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参考人(
阿部信泰君) 今日はこのような
機会をいただきまして、どうもありがとうございました。
最近の
核軍縮・不
拡散をめぐる
動きにつきまして概観しました上で、私が日ごろ感じておりますところをこの
機会に申し上げさせていただきたいと思います。(
資料映写)
最近は非常にいろんな
動きがありまして、
日本と
オーストラリアでつくりました不
拡散・
軍縮に関する
国際委員会、あるいは
アメリカの
核戦力態勢の
レビューの発表、それから
アメリカと
ロシアの間の
戦略核削減の合意、それから来月には
NPTの
運用検討会議というものが開かれるわけで、大変いろんな
動きがありますが、今日はざっとこの辺をおさらいをしまして、その上で私の
考えを述べさせていただきたいと思います。
まず、
日豪の
国際委員会でございますが、これは
オーストラリアからこういうことをやろうという
提案がありまして、当時の
福田総理がこれを受けて、やろうじゃないかということでスタートしました。
オーストラリアの方はエバンス元
外務大臣、
日本からは
川口順子元
外務大臣が
共同議長として出まして、一年間非常に集中的に
議論をしまして、
専門家のみならず
各国の
原子力産業の方あるいはNGOの方の
意見なども聴きまして、
議論をしまして
報告書をまとめました。
一つの
主眼点は、現実的に実行できるような
核軍縮の
提案を出そうじゃないかと。それによって、
各国の実際の
政治指導者に実施してもらおうと、こういうことを
主眼として作りまして、ざっと申し上げますと、ここにありますように二〇二五年までに
各国の
核戦力を
最小限にしてもらおうと、これを
最小化地点という名前で呼んでおりますが、それまでのために
短期的行動計画、
中期的行動計画というのを
提案すると。それから、その後は
最小限にした核をいよいよ
各国が廃棄をしてゼロに持っていって
核兵器のない
世界をつくろうと、こういう二
段階の
アプローチでいこうというのがこの
提案の大きな
主眼でございます。
例えば、この
最小化地点の
段階においては
アメリカと
ロシアは
各々五百発まで減らしてもらおうと。今、
各々五千発を超えると言われている
核兵器を保有していますので、それを十分の一以下まで減らすということでございますし、それから、
核兵器を持っている国にはすべて先制不
使用を約束してもらおうと、それを反映するような
核戦力の
配備態勢を実現してもらおうと。つまり、今のところは、もしどこかで警報が出て
核攻撃があったというようなことがあれば、すぐに何十発、何百発という核ミサイルを発射して反撃をするという非常に恐ろしい状況にあるわけで、それを是非とも
警戒態勢を緩めてほしいと、こういうようなことをいろいろ
提案しております。
この中で、
短期的行動計画というものの中にどういうものが入っているかというのをざっとここで項目を並べてみましたが、時間の
関係もありますので細かく説明することは控えまして、例えば、筆頭にありますのが、
アメリカと
ロシアの
戦略兵器の
削減交渉を早く妥結してほしいというようなこと、あるいは
核兵器に関する
政策を転換するということ、その中には
核兵器の
使用目的を限定するというようなことも
提案しております。
この辺が今回の
報告書のすぐにやってほしいことということの
主眼になっておるわけですが、この
短期行動目標はその
意味において、次にあります
アメリカの
核戦力態勢レビュー、最近発表されました
報告書の中でどこまでそれが実現されたかということを御覧いただく比較の対象という
意味でもこれをここに並べてみました。後で比較いただくと分かりますけれども、一部のものは今回の
アメリカの
政策発表、それから
アメリカと
ロシアとの
戦略核削減合意で実現しております。あるいは、オバマ大統領は将来の
政策目標としてこれを掲げておりますので、そういう
意味において、この
日本、
オーストラリアの
国際委員会の
報告書を受けてそちらの方向へ進むという大きな方向がオバマ大統領の体制である程度受け入れられて
動き始めているということが言えるかと思います。
ここで最近出されました
アメリカの
核戦力態勢レビュー、英語でニュークリア・ポスチャー・
レビューと言っておりまして、なかなか
日本語に訳しにくいんですけど、戦力態勢の
レビューというふうに書いておりますが。
一つ、オバマ大統領が去年プラハで演説をしまして、
核兵器のない
世界を実現しようという高い目標を掲げたわけですけれども、今度のこの
レビューの中で大統領はこれを何とか実現の道に付かせたいということで大変努力したと聞いておりますが、現実には、やはり国防省、それからその背後におります
