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湯元公述人 ただいま御紹介をいただきました
日本総合研究所の
湯元でございます。
本日は、非常に重要な場で発言の
機会を頂戴いたしまして、大変光栄に存じております。
私の方からは、政府が閣議決定いたしました
社会保障・税の一体改革大綱につきまして、エコノミストという
立場から、その内容の評価、あるいはこの改革を進めていくに当たりましての課題、そういったものにつきまして私見を申し上げさせていただきたいと思っております。
お手元の方にちょっと資料をお配りさせていただいておりますが、一ページに、大綱の全体的な評価と四つの論点ということで書かせていただいております。
全体的には、少子高齢化あるいは格差拡大、こういった大きな環境変化が進む中で、医療、介護、年金のみならず、子育てというところまで
対象を広げる形で
社会保障費の安定
財源確保を目指している、また、それが財政健全化に向けた第一歩を踏み出す形にもなっているという
意味では、高く評価したいというふうに考えております。
他方で、
社会保障・税の一体改革と銘は打っているわけでございますが、どうしても消費税の引き上げということが、マスコミも含めて、前面に出てしまっている印象があるのではないかと
思います。
一体改革でございますから、あるべき
社会保障の理念、ビジョンはどういうものなのかということが、
国民一人一人が実感できる形で、より明確に打ち出されていることが期待されるわけですが、その印象のところは少し乏しいかなというのが正直な私の実感でございます。
それゆえに、個別のさまざまな改革、これはそれぞれが必要な改革だと
思いますけれ
ども、なぜそれが必要なのか、あるいは、どういった優先順位でその改革を実行していくのかということについては、やはりまだ
国民にまで十分届いていないような感じになっているのではないかなと
思います。この点につきましては、後ほどまた詳しく申し上げたいと
思います。
それから、消費税と
社会保障をめぐりましてはさまざまな論点が提示されているわけでございますけれ
ども、私は、四つに論点を絞りまして、以下
お話をさせていただきたいと思っております。
一つ目の論点が、消費税の使い道。五%引き上げる場合に、それを何に使うのかということでございます。
これはやはり
国民の理解と納得をしっかり得るためには極めて重要なポイントでございますし、それから、後ほどまた御説明したいと
思いますが、消費税の引き上げが
経済にどういった影響を与えるのかという観点からも、この使い道というのは非常に重要な
意味を持っているというふうに考える次第でございます。
それから二点目でございますが、今回は、二〇一五年までに五%引き上げて一〇%にするという大綱でございますが、もっと先まで見据えた際に、一〇%で十分であるということでは決してなくて、一〇%というのは第一ステップにすぎないということかと
思います。全体的な見取り図を持って一五年度以降の第二ステップまで見据えた議論を第一ステップの議論をする際に考えていかないと、
社会保障と税の一体改革をしていくことは非常に難しいのではないかと思う次第でございます。
それから三点目が、先ほ
どもちょっと触れましたが、
社会保障の将来像でございます。
税制とともに、
社会保障のあり方といいますのは、やはり
日本の国の形を示すという
意味で極めて重要かと
思います。
それから論点の第四番目は、消費税率の引き上げの影響。どういうタイミングで引き上げるのが適切なのか、あるいは引き上げに当たっての、まさに
国民の理解と納得を得る上での前提条件とは何かといったようなことについて
お話をしたいと存じます。
お手元の資料二ページをお開きいただければと
思いますが、最初の論点一、消費税の使い道についてということでございます。
ここで、大綱の中の御説明はこういうふうに書いてございます。消費税収というのは、官の肥大化には使わず、全て
国民に還元するというふうな文言が入っておりまして、その
意味では消費税を
社会保障目的税化するということが明記されています。私自身、この方針自体は、非常に納得がいく、正しい方針だと思っております。
他方で、この使い道につきまして財務省等が内訳の説明をしているわけでございますが、その内容を下に少し書かせていただいております。
一つは、今の
社会保障というのはいろいろなひずみもあらわれてきている、そういった問題に対処するために、
社会保障を改革したり、あるいは充実していく、こういったところにお金を回すということでありまして、ここには、待機児童の解消ですとか、医療・介護サービスの充実ですとか、低所得者対策等々が入っているわけでございます。その
