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参考人(
滝沢智君)
東京大学の滝沢と申します。よろしくお願い申し上げます。
お手元に資料のコピーが配付されていると思いますが、それに沿いまして進めさせていただきたいと思います。(
資料映写)
本日、私の話は、
アジア地域における水問題の現状と
水ビジネス国際展開に向けた取組という題目で発表させていただきます。発表の内容でございますが、
前半部分は、
アジア各国の
水不足、それから
水質の問題についてお話をさせていただきたいと思います。後半部分は、
日本の取組ということで、
日本の
水ビジネス国際展開に向けた取組、それから今後の展望についてお話をさせていただきたいというふうに考えております。よろしくお願いいたします。
初めに、
水資源の
不安定化ということですが、タイで大きな洪水がございましたけれども、そういった洪水の被害があるとともに、これは二年前ですけれども、
中国メコン川の
上流域で非常に大きな規模の渇水がございまして、
メコン流域で
水不足に悩んだということですけれども、新聞に報道されている、海外の新聞でも報道されるぐらい大きなことだったと。例えて言うと、
中国の貴州、雲南を中心とした被害の規模ですけれども、渇水が五か月以上続いて、
被害人口としては一千八百万人、また家畜が一千百万頭ぐらい死んだということがございます。
お隣、
中国を
参考に
アジア地域全般の水問題の状況について御説明をさせていただきたいと思いますが、これは
統計データからまとめました
中国の
水需要、
水利用の変化でございます。一九八〇年以前の
データについてはそれほど
信頼性がない
データかもしれませんが、その後は定期的に
データが取られているという状況です。
御覧の
グラフの中で、全般的に
上昇傾向はまだまだ続いております。
水需要は非常に増えているんですけれども、中でも
農業用水がほぼ頭打ちになっているのに比べて、
生活用水あるいは
工業用水、いわゆる
都市で使う水が非常に増えている、今後も増えていくだろうという予測がなされております。
こうした中で、水の不足ということだけではなくて、
水質の問題というのも
顕在化してきております。これも海外のジャーナルに報道されたものですが、
中国の
水質汚染問題が
中国全般の
経済活動あるいは生活に大きな影響を及ぼすといったようなことが報道されております。
中国全般、
中国には七
大水系という、
中国全体の
河川を七つに分けておりますが、このうち、
水質の基準がⅠ類というところからⅤ類というところまで五段階にあります。Ⅴ類よりも超過という、更にもっと悪いと、これを入れますと六段階ということになりますが、この分類の中で、
中国の
水質分類の中でⅠ類からⅢ類は
飲用水、飲み水の
水源として使えると、Ⅳ類以上は
水質が悪いので飲み水には使えないということでございますが、御覧いただきますと、Ⅰ類からⅢ類が多いのは南の方の長江、
揚子江等ですが、北の方に行きますと、
松花江、これは
ハルビンを流れている川ですが、淮河、遼河、海河というようなところではⅢ類までの
飲料水の
水源として使えるところが二〇%ないし三〇%ぐらいということで、非常に
汚染が進んでいるということが分かります。
一つ例を出しますと、これは
中国の
水質データをまとめたものですが、この
海河流域、北京市を含む流域ですけれども、Ⅰ類、Ⅱ類、Ⅲ類というのは水色から緑色ですが、この
河川の流域を見ますと、水色あるいは緑色の範囲に入るところがほとんどなくて、赤の濃い色になっている、つまり
水質が非常に汚濁されているという
河川が非常に増えているということでございます。水が足りないというところに加えまして、
水質汚濁が進んでいると。
これは
飲料水水源にもなっております湖あるいは大型のダムでございますが、これも
水質類型がⅠ類からⅤ類あるいはⅤ
類超過というところにありますが、
飲料水水源として使えるのはⅢ類まででございますが、この表の一番下を見ていただきますと、Ⅰ類は〇%、それからⅡ類が七・一%、Ⅲ類が二一・四%で、全体として
飲料水水源として使える湖は三割、三〇%以下しか残っていないということで、非常に大きな問題になっております。
こういった
水質汚濁の問題に加えて、
水質汚染事故と申しますけれども、様々な工場からの
事故等で
水源汚染が引き起こされているということでございます。これは二〇〇五年に
松花江、
ハルビンの付近で起こった大規模な
水質汚染事故の報道ですけれども、そのとき、
新聞報道、
日本でも大分報道されましたが、
中国の
河川、七割は
汚染されているという報道がありまして、今申し上げましたとおり
飲料水として使えるのは三割ぐらいだということで、大体の割合が一致しておりますけれども、七割は
飲料水としては使えないような
河川になってしまっているという現状でございます。
たまたま私、その
水質汚染事故のときに
ハルビンにおりましたけれども、その
事故対応ということで、急にそういった
汚染に対する
対応策を考えておりますが、そのときはそういった
