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米倉参考人 放射線医学総合研究所の米倉でございます。
本日は、このような意見を述べさせていただく機会を与えていただきまして、大変ありがとうございました。
まず最初に、改めまして、今回の
東日本大震災により被災された多くの方々に心よりお見舞いを申し上げたいと思います。
特に、災害の発生後四カ月半を経て、今なお、
東京電力福島第一
原子力発電所からの
放射性物質の放出により、多くの方々が避難を余儀なくされ、これによって身体的、精神的に多大の負担を強いられているという現状を考えますと、この状況を早急に解決する努力が求められているというふうに考えております。
まず最初に、今回の災害につきまして、三つの大きな特徴があるのではないかと思っております。
第一は、地震、津波に
原子力災害という大きな三つの災害が加わった
複合災害である点であります。第二が、現地における
医療体制の崩壊でありまして、このことが、緊急時にはもとより、
復興段階の作業においても大きなネックとなっております。さらに、三番目として、大規模な
放射能放出の
可能性は和らいだとはいうものの、今後も、かなりの期間にわたって環境に放出されてしまった放射能への対応が求められるという点があります。
このために、私どもが今まで参考にしてきましたマニュアルのみでは対応できず、教科書には書かれていないような事態に対して、私たちの英知を結集して最善の方策を考えていくということが求められているのではないかというふうに思う次第です。
放射線医学総合研究所は、
放射線医学、
放射線科学に関する私どもの能力を最大限に活用して、この困難な状況の克服に当たってまいりたいと思います。
本日は、
放射線被曝の影響について意見を申し上げる機会というふうに認識しておりますが、まずその前提として、少しお時間をいただきまして、
放医研の活動について簡単に御説明を申し上げたいと思います。お手元の資料に私どもの概要について記載しておりますので、適宜参考にしていただければ結構です。と申しますのも、今回の
原子力災害への対応は、
研究開発病院を擁します
放医研全体が、一体となって対応して初めて可能となっているというふうに考えるからであります。
放医研は、一言で申しますと、
放射線医学、
放射線科学の分野における、日本で唯一かつ世界的にも類例のない総合的な
研究機関であるというふうに考えております。今回の
原子力災害対応では、
医学応用あるいは
産業利用で
放射線がこれだけ身近になっているにもかかわらず、
放射線についていかに世の中に知られていなかったかを痛感しております。私
ども放医研は、
放射線をよく知り、
放射線から人々の体を守り、そして
放射線により病気を治すことをその業務の中心に据えて活動をしているわけであります。
御承知のように、太平洋上の
ビキニ環礁での第五
福竜丸事件を契機として、国民の
放射線の
影響等への関心の高まりと、
放射線の
医学的利用に関する研究の
必要性への認識の高まりを背景として、一九五七年に旧
科学技術庁所管の研究所として設立されました。
放射線に関する幅広い領域を扱うということから、医学、
生物学、
物理学、工学、あるいは薬学や獣医学といったさまざまな
専門家を結集した総合的な
研究機関として発足し、それ以来五十四年間、
放医研は、
放射線に係る
安全確保のための基礎的な研究を行うとともに、その
医学応用を推進する活動を同時に進めてまいりました。
放射線防護、
放射線の
医学利用という両方の側面から
研究開発を総合的に実施してきたことによって、
放射線に関する
専門家の養成と幅広い
人材育成に貢献することができたというふうに考えています。
放医研では、
放射線科学を通じて、人々の健康と、安全で安心な
社会づくりに貢献するという
基本理念のもとに、
放射線の
医学的利用のための研究、
放射線安全・
緊急被曝医療のための研究、そして
放射線科学領域における
基盤技術開発という三つの柱に対応した
センター構成により効果的な研究を実施しています。
このうち、皆さんよく
御存じだと思いますが、
放射線の医学への応用に関しましては、
中性子線に始まって陽子線、さらに近年は重粒子線を用いた
がん治療研究を先導しまして、診断については、
陽電子断層撮影、PETと言われる検査ですが、この方法の開発や、
分子イメージング等の