財源として、これはネットの金額ですが二兆七千億円、消費税収にしまして約一%分を振り向けるということが書いてございます。
そして二番目としまして、
社会保障の安定化という言葉を使いまして、これは今の
社会保障制度を守ることであるということで、これに十兆八千億円程度、消費税換算で四%程度の分を充てるということであります。
そして、この
社会保障の安定の内訳は何かということで見てまいりますと、
一つは、基礎年金国庫
負担額の引き上げで、これが二兆九千億円。括弧内は消費税換算を私が試算したものでございます。
そして二つ目が、後代への
負担のツケ回しの軽減というふうに書いてございます。これは一般の
国民が見てもわかりにくい表現だろうと
思いますが、その
意味合いとして、高齢化等による
社会保障の増加や安定
財源が確保できていない現行の
社会保障への対応、こういう説明があります。
前者の高齢化等による
社会保障の増加というのは、いわゆる
社会保障は、高齢者の数がふえましてどうしても増加していく
部分、それから医療技術の高度化等によりまして増加していく
部分であろうかと
思います。
そして、もう
一つの、安定
財源が確保できていない
部分というのは、現在時点で
社会保障は消費税で全額賄われていない
状況でございます。この穴は一般的にすき間と呼ばれていますけれ
ども、これを埋めていくということでありまして、両者合わせまして七兆円、消費税換算で約二・六%分の
財源を充てるというふうになっております。
ただ、この両者は性格的に似ているようでも少し違う
部分がありまして、それぞれどれくらいの
割合で充てていくのかということについては何ら言及がされていない
状況になっております。
そして、最後の、消費税引き上げに伴う
社会保障の支出の増でございますが、これは、年金の物価スライドですとか、あるいは、医療は
原則非課税でございますから、仕入れコストが消費税引き上げによって上がると医療機関に甚大なダメージが及ぶということで、ここも歳出
予算で
手当てをする、こういうことでこの
予算が計上されているということであります。
以上、こういう形で説明はなされていますが、ここから受けます私も含めた一般
国民の印象として、
社会保障に充ててこれを
国民に全額還元するといった
部分はどこに当たるのかというと、最初の、
社会保障の充実で一%使うというところではないかなというふうに
思います。残りの四%は、やはり、
社会保障とはいいましても、
社会保障に係る現在の
借金の返済、それから、これ以上赤字がふえないようにするための
財源手当てでありまして、ちょっと言葉でのイメージと数字の内訳は乖離があるのかな、
国民への還元よりも財政健全化目的の方にウエートが置かれているという形になっているのではないかと
思います。
これの是非は、もちろん人によって、そうすべきであるという方もいらっしゃるでしょうし、もっと
社会保障の充実に充てるべきだとおっしゃる方もいらっしゃいますので、これは議論のあるところだと
思います。
こうは申しましたが、今現在、二〇一一年度時点で国、
地方を合わせました
社会保障、これは高齢者関連の三経費のみならず四経費というところで申し上げますと、この金額は三十二兆円に達しているということでございまして、現在の国、
地方を合わせた消費税収が十三兆円ということを考えますと、十九兆円も上回っている。このファイナンスがまさに
借金で賄われておりまして、これが将来
世代へのツケ回しになっている、
負担の先送りになっているということでございまして、こういった将来
世代に対する
責任でございますとか、現在の
日本の財政
状況の深刻度、こういったものから判断すれば、この財政健全化をしっかり進めていくことは非常に重要な課題であるということを、私自身、全く否定するものではないと思っております。
私が申し上げたいのは、単に五%の中身云々ということではなくて、この五%の中身にこういういろいろな、将来の消費税引き上げによって対応しないといけない
部分が含まれていて、それを一体何にどういう形で優先的に振り向けていくのか、こういった議論が余りなされていないのかなという実感がするわけであります。
つまり、
社会保障の充実をもっと最優先で考えるべきであるという考え方もあるでしょうし、それから、
社会保障の不足の穴、やはり今の
借金の大きさを考えると、これを埋めていくということを最優先で考えるべきである、あるいは、将来の高齢化に伴って生じる増加は、毎年の
予算編成において国債をどこまで発行するのかというせめぎ合いの中で決定していかないといけないことでありますから、これを優先しないといけない、こういう考え方もあろうかと
思います。