対応策が元々できておりませんで、やっていたのは、この下段、下の
真ん中にありますけれども、
水源に
活性炭をたくさん注入して
汚染対応をすると、それもどちらかというと人がたくさん集まって作業をしながら
活性炭を入れていくということで、なかなかこういった作業では大規模な
汚染に追い付かないという問題もありました。
こういった問題が、
中国を例に申し上げましたけれども、
中国だけではなくて、
アジアのいろいろな国で、
経済開発に伴いまして、水の不足それから
水質汚染問題というのが増えております。
もう
一つ、特に
都市部の人口と
水需要が増えているということを申し上げましたけれども、こちらの
グラフは、これも国連の統計から取ったものですけれども、二〇〇八年に
世界人口、今七十億人ぐらいありますけれども、その当時六十六億人と言われていましたけれども、およそ半分が
都市に住んでいるというふうに言われております。こちらの
グラフの線を見ていただきますと、アーバンと書いてある
都市人口は今後も増加していきますが、ルーラルと書いてある
農村人口に関しては
アジア地域も含めてそれ以上増えないと、余り増えないという傾向がございます。
こういう中で、
都市人口のうちおよそ三分の一、三割が
スラムというところに住んでいます。三十三億人のうち大体三〇%ですから、十億人ちょっとが
スラムというところに住んでいて、そういう方々がどういう生活をしているかというと、この写真にありますけれども、これはジャカルタで撮った写真ですけれども、
河川沿いに生活をしている、
水道は来ていないと。どうしているかというと、この
河川の水を
生活用水に使い、洗濯をしておりますけれども、
生活用水に使い、それから後ろの方を見ていただきますと、これは
トイレなんですけれども、
いかだの上に
トイレがあって、そのまま
トイレにも使っていると。もっと奥の方を見ていただきますと、
いかだがどんどんどんどんたくさんつながっていて、実は
一つの水をいろんなことに繰り返しながら使っていて、上流で排せつされた水をそのまま下流で子供が水浴びをしたり体を洗ったり食器を洗ったり、そういうような形で暮らしていると。それが衛生上非常に大きな問題になっているということでございます。
飲み水の問題に限らず、
水質の
汚染の問題、いろんな
健康影響を引き起こしておりまして、これ、トラコーマという目の病気ですけれども、
ベトナムの
ハノイというところで調査しました。一人当たり一日使える水の量、これは
日本ですと、東京ですと
家庭用水で二百五十リッターぐらい使っていると思いますけれども、水の事情の悪い
地域では三十リッター、四十リッター、あるいはそれ以下しか使えません。
ハノイで、ちょっと古い
データですが、一九九九年に調査したところ、使える水の量が少ないと、それだけこの目の病気にかかる率も高い。
子供たちは、暑いですからこういう形で川に入って、そのまま手も目も洗わずに上がってくる、その結果、こういった病気に感染するということでございます。
表流水はそういう形で大腸菌その他の
感染症に
汚染されていることが多いんですが、それ以外の
水源として
地下水がございます。
地下水は通常、清澄できれいだというふうに考えられているんですが、
地域によっては地質から出てくるような
汚染物質というのがございまして、その代表的なものの
一つに弗素があります。
弗素は、我々の歯磨きのチューブに入っていて虫歯から歯を守るといった効果がある反面、これを経常的に恒常的に摂取しますと、歯あるいは骨に弗素が沈着してこういった
健康被害が生じる。これは歯医者さんが調査している
事例ですけれども、男の子の歯の状態を調べている。それから、
真ん中の御老人は長くこの
地下水を飲んでいたために骨折してしまうといった問題があります。
それから、もう
一つの問題として、
地下水の問題として砒素による
汚染というのがございます。これ、我々が調査した
一つの
事例ですけれども、バングラデシュあるいは
ウエストベンガルと言われているインドの地方でこの砒素の
汚染、大規模に進行しておりますけれども、それ以外に
アジアの様々な
地域で
地下水がこういった砒素によって
汚染されているということが分かっています。
これは幾つかのコミュニティーで測ったものですが、砒素の
グラフはAsと書いてある
真ん中にある
グラフですけれども、このAsと書いてある砒素の濃度ですが、
日本の基準、あるいは
ベトナムもそうなっていますが、WHOの基準は十マイクログラム、十というところが
飲料水の基準ですが、多くの
地下水でこの十という基準を超えた
レベルに達しているということでございます。
振り返りまして、我が国、
日本がどういう形で
上下水道の整備をしてきたかということについて御説明を申し上げたいと思います。
今や
水道あるいは
下水道の
サービスは
日本では当たり前の
サービスというふうになっておりますが、振り返ってみますと、
日本もオリンピックのころの渇水、あるいは雨が降ったときの洪水、それから隅田川の
汚染という問題がありました。
こういった問題に対して
