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小野参考人 嘉悦大学ビジネス創造学部で
准教授をやっております
小野と申します。よろしくお願いします。
最近、
航空業界の
関係者の方と話していますと、笑えない冗談みたいな話が結構深刻に語られていまして、何なのかといいますと、近いうちに
JALが
ANAを買収しちゃうんじゃないかと。
何でそんなことが語られるのかといいますと、今、LCCが大変に、これから本格参入してきますね。さらに、
中東勢を含めて
海外の
エアラインが物すごく力を増強してきています。そういう中で、
国際競争はますます激化していきます。
さらに、二〇〇〇年以降を見ても、例えば
リーマン・
ショックだとか九・一一の
テロだとか、
イベントリスクがたくさん発生しているわけですね。そういったものが発生するたびに
エアラインの
経営というのは大きく揺さぶられてきています。実際、
JALが
破綻した直接の要因というのは
リーマン・
ショックだったのではないかというふうに私は考えております。
そういうふうなことが今後起こらないということは絶対に言えないわけですね。
競争環境も非常に激化していく。そういう中で、
日本勢の
競争力が低下してきたときに先に倒れるのは
ANAなんじゃないか、
JALの方がむしろ、今回の
公的支援、
会社更生法の適用でバランスシートが大変改善していますから、残るのが
JALで、
ANAの方が買収されてしまうんじゃないか、こんなようなことが真剣な顔で語られている。これはやはり、私はおかしいのではないかというふうに思っております。
そういうようなことを踏まえて、私の方からは三点ほど
お話をさせていただきたいと思っております。一つは
競争歪曲の問題、
二つ目が
国際競争の問題、
三つ目が
支援機構の
ガバナンスの問題です。
一点目なんですが、
競争歪曲を起こさないためにはどうしたらよかったのかというと、実は答えはそんなに難しくなくて、
支援機構の持っている
保有株を
競争入札にかければよかったわけです。全日空を含む
競合他社あるいは
投資家、ファンド、そういったような
プレーヤーに対して買収の
機会を与えればよかったのではないかと思っています。
実際、
支援機構と似た機能を持った
産業再生機構というものがかつてあったわけなんですが、
産業再生機構では、例えばダイエーとかカネボウとか、そういったような
大型案件を
再生する場合には、必ず
保有株を
市場で公開で
競争入札しているわけです。それは、なぜそういうことをしたのかというと、
政府が関与する形で
債務の
調整あるいは
競争力の
強化策というようなことを打っていくと、非常に強い
企業になって復活してきて、
競争環境をゆがめるような
プレーヤーになる
可能性があるということを踏まえて、
政府の
保有株、
産業再生機構が持っている株を
競争入札にかけた、こういうことだというふうに理解しております。
そういったような前例があるにもかかわらず、
支援機構の
保有株はなぜ
競争入札にかけられなかったのか。この点が一番大きな問題ではないかというふうに私は考えております。
支援機構の
方たちは、IPOというのが有力な選択肢だというふうに
更生計画上も書き記されているのでそれを誠実に実行した、こういうふうに
説明されているようですが、
更生計画というのはもともと
債務を返済するための
計画ですから、エグジットの問題とは別なことではないかというふうに私は考えています。
それから、この
競争歪曲の問題なんですけれ
ども、そもそも
国土交通省も
支援機構も、あるいはほかの
航空関係者も含めて、
事前に十分に認識できたことだったのではないかというふうに思っています。それに対して、EUのガイドライン的なものも含めて、なぜ
事前にきちんと整備されていなかったのかというところに課題があると思います。
今ここに至って、
国土交通省さんの方が
JALの
経営を監視するということを表明されています。あと、今後、例えば
羽田空港で供給される新しい
発着枠の
調整なんかで、
ANAにそれを傾斜配分することでこの
競争歪曲を緩和させるのがいいのではないか、こんなことも巷間語られているわけなんですけれ
ども、そうしたことをする場合に、必ず公正、透明な
ルールで実行されなければいけないのではないか、こういうふうに考えております。
なぜならば、
JALがこういった形で
