出したものであるという側面が極めて濃厚です。その政府は明治時代の政府から全部含めてであります。  したがって、今、君ら、人口少ないから投資しいひんと言うのを政府が言うとこれはもう極めて不道徳であって、人口を少なくしたのは政府の責任なので、当然ながら、人口とは無関係に投資をしていくというのは、これは国土計画の理念上、歴史を踏まえながらやるものが当然でありますから、当然あるだろうと思います。  それで、将来の人口はこれぐらいの適正な人口であるということを見据えながら投資を行っていって、そうしていくと確実に人口が集積していくと。逆に言うと、そういうようなタイプの公共投資というものが必要だろうと。それで、そのときに最も費用対効果が高いと思いますのがこれは新幹線であると。  これは、ちょっと細かくは今日は申し上げられないですけれども、過去の歴史を見まして明白であります。ところが、日本政府は今七百億円程度しかこの新幹線には公共の投資をしていないということがございますので、是非国家としてそれをお願いをしたいということと、この二十一ページは簡単なグラフなんですけれども、要するに高速道路を造ったところと造っていないところとで商業の売上げがどれだけ違うかというと、高速道路があるところは、ないところに比べて十倍ぐらい投資が増えているんですね。ですから、高速道路もうまいところに造っていくと都市が発展していく。これは単年度とか四半期で見ていてもこんな効果は当然ないですけれども、十年ぐらいで見ていくとこういう効果が確実にありますので、これが施設効果と呼ばれるもので、これはケインズは一切論じていない効果であります。  当然ながら最後は震災対策でありますけれども、そういうことも考えるということで、今申し上げた三つの話というのは、これは全部施設効果でありますから、このフロー効果と施設効果、ストック効果の二つをきちんと全部考えた上で国土計画を立てていく。  したがって、それをやるときに合理的な体系は何かというと、例えば国土計画を所管する国土庁のような組織と、それから経済成長を目指すような経済企画庁のような組織と、二つがきちんと議論をして財務省の皆さんとどういう財源調達をしていくかということをちゃんと考える。この経済のプロフェッショナルと国土のプロフェッショナル、二人がきちんと議論をしていくという体制をもう一度我が国においてつくり上げるということが極めて重要なのではないかというふうに思います。  以上でございます。
  61. 中西健治

    中西健治君 どうもありがとうございます。  きちんとした議論が必要だということもしかりだと思いますし、この新幹線は非常に効果が高いということなんだと思いますが、ただ、同じような考え方の下で、空港もたくさん造られてきたということなんではないかと思います。さらには、八ツ場ダムに関して言うと、予想の経済効果自体の数値がどんどん変わっていったというような例もあって、ですのでなかなか、これまでのやってきたことをすると、きちんとした計画に基づいているなというのは到底言えないということなんじゃないかなと思うんですが、そこら辺、実際に変えていくことというのは何か具体的な処方箋とかってございますか。
  62. 藤井聡

    公述人藤井聡君) 例えば空港が最も典型なんですが、造った施設の効果が今低いということがしばしば指摘され、それが無駄の温床であると議論されることがあるんですが、実は今、造ったものの効果というもの、これ投資をして造ったものの効果でありますから、デフレーションでは当然ながら効果がほとんど発揮できないということであります。ところが、経済がインフレーションになったときに初めて、供給不足になりますから、その施設効果が顕在化するということになります。したがって、今このデフレ状況下で施設効果の方を評価するのは過小評価になる可能性が十分にあるので、その点は一点お含みいただく必要があるだろうというのが一点です。  もう一つは、防災対策の方は、一般の国民の方はほとんど知られていないかもしれませんが、これは政府のホームページなんかにも載っておりますけれども、例えば八ツ場ダムが造られている理由には幾つかあるんですが、例えば八ツ場ダムでありますけれども、あれがないと、こういうのは本当にあるんですよ、科学的に、あれがないと、物すごい台風が来たときに、あれがあったら物すごい台風が来てもそこで水をためて洪水にならないけれども、八ツ場ダムさえなければそいつが来たときに大洪水になってしまうというケースが科学的に存在するということが分かっています。  そして、そのときの経済被害は、あれは国交省、建設省の試算だったかもしれません、ちょっと時代は忘れましたですけれども、三十五兆円の可能性があるということが言われています。これはもう大震災と同じレベルであります。この計算結果を、もう一度その計算結果が過大なのか過小なのかということはもちろん見直す必要はあると思いますが、例えばハリケーン・カトリーナみたいなことが起こるわけであります。あのときでも十五兆円の被害があったわけであって、東京というのはニューオリンズよりももっと人口密度が高いですから、それよりももっとでかい被害が起こることは火を見るより明らかで、一旦そうなったときにどうするんだと、首都でありますから。  そういうことを恐れてこれは戦後一貫して八ツ場ダムの議論というのは進められてきておりますので、そういうことを全部つまびらかに、歴史的な議論を全部精査した上で、八ツ場ダムが必要かどうかということを議論するという体制でもう一度考えるということは必要だと思います。  今申し上げたことを適正に、先入観をなくして、虚心坦懐にそれぞれの公共事業をきちんと考えていくということは当然必要になります。なぜ必要なのか。我々は貧乏だからです、日本が。なぜかというと、まあお金持ちではありますけれども、例えば一つ試算でありますけれども、地震が来ても全然壊れないようにするためにどうしたらいいかという簡単なシミュレーションをした先生がおられて、その先生のお話をお聞きすると、何と、どれだけやったら地震が来ても潰れぬようにできますかと、日本を。そうしたら、これ三千兆円掛かるというお答えです。もうこれは無理やと。日本人がそれだけ金持ちであればそれやってもいいんですけれども、できないので、結局必然的に優先順位の高いところからやっていかざるを得ないわけです。ですから、一人でも多くの国民の方を救って、少しでも経済損失を小さくするためには、どう考えても合理的にやっていかないといけないと。  今、合理的な議論を始めようとするだけで、議論をするだけで、いや、無駄な議論を始めるのかと言われます。いや、そんなこと言わぬと、合理的な議論をするために議論だけさせてくださいという世論と、政局の状況といいますか、そういうような状況をつくっていくことが本当に必要であるというふうに本当に感じております。  以上でございます。
  63. 中西健治

    中西健治君 お三方にお聞きしたいんですが、ちょっと離れますけれども、世代間格差を緩和する一つの手段として、相続税を思いっ切り引き上げて、けれども、若年層に対する贈与を広げると、贈与税を掛けないとか贈与を広げるというようなことをセットで行うということ、そういう意見がありますけれども、それについてどうお考えになるのか、土居先生からお一人お一人お願いします。
  64. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 御質問ありがとうございます。  相続税は一つの重要な手段であると思います。私は基本的には所得課税から消費課税へという考え方を持っておりまして、願わくば、所得税や法人税で取るというよりかは消費税と相続税、つまり、どういう形で自分が消費をする資力、それは稼いだのか親から譲り受けたのかいろいろな形でいただいたのか、これは別として、とにかく消費をする段階で一回課税される、だけれども、消費し残した部分というのがまさに相続ということになりますし、それが予見できた場合には子供に生前贈与するということも当然あるわけであります。多少生前贈与を促すということであれば、相続税と贈与税のところの税率に工夫は必要かとは思いますけれども、そういう形で贈与を促すとか、ないしは、そこである程度税を取ることで世代間の資産格差が遺伝するということをある程度防ぐということも可能になってくるというように思います。
  65. 藤井聡

    公述人藤井聡君) 税制の議論をするときに、私、いつも分野横断的に考えねばならぬと、これはもう全て、税制だけではなくて全て、国土強靱化も含めて全部そうなんですが、経済学だけに基づいてその議論をするのは非常に危険ではないかと思います。なぜならば、税制というのは、社会学的な側面、歴史学的な側面、あるいは民俗学的な側面、いろんなものがあって初めて税金でございますから、経済学の数字だけの議論で議論をするのは非常に慎重にすべきではないかというのがまず一点であります。  相続税の議論があるのは、要するに、今、金融資産があって、それが市場に還流していないことが問題であります。これ、私もう何度も結局同じことを言ってしまうことになるんですけれども、その資産が塩漬けになっているのは、デフレだから投資をしないだけ、だから問題であって、まずはデフレ脱却して、それでも相続税の改変が必要であるならばそういうことをする必要はあるかもしれませんけれども、まずは何にも増してデフレ脱却をすべきであるということを申し上げたいと思います。  なぜ私こういうことを申し上げるかというと、相続税を経済学的なところだけ考えてやってしまうと、親が子にきちんと家を残したりとか何かを残したりとかということがないから、もう京都の町家とかもぐちゃぐちゃになってしもうているわけですよ。もう相続税が余り高過ぎるようになるから文化がぶち切れになっているというところがあるので、これ税制の問題、経済だけではなくて、是非、社会とか都市とかもういろんな側面で日本国民として考えていただくようにしていただきたいと思います。  以上でございます。
  66. 大嶋寧子

    公述人大嶋寧子君) ありがとうございます。  私……
  67. 石井一

    委員長石井一君) 恐縮ですが、簡潔にお願いを申し上げます。
  68. 大嶋寧子

    公述人大嶋寧子君) はい、簡潔にいたします。  税制専門家ではないのですが、私は、相続税の問題、贈与に回した場合に、一部の人たちの間で回ってしまう可能性があると思いますので、できれば贈与という形ではなくて、消費の活性化と結び付けるような形があり得るのではないかと思っています。例えば、高齢者消費の喚起ということが非常に重要になっていますが、国内旅行や生涯教育などに使った場合に、地域活性化ポイントとして、それを贈与税の基礎控除の枠を拡大するような形に使ったりするような形があり得るのかなと思っています。
  69. 中西健治

    中西健治君 ありがとうございました。
  70. 山下芳生

    山下芳生君 日本共産党の山下芳生です。お三方、ありがとうございました。  まず、大嶋公述人に質問したいと思います。本を買いたいと思いました。  二点質問したいと思うんですけれども、不本意な非正規社員という表現に共感をいたしました。これまで若者の雇用問題に取り組んできた一人として、彼ら彼女らの置かれた状態、あるいは気持ちを一言でよく表しているというふうに思ったわけです。  そこで、なぜこの不本意な非正規社員が増加したのか。先ほど減少を続ける男性の安定雇用機会の御説明の中では製造業や建設業の不振を挙げられましたけれども、私は、それに加えて労働法制の規制緩和、すなわち、一九九九年、派遣労働の原則自由化、それから二〇〇三年、製造業への派遣労働の解禁が背景としてあるんじゃないかというふうに思っているんですが、その点も含めて、不本意な非正規社員が増加した要因、背景について大嶋公述人のお考えを聞かせていただきたいと思います。
  71. 大嶋寧子

    公述人大嶋寧子君) 御質問どうもありがとうございます。  不本意な非正社員が増加した背景でございますけれども、不本意な非正社員を年齢別に見ますと、若い男性で非常に多い、それから若い女性と子育てが終わった後の女性で多いという傾向にございます。そして、企業の採用活動が抑制される中で、安定した雇用の縮小というのが特に若い世代に集中的に起こったということが一番の影響ではないかと思っています。  労働法制との関係でございますが、私は、派遣法の改正、派遣制度の解禁であるとか、その後の規制緩和の流れだけが原因だとは考えていません。確かに、派遣労働法の中で派遣労働者の雇用の保護というものを十分考えられてきたかというと、そこは疑問を挟まなければいけない部分もあると思うんですが、ただ、この分野への派遣を禁止するといった場合に、違う非正規雇用にどんどん人が行ってしまうというのは海外の経験でもよく見られる現象ですので、どこかを、派遣労働法というよりは有期労働法制全体を労働者の保護につなげるような形で見直すことが重要なのではないかと考えております。  お答えになっておりますでしょうか。
  72. 山下芳生

    山下芳生君 ありがとうございました。  もう一つ大嶋公述人に聞きます。  非正規社員の拡大は労働生産性を抑制するという御指摘でした。これは漠然と私も感じていたことを整理していただいた気がしたんですが、海外の実証研究で明らかとなったとのことでしたけれども、その実証研究の内容も紹介をしていただきながら、もう少し詳しくこの非正規社員の拡大で労働生産性が抑制されるということについて御説明いただければと思います。
  73. 大嶋寧子

    公述人大嶋寧子君) ありがとうございます。  二〇〇九年ごろに海外の実証研究をサーベイしたことがございまして、一つ、安価な労働力の利用の拡大によって設備投資や技術開発が抑制されるという経験につきましては、オランダで男性の賃金の伸びを抑制する動きがあったときに、それが労働生産性の伸びとどういう関係があったかということを研究がなされていまして、実際に様々な要因をコントロールしても労働生産性にマイナスの影響があったのではないかというふうに言われています。  職業能力開発の機会が低い労働者の増加が労働生産性を抑制するということに関しては、直接の因果関係というよりは、職業能力の開発の機会が、投資が行われると労働生産性が伸びるということと、それとは別に、職業能力開発の機会が非正社員で少ないという事実を組み合わせてこのように申し上げております。  三つ目の、こちらの説明をまだしていなかったんですが、正社員とは異なる意欲や姿勢を持つ労働者の増加ということに関しましては実は意見が分かれている部分でございまして、雇用が不安定な非正社員は正社員よりも頑張って働くというような研究もございますし、あとは企業への忠誠心が低いので逆に労働生産性が下がるという研究もございます。ただ、全体を見回しますと、正社員への移行の可能性が高い非正社員の職種では労働生産性というか高い意欲を発揮しやすいということが指摘されています。  日本状況を見ますと、正社員への移行が難しい、そういうことも含めて研究全体を考えますと、意欲という面からも日本の場合には労働生産性にマイナスの影響が生じやすいのではないかと考えております。  以上です。
  74. 山下芳生

    山下芳生君 ありがとうございました。  次に、土居公述人藤井公述人に同じ質問をしたいと思います。  私は、一九九七年、消費税が三%から五%に引き上げられた結果、やはりその増税分と、それからその他医療費の自己負担の増額などで九兆円負担増と言われておりますけれども、その結果、家計の可処分所得ががたっと減少した、消費減少した、景気も上向きかけていたものががたんと落ち込んだと。そして結局、国の税収、地方の税収も合わせて、九六年、増税前の九十兆円から今や七十六兆円と、税収もがくんと減っちゃっているということが事実として起こったと思うんですね。  今回、一〇%に増税するとなりますと、それ以上の負担増になりますので、また同じ轍を踏むんじゃないかということを多くの方が心配していると思いますが、土居公述人藤井公述人、そうならないんだと、あるいはやっぱりなるんだと、その辺りのお考え、お聞かせいただきたいと思います。
  75. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 私が先にしゃべらなければならないという極めて大きなハンディキャップを背負っておりまして、この後アジテーションが始まるということになると私の意見はかき消されることになるんじゃないかとは思いますが、あえて勇気を持って申し上げさせていただきたいと思います。(発言する者あり)ありがとうございます。  要は、九七年は金融危機があったということを忘れてはいけないということだと思います。経済学理論ではきちんとその影響を分けて分析するということをやっていまして、その結果としては、消費増税だけの部分でということで、もちろんその後、所得税の特別減税の廃止とかいろんな複合的な要因があるので、まさに物価消費税増税によって上がっているということによる反動の買い控え、これがどの程度あったかという研究がありまして、その研究の結果では一世帯で月に五百円あるかないかぐらいの消費減だったと。  それ以外にもっと減少しているというのは、それは当然、これ推論になりますけれども、金融危機の影響、そういうことによって雇用が失われるとか企業が倒産するとか、そういうようなことが回り回って、そこで所得が減るから消費も減ると、こういうようなことが起こったということだと思います。  私が経済学の立場ですので、当然、経済学だけでもう全てを物語ることができるということを強調したいわけでは決してありませんが、工学、エンジニアリングに基づく意見が正しくて経済学はばかだというような考え方に立って経済を語っていただくというのも、これまたいかがなものかなというふうに思っておりますので、やはりそこはフェアにおとらえいただければと思います。
  76. 藤井聡

    公述人藤井聡君) 粛々とお話ししたいと思いますが。  まず、先ほど御紹介になった、分離をして、実はその研究も私知っているんですけれども、ちなみに私、工学といいますか経済学経済学の勉強をするときには経済学の勉強をしているわけでありますけれども、その分析はこうなんですよ。家計の出費の駆け込み需要がまず消費税増税の直前にあります、一旦落ちます、それで一旦元に戻りますと。これ、全部一年ぐらいの分析なんですね。ところが、先ほど御紹介した三年殺しという、大山倍達先生の幻の技のお話を申し上げましたですけれども、あれは、要するに一年目、二年目は余り効果がないわけですよ、見た感じ何もないんかなと、DEMIOSのモデルの推計結果だと、それはほかのモデルでもそうなんですけど。それが累積してきて三年目ぐらいからだんだん駄目になってくるということについての分析がされていないというのが一点であります。  二点目は、これは十八ページを御覧ください。これは、私、これも持ってきました、十八ページ。その研究がありましたので、それとはまた別の、住宅の着工戸数、これは片山さつき先生が先週ちょうどお話しされていたやつですけど、ああ同じやなと思って見ていたんですけれども。  超大型の出費です、住宅着工戸数。これを見ると、ちょっと何といいますか、折れ線グラフが前年度比なんですね。バブル崩壊のときにごっつい、があっと下がるんです。それでまた元に戻るんですけど、消費税増税のときにまたぐっと下がります。ですから、そのインパクトはバブル崩壊と同じぐらいの効果があるということがあります。ただ、これは前年の駆け込み需要の増減分がありますから、その分差し引いて考えないといけない。その分を差し引いて考えると、翌年のことを見ればいいんですけど、翌年も実は同じぐらいへこんでいるということが分かっています。  この原因で、いずれにしてもこのときに大きく着工が遅れたということで、少なくなったということで、デフレ効果はこれもう歴然であるというふうに考えられるんですが、ちょうど時を同じくしてアジア通貨危機があります。そっちなんだということを主張するわけですけど、先ほど申し上げた、分離してとおっしゃったところ、実は分離できていないということを今申し上げましたので、実はここからもう神学論争になりますので、これ決着はまた学会か何かでやらなもうしゃあないところでありますけれども、これはもう理論的に考えて三年殺しのことを考えていないというところと、そのないということをおっしゃっている分析にはこの住宅のことが考慮されていないという二点については御提起を申し上げて、しかも、それでフーバー大統領の事例とか考えて、あとはもう常識で考えてください、常識で。もう、例えば、僕、男ですって、女ですって言ったって証明できないですよ。だって、おまえ、女やろとか、いやいや男やがなと言ったって、だからこの手のものは科学で証明できないので、あとは、最後の最後は、これはもう科学哲学で分かっているんですけれども、常識で考えるしかないので、あとはもう先生方の常識で御判断ください。  以上でございます。
  77. 山下芳生

    山下芳生君 ありがとうございました。  終わります。
  78. 石井一

    委員長石井一君) このままいきますと、十五分から二十分超過をいたします。短縮どころかだんだん延びております。どうかひとつ、質疑、御答弁共に御配慮の上、お願い申し上げます。
  79. 福島みずほ

    福島みずほ君 社民党の福島みずほです。  今日は、お三方の公述人、本当に刺激的な、有益なお話を本当にありがとうございました。  まず、大嶋公述人にお聞きをいたします。  私も、働くことや男女共同参画にこだわってきたので、おっしゃることは本当にそのとおりだと思ってきました。生活者という視点に立てば、私は、消費税を今上げることは生活を困窮させると、とりわけ子供の貧困、シングルマザーの人たち状況などよく分かっておりますので、消費税を上げることについては問題ありと思うんですが、大嶋公述人はその点についてはどうお考えでしょうか。
  80. 大嶋寧子

    公述人大嶋寧子君) 御質問ありがとうございます。  消費税の引上げについては、景気への影響家計への影響等も踏まえますと、非常に難しい問題だとは思いますが、私自身はできるだけ早く消費税を上げた方がいいのではないかと考えています。  その理由と申しますと、過去を振り返った場合に、財政圧力が強まった際に削減されてきたのは社会保障の部分、現役世代への社会保障の部分だったからです。例えば、石油危機後の財政出動で景気が悪化した後の一九七〇年代後半には、日本型の福祉社会論というものが出てきまして社会保障が削減されたというような経緯もございました。  そういったことも考えると、消費税増税という形で、もちろん景気への配慮も必要ですけれども、高齢者の方にも負担していただきつつ、給付付き税額控除等で働くことを支えるような形で、働いてもなかなか報われにくい人たちに集中的に還元していくというようなことがあり得るのではないかと私自身は考えております。
  81. 福島みずほ

