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白川参考人 日本銀行は、毎年六月と十二月に、通貨及び
金融の調節に関する
報告書を国会に提出しております。最近では、本年六月十日に、平成二十二年度下期の
報告書を提出いたしました。今回、
日本経済の動向と
日本銀行の
金融政策運営について詳しく御
説明申し上げる機会をいただき、厚くお礼を申し上げます。
最初に、
我が国の経済
金融情勢について御
説明申し上げます。
我が国の経済は、三月十一日に
発生した
東日本大震災の
影響により、生産面を中心に下押し圧力の強い状態に陥りました。
震災の
影響で、広
範囲にわたる
地域において生産
設備が毀損されたほか、
被災地の工場で生産されていた部品や素材の供給に制約が生じたことなどから、サプライチェーンにも障害が生じました。さらに、発電
設備が大きく毀損されたことに伴って、電力供給面での制約も生じました。これらの供給面の制約などから、生産活動が大きく落ち込み、輸出も減少しました。また、
企業や家計のマインド悪化もあって、
民間需要にも相応の
影響が及びました。
震災発生後四カ月を経て、現在、
我が国の経済は、
震災の
影響による供給面の制約が次第に和らぐ中で、持ち直しています。生産活動は、サプライチェーンが当初の見通しを上回るペースで着実に修復されてきていることなどから、このところ持ち直しの動きが明確になっています。電力問題も、この夏場については、電力会社の供給能力の増強に加え、
企業及び家計における節電や需要平準化の工夫などによって、当初懸念されていたほどには、経済活動の大きな制約とはなっていないと見られます。輸出は、生産活動の持ち直しを受けて、増加に転じています。国内
民間需要についても、家計や
企業のマインドが幾分改善するもとで、持ち直しつつあります。
日本銀行が今月初に公表しました六月短観の結果を見ますと、
企業の業況
判断は、
震災の
影響がほとんど織り込まれていなかったと見られる三月
調査対比では悪化しましたが、先行きについては、製造業を中心に、多くの
企業が改善を見込んでいます。また、
設備投資計画を見ましても、製造業を中心に三月
調査対比で上方修正されるなど、しっかりとしたものとなっており、
民間企業の
設備投資が持ち直しつつあることが示されています。
先行きの
我が国経済については、供給面での制約がさらに和らぎ、生産活動が回復していくにつれて、海外経済の改善を背景とする輸出の増加や、
復興需要の顕現化などから、本年度後半以降、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。
金融環境を見ますと、コールレートが極めて低い水準で推移する中で、
企業の
資金調達コストは低水準で推移しています。
企業から見た
金融機関の貸し出し態度は、引き続き改善傾向にあります。CP
市場では、良好な発行
環境が続いています。社債
市場では、電力会社が発行する社債については、発行条件をめぐり、発行体と投資家の目線がそろいにくい
状況が続いていますが、全体として見ますと、良好な発行
環境となっており、発行体のすそ野にも広がりが見られています。こうした中、
企業の
資金繰りについては、
中小企業を中心に一部で
資金繰りが厳しいとする先が見られていますが、総じて見れば、改善した状態にあります。
物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、四月に、二〇〇八年十二月以来二年四カ月ぶりにプラスになった後、五月も、四月と同様、プラス〇・六%となっています。先行きも、消費者物価の前年比は、小幅のプラスで推移すると見ています。ただし、本年八月には消費者物価指数の基準改定が予定されており、前年比のプラス幅が下方に改定される
可能性が高いことも
認識しています。
以上を踏まえますと、
日本経済は、やや長い目で見ますと、物価安定のもとでの持続的な成長経路に復していくと考えられます。
続いて、以上の見通しをめぐるリスク要因について御
説明します。
景気については、サプライチェーンに関する懸念は和らいでいますが、
震災が家計マインド等を通じて及ぼす
影響には、なお注意する必要があります。また、この夏を越えて、やや長い目で見た電力の供給制約については、不確実性が幾分増していると考えられます。海外経済をめぐるリスクに関しては、バランスシート調整が米国経済に与える
