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高橋(洋)
公述人 今御紹介いただきました嘉悦大学教授の
高橋でございます。
本日、このような
公聴会で
公述人として
意見を言う機会をいただきまして、まことにありがとうございます。
社会保障と税の
一体改革ということなんですが、
一言で言えば、薄皮の
社会保障と、中身は
消費税、あんこたっぷりの薄皮まんじゅうでございます。それなので、
消費税の
増税について焦点を絞って、反対の
立場で述べたいと
思います。
これほど反対理由をつけやすいものは本当にないんじゃないかなと
思いますが、まず、
資料の二ページ目に全て理由を列記しております。
まず、
経済対策として、デフレの解消が先、
財政再建の必要性が乏しいこと、欧州危機時にやることではない。第二に、税理論として、不公平
税制の
是正が先、歳入庁の創設が先、
消費税の
社会保障目的税化の誤り、それとあと、
消費税というのは地方税とすべき。三番目には、政治姿勢として、無駄の
削減、行革が先、
資産売却、埋蔵金が先、マニフェスト違反。
以上、十個の理由を述べたいと
思いますので、それぞれに沿ってお話ししてみたいと
思います。
資料の三ページであります。
デフレ解消が先ということなんですけれども、現在のようなデフレでは
財政再建はうまくいきません。一九六〇年代からのOECD加盟国の中で、
財政再建に成功した事例と失敗した事例を調べますと、
名目成長率が高くなった方が成功する確率ははるかに高いです。私は小泉政権と安倍政権のときにいましたけれども、
経済成長によって、プライマリー収支というのが二十八兆円から六兆円の
赤字までに大幅に改善しております。
三ページの
資料というのは、実は、これまで
日本のデフレというのがマネー不足で起こっていることを示しております。一番左側の方に
日本がありますけれども、世界で一番デフレ、一番マネーが少ないというので、きれいな相関が出ております。
次の四ページですけれども、これは、左の軸に翌年のプライマリー収支の実額、右の軸に当年の
名目成長率をそれぞれとって
関係を示したものなんですけれども、
名目成長率は翌年のプライマリー収支に強い相関があります。これを使いましてちょっと
名目成長率を高めると、ほとんど
財政再建は簡単にできちゃうということでございます。先ほどちょっと述べました小泉、安倍政権のときの改善というのも、ここであらわれていると
思います。
こうした過去の教訓から、
増税の前に、デフレから脱却して
名目成長率を高くすることが極めて重要です。具体的には、プライマリー収支を改善するためには、
名目成長率を、これは先進国並みですけれども、四%から五%にすれば、ほとんど、ほっといても回復します。
ちなみに、一九九七年に
消費税を三%から五%に
引き上げたんですけれども、それ以来デフレが続き、
税収はずっと九七年度の水準を下回っております。
ここで、
増税とは、はっきり言葉を言っておきたいと
思いますけれども、
税率を
引き上げることです。これは増収じゃありません。ですから、その
意味で、
財政再建のために
増税が必要であると言う人はほとんど間違いだというふうに
思います。要するに、売上単価を上げて売り上げが
伸びるかという話と全く一緒です。
私は、
財政再建は非常に熱心にやる
立場なんですけれども、ややもすると、
財政再建のために
増税ということを聞くたびにちょっとおかしいなというふうに
思います。はっきり言うと、
経済成長なくして
財政再建なしです。
次の、
資料の五ページに入ります。
財政再建の必要性について、
日本は、
財政状況は
財政当局が言うほど実は悪くありません。十年ぐらいで
財政再建すべきということについては全くそのとおりでありますけれども、急に行えば、かえって
財政再建自体が危うくなると
思います。
先進各国の
財政状況がどのように深刻なのかというのは、五ページのクレジット・デフォルト・スワップの数字が参考になると
思います。これは、各国
政府が破綻したときに国債の損失をカバーするための
保険料ですから、その国の国債の危険度に応じた数字になっております。
英語で書いてありますけれども、アメリカは入っていないんですが、アメリカは〇・四です。イギリス〇・七、ドイツ一・一、