    福島みずほ君 今、デフレ下において消費税を上げることはどうかという藤井公述人の御意見は本当にそのとおりだというふうに思っております。  これが、実は社民党自身も、生活再建ということを考えてそれから政治を立て直すとなると、今のデフレ下で消費税を上げることはいかがかと思っているわけなんですが、藤井公述人のこれで非常に面白かったのは、やっぱり新自由主義がなかなか、大新聞も含めてTPP賛成、消費税増税賛成で、なかなか難しいんじゃないかと書いていらっしゃるのはそのとおりだなと思うんですが、小泉構造改革で手ひどい目に私たちは遭ったにもかかわらず、国民はなぜ新自由主義を支持するのか。どうなんでしょうか。
  82. 藤井聡

    公述人藤井聡君) どうもありがとうございます。  まさにその点はもう心理学の話でございまして、心理学の中でも政治心理学という分野がございます。私、そのペーパーも結構書いているんですけれども、その研究一つがこちらなんですが、これはもうほとんど精神病理的な問題でありまして、本当に今のインテリの方というのは新自由主義に基づいた教育を受けていらっしゃる方が経済業界の中でも、我々、例えば土木学会とかあるいは心理学会とかにもたくさんおられます。頭のいい方がもうこの数十年新自由主義的な教育を受けていますので、その方がいろんなところに今入ってしまって、それはもう学校の教育だけではなくて、政府とか財界とか、そういうところにたくさんおられて、とにかく構造改革するのがいいんだと思ってしまっている節があります。  それを更に助長しているのがマスメディアでありまして、マスメディアのことを示しているのがこの三十ページの円グラフなんですけれども、これは過去一年間の経済社説を全部一個ずつ分類をするという誠に地道な研究をやったんですけれども、それでいきますと、新自由主義的な論説というのが八八%、ケインズ的な政策は一・七%と。これは全部の新聞、大手五紙全部でございますから、これを、少々新聞を読まれるような階層の方が毎日こういうのを見ていらっしゃると、それはもう新自由主義的になっていかざるを得ないと思います。こういう状況になりますと、当然経営もそうなるでしょうし、選挙の結果もそういうことになるでしょうし、そうなると、あとはもう雪だるまが転がるように日本という国は新自由主義になっていくと。  こういうのは、人間というのは、自分自身とはどんな人間だとか、世の中はこうだとかということに対して、最近のナラティブサイコロジーという物語心理学の中で言われているのは、物事を理解するときには全部物語で理解するということが認知心理学なんかでも言われているんですけれども、要するに、もう単純な、例えば司馬遼太郎の物語とか増税破綻物語とか、何かそういう陳腐な物語があって、そういう物語をずっとみんな信じてしまって、それに基づいて、それに一致するデータを学者はいっぱい集めて、それに排除する人間はどんどんどんどん委員会から排除されていって、結局その物語が実体化していくというのが分かっているんですけれども、そういうことで、これは本当に社会学的な、政治心理学的な、精神病理的な、社会臨床学的な問題であるというふうに私は分析してございます。  以上でございます。
  83. 福島みずほ

    福島みずほ君 ありがとうございます。  東京湾の近くのコンビナートが爆発をすると、地震のために、大変なことになるのでという専門書の研究などもありますが、藤井公述人のおっしゃった、災害に関してどうしていくのか、被害をどう食い止めるかというのは国会の中でもしっかり取り組んでいきたいというふうに思っております。  大嶋公述人にお聞きをします。  働くことが有利になる政策の整備として書いていただいて有り難いんですが、最低賃金の引上げなどに実は苦労しています。最低賃金を上げた方が、要するにみんなの給与が十四年間下がり続けているので内需拡大にとってはいいと思うんですが、この不況下に何を言うというような声も大変強いんですね。これの突破を教えてください。
  84. 大嶋寧子

    公述人大嶋寧子君) ありがとうございます。  最低賃金の引上げにつきましては、やはり急速にやり過ぎると中小企業への影響や地方経済への影響が大きいということは否めない点はございますので、そういった意味で、企業経営への影響や生産性の拡大投資への支援などを行いつつ最低賃金の引上げを行うという狭い道を取らざるを得ないというふうに考えていますが、その最低賃金の引上げ自体は、給付付き税額控除などの支援策を行いました場合に、給付付き税額控除は低賃金労働を温存してしまうという効果がありますので、低賃金労働を温存しないために最低賃金の引上げも行うのであるというような説明の仕方が一つあると思いますし、あと、少しお話ししたように、低賃金労働が利用できることによって企業が設備投資や労働生産性を高める技術開発を怠ってしまう面がありますので、最低賃金を引き上げていくこと、少しずつ着実に引き上げていくことでそうした労働生産性を高める誘因をつくっていくというような議論も可能ではないのかなと思っています。
  85. 福島みずほ

    福島みずほ君 土居公述人にお聞きをいたします。  大嶋公述人からも給付付き税額控除という話が出ているんですが、これはマイナンバー、社民党はちょっとこれ問題ありと思っているんですが、マイナンバーを確立し、かつ様々なことをしない限り公平な給付付き税額控除ってできないと思うんですね。じゃ、消費税を一〇%に上げ、給付付き税額控除、私はマイナンバーそのものも問題ありと思っていますが、まともに給付付き税額控除ができるまでにタイムラグも生じてしまう。結局、藤井公述人が言うように、三年間の殺しが行われるんじゃないかと思っているんですが、この点についてはいかがでしょうか。
  86. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 御質問ありがとうございます。  今からでもできる方法はあると思っております。番号を入れなくてもできる方法があると。それは、これはもちろん源泉徴収をされている方に限定されるという意味ではある意味不公平があるかもしれませんが、まさに先ほど申し上げたように、社会保険料の逆進性の方が深刻でありますから、社会保険料を更に減免する。つまり、今もちろん社会保険料の減免制度、低所得者に対してはありますけれども、所得税における税額控除化、その税額控除で使い残した分は更に社会保険料のところで減免をするということを年末調整とかですると。もちろん、企業に対してその事務負担をお願いしなきゃいけないという点では、ちょっとそれはそれとして配慮は必要かもしれませんが、ナンバーということまで行かなくても、何らかの本人の名寄せができればよいと。  実際、企業でお勤めの方、もちろんこれは正規、非正規問わずですけれども、実際、お給料を企業がお支払になられるときには、社会保険料を取る必要がある人は取るし、取る必要のない人は取らないというようなこともきちんとコンピューターソフトを使いながら計算しているということがありますから、その刹那でうまく給付付き税額控除めいた仕組みを埋め込むことを通じて、事実上の還付というものを低所得者の方にもするということが、もちろん源泉徴収がなされているという方に限ってということでありますけれども、できるのではないかというふうに思っております。
  87. 福島みずほ

    福島みずほ君 最後に、藤井公述人に。  私自身は、消費税増税反対や経済の見方もそのとおりだと思っているんですが、大規模公共事業はやはり国民は余り望んでいない。例えば原発にしろ、いろんなことにしろ、望んでいない。ですから、自然エネルギー促進や新たなハイクオリティーの産業などを日本がどうやっていくのかというのが経済成長で模索されるべきではないかというふうに思っているんですが、経済成長について一言お願いします。
  88. 藤井聡

    公述人藤井聡君) 当然ながら、新幹線とか鉄道とか道路とか以外のものが不要であると私は一切思っておりませんが、地方に行かれると、本当にいろんな方とお話しされると分かっていただけるんじゃないかと思います。例えば、羽越の辺りの方とか、九州の宮崎の辺りの方とか、あるいは裏日本と呼ばれている鳥取とか島根の人とか、和歌山の南の方の人とか、彼らのなりわいを成り立たせるために求められている本当に必要な公共事業がたくさんあります。それは、大型公共事業と呼ばれるものであろうと思います。  そして、先ほど申し上げた八ツ場ダムというものも、よくよく考えればあの三十兆円というような被害を軽減させるということもあるでしょうから、そういうことをきちんと一つ一つ合理的に考えていけば、全ての公共事業が不要であるという議論には僕は国民世論の中でもならないだろうと思います。僕は、地道にそういうメッセージを国民に送り続け、きちんと学者としてデータも付けながらお話ししていきたいと思います。  以上でございます。
  89. 福島みずほ

    福島みずほ君 どうもありがとうございました。
  90. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 お三方には、大変お疲れさまでございます。  私は、インボイスの件が一つ、それから二つ目は財源調達法で外貨準備、これを取り崩すといいますか、これが二つ目、それからTPP、これが経済とか財政にどういう影響があるかと、こういうことでお尋ねをしたいと思います。  それではまず、日本消費税上げる上げないにかかわらず、インボイスを取っておりません。これについて、藤井参考人、土居参考人、大嶋参考人に、インボイスどう考えたらいいか、御評価をお願いします。
  91. 藤井聡

    公述人藤井聡君) インボイス、御説明いただけますでしょうか、具体的に、恐縮でございますが。
  92. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 では、簡単に言えば、取引をする段階で、販売者が買った人間に対して、いわゆるこの値段でこれだけの税金、消費税が入っていますよと渡す、そういう金券のようなものでございます。これをもって様々な税の控除という段階に入っていくということなんですけれども。  それでは、ちょっと土居先生からお願いしたいと思います。
  93. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 御質問ありがとうございます。  インボイスは、軽減税率を入れることにするならば不可欠のものであります。軽減税率がない段階でインボイスを入れるか入れないかは、今の税務体制、日本消費税の徴収体制を見ますと、それほど深刻な、インボイスを入れなければ消費税の業務はもう成り立たないというほど深刻ではない。むしろ逆に、低い税率で、ある段階、つまり二〇%とかそんなヨーロッパ並みの税率でないという段階において事務コストを業者に課してしまうという点からすると、そのメリットが乏しいと。  つまり、インボイスを入れるということは不正を防ぐということなんですけれども、税率が高くなれば益税だとかなんとかいろいろな問題が出てくるんですけれども、まだそこまで税率が高くない段階で、仮にそれは帳簿をちゃんと取っていただいているのでそこを見ればある程度は見破れると。そういう意味では、もちろんインボイス、あるにこしたことはないかもしれませんが、必ずしも不可欠だということになるかどうかというのは軽減税率を設けるか否かに懸かっていると思います。
  94. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 大嶋参考人、この辺はいかがでしょう。
  95. 大嶋寧子

    公述人大嶋寧子君) ありがとうございます。  私、税制専門家ではありませんので、お答えできる役割にあるか分からないんですが、事務コストとそのメリットのバランスというのは非常に重要かと考えていまして、今の税率が低い段階と、中長期に高齢化に見合った税率に上げていかなければいけないという、その時間軸の中で考える必要があるのかなと考えています。
  96. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 これ、給付付き控除を含めて様々なやり方というのを考えていかなくちゃならないだろうと思うんですね。そういう中で消費税というものをどう見ていくかと、こういうことも重要なことだろうというふうに思っております。  それで、藤井参考人にお尋ねしたいんですが、災害資本主義というのを大変私も共鳴しております。先ほど来からもお話がありました。人の命の重さからすれば、財源を捻出できるならばそういう対策を取れると。  それから、もちろん自助の部分が重要ですね。私は、安全・安心ポイントというのを三年ぐらい提案しておりまして、エコポイントと同じようなものでして、消火器を買ったらそこにポイントが付いていて、この消火器で今度は万が一の時のホイッスルですね、ピーッというようなものにも使えるし、懐中電灯にもできるし、ぐりぐりの発電にもできるし、それが高じて今度は耐震補強とか、それからまた新しい家も建て替えられるということなんですが。  今日は財源論も随分出たんですが、そういうことをやるにしても、財源調達法としてもう一つ私は、やっぱり外貨準備金、これ九十兆近くあるわけですよ、これを、ほとんどアメリカというふうにも言われておりますが、これを日本の中に還流するようにするということも一つの手であろうと、こういうふうに思っているんですが、いかがですか。
  97. 藤井聡

    公述人藤井聡君) 外貨準備については、全体で二百七十兆とかそういう数字が言われたりとかすることもございますが、その取崩しというのは当然ながら考えるオプションの一つであろうと私思います。思いますが、その辺りはもう外交的なところがあるということをしばしば言われておりますので、その辺はきちんと外交上の議論をした上で、大局的な観点からどう考えていくかということを考えるんだろうなと思います。  ただ、そこを余りにも、いやいや、それには手を付けられないというのは、これもまた日本国家としては恥ずかしい話でございますから、きちんとそれは普通に対応していけばいいだろうというふうに私は思います。
  98. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 土居参考人、いかがでしょう。
  99. 土居丈朗

    公述人土居丈朗君) 当然外交上の問題がありますので、米国債を売って外貨準備を取り崩すということは許される局面であるかどうかと、ないしはそういう関係ができるかどうかということに懸かってくると思います。  もちろん、その前にいろいろ活用の方法はあって、例えばODAを日本がするときには、ドルで供与するという場合には、せっかくそこに外貨準備としてドルがあるわけですから、そのドルを優先的に使うと。もちろん、予算の中では円建てで予算書には計上されるということではあるかもしれませんが、そのドルを活用して、追加的にドルのお金を調達してまたその予算を執行するというよりかは、今手持ちのドルを使って。その分円が浮きますので、そこをうまく活用するという、これはちょっと金額的には大きくはならないかもしれませんけれども、既に今もう政府は始めているということだと思いますので、そういう取組というのは重要だと思います。
  100. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 消費税にしても、結果的には日本国内の中の再配分を言っているような側面が強くて、それだけではパイは広がらないわけですね、ですから経済成長ということを言うわけでございますが。逆に言えば、外にあるお金、我々は世界一お金持ちなんですから、それをうまく活用するという方法もまたこの急場の事態にはあるだろうと、こういうことなんです。  今、李建国中国の中央委員がお見えで、参議院と定期的に交換をして、今日その会議をやっておるんですけれども、私はその場でも申し上げてきたんですが、TPP、これは先ほどのお話にもすごく関係してくるんだと思うんですけれども、経済的な面と、まさに今お話しされた外交の面というのが二つあるわけですね。  これは午後にもお聞かせいただきたいなと思っておるんですけれども、今日は大嶋参考人に、TPPというのは、先ほどお聞かせいただいたようないろいろなお話の中で、物によって影響の度合いは違うと思うんですね、プラスマイナスも違うと思うんですが。総じて、大嶋参考人が、参考人じゃないですね、公述人です、済みません。今までの訂正をいたします。公述人にお聞かせいただきたいんですが、TPPをどういうところでどう評価されますか。どこを拾っていただいても結構ですけど。
  101. 大嶋寧子

    公述人大嶋寧子君) 御質問ありがとうございます。  TPPにつきましては極めて専門外というところがありますので、きちんとお答えできるか心配なところもありますが、ただ、グローバル化の流れというものを止めるというのも非常に難しい面が、細かい技術的な話を交渉でどうしていくかという話はまた別なんですけれども、流れというものを止めるというのは非常に難しいのかなと私自身は考えています。  実際、もう今現在でも労働集約的な生産工程を中心に海外にどんどん出ていってしまっていますし、その中で、日本のサービス業というところでどう高付加価値なものをつくっていくかということが課題になっていると思いますので、TPP自体、貿易自由化の面で、その流れを止めるというよりは、私自身は、やはり国内の雇用、そのサービス業をいかに質を高めていくか、またそのサービスを海外にどうやって売っていくかということが非常に重要なのではないかと考えています。
  102. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 どうもお三方には、ありがとうございました。  大嶋参考人の労働生産性、これの問題と非正規雇用の問題が密接に絡んでいるというようなことのお話もいただきましたけど、まさにグローバルな中でも財政も考えなきゃいけないし、それから震災ということを含めて、新たな成長戦略というのも考えなくちゃいけないということで、大変参考になりました。  ありがとうございました。
  103. 石井一

    委員長石井一君) 以上で午前の質疑は終了いたしました。  公述人の方々に一言御礼を申し上げます。  有意義な御意見を誠にありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。(拍手)  午後一時に再開することとし、休憩いたします。    午後零時十三分休憩      ─────・─────    午後一時開会
  104. 石井一

    委員長石井一君) ただいまから予算委員会公聴会を再開いたします。  休憩前に引き続き、平成二十四年度総予算三案につきまして、公述人の方々から御意見を伺います。  午後は、政策研究大学院大学学長白石隆君、岡本アソシエイツ代表岡本行夫君及び地球システム倫理学会常任理事・元駐スイス大使村田光平君に公述人として御出席をいただいております。  この際、公述人の方々に一言御挨拶を申し上げます。  本日は、御多忙中のところ本委員会に御出席いただき、誠にありがとうございます。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。  本日は、平成二十四年度総予算三案につきまして皆様から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。  次に、会議の進め方について申し上げます。  まず、お一人十五分程度で着席のまま御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑にお答えをいただきたいと存じます。  それでは、外交・安全保障について、まず白石公述人にお願いいたします。白石公述人
  105. 白石隆