経営破綻したという背景には、やはり
行政や政治が
経営に介入したということがあるのではないかと思うんですね。今回は、国が
再生に関与したことによって
競争歪曲が生まれたわけですから、出口についても国が一定の関与をするのは仕方がないことだというふうに思っています。ただ、それが実施される上においては、
公正性、
透明性、きちんとした
ルールに基づいて、オープンな
手続で行われなければならないだろうというふうに考えております。
それから、実はこうした
企業支援の問題というのは、
JALの問題にかかわらず、これからたくさん起こってくるだろうと思っています。つまり、
グローバル競争が激しくなる中で、
日本の
企業もどんどん
再編が進んでいます。
再編がどんどん進んでいきますと、
プレーヤーがどんどん大きくなっていきます。そういった
プレーヤーが倒れた場合、つまり敗者が巨大化した場合に、
政府は果たして
支援をするのかしないのか、もし仮にする場合にはどんな
ルールとか
手続が必要なのかというふうなことについて、しっかりと今後のことを踏まえて
議論し、
施策をつくっておく必要があるのではないかと思っています。
JALの件は、そのことについての非常にいい教科書なのではないかというふうに私は考えています。
それから二点目の
国際競争の問題なんですが、実は、今、
JALと
ANAの
競争にちょっと目を奪われているわけなんですけれ
ども、
日本発着の
日本勢の
シェアというのは、二〇〇〇年の
段階では大体四三%ぐらいあったというふうに推定されています。ところが、二〇一〇年の
段階、十年後に、二七%程度まで落ちているのではないかというふうに言われています。これは、
JALが不
採算路線から撤退したことによって
シェアが落ちたんだという
説明もなされているんですけれ
ども、十年間で一六ポイント、そんなに大きく低下するというのは、やはり
日本勢が
海外勢に対して
競争力が低下しているんだと見ざるを得ないのではないかというふうに私は考えております。
国際アライアンス、
JALの場合でしたら
ワンワールドに入っているわけなんですけれ
ども、そういった
国際連合に入っているから、
JALも
ANAも
経営が安泰なんじゃないか、こういう見方もよくあるわけなんですけれ
ども、実は今、
アライアンスの中での
競争になっているわけですね。その
アライアンスの中での
競争に勝てないと、
グローバルを担えるような
航空会社としては残れない。
つまり、例えば
キャセイ・パシフィックだとか、
大韓航空だとか、
中国国際航空だとか、そういうところが主にヨーロッパとかアメリカへの人の流れを担って、
日本勢はせっせと
キャセイや
大韓航空に人を運んでいくような
エアラインになってしまうかもしれないということです。そうなった場合には、
エアラインだけじゃなくて、
空港の方もローカル化してしまう
可能性があります。つまり、成田と
羽田が東アジアの
ローカル空港に転落してしまう
リスクがあるということです。その点を十分に踏まえておく必要があるのではないかというふうに考えています。
つまり、
ANAとても、このまま放置しておけば
競争に勝ち残れるかどうかわかりません。なので、
国際競争力をにらんだ
施策が必要なのではないかというふうに考えています。
三点目なんですが、
JALの
再生を担った
企業再生支援機構の
ガバナンスの問題です。
支援委員長でいらっしゃる
瀬戸委員長が、なぜ
JALの
管財人とか
社外役員として行かなければいけなかったのかというところがよく理解できません。これはつまり、
企業の
再生には極めて専門的な知識が必要なので、
企業再生の弁護士でいらっしゃる
瀬戸さんの力が必要だった、こういう
説明もなされているようですけれ
ども、実際には、中村さんという
再生のプロが専務として
企業再生機構にはいて、
JALの
役員を兼務されていました。なので、
瀬戸さんがいる必要はなかったのではないかというふうに考えています。
実際、
JALの
支援決定を含めて、重要な
意思決定の際に、
委員会から
瀬戸さんが外れられているという
状態が恒常化しているのは、私は余り好ましい
状態ではなかったのではないかというふうに考えています。
私の方からの
意見陳述は以上です。ありがとうございました。(
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