日本一・〇、フランス二・二、イタリア五・五という形になっています。ポルトガルは一一で、ギリシャというのは、ほとんど一〇〇ですね、事実上デフォルトです。
これらの数字を単純化してイメージを与えるとすると、米国というのは二百年間、英国は百二十年間、ドイツ、
日本は百年間、フランスは四十年間、イタリアは二十年間、ポルトガルは九年間でそれぞれ一回程度のデフォルトという
意味です。
これらの数字を見る限り、
日本の
財政状況は、
日本の
潜在成長力とか
政府資産の大きさなどから、欧州ほどは深刻になっておりません。欧州で緊縮
財政が否定されている中で、
日本が
増税政策をとるべきでないことは言うまでもありません。
次に、
資料の六ページに入ります。
欧州危機との
関係ですけれども、欧州で危機が迫っているのがわかっていながら
日本で
増税を行うというのは、とても
理解できないところであります。
二〇〇八年のリーマン・ショック以降、震源地でもない
日本が世界最悪のGDPギャップになってしまった。それは、実は二〇〇六年に、デフレ脱却していないにもかかわらず量的緩和を解除してしまったのが大きな問題で、その半年後ぐらいから
景気が下降局面に入っているときにリーマン・ショックという外的ショックを受けたからなのです。
今回は
復興需要が多少あるんですが、まだ東
日本大震災の傷も完全に癒えていません。それにもかかわらず
消費税増税というのは、
経済政策としてはほとんど
理解しがたいと
思います。
次は、
資料七ページの不公平
税制です。
税率を上げる前に、税、
保険料を含む税ですけれども、これの不公平を直しておくというのがセオリーです。税の不公平は穴のあいたバケツのようなもので、それで幾ら水をすくっても効率が悪いです。しかも、税の不公平の
是正というのは、
税率を上げるときに
国民の
納得感にも大きく
影響します。
今の不公平のうち私が大きいと思うのは、社会
保険料の徴収漏れです。国税庁が把握している法人数と
年金機構が把握している法人の数には随分差がありまして、八十万件から百万件くらいあるんですけれども、これは、労働者から天引きされた社会
保険料が
年金機構に渡っていない可能性があります。大体、ざっくり推計しますと十兆円前後というふうに
思います。
このほか、クロヨンと言われる
所得税の捕捉や、インボイスを採用していない
消費税の徴収漏れがあって、税徴収の
観点から見ても今は穴のあいたバケツでありまして、
税率を上げる前に穴を塞ぐのは常識であると
思います。
次は、歳入庁の話です。
資料の八ページ。
不公平の
是正のためには、マイナンバーとともに、民主党が政権交代前に公約していた歳入庁や、
消費税に、インボイスという先進国で当たり前のことをやるべきです。これをやると、かなり
税収なんかが上がってきます。
税と
保険料の徴収インフラとは、国税庁と
年金機構が一体化する歳入庁でありまして、これは、
国民にとっても、一カ所で
納税と
保険料納付が済むし、行革の
観点からも、
行政の効率化になります。
海外では、アメリカ、カナダ、アイルランド、イギリス、オランダ、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ハンガリー、アイスランド、ノルウェーが、歳入庁という形で税と社会
保険料の徴収の一元化を行っています。東ヨーロッパの国でも傾向は同じでありまして、歳入庁による徴収一元化というのは世界の潮流であると言っていいと
思います。
しかし、歳入庁の創設というのは、どうも
財政当局にとって都合が悪いらしくて、事実上、国税庁というのが財務省の植民地になっていまして、国税権力というのを財務省が手放さない。私が安倍政権にいたときにも、旧社会保険庁を解体して歳入庁を創設しようと思ったときにも、激しく抵抗を受けた経験があります。今の政権で果たしてこのように歳入庁が創設されるだろうかというのは、多少心配な点があります。
次に、
資料の九ページをごらんいただきたいと
思います。
社会保障の目的税化と当たり前のように言われるんですけれども、今回の
増税案ではそういうことになっていますが、そうしている国というのは、私は寡聞にして知りません。