アメリカの議会の保守派の方から、そんな夢のような理想を掲げて
アメリカを急速に引っ張っていくのは危険だという大分ブレーキも掛かったようでございまして、その
意味においては、今回の
報告書は恐らく大統領の理想と現実の間の妥協の産物であるということが言えるかと思います。
この
報告書を読みますと、もう何度も繰り返し繰り返し出てくる言葉、表現が、
アメリカと同盟国、それからパートナーという言葉を使っておりますが、そのための
抑止力を保持するということが言われております。そこで、この両者の間の妥協の産物として今回の
報告書ができたということが言えるかと思います。
あと、
報告書をざっと私が読みましてこれはいいなと思った点は、例えば現在の緊急の課題としては核の
拡散を止めるということ、それから核テロを防止するということが緊急の課題であるので、これを最優先課題として取り組むということを言っております。同時に、
北朝鮮とイランの核計画を阻止しなければならないということもはっきり言っておりますので、これは、とかく現在、
世界的にはイランの方は注目を集めておりますけれども、どうも
北朝鮮はだんだん忘れられがちでありますので、その
意味において、この
報告書で
アメリカがはっきりと
北朝鮮を阻止するんだということを言っているというのは心強いところがあります。これを受けて、実際の行動としては、先日、核セキュリティーサミットというのをワシントンで開きました。また、IAEAを強化しなければいけないということも繰り返し言っております。
そこで、
日本との
関係でも非常に大きな
意味がありますのは、
核軍縮を実現したい、それから核の
拡散を止めたいという
意味においては、
世界各国に対して
核兵器というものの
役割はもうだんだん少なくなっておるんだと、
核兵器は非常に使うのが難しい兵器なんだと、非常に大量破壊でありますし、非人道的な側面が強いので非常に使いにくい兵器なんだということで、
核兵器の価値を下げる、
役割を下げていけばそういう
核兵器を持とうという国もあきらめるんじゃないかと。そういう
意味において、意欲を減退させようということで今回の
報告書でも非常に真剣に
議論されたようで、どういうふうになったかと申し上げますと、結論としては、この
報告書では、
アメリカの
核戦力の基本的な
役割は
アメリカ、同盟国、パートナーに対する
核攻撃を抑止することにあると、こういう表現になっております。
それから、
アメリカというのは、
核兵器は
米国及び同盟国の死活的利益が脅かされたときにこれを守るためのという、究極的な場合のみに使うというような表現で、非常に
アメリカが使う場合は限定されるんだということを言っております。これをもって
各国が
NPTを遵守して不
拡散の義務をちゃんと履行するようにということを説得しようと、こういうことでございますね。
それからもう
一つは、
NPTに入って
核兵器を持たないと約束をした国については
アメリカは
核兵器を使わないという約束をしようということ、これは
専門的には消極的安全保証と言っておりますが、それをはっきり言いましょうということになっております。
これは、今までは、
アメリカの
政策としてはこのほかに、
核兵器国と同盟した国が攻めてきたらばそのときは保証の限りではないという表現も加わっていたんですね。これはつまり、冷戦時代に、例えばヨーロッパ正面におきましてワルシャワ条約に入っているどこかの国が攻めてきたというときに、その国自身は
核兵器を持っていないかもしれませんけれども、背後にいるソ連は
核兵器を持っている。ということは、これは全体として核を持って攻撃してくるという大きな戦略の中の一環ではないかということで、そういう
意味においては、同盟国が使った場合には、これは、来た場合には例外であると、こういうことがあったんですが、今回はそれが削除されております。非常に限定的な形になっております。
NPTを遵守している国ということですが、新聞、メディアでは非常に単純にするために
NPT遵守とだけ書いてありますけれども、実際の
報告書を読みますと、及び核不
拡散の義務を履行している国と書いてあります。ですから、
NPT、条約の文字面の上でだけ守っている国では駄目なんで、実際のいろんな不
拡散の義務を守っていなければいけないというどうも追加が加わっているようでございます。そういうことで、とにかくちゃんとやっている国にはもう
核兵器は使わないんだと、したがって、そういう国も核を持とうなんということを
考える必要はないんだということを説得しようとしているわけでございます。
それから、この
日豪の
国際委員会の
報告書、それから
