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公述人(
小黒一正君) 本日は、この貴重な公聴会にお呼びいただきましてありがとうございます。
一橋大学経済研究所准教授の
小黒と申します。
先ほど三人の
公述人の
方々から細かい論点等についてお話がございましたが、私はもうちょっと大きな話についてお話しさせていただきたいと思います。お手元の方にプレゼン資料と、あと週刊エコノミストの記事が三枚ございますけれども、そちらを御覧いただきながら説明させていただきたいと思います。
まず、お手元の資料の三ページ目でございますけれども、御承知のとおり、今、
社会保障・税の
一体改革を進めてございまして、二〇一四年四月に八%、それから二〇一五年十月に一〇%という形で段階的に引き上げるということをしているということでございます。
私、
基本的にはこの
消費増税についてやるべきだというふうに思っておりますけれども、ただ、どうしても、今お話がございましたように、まだ不十分である面が否めないという点があるように思います。
一つは、三ページ目の下側にございますけれども、これは内閣府の
経済財政中長期試算というものがございますけれども、二〇二〇年度に向けて、じゃ、これからその
消費税増を行った後にどうなるかということでございますが、またプライマリーバランスが赤字になるということでございます。大体この赤字、十七兆から十八兆ぐらいと言われていますけれども、ここをまた結局、
消費税一%で二・五兆円入るとした場合に、更に増税するとなりますと、六%から七%ぐらい更に増税しなければならないということになります。したがいまして、最大一〇%上げたとしても、更にまたその上で一六パー、一七パーの
消費税率になるということになります。
では、これで
消費税率が、上げるのは最大一六パー、一七パーで終わりになるかということでございますが、実はそうではないと。お手元の資料の四ページにございますが、これはいろんな、海外も含めた、国内の
経済学者の試算をちょっと簡略に載せてございます。
例えば、アトランタ連銀という、FRBの下にある連銀ですけれども、そこのブラウンさんという方と、あと南カリフォルニア大学のジョーンズ先生という方がおりますけれども、結局、じゃ、どれぐらい
消費税率を
社会保障等を
抑制しなかった場合に必要なのかということを推計してございます。ここでは、二〇一二年に
消費税を五%から一〇%にするということで、
日本のシナリオとはちょっと三年間ぐらい違うわけですけれども、その場合、二〇一七年に増税した場合、
消費税率換算で大体三三%まで増税しなければいけないということになるということでございます。
重要なのは、この
ベースラインと先送りケースと呼ばれているものを比較するということでございまして、一七年ではなくて五年後の二二年に一度に増税する場合に、じゃ、最終的にその
財政が安定化するために必要な
消費税率は幾つかということを計算してございます。これを見ますと、三七・五%という形になりますので、どういうことかと申しますと、一七年に増税すれば三三%ですが、五年遅らせると四・五%
消費税率が上がるということになります。
もうちょっと分かりやすく言いますと、一年間増税が遅れるたびに、大体〇・九若しくは一%ずつ引き上げなければいけない
消費税率が上がっていく。若しくは、税率を上げるのでなければ、
社会保障を大体二・五兆円ぐらいカットするということが必要になるということになります。
下側の方には、慶応大学の櫻川先生と学習院大学の細野先生の試算でありますとか、私と、あと同じ
一橋大学経済研究所教授の小林慶一郎先生等の試算を載せてございますが、御覧いただければと思います。
今のような
状況で
改革を少しでも早くやった方がいいわけですけれども、なかなかその
抜本改革が進まないという
状況で、結局、何が起こっているかということでございますが、五ページ目のスライドを見ていただければ、これは内閣府が平成十七年度に出しました年次
経済財政報告に載っております
世代ごとの受益と
負担の構造になってございます。六十歳以上の
方々では、将来に受け取る
年金、
医療等の受益の合計とそれから生涯に支払う税、
保険料の合計、その差額が大体四千八百七十五万円得するという形になってございますけれども、
世代が若くなるに従いまして、結局、将来
世代では四千五百八十五万円も損すると。もう少し言いますと、孫と祖父母では一億円損をするという話がございますけれども、大体一億円程度の
世代間
格差が発生しているという状態になっているということでございます。
この状態が引き起こされているそもそもの原因としましては私二つあると思ってございまして、一つは、
財政赤字で先送りしている。野田総理の言葉を使いますれば、将来
世代の懐に手を突っ込んでお金を引っ張ってきているということになると。それからもう一つは、
年金それから
医療、
介護が特徴的だと思いますけれども、
現役世代から取ってきた
財源をそのまま右から左に、引退
世代にお金を流す
賦課方式と呼ばれている
制度が引き起こしているということになっているということでございます。
では、これを解決するためにはどうすればいいかということなんですけれども、いろいろ細かい論点はあると思いますが、私は二つ解決策があると思います。
一つは、
国民から見まして分かりやすいシステムにするという
意味で、ここのスライドの六ページに書いてありますように、
社会保障予算をきちんと区分経理する、ハード化するという、
経済学ではハード化というふうなワードを使いますけれども、
年金、
医療、
介護を一般会計等から完全に切り離しまして、
財源、引っ張ってきた
財源と
給付する中身をきちんとその中で閉じるということをする、そういうことによって透明化を図るということがやはり重要ではないかと思っております。
じゃ、今、
年金とか
医療とか、特別会計があるのではないかという話がございますけれども、実はそこはちょっと不十分なところがあるということになると思います。どういうことかと申しますと、今、大体