    公述人(白石隆君) 白石でございます。私の方から十五分、世界と日本のこれからの趨勢、それから日本として取るべき安全保障、それから政治経済政策、外交政策について意見を述べさせていただきたいと思います。  まず最初に、世界と日本の大きい、長期の趨勢ということから申しますと三点ほどございます。一つは、中国を始めとする新興国が急速に台頭しておりまして、既に二〇一〇年以降になりますと、世界経済成長の六〇%は新興国の成長によってもたらされているというのが、これが一つ大きい変化でございます、趨勢でございます。それから二番目に、これはもう常に、冷戦終えん以降言われておることですけれども、グローバル化の流れというのは止めようもない速度でもって進展していて、人、物、お金、情報等が国境を越えて、極めて、ますます加速度的に、しかも大量に流通するようになっていると。それから三番目に、そういう中で、日本の少子高齢化の趨勢も止まらないと。  これが何を意味するかと申しますと、少なくとも二点確実に言えることがございまして、一つは、世界的、地域的に見ましたときに富と力の分布が急速に変化しておるということでございますし、その結果、新興国が、現在ありますルールだとか規範だとか制度というものを変更しろという、そういう圧力が非常に強くなっている、これはもう間違いございません。これは、特にアメリカであるとか欧州ではグローバルガバナンスの問題というふうにとらえられておりますし、それは誤りではございませんが、グローバルガバナンスの問題だから、一方的に維持しようといっても恐らく維持できないでしょうと。むしろ、いかにして新興国を取り込み、彼らを我々と同じような考え方にしていくかという、そういう中で制度そのものも深化させていくというのが一つ大きな課題になっていると思います。  それから二番目は、そういう中で、特にグローバル化の進展によって相互依存が拡大し深化しておって、全体として見ますと、世界的なルールだとか規範というものはハイブリッドになりつつ共有化されていて、決してアメリカ中心の世界というのがこれから二十年後に中国中心の世界になるという、そういう趨勢にはないと。むしろ、アメリカが過去六十年中心として作ってきたようなルールだとか規範というものが、修正されつつも中国の人たちやなんかにも恐らく受け入れられていくだろうと。その一つの証拠は、中国のエリートはもうますますアングロ化しております。例えば、現在の執行委員、九名おりますけれども、八人までが子供をアメリカの大学で教育していると。これ、バイリンガルの世界がもう本当に現れつつあると。  と同時に、近年の動向としまして、私は、二〇〇一年に始まりましたテロとの戦争の時代というのは、終わったとは申しませんが、一段落付いたというふうに考えておりまして、むしろリーマン・ショック以降は、それ以上に重要な問題になっているのは私は政治経済の時代だというふうに言っておりますけれども、それはどういうことかと申しますと、経済の問題に対処するのに国家の役割が非常に増しているという意味で、経済の問題を市場に任せて済んだ時代というのは終わって、もう一度国家の役割、つまり政治の役割というのが大きく問われていると、それから二番目に、そういう経済のパフォーマンスが中長期的に地政学的な意味を持つという、これが大きい現在の変化だろうと思います。  そういう中で、特にアジアの場合には、分断国家というのは現在も朝鮮半島、それから中国と台湾のところに残っておりまして、特に北朝鮮は、こういう言葉を使っていいかどうかは、私、正直言って自信ありませんが、括弧付きで申しますと、無頼国家として非常な脅威として残っている、これが大きい現状の分析だろうと思います。  そういう中で、それでは日本としてどういう対応をすべきかと。  まず、安全保障について申しますと、これはもう既に常に言われていることですけれども、自助と共助が基本だろうと。その場合の自助というのは、防衛大綱に定められておりますような動的防衛力の整備というのが、これが鍵になり、それから共助の方では、日米同盟を深化、発展し、同時に、かつてはアメリカを中心としたハブとスポークスの安全保障の仕組みというのがこの地域の安全保障の仕組みでしたが、このスポークスの間をつないでネットワーク化していくと。つまり、日本と韓国、日本と豪州、日本とインドネシア、日本とインドという形で、むしろ地域的な安全保障の仕組みというのをネットワーク化していくというのが、これが我が国の安全保障の基本的な考え方で現在ありますし、私はこれが適切な考え方あるいは政策の基本であるというふうに考えております。  そういう中で具体的な課題としましては、ここに五点ぐらい挙げておりますけれども、一つは、西南方面の戦略的重要性というのはこれからますます上がってくると。冷戦の時代と、ポスト冷戦の特に中国が台頭して以降の時代では、ここが日本の防衛ということからいうと極めて重要なポイントである、これが第一点です。  それから第二番目に、新しい防衛の領域としてサイバースペース、宇宙というのが明らかにもう登場しておりまして、この分野における日本の国としての能力の構築というのは、これは焦眉の課題だろうというふうに考えております。  それから同時に、ここに少し書くのを忘れましたが、もうこれからの防衛ということを考えますと、宇宙から空、陸、海、海の中、これを全部体系的にサーベイできる、そういうサーベイランスのシステムというのをやはり構築していくということも、これも鍵でございます。  それから三番目に、そういう中で、これは既に政府として昨年十二月に見直しを決定されましたけれども、武器装備の共同開発、共同生産というのは、これは私としては極めて適切な決定であったと思いますが、まさにこれを推し進めることによって相互運用性というものをこれからますます拡大していくというのが、もう一つ、三番目の課題だろうと思います。  それから四番目に、今までこの三つは特に防衛力について申しましたが、現在の安全保障は決して防衛だけの問題ではございません。特に、近年におきます中国の海洋における活動ということを考えますと、海保の拡充ということも極めて重要でございまして、同時に、私は東南アジアの研究者でございますけれども、東南アジア、さらにはオーストラリアのような国々では、海洋の安全保障についての日本との協力、それから、特にコーストガード支援ということは非常に強く求められているということも事実でございます。  それから最後に、こういうことは決して、私としては別に中国を敵として封じ込めるということではないと。むしろ、中国との間にも非伝統的安全保障の分野における協力、これは、災害支援であるとかあるいはテロ対策であるとか、そういうところで幾らでも協力できる分野はございますので、そういうところで協力し、信頼を醸成し、既に始まっております軍備の、何というんですかね、軍備増強の競争、英語で申しますとセキュリティージレンマというやつを何とかして管理していくことが同時に重要であると考えます。  次に、もう一つ、政治経済の方について申しますと、二点ございますが、日本としては、私は、東アジアを枠組みとする協力、これはASEANプラスのプロセスでございますが、これとアジア太平洋を枠とした協力、この二つを同時に追求していくということが極めて重要であろうと思います。  政治的なムードとしましては、一九九七年、九八年の経済危機以降、あの経済危機に際して、特にアメリカ政府経済危機に陥った国々にかなり露骨に介入したために、一種の反米ナショナリズムの機運が出て、それでアメリカ抜きの東アジアの共同体形成という名の下にASEANプラスのシステムが進展いたしました。  日本もその中で随分いろんな形で、チェンマイ・イニシアチブを始めとしていろんな協力の仕組みをつくってまいりましたが、二〇〇八年以降は、リスクがどこから来るかというと、どうもアメリカではなくて中国から来るんじゃないかという、そういう認識が一般的になりまして、中国がリスクであれば、リスクをヘッジするにはむしろアメリカが入ったような協力の枠組みがいいということで、アジア太平洋を枠とした協力の枠組みが今主流になりつつあると考えております。  ただ、日本としましては、この両方をうまくバランスを取って進めていくというのが一番利益になるというのが私の考えでございまして、それは例えば通商の分野において、アジア太平洋という世界の成長センターで二十一世紀のルールを作るということでいいますと、これはTPPが一番よろしゅうございますけれども、同時に、日中韓であるとかASEANプラス6だとか、こういう形の通商の自由化ということも是非一緒にやっていく必要があるだろうと。  それからもう一つ、是非ここで先生方に注意しておいていただきたいのは経済協力でございます。  新興国との、これまでは日本は発展途上国支援というのが経済協力あるいは経済援助の基本的な考え方でございましたが、私はこれだけ新興国が台頭したからには、新興国というのは協力する相手であると同時に競争する相手でもあると。だから、そういう頭でもって新興国との連携を進めていく必要があるので、例えば、新興国との経済協力でメガリージョンの形成支援をするときには、これは新興国の市場の拡大と同時に日本企業のやはり海外展開を支えるという、そういう発想が重要ですし、あるいは日本の科学技術協力を考えるときには、科学技術協力を進めることで日本ではできない研究は外国でやってもらって外部の資源を内部化していくという、そういう発想が重要だろうと思います。  つまり、まとめて申しますと、基本的な外交政策、安全保障の考え方というのは、現にある力の均衡が大きく変わらないようにしていくと、これがやっぱり一番の基本でして、その上でルールを作っていく。二十一世紀のこの世界にふさわしいルールを作っていく。それを日本一国でやろうとするのではなくて、あるいは日米だけでやろうとするのではなくて、むしろネットワークを組んでいろんな国、いろんなグループをてこに使いながらやっていくというのが一番基本的な考え方だろうと思います。  ここは予算委員会でございますので、特に先生方に申し上げたいことは二点ございまして、現在、例えば自衛隊の武器装備については、新規の調達よりも既にメンテナンスのコストの方が大きくなっております。日本のように、少子高齢化で人の価格あるいは人の価値というのがこれからますます、特に若い人の価値が高くなっていくときに、武器装備が二流では、これは自衛隊あるいは日本の防衛力というのは維持できません。ですから、その結果、防衛産業の足腰も弱くなる危険性がございます。  ですから、是非、防衛費ということについては、あるいはもっと広く、私は海保の予算なんかも重要だと思います。ここのところは是非何としてでも維持していただきたいというのが一点。  それから二番目に、経済協力についても、既に二〇〇九年、二〇一〇年の中国の四国立銀行の開発融資の総額は、ワールドバンクの開発融資の総額を超えております。そのくらい中国が圧倒的なお金でもって経済協力をやるときに日本一国ではもうこれは何とも対抗できませんが、そこはやはりワールドバンクと協力し、あるいは他の国々と協力してやはりやっていかなきゃいけないと。削ればいいという、そういう時代は私は終わったと思います。  どうもありがとうございました。
  106. 石井一

    委員長石井一君) ありがとうございました。  次に、岡本公述人にお願いいたします。岡本公述人
  107. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 岡本行夫でございます。私の意見を申し述べさせていただきます。  未曽有の規模の被害を日本にもたらした東日本大震災に遭って、日本は一人で生きているのではない、世界中の国々が助けてくれる存在なんだとつくづく思い知らされました。世界から多数の救援チームや物資、寄附金が日本に集まりました。群を抜いていたのはアメリカで、二万人の兵員が出動し、災害処理や遺体捜索に当たってくれました。日本は、こうした国際社会の支援にできるだけ早くこたえていく責務があると思います。  大震災は、もう一つ、自衛隊がいかに士気が高く、統率の取れた部隊であるかも国民に知らせてくれました。今も被災地にあふれているのは、自衛隊と米軍に対する感謝、感謝の言葉でございます。自衛隊に良い印象を持っている国民は九二%に達します。しかし、翻って、我々はこうした気高い精神を持った部隊に十分な尊敬と感謝の念を払ってきたんでしょうか。  九・一一テロ攻撃の直後、横須賀の米第七艦隊は硫黄島付近に避難することになりました。そのとき、海上自衛隊の護衛艦が米艦隊を護衛して東京湾を南下していった映像は繰り返しアメリカ国内で放送され、アメリカ国民に強い印象を与え、日本に多くの謝意と称賛が寄せられました。現在、南スーダンの国連PKOには自衛隊の施設部隊が派遣され、困難な環境の中で平和への貢献を続けております。海賊から民間の商船隊を守るためにジブチに駐留している海上自衛隊も同様であります。国内外に自衛隊へのかつてない期待が高まっています。  ところが、自衛隊のための予算は長期的に削減され続け、自衛官の数も減少しています。世界の主要国は例外なく国防予算を増やしています。特に、中国は大幅に軍備を拡大し、日本周辺の脅威が増大しているときに、日本だけが毎年防衛予算を削っているのは信じられない事態であります。  特に問題なのは、自衛官の数の減少です。自衛官の定員は二十四万七千人と決まっていますが、現在、実員は二十二万八千人しかいません。応募者がいないのではなく、財務当局が充足率なるものを定め、それを定員数に掛け合わせ、自衛官の数を更に削減しているからであります。厳しい予算を組まなければならない財務当局の御苦労は分かりますが、自衛官の数というものは国防の基本であり、その適正規模は所要の国防上のニーズに基づいて法律や防衛大綱によって決められているものです。その数を更に国防と関係なく作られた充足率という財務上の基準を用いて隊員数を削り込んでいく。  元々、我が国の自衛官の数は国の規模に比べれば非常に少ない水準に抑えられています。せめて自衛官の定員と実員の乖離という不正常な状態を元に戻す政治意思をお願いしたいと思います。  もう一つ、白石公述人が既におっしゃったので一言だけにとどめますけれども、この防衛予算の削減の結果、今や自衛隊の正面装備の購入額がその補修・維持経費よりも下回るようになったことがもう一つの非常に深刻な問題でございます。急速に近代化し増強されている近隣諸国の軍事力を考えればゆゆしき事態であります。財源はそのために回せるか。例えば、グアム移転経費は、沖縄米軍の移転規模が縮小されたことによって予算を節約できることができるかもしれません。その節約分は是非正面装備に回していただきたいと思います。日米同盟関係にとっては自衛隊の役割分担能力を高めることが最も重要だからです。  残念ながら、世界において日本の存在感は確実に薄くなりつつあります。かつて世界の一七%あった日本のGDPは今は七%になり、一人当たり国民所得の順位も大幅に後退しました。産業の競争力も減じました。国際秩序を形成する過程での日本の発言力も下がってきました。世界平和のために軍事的な貢献はできないので経済協力で義務を果たすというのが我が国の決まり文句でした。確かに一九九〇年代後半には、日本は世界最大の援助供与国として国際社会に感謝され、重視もされてきました。しかし、今、日本のODA総額は、当初予算ベースで見れば、一九九七年に比べて実に五〇%以上も減っています。ODAの減少予算上の制約によってもたらされた部分だけではないと思います。大震災の直後、政府は、他の費目の削減を検討する前に真っ先にODAの一千億円削減を決めました。野党の反対で減額幅は半分になったものの、まずODA削減から始めるという姿勢には落胆いたします。我々は本当に国際社会の一員として義務を果たそうとしているのでしょうか。  日本の存在感を希薄にしたものは経済やODAの縮小だけではありません。クリントン米国務長官は、昨年十一月に雑誌に論文を寄稿し、その中で、アメリカはこれから国益を懸けてアジア太平洋地域を重視していくことを記した後、そのアジア太平洋地域にあっては三つの巨人が協力し合うことが重要であると指摘しました。その三つの巨人とは、アメリカ、中国、インドであると。日本の名前が落ちていたことに私は失望いたしましたが、我が国自身の責任も多分にあると思います。  オバマ政権は極めて親日的な政権として出発しました。クリントン氏が国務長官として上院の外交委員会で指名される際に行った演説にも、あふれるような日本への賛辞と期待感が当初表明されていました。しかし、日本政府の普天間をめぐる対応や東アジア諸国への傾倒とともに、アメリカの日本に対する熱い思いは消え去っていきました。アメリカはむしろ韓国との関係を強調するようになり、G20も核安全保障サミットも、開催国となってしかるべき日本ではなく、アメリカの後押しの下で韓国での開催が決まっていきました。  白石公述人が言われたとおり、日本はアジア諸国を重視し、これから関係を強化していかなければなりません。しかし、対米関係の犠牲の上にアジア重視を打ち出した日本政府の姿勢は、結局、アジア諸国からも評価されず、アメリカとの関係を傷つけただけで立ち消えていきました。  外国との交わりという意味では、当面の喫緊の課題は、これも白石公述人が指摘されたTPP交渉への参加問題です。TPPに参加するかしないかには、大げさとお思いかもしれませんけれども、我が国の盛衰が懸かっていると思います。参加しない場合には貿易と投資の両面で我が国はアジア太平洋地域での競争から落後していくことでしょう。既に韓国はFTAによってアメリカともEUとも関税ゼロの関係になることが決まっています。ここ数年の間に、日本のFTAのカバレッジが低いために日本企業の競争力は後退していきました。  例えば、韓国企業とは同じ土俵で輸出競争を行うことができなくなっています。当然、国内での企業活動の規模と雇用も縮小されています。TPPに入らないということは、世界経済の四〇%を占めるこの地域で日本製品だけが関税を掛けられ、日本の知的所有権や投資権益や日本人ビジネスマンの移動だけが保護されないという事態を招くことになります。設立交渉に参加せずにでき上がった仕組みへ後から加入しようとしても、既存メンバー国の審査を一方的に受けることが必要になり、日本は著しく不利な立場に立たされます。  農業をいかに保護するか。農業は、TPPとは無関係に現在速いスピードで衰退しつつあります。これを食い止めなければなりません。TPPの下で関税が撤廃されるのは協定成立の十年後です。それまでに日本は抜本的な政策によって農業を蘇生させなければなりません。政府による農業保護の手段は関税から直接支払に変わりますが、生産効率を高める意欲を持った農家に対しては、政府はTPP参加後も手厚い保護を継続すべきと存じます。日本はASEANプラスプラス6の交渉に参加すればよい、これも白石公述人のおっしゃったとおりであります。つまり、TPPもASEANプラス方式もということであります。  次に、抑止力ということについて申し上げます。  日本の周りには、膨脹する中国の軍事戦略や攻撃的な姿勢が続くであろう北朝鮮を始めとして幾つもの不安定要因があります。日本は、ロシアとも、中国とも、韓国とも、北朝鮮とも、台湾とも、周辺の全ての国、地域と国境紛争を有しているという世界でも特異な国家であります。このような安全保障環境の中で、日本の安全は話合いや友好のみによって確保できるものではありません。  国際政治の冷厳な現実は、結局、平和は抑止によって保たれることを示してきました。抑止というのは、相手に対して日本を攻撃することを思いとどまらせる力です。その力は、結局、日米安保条約第五条によって担保されています。同条の下で日本に対する攻撃はアメリカに対する攻撃とみなされますから、仮にも日本に攻撃を仕掛けた国はアメリカから報復を受けることになります。アメリカは、横須賀に艦載機や随伴艦まで含めれば三兆円以上と推定される虎の子の第七艦隊を配置しています。日本の首都のすぐ隣にこのような艦隊を配置していることがアメリカの日本防衛の決意として周辺諸国に伝わり、強い抑止力となっている。抑止とはそういうものです。日米安保体制の仕組みが確実に発動されると周辺諸国が信じていれば、誰も日本に手を出してきません。  逆に、周辺諸国が、最近の日米関係はごたごたしている、そのようなときにアメリカは日本のために救援、報復には来ないだろうと思ってしまえば、抑止はその時点で失われます。つまり、周辺諸国にいささかも日米同盟の実態に疑問を差し挟ませないようにさせ、米国と日本は共同行動するということを常時見せ付けていることが抑止の本質です。そのために緊密で良好な日米関係が常日ごろから必要になるのです。  普天間問題もそのような文脈の中で理解されるべきです。仮にも沖縄が混乱して米軍の駐留が不安定になってくるような事態になれば、日本の抑止力には大きな穴が空きます。普天間飛行場の移設問題は、沖縄の負担軽減のために速やかに、かつ円滑に解決しなければなりません。しかし、沖縄県全体が強く反対する方式では解決になりません。その意味で、辺野古沖への移設、つまり日米合意の履行は既に極めて困難になってきていると思います。工事を強行すれば、流血の事態等、制御できない混乱へとつながる可能性すらあります。政府が日米合意案の実現は困難と認識した時点で、初めてそれではどうしたらいいかという代替策の検討を始めることはできます。代替策の実現は、時間は掛かるでしょうが、決して不可能ではないと信じます。  日本にとって中国との関係は極めて重要です。今年の秋には第十八回中国共産党大会が開かれ、中国に新しい指導部が誕生します。新しい指導部と建設的な関係をつくっていくことは極めて重要です。中国の軍事膨脹は、一方、とどまるところを知りません。特に海軍力の大増強であります。いろいろな情報から判断すれば、二〇二〇年までに日本の周囲の海域では、中国艦隊のプレゼンスが米海軍のプレゼンスを数において凌駕することになるでしょう。中国の太平洋進出の最大の目的は、今や台湾攻撃ではなく、海洋権益の確保に移ってきていると思います。その場合には、日本が主たる正面に立つことになります。この中国をいかに周辺国家群と協調的な政策を取るようにさせていくか、これが日本にとっての最大の外交課題になると思います。  一方、新しくロシアの大統領に就任するプーチン氏の発言によって、日ロ関係に新しい展望が開ける可能性も出てきました。領土問題を日ロの間で引き分けにするというプーチン氏の発言は、今までのロシアの発言に比べれば、確かに期待を持たせるものであります。ただし、プーチン氏の発言が、歯舞、色丹二島を日本側へ引き渡すのではなく返還することをもってロシア側の譲歩とする、つまり二島返還をもって領土問題を最終的に決着させるということを示唆しているのであれば、日本側ももちろん乗れるはずもなく、交渉の前途は容易ではありません。しかし、日本との関係を打開したいというプーチン大統領の姿勢に日本側もこたえ、新たなアプローチを探すということは日本の国益にもかなうものと信じます。  北朝鮮について申し上げたいことはございますけれども、時間の関係で省略をいたします。余り楽観的な見通しは持てないということであります。  最後に申し上げたいのは、日本は、国土は狭隘で資源もなく、少子高齢化が進んでいる。その日本にとっての唯一の活路は、海外とのかかわりにあります。日本が国際社会で生きていくためのスペースを安定的に確保していくためには、リスクを国際社会とともに分担し、平和と繁栄のために具体的な形で世界に貢献する国になることがどうしても必要です。要は、日本が国際社会から真の仲間として受容されるかどうかということです。  日本に決定的に欠けているのは多様性です。現在の世界は、世界中の多様な才能と人材と技術と知見が集まって、それらの切磋琢磨によって新しい展開と進歩が生まれてくるという時代にあります。多様な人材と資質は、日本が国際社会への責任を果たすことで初めて日本に集まります。そうした多様性の包摂をするときにのみ、日本の将来の展望が開けてくると信じます。  以上でございます。
  108. 石井一