上下水道の建設を進めまして、今現在、一昨年度末の
データを見ますと、
水道の
普及率は九七・五%、これは全国ですけれども。それから、
下水道の
普及率は七三・七%という高い
レベルの
普及率を達成しております。
それだけではなくて、
農業用水あるいは
工業用水の水を一トン使った場合にどれだけの生産をできるかということですが、特にそのジャパンと書いてあるところの
インダストリー、
産業用水、
工業用水については
世界に比べても非常に高い
生産高を誇っています。これだけ
日本の産業は水の使い方が非常に効率がいいというところで、これが
日本の強みの
一つだろうというふうに考えております。
こういった
日本の様々な経験あるいは強みを、先ほど申し上げました水に困っている
アジアの、
中国もそうですけれども、
アジアの様々な国に対していろいろな形で
貢献ができないか。その
貢献の中に、これまで
日本が力を注いでまいりました
ODAだけではなくて、
ビジネスという視点も入れて
貢献ができないかというのがここ数年の動きでございます。
これは
経済産業省がまとめた
データでございますが、
水分野を
上水道、
海水淡水化、
工業用水、再利用、下水というような
分野に分けたときに、これからどれぐらいの
需要があるかといったことをまとめております。上段が二〇二五年の
予測値でございまして、括弧で囲んだ少し小さな字が二〇〇七年の
実績値でございますが、各
分野ともこういった
水分野で高い
需要の伸びが期待されるというふうに思われております。
その中で、
伸び率が高い
分野として
海水淡水化あるいは
工業用水の再利用といったことがございますし、それから金額として大きなところは、やはり
上水道あるいは下水の
サービスといった
都市の
上下水道の
サービスだというふうに考えられております。
これまで
日本は、
世界の水の
ODAにおきまして、これは国連とか
国際機関を含めても五分の一以上の
貢献をしております。バイラテラルで考えますと四〇%ぐらいの
貢献率だというふうに考えられておりまして、非常に高い割合の
貢献をしてきたわけですけれども、これからは
ODAだけに限らず、更に発展させた形で
水分野の
ビジネスパートナーを
アジアあるいはそれ以外の
地域に広げていくといったことが課題でございます。
こういった
水ビジネスの動きですけれども、そもそも一九九〇年ごろ、
世界で水に対する投資の資金が足りない、それをどうするか、あるいは
途上国の
水道事業体の
運営効率が非常に悪い、それをどういうふうにして改善するかといった中でこういった、
PPPと言われていますけれども、
公民連携あるいは
官民連携で
水事業をやっていこうという流れがありました。
そもそもの
きっかけは、イギリスやニュージーランドあるいはチリなどで民営化して、それが
成功例だというふうに伝えられたことが大きな
きっかけになっております。その後、こちらの表にありますが、九〇年代を通じて
世界各国でこういった
PPPによる
水道事業というのが拡大してまいりました。
最近は少し見直しもありまして、
PPP事業、本当に成功しているのかということが疑問として投げかけられておりますが、これは
世界銀行の
研究者がまとめた
事例でございまして、左側の円
グラフを見ていただきますと、七年以上継続した
PPP事業の評価ということをしておりまして、継続中が八五%、
契約満了後公営化したのが七%、契約を解除したところが八%で、一五%は失敗といいますか公営に戻っておりますが、八五%は継続中だということですが、そのうち失敗といいますか再公営化した
地域というのは割と偏っておりまして、
サブサハラ・
アフリカという
アフリカの
地域と、それからラテンアメリカにそういった
事例が多いというふうな報告がございます。
もう
一つ、
水メジャーというような言葉がございますけれども、
世界の
民営化市場、二十年ぐらい前に始まっておりますけれども、その後、二〇〇〇年に入りましてその
市場が大きく変わってきております。何が変わったかというと、元々
水メジャーと呼ばれているような
世界の大手五社が
市場の八〇%から九〇%を占めているというふうに考えられていたんですが、二〇〇〇年を越えて過去十年を見ますと、上の
グラフにございますように、
市場そのものは、
マーケットそのものは
世界で拡大しておりますが、その中で割合を深めているのは一番上のピンク色の棒でございまして、それはその他ということで、
世界のうち
メジャーが占めている割合がだんだんだんだん減ってきて、それ以外の様々なプレーヤーといいますか
企業がこの
分野に参入してきている。それは、その中には地元の
企業も含まれているということでございます。
そういった中で、
周回遅れといいますか二十年遅れで
日本が今
水ビジネスということを言っているわけですが、何を目指すかということなんですが、これは
一つの
事例でございますが、上段が
中国の
水道の
事例です、下段が
日本の
水道の
事例ですが。
中国、一番左側は、
浄水場の中で
水質をモニタリングしている
