○
参考人(
橋本廣美君)
橋本です。よろしくお願いいたします。
この度、参議院の
調査会の
参考人として選任をいただき、御
意見を申し上げできる機会を得ましたことは、誠に有り難く、また大変光栄に存じております。
私は、現在、知的
障害児者の親たちが集まって、鶴岡という地方の小都市で、知的
障害児者本人はもちろんのこと、親や
家族も安心して暮らせるよう願い、活動をしている
橋本廣美という者です。
私たちはまさに、本日の案件であります
障害者の
セーフティーネットを目指して全
日本手をつなぐ育成会を頂点とし、各県、各市町村において組織しているうちの
一つの団体です。これまでの対外活動は、
対応する市役所へ要望することが多かったのですが、今日
意見を述べさせていただく参議院という立法府は、その機関の権能の大きさ、また
国民生活に与える影響力の大きさを
考えると感慨もひとしおです。
ただ、
参考人をお引き受けした後、
調査会からの資料が届き、今回もですが、これまでの
参考人の肩書を見て、余りにも著名な方ばかりで頭の中が真っ白になりました。それでも、仲間から
障害者と毎日一緒に
生活をしていなければ分からないことがあるからということで後押しをされ、少数派の
障害当事者の代表として勇気を振り絞って出てまいりました。
また、現在、内閣府において
障害者権利条約を基本として
障害当事者の視点から社会
施策全般を見直すため、障がい者
制度改革推進会議総合
福祉部会において法律改正の議論が本格化しています。そんな
制度改革の議論の真っただ中にあり、もろもろの意味合いを胸に秘め、率直に申し上げさせていただきたいと思います。
今日、
セーフティーネットというと、
雇用形態の多様化に伴って、非
正規雇用などによる
生活不安などを想定されますが、
障害者の
生活実態からすると、
社会保障と
家族の
扶養によって維持されているのが現実であり、それ以前の状態において
セーフティーネットが必要であります。
障害者には種別、いわゆる精神、身体、知的、
発達障害という大枠がありますが、生まれながらの
障害、
高齢障害、途中
障害、また状態の軽重など多種多様であり、個別的に比較すると切りがありません。そうしたことから、ここでは
障害という個性を抱えての
生活者が、
地域生活の中でどうしたら
障害者の
セーフティーネットになるかという視点で、次の三点について申し上げます。第一は、一生涯にわたる支援について。第二は、
障害者
雇用の義務化について。第三は、
障害者の
制度改革についてであります。
まず、若干私の体験や経過を申し上げます。平成元年に息子が小学校の特殊学級への入学と同時に親の会に入会し、現在に至っております。当時、精神薄弱者
福祉法制定から約三十年が経過していましたが、
地域においては、
福祉といえば老人
福祉、
障害者といえば身体
障害者としか思われていない
状況でした。特に、知的
障害児者に対する偏見はまだまだ克服されていない中、町中で
子供や親に向けられる冷たく突き刺すような視線を感じずにはいられませんでした。これが心のバリアです。
障害児者にかかわる国の法律においては全てで精神薄弱児者という表記となっていましたので、親とすれば国からも差別を受けているのではないかと思えるような気持ちになっていたことを覚えています。
国の知的
障害者へ対する
施策は、入所施設、医療機関支援の割合が大きなウエートを占めていて、在宅で頑張っている多くの
障害者や
家族には手を差し伸べてもらえず、
家族任せの
地域福祉と言わざるを得ない
状況でした。また、
対応する行政においても、
障害者に対して人権を尊重した積極的な姿勢が見受けられない時期にあったと思います。そのため、会の活動において、
地域で
障害者を支える仕組みに展望が見出せず、親亡き後はという会員の声が依然として根強くありました。
そして、この二十年余りの中で、様々の
障害者にかかわる
制度ができ、措置から契約、支援費
制度から
障害者自立支援法と、
障害者の取り巻く環境も大きく変わっていくこととなります。
〔
会長退席、理事関口昌一君
着席〕
それでは、第一の一生涯にわたる支援について申し上げます。
障害者
福祉においては、
障害のあるなしにかかわらず、みんなが支え合う共生社会の実現を目指すとしています。しかし、現実は、
障害特性が理解してもらえず、いじめや差別があったり、うまく判断ができなかったりと、困難な場面が待ち受けています。それは、知的
障害者の場合は、言葉でうまく自分の意思を伝えることができなかったり、相手の言っていることがよく理解できなかったりと、コミュニケーションをうまくできないことが大きな