    委員長石井一君) ありがとうございました。  次に、村田公述人にお願いいたします。村田公述人
  109. 村田光平

    公述人(村田光平君) このような場で発言させていただくことは大変光栄に存じます。  今日ここに参りますに当たりまして、特に皆様方に訴えたいことがございます。それは、いかに現在、日本そして世界が危機的状況に直面しているかということであります。  人間社会が受容できないこの原発のもたらし得る惨禍のリスク、これはゼロにしなければならないということを、私は福島事故は全世界に想起させつつあると信じております。そして、このような事故を体験しながらなお脱原発にちゅうちょするというのは、倫理の欠如というそしりを免れないと私は考えております。  特に、処理方法がいまだ発見されていない核廃棄物、これに象徴されるのは、この今の世代の倫理の欠如と言えると思われます。そして、これは人類の緊急に取り組まなければならない課題だと信じております。そして、放射能汚染とこれを許すあらゆる行為は、計り知れない害悪を永久に人類と地球に残すものです。私が出席した二〇〇五年のOBサミットは、最終文書で、未来の世代を含む全ての人に認められるべき人権ということで未来の世代の人権を認めているわけですが、放射能汚染はまさにそれをじゅうりんするものであります。  特に今日皆様に伝えたいのは、福島四号機の危険な状況でございます。  毎日、日本全ての国民は、余震が起きるたびにおびえております。この燃料プールがもし崩壊して千五百三十五本の燃料棒が大気中で燃え出した場合には、果てしない放射能が放出されると。もうもちろん東京は住めなくなるわけです。この千五百三十五本という数字は実は控えめでございまして、つい数日前、私は発見した数字がございます。それは、一号から六号共有のプールがございまして、それは四号機から五十メーター離れたところでございますが、そこに何と六千三百七十五本の燃料棒が収められているということであります。まさに、この四号機が事故を起こせば世界の究極の破局の始まりと言えるわけであります。  それにもかかわらず嘆かれるのは、危機感の欠如であります。この対策として考えられている燃料棒取り出し作業の開始が年末以降ということは断じて理解できませんし、放置してはならないと考えております。国の責任が極めて重要だと信じます。  この点に関しまして、ついにアメリカが動き出したようであります。数日前入った情報によりますと、著名な核科学者が中立の評価委員会の設置の提唱を始めました。そして、上下両院の軍事委員会に米軍の命の安全のための公聴会を開くように働きかけ出したということでございます。  次に、日本から世界の究極の破局にもたらし得るものとして指摘できるのが六ケ所村の再処理工場であります。  この六ケ所村の再処理工場につきましては、一九七七年の一月十五日、毎日新聞が記事を書いております。これによりますと、ケルンの原子炉安全研究所の発表では、極秘レポートでありますが、西ドイツの人口の半分、三千五十万人が死ぬであろうという報告であります。そして、この再処理工場の恐ろしさは、実はヨーロッパでも、シェルブールの雨傘ならぬシェルブールの停電事件としてグーグルですぐ出てまいりますが、欧州全土を滅ぼし得るものだったと言われております。この再処理工場の危険性を私は内外に伝えておりましたところ、先週、欧州の代表的な環境学者、フォン・バイゼッカー教授から、そのお伝えを正式に支持するという連絡が入っております。  日本は、福島事件を経験しまして、民事、軍事双方の犠牲国となった、核使用の犠牲国となったわけでありますが、悲しいかな、今や世界的規模の放射能汚染の加害国にもなってしまっております。毎日いまだに毎時一億ベクレル近い放射能が出ているということを先ほど東電で確認いたしました。〇・七億ベクレル毎時でございますが、おびただしい量の放射能が出ているわけでございます。これを聞くにつけ、私はメキシコの原油流出事件がとどまらないときに戦慄を覚えたのを思い出しております。まさに、原油ならぬ放射能が同じような状況に置かれているということであります。  私は、福島を経験した日本は、民事、軍事を問わない真の核廃絶を世界に伝える歴史的責務を担っていると信じております。そして、私が今まであちこちで講演する際、この主張に対して異論を唱える人は皆無でありました。そして、このような危機的状況、そして福島ではまさに事故当初、作業員の全面撤退を考えられていた。もしその全面撤退が行われていれば、確実に世界の究極の破局の第一歩が始まっていたわけであります。このような認識が世界に正確に伝わるならば、この脱原発というものは非常に早い時期に世界的に実現し得るし、また、そうしなければ今の危機的状況を回避できないと、そのように私は信じております。  私は、そういう中で一つの希望を与えてくれるものは、お配りした資料に書いてあります天地の摂理であります。天地の摂理は、人類と地球を守る、これが悠久の歴史から導き出される歴史の法則であると、しかし、そのためにはむごい警告を与えてきたんだと。私は、一年半前、バーゼルの核戦争防止世界会議で、次の大惨事は核惨事であると、もしこれが起これば究極の破局につながりかねないので、人類の英知を動員してこれを未然に防ごうという呼びかけを行いました。残念ながら事故は起きてしまいました。  そういう中で、こうした日本のこの事故の経験からほとばしり出る声は、ますます国際社会の心ある人からの支援の対象になりつつあります。  具体的事例を申しますと、一月ほど前、マハティール元首相から私に対しまして、いかにこの脱原発というものが正しいかと、マレーシアはその核技術、人類がまだ把握していない技術を断固拒否したという趣旨の手紙を受け取っております。  それから、福島の事故の教訓の一つとして、これからは新しい文明づくりを始めなければならないということでございますが、この新しい文明の突破口となるのが地球倫理の確立であるということで、国連倫理サミットの開催というものを呼びかけているわけでございますが、これに対しまして、今月に入りまして、潘基文国連事務総長から私に手紙がありました。そして、加盟国が国連総会にこの問題を、議題を提出すれば喜んで支持するという手紙をくださいました。そして、アメリカのルース大使を通じまして、私たちがやっているこの国連倫理サミット、それから今の文明をこの母性文明に変えると、力の父性文明を和の母性文明に変えるというこういう努力は、オバマ大統領の提唱した核兵器なき世界のビジョンが、そしてそのために力を合わせていくことがいかに大事であるかということを想起させるものであるとして、私に感謝の意を表明する手紙をくださっております。  そして、この核廃絶、真の核廃絶、民事、軍事を問わない核廃絶、これは福島事故を契機に具体的な動機ができました。それは何かといえば、日本は、もし核廃絶が実現せず中国がおびただしい数の原発を造る場合には、黄砂だけでも被害者が出てしまいます。これは何としても防がなければならないわけであります。  それから、福島事故がもう一つ立証したことは、いかに原発・核テロが容易であるか、水と電気を止めればいいと、そして防護されていない冷却・燃料プール、これさえ襲えばいいという、そういう事実を世界に知らせてしまったということで、核保有国にとりましても、核廃絶というものは重要な実質的な動機を与えられたということであります。  そして、私は今までの経験から、核を進めようとしているフランス、インド、アメリカ等がこのような核廃絶を求める運動に対して理解を示していると。中国ですら、私に天津科技大学の名誉教授という称号を与えました。それからフランスは、昨年の国際日に私を招いてくれましたし、アメリカは先ほどのルース大使の書簡がありますし、インドの前石油大臣は私にエールを送ってきております。パチャウリIPCC議長もしかりであります。  このように、私は、核を推進する国に対する最大の貢献は、その国を核の恐ろしさに目覚めさせること、これこそこういった国々に対する最大の貢献であると、そのような信念の下に活動を続けております。  そして、特にこの際、皆様、福島四号機の危機的状況、再処理工場の恐ろしさ、こういったものについて是非必要な危機意識を持って、これからその対処に急いで、緊急に、もっと国が責任を持って対処、対応できるような体制づくりに是非御尽力いただきたいと思います。  以上であります。
  110. 石井一

    委員長石井一君) それでは、これより公述人に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  111. 外山斎

    外山斎君 民主党の外山斎です。  今日は、公述人皆様、貴重な意見ありがとうございます。  それでは、まず初めに村田公述人に御質問をさせていただきます。  先ほど、福島第一原発の四号機が大変危ないというお話がありましたが、私たちも、震災発生後また原発事故が発生した直後から、この四号機の問題に関しては大変危ないんじゃないかというふうにいろいろ議論をさせていただいております。  その中で私ずっと思っているのが、この福島第一原発の四号機の問題というのは、多分全ての日本全国の原発に同じような状況というのが起こる可能性というのがあるのではないかなというふうに思っております。ただ、残念ながら、我が国はまだ最終処分場も含めて使用済核燃料の処分場は決まっておりませんが、今この四号機と同じような核燃料プール、ほかの地域のですけど、それをどのようにやらなければ、対応しなければならないというふうにお考えでしょうか。
  112. 村田光平

    公述人(村田光平君) 御指摘のように、全ての原発に共通の問題でありまして、余り知られていない事実は、これから数十年にわたって厳密な管理をしていかなければ大惨事が起こり得ると、そういうことでございます。  そういう中で、私が二つを特記しましたのは、この二つは世界全体に即及び得るという点で早急の対応を必要とする、緊急の対応を必要とする、そういう趣旨でございます。  それにしても、それにしても、何と、未来の世代の立場から代表を志してきた者の立場からしまして、この廃棄物に象徴される倫理の欠如、これは本当に真剣に反省しなければならないと、そのように信じております。
  113. 外山斎

    外山斎君 お答えありがとうございます。  六ケ所の問題もあるわけですけど、核燃料サイクル、私はこれはどちらかというと、大変今厳しい状況に置かれているのではないかなというふうに思っております。ただ、しかしながら、先ほどの質問とも重なるのかもしれませんが、どんどんどんどん使用済核燃料というものは増えてきております。しかしながら、この最終処分場というものが全くこの国にはない中で、最終処分場の候補地として手を挙げようかなとすると反対の住民運動が起こる。ただ、これを外国に持っていけばいいとかという話もありますけど、私はそういう無責任なことはできないのではないかなというふうに思っております。  どのように、この最終処分場を含めて、我が国としては解決をしていかなければならないのかというふうにどのようにお考えでしょうか。
  114. 村田光平

    公述人(村田光平君) そもそも、このような放射性物質をつくることをすぐやめなければならないはずでございます。その原点に立って物を考えなければ解決しない問題だと思います。  私は、夏までにでも脱原発政策の日本政府としての政策を確立してほしいということを私は叫んでおります。そういう政策の確立がない限り、例えば電気料金が上がるにしても、それをやれば福島のような事故を避けられるという、そういう考えであれば国民も納得して高い電気料金を払うはずでございます。しかし、脱原発政策の確立なしには解決はあり得ないと思います。  そして、廃棄物の問題もまさにそうだと思います。そして、この現状が続けば続くほど、例えば再処理工場は一日で原発が一年分に放出する放射能を出すと、それほど危険なものであります。そして、事故が起きなくても近辺に害を与えているわけでございます。  この放射能の持つ倫理性、これこそ本当に真剣に考えるべきだと思います。倫理の欠如、不道徳という問題でございます。
  115. 外山斎

    外山斎君 お答えありがとうございます。  ただ、一方で、我が国というのはエネルギー自給率が大変低い国であり、そのような中から多分核燃料サイクルの問題とか、あと原発依存の体質というものは出てきたのではないかなというふうに思っておりますが、これは村田公述人以外のお二人にちょっと御質問をさせていただきたいと思いますが、今このエネルギー自給率が低い我が国にとって、海外からいろいろなエネルギー資源を調達するという方法もありますが、ただ、一方で、やはり原発に依存しなければならないのではないかという声もあります。核燃料サイクルにしたって必要なのではないかなというふうな声もあります。  ただ、今回のあの三・一一の事故等で脱原発に対する声というものもどんどんどんどん強まってきているわけでありますが、我が国の取るべき道としてどのような形がいいのかという御意見がありましたら、教えてください。
  116. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) ありがとうございます。  私は、村田公述人の御意見とはいささか違った考えを持っております。  原発の長期的な時間を掛けての廃絶、脱原発の方向は私も賛成であります。しかし、日本が一番最初に商業用の原子炉を導入したのは一九七〇年、関電美浜でございます。そのときから電力の供給量は二三八%増えました。その過半は原子力によるものでございます。  大変に痛ましい、あってはならない事故が発生いたしました。しかし、これは四十年前の第一世代の原子炉について起こったものでございます。そのために、その後起こった、現在は三・五世代の原子炉の時代でございますけれども、全ての原子力発電を否定するのかと。  私は、それは一つの考え方だと思いますけれども、その場合には、日本は一九七〇年以前の状況に戻るということを国民に説得した上で、説明した上で、そのような決断を取らなければいけないと。確たる見通しもないまま新エネルギーという言葉だけを先行させて、そして今年の夏以降、本当に危機的な状況を招来することには私はいささか懸念を持っております。安全性の確認された原子炉から私は順次再開していくのが日本のこれから生きていく唯一の道ではないか、長期的な脱原発には賛成でございますが、私はそう思っております。  それからもう一つ海外からの化石燃料の入手、これはあらゆる外交手段を通じて確保しなければいけませんし、今盛んに言われておりますシェールガスのような非在来型の資源についても日本は確保していく、これを今から考えておくべきだと思います。
  117. 白石隆

    公述人(白石隆君) どうもありがとうございます。  三点申し上げます。  一つは、私は、現実的に考えてこれから新規に原子力発電所を立ち上げるというのは、これは政治的に、恐らくどんなに短くても二十年ぐらいはできないだろうと。ということは、逆に申しますと少し時間掛けて考えた方がいいだろうと。先ほど岡本公述人が指摘されましたように、シェールガス革命というのは現に進行中でございますし、それから再生エネルギーは技術革新が急速に進んでおります。例えば、太陽光発電の技術というのは、もう次世代の量子ドットなんかになりますと効率が物すごく上がります。ただ、まだコスト的にはとてもじゃないけど実用化にはならない。その意味で、長期のエネルギー政策というのは時間を掛けれるというのが第一点です。  二番目に、ただ、そうはいっても、現在のエネルギー供給というのは危機的状況でございまして、仮にこの五月に原子力発電所が全て止まりますと、恐らく一年間の電力の国民負担というのは二兆円から三兆円増えることになると思います。これは国民が負担します。これは是非政治の問題として考えていただきたいと思います。  それから三番目に、イラン危機というのはいつ、どういう形で悪化するか分かりません。仮にホルムズ海峡が封鎖されるというふうな状況になりますと、日本の石油の輸入というのはあそこを八五%通っておりますので、価格は高騰しますし、供給量そのものが危機的になることは容易に予想されます。そういう中で、直ちにこの問題については政府として私は対応する必要があると考えております。
  118. 外山斎

    外山斎君 お答えありがとうございました。  それでは、ちょっと質問を変えさせていただいて、TPPの方に移らさせていただきたいというふうに思っております。  先ほど白石公述人岡本公述人お話を聞いておりますと、お二人ともルール作りに参加するためにも、そしてまた、やっぱり日本の国益のためにもTPP参加すべきなのではないかなというふうに言われているんだというふうに感じますが、私は、どちらかというとこのTPPに関しては慎重な立場の人間です。どのようなメリットというものが我が国にあるのかというのにも懐疑的に思っておりますし、果たして本当に、今から我が国が参加してルールメーキングに本当に参加できるのかというふうにも感じております。  その中で、我が国としてやはりいろいろな声が上がってきているわけでありますけど、このTPPに関して、お二人の公述人が考えられるメリットとデメリットというものをもし教えていただけたらというふうに感じております。
  119. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 我が国は、農産物関税を除けば、TPP参加国の中ではというか、世界の主要国の中では最も低い関税率を持っている国であります。ということは、ほかのTPP参加国の関税がなくなるということは、日本がその中で一番得をする国になるということでございます。  TPPについてはまだ正しい姿が国民に伝わっていないと存じます。  日本の攻めの分野というのは数多くございます。本院でも、例えば投資家が参加国の政府を訴えることのできるISDS条項を根拠に、日本がこれで大変なことになるというような議論がなされてきたと承知いたしますけれども、あれは、詳しい説明は省きますけれども、日本が訴えられる可能性よりは、日本の投資家が海外に出ていく、それを保護するための条項と考えるべきだと思います。日本に対する害はISDS条項によってもたらされるものではない。そもそも、ISDSというのは、TPPによって作られたものではなくて、日本がこれまで結んできた全ての投資保護協定などに入っている話であります。  一番の問題は、やはり農産物だと思います。ただ、農産物は、先ほども申しましたように、現在、TPPとは関係なく衰退してきている。平均年齢も農家では六十七歳に近づきつつある。農家の人口も減っている。これは何とか食い止めなければいけないと思います。  私は、農家への戸別補償政策によってそれが今まで逆転することができなかったわけでございますから、もっと抜本的な政策をもって競争力のある農産物を育て、そして日本海外に打って出ていくぐらいのことをやると。農業の保護は、これは絶対に必要なことでございます。先ほども申し上げましたように、それは農家への直接支払制度をやって確保することはTPPの下で認められているわけでございます。  日本がTPPで打って出て、そして積極的に日本のメリットになるであろうことは、投資保護、サービス、知的所有権の保護、ビジネスマンの移動等々数多くあると思います。
  120. 白石隆

    公述人(白石隆君) どうもありがとうございます。  三点申し上げます。  一つは、こういう問題を考えるときに戦略的判断と戦術的判断、あるいは英語で申しますと、ストラテジックな考えと、それからいわゆるビーンカウンティングと言いますが、要するに豆数えるというやつですね、この二つを区別しておく必要があると思います。野田総理、それからオバマ大統領があのTPPについてなした決断というのは、これは戦略的レベルの決断でして、実際に交渉が始まりますと、これは交渉事ですので、あれは取るけどあれは取られたという、これは起こるのは当然でございます。これはビーンカウンティングで、ここはまさに日本の外交当局がどのくらいその能力があるかが問われる話だと。これが第一点です。  第二点目に、何がそれじゃプラスになるかと。いろんなものがプラスになります。例えば、政府調達というのが一つですし、知財もそうでございますし、先ほど岡本公述人が指摘されましたように、関税は日本は極めて低いものですから、これについてももっと、いわゆる何というんでしょうか、平たい、どこかに傾いていない競争の土俵というのが、これで日本の企業のためにできるという意味では私は非常にメリットは大きいと。  三番目に、農業につきましては、これも岡本公述人が指摘されたとおりでございまして、TPPに入ろうが入らないだろうが、このままですと日本の農業というのは死んでいきます。それをもう一遍国際競争力のある形で再生させるには、今が最後のチャンスではないだろうかと。それをTPPを前提にしてむしろ考えた方がいいんではないかというのが私の考えでございます。
  121. 外山斎

    外山斎君 ありがとうございます。  ただ、やはり我が国成長を考えていく上では、アジアの成長をどのように取り込んでいくのか、そして特に中国の成長というものをどのように取り込んでいくのかというのが重要になってくると思います。ただ、このTPPに関しては、中国はまあ関心は示しておりますけど、ただ参加する方向ではないというふうにも聞いております。  ただ、その中でお二人の公述人は、もし今後仮に日本がTPPに参加してTPPがうまくいってきた場合というのは、中国というのはいずれかのタイミングでTPPに参加してくるというふうにお考えなのか、それとも全く、やはりアメリカを中心とするTPPには中国は入らないというふうに見られているのか、お考えをお聞かせください。
  122. 白石隆

    公述人(白石隆君) どうもありがとうございます。  昨年の十一月以来明らかになりましたことは、日本政府がこのTPP交渉に参加するという決断をすることによって、日本・EUであるとか日中韓だとか、こういう、これまではどちらかというと止まっていたFTAの交渉ないしスタディーがもう一遍始まっております。だから、その意味で、日本にとっては非常にこのTPP交渉参加という決断だけでも既にいろんなバーゲニングチップは増えていますし、それを日本政府として戦略的に使えるようになっている、これが第一点です。  それから二番目に、中国は現在のところ入れるとは私は思いません。これは、特に政府調達の問題で、何しろ中国の経済の六〇%は国営企業ですので、ここの国営企業改革ということをかなり踏み込んでやらないと、なかなかTPPが求めるようなところに中国の政治経済というのは入ってこないと。だけど、それじゃずっと入らないかと。これは分かりません。中国の改革の速度というのは非常に速いものがございますので、例えば十年後にどうなっているか、これはもう全く想像できませんで、そのときに最悪の形というのは、日本は入っていなくて中国が入るという形でございます。
  123. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 私も白石公述人同様、中国は現在はまだ入れる状況にはないと思います。  思い返してみれば、中国はWTO加盟までに実に十五年掛かったわけでございますね。常にWTOからは門前払いされて、もっと自由化度を上げてから加盟を申請してこいということの繰り返しでございました。現在の中国の知財の保護や投資の受入れ、その水準からいけば、TPPが要求する水準にはまだまだ行かないわけでございます。  しかし、我々考えなければいけないのは、このTPP交渉の先にはアジア太平洋自由貿易地域、FTAAPと呼ばれるものがもう既に想定されており、そこに加盟することは、日本もアメリカも中国も皆、APECの首脳宣言で同意してきていることでございます。それが何年先か分かりませんけれども、TPPよりも更に広い範囲の諸国を含んだ大きな自由貿易圏がアジア太平洋地域にできる。そこへの道筋としてTPPとASEANプラス3とASEANプラス6の三つが想定されているわけでございます。  ただ、日本はそのいずれにも私は入ってしかるべきと思いますけれども、ASEANプラス3もASEANプラス6も中国やインドが非常に大きな発言権を持っています。今、WTOのドーハ・ラウンドが完全に暗礁に乗り上げておりますのはこの二か国が何事につけても反対しているからでございまして、このASEANプラス3ないし6を通じてFTAAPに到達することができるか、私は疑問に思っております。ですから、日本はやはり、その三つの交渉いずれに参加するとしても、TPPを重視していくべきだと思います。
  124. 外山斎

    外山斎君 お答えありがとうございました。  そのような中、先日、中国の温家宝首相が米国の企業団といろいろ話していたときに、中国と米国が自由貿易協定を構築できる日が来ると確信しているというふうに発言をされたようですが、ちょっと、これはどのようなメッセージなのかというのをなかなかちょっと私は解釈しにくいんですけれども、お二人はどのように解釈されているのかという御意見を聞かせていただけたらというふうに思っております。
  125. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 中国はAPECの様々な活動を通じて、TPPのことももちろん彼らは是認しているわけでございます。反対はしておりません。我々は常にオープンな立場でいるというのが中国の基本姿勢であります。  中国は、朱鎔基元首相が中国の国内改革を行って、どうしてもこれは自由貿易体制のネットワークの中に入らなければ中国の将来の発展はないということでWTOにも加盟したと。中国は今の経済の成熟度からいって徐々に門戸を開いていく。ですから、その行く先に自由貿易体制というのが中国にとって望ましいという認識があるのは、これは間違いないと思っております。温家宝の発言はそのようなコンテクストでなされたものだと思います。
  126. 白石隆

    公述人(白石隆君) ありがとうございます。  私、今の岡本公述人分析、考え方とほぼ同じでございますが、一つ付け加えますと、中国の外交政策としてどういう手段がよく使われるかということを見ますと、多くの場合、圧倒的に多くの場合は通商と経済協力でございます。  ですから、例えば胡錦濤主席がアメリカに行きますと、そこで非常に大規模ないろんなアメリカ製品を購入するとか、あるいは貿易を何年までにこれだけ上げるだとか、あるいは新興国に行った場合には、経済協力でこれだけの経済協力をしますとやるとかということで、今回の温家宝首相の発言もそういう観点から見て特に驚くようなものではないというふうに考えております。
  127. 外山斎

