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江川参考人 江川と申します。よろしくお願いします。
私は、
検察の
在り方検討会議の
委員をやって、
検察という組織は、
窓一つない、堅牢な
とりでの
ようだという印象を改めて強くしました。そういう強い
閉鎖性の中で特異な
価値観がはぐくまれていくのだとも感じました。それはつまり、我こそが
正義である、
正義のためなら多少の問題は許されるという感覚です。
例えば、視察で訪れた
大阪地検で会った
検事さんの中に、
裁判所から
調書の
任意性を否定された
経験のある
特捜検事がいらっしゃいました。その方は、驚くことにこうおっしゃいました。
被疑者が年寄りなのに夜遅くまで
調べたり、声が大きかったというだけでしょう、実際は私より
被疑者の方がずっとぴんぴんしていましたよ、こうけろりと言われたのでした。彼がとった
調書の
任意性が否定されても、
上司から指導されることはおろか、どういう
調べをやったのかという問い合わせすらなかったとのことです。この
事件の
判決そのものは
有罪でした。
検察の
価値観では、
有罪判決さえとれば、つまり
検察の
正義が完遂されればほかのことは頓着しないということなのだなと感じました。
私は、この
検察の
在り方検討会議のきっかけとなった
郵便不正事件はもちろん、それ以外の幾つかの
事件を通して、どういう点が問題なのかを
調べ、
教訓を得たいと
思いました。
まず注目したのは、
大阪の貝塚市で起きた
放火事件です。
資料の一から四を後からごらんください。
知的障害のある
青年が逮捕され、
自白調書が作成され、
起訴されましたが、
検察側は九カ月後に
起訴を取り下げております。私もこの
青年に会いましたけれども、言語によるコミュニケーションにハンディがあり、
言葉のキャッチボールが非常に苦手でした。なのに、すらすらと語った
ような
調書が作成され、
公判前
整理手続の最中には、
検事が警察の
捜査報告書から本人の
アリバイ主張を削除させるという
証拠の
改ざんをしていたことも発覚いたしました。
どうしてこうなったのか確かめ
ようにも、
検察は一切協力をしてくれません。
法務省の
事務局を通して、私の意図を繰り返し伝え、文書で質問をしましたけれども、肝心な点はすべて、
お答えを差し控えるという木で鼻をくくった
ような回答でした。
本当は、なぜこういう失敗をしたのかを
外部の目も入れて
検証し、その
教訓をすべての
検事さんが共有し、同じ間違いを繰り返さないということが大事なのではないでしょうか。
検察の中でしっかり
検証すればいいというふうにお
思いかもしれませんが、私はそれは無理だと
思います。あれだけ問題になった
郵便不正事件でさえ、
最高検の
検証は不十分なものでした。
冤罪被害者である
村木さんの話を聞いていません。多くの
厚労省関係や凛の
会関係者の話も聞いていません。
例えば、凛の会のある
関係者は、
任意の
取り調べで
検事にどなられたり
弁護人を解任する
ように
指示され、言ってもいないことを書かれた
調書にサインを迫られたと言っています。これについては、
聴取書という私の
資料を添付してあります。
資料の七ページです。
しかし、その
検事は、
裁判所で、机をたたいたことだけは認めましたけれども、それはその人の態度が悪かったからだと述べ、
弁護人解任の
指示は否定をしました。その
検事というのは、
厚労省の元
係長を
取り調べ、
村木さんからの
指示で
偽造証明書をつくったという、事実と異なる
供述をさせた
問題検事であります。にもかかわらず、
最高検の
検証は、その
取り調べを行った者だけを聴取し、
取り調べを受けた側の話は全く聞いておりませんでした。この
取り調べを受けた側は、あの
検事の
証言は
偽証だと憤慨をしております。
この
事件では、三人の
法曹関係者がアドバイザーとして
検証に加わったことになりましたけれども、参加したのはでき上がった
調書類を読み解く
部分のみで、実際の
調査には参加をしていません。
確かに、フロッピーディスクの
改ざんをした
前田元
検事は
起訴されましたけれども、その
裁判に
傍聴に行きましたが、
被告人である
前田元
検事と
検察側の利害はまことに見事に一致して、追及の非常に甘い
茶番劇としか言い
ようのないものでした。その
傍聴記は、
資料五、六ページに掲載してあります。
なぜ事実と異なる
調書が量産されたのかという一番大事な点は、今もってやみの中です。この
ようなことから、
検察自身にすべてをゆだねて大丈夫だというふうには思えないのです。
検察という
とりでには、もう少し外の目、外の風が入る小窓が必要だと
思います。今の
最高検の中に、本気で変わらなければいけないと思っている方がいらっしゃるということは存じ上げていますが、そういう何人かの個人的な
思いに頼るだけでなく、
制度として、外の目、外の風が入る
仕組みが必要です。
例えば、先ほどの
ように、
裁判所から
任意性を否定されたり、みずから
起訴を取り下げたりといった問題があったときには、
外部の人を入れて
検証を行う
仕組みが必要です。
あるいは、
事後的であれ、
裁判官や
弁護人という外の目で
取り調べの
過程を
検証する
可視化を早く実現することも必要です。
可視化というのは
取り調べの経過を
検証可能にすることですから、当然、全