日本の国内でも最近いろいろ、岡田
外務大臣の発言などで、
核兵器というようなものを使うのは、先制
使用するのはやめるということを宣言するべきじゃないか、あるいは、
核兵器というのは相手の核に対してしか使わない、
唯一の目的であるということを宣言すべきであるというようなことがいろいろ
議論されておりますが、それについては今回の
報告書では、先ほど申し上げましたとおり、基本的
役割という表現でしか言っていませんのでそこまでは踏み込んでいないわけですけれども、その点については今回の
報告書で、将来、
唯一の目的というものを宣言できるような
環境を醸成するために
アメリカは努力するんだと、こういうことを言っております。
この点は私は評価のできる点じゃないかと思うんですが、現実問題として、実際の
核抑止ということを
考えれば基本的
役割というところまでしか今回は言えないんですけれども、将来の方向性としては
アメリカは
唯一の目的ということを宣言する方向で努力するんだと、こういうことを言っておるわけで、この
意味においては
日豪の
国際委員会の
報告書の提言とも軌を一にするわけで、歓迎できる点だと思います。
それから、実際問題として、
核戦力というものをできるだけ低い水準で維持すべきであると。核弾頭も減らすべきだということで、米ロの合意などを行うということを言っております。
それから、
アメリカは新しい核弾頭はもう開発しないんだということも言っておりまして、その
意味において、したがって実験する必要もない。実験する必要がないのであるから、核実験
禁止条約、これは
アメリカは早く批准すべきだと、こういうことも言っております。
実はこの核実験の
禁止条約、これは
日本も非常に強く早く発効させるべきだと言っているわけですが、
アメリカなどが批准しないためにまだ、署名開始から十年たっていますけれども、発効していませんが、これを実現するためにはやはり
アメリカが先頭に立って批准をして発効に持っていくということが必要なので、オバマ大統領がこれをまた宣言しているということは非常に心強いところでございます。
それから最後に、オバマ大統領のこの
報告書は、
アメリカ政府は、
核兵器のない
世界を実現する、そのための条件をつくるためにこれから積極的に活動していくと、こういうことを言っておりますので、全体の方向性としても大変心強いものがあります。
そこで、では、
日本として何をすべきかということで私の
考えを最後に述べさせていただきたいと思いますが、鳩山総理も、去年、国連の安保理事会に行きまして演説をされまして、
核廃絶の先頭に立つということをおっしゃっております。私は、是非ともこの目標を
日本の現実の外交活動、その他の活動を通じて具体化すべきであるというふうに
考えます。
そのためには、まず
一つは、この
日豪の
国際委員会、三百ページぐらいの非常に分厚い
報告書でいろんな提言が、たくさんいい提言がありますけれども、かなりのものはやはり提言にとどまっておりまして、それを実行するためにはいろんなフォローアップの活動が必要でございます。ですから、それはやはりこの
会議をスポンサーしました
日本と
オーストラリアの
政府が先頭に立って活動しないと実現しないと思いますので、その活動を是非とも
日本と
オーストラリアで
協力して進めていただきたいと思います。
実際、今度の
NPTの
会議に向けて
日本と
オーストラリアで共同して実践的
軍縮・不
拡散の措置というものを
提案しておりますので、具体的な活動としておりますけれども、実際、私の
観点から申し上げますと、この
提案はある
意味では難しい運営を迫られる
NPTの再
検討会議の場面で何とか実現できるような非常に現実的な
提案になっておりまして、その
意味においてはおとなしい
提案なので、私の
観点からすると、もう少し踏み込んで大胆に幾つかのことをこれからやっていただきたいということでございます。
一つ私が、
日本政府あるいは民間の方も含めて是非ともやっていただきたいと思いますのは、やはりオバマ大統領、
アメリカの大統領、
世界の一番強い国ですが、その大統領が
核兵器のない
世界を目指したいということを言って、それを今
政策として進めようとしているわけですので、それを実現するように支援するということが
日本としてもこの理想を実現する一番近道じゃないかと思うんですね。その
意味において、
アメリカをできるだけ支援するということが大事かと思います。
一つは、例えば、これから
アメリカの議会で核実験
禁止条約の批准の審議が始まりますが、条約の批准には上院で三分の二の多数を取る必要がありまして、民主党は残念ながら三分の二持っていませんので共和党の支持を多少獲得しなきゃいけないんですけれども、大変難しいと言われております。