最先端技術でこの分野の先導的な役割を果たしています。
一方、
放射線防護の面では、
放射線の
生物影響に関する基礎的な研究を実施するとともに、一九八六年の
チェルノブイリ事故の際には、帰国者の除染や調査を行ったほか、一九九九年の東海村の
ジェー・シー・オー臨界事故の際には、患者三名の治療に当たるなどの対応を行ってまいりました。
今回の
原子力災害におきましては、
基礎研究者や技術者に加えて、医師、
看護師等を含めて、
研究開発病院を有する
放医研の特徴を生かして、全所的に対応しております。
災害発生の当初に、大量の
被曝患者が発生した場合にも対応できるように病院の
受け入れ態勢を整えていたことなど、
放医研でなければできなかった対応であったというふうに考えています。
さて、
緊急被曝医療体制について少し説明をさせていただきます。
今回の
東京電力福島第一
原子力発電所に係る
原子力災害への対応として、私
ども放医研は、
我が国の
原子力防災体制における第三次
被曝医療機関として、震災直後から現地に
被曝医療関係の
専門家を派遣し、
避難所等での住民の
スクリーニングの実施や、
発電所内の
作業従事者の
被曝等に対応した
医療活動を行ってまいりました。
我が国の
緊急被曝体制では、
原子力災害対策特別措置法に基づく
原子力防災体制において、
災害現場において
初期医療を行う機関をベースとして、広い意味での
医療圏において、軽微な被曝に対応する第二次
被曝医療機関という
ピラミッド構造を前提とし、さらに
内部被曝を含むような重篤な
被曝患者が発生した場合に対応する第三次
被曝医療機関という位置づけになっています。日本を二つのブロックに分けて、西は広島大学、東は
放医研が
原子力安全委員会により第三次
被曝医療機関として指定されているわけであります。さらに加えて、
放医研は、日本全体の
被曝医療の
取りまとめ機関となっています。
今回、不幸にして発生してしまったこの大規模な
原子力災害は、頻繁に起こるものではありません。その対応を持続可能なものにするためには、このような
階層構造のシステムが
資源投入の観点からも合理的であるとの判断は間違っていなかったというふうに考えております。
さて、次に、今回の災害への取り組みについて御説明をします。
放医研は、
我が国の
原子力防災体制における第三次
被曝医療機関として、震災直後から現地に
被曝医療関係の
専門家を派遣し、
避難所等での住民の
スクリーニングの実施や、
作業従事者の
被曝等に対応した
医療活動を行ってきたというふうに申し上げました。
その基本的なスタンスにつきましては、専門的な高度の医療を行う三次
被曝医療機関としての機能を果たすこと、それから、
放射線計測、防護、環境、医療の
専門家としての
現場重視の対応と助言を行うことを中心に、当初から全所的な体制を組んで対応しております。
放医研は、今回の
災害発生後、いち早く
被曝患者が発生した場合の
受け入れ準備を整えまして、翌日の朝八時過ぎには
緊急被曝医療派遣チームの第一陣を現地に派遣いたしました。
このように初動において迅速な行動ができましたのは、
放医研におきまして、一昨年、海外の施設における
放射線に関する
災害対応のため、
緊急被曝医療支援チーム、REMATというふうに訳しておりますけれども、これを設立しました。そして、諸般の準備をしてきたことが大きく貢献したものと考えております。残念なことに、最初の対応が海外ではなく国内になってしまいましたが、このようにあらかじめ準備していたことによって、
震災発生の翌朝に現地に第一陣を派遣することができました。
派遣チームは、現地における
緊急被曝医療や
汚染検査の支援等を行うとともに、現地のオフサイトセンターにおいて、専門的な立場から関係者への
指導助言等を行っております。
また、
放医研は、発災の当初から、
一般国民への
放射線に関する
情報提供にも注力しております。三月十四日には、
放医研のホームページにおいて、
放射線に関する
被曝医療に関する基本的な知識、あるいは沃素剤の服用に関する
情報提供と
注意喚起を行いました。
また、一般の方々への
放射線分野に関する
情報提供、特に、
放射線を正しく理解し、今回の事故の
健康影響を正しく判断するための材料の提供にも力を入れており、三月十四日から一般の方々の
電話相談を開始しております。七月末までに延べ一万二千件を超える相談を受けております。こうした一般の国民の方々の不安に対しても適切にお答えしていくことは、
