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松浦参考人 公益財団法人原子力安全研究協会の
松浦祥次郎でございます。
私は、原子力の利用というのが社会に非常に大きな利益を与えるものと考え、過去五十年、自分の人生のすべてをそれに費やしてまいりました。しかし、今回のこのような重大な
事故、特に
周辺の人々のコミュニティー、生活をほとんど崩壊させるような
事故が起こったことに関しまして、非常にざんきにたえず、まことに申しわけないことと思わざるを得ません。
しかし、一方で、今でもやはり原子力の利用というのは社会に非常に大きな役割を果たし得る
可能性があり、またそれも必要であるという考えには変わりはないわけでありますが、
事故の
状況、日々もたらされるニュース等に向かいますと、自分の考え方と
事故の状態との間の葛藤に日々悩まざるを得ない、それが
正直な気持ちでございます。
本日は、このような席上で私の
意見を聞いていただけるという機会を与えていただきまして、深く感謝しております。
本日、ここで申し上げたいことは、お手元にお配りさせていただきました資料にございますように、五項目でございます。
まず初めに、
福島第一
原子力発電所事故に対する基本的な認識でございます。そして、第二番目に、原子力災害対策マニュアルの活用について、三番目に、
原子炉一、二、三、四
号炉の今後の
対応において重要な事項、四番目に、
周辺地域の放射能汚染
状況の実測把握、そして最後に、
事故の原因究明と対策でございます。
時間も余りございませんので、極めて簡潔なものでございますけれども、述べさせていただきたいと思います。
一番目の、
福島第一
原子力発電所事故に関する基本的な認識でございますが、これは、大自然が我々に与えた挑戦であるというふうに認識しております。そして、この挑戦への応答に耐え切れなければ、あるいは耐え切らなければ、我々は原子力エネルギーを利用する資格を失うものではないかというふうに考えます。敗退は将来にわたる我が国のエネルギー供給保障に大きな障害を与えるというばかりでなくて、国際的にもエネルギー供給保障に重大な影響を及ぼすおそれがあると思います。
これにつきましては、現在いろいろ議論がございます。新しいあるいは自然エネルギーを使うとか、その他のいろいろ可能な原子力以外のエネルギーを使うとかという議論もございますが、一方で、ただいま原子力の果たしている役割を見ますと、やはり続けるべきであるという議論も片一方にございます。
しかし、とにもかくにも、明らかなことは、このままあきらめますと、将来に対してエネルギー供給上非常に大きな障害が生ずるということではないかと思います。
一方、今回の
事故を見ますと、膨大な量の高温
放射性物質の塊というのは、極めて
対応の難しいものでございます。これは、既に過去に起こりました大
事故、旧ソ連のチェルノブイリ
原子炉事故であるとか、あるいは米国のスリーマイル島二
号炉の
事故においても示されたとおりでございますが、今回の
事故は、その
二つの
事故で扱われた
放射性物質の量よりもまだ多いものでございます。したがいまして、今後のその
抑制に関しましては非常に長時間、長期間かかりましょうし、技術的にも非常に困難なことが多くあると思います。しかしながら、我々の持っております最高レベルの知識や経験を糾合して着実に対処していけば、必ず
抑制に成功すると私は考えております。
もちろん、これに関しましては、国際的にもいろいろ関心が深く持たれておりますので、必要な国際的協力を求めるのにやぶさかであってはならないのではないかと思います。むしろ、日本がイニシアチブをとって、国際的な
対応のもとに最終的な段階まで
対応を進めるというのが適切な
道筋ではないかというふうに思っております。
二番目の、原子力災害対策マニュアルの活用でございます。
これにつきましては、今既に
班目委員長からも多少御
説明がありました。我が国では、
平成十一年に発生しましたジェー・シー・オー
事故を教訓といたしまして、
原子力災害対策特別措置法が制定されまして、これに基づきまして、原子力災害発生時に
対応する原子力災害対策マニュアルがつくられております。災害発生時の
対応を効果的に
実施しようとしますと、マニュアルに沿って実際的な訓練を繰り返して習熟しておくことが必要でありまして、こういう訓練が毎年進められてきたということは実態としてございます。
しかしながら、
事故というのはそのときそのときで非常に態様の変わるものでございますので、その態様に応じて適切に柔軟に
対応がされるべきというのは当然でありますけれども、もし、最初
事故が起こりましたときに、その
対応がよくわからない、今までに経験のないものであったというような場合には、最初はまずマニュアルのとおりに動くというのが適切なのではないかと思います。
これは、こういう
事故に当たります人々の数というのは非常に多いものでございますので、
対応に関する共通の認識というのを皆が持っているということが、その後の
作業を非常に円滑にすることでありますので、そういう点で、まず最初はマニュアルに従う、それから適宜変えていく、そういうことが必要だと思います。
これは、かなりそういうふうな努力をされたようでございますけれども、少なくとも外から見ておりますと、今回はそのマニュアルがどのように活用されたかというのがよく見えないように思いました。このことは、今後の非常に重要な参考、学習のためになると思いますので、今回の
対応の経緯は、
事故収束後に詳細に検証されて、学習されるべきだと思います。この点については、既に
班目委員長からも言及があったというふうに承知いたします。
三番目に、
原子炉一、二、三、四
号機の今後の