モニタリングスペースです。上段が
中国の
事例で、下段が
日本の
事例。それから
真ん中は、下が
日本の
浄水場、これは水が入っているんですけれども、非常にきれいな。
中国の場合は、こういう中で、ホテルに行ってもこの水は飲めませんという
レベルになっています。
すなわち、水が足りないのは確かなんですけれども、どの
レベルの
サービスを求めているかというのは国によって違っていまして、どんな国でも
日本と同じ
レベルの
サービスを求めているという、そういうふうに考えるのはやや勘違いがあるかもしれない。もし
ビジネスとしてやるのであれば、相手の国が求めている適切な水準の
サービスをいかに低価格で提供することができるかというところが非常に重要になっていまして、
日本レベルまではまだいいよという国に対して
日本の
レベルを無理やり押し付けるということではなかなか
ビジネスにはならない、そこは少し注意が必要だろうというふうに思います。
開発途上国における
水インフラの
市場の問題でございますが、冒頭申し上げましたとおりに、潜在的な
需要というのは非常に大きくあります。水の不足、それから
水需要の増加、水の不足、それから汚水、
排水処理の問題、
水質汚濁の問題、こういったところに
インフラをしっかりと造っていかなきゃならないという潜在的な
需要があるんですが、それを
ビジネスとしてとらえるためには
顕在化した
市場にしていかなければいけない。
その
顕在化した
市場というのは何かというと、それを誰が主体になって進めるかということですが、
日本のように国や
自治体に
資金確保の手段、つまり
信用力があってお金を借りてこれるとか、そういう状況にならないと
ビジネスは実際には
顕在化してこない。あるいは、個人や
企業にその水のコストを支払うだけの
支払能力と意思があるか、そういったことをきちっと見極めないと、潜在的な
市場があるよということと、それが
顕在化して実際に
ビジネスができるということは少し違うということは十分に気を付けなきゃいけない。
課題は、この潜在的な
市場があるというのは確かなんですが、これをいかに
顕在化した
市場に持っていくかというところが重要だろうと思います。
一つの
考え方は既に
顕在化した
市場を攻めるということですが、
海水淡水化あるいは
工業用水のリサイクルについては
中東産油国を含めて
支払意思と能力のある国々があります。こういったところを中心に
ビジネスを広げていくというのが
一つの
考え方ですし、もう
一つは、
顕在化するための努力と、それから国あるいは地方
自治体からの強力な支援をする。例えば、水や
PPPに対する
法制度や規制の確立とか、それから
相手国あるいは
自治体の
事業資金確保手段の支援、それから水に関連した
相手国の
地元市場、
日本企業だけが利益を得るのではなくて、
相手企業、
相手国の
企業も育成しつつ両者がその利益をシェアするような形の地元の振興、それから
相手国国民の啓発ですね、
支払意思の向上。こういったことに関しては、
民間企業よりも恐らく
日本の国、あるいは
自治体の方々、あるいは我々大学のような人間も含めて、そういったセクターがより強力に関与できるのではないかというふうに考えております。
それから、もう
一つの点ですが、
日本では大きな
浄水場を造って、そこから、あるいは大きな
下水処理場を造ってそこで集中的に処理すると、この方が効率がいいということで進んでいきましたが、海外では徐々に分散型の
水処理、あるいは分散型の
水道ということが進んでいます。これは、待っていてもいい
水質の水が来なければもう
自分たちで処理するしかないという意思の下で、こういった分散型、小さな処理がだんだんだんだん普及していくと。それが余りに普及してしまうと、そこに
日本型の大きな
浄水場を造りませんかという話を持っていってもなかなか受け入れてもらうのが難しい状況になってしまうということですので、
相手国政府等も含めてしっかりとこういった話をしていかなきゃいけないというふうに思います。
ちょっと時間が参りましたので、
あと技術の話を少し載せましたけれども、全体の話は以上で終了したいというふうに思います。
最後に一枚だけ、
水ビジネス、今後の課題と取組という
スライドを用意いたしました。
これは、先月横浜で
水ビジネス関係のワークショップ、シンポジウムをやりましたけれども、そこで出たいろいろな意見を私の方で取りまとめた
スライドでございます。
一つは、
マーケットの
顕在化に向けた努力が必要だと先ほど申し上げました。それから、
部品供給については
日本は強いと言われていますが、これを
事業運営に持っていかなければいけない。それを実施するために、
トラックレコードと書いてありますが、幾つかの実績をできるだけ早く付けていかなきゃいけない。そのためにはどういう
市場があるかということをしっかりと見極めることが重要だということで、上記に向けた様々な努力が必要だというふうに考えてございます。
まとめもありますが、時間が来てまいりますので、以上で私の発表を終わりにしたいと思います。
御清聴ありがとうございました。