放医研としての責務であるというふうに考えております。
さて、本日は、
放射線被曝による影響について意見を述べるようにとのことですので、以下、
放医研が長年行ってまいりました
放射線と
放射性物質の人体に与える影響について、これまでの研究の成果を踏まえて、この問題について私の考えを述べさせていただきたいと思います。
まず、
放射線被曝による生物への影響は、大きく、
確定的影響と
確率的影響に分類されます。少しわかりにくい言葉ですけれども、できるだけわかりやすく説明をさせていただきたいと思います。
確定的影響というのは、ある
レベルよりも高い線量で見られる影響ですので、例えば、
放射線が当たったときに毛が抜ける、脱毛といったものがこれに当たります。
放射線を一度にまたは比較的短期間に全身に浴びますと、受けた線量に応じて吐き気、嘔吐、皮膚のやけど、脱毛といった
急性症状が起こります。これらはいずれも
確定的影響でありまして、これらの症状は受けた線量が大きいほど症状が早く、強く出るという特徴があります。
また、この症状が出るかどうかに、最低限の線量、これを閾値と申しますが、この閾線量があり、その
レベル以下の線量では影響が出ません。一般に、千
ミリシーベルト以下の
放射線量ではこれらの急性の
身体症状は見られないというふうに考えられています。
すなわち、
確定的影響というのは、細胞が損傷を受けて
機能障害を来すことによって生じるもので、閾値があるわけです。これに対しまして、たった一個の細胞の変化によっても起こり得る
可能性のある影響を、
確率的影響というふうに呼んでおります。これについては、後で説明をさせていただきます。
次に、組織が回復するという現象と閾値について、ポンチ絵を使って、お手元の資料で十ページ目になりますが、少し説明をさせていただきます。
もし、わずかな線量の
放射線によってごくわずかな数の
細胞機能が失われたとしますと、この場合には、残った細胞が失われた細胞の機能を補うということが起こりますので、回復してまいります。線量がそれよりも少し高くなって、失われる細胞の数がふえたとしましても、まだ回復が可能であります。ところが、さらに線量が高くなると、残された細胞だけでは機能が十分に回復できずに、その組織が担っている役割に応じて、機能が失われたり、形の異常が起こってくるわけです。
そういった意味で、ある程度までの線量では影響が見られず、その線量を超えると障害があらわれる線量、これを閾線量というふうに呼んでおります。
これに対しまして、
放射線を受けて十年程度してからがんが増加することが知られております。がんの発症は、
放射線のみによって起こる現象ではなくて、ふだんの生活の中でもある一定の割合で起こってくるものが、
放射線によってその頻度が高くなるということで、
確率的影響というふうに呼ばれております。
原爆被爆者の方の
健康調査などの結果から、
放射線被曝によって、将来、その方ががんによって死亡される確率が、千
ミリシーベルトで数%増加すると推定されています。このときに、では、それよりも低い線量ではどうなのかということが問題になるわけでありますけれども、一般に、百
ミリシーベルト以上の線量では、線量に比例してがんの
リスクが増加するというふうに考えられています。ところが、百
ミリシーベルト以下の低い線量では、この関係は明らかではありません。
そこで、閾値なし
直線モデルという考え方が提唱されました。これは、
放射線防護の観点から出されたものでありまして、低い線量における
放射線影響の
リスクについては、直線的な仮説を採用しています。これが閾値なし
直線モデルというもので、疫学的な観察で認められています影響の下限を、それよりも低い
放射線レベルまで直線的に延長して、
リスクを推定するものです。
ところが、実際に私たちの生活を考えてみますと、もともと、日本人の三分の一はがんによって死亡するというふうに考えられています。がんによって死亡する
リスクが三〇%という非常に高い中で、ごくわずかな
がんリスクの増加を見つけようとするので、これには限界があるわけであります。さらに厄介なことに、それぞれのがんが、
放射線で起こったのか、それ以外の原因によるのかを区別することはできません。これは、発がんという複雑な
生物現象と関係しており、特に、低い線量の場合には、確たる影響を見出すことが極めて困難であります。
現在の
放射線影響に関する国民の方々の漠然とした不安は、この