    外山斎君 お答えありがとうございました。  それでは、ちょっと防衛の方に話を移らさせていただきたいと思いますが、先ほど白石公述人の方からも岡本公述人の方からも防衛予算をしっかりと付けなければならないというようなお話がありました。  私も、今の防衛予算というのは大変足りないのではないかなというふうに思っておりますし、自衛隊の定員そのもの自体が全く足りていないのではないか。本来の本来業務という以外に、やはり三・一一以降、我が自衛隊の果たす役割というものはどんどんどんどん高まってきているという意味からも、自衛隊の増員、増強というものはしていかなければならないというふうに感じております。  話はちょっと変わりますけれども、今中国がやはり二〇二〇年までに機動艦隊を持って外洋の方に出ようというふうにしております。それが我が国にとっては若干脅威な部分もあると思うんですけど、私は、我が国の潜水艦の能力というものは非常に優秀なので、一番空母が怖いのは潜水艦だと思いますので、その潜水艦の数を増やしていったりして、もうちょっと防衛の体制というものをしっかりと取っていかなければならないというふうに感じておりますが、この中国の海軍の増強に対して我が国はどのように対応していけばいいというふうにお考えられているのか、お二人に、お聞かせください。
  128. 白石隆

    公述人(白石隆君) 三点申し上げますが、一つは、先ほども申したことでございますけれども、日米を基軸にしながら、日韓、日豪州、日本、インドネシア、フィリピン、ベトナム、インド等との海洋の安全保障協力というのを是非進めていくというのは極めて重要だろうと思います。その基軸は、だけれども、もちろん日米でございます。  それから二番目に、実は先ほども南西方面の戦略的重要性というのはこれからますます上がりますと申し上げましたが、これはまさにそういうことでございます。空母は沈みますけれども、陸にあります基地は沈みません。ですから、その意味で南西方面の基地というのは極めて重要になると。  それから三番目に、潜水艦はそのとおりでございますが、ここにおいて、日本は潜水艦については世界でも第一級の通常型潜水艦の技術を持っております。ただ、こういうものというのは日進月歩ですので、ここのところをやはりかなり資源投入して、技術分野においてやはり常に最先端を行くというのが極めて重要だろうと考えております。
  129. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 私も白石公述人とほぼ意見を同じくするものであります。  日本独りでは中国のこの増強する海軍戦略に対応することはできません。アメリカを中心に南シナ海の沿岸国を含めた広範なアジアの諸国と連携していくことが何よりも重要であります。  それから、潜水艦については是非申し上げたいことがございます。白石公述人がおっしゃったように、日本の潜水艦の能力はディーゼル機関のものとしては世界のトップレベルでありますが、これはいかんせん数が足りません。現在の十六隻体制、これは冷戦時代に宗谷、津軽、対馬の三海峡のチョークポイントに配置するための数として計算されたものであります。それに今は、南西諸島の間、あそこは四か所ぐらいでございますが、自由に航行できる幅広い国際海峡がございますから、そこも警備するということは到底不可能であります。十六隻体制は二十二隻体制に増強されることになっていますが、これは鉛筆をなめて十六隻の延命を図ったということで、基本的な予算としてはもう数年前と変わっていないわけであります。  日本の周辺諸国は全て潜水艦隊の増強に力を入れております。アメリカのヘリテージ財団の報告によりますと、韓国は二〇二五年までに現在の十二隻の潜水艦を二十六隻にする、ベトナムは現在のゼロ隻を六隻にする、インドネシアは現在の二隻を十二隻にする、オーストラリアは現在ある六隻を全てスクラップして新鋭の十二隻を導入するという中で、日本だけが潜水艦についての予算というのが余りにも少ない。対する中国は、九隻程度と見られます原子力潜水艦を含んで六十隻内外の潜水艦を擁し、これを更に二〇二五年までには七十数隻体制に持っていこうとしている。彼我の数の差は圧倒的であります。  日本は、自らの安全保障のために、潜水艦に少なくとも実質的な数の増加を図るような予算を付けていくべきと信じております。
  130. 外山斎

    外山斎君 お答えありがとうございました。  しっかりと我々としても、その潜水艦の増強に関しては力を入れていただけたらというふうに感じております。  それでは、ちょっと北方領土のお話に変えさせていただきたいと思いますが。先日、ロシアのプーチン首相が引き分けという言葉を使って北方領土問題の解決に意欲を示したわけでありますが、これを日本にとってはチャンスなのではないかというふうに言われる方も多数いらっしゃいますが、私はそんなに甘い状況ではないのではないかなというふうに思っております。  その中で、プーチン氏がまた新たに大統領に就任するわけでありますが、新しいプーチン体制になって日ロ関係はどのようになるのか、また、もし何らかのポイントがあるとすればそれは何なのかということを岡本公述人、お聞かせください。
  131. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 私も先生と同じような感じをプーチン発言に対しては持っております。  歯舞、色丹については、一九五六年の日ソ共同宣言には引き渡すと書いてあるわけでございます。これは、主権を日本に返還するとは書いていない。プーチン氏は、そこに目を付けて、いや、もう一歩進んで、引き渡すだけではなくて主権も返還しますよと、彼はもちろん今回は言っておりませんけれども、それを多分この自分の含み案として持った上での発言という感じがいたします。そうでなければ引き分けという言葉は出てこないと思うんでございますね。  ただ、これは日本国民にとってみれば、歯舞、色丹二島だけが返される形で最終決着が図られると、歯舞、色丹は、御承知のとおり北方領土全体の僅か七%であります。これは国民感情としても容認できないところであると思います。  二島プラスアルファ、何ができるのか。これは大変な難しい交渉になると思いますけれども、私はやっぱり、一九四五年以来、六十五年間も日本とロシアの間に平和条約すら存在していない、国境線が画定していないというのは極めて不正常な状態だと思っております。一刻も早くやはり北方領土問題は解決すべきだと思うんです。  日本とロシアの間には、経済的に協力していく、あるいは政治的にも協力していくいろいろな潜在的な利益があると思います。ですから、今度のプーチン発言が基本的には日ロ関係の改善、それを前に進めようというものでありますから、私はそこのところは日本もこれに呼応していくべきだとは思っております。
  132. 外山斎

    外山斎君 お答えありがとうございました。  それでは、またちょっと質問を移らさせていただきたいと思いますが、先ほど、岡本公述人が公述の最後の方に、北朝鮮の問題にも触れようと思ったがということを言われたんで、ちょっと北朝鮮についてお伺いをしたいんですが、金正恩体制になってどのようになるのかなというのが大変私は危惧をしております。  今度の四月に金日成生誕百周年が行われるわけでありますが、それまでは体制としては続くのではないかなというふうに感じておりますが、それ以降というものは大変不透明な部分があるのではないか。若い指導者だということと、また権力の移譲にそんなに時間が掛けられなかった。そのような中でいろいろなことが起こり得るというふうに感じておりますが、北朝鮮、どのようなことが起こり得るというふうに今の時点でですけれどもお考えでしょうか、お聞かせください。
  133. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 先ほど白石公述人は、北朝鮮に関して無頼国家という言葉をためらいながらもお使いになりました。私も同感でございます。  金正恩氏は、若くしかも外国留学経験もあるということで期待感も強まっておりますけれども、しかし、彼はまず軍部に対して自分の権威というものを確立しなければいけない。それは、一つには父親の金正日氏のやったことを最大限顕彰、褒めたたえていくこと、もう一つは、父親がやったようにテロ活動を続けるという可能性もあるわけでございますね。  金正日氏は、一九七〇年代の前半に後継の指導者に指名された後、一九八三年にラングーン爆殺事件を起こし、一九八七年に大韓航空機事件を起こし、そういう強硬な政策を軍部に見せ付けることによって自分の地位を固めてきた人であります。金正恩氏が、ちょうどここ最近も延坪島の砲撃あるいは哨戒艦の天安の撃沈、こういう大変に乱暴な行動を北朝鮮がやってきましたけれども、それと同じようなことをやるという可能性は私は排除されないと思うんでございます。  その場合に非常に心配になりますのは、韓国がもはや忍耐の限度を超しているということでありまして、今度は、韓国に対して北朝鮮からのテロ活動が行われれば、大規模な報復が北朝鮮に対して韓国から行われる可能性もあると思います。  私どもとしては、不測の事態にいつでも対応できるように、ミサイル防衛網の整備等を米国と協力しながら進めていくということがまず重要になろうかと存じます。
  134. 外山斎

    外山斎君 お答えありがとうございます。  それで、ちょっとお尋ねしたいのは、仮に金正恩体制に統治能力がなくなったというような事態が起こった場合、軍の反乱等、また民衆の反乱等で、何をもってその統治能力を失ったというふうに我が国は判断をすればいいのか。例えば、金正恩の消息が分からなくなったとか、北朝鮮との外交ルートがもう全くつながらなくなったとか、いろいろあるとは思うんですけれども、そしてまた、そのような事態になったときに我が国としてはどのような対応を取るべきなのか、どのようにお考えなのかお聞かせください。
  135. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 時間もございませんので一言だけ申し上げますけれども、先ほども申しましたけれども、東アジア地域の混乱に対して我が国は独力で対応する能力は持ちません。韓国、アメリカ、そういった国々と緊密に協力して対応していくしかないと思います。北朝鮮の体制がいつをもって終えんしたと見るか、混乱したと見るかは、これは時々の状況によって分かりません。  しかし、指導部の間で大変な粛清事件が相次ぎ、そして北朝鮮の対外的な行動が統制されないまま外にいろいろな形で出るようになったときは、私は北朝鮮の混乱の時期だと思っております。
  136. 外山斎

    外山斎君 もう時間が来ましたのでこれで質問を終えますので。どうもありがとうございました。
  137. 青木一彦

    青木一彦君 自民党の青木一彦でございます。  今日は、公述人の皆さん、お忙しい中、本当にありがとうございます。  私は、前防衛大臣が安全保障に関しては自分は素人であるとおっしゃっておりましたが、私も外交防衛に関してはずぶの素人であります。国民の皆様方に分かりやすく質問をいたしたいと思いますので、どうか先生方にも分かりやすくお答えいただきますようお願いを申し上げます。  まず、岡本公述人に質問をいたします。  まずは普天間の問題であります。先日、マスコミ報道によりまして、普天間基地の補修工事を行うという報道がなされました。私もその件について防衛省に問合せをいたしました。防衛省では、現在日米間で協議中のことなので答えは控えさせていただくとのことでした。今、普天間基地を補修するということが、何か普天間の固定化というメッセージにつながるんではないかと私は危惧をいたしておりますが、御意見をお伺いいたしたいと思います。
  138. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 在日米軍施設を日本が米軍に提供するのは、日米地位協定第二十四条の下での日本政府の義務であります。当然、日本政府は普天間の補修をするべきだと思います。それは住民のためにも、それでは日本が補修工事を放棄して危険なまま放置しておくのかということにもなりますから、住民の安全のためにも、私は、そのことは普天間の固定化という懸念の問題とは全く別のこととして、粛々としてやっていくべきだと存じます。
  139. 青木一彦

    青木一彦君 私もこれはマスコミ報道等だけで知ったことですが、何かやっぱりマスコミ報道を見ましても、あえてそういうものを持ってきて固定化につなげる、そういう私も気がいささかいたしております。  しかし、宜野湾市の市長選、二月に行われました。これは我が党そして公明党さん推薦の新しい市長さんが誕生いたしました。市長さんは、普天間の早期返還ということを表に立てて戦われました。この辺のことを白石公述人、そして岡本公述人、どのようにお考えか、御意見をお伺いいたします。
  140. 白石隆

    公述人(白石隆君) 二点だけ申し上げますと、普天間というのは、行けばもう歴然でございますけれども、極めて危険なところにある基地でございまして、これを固定化するというのは決して賢明ではないということは間違いないと思います。  ただ、これが二点目ですけれども、今、沖縄の人たちの間では、この基地の問題をめぐって、非常に中央に、政府に対する不信感が深まっているということも事実でございまして、これをきちっと理解を求めながら現実的な方策を探るもうタイミングに達しているんではないかと私は考えております。
  141. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 御質問に対するお答えでございますけれども、かつて沖縄では、基地の県内容認やむなしとする保守的な意見が三分の一、中間派が三分の一、絶対反対するという、革新側といいましょうか、反対派の意見が三分の一でございましたけれども、しかし、鳩山総理大臣が最低でも県外とおっしゃったことによって、ああ、日本の一番上の人が県外と言った、自分たちも言っていいんだということで、それまでは、自分は基地を県内に受け入れるのは嫌だけれども、しかし日米安保があるじゃないか、日本の安全のために仕方がないじゃないかと説得してきた保守の人たちも一斉に県外ということを言えるようになったわけでございますね。ですから、さきの宜野湾市長選挙の佐喜眞市長も、当然県外ということを言うようになった。そのことによって、基地問題についての保革の対立点というのは前よりは相当縮まってきたというのが沖縄の現状だと思います。  しかし、それは取りも直さず沖縄の県民の一〇〇%近いところでもう反対論が根付いたということでございますから、私は先ほどの公述でも申しましたように、普天間を辺野古沖に移設するというこの案は、もはや現実的ではなくなってきているのではないかと思います。
  142. 青木一彦

    青木一彦君 岡本公述人に御質問しますが、例えば、先ほど先生、普天間から辺野古は無理だというふうにおっしゃいました。本土移転を含めて、何かここでやっぱり知恵を出さなければいけないと思います。何か御示唆いただきたいと思いますが、よろしくお願いいたします。
  143. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 私も先生のおっしゃるとおりだと思います。  普天間だけを本土に移設するということは、これは無理でございます。普天間飛行場は沖縄に展開しますアメリカ海兵隊の足としてあそこにあるわけですから、足だけをちょん切って本土にそれをぺたっと張り付けるわけにはいかない。そうすると、可能なのは、沖縄の海兵隊全体を本土に移すということでございます。今の規模では無理でございましょう。ですから、長期を掛けて、たとえ二十年掛かっても、沖縄の海兵隊の規模をもっとコンパクトにした上で本土に移す。現在、有名な数字でありますけれども、面積でいって米軍基地の七五%が日本全体の〇・六%の面積しかない沖縄に集中しているというのは不正義であります。これは時間を掛けても本土に移すという方向性を私は出すべきだと存じます。  そのことによってのみ、沖縄の人たちも、自分たちがしょっていくこの海兵隊の飛行場問題というのは時限的なものなんだと、本土がやがてそれを引き取ってくれるんだということを知ることによって、私は初めて交渉のテーブルに着いてくれるんではないかと思っております。
  144. 青木一彦

    青木一彦君 先ほど岡本先生、不正義だというお言葉を使われました。私、ある先生の対談を読んでおりまして、やっぱりこの言葉が目に付きました。この不正義という言葉、非常に私、重い言葉だと思います。  そういう意味で、沖縄の県民の皆様方の気持ち、それを踏まえて先生は超党派でとにかく本土に移さなきゃいけないということをおっしゃっております。それについてもう一言、御意見をお伺いいたしたいと思います。
  145. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 本土で候補地が見付かるか、これは大変に難しゅうございます。しかし、これは私は国の責務としてやっていくべきことと存じます。本土の地方、特に経済的に非常に展望のなくなってしまった村々、町々においては、自衛隊の基地の招致運動というのが盛んでございます。現在の海兵隊、戦闘部隊はまだ一部残りますが、グアムに基本的に移転される。私は、海兵隊の司令部機能を本土に移す。年齢的にも年配の人たちが多く、多くは家族連れの部隊であります。二十年掛ければ私は本土に適地が見付かると思っております。  今の不公平の発端というのは、元々、沖縄に米軍基地が多かったせいもございます。返還のときに非常に多かった。しかし、問題はそれから先でありまして、本土の米軍基地は沖縄返還後、六五%削減されました。沖縄の基地は僅かに一五%しか削減されておりません。我々本土の人間たちが自分たちのことだけを考えて、そして身の回りをきれいにし、残りを沖縄に押し付け続けてきたと言われても私は仕方がないと思うんでございますね。  そこは何十年、私、先ほど二十年という言葉を使いましたけれども、長期間掛けてもこの政策というのは私は転換させなければいけないと思っております。本土に引き受けて沖縄の基地を減らすということで、初めて行って来い方式で先ほどの七五%という数字が下がっていくわけでございます。
  146. 青木一彦

    青木一彦君 先生の今の中で、お話にも出ておりましたが、自衛隊のお話、先ほど先生がおっしゃった中で、自衛隊もやはり強化をしていかなければいけないというふうに私はお話を伺いました。  その中で、先生もおっしゃいました防衛大綱、自衛隊の予算は毎年毎年削減。しかし、今度の防衛大綱を見ますと、軍備は増強する、特に海の方の軍備は増強するというふうに書いてあります。この辺、まだ具体的にどこの人員をどれだけ減らすかということははっきりと書いてはございませんが、もし人員を減らして、そして軍備を増強するということになれば、ちょっとそれで大丈夫かなと私は危惧をいたしておるところでございますが、先生のお考えをお伺いいたしたいと思います。
  147. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) これは先ほど白石公述人もおっしゃっていましたけれども、軍備を増強するといっても、正面装備を購入する予算は年々かなりのスピードで減ってきております。その分、補修と修理に金を使わなければいけないという状況であります。  人員は、自衛官の定数をもってすらこの国の規模に比べれば極めて少ない。タイやミャンマーの軍隊よりもはるかに小さい実力部隊で日本の防衛を全うするということは非常に難しゅうございます。今はそこの部分をアメリカとの同盟関係で辛うじてつなぎ止めておりますけれども、しかし、日本の自衛隊をもっと増強する必要は私はあると思います。  もちろん予算制約は存じております。しかし、毎年毎年、主要国の中で日本だけが一方的に減らしてきているということが、やはり周辺諸国に対する日本の抑止力の低下というメッセージとなって表れている。この低下のトレンドというのは早く元に戻して、一刻も早く、微増でもいいですから、また増加の方向に向かうというふうにすべきだと思います。
  148. 青木一彦

    青木一彦君 同じ質問を白石公述人にもお願いいたします。
  149. 白石隆

    公述人(白石隆君) 防衛大綱にございますように、動的防衛力ということで、基盤的防衛力という考え方をやめて動的防衛力という考え方に移り、これでもって私としては特に陸と空の防衛力を増強するというのが今回の防衛大綱の基本的な考え方だろうと、これは正しい方向であろうというふうに考えております。  同時に、人員の方ですけれども、これはやはり、人員というのはある水準の人員は必要でございます。ただ、日本の場合には、先ほどミャンマー、タイという言葉が出ましたけれども、そういうところの、少し妙な言い方をしますとレイバーインテンシブな軍隊ではなくて、あるいは自衛隊ではなくて、キャピタルインテンシブな、それを動かせるような人員が必要でございますので、そこのところをやはり手当てするためにも、防衛予算というのはこれ以上容易に削れるものではないというふうに考えております。
  150. 青木一彦

    青木一彦君 今年の四月二十八日、我々の自由民主党では、サンフランシスコ講和条約六十年ということで憲法草案を提出いたします。そして、この中ではっきりと自衛軍を持つということを明記することになっております。  岡本先生、そして白石先生にお伺いいたしますが、自衛軍を持つということに対しどのようにお考えなのか、お伺いいたしたいと思います。
  151. 白石隆

    公述人(白石隆君) どうもありがとうございます。  私、先ほども申し上げましたように、安全保障の基本は自助と共助でございます。自助というのは自衛でございまして、自衛軍というのは、まさに現在の自衛隊が本来期待されている役割を果たすのであれば、これは自衛軍であるべきだと考えます。
  152. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 自衛隊は実態的には軍であるというのは、これはもう全ての人の共通認識ではないでしょうか。  しかし、そのような言葉の問題に私は余り多く時間を使うよりも、まず現在の自衛隊が課されております桎梏、制約というものを本来の形に戻してやるべきだと。言うまでもなく、集団自衛権に対する過酷なまでの制約であります。北朝鮮がサンフランシスコに向かってミサイルを発射する、我が国はそれを撃墜することもできない。日本の自衛隊の船とアメリカの海軍の船が共同演習しているときにアメリカの船が敵艦の攻撃を受ける、自衛官はそれに対して発砲することもできない。いわゆる集団自衛権、安倍内閣のときに四つの類型に分けて、そしてそれを改正すべきだということが提議されました。私はまずはそこから始めるべきだと思うんでございます。  憲法改正の御努力というのは大変に貴重なものだと思います。しかし、その前に、あるいはそれと並行して、日本の国家が自衛隊という、私は専守防衛のところを変える必要はないと思いますが、その専守防衛がきちんと効率的にできるような形にしていただきたいと思います。
  153. 青木一彦

    青木一彦君 今、防衛費の予算が出ました。例えば日本の防衛費、先生方、少しでも、微増でも上げろということですよね。アメリカは、米軍は軍事費というものを削減の方向にあると私伺っておりますが、この辺のことをお話しいただきたいと思います。
  154. 白石隆