社会保障は助け合いの精神による
所得の再分配なので
国民の
理解と
納得が必要というわけで、
日本を含めて、
給付と
負担の
関係が明確な社会
保険料方式で運営されているところが多いと思っております。もっとも、
保険料を払えない低
所得者に対しては税が投入されているというのも事実です。ただし、
日本のように、社会
保険料方式といいながら税が半分近く投入されている国というのも、余り聞いたことがありません。
消費税の
社会保障目的税化というのは、このような、
社会保障を保険方式で運営するという世界の流れというのとちょっと逆行するんじゃないかなと
思います。ちなみに、ドイツのように、一時的に
消費税引き上げの増収を特定用途に限ったことはありますけれども、普通は、そういうのはないです。
消費税の
社会保障目的税化が間違いというのは、一九九〇年代までは、実は私は大蔵省にいましたけれども、そのときの主張でもありました。しかし、九九年に、これは自自公連立のときに、
消費税を
社会保障に使うと予算総則に書いたという経緯があります。ただ、そのときに、
平成十二年度の
政府税調の
税制改正に関する答申の中でも、「諸外国においても
消費税等を目的税としている例は見当たらない」という記述がございます。
次は、
消費税を地方税とするということですけれども、それは
資料の九ページにあります。
消費税というのは一般
財源なんですが、国がとるか地方がとるかという問題に実はなろうかと
思います。
地方分権が進んだ国では、国ではなく地方の
財源とみなされるところが多いというのが私の認識であります。これは、国と地方の税金については、国は応能税、これは各人の能力に応じて支払う税でありますけれども、地方は応益税、これは各人の便益に応じて支払う税でありますけれども、というふうな税理論にも合致するところであります。
ヨーロッパの国というのは、一国の
規模が小さくて、GDPで見ますと、
日本というのは欧州の国が七、八個ぐらい集まった
規模であるというふうに
思います。欧州の国がサイズが小さく、
日本から見れば地方単位であるので、EUというのを
一つの単位とすれば、その中に地方があり、それぞれで
消費税を
導入しているという見方も可能ではないかなと
思います。
また、
地方分権の進んだ国、例えばオーストラリアなんかでの、国のみが
消費税を課税し、地方に
税収を分与する方式、ドイツ、オーストリアなどのように、国と地方が
消費税を共同税として課税し、
税収を国と地方で配分する方式、カナダのように、国が
消費税を課税し、その上に地方が課税する方式、アメリカのように、国は
消費税を課税せず、地方が
消費税を課税する方式というのがあります。これらを見ますと、世界を見ても、分権度が高いほど国としての
消費税のウエートが低いということが言えると
思います。
次に、無駄の話に入ります。
資料の十ページに行きます。
行革の話なんですけれども、これは無駄の
削減というのが不徹底であるというふうに正直
思います。
野田総理が、政権交代の前に、ほんの二年前の話ですが、シロアリ退治の街頭演説をしております。
そのシロアリとは、実は国家をむしばむ天下り役人でありまして、シロアリの巣が独立
行政法人や特殊法人です。シロアリへのミルクもありまして、このミルクは特別会計の埋蔵金です。
民主党政権になって、シロアリ退治どころか、天下りが水面下でなされるのを放置しながら、その上にさらに現役出向という裏わざを正面から容認するという形になっておりまして、民間
企業にまで現役天下りを拡大してしまったというのが実態だと
思います。独立
行政法人というシロアリの巣も手をつけず、さらに特別会計というシロアリへのミルクも温存されていると
思います。
一九八一年から土光臨調というのが始まって、それをまねて行革をやるというんですけれども、土光臨調は
増税なき
財政再建でしたけれども、今回の話は、実は、まず
増税ありきで、
増税のためのアリバイづくりと言われても仕方がないのではないかなというふうに
思います。
次に、
資料の十一ページをごらんいただきたいと
思います。
この
資産売却と埋蔵金の話など、やっていないと
思います。かつて、特別会計のいわゆる埋蔵金を発掘しまして、簡素で効率的な
政府を実現するための