いずれにしても、こういう考え方を非常に明確にするということが、まさに
国民に理解と納得をしていただく上で重要なのではないかと思う次第でございます。
そして、次のページでございますが、この点自身は第二の論点にも非常にかかわってくる問題であろうかと思っております。
二〇一五年までに一〇%に上げるという基本方針が打ち出されたわけでございますが、もっと先を考えれば、それで全てが万事うまくいくと考えておられる方はもう余りいないのではないかなと思うわけでございます。
では、一五年度以降、五%引き上げだけではなお足りない分というのはどういうものがあるのかをここに示させていただいております。
一つは、今申し上げたことと
重複する面がございますが、自然増。これは毎年一兆円以上の金額がふえていくというものでございますから、これを毎年の
予算編成で考えていかないといけないということでございます。
そして、基礎年金、高齢者医療、介護などの高齢者三経費が十二・八兆円あるわけございますが、これが、五%引き上げである程度は対応いたしますけれ
ども、まだ不足分が残るということでございます。私の計算では三兆円近く残るというふうに考えております。
そして、さらに消費税の
対象を高齢者三経費から
社会保障四経費に拡大するということでございますが、この四経費分で、特に三経費を除いた四経費のところ、ここで足りない分も当然出てくるわけでございまして、これについても、実は、計算上は十兆円近い金額が不足するのではないかと思っております。
それから、最後の四番目は、特に
社会保障との関連はございませんが、二〇二〇年度までにプライマリーバランスを黒字化するという政府目標を達成するためにも、財政収支の改善
努力が必要になるということでございます。
四番目を除きます一番、二番、三番で、二〇一五年度以降、トータルでどれくらいの消費税率の引き上げが必要になるかという計算を私なりに試算いたしますと、追加で約七%引き上げが必要になる。これはいろいろな前提条件の置き方によって幅が出てまいりますけれ
ども、一定の前提のもとではさらに七%必要だという計算をさせていただいております。
そして、四番目の財政健全化のために、これは仮にでございますが、これを全て消費税の引き上げで賄うということであれば、これは
経済シナリオを楽観的シナリオにせずに内閣府が提示されております慎重なシナリオで計算をしておりますけれ
ども、消費税換算で見ますとさらに追加で五%の引き上げが必要ということとなりまして、全部対応していきますと二〇%を超えることが計算上明らかになります。
その他、新しい年金
制度をつくるとか、マニフェスト
関係での施策を継続するとか、そういうことをいろいろやりますと、さらに
財源が必要になってくるということでございます。
なお、財政健全化については、私の個人的考え方を申し上げますと、今は、なかなか歳出
削減も進めていくのが難しい
状況であって、消費税の引き上げはもう不可避であるという論調が多いんですが、私は、
社会保障というどうしても
経済成長の伸びを上回って伸びる
部分については、消費税という、何らかの税収、
財源を確保して対応していく。そして、
社会保障以外の
部分の歳出は、名目
経済成長率の伸び率以下に歳出の伸びを抑制していく、つまり、歳出コントロールをしっかりしていく。この両方がしっかりできれば、GDPに対しての財政赤字幅は時間の経過とともに縮小していくということでございます。
参考資料の方にも載せておりますけれ
ども、スウェーデンの財政
制度は、歳出の総額及び二十七分野ごとの歳出の額を、それぞれ、三年間、上限を設定して歳出コントロールをしています。そして、補正
予算といったものは基本的にやらない。バジェットマージンという、
日本でいうと予備費に当たるもので景気対策等の対応をしていて、それ以上のことは、よほどのショック、危機が起きない限りはやらないというような基本的考え方をとっている。そういうことで、スウェーデンも、実は過去の平均的な財政
状況は黒字になっているというような
状況でございます。
それから、今申し上げた、二〇一五年度以降も含めて消費税を引き上げていくのかということはやはり
国民の最大の関心事であろうかと
思いますので、私の方からは、与野党ともに、その使い道と優先順位について、ぜひ
国民にそれぞれの考え方の違いを明確にお示しいただくことを期待したいと思っております。
それから、次の三点目、
社会保障の将来像についてでございます。
この点についても、私は、与野党の皆様に考え方の違いをよりはっきりと示していただきたいなというふうに考えているわけでございます。
大綱に書かれていますそれぞれの細かい
制度の概要を表にさせていただいておりますけれ
ども、大ざっぱに見ますと、