要因となっています。もし、そんなとき、
障害者に寄り添ってくれる人やちょっと支えてくれる人がそばにいてくれたら、
地域で
生活をしているという実感を持つことができます。
人間は一人では生きていけないとよく言われますが、
障害者の場合は、特に人の支援がないと
生活をしていけません。
障害という個性のため、全てのライフステージで支援が必要となります。
障害者が
地域で
生活をするということは、
家族やグループホームの世話人、隣近所、職場、友達、
障害福祉サービス事業所等々、多くの方たちとつながり、かかわりの中で成り立っています。しかし、
障害者本人自ら、これら多くの人々とのつながりを構築することはできません。そのためには本人を取り巻く人々とネットワーク化させるコーディネート役が必要となります。それが介護
保険でいうケアマネジャーの存在です。
〔理事関口昌一君退席、
会長着席〕
制度的に
高齢者と
障害者が違うのを分かりつつ、
地域においては同じようにヘルパー利用をしていますので、介護
保険と比較させていただきます。
介護
保険では、介護
保険サービスを利用する際、要介護者一人に対して必ずケアマネジャーが配置されますが、
障害者が
障害福祉サービスを利用する場合は、必ずしもケアマネジャーのようなコーディネートをする人は配置されていません。以前からこの
障害者のケアマネジメントについて議論がされていますが、私たちの思いがなかなか形となって
制度化になっていません。
障害者
制度においても、きちっとケアマネジメントする支援者の配置を明記するべきであると思います。
高齢者の場合は
高齢に伴い何らかの支援が必要になったときからのかかわりですが、
障害者の場合は違います。
障害者一人一人のかかわりは長期間となります。
親は、
子供が生まれて、その子に
障害があると知らされたとき、とても大きな衝撃を受けます。絶望もします。そこから立ち上がり、克服し、
子供と一緒に歩もうとする気持ちへ切り替えなければなりません。そんなとき、生まれてから亡くなるまでの生涯にわたった
障害者のケアマネジメントを
専門的、体系的に支援する体制があれば、安心して暮らせる
セーフティーネットになると思います。
障害者の健康管理に関して若干触れておきます。
措置
制度においては、知的
障害者更生施設で、法的に、利用者に対し年二回の健康診断の実施が義務付けられていました。ところが、平成十八年の
障害者自立支援法が施行された
生活介護事業には、嘱託医を配置し
障害者の健康管理や療養上の指導を行うとなっていますが、就労継続支援事業においては健康診断の義務付けがなくなりました。
私の息子が通っているサービス事業所も、措置
制度までは健康診断を定期的に実施していましたが、新法で就労継続支援Bに移行した翌年の平成二十一年には年一回の実施となり、平成二十二年には事業所での健康診断を取りやめました。くしくもその年、利用者ががんの悪化により亡くなるということがあり、もし健康診断の実施を継続していたら体の異常が発見されたかもしれません。
知的
障害者の場合、コミュニケーションの不得手から、体の不調を理解してもらえないことがあります。また、こだわりのある自閉症者の場合、
家族でも健康診断の場所へ連れていくことが困難なときもあります。
障害者の健康診断を、顔なじみの支援員がいて、通い慣れた事業所でゆったりとした気持ちでできれば、
障害者も安心だと思います。
生活において健康は何よりも
優先することです。給付によって健康管理に差があってはならないと思います。自立訓練や就労継続支援の利用者についても健康診断の実施について義務付けるべきだと
考えます。
また、現在行っている国の
制度について若干触れてみます。
各ライフステージで相談支援や連携強化を図っていくため、
地域自立支援協議会の設置を進めています。しかし、その事務局となる相談支援センターの力量に差があり、形だけでき上がっていて、その
役割を十分果たせていないところもあります。そのため、
障害福祉においても
地域間の格差が生じているのが現実です。各地の支援協議会がどのように運営や活動をしているか、実態について検証を行い、
福祉先進地のレベルに引き上げるべきです。また、
福祉施策を充実していくためには財政負担が大きな問題となりますが、市町村では財源の裏付けがないと前に進んでくれません。国として、
地域間の格差を是正するため、早急に手だてをするべきだと
考えます。
次に、第二の
障害者
雇用義務化について申し上げます。
障害者の
就労支援は
障害者
雇用促進法によって