直線モデルの立場に立って、どんなに低い
放射線の被曝を受けてもがんなどの
生物影響の
リスクがあるという立場の情報と、低
線量領域での
一定水準での
生体防御機能を認める立場からの情報が入り乱れて社会に発信されていることから来ているというふうに考えております。
それでは、この低い
線量領域における
生物影響の有無とその
メカニズムをどうすればいいのかということが大事な問題ですが、残念ながら、先ほども言いましたように、この
メカニズムはまだ解明されていないということで、私
ども放医研が継続的に取り組むべき難しい課題の一つだと認識しています。
実際に、
チェルノブイリ事故の際に、非常に低い線量まで考えて予測された膨大な
がん死亡率というのが
マスコミ等に出ました。ところが、現実にはこれが観察されていないということは、
直線モデルが必ずしも実際の
健康影響を反映するものではないということを示す
状況証拠の一つでもあるかなとも考えられます。
現在、福島県におきましては、県民の
健康調査の一環として、住民の方々の
被曝線量評価のための作業が行われています。
放医研も協力させていただいておりますが、
放射線の、生物、つまり私
たち人間への影響を考えるに当たって、まず
被曝線量がどの程度であるのか、また、どのような時間経過でこの線量が与えられたのかについて、十分に調査されなければならないと考えております。
次に、非常に社会的な関心事になっております
内部被曝について少し説明をさせていただきます。
この問題についてのさまざまな情報を見ますと、しばしば誤解やその
リスクが誇張されているように見受けられます。
内部被曝では、線源が体の中にあるということ、あるいは長期間にわたる被曝であるということが強調されております。これらはいずれも事実でありますが、実際のところは、
内部被曝だから特別に危険だということではなく、影響はその与えられている線量によるということを御理解いただきたいと思います。
内部被曝の線量を評価するにはどのようにするかといいますと、一つは、体の中に入った
放射能そのものが、
物理的半減期といいますけれども、この
物理学的半減期に従って減少してまいります。
放射能そのものの減衰と、体の中に入った
放射性物質が代謝などによって体内から体外に排出されていきます。残った
体内蓄積量の減少、これを
生物学的半減期といっていますが、この二つの減衰を考慮して、大人の場合ですと五十年間、子供の場合ですと七十歳に達するまでのすべての期間にわたる
被曝線量の影響、当然、
放射線は減衰してまいりますので、広範囲になればどんどんその影響は低くなりますけれども、これらをすべて織り込んだ上での
集積線量として、
預託実効線量、難しい名前を使いますけれども、この線量が与えられています。
このように、正しく行われた
線量評価に従いますと、影響が出るかどうかという判断は、
外部被曝による
線量評価と同じ基準で扱うことができます。
実際に、今まで
放医研において実施しましたホール・ボディー・カウンターによる
福島県民の方々の
内部被曝評価では、これまでのところ、治療が必要であったり、
健康影響が心配されるという方は見つかっていないということであります。
先ほどお話をしましたように、
外部被曝と
内部被曝というのは、もともと、同じ基準で評価できるように測定された
シーベルトという単位に基づいています。この
シーベルトは、よく誤解をされるのですが、実際に物理的に測定している
放射線量ではなくて、
放射線の影響を加味した線量であります。いろいろな種類の
放射線がありますので、そのいろいろな種類の
放射線の影響を比較するために考え出された指標だというふうにお考えください。それですので、体の外からの
放射線被曝であっても、体の中に入ってしまった
放射性物質からの影響、これらを両方足し合わせることによって健康への影響を評価できるということになります。
ただ、この場合に、一つだけ注意が必要です。それは、
放射性物質の種類によっては、体のある部分だけに極めて強く作用することがあります。例えば
放射性沃素による甲状腺への被曝などでありまして、これについては、その集積する影響を最も受けやすい臓器について別の判断というのが求められます。
さて、その次にもう一つ、今回の福島の状況は、また別の問題を抱えています。これは、極めて長期間にわたる被曝による影響はどうなのかという単純な疑問であります。