社会保障の充実というのは金額的に三兆八千億円で、ここに掲げてあるようなさまざまな
政策が盛り込んでございます。そして、他方で、
社会保障の重点化と効率化を行うことによって給付の抑制や
負担の増加等も含めて一兆二千億円の
財源を新たに生み出すということで、ネットで二兆七千億分の消費税の引き上げ
財源と、効率化
財源を合わせて三兆八千億円の
社会保障の充実を行うということであります。
この三兆八千億円でどういう
社会保障の姿を目指すのかということについて、ちょっと考えてみたいと思うんです。
第一点は、今までの高齢者
中心の
社会保障から
現役世代の生活保障機能を強化する、こういう視点があろうかと
思います。そして、今回の大綱の中では、まさに全
世代対応型というようなキャッチフレーズが出ておりますけれ
ども、私は、こういった方向への転換というのは、まさに今の非常に厳しい若年層の失業率、あるいはなかなか雇用
機会を見出せない厳しい
状況、格差の拡大等々の
状況を考えると、当然強化していかないといけない方向であろうかと
思います。
後ろの方に、
参考で、またこれもスウェーデンのような
子育て支援、それから、いわゆる職業訓練等を含みます積極的労働市場
政策、そういった形で若年層に重点的に給付を配分する。例えば、
日本の
社会保障は七割が高齢者向けでございますけれ
ども、スウェーデンの
社会保障は、的確な指標はなかなかありませんけれ
ども、実は大体五割ぐらいでありまして、残りが
現役世代向けの
社会保障になっているということでございます。
この改革案はそれに向けた第一歩として私は評価したいと
思いますけれ
ども、ただ、そういうスウェーデンを初めとしたヨーロッパ諸国などと比べると、まだまだ十分ではないというふうに考えざるを得ません。
それから、実は、職業訓練、雇用
政策だけではなくて、スウェーデンは教育の方にも非常に力を入れまして、これは当然、義務教育を初めとしまして、中等、大学、大学院教育、ここまで一切
無料にして人間の能力を高めるための支出というものを出していまして、そういった教育も実は
社会保障の一環であるというような認識、考え方を持って進めているということでございます。そういう視点がまだこの段階では入っていないのは、少し残念な気がいたします。
それから、二つ目の視点として、まさにこの中身でございますが、所得再配分機能をどこまで高めることが必要なのかということでございます。
当然、貧困・格差対策を強化するということで、低所得層に対する年金の加算ですとか、受給資格
期間の短縮ですとか、保険料の軽減ですとか、こういう
政策が設けられています。こういうセーフティーネットの強化というのは、今の
状況を鑑みれば、ある程度やっていかないといけない必要な対策だと私は思っておりますけれ
ども、では、それをどこまでやるのか。この線引きの基準というのはやはりそういう大きなグランドデザインを描いた上でやらないと、何か、
現状がこうなっているのでそれに
手当てをしていく、そういう対応になりますと、
制度としての一貫性や公平感の問題や、いろいろなものが失われるおそれが非常にあるのではないかな。
例えば、スウェーデンやデンマークというのは、ジニ係数が
世界一低くて、最も所得再配分が進んでいますが、まさにこういう国のようにするということがコンセンサスであるならば、これはもう
負担は今程度の問題ではなくて、大変、
国民負担率で六五%とか、そういう
負担をしていかないとなかなかできないものでありまして、まさにこれはこの国の形を議論するテーマでありまして、そういうことを議論していかないと結論が出せないテーマではないかなということであります。
したがって、今回の案では
制度ごとの
負担調整をしていますけれ
ども、まさにこれをどこまでやるのかというビジョンなしには進めることができない問題ではないかなと
思います。
それから、給付つき税額控除を二〇一五年度以降導入するという予定になっていますが、この低所得層対策の、特に、さまざまな施策とこの給付つき税額控除というのは一体どういう相互
関係にあるのか。これはつなぎということなのか、これをやった上でさらに給付つき税額控除をやっていくということなのか、こういう点についてもはっきりしていない
部分があると
思います。
いずれにしても、重要なことは、勤労インセンティブ、あるいは保険料支払いのインセンティブ、こういったものを損なわない
制度設計にしていかなければ、モラルハザードの助長ですとか
社会保障制度そのものの持続可能性にも影響を与えかねないという点で、注意深く検討していく課題ではないかなと思っておるわけでございます。
ちょっと
社会保障のところで長過ぎましたので、次の五ページの方に移りたいと
思いますけれ
ども……