行政改革の推進に関する法律を立案し、特別会計
改革の道筋をつけたと自負しております私から見れば、全くやっておりません。
行革推進法は、これは小泉政権のときの話なんですけれども、
政策金融
改革、独立
行政法人
改革、総人件費
改革、国
資産負債
改革などをやっておりまして、それぞれその中に、今後五年間を目途にいろいろな数値
目標というのが書かれてあります。
改革の肝というのは、実は、二〇〇六年度から二〇一〇年度までの五カ年間に
財政の
健全化に総額二十兆円程度の寄与をすることを
目標とすると定めていることであります。要するに、このように数値
目標をきちっと出してやっていくわけですね。
小泉政権のときに、実は、
増税の前にやるべきことがあって、埋蔵金を掘り出し、私はその指示を受けてやりましたけれども、それで、結果的には、
増税はやりませんでした。
増税はやらないけれども
財政再建を頼みますというふうな指示を受けていますけれども、今はそういう指示がないから、ほとんどこのような、
財政再建というか、無駄とか埋蔵金の話とか
資産売却の話はやらないというふうに
思います。それに比べて、野田政権の特別会計
改革そのほかには金額が一切ないので、ほとんどやる気がないのではないかなというふうに思わざるを得ません。
この
資料に書いてあるように、
日本の
資産というのはOECDの中でも極めて突出してたくさん持っています。債務はたくさん持っているのはそのとおりなんですけれども、
資産もたくさん持っている。世界一でございます。負債だけが世界一、世界一と言うのは、すごくミスリーディングであると
思います。
最後に、十二ページ、公約違反の話です。
最近、
消費税については賛成より反対が多いというふうに言われておりますけれども、そもそも民主党というのは、
消費税を
増税しないと言って政権交代した。ちなみに、二〇〇九年の三党連立合意では、
現行の
消費税五%は据え置くこととし、今回の選挙において負託された政権担当期間内において、
歳出の
見直し等の努力を最大限行い、
税率引き上げは行わないと明言された。にもかかわらず、今回、
消費税増税法案というのは、一四年四月に八%、一五年十月に一〇%という形で
引き上げられて、これで政権担当期間内の
引き上げに当たらないという、はっきり言えば、詭弁を使っていると
思います。小泉政権のときのように、上げないと言って、最後まで上げることも決めなかったという潔さは全くないです。
民主党内では、代表選で
増税を掲げたので
増税は正当化されるという
意見があるかもしれませんけれども、それはあくまでも民主党の組織内の身内の論理でありまして、マニフェストに書かず、
増税しないと言ったのに
増税するというのは、
国民に対する背信行為であるというふうに言わざるを得ません。
出てくる数字は、実は、民主党政権になって、自公政権から膨らんだ数字を書いてあります。大体これで、構造的に十一、二兆円程度膨らんでいます。これは予算の組み方が全く下手だったということになるんですけれども。それで、今回の
消費税増税が
社会保障に行くというんですけれども、ここに消えちゃっているという説明もできると
思います。金に色はついておりません。
最後に、最近出ている軽減
税率の話をちょっと述べさせていただきたいと
思います。
軽減
税率というのは物品ごとにやるんですけれども、それは、物品の線引きが非常に難しくて、官僚の裁量権を極めて大きくします。はっきり言えば、軽減
税率というのは、世の中の物の数だけ租税特別
措置法があるようなもので、天下りをふやしたい官僚とか特定業界への
影響を持ちたい政治家にとっては極めて好都合な
制度です。
欧州では確かに歴史的にあります。ありますけれども、こうした問題があるので、低
所得者対策というのは
給付つき税額控除に移行するという流れになっております。
歳入庁というのは、税と社会
保険料を一体として、さらに、低
所得者対策には簡素な
給付を行う上で非常に役に立つと
思います。しかし、その簡素な
給付のかわりに軽減
税率を
導入すると、簡素な
給付は不要になってしまって、さらに、歳入庁をつくるに及ばないという
議論になるということを非常に恐れております。
以上で
意見陳述を終わります。御清聴ありがとうございました。(拍手)