御存じのように、人を対象としました疫学的な研究というのは、多くが広島、長崎の原爆の場合のように、瞬時に
放射線を受けた場合に基づいています。これと、比較的長い期間にわたる
放射線による影響というのをどのように比べるかというのが今一つの大きな課題になっております。
その例としては、例えば、比較的
自然放射線が高い地域に住んでおられる方々が何十年にもわたって受け続けた、こういう住民の方々の
発がんリスクを比較することができます。
それが、お手元の資料の十六ページに比較が載せられていますけれども、原爆の場合には、百
ミリシーベルトを超える線量では有意な
発がんリスクの増加が見られます。ところが、ここに示しますインドにある
自然放射線の高いケララという地域の住民につきましては、じわじわじわじわと
放射線を受けておりますので、合計で五百
ミリシーベルトという高い線量を超えても
発がんリスクの増加が見られないというふうに報告されています。
これらのデータからは、合計の線量が同じであれば、一回に受けるよりも、長期間にわたって受ける場合の方が影響が少ないということが考えられます。
このような結果は、低い線量の
放射線に対する生体が持っている本来の
防御機能というのを考えると説明がつきます。
御存じのように、私
たち人類あるいは地球上の生物は、この地球に生物が誕生してから数十億年にわたって常に
放射線を浴び続けてきました。その進化の結果として現在の生物が存在しますので、
放射線に対してはある程度の
抵抗性を持って存在しているわけです。この
防御能力というのをどのようにはかるかは現在のところ非常に難しいわけでありますけれども、もしごくわずかな
放射線を長期にわたって受けた場合に、この
防御能力を超えなければ影響がなく、超えたとしてもその程度が軽くて済むのではないかということが考えられます。
実際にこの
防護能力がどれぐらいの
レベルなのかということについては、現在まだ解答はありませんが、私たちが少なくとも毎日受けている
自然放射線よりも高い
レベルのどこかにあるのではないかなということが推測されます。
このときに問題となりますのが、常に受けている線量、
線量率といいますけれども、福島で今起こっている高い
線量率と呼ばれるものは一体どれぐらいなのかというのを私たちが日常で経験するものと比べたのが、十八ページにある図であります。
ここに示しますように、東京都は現在、非常に低い線量になっております。これは
福島原発の事故が起こる前の線量、〇・〇三マイクロ
シーベルト・パー・時、一時間当たりこれぐらいの線量があるというふうに観測されますけれども、まず、日本国内でも地域によって大きな差があります。岐阜県では〇・〇八、これより高いところも、関西地区等、いろいろなところに存在します。その理由としましては、実は、岩石等から出る
放射線から非常に大きな影響を受けているでしょう。
例えば、温泉のある地域では、ラジウムから出るラドンによってしばしば高い
線量率、これは、ここに書かれている三朝温泉等よりもはるかに高い
線量率も観測されているようであります。
一方、海外に目を向けますと、これよりもさらに高い、日本は比較的
自然放射線の低い地域でありますので、ヨーロッパ等の町においては、これよりも高い
線量率が見られることがあります。
それから、スウェーデンのデータをそこに示しておきましたけれども、住んでいる環境によっても大きく違います。特に石づくりの建築物の中では、岩石から出てくる
放射線によって
自然放射線が高くなるという傾向もあります。
さらに、高い山に登ってみますと、宇宙からの
放射線の影響を強く受けまして、
線量率が高くなります。富士山では、東京都の地表から比べますと約五倍程度の
線量率になりますし、高い高度を飛んでいます航空機や宇宙ステーションは、これよりもはるかに高い
線量率となっています。
このように、私たちは、大きな幅を持った
線量率の中で生活しているということをよく理解しておくことも重要ではないかと考えます。
最後に、まとめになりますけれども、
放医研は、今回の
原子力災害への対応として、以下のような課題について注力してまいりたいというふうに考えております。
まず第一に、
放射線被曝の影響に関する
健康調査であります。
住民の方々の
健康調査につきましては、福島県の方でこれから三十年にわたってやっていかれるということですので、積極的にそちらの活動に協力してまいりたいと思っていますが、それに加えまして、原発の作業者や、緊急対応を行っていただいた自衛隊、消防等の方々、こういった方々の