過程を記録しておくというのが基本だと
思います。よく、
可視化だけでは
冤罪は防げないと言う人がいらっしゃいます。そのとおりと
思います。しかし、それで防げる
冤罪もあることは明らかであります。
村木さんの
事件だけではありません。その六年前、
名古屋でよく似た
事件がありました。後ほど
資料の九ページ以降をごらんください。
名古屋市の
係長が関与した
事件に市の幹部もかかわっているという筋立てに基づいて、部長や
局長が逮捕されました。ずっと否認していた村瀬さんという
局長は、否認を続ければ何年も出られないと言われ、このままでは、既に
認知症を患っている父親に
自分のことが忘れられてしまう、苦労して育ててくれた父親に恩返しができない、何とかして一刻も早く外に出なければという
思いに駆られて、
検察の筋書きをすべて受け入れました。
一審で
無罪判決が出ましたが、
検察は控訴、村瀬さんは職場に復帰することができず定年を迎え、その後、高裁で
無罪が確定しました。村瀬さんは、
在り方会議のヒアリングで、公務員として三十数年間、ひたすらまじめに一生懸命働いてきたのに、その苦労は全く報われず、不本意に失われた公務員人生を返してほしいと涙ながらにおっしゃっていました。
この
事件でも、
取り調べの音声や映像があれば、もっと早く問題が明らかになり、村瀬さんの名誉も回復できただろうと
思います。それ以前に、
検事さんも外の目を意識していれば、早く出たかったら認めろみたいな
取り調べは行われなかったのではないでしょうか。
可視化に関する
法務省の中間報告では、年間二百万件も受理するので、全件を
録音するのは無理だというふうに言われています。かといって、罪名で仕分けて、重大
事件のみを対象とするのもおかしいと
思います。なぜなら、本人にとってすべて
事件は重大
事件だからです。
殺人
事件でも、事実に争いがなく、
録音、
録画をする
必要性が低いケースもあるでしょうし、交通
事件でも
必要性が高いものもあると
思います。
必要性が高いものからやっていくということが大事だと
思います。本人や
弁護人が要求した
事件は、その要求があった時点からすべてを
録音もしくは
録画するというふうにしたらいかがでしょうか。
今回、
法務大臣の
判断で、特捜部の
録音、
録画の試行は全
過程を含むことになりました。しかし、対象は逮捕した
被疑者のみです。実は、
冤罪事件というのは
任意捜査の段階で形づくられることが少なくありません。
村木さんの
事件も村瀬さんの
事件もそうでした。なので、
任意の
取り調べも要求があれば
録音をする、あるいは本人が持参した
録音機で記録をすることを妨げてはならないという対応も必要だと
思います。
今後、法制審を通じて刑事司法の
あり方全体を考えていくというのはいいことだと
思いますが、今この瞬間でも
冤罪の被害者は生まれているかもしれません。それを考えると、できるところから迅速にやっていくということが大切であり、政治に期待されるところでもあると
思います。
また、
可視化は
冤罪防止に役立つだけではありません。視察で行きました韓国で、現地の
検察・
法務当局からは、むしろ
可視化のメリットをたくさん伺いました。これについては
資料をごらんください。「韓国視察で分かったこと」というタイトルがついております。
適正な
取り調べで
自白をした
被疑者が、
公判になって、
無罪をとろうとか
裁判を引き延ばそうとして
調書をひっくり返すということはできなくなるのです。間もなく
裁判員
裁判が始まって二年になりますが、
裁判員の
負担を減らし、少しでも効率をよくするためにも
可視化は有効だと
思います。
最後に、
村木さんの
事件を通じてもう
一つ思うことがあったので、これだけ述べさせてください。
この
事件では、
取り調べのやり方についていろいろな
証言が出ましたけれども、
検事さんか
取り調べを受けた側か、どちらかがうそを言っているという状況です。こういう場合、私たちはしばしば、
取り調べを受けた側が責任逃れでうそを言っていると
思いがちだけれども、そうばかりは言えないということです。実は、このことは、村瀬さんの
事件などほかの
事件でも感じることはあります。
けれども、
検事さんが
偽証罪で
起訴されて処罰されたなんということは、私は聞いたことがありません。
検察という組織は、
捜査の側の問題については極めて対応が甘いというのはさまざまな実例が示していると
思います。それを考えると、
偽証という、
法廷を侮辱し、真相解明を妨げる行為の摘発を
検察だけの手にゆだねておくのがいいのかどうか、
検察以外にもこれを罪に問う
仕組みが必要なのではないかと思えてなりません。
あるいは、
検事さんという立場の公益性を考えると、一般人の
偽証とは別に、特別公務員
偽証罪の
ようなものがあってもいいのではないかとすら
思います。素人の
思いつきかもしれませんが、そういうことも含めて先生方には
議論をしていただきたいと
思います。
大変失礼な言い方になりますが、先生方も何がきっかけで特捜部の
捜査対象にならないとも限りません。たとえ身に何の覚えがなくてもです。それが
冤罪です。あすは我が身という認識で、迅速な対応をお願いしたいと
思います。
どうもありがとうございました。(
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