対応で重要だと考えているところでございますが、現在は、現場の非常に必死の努力によりまして、何とか小康状態に至っているというようなことでございますけれども、どの
原子炉の
状況も、いまだ安定状態には至っていないというふうに認識しております。先ほどの東電からの御
説明にも、その点はうかがわれるところでございます。
何より重要なことは、申すまでもなく、崩壊炉心から発生する熱、それから、
使用済み燃料プールに貯蔵されている使用済み
燃料の発する熱、これを
冷却することであります。この熱は、当然のことながら
放射性物質から出てくるものでありますが、
放射性物質の放射能の減衰というのは、もはや今後は余り急激に行われるということは考えられません。これは、自然現象として当然のことであります。したがって、今後の
冷却というのが非常に重要であります。
現在の
冷却は、これはやむを得ませんけれども、余り効率的ではありません。そのために、安定な状態に移すためには、とにもかくにも、効率的な
冷却、すなわち、熱交換器をつけ、そして、
海水で
除熱ができる、そういうシステムを確立する必要があります。このことは、当然現場でもよく認識されておりまして、既にそのための準備が進められているわけでございますけれども、現場が非常に放射線環境として過酷な状態にある、放射線レベルが高い状態にある、そういうことでございますので、少なくとも、環境をなるべく
作業がしやすい
状況に改善していくというのを並行して進めるのが非常に重要な問題ではないかと思います。
それから、これはやや細かいことでありますけれども、放射能で汚染した場所での
作業と申しますのは、全身をタイベックスーツというか、防護服で包んで、全面にマスクをかけ、眼鏡をかけ、帽子も着用して、そういう姿形で
作業するわけでありますが、これは、経験者はよくわかるのでありますけれども、非常に暑くなります。今後、特に気温が上昇してくるような環境のもとですと、熱中症を起こすような
作業員が次々と出るのではないかと恐れますので、そのための配慮が十分必要ではないかと思います。配慮というのは、単に気をつけろということではなくて、産業医のような専門的な知見を持った人が
作業環境の管理に当たるということであります。
私のところの原子力安全研究協会から、
現地へ救急医療のドクターを派遣しておりますが、そのドクターからの
報告では、既にこれまでも何人か熱中症にかかっている、そういう患者を治療したという
報告を受けております。これは、余り完全に防護服を着た形で
作業をしたことのない
作業員が
作業しますと、知らない間に熱中症になるということでありますので、放射線の被曝の上に労災が重なるというようなことがないように気をつけていただきたいと思うわけであります。
次に、
周辺地域の放射能汚染
状況の実測による把握でございます。
現在避難しておられる住民とか、あるいは今後避難せざるを得ないという住民の
方々が、今後どのような条件になったときに家へ帰れるのか、復帰できるのか、コミュニティーをつくり直せるのかということは、非常に重要な問題であります。これは言うまでもないことだと思います。
しかし、このための基礎
データをつくるというのは、まさに実地で実測で
データを集めて、その
データを詳細に分析して、いわば汚染マップというようなものをつくりまして、それに基づいて今後の方針、
対応を進めていかざるを得ないと思います。このような測定の
作業は、航空機で上空を飛びながら測定をするというよりは、はるかに人手やあるいは測定器がたくさん要るものでありますので、そういう点で、非常に、いわばマスを要するような仕事であります。かつまた、ポイント、ポイント、選ばれたポイントによっては、非常に正確な測定をして誤りのないようにする工夫も必要です。
そのためには、こういう測定をやるプロジェクトを、専門家の参画のもとに、行政機関、
政府機関が統合的、統一的に推進されることが必要だと思います。もちろん、この
作業を円滑にする、効率的にするためには、米軍の航空機測定による結果とかあるいはSPEEDIによる計算結果とかを十分に活用すべきだと思います。また、可能ならば住民の
方々にもこの
作業に協働参画してもらうということが望ましいのではないかと思うところであります。
最後の点は、
事故の原因究明と対策でございます。
今回の
事故の直接的な原因は、既にもう御
説明のあったように、
津波によって全
電源遮断した、そういうことであります。この経過がどのようなものであったかというのは、今後、中央制御室等の記録をすべて回収して、非常に詳細な分析をして検査すべきであると思います。
その中でも、特に今後、安全規制の点では、安全審査指針の再検討、これは既に
班目委員長からもお言葉がありましたが、長時間
電源喪失時における
冷却継続対策をどうするか。いわば、全
電源喪失がないようにという対策をできるのか、あるいは全
電源喪失をしても
冷却ができるようにするべきか、この点は十分に検討されるべきだと思います。そしてまた、過酷
事故時にも
放射性物質の大量放出を回避できるような、そういう
原子炉の仕組みはどういうものか、こういう点も考えるべきではないかと思います。
今後、このような対策をするのは猛烈な時間と人手がかかると思いますけれども、このことの重要性から考えますと、国家においてこの点を十分認識していただいて、こういう
作業ができるように取り計らっていただければと思います。また、その点におきましても、先ほど申しましたように、国際協力のもとでこれを進めるというのが世界から求められていると思います。
世界の安全を担当する人たちの中の合い言葉は、オール・イン・ワン・ボートという言葉がございます。世界は一つの船に乗っているという意味であります。こういう認識を我々も常に持っているわけでございますけれども、ぜひこのような気持ちで事業を進めていただければと思います。
どうもありがとうございました。