    公述人(白石隆君) おっしゃるとおり、削減の方向にございますが、例えば昨年十一月にオバマ大統領が豪州議会で行った演説の中では、アジア太平洋における軍事的関与のレベルは下げない、予算的措置においてもそこのところには触らないということを言っておられます。ですから、その意味で、かなり戦略的にめり張りの利いた軍事力の削減案になっているのではないかというふうに理解しております。
  155. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 米軍の軍事費削減の方向はこれは周知の事実であります。日本も、それでは削減できるのかと。日本のGDPに対する防衛予算の比率は世界で何と百三十番目から百四十番目の間でございます。年によって変化が違いますが、日本は世界の中でも圧倒的に防衛負担の少ない国であります。  その少なさが、先ほど来申し上げていますように自衛官の実員をどんどん切り込まなければいけない。東日本大震災の際には、十万人という貴重な自衛隊員が投入されました。すばらしい成果を上げてくれましたけれども、本来、実力防衛部隊の半分近い人数を投入することになるというのは、いささかあってはならないことだと思うのであります。それは、やはり日本の自衛隊の規模が小さ過ぎるからだと私は思います。これ以上の削減ということには是非歯止めを掛けて、そして反転して増加の方向へ持っていくべきだと思います。過去十年間、防衛予算が毎年毎年削られてきた、それは早く元の水準に戻すべきだと思います。
  156. 青木一彦

    青木一彦君 そして、先ほど来お話が出ておりますが、アジアにおいての中国の台頭、私、これもあるもので読みましたが、岡本先生が、日米安保はアメリカの国防の戦略に必要不可欠な構成要素ではあるが、日本が考えているほどにアメリカは日本を必要としていない。大変ショックを受けました。  こういう中で、アジアにおいて、当然日米同盟、これが基軸です、日米安全保障、その中で台頭する中国との関係、先ほどもお話出ました、いろんな形で経済交流を含めて、言葉は悪いですが、上手に付き合っていくことが必要だと私も思っておりますが、その中でどういう日本が立ち位置を取ればいいのか、もしここで何かそのいい知恵でもあれば、白石先生そして岡本先生にお伺いいたしたいと存じます。
  157. 白石隆

    公述人(白石隆君) 三点申し上げます。  第一点、一番重要なことは、関与と抑止という言葉がありますけれども、一方で関与しながら、つまりエンゲージしながら一方で抑止する、あるいはヘッジする、リスクをヘッジする、これが基本的な考え方だろうと思います。  二番目に、その上で、ヘッジする上で、あるいは抑止する上で重要なことは、先ほどから申し上げております安全保障における自助と共助でございまして、日米同盟というのは、アメリカの方から見ますと、日本が頼れるというときに初めて成立するものでございます。ですから、自助なしの共助というのはあり得ないというのが二番目のポイントでございます。  それから三番目に、そうはいっても、日本にとって最大の貿易相手国は既に中国になっております。ですから、残念なことにアジアでは安全保障の方ではアメリカを中心とした安全保障の仕組みの中に中国が入っていない、経済の方ではだけども中国を抜きにしてこの地域の経済というのは回らない。つまり、この間に実は緊張があるわけでして、これはなくなりませんので、これをどうやってマネージするかというのが実は日本外交の非常に重要な課題なんだというふうに考えて、ここはもう腹くくって管理するしかないんだというふうに考えております。
  158. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 青木先生が今読み上げられた文章、すなわち、アメリカは日本が考えているほど日本を必要としていないんだと私が書いたというのは、私自身もショックであります。  いつごろ書いたものかは知りませんが、私は書いたとすれば、それは軍事的にアメリカは日本がなくても存立し得る、自己防衛能力を完結的に持っているからであります。日本は今、日米安保を離れれば専守防衛の国でありまして、相手方からの攻撃に対して十分対応する能力を持っておりません。  それからもう一つ日本にとってはアメリカは唯一の同盟国であります。日本が攻撃を受けたときに救援に立ち向かってくる法的義務を持った国としてアメリカは日本にとっての唯一の同盟国でありますが、日本はアメリカにとって四十数か国の防衛同盟国のネットワークの一か国にすぎない、そういうことを申し上げたかったんだと思います。  台頭する中国に対しては、もちろん今、白石公述人がおっしゃったように、経済的にも、それから国民交流、文化交流、非常に厚みのあるものを構築していくべきと存じますが、しかし安全保障はまた別であります。  先ほど来申し上げていますように、日本は一人では中国に立ち向かうことはできない。この間、尖閣で中国漁船が海上保安庁の船に体当たりしてくる事件がございましたけれども、そのときに中国は大変に強硬に謝罪と賠償を日本に要求したわけであります。しかし、クリントン国務長官が尖閣は日米安保条約の対象に含まれると言った途端、中国はその居丈高な姿勢を一切引っ込めまして、賠償とも謝罪とも言わなくなりました。中国にとってみれば、日本との関係悪化しても痛痒を感じないが、アメリカとの関係悪化だけは困るという基本的な事情が背後にあるんだろうと思います。  ですから、さきにもお答えしましたとおり、日本はアジアの海洋国家群との連携を密にしていくべきでありますが、やはりその中心はアメリカになるべきだと思います。
  159. 青木一彦

    青木一彦君 今、先生お話しされました国境離島、私は地元が島根県であります。島根県は竹島を抱えております。先ほど来お話がある中で、例えば国境離島に自衛隊の分屯地を置くとか、何かしらやはり手だてを打っていかなければ、私はなし崩しになってしまうんじゃないかという危惧を抱いております。  その辺を含めまして、白石先生、岡本先生の御意見を伺いたいと思います。
  160. 白石隆

    公述人(白石隆君) 実は、南シナ海を見ますと、フィリピンであるとかベトナムは、一種の、英語でポイズン・シュリンプというふうに毒を持ったエビというふうな言い方もしますけれども、非常に小さい部隊を離島に置いて、中国が実力でその実効的支配を打ち立てようとするとこれが戦争行為になるという、そういう戦略を取っております。これはもうやっぱり小国の場合にはこういうことをやらざるを得ないんだろうと思います。  日本の場合に果たしてそれをすることが賢明かどうかということは、これはかなり政府として慎重に検討した方がいいと思いますが、鍵はやはり実効的支配ということでございますので、海上保安庁及び海上自衛隊の力、能力によって実効的支配が維持できるのであれば、それがやっぱり正道であろうと、その上で必要な場合には先生が言われたような措置も考慮に値するんではないかというふうに考えております。
  161. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 例えば、尖閣への自衛隊の駐留というのは、現在の日中関係から見ればいささか刺激的に過ぎるやり方だと思います。それ以前に、海上保安庁の能力を抜本的に増強して、そして国土を保全する、防衛する意思をきちっと中国に伝えるということがまず先決であろうかと存じます。  中国は、これまで軍事的な空白ができるとそこに押し込んできました。アメリカが、七四年でございますが、ベトナムから撤退いたしますと、それまでベトナムと係争していたスプラトリー諸島を軍事制圧いたしました。その後、アメリカに代わってベトナムに入ったロシア、これも一九八〇年代の半ばに撤退いたしますが、そうしますと、中国はすかさず、これもベトナムと争っていたジョンソン環礁をベトナム側に七十名の戦死者を出させて軍事的に奪取をいたしました。九二年にはアメリカがフィリピンから撤退いたしました。その二年後には、中国は、今度はフィリピンと係争していたミスチーフ環礁を軍事的に掌握をいたしました。ですから、仮にも沖縄が不安定化してくる、米軍がそこから撤退せざるを得ないような状況になってくれば、中国は私はすかさず尖閣あるいは第一列島線周辺のプレゼンスをうんと強めてくると思います。  そのような意味でも、先般来同じようなお答えになりますけれども、私はまず、アメリカとのきちっとした関係を維持していくことがまず先決だと思っております。
  162. 青木一彦

    青木一彦君 例えば、北方領土の日というのがございます。これは、私調べましたら、二月七日です。昭和五十年に、返還運動の高まりから各団体が決議をし、そして、昭和五十五年に衆参で全会一致で決議をなされました。私ども島根県では、これ悲しいかな、県が、県議会が竹島の日というものを二月二十二日に採決して、竹島の日を条例化いたしました。竹島も含めまして、領土というもの、もし何かあれば、やはり領土の日なり国会で決議して、そういうメッセージを送る必要があるんではないかと私は考えておりますが、この辺をお伺いいたしたいと思います。
  163. 白石隆

    公述人(白石隆君) 領土の問題というのは、領土紛争の問題というのは、国民的にも非常に分かりやすい問題でございまして、ともすればナショナリズムが高揚して、国内政治的に非常に難しいことになって、それで、本来であればもっと良好に維持できる外交関係がささくれだったものになるという、そういう別の側面もございます。  ですから、竹島の問題について、私は、日本がこれは日本の領土であると主張することはこれは当然のことでございまして、韓国政府が言うように言うことすらけしからぬというのも、これはもういかがなものかと思いますけれども、日韓の関係というのは、それ以外にもいろんな問題というか、課題も、共通利益もございますんで、その辺はやはりバランスを取って考えた方がいいんじゃないかと。ただ、常にこれは日本の領土であると我々は考えているということだけは主張するということだろうかと思います。
  164. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 私も白石公述人とほぼ同じ意見でございます。島根県議会が竹島の日を議決されたのは、私は当然のことと思います。日本政府は竹島を固有の領土と言うのであれば、それをもっと私は韓国政府に言ってくるべきだったと思います。どういう形か、国際司法裁判所への提訴、これは韓国側が応訴をいたしませんでしょうから実際には実現しないかもしれませんが、世界に向かって日本は国際司法裁判所にこれを持っていくんだということを言い続けるべきだったと思います。  最後にそれを韓国政府に提起したのは、一九六〇年代の小坂善太郎外務大臣のときであります。それを最後に、もう日本は一切国際司法裁判所のことは言わなくなっている。国際裁判所へ提訴するということは、えっ、これは日本の言い分も聞いてみなきゃいけないんじゃないか、日本にも何か応分の理屈があるのじゃないかということを国際社会及び韓国国民に知らせる効果があると思います。  それから、もう一つ、韓国との関係では、これも白石公述人がおっしゃったように、重層的ないろいろな問題がございます。負の問題もございます、慰安婦の問題も、歴史認識の問題も。ですから、やっぱり全体として、日韓は隣国としてもっともっと緊密化していい関係にあると思います。そういう状況が実現すれば、私は竹島問題についても韓国はもう少し冷静な対応を取ってくれるんではないかと期待いたしております。    〔委員長退席、理事川上義博君着席〕
  165. 青木一彦

    青木一彦君 ありがとうございました。  領土問題は、やはり国民の皆さんに本当にやっぱり理解してもらわなければならない私重要な問題だと思っておりますが、まだまだ認識が私は薄いと思っております。その上で、どういう形で国民の皆さんにこの領土問題のこと、ニュースになるときにはそれこそ興味を持たれますが、日常はやはり対岸の火事みたいな部分があるんですよ。この辺、何かいいお知恵でもあればお伺いいたしたいと思います。白石先生。
  166. 白石隆

    公述人(白石隆君) ありがとうございます。  これは、竹島だけではなくて、尖閣諸島の問題も北方領土の問題も非常に長い歴史がある問題でございまして、そういう歴史の根拠も含めて、やはりきちっとこれから大人になっていく中学校、高校生辺りでやはり教育していく必要があるというふうに考えております。
  167. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 冒頭の陳述でも申し述べましたけれども、日本は周辺諸国全てと領土紛争を抱えているという特異な国であります。尖閣は日本が実効支配しておりますからこれはもう守り抜くということしかありませんが、北方領土と竹島、私はその中でもまず北方領土について具体的な交渉を始めるべきだと思うんでございますね。  ロシアとの間は難交渉になりましょう。しかし、この問題に解決の糸口が付けば、やはり領土問題というのは解決できるものなんだと。世界の中で領土問題というのは数多くございましたけれども、それは非常に多くの場合、もう両当事国、紛争国同士での話合いによって解決を見てきている。日本も領土問題を解決して前に進めるんだということを国民が感じれば、私は日本にとって大きなまた展開が開けてくると思います。
  168. 青木一彦

    青木一彦君 最後に、TPPについてお伺いいたします。先ほどもお話出ておりましたが。  白石先生、岡本先生、TPP参加すべきだという立場です。まだまだ私、政府の情報開示が遅れていると思います。私ら国会議員でも、全て二十一分野、どの部分がどうなるかまだ分かりません。国民の皆さんに対してもまだまだ情報開示が足りない。こういうときに、先ほどの外交のいろんな問題含めまして、今TPPに参加すべきなのか。私はそうではないと確信をいたしております。もっと、どう……(発言する者あり)ええ、賛成とおっしゃいました、その論拠も分かりました。  その中で、国民の皆さんにもうちょっと分かってもらうためにはどういう手段がいいのか、お二人の先生方から御意見を伺いたいと思います。
  169. 川上義博

    ○理事(川上義博君) 時間がオーバーしそうですから、簡潔にお願いします。
  170. 白石隆

    公述人(白石隆君) 戦略的には、今回の日本政府のTPP交渉参加という決定は、これは正しかったと考えております。  ただ、先ほど申しましたように、ビーンカウンティング、つまり、これから交渉が始まります。その前に今どういう条件が、いろんな国から交渉参加に当たってどういう条件を突き付けられるかということが今徐々に分かっている段階でございますので、これについてはやはり情報開示は必要と思います。
  171. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 一言だけ申し上げますけれども、青木先生がおっしゃった政府の情報開示がなっていないというのは、私もそのとおりだと思います。たとえ目的が正しくても、そのプロセスの管理を政府は失敗したと思います。今分かっている情報だけでも、なぜ参加する必要があるのか、参加しない場合には日本はどういう状況に置かれてしまうのかということは十分説明できるわけでございます。政府の、私はそういう意味で反省を促したいと思います。
  172. 青木一彦

    青木一彦君 ありがとうございました。
  173. 浜田昌良

    ○浜田昌良君 公明党の浜田昌良でございます。  本日は、三人の公述人皆様、貴重なお話賜りましてありがとうございます。  お疲れかと思いますけれども、お付き合いいただきたいと思います。  最初に、岡本公述人に普天間の問題、ロシアとの領土問題、またイラン問題についてお聞きしたいと思っていますが、まず普天間の問題につきましては、先ほどのお話の中でも、辺野古移設はもう困難であろうと。時間を掛けて代替案を検討していくことは困難ではないという話もございまして、また、今までの質問の中で、二十年掛けて本土にという話もありました。  そこの件についてなんですけれども、本土といっても、先ほどお話ありましたように、単に飛行場だけの問題じゃなくて海兵隊何千名、また、それに対する訓練をする場所というのがあるわけですね。そういう意味では、本土のどこを選ぶかという、やっぱりいろんな要件が満たされなきゃいけないわけですね。その要件の中でよく言われるのが、地政学的なやっぱり位置があるのか、ないのかと。  やはり白石先生からも、西南方面のいろんな緊張感が高まってきている中で、そういう本土といっても、その本土の一定の場所に限られてくるのか。そうではなくて、最新の装備を考えれば、幅広く考えられるのか。そういう本土を考える場合の選定要件についてお話しいただきたいというのが一点目なんですね。  二点目は、この選定要件にも関係するんですが、本当に本土でなきゃいけないのか、どうなのか。我々自身、我が党は、当初は辺野古移設を推進してきた立場です。それしか解がないと思っていました。しかし、これは崩れてしまったんで、私自身も今ではもう辺野古は難しいと思っています。そのときに、最低は県外、できれば国外と言った人がいるわけですから、国外という選択肢が本当にないのか、どうなのか。これも決着付けなきゃいけないと思っているんですね。  事実、今回も八千名のうち幾つかの、四千七百名以外については、ハワイであれ、オーストラリアであれ、ローテーションするという案があります。それは八千名だけじゃなくて一万八千名、海兵隊、沖縄にいるわけですが、それ全体をそういう日本以外でローテーションするという解は、あるスパン、時間のスパンがあるかもしれませんけれども、あるのかないのかについて二点目お聞きしたいと思っています。  三点目は、もし本土を考える場合、どうしても米軍基地に対する日本人のアレルギーってまだあるんですよ。私は今神奈川に住んでいます。神奈川は沖縄に次いで米軍基地があるわけですけれども、実は、今回の海兵隊の移設に伴って、いわゆる空母艦載機が厚木から岩国に行くと。これどうなるんだという話もあったんですが、あれは、これが移駐する代わりに実は航空自衛隊が来るんですね。自衛官が来るんですよ。しかし、これには全くアレルギーはありません。  今回の東日本大震災でもそうですが、本当に自衛官の方、頑張っていただいて、また、今までPKOで海外でいろんな活動をされて本当に、幸いにして一発も銃弾を撃たずに、また、ほとんど海外で問題を起こさなかった。今アフガニスタンで米兵がいろんな問題を起こしていますけど、日本の自衛隊は全く問題を起こさなかったということもあって、日本国民は自衛官に対してすごい信頼感があるんですね。    〔理事川上義博君退席、委員長着席〕  一方で、まだ米軍、海兵隊に対してはそういう意識がない。これだけトモダチ作戦もやっていただきながら、そういう感覚の中にあって、一つの要因として地位協定の問題あると思うんですよ。もし本土に本当に考えていくんであれば、地位協定の問題についてももう一歩、二歩進めないと、日本人が米軍基地に対する意識は変わってこないんじゃないかと。  この三点について、まず普天間問題で岡本公述人から答弁いただきたいと思いますが。
  174. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 御指摘は一々ごもっともだと思います。  本土移設といっても、そうすぐ候補地が見付かるわけではないと思います。例えばと申し上げたいのはやまやまでございますけれども、具体的な名前を言った途端にどこでも大騒ぎになりますので、それは控えますけれども、私は可能性はあると思っております。  その際に、戦略的にここにいなければいけないというのは、私は、少数意見かもしれませんけれども、その立場は取りません。全体としての抑止力が損なわなければいいと。つまり、日米が合意した上で、じゃ、ここにしようということになったのであれば、これは日米の安保体制の弱化を意味いたしません。あくまでも日本がアメリカを追い出すような格好で米軍が出ていくというときに、抑止力に大きな穴が生じるわけであります。  国外へという可能性という話でありましたけれども、私は二十年と申しましたのは、その間にいろいろな戦略環境も変化するだろうということであります。全く仮の話でありますけれども、アメリカがもはや日本に海兵隊を残置しておく必要はないという、そういう戦略環境上の判断をすることだって、それはゼロではないと思います。その場合も、日米が軍事的な合理性に基づいてアメリカ海兵隊を日本から引いていくということですから、これは抑止力に穴を空けることにはなりません。今のような硬直的な考えではなくて、将来起こる動態的な展開というものを頭に入れた上での本土への移設ということを私は提案したいわけであります。  それから、地位協定でありますけれども、これは私は改正する必要は今は認めておりません。地位協定が治外法権のようであるとか、いろいろな議論が出ますが、私はこれは多くの誤解があると思うんでございますね。結局は、問題になるのは、拘置前の被疑者を日本側に身柄を拘束するか、米側に拘束させるかという問題だけであります。ここは話合いで十分解決できることだと思うんですね。  日米地位協定というのをアメリカが結んでおりますそのほかの地位協定と比べますと、日本の方が相当有利にできているところもございます。例えば裁判管轄権は、原則的に日本に公務執行上のものを除けばあるわけでございます。ドイツなどは、これはもう米軍が管轄しておる。  ですから、この拘置前の被疑者の身柄の取扱いという小さな、言わば小さな問題を提起して、それならば裁判管轄権、今、日本に有利になっているのを全部変えてくれとアメリカが言ってきた場合にどうなるのかと。私は、交渉がもうまとまる可能性もないし、実益はないと思うんでございます。今、日本側の不都合な点というのは、これは話合いによって運用で改善していくことができると思います。日本人の米軍に対する偏見というものは、私は少しずつ変わっていくものと期待しております。
  175. 浜田昌良

    ○浜田昌良君 米軍に対する日本人の偏見とおっしゃいました。そういうやっぱり印象が大きく変わってこないと、なかなか本土の問題も実現に近づいてこないのかなと思っております。いろんな知恵を引き続き探っていきたいと思いますが。  次の問題で、ロシアとの領土問題であります。  これにつきましても、プーチン大統領の返り咲きを受けて、動き出し得るかもしれないと。従来の歯舞、色丹を引き渡すという表現から、主権を返還する可能性という、非常に我々自身も望むところの話もあったわけですが、しかし、それはやはり面積七%の問題で。とはいっても、従来の二島返還論でもないんですが、とはいっても原則論だけで膠着して進まないという、この両極端でないところにいかに答えを見出すのかと。  確かに、日本国内では一歩も譲るなという、そういう意見もあるのも事実です。しかし、とはいっても解決しないのが一番問題ですから、そういう意味では、例えばいろんな議論がありました、面積で半分だとかですね。具体的な、新しいアプローチという言葉も使われましたし、日本もプーチンの呼びかけに呼応すべきだという表現も、岡本公述人使われました。どういう呼応をすべきであるか、どういうステップですね、いわゆる平和条約論も含めて、もう少しお話しいただけませんか。
  176. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 今のままでは、ロシアと領土交渉を再開してみても早晩膠着状態に突き当たると思います。プーチン大統領の時代になっても、ロシアが今までのところを大きく譲るという兆候は今のところございません。しかし、ほかの領土問題に比べますと、北方領土というのは島が四つあるだけに、そして、その返還について時間的な要素も入れることができるわけなんですね。国境線の画定だけしておいて、実際の返還は何十年後であっても構わない。川奈合意ができかかったのはそのような方式でございましたけれども、私は、これはロシア側にも解決しなければいけないという意思がある限りは、決して一〇〇%不可能な話ではないと存じます。ロシアは中国との間の国境紛争も解決してまいりました。しかし、基本的に今のように日ロ関係のベースが希薄であるときには、なかなか向こう側も日本とどうしても合意しなければいけないという必然性を感じないわけであります。  現在、モスクワには日本のビジネスマンというのは一千人もいないと承知しております。モスクワへの定期便も少のうございます。一方、ロシアは資源という面からだけ取っても日本にとって大きな潜在的な利益をもたらし得る国でございます。まずはロシアとの関係をうんと強化して、そのときには私はロシア側の北方領土問題に対するアプローチ、考え方というのも変わってくるんではないかと思っております。
  177. 浜田昌良