保護、保障されております。法律で義務付けられている
障害者
雇用率は民間が一・八%、地方公共団体二・一%、教育
委員会二・〇%となっていますが、私の住んでいる山形県の民間の
雇用率は、平成二十二年六月一日現在で一・五八%と、全国
平均の一・六八%よりも低い
状況にあります。現在、山形県では
四つのブロックに分け、それぞれの圏域に
就業・
生活支援センターが設置され、
障害者の就労促進に向けた支援や就労後の支援等を行っておりますが、達成できていないのが
現状です。地方においては、就労する場、企業の数が絶対的に少なく、企業側の
障害者に対する理解もまだまだ進んでいないのが起因していると思います。
国は、法定
雇用障害者数に満たない企業に、
障害者
雇用納付金
制度ということで納付金を徴収しております。その納付金は罰金ではなく、支払っても
障害者の
雇用義務を免れるものでないと言っております。でも、それ以上のことはありません。そのため、納付金を納めることで企業の義務を帳消しにしているとしか思えません。国は、促進法の一部改正で精神
障害の
雇用対策や在宅
就業障害者への支援など、
障害者の就労に向けて取組を強化していますが、
雇用率は下回ったままです。
この法律では、
障害があるがゆえに特別な配慮をすることを認め、その事柄を規定しているものです。配慮を認めないような
状況がいつまでも続くということは、法律そのものの否定、信頼を失うことになってしまいます。国も企業も、
障害者だから我慢してねとでも言っているようです。
障害者の就労における
セーフティーネットとしての
障害者
雇用促進法がその
役割を果たしていません。国として、
障害者
雇用納付金
制度を期限を切って廃止するなどの積極的な
対策が必要と
考えます。
次に、第三の
障害者の
制度改革について申し上げます。
日本は国連の
障害者の権利条約に署名をしております。条約に賛同し、条約を批准する意思のあることは表明していますが、批准には至っておりません。
障害者の権利条約にある合理的配慮は、
障害当事者のことだけを
考えた配慮でなく、
障害のある人もない人も含めた人の暮らしを
考えた配慮であるということで、
国民生活の
セーフティーネットを支える仕組みの基本になると思います。
障害者の権利条約は、現在、推進会議等で議論している
障害者
制度改革の大きな柱となっております。そして、
障害当事者も参画しての
制度改革はこれまでなかったことです。
障害者の権利条約の批准に向け、
先生方のお力添えで早期に国内法の整備が図られますよう、よろしくお願いします。
終わりに、去る三月十一日の
東日本大震災について触れさせていただきます。
大地震とその後の大津波は、太平洋沿岸部の町の様子を一変する大災害となりました。そして、大津波は福島第一原子力発電所をも襲い、大変な大事故となり、被災から一か月が過ぎましたが、多くの方たちが避難
生活を余儀なくされております。この災害で私どもが日ごろから心配している
障害者固有の実態が発生していましたので、
参考までに申し上げたいと思います。
連日、被災地の様子が報道されていましたが、その映像から災害弱者、特に、
家族は避難所になじめない
子供のため、寝泊まりをしたというのです。ただでさえ大変な避難所
生活で、
障害児を抱えての
生活がどんなに過酷かと思いを巡らせずにはいられませんでした。また、支援物資が避難所に届いても、
福祉施設や事業所でとどまっている
障害者には行き渡っていないとのことでした。余りにも被害が大きく、さらに広範囲であったこと、そして道路や通信が断たれたことにより、救助、救援に時間を要しました。岩手県や宮城県では四十か所で
福祉避難所が開設したと聞いております。
この度の
東日本大震災は、世界史上に残る大災害でありますが、被害地の
日本人の沈着冷静な態度、行動が世界中の国々から感嘆の声となって上がりました。そして、多くの国から支援をいただいていることは、まさしく世界に誇れる
日本人の心の評価をされているからだと思います。必ずや、世界中の人々が驚くような
復興を成し遂げることと思います。
是非、
復興計画の中に、
日本の心にふさわしい、誰もが安心して暮らせる
生活基盤、例えば、集合住宅で一階が
障害者用にバリアフリー、二階に支援センターやヘルパーステーションを完備し、
地域で
障害のあるなしにかかわらず、共に支え合うことができる新しい形の町づくりとなることを強く願っております。
日本の
福祉政策が世界に誇れるものとするため、
先生方におかれましてもこれから更なる御尽力を賜りますようお願いを申し上げ、これで私の
意見発表を終わります。