影響や、欧州のソブリン問題の帰趨について、引き続き注意が必要です。新興国、資源国については、
金融引き締めが続けられているにもかかわらず、高成長が続く中、インフレ圧力は鎮静化していません。このため、物価安定と成長が両立する形で経済がソフトランディングできるかどうか、不確実性が大きいと考えています。
物価面では、国際商品市況の一段の上昇により、
我が国の物価が上振れる
可能性があります。一方、中長期的な予想物価上昇率の低下などにより、物価上昇率が下振れるリスクもあると見ています。
最後に、
日本銀行の
金融政策運営について御
説明申し上げます。
日本銀行は、
日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するために、包括的な
金融緩和政策を通じた強力な
金融緩和の推進、
金融市場の安定確保、成長基盤
強化の
支援という三つの
措置を通じて、
中央銀行としての貢献を粘り強く続けています。
強力な
金融緩和の推進という点では、まず、オーバーナイト物の
金利を、ゼロから〇・一%
程度という実質的にゼロの水準にしています。その上で、この実質的なゼロ
金利政策を、物価の安定が展望できる情勢になったと
判断するまで継続することを約束しています。また、短期
金利の低下余地が限界的となっている
状況の中で、
金融緩和を一段と強力に推進するために、長目の
市場金利の低下や各種リスクプレミアムの縮小を促す
措置を講じています。具体的には、資産買い入れ等の基金という新しい枠組みをつくり、その基金を通じて、固定
金利方式の共通担保
資金供給オペレーションと多様な
金融資産の買い入れを行うというものです。この買い入れの
対象としては、長期
国債、国庫短期証券のほか、CP、社債、指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J—REIT)といったリスク性資産も含んでいます。
震災直後には、不安心理の広がりやリスク回避姿勢の強まりが実体経済に悪
影響を与えることを未然に防止するため、基金を通じた
金融資産の買い入れを、リスク性資産を中心に増額しました。この結果、当初三十五兆円
程度の規模で開始した資産買い入れ等の基金は四十兆円
程度まで拡大しています。
こうした強力な
金融緩和の推進に加え、
日本銀行は、
日本経済の成長基盤
強化を
支援するための
資金供給を実施しています。
日本経済は、
震災前から、成長力の趨勢的な低下という課題に直面していました。こうした成長力の低下は、長期にわたる経済の需要不足をもたらし、デフレの根源的な要因にもなっています。今回の
震災を経て、この成長力の引き上げという問題は一段と重要性を増しています。
以上のような
認識に基づいて、
日本銀行は、
日本経済の成長基盤の
強化に資する融資や投資を実施した
金融機関に対し、
国債等の担保を裏づけとして、最長四年間、極めて低い
金利で
資金を供給しています。さらに、先月の
金融政策決定会合では、本
資金供給について、新たに貸付枠を設定することにしました。新たな貸付枠では、
金融機関による出資等の資本性を有する投融資や、在庫や機械などの動産、あるいは売り掛け
債権などの
債権を担保に行う融資、いわゆるABLなど、従来型の不動産担保や人的保証に依存しない融資などの
取り組みを
対象としています。これにより、
金融機関が
金融面の手法を一段と広げ、
我が国経済の成長基盤の
強化に向けてさらに活発に取り組むことを期待しています。
以上に加え、
震災発生後、
日本銀行は、
我が国の
金融機能の維持と
資金決済の円滑を確保するため、
民間金融機関とも協力しながら、
被災地への現金供給や
日銀ネットを初めとする主要な決済システムの安定的な稼働の維持に努めました。また、
金融市場の安定化を確保するため、連日、
市場の需要を満たす大量の
資金を供給しました。さらに、四月には、
被災地の
金融機関を
対象として、
復旧復興に向けた
資金需要への初期
対応を
支援するため、期間一年の
資金を〇・一%の低利で供給するオペレーションを総額一兆円の規模で導入しました。同時に、
被災地金融機関の
資金調達余力を確保する観点から、
被災地の
金融機関が
日本銀行から
資金調達する際に差し入れる担保の要件を緩和するという
措置も実施しています。
日本銀行としましては、今後とも、
震災の
影響を初め、先行きの経済、物価動向を注意深く点検した上で、必要と
判断される場合には適切な
措置を講じていく
方針です。
ありがとうございました。