    ○浜田昌良君 次に、イラン問題について岡本公述人にお聞きしたいと思いますが、これにつきましては、最近の新聞で、アメリカのイラン制裁に対して日本は除外されるようだという報道がありまして、銀行関係者は安堵しているようでありますけれども、一方で、イスラエルがイランを空爆するんじゃないかという憶測も流れていまして、事実、アメリカの研究所によると、六月二十四日に濃縮ウランが十五キロできるだろうと、そうすると四月から六月ぐらいまでにイラン攻撃があるんじゃないかという説も流れています。  そういうことになれば、我が国としては、中東に現時点では石油又は天然ガスを大きく依存している状況ではパニックが起きる可能性もあると。外交的な努力をする必要があるわけですが、そういう意味では日本はイランとも縁が深い国でありますし、イスラエルともあるわけでありますし、日本の外交が問われていると思うんですね。  確かに、今それほど、日本についてはもうTPPとかいろんな問題大変かもしれませんけれども、この中東の非核化、特にイスラエルを含めてイランとの間を取り持つという役割、私はあり得ると思っていまして、この予算委員会でも外務大臣に対しては、NPDIというオーストラリアと一緒に核廃絶を進めているグループがありますが、四月にトルコで外相会合があります。そのトルコも関心を持っていますんで、この中東非核化の国際会議が本来今年NPTで合意されましてするはずだったんですが、これが危ぶまれています。これを成功させることを通じながら、もう一度イスラエルにそういう行動を思いとどまらせる外交、日本自身が力を入れるべきと思っているんですが、岡本公述人から御意見賜りたいと思います。
  178. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) おっしゃるとおりだと存じます。  イランは日本に特別な感情を持っております。ところが、残念ながら日本はこれまでイランとの国際的な交渉の外におりました。国連の安保理の常任理事国五か国プラスドイツ、この六か国グループでイランとの交渉をずっとやってきてしまったと。日本は、しかしイランと独自のパイプも持っているわけでございます。もちろんイスラエルともございます。  イランが核兵器を持つようになれば、中東の安全保障環境というのは激変いたします。中東はこれまでも世界の紛争の七割ぐらいの原因を占めてきたと思います。ここが更に不安定化するということになりますと、日本の原油輸入も八割がホルムズを通ってまいりますから、一挙に危機に瀕する。私は、日本が今やるべきは、まずイラン問題ではないかというぐらいの認識を持っております。そこは先生と一緒でございます。
  179. 浜田昌良

    ○浜田昌良君 続きまして、白石公述人にTPPの問題及び北朝鮮の問題についてお聞きしたいと思います。  このTPPの問題、今まで質問者はどちらかといえば反対という方が多かったですが、私は賛成の立場なんです。ただ、どういうTPPをつくるかなんですね。アメリカがつくったTPPじゃなくて、日本が、日本の国民にとってプラスになるようなTPPを日本がつくるべきじゃないかと。そのために入っていくなら賛成だし、多くの国民も絶対反対でも絶対賛成でもないんですよ。日本プラスだったら賛成だし、マイナスだったら反対、当然ですよね。  そういう意味では、公述人の話にありましたように、太平洋にウエートを置くのか、アジアにウエートを置くのかと。両方あるわけで、TPPという議論もあれば、ASEANプラス3、プラス6もあると。確かにテンポは違うんですけど、うまくこの二つをバランサーにしながらいかに日本が外交上立ち回れるか。アメリカに対しては、将来FTAAPにつながらなければ意味がないでしょうと言いながら譲歩をさせ、一方で中国に対しては、アメリカに対してこういう動きがあるからと言ってASEANプラス6をうまくのませて進めると、この外交上の鍵は何なのかが一つ聞きたいと。  もう一つは、この中でASEANの国々がどういうTPPを望んでいるのか。既にシンガポールやマレーシアのように入っている国もあれば、タイやインドネシアのようにちゅうちょしている国もあります。そういうASEANの国々、実はこういう国々は、日本やアメリカよりもより貿易既存度が高いんですね。圧倒的にTPPが非常にクリティカルな問題なんです。そういう国々はどういうTPPを望んでいるのか、これが二番目の質問なんです。  この二点についてお聞きしたいと思います。
  180. 白石隆

    公述人(白石隆君) どうもありがとうございます。  まず、TPPの基本的な考え方については先生のおっしゃるとおりというふうに私も思います。  と申しますのはどういうことかと申しますと、現在のこのアジア太平洋及び東アジアの経済というのは、アメリカと中国と中国以外の日本も含めたアジア、この三つが大きい柱になって、この中で貿易が回っているという、こういう構造になっておりまして、この貿易のメリットを最大に享受するためには、日本としてはTPPとASEANプラス6の両方のFTA、EPAを進めるというのが、これが一番メリットを取る方法でございます。  それをやれば、先ほど岡本公述人の方からFTAAPの話がございまして、これはまさにそのとおりで、ASEANプラス6もASEANプラス3もTPPも、これは最終的にはFTAAPに至る道ですので、そこの言わば一番重要なハブの一つ日本がなるというそういうことで、是非、ですからこの両方をやはり追求していく必要があるだろうと。  それから二番目に、ASEANについては、これも先生の言われるとおりでございまして、貿易依存度が、特に輸出依存度が高いところはやはりTPPに入ろうとする。それから、唯一、貿易依存度が高いにもかかわらず今のところ逡巡しているのはタイ一国でございまして、これは一つには、タイがむしろASEANプラス3あるいはASEAN・チャイナのFTAから相当大きなメリットを取っているのが一つと、それから政治的に混乱しているということがもう一つの理由で、少しその決断が遅れているんだろうと思います。  ですから、FTAAPの問題については、ASEANはASEANとして合意をつくって行動するというのはなかなか難しいんではないかというのが私の考えでございます。
  181. 浜田昌良

    ○浜田昌良君 済みません、時間少なくなりましたけれども、村田公述人に北朝鮮の問題を併せてお聞きしたいと思っているんですが、いわゆるこの北朝鮮のミサイル発射といいますか、人工衛星打ち上げ問題があります。その中にあって、三月二十六、二十七にソウルで核セキュリティ・サミットがあるんですね。六か国協議の北朝鮮以外の五か国が集まるんですよ。このときにどういうメッセージを出すのか求められているんですよ。そういう意味では、核廃絶を進めておられるという中にあって、この核セキュリティ・サミットでどういうメッセージを日本が主導しながら出すべきかということについて是非お答えいただきたいと思います。
  182. 村田光平

    公述人(村田光平君) 私の立場は一貫しております。北朝鮮にこの核の問題で日本が迫る際に、今の日本の、そういうダブルスタンダードの恩恵を受けている日本の立場では説得力を持ち得ないと思います。そして、福島事故を経験した今こそ、今こそ完全な民事、軍事を問わない核廃絶を伝えるべきだと。私は先ほど夏までと言いましたが、次のその会議までにやるべきではないかと。  そして、先ほど申しましたように、今の本当の危機的状況というものは脱原発を早める状況になりつつあると。もう世界は日本の実態を知り尽くしたんです。最近は、一週間前は、ドイツが原子力村の衝撃的なものを放映しまして、多くの友人から衝撃を受けたと聞いております。もう日本は世界から、もう福島は世界の問題になったと、そういうことでございます。
  183. 浜田昌良

    ○浜田昌良君 終わります。
  184. 石井一

    委員長石井一君) 浜田君の質疑が終わりましたところで、午後の審議は順調に進んでおります。あと四名の質疑者がございますが、時間を厳守して四時に終わりたい。さもなくば、他の委員会に迷惑を掛け、質問、採決その他が並んでおりますので、よろしく御協力をお願いします。
  185. 小野次郎

    ○小野次郎君 みんなの党の小野次郎です。  村田公述人にお伺いしますけれども、昨年末に我が国会は日本と四か国の間の原子力協定を承認しました。それは、ジョルダン、ベトナム、韓国及びロシアでございました。原発輸出に関連する協定なわけですけれども、ほかにも、報道ではトルコだとかリトアニアなどとも政府は協議を開始しているようでございます。  こうした原発輸出先国について、私は、自然災害による事故、これは福島の場合には少なくとも原因は自然災害から始まったわけですけれども、このリスク以外に、原発の耐用年数というのは、造り始める段階から終わりまでを考えれば四、五十年あるわけですけれども、この非常に長い時間にわたってその当該地域が武力紛争とかテロに巻き込まれるリスク、これは我が国国内と比べたら比較できないほど高いものがあると私は認識しています。それは、言葉を換えれば、新たなその地域の緊張要因を我が国自らが作り出すというおそれもあると心配しているわけですけれども、この点について公述人はどのように認識されますか。
  186. 村田光平

    公述人(村田光平君) ただいまの小野先生の御懸念、私は全く賛成いたします。そして、福島の教訓の一つは、先ほど申しましたように、いかに原発というものが脆弱であるかと。燃料プールを狙えばいい、電気を断てばいい、それで大惨事と、そういう状況でございます。  そういう中で、この協定の問題は到底あってはならない倫理の不足を反映しているものであると、これを変えるのは今既に盛り上がりつつある世論だと思います。今や、経済重視から生命重視への大きなパラダイムシフトを福島原発は世界に起こしつつあるわけです。そして、ウクライナ政府の発表によれば、チェルノブイリの犠牲者の数は最終的に病気になった二百六十万人、そのうち子供は六十万人と。こういうものが、悲しいかな日本にも出てくるわけでして、世論は今のような日本の不道徳を認めない、認めることはあり得ないと、時間だけの問題だと、そのように考えております。
  187. 小野次郎

    ○小野次郎君 続けてお伺いしますけれども、村田公述人は、六ケ所の再処理工場についても心配、危険性を大変指摘されておりますけれども、それにも関連すると思うんです。日本では核燃料サイクルが完結していないわけですね、でき上がっていないわけです。国内が難しいからといって、じゃ、使用済みの核燃料を海外で再処理するという方式についてはどう評価されるか。  特に、さっき四つの協定と僕言いましたけれども、ロシアとの原子力協定というのは、別にロシアに原発を造ってあげようと、もうたくさん造っている国ですから、じゃなくて、むしろ日本の核燃料の再処理をロシアでするための協力協定だというふうに言われています。そうした日ロの原子力協定なんていうのは、特に私たちが進めようとしている脱原発には全く逆行している形だという指摘もあるんですけれども、これについて公述人はどのように認識されますか。
  188. 村田光平

    公述人(村田光平君) 全くお考えに賛同いたします。そして、これは先ほどの輸出の協定の問題と全く同じことが言えると思います。そして、そのようなことを日本の国民が認めることにはならないと確信しております。
  189. 小野次郎

    ○小野次郎君 何か、答えが、私と意見が余り合い過ぎているので非常にやりにくいんですけれども、こうした我が国の原発輸出の、初対面なんですけど、こういう意見が一致することもあるんだなと思うんですが、こうした我が国の原発輸出の政策というか、外交政策ですね、ある種の。次々とこうやって協定を結んできているわけですから。こういった原発輸出政策というのは、去年の福島の東京電力の原発事故、その後の放射能汚染の問題というのは依然として国内で大変大きな問題であるにもかかわらず、こうやって海外には進めていっているという方向性について、地球規模で考えて、公述人は適切な方向だと思いますか。
  190. 村田光平

    公述人(村田光平君) 私は、二〇〇四年に、日本の命運を左右する電力会社という文書を指導層に発出しました。それから、しばらくおいて、スマトラの津波の後、日本における八十五メーターの例、カナダにおける五百メーターの津波の例を挙げて、海岸にある原発の危険性を指摘しました。この意見さえいささかでも聞き入れていたならば、福島は防ぎ得たわけです。  私は痛感しました。これは原子力独裁というものが日本にはあるんだと。そして、その独裁体制はいまだ残存していると、悲しいかな、残存しているわけであります。だからこそ、先ほど御指摘の諸問題がまかり通っているということであります。しかし、もう限界であります。福島の事故は、それに終止符を打つための既に兆候が始まっております。  ということで、ある意味では、私の資料にも差し上げましたこの母性文化への潮流というものは、オバマ大統領がその旗を振って歴史的役割を果たしつつあるわけですが、全ての独裁を終えんせしめるという方向で働き出していると。これは、時の流れが既に幾つか実証している例もありますが、そういう母性文明、母性文化、そういう流れの中で、今の原子力村の残存が見られる諸政策は必ず頓挫すると確信しております。
  191. 小野次郎

    ○小野次郎君 村田公述人は、大変この国連倫理サミットの実現に向けていろいろな方と交流をされたりしておられるようですけれども、どういうコンセプトのサミット級の会合をイメージされているのか、分かりやすく御説明いただきたいと思います。
  192. 村田光平

    公述人(村田光平君) そもそも、この働きかけが始まりましたのは、先ほど言及しましたバーゼル世界大会で私の演説が評価されまして、私が窓口となって、当時の国連事務総長に働きかけると。そして、その趣旨は、この倫理の内容を討議するものではなく、倫理の重要性を想起するものにすると、そういうことで地球倫理国際日というものもその倫理サミットで定めようと。そして、今年出した私の関係する学会の緊急アピールで、三・一一をこの地球倫理国際日にしようという呼びかけを始めているわけであります。  そして、具体的には、今年九月の総会にオバマ大統領がイニシアチブを取ってその場でこのサミットを実現すると。そして、オバマ大統領は、このプラハ演説以来、まだ世界が待ち受けている第二弾が出てきていないわけです。そのフォローアップとして、九月の国連総会における国連倫理サミットを実現すると。そのイニシアチブを取るように駐日ルース大使にお願いしているところであります。
  193. 小野次郎

    ○小野次郎君 ちょっと話題を変えますけれども、村田公述人にお伺いしますけど、今、日本国内は原発再稼働をいつ、どこから認めるかという話になっています。  そのロジックは簡単でございまして、この原発、五十基近くある、全て止めたままにしておいたら日本のエネルギーは賄えないという問題があり、一方で、電力料金の値上げ、このままでは値上げをして、燃料価格の高騰のために高くなっちゃうよという、国民にはそういった、どうするんだと投げ付けられている状況にあります。  しかし、同時に、これは日本国内のすごく内向きだけの損得勘定でいいか悪いかという結論を出せる問題ではないと私は思っているんです。それは、国際的に、日本がこの去年の事故を経て一年たった今、どういう評価を得ているかということをちゃんと認識した上で国民が決めていかなきゃいけないことだと思うんですね。  それでお伺いしますけれども、事故の再発防止、それから日本国産の食料品、農産物の安全の確保、そして去年から一年たった間にこの原発事故に対する事故収束の能力、技術等について、我が国の能力はもう十分に国際的な信頼を回復していると認識されますか。
  194. 村田光平

    公述人(村田光平君) まさに、それとは逆でございます。世界は、日本経済重視の姿勢がまだ生命重視に転換していないと。その犠牲になる恐れを抱き出したのではないかと見ております。  先ほど紹介しましたアメリカの議会の公聴会、軍事委員会公聴会を求める動き、こういったものに既にその兆候が現れております。ドイツの微に入り細にうがった原子力村の実態の紹介と、さらにネーチャー誌、世界的権威のあるネーチャー誌が例の黒塗り資料の問題について表紙でそれを報ずると、このように、もう既に地震原因説がほぼ確立している状況の中で、安全と認定する信用の置ける機関も存在せず、そして地震原因説に対する手を打つこともなしに再稼働というものは到底あり得ないはずであると、そのように確信しております。
  195. 小野次郎

    ○小野次郎君 私も余り、倫理と言っても人に倫理を説くほどの人間性を持っている人間ではありません。悩みの多い人間ではありますけれども、ただ言えるのは、やはり誰も他人に対して、他人が不安に思うことを改めてやってはいけないというのは、倫理というのか、当然の条理だろうと思うんですね。そういう意味で、この原発再稼働を日本が急げば、国際的な信頼が回復していないままそれをするならば、やはり周辺の諸国にというか、世界中に不安を感じさせる心配があるんじゃないかということが一つ目。  二つ目には、この国際的な信頼が回復しないまま原発再稼働を進めるということも、日本の主権の中でやるうちには物理的には可能かもしれません。しかし、そのことが、今、多くの農家の方あるいはいろんな日本海外と貿易に関係している方たちが非常に迷惑を受けている風評被害、こういうことについて、海外諸国において日本の農産物、食料品に対する、風評被害だと我々は言っていますけれども、恐らく日本の地図を地球儀で見れば、ここは原発に近いところだ、ここは距離があるんだというようなことはなかなか世界の人には理解しづらいと思うんですね、地球儀の上で見れば。  そういった中で、日本に対する信頼がまだ回復していないうちにまた原発は動き始めますというふうにすれば、そういった多くの方が不安に思っているこの海外との取引、農産物の輸出などにおける風評被害というものが、かえって外国にしてみれば、止めろということはできないんだったら、少なくともそこから出てくるものについての様々な制約というのはなくならないんじゃないかなと心配しているんですけれども、その点についての御認識をお伺いしたいと思います。
  196. 村田光平

    公述人(村田光平君) また全面的に賛成して恐縮でございますが、御懸念を全て私も持っております、同じような。  そして、特に私が今日伝えたかったのは、先ほどの、戻りますが、四号機につきましては、放射性セシウムの量は、四号機だけで、戦後、大気中で行われた核実験全てのものと同じであると、それほどの恐ろしさです。かてて加えて、先ほどの共有プールの六千七百本などをやれば、事故が起きれば世界は終わると断言できるほどの放射線の放出が予想されるわけであります。  それにもかかわらず、なぜでしょう、危機感がありません。私は、これは想像力の欠如だと思います。想像力が欠如すると倫理が欠如するわけでございます。そういう意味で、今こそ福島の犠牲者たちの声をもっと国民、全土に広げまして、そしていかに原発事故が罪深いものであるかということを、しかも世界の為政者にも伝えなきゃいけないと思います。ある意味では、菅さんが東電の撤退を止めたと、あれは歴史的役割だと評価されております。  そういう意味で、これは何を意味するかというと、究極の破局が発生する、その可能性が現実のものであるということが示されたわけです。そして、四号機の危機、これはまさにその実例であります。どうか危機感を持ってその対策を早めるように御尽力をお願いしたいと思います。
  197. 小野次郎

    ○小野次郎君 四号機の危険性についてはほかの向きからもいろいろ指摘されていることですので、私たち国会議員として政府に対する追及というか、ただしていきたいと思います。  今日はありがとうございました。ほかのお二人には質問する時間がなくて大変恐縮でございますが、今日は御苦労さまでございました。  これで終わります。
  198. 田村智子

    田村智子君 お聞きをいたします。日本共産党の田村智子です。  今日は、安全保障の問題で外交と防衛力ということが基本になるのかと思いますが、若干防衛力の方に重きが置かれた御意見が続いたのではないかというふうに思います。  お一人に一問ずつ質問させていただきます。  国境の紛争が日本周辺諸国とそれぞれにある、異常な事態だ、私もそう思います。白石公述人にお聞きをしたいんですけれども、それに対して自衛隊の配備がどうこう、それから米軍の基地がどうこうと、その前に、やはりまともな国境紛争の解決のための外交努力は行われているのかと、ここもしっかり見る必要があるんじゃないかと思うんですね。  例えば、中国との紛争、尖閣諸島でいえば、これ歴史の事実と国際法に照らして尖閣諸島は日本の領土だと、私たちもそういう論を持っていますし、日本政府もそういう立場です。では、そのことが正面から話し合われた経過があったかと。  一九七二年の国交正常化のときや、七八年に日中平和友好条約を結ぶとき、九二年に中国が自国の領土であると領海及び接続水域法で採択をしたとき、いずれもまともな議論をやっていない。そして、中国漁船との問題が起きたときも、遺憾の意を表明したり抗議をしたりはしたけれども、まともに議論したのかと、歴史の事実、国際法に照らすと。ないんじゃないかと思えるんです。  これ、ロシアとの千島列島の問題もそうですし、北朝鮮では、核開発の問題、拉致事件の問題で六か国の中で独自の話合いのルートを持っていないのは日本だけではないかという事態だと。  そうなりますと、私は、アメリカの抑止力に頼るがために、逆に日本が自らの外交力を欠如させていると、そういう現状があるんじゃないかと思うんですけれども、御意見をお聞かせください。
  199. 白石隆