健康調査を長期間にわたって追跡する必要があると考えております。これらの方々は、比較的高い線量を受けられた方ですので、特にそれが重要となります。
問題点は、省庁の壁をいかにして乗り越えて、これらの方々をまとめて追跡調査するかというふうに考えております。
二番目が、低線量の
放射線の影響研究であります。
特に小児への影響、それから、先ほど言いました長期間の被曝の影響、こういう基礎的な研究成果を蓄積して、その成果を生かしてまいりたいと思います。私
ども放医研では、子供に対する影響を、
放射線影響の年齢依存性研究の一環として長年にわたって取り組んでまいりました。
これまでの動物実験を用いた研究では、高い線量の場合には、発がん率等を指標とした感受性が小児期で高いことが示されています。大体二倍から三倍の感受性があることが証明されています。ところが、低い線量におきましては、小児期の被曝でも、被曝のない群との間に有意な差が見られないことから、低い線量を受けたときの影響というのは明らかではありません。
これと、長期間にわたって低い線量を受け続けたときの影響、こういったことは今後明らかにしなければならない極めて重要な課題であるというふうに考えています。
三番目が、
放射線に関する教育と研修の充実であります。
今回の事故対応に当たる中で痛切に感じられたことは、医療関係者を含めまして、
放射線に関する基礎的な理解がいかに不足していたかという問題です。それからもう一つは、
放射線に関する正確な情報をタイムリーに伝達することの重要性も挙げられます。
私どもは、大学医学部、医療従事者あるいは
緊急被曝医療の関係者、そして学校教育の現場等における
放射線に関する基本的な素養を身につける活動について、積極的に対応してまいりたいと思います。
発災直後の
緊急被曝医療対応におきまして、
放射線に関する知識が少ない医療関係者が現場から離れてしまった、あるいは、サーベイメーターによる証明がなければ医療を受けられない、そういった事態も現地では起こったやに聞いております。これを考えますと、これまでの医学教育において、いかに私どもが
放射線関係の教育を怠ってきたのかということを痛切に感じさせられます。
実は、三月十一日の発災直前に、医学教育の内容に
放射線防護の項目を多く盛り込んだ改訂をお願いしておりました。今後、
放射線に関する素養を十分に持った医師が全国的に配置されることこそが、
緊急被曝医療の基盤を形成することに貢献するというふうに考えています。さらには、医師には、
放射線影響への不安を訴える患者様への適切な対応が求められているわけでありますので、
放射線をわかりやすく国民に理解させるコミュニケーション能力についても従来以上に求められてくるのではないかと考えます。
放医研は、こういったことのための必要な環境づくりにも努力を惜しまない覚悟であります。
中学校指導要領の理科に
放射線に関する事項が組み込まれたところではありますけれども、
放医研も副読本の監修などでの面で協力をしておりますが、この機を活用して、早い段階からの正確な知識を提供する仕組みを整える必要があるというふうに考えております。
さらに、四番目が、
リスクコミュニケーションであります。
社会が状況を正しく認識するためには、正確な情報が伝達され、
リスクが正しく理解されなければなりません。そうすることによって初めて、
放射線に対する社会の不安を和らげることができると考えます。
放医研は、今後、
放射線分野の
リスクコミュニケーションに関する活動も一層強化してまいりたいと考えております。
これまで
放射線になじみのなかった人々は、ともすると過度の不安を抱きがちであり、このような人々の懸念を払拭するようなわかりやすい
情報提供が必要で、こうした努力が初等教育の段階から行われるよう、切に希望する次第です。
放医研は、
放射線の
生物影響という視点から基礎的な研究を進める中で、その成果を社会にわかりやすい形で発信していくとともに、重粒子線がん治療等の研究推進を通じて得られた知見を最大限に活用しつつ、また、
研究開発病院という資源を最大限に活用して、
緊急被曝医療体制の中心として、今回の
原子力災害に今後も適切に対応してまいる所存であります。
最後になりましたが、本日にこのような意見表明の機会をいただきまして、まことにありがとうございました。これで私の意見陳述を終わりにしたいと思います。(拍手)