社会保障給付が百兆円ぐらいあったときに、入ってくる
保険料があるわけですけれども、この間を公費で埋めているという形を取っているということでございます。この公費は
基本的には国の国庫
負担という形で一般会計から流れるわけですけれども、そこが大体毎年一兆円以上のスピードで伸びていっているということになると。
そうしますと、ほかの成長に回す
財源、特に
教育でありますとか研究開発でありますとか、あと公共事業についても、場合によっては、地方にばらまくというような
議論もありますが、そうではなくて、都市部に集中投下すればもう少し
日本経済全体を
活性化させるような公共投資もあると思いますけれども、そういった
財源を圧迫してしまうと。そうしますと、将来の潜在成長率が落ちますので、
年金、
医療、
介護等の
賦課方式でまず
世代間
格差を発生させると同時に、
財政赤字まで先送りすると。しかも、その上で、ほかの成長が必要な予算を圧迫することで将来の潜在成長を落とすという形で、これもまた将来
世代に
負担を残すというような
仕組みになっているということでございます。
では、それを廃止するためにはどうすればいいかといいますと、非常に簡単でございまして、ありていに言えば国庫
負担、一般会計から
年金とか
医療とかの特別会計に流れているリンクを遮断して、きちっと
年金、
医療、
介護等の
財源はそっちの
財源できちんと調達するということをすると。ありていに言えば、独立採算の形を取るという形を取れば、受益と
負担の構造が
年金、
医療、
介護で分かりやすくなるということになると思います。
その状態の下で、今度は
高齢化が進みますとだんだん
給付が増えていくわけですけれども、そこでどんどんその
財源を、若しくは
消費税、若しくは
保険料を引き上げるということを行いますとどういうことが行われるかということですけれども、
現役世代の
負担が
賦課方式のままでは高まっていってしまうということになります。
そういった
状況を防ぐためには、お手元の資料のスライド七ページ目になりますけれども、私としては、こういう事前積立てというものを導入することによって
負担を
抑制することができるのではないかというふうに
考えております。
これはどういうものかと申しますと、例えば
給付水準、
年金が毎年一人当たり三百万円と一定だった場合に、今は三人で一人の
高齢者を支えているわけです。そうしますと、大体一人百万円ずつ
拠出するという形になります。ですけれども、これから
高齢化をしていきまして、肩車型と呼ばれますけれども、一人で一人の
高齢者を支えるという形になりますと三百万円を
拠出しなければいけない、若しくは三百万円の
負担が重たければ
高齢者の
給付をカットしなければいけないという形で
世代間対立が発生するわけですけれども、そうすることはせずに、最初から
負担が上がっていくんだとすると、最初は一人当たり百万円
拠出する、それから二〇五〇年ぐらいになりますと三百万円
拠出するわけですけれども、三百万円と百万円の間ぐらいですね、例えば二百万円ぐらい、最初から少し
保険料を多めに取っておいて、その
保険料が取っておくと何が起こるかといいますと、最初入ってくる収入の方が
高齢者の
方々に支払う
給付よりも多くなりますので、このスライドの右側のようになりますが、だんだん積立金が増えていって、
高齢化がもっと進んだ段階ではその積立金を取り崩して将来の
保険料の上昇を
抑制するというようなことができるということになります。そうしますと、
負担の
水準も大体一定に、それから
給付の
水準も一定にするということができるということでございます。
実は、この事前積立てと呼ばれているものは、お手元の、週刊エコノミストの記事をちょっとお配りしているんですけれども、よく国会等で
賦課方式が駄目だったら
積立方式にすればいいというような
議論があります。実はこれ余り生産的な
議論ではございませんで、このエコノミストの記事の五十五ページになりますけれども、五十五ページの図一と図二、図一の方は実は
積立方式に移行するような方式でございまして、それから図表二というのは
現行制度に実はなるんですけれども、実は
現行制度の枠内であっても、先ほど言ったように、今
公的年金というのは
現役世代から
高齢者にトランスファーする
賦課方式の
部分と、また、別途積立金と呼ばれている、百四十兆円であったり百三十兆円であったり、最近積立金の規模が変わっておりますけれども、この積立金を将来の
高齢化が進んでいくときの
保険料の上昇を
抑制するためのバッファーとして利用することによって
給付と
負担のところをきちんとある程度平準化するというものとして使用できると。
これは私の推計ではございませんが、学習院大学の
鈴木亘先生等の推計によりますと、実は
積立方式にすると何か五百兆円とか七百兆円ぐらいのすごい膨大なお金をためなければいけないという話がございますが、実は、事前積立てではピーク時でも二百兆円ぐらいにすぎないというような推計もございます。
したがいまして、いろいろ
議論がございますけれども、
最後まとめさせていただきますが、いろいろ細かい
年金、
医療等、
介護での問題点はあるということは承知しております。しかしながら、少なくとも
世代間の問題について解決する際には、先ほど申し上げましたように、
社会保障予算のハード化、それから、若しくは事前積立てというもの、これは将来の
高齢化に備えた
保険料上昇を
抑制するためのバッファーでございますけれども、そういったものを利用することによりまして改善することができるのではないかというふうに
考えてございます。そういったものをつくった上で、あと
世代内の
格差ですね、低
所得の
方々、それから中
所得の
方々、高
所得の
方々の中で予算を配分していくような形で改善していくということができるのでないかということに
考えております。
以上でございます。ありがとうございました。