    公述人(白石隆君) ありがとうございます。  外交というのは、私は常にその裏に力というものが、いろんな意味で国力というものがなければいけない、その国力の中には当然のことながら強制力も含まれております。そういうものを無視して外交力と言ってもほとんど意味がないだろうというのが第一に申し上げたいことでございます。  それから二番目に、それでは、例えば尖閣諸島の問題について中国と外交上の協議があったかと。私はつまびらかではございませんけれども、例えば中国の領海法というのはこれは中国政府が一方的に作ったものであって、それがどういう意図でどういう解釈の下に施行されるかということはいまだに説明されてないというのが事実だと私は考えております。ですから、その意味でいえば、中国の方がこの問題についてははるかに国際的に説明すべきことが多いんではないだろうかと思います。
  200. 田村智子

    田村智子君 今日は御意見をお聞きする場ですので、論争というふうにはしたくはないんですけれども。  そういう説明がなされていなければ説明を求めて、落ち着いた環境で話し合うという努力が私は必要だというふうに思うんですよ。そういう場が、いろんなチャンスがありながらやってきてないんじゃないかという問題意識がありまして、ここは是非、これは国政上の問題でもありますので、引き続き国政上の課題としても私たち追及していきたいなというふうに思っています。政府に対してです。公述人に対してではありません。  岡本公述人にお聞きをします。先ほど、米軍基地は普天間の基地を沖縄県内に移す、新たな基地を造るということはこれはもう不可能ではないかと、かなり私どもと立場の違う岡本公述人からもそういう御意見がお聞きできまして、これは、ある意味沖縄にとってはエールだなというふうに思っているんですけれども。しかし、二十年掛けてでも海兵隊の拠点となる基地を本土に持ってくると、これが必要だという御意見だったんですね。  ちょっとお聞きをしたいんですけれども、海兵隊というのはやはり防衛力ではなく、その位置付けは上陸部隊であり、最も最前線に立つ部隊であると、これはもう明らかなことだと思うんですね。それを本土に置くことが必要だということは、やはり何らかの日本にとって危惧する状況が起きたときにはこちらから攻撃ができるよというメッセージを伝えることが抑止力として必要だということなのかどうかということなんですね、お聞きしたいのは。  こういう海兵隊というのは、歴史的にその役割を見ても、例えば今、私は検証しなくちゃいけないと思っているのはイラク戦争ですけれども、イラクがテロとかかわっている、この事実はいまだもって分からなかった。それから、核兵器及び大量破壊兵器がある、これが集団的自衛権の発動の根拠となってアメリカは攻撃を仕掛けたわけですけど、イギリスも一緒に仕掛けたわけですけれども、しかし、それもいまだ見付かっていない。今残っているのは、フセインの独裁政権を倒すためと、これだけが言わばイラク戦争の理由として残っていることだと思うんですね。言わば、何か自分たちと考え方も違う、将来不安の材料になり得る、そういうところはこちらから攻撃をしてもいいんだという、まさにそういう戦争になってしまったと思うんです。  そのことをアメリカ政府もイギリス政府も今検証をやっています。議論もやっています。でも、日本は日米同盟で賛成だと小泉首相が言ったけれども、いまだまともな議論がないまま、日本にアメリカの海兵隊が必要で、二十年掛けてでも本土に移すことが必要だ、それはやはりイラク戦争と同じように、何かありそうなときにはこちらから攻撃をするというメッセージがやはり安全保障上必要だということなんでしょうか。
  201. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 日米両国政府は一九六〇年に声明を発表をいたしておりまして、日本とアメリカの側から攻撃を仕掛けることはないということは断言しております。その姿勢は今も変わらないと思います。  イラクについては、確かにアメリカは見通しを誤りました。根拠のないことではなかったと思います。一九九〇年代にサダム・フセインは大量のクルド人、二万人を超える人々を毒ガスで殺りくいたしました。それがまだ残っているはずだという思い込みでありましたが、これは結果的になかった。そういう意味では、アメリカが掲げたイラク戦争の大義というものがなくなってしまった。それはもう否定できないと思うのでございます。  しかし、アメリカの中に、気に入らないところは倒すために軍隊をどこでも派遣するんだという、そういう先験的な政策判断があるとは私は思いません。海兵隊というのは、おっしゃるとおりの攻撃部隊ということは持っておりますが、基本的にあれは何かといいますと、この太平洋アジア地域で最も重要なのは海軍のプレゼンスであります。飛行機は常時飛んでいるわけにいきませんし、陸上部隊が動き出せばこれは大変であります。海軍、しかし、その海軍の能力というものは陸上に投射されることがありません。そこで、その橋の役をするのは、ブリッジの役をするのが海兵隊であります。ですから、当然、海軍の一部であるわけです。  ですから、海兵隊を日本が今駐留をさせているということは、特定の目的を持って、さあ、これから北朝鮮へ、中国へ攻め入るための部隊として置いておこうということではありません。全体としてのアメリカの海軍戦略、これが先ほど来申し上げているように日本の抑止力として働いているわけでございますから、これは、そのようなものが必要なくなるような戦略環境の変化が起こるまでは私は日本にいてしかるべきだと思っております。
  202. 田村智子

    田村智子君 もう一点、岡本公述人、今の御意見の中で、イラク戦争は結果として誤りであったというふうに今御意見いただいたと思うんですけど、そうすれば、やはり日米同盟と言っている以上、そして米軍基地が、日本に巨大な部隊がある以上、日本政府としても、日本の国会としても、やはりそのイラク戦争の是非なり、これの歴史的検証というのは必要だと思うんですけど、いかがでしょうか。
  203. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 日本はアメリカと結託してイラクに行ったわけではありません。あれはあくまでもアメリカの政策でございます。アメリカも政策的な判断を過つことは度々あることでございます。これからもアメリカに対して日本は言うべきことを言っていくべきだと思います。  ただ、なぜイギリスのブレア首相がアメリカのイラク政策を支持して、アメリカとともにイラクに派兵したのか。それは、一緒に行動することによって初めて自分たち意見がアメリカに通るからだということで彼らは決断したわけであります。日本はまだそこまでは行っておりません。ただ、これからもアメリカの政策的な間違いと日本が信ずるところがあれば、それをただしていくのは当然のことだと思います。
  204. 山内徳信

    山内徳信君 社民党・護憲連合の山内徳信でございます。  本日は、御三名の公述人先生方、大変ありがとうございました。  私は十分でございますから、基地問題の専門家岡本さんに最近の見解を伺っておきたいと思っております。よろしくお願いいたします。  私はここに参りまして感じますのは、基地問題を解決するためのそういう政治的な人材、官僚的な人材、国家公務員にもう人材が尽き果てておる、そこに不幸な面の一部があると見ておるんです。あの当時、普天間を動かそうといって、橋本総理の補佐官として岡本さんがほとんどの時間の大半、沖縄の全ての市町村を回り、そして、私が感動しましたのは、あの伊江島の阿波根昌鴻という、沖縄のガンジーと言われた人の前に来られて深々と頭を下げて、日本政府が今日までやってきたことについて深く陳謝をされておるそのお姿を見たときに、ああ、こういう人が人の心を動かしていくんだと、こういうふうに感じたわけでございます。あれから十六年たっても、普天間問題、辺野古問題、全く暗礁に乗り上げて、今日の状態でございます。  そこで、振り返りまして、私はそういう気持ちで今見ておるんですが、岡本さんは、御自身が手を着けられた普天間問題、十六年漂流して全く実らなかった、新しい選択肢を求める時代に入っておる今日、どういうふうなお気持ちでいらっしゃいますか。短くお願いいたします。
  205. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 私の気持ち、とても短くは言い尽くすことはできませんが、当時と私は基本的に変わっておりません。  当時は、あの普天間の事故の危険性と騒音の被害をなくすために、今四百八十ヘクタールある普天間の飛行場を三分の一に縮小して海上に出す、事故が起こっても住民には被害が及ばないようにするということで一生懸命やってきたつもりでございます。ただ、普天間というものを、沖縄の県内、どのような合理的な可能性のある場であれ、移すこと自体に沖縄県民の深い反発があるということは、私はその後非常に重く受け止めるに至ったことでございます。  今はこういう状況になってしまった。私は先ほどから申し上げておりますように、本土が沖縄の救済のために全く新しい考え方でこの問題に取り組まない限りは解はないと思っております。
  206. 山内徳信

    山内徳信君 この辺野古問題につきましては、アメリカも、連邦議会の上下両院の議員の中にも、補佐官の中にも、シンクタンクの皆さん方の中にも、辺野古についてのもう可能性はないと、こういうふうな状況があります。私は、一月の二十一日から二十八日まで、国会議員も十二名に会いまして、それからシンクタンクを含めて、このSACO合意とかその後の日米合意に携わった方々にもお目にかかってきました。率直に気持ちを聞かせてほしいと、そういうふうに申し上げたら、やはり辺野古についてはもう新しい選択肢を考える時期に入ったと、こういうふうなことをおっしゃっていたわけでございます。  沖縄はといいますと、先ほど三分の一はというお話がございました。そういうふうな三分の一、三分の一、三分の一であったのが、今やオール沖縄になって一本化になっておるわけですね。そして、沖縄の人々も目覚めてきまして、まあ、目覚めるという表現よりは、やはり実際に見て分かったわけです。那覇の新都心を見て、これは基地としてアメリカ軍に使わすよりは、やはり返還をさせてもらって、その跡地利用を成功すること。北谷のハンビー飛行場の跡もまさにそのとおりでございます。大変お世話になりました読谷飛行場も、飛行場でしたが、返還を実現していただきました。スタックポールとか、あるいはアバクロンビーとか、ダニエル・イノウエさんたちのお力もいただきました。ありがとうございました。  そういうふうにして沖縄も随分状況変わってまいりましたから、今やこういうふうに見ましたときに、沖縄の世論、アメリカの動きを含めたときに、率直に、この辺野古問題は岡本さんのお言葉で、感じていらっしゃること、そのことを言葉としていただいておきたいと思います。
  207. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 私は、もうこの問題で沖縄の世論を分断したり、沖縄に混乱を掛ける、それはしてはならないと思います。たとえ名護の市長が保守系の人に替わったとしても、また一九九七年のように、住民投票条例が制定されて、そしてまた町を二分する大きな騒ぎになっていく。その結果、もうもちろん反対票がまた上回るんだろうと思います。  政府日本本土はこれまで沖縄に対して大きく三つのことをしてきてしまった。戦争の際に、沖縄を捨て石として、当時の住民の三分の一が死亡するような凄惨な戦いに本土防衛のために巻き込んできた。二番目に、本土返還の際に、我々はその後、先ほど申しましたように、本土の米軍基地だけを整理撤廃して、沖縄の基地をほとんど手付かずのままに置いてきた。三番目に、やはり日本の本土だけが高度成長時代の経済の利益を享受したけれども、沖縄に対する十分な支援を差し伸べてこなかった。私は、そういうことを全て総括して、そして橋本内閣のときに、沖縄は行革と並んで内閣の最重要案件であるという、そういう規定までされたわけでございます。  ただ、その後、先ほど山内先生が指摘されたように、沖縄に対して熱情を持って語りかけ、問題解決に突き進もうという政治的な姿勢が少なくなってきたと思います。  いよいよ、もうのっぴきならないところに来ているわけでございます。このまま普天間の飛行場で小さな事故が一つ起こっても島ぐるみ闘争が沖縄で起こるかもしれないような状況の中、政府は抜本的に今までのやってきたことを検討し直さなければならない時期に入ったと、私はそう確信しております。
  208. 山内徳信

    山内徳信君 あと一分ありますから、一つ最後に伺いたいと思います。  辺野古移設が日米合意事項だからといって、もし日本政府がそれを強行するということがあった場合に何が起こるかということを私は想像ができるんです。島ぐるみの土地闘争とか、あるいは銃剣とブルドーザーとか、あるいは七十二時間の基地包囲のその闘争なんか全部見てきた人間として、今日まで日米関係、友好関係を築いて、戦後こっちまで来たわけです。これに傷つけるわけにはいかぬだろうと、こういうふうに私も思っておりまして、傷つけないためにはどうすればいいかと、こういうことが、今、政治家にも政府にも官僚たちにも、そしてアメリカはそれを心配しておるんです。  そういうことで、このことについて、やはり血を流すようなそういう抵抗運動が起こったら、普天間だけでは終わらない、全ての基地に、そういうふうに私は考えております。このことは何としてもやはり政治の力、今ある政治の力で、県民が落ち着くように、安心できるような方向付けをしていくのにやはり日本政府が存在する価値があるんだろうと思います。  岡本さんのお気持ちを伺って、終わりたいと思います。
  209. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 全くそのとおりだと存じます。私からは付け加える言葉はございません。
  210. 山内徳信

    山内徳信君 ありがとうございました。
  211. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 どうもお疲れさまです。  私は、福島で大体三十八キロから四十キロぐらいのところに生活をしております。  まず、そういう観点で、ある学者が、福島と今ほどの沖縄県民の皆さん、福島の県民の皆さん、私は福島国民というのをあえて使っているんです、沖縄国民の皆さん、福島では、我々は国民じゃないのか、自分たちの命を国は守ってくれるのか、生活権はどうするんだと、そういったものも含めてそんな話がありましたので、あえてそんなことを申し上げました。  その意味でいいますと、ある学者の方は、犠牲のシステムであると。歴史的にもいろんな意味では違うところがありますが、ある意味で、経済中心社会の中で、社会も文化も一部の方々に過大な負担を押し付けて、そして大多数の方々の今日が成り立っていると。そして、その分の経済的苦労に対しての恩恵を与えるという形で進んできたというような意味で、この方程式を乗り越えられなければ、私は、沖縄国民の皆さんも福島国民の皆さんも浮かばれないだろうと、このように思うんです。  その意味で、たて糸的に言えば、そうした文明災的な今度の福島の出来事であり、それは今も続いておりますので、まず村田公述人にお尋ねをいたしますが、まさに私は、その地球倫理国際日などの創設、三・一一をどういう日にするのがいいのか悪いのかという総理のお話もあったんです、被災者の皆さんの気持ちもあるということでしたが、私はこれを祈念の日、祈り念ずる日と仮に呼ぶにしても、これはやっぱり定めるべきではないだろうか、そして世界にも訴えるべきではないだろうかと、このように思っておったんですが、その意味において、村田公述人のお考えをお聞かせください。
  212. 村田光平

    公述人(村田光平君) まさに福島事故は幾つかの教訓を読み取れるわけですが、その第一には文明の転換というものが入ると思います。そして、これまでの合理主義一点張りの文明から、ある意味では命の文明への転換、経済重視から生命重視と。そういう意味で、その基盤となるのは何といっても倫理であると。そして、文明災と言われましたが、これはマックス・プランク物理学研究所長の言葉なんでございますが、人間社会に耐え難い惨禍をもたらすものは、その確率についての数値はどんなものであれ、お払い箱であると。これを私は福島は全世界に想起させるべきだと。本来、人間はそうあってしかるべきなんですが、まさに文明災のためにそれを忘れてしまったわけでございます。  ということで、その大原則を思い起こさせるという、その突破口となるのが倫理であるということで地球倫理の日にしたらいいんじゃないかと考える次第であります。
  213. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 私は、エネルギー問題も解決しながら、困難ですけれども、しかし脱原発という考え方ではなくて、超原発、原発を乗り越えるという字を書きますが、つまり、今までの我々の生活や考え方や哲学を、それをも乗り越えていく新しい方程式、在り方というものを模索して余りあるだけの今回の犠牲だったと思うんです。そういう意味で、私は超原発というような言い方をさせていただいている次第です。  そこで、白石公述人岡本公述人にお尋ねをするんですが、中間貯蔵施設というのを造ることで、県民の皆さんの中でも分かれてきました、福島県民の皆さんも。原発で入れないところに中間貯蔵施設を造ったらどうだという方が福島県内の中にもいらっしゃるんです、同じ県民として。県民の間にも分断が起きているということなんです。私は、これはコミュニティーとして非常に困った、ゆゆしき問題だなというふうに思っているんです。それぐらい難しい問題を原発問題も抱えている。また一方、基地問題もそういったものを、同じ国土、国民で抱えているわけです。  一番私が思いましたのは、政府が一義的には東電だと言いました。もちろん、原発収束のために政府は一生懸命やりましたけれども、これは何をおいても政府が対応すべきことです。後になって東電との、お金の払い方なら、それはやればいいことだったろうと思うんですね。  そういう中で、私は、本当に国が国民を守ってくれるのかと。福島県民、福島国民、沖縄国民。まさに地政学上一番難しいところに、先ほど来からのお話のように、沖縄県自身があるわけです。国民自身が大変な、沖縄国民自身が危機の中にあるわけです、緊張関係に。そのときに、私は、白石先生はいわゆる自助と公助という言い方でお分けになりましたけど、バランス論としてもっと自衛隊が災害を含めて、つまり国家として沖縄県民、国民を守っていくんだという意味では全く私は足りない、そういうふうに改めてこの原発で感じたんです。  そういう観点から、米軍基地の、沖縄における基地のいわゆる共同使用化というのがそのころからずっと私の頭にありまして、自衛隊、日本が接収して、基地を、それできちんと防衛の最低限も、そして災害の対応もしていくんだ、沖縄県民の皆さん、そこにある危機、これに対して対応していくんだ、こういう意識を私は持ったんですが、岡本公述人そして白石公述人にその辺りのことについて御見解を聞かせていただきたいと思います。
  214. 岡本行夫

    公述人岡本行夫君) 米軍基地の共同使用化、いわゆる地位協定上の二4(b)項でございますけれども、それは私も賛成でございます。日米安保体制の強化のためにもそれは望ましいことだと思いますし、米軍の中にそれに対する抵抗もないと思います。  今、先生、福島県の惨状をおっしゃいました。私も東北に何度も入っておりますが、やはり福島の惨状は別であります。自然災害ではない、人災であります。先生がおっしゃるとおり、政府の原子力政策の犠牲になった県民であります。日本国民が全員、全体として私は福島県民の救済をする、その必要があると思っております。  ただ、それにしてもマンパワーが欠けている。自衛隊が、ただ本務は日本防衛でありますから、そういつまでもいることはできない。日本は州兵とか準軍事のようないわゆるパラミリタリーの組織はございませんので、そこはボランティアでやるしかないという状況になってしまっている。私は何とかすべきだと思うんですね。地方の自治体からかつては何千人という応援部隊が入りましたけれども、今はそれも三百五十人に減ってしまっていると。私はそのマンパワーの確保、そして福島の災害というのは全く別であるということをもっともっと国民に対してPRしていくべきだと思っております。
  215. 白石隆

    公述人(白石隆君) どうもありがとうございます。  基地の共同使用については、私も先生と全く同じ意見でございます。  先ほど、私は相互運用性を高めるということが非常に大事だと、これが課題だと申し上げましたが、共同使用と相互運用性というのは、これは対になっているというふうに考えております。
  216. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 米軍にも大変お世話になりましたけれども、自衛隊の皆さん、警察の皆さん、消防の皆さん、NPO、本当に自治体の皆さん、大変お世話になりましたが、本当に自衛隊の皆さんには感謝をしているんです。米軍にも感謝していますが、ただ一点、待機をしていただきました、放射能部隊、しかし福島で人命救助、瓦れき、そういったことには実は直接には携わっていただいていないんですね。岩手、宮城には、そういう意味では本当に有り難い思いをいたしました。  アメリカに、スリーマイルに皆さんと行ってまいりました、参議院で。そのときに私が申し上げてきたのは、トラベルアラートを出したんです。日本政府は、三十キロから二十キロは帰っていいですよ、住めますよとしたんです。トラベルアラートは一週間後に、米国民の皆さん、居住をしないでくださいと言ったんです。非常に混乱しているんですよ。ですから、どうぞ安全を確認していただいて、日本政府に倣っていただけないかというようなことも申し上げたわけなんです。  ですから、そういう意味では、先ほど、米軍の皆さんにも福島はもちろんお世話になっていますけれども、例えばそういうふうな危機的な状況の中で、実は双葉郡民の皆さんが六割、あの原発関連で命を懸けて福島県民の郡民がやっているんです。六、七割の皆さんなんです。公表していません、東電も、政府も把握していないなんて言っている、そういうことであります。これもお伝えしたいと思ったことです。  ありがとうございました。
  217. 石井一

    委員長石井一君) 以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。  この際、公述人の方々に一言御礼を申し上げます。  本日は、有益な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。(拍手)  明日は午前九時から委員会を開会することとし、これをもって公聴会を散会いたします。    午後四時四分散会