そのときに、例えば、保守派の人はこういう
議論をするんですね。
日本は
拡大抑止に
依存しているんだと、核の傘に
依存していると。どうも最近、
日本から、この傘は大丈夫なのかということが時々聞こえてくると。先ほど
黒澤先生もおっしゃいましたですけれども、それを逆手に使って、
日本なんかが心配しているんだから、
核兵器のない
世界というようなことを言って
核兵器をどんどん減らしたり、あるいは実験しないなんということを言っちゃったら駄目なんだということを保守派がワシントンで
議論していますので、そういったときに、その当事者である
日本の方がワシントンに行く
機会に
アメリカの議会の方たちにお会いして、
日本は、私の
立場からいえば、
アメリカの核の傘に依然として
依存しています、これは現実の問題としては当面やむを得ないけれども、しかし、
アメリカに実験してもらう必要はもうないと思うし、条約は是非とも批准してほしいと。
日本の人からこういうことを言ってもらうということは恐らく非常に
アメリカの国内の
議論に大きな影響があると思いますので、それは私は大いにやっていただく
機会があればやっていただけたらと思います。
それから、
アメリカと
ロシアが今度削減条約を実施したんですが、実は、これは批判する人はまあ程々の削減でしかないということを言われています。実際、確かにそれほど大きな削減ではないので、是非ともこの次の削減をやってほしいんですね。ですから、これも
日本から
アメリカ、それから
ロシアに働きかけて、次の削減をやってほしいと。
特に、そろそろ戦略核だけではなくて戦術核、例えば極東とか
北東アジアとかヨーロッパの正面とか、そういったところで使うことを
考えた
核戦力、これも削減する
段階に来ている。それぐらいまで削減しませんと、今NATOで
議論をしておりますNATOに配備されている
アメリカの戦術核の削減あるいは撤去、あるいは次の
段階として
中国も含めた
軍縮という
段階まで進めませんので、その
意味において、是非とも
アメリカと
ロシアを早く次の
段階の削減に踏み込むように働きかけると。これも、非常に
日本の外交として重要な課題かと思います。
それから、その
意味において、
アメリカと
ロシアは既にいろいろ対話をしておりますけれども、
アメリカと
中国の間で真剣に実質的な戦略対話をして、どうやって
中国の透明性を欠くところのこの
核戦力増強、強化、近代化、あるいはその他の軍備の強化というものをとらえるのか、どこまで行くつもりなのか。あるいは、
アメリカとの
関係を
中国はどう
考えているのかということを真剣に
議論していただいて、この辺でやめたらどうかというようなことをしませんと、なかなか、この
北東アジア、西太平洋の場面での
軍縮交渉というのは進みそうにありませんので、その
意味において、米中の戦略対話というのを真剣に始めてほしいと。
一応、始めるということについて
アメリカと
中国の間で合意はしたようですけれども、どの程度密度の高いものになるかどうかは分かりませんので、その辺を
アメリカ、
中国に
日本から働きかけるということが大事かと思います。
同時に、その際には、
アメリカと
中国だけで話すんじゃなくて、
日本も時々入れてもらう。あるいは、その対話の前か後に、
日本と
アメリカあるいは
中国との間でどういうことを話すのか、話したのか、
日本の
立場はこうなんだということを表明する
機会も是非ともつくってもらうということが大事かと思います。
それから、
日豪の
委員会の提言の中にもありますけれども、それじゃ、その
核兵器の
役割をどんどん低減するという状況において、ずっとそれが減っていったときに、
アメリカの核の傘というのは、いつかの
段階でこれはなくならざるを得ないんじゃないかということを言われていますので、そのときに一体
日本の防衛はどうなるのか、周辺の国の
核戦力との
関係で
日本の抑止はどうするのかということについて、これは真剣に
考える必要があると思いますので、その研究のための研究と協議をするということ。
それから、そういった問題も含めて、
世界的に
核軍縮・不
拡散を進めるためには、ひとつ
世界的な核不
拡散・
軍縮の研究のためのセンターをつくってはどうかということが提言されております。これについても、やはりこの
報告書に盛られたこういう提言は
日本と
オーストラリアが積極的に旗を振らないと動かないと思いますので、是非ともこれは
日本も積極的に検討をしていただきたいと思います。
それから最後に、こういうものは、何も単に
政府、議会だけで
議論するだけでは不十分で、そもそも、
核兵器に携わるかもしれない科学者、核物理学者とかそういった人たちの最初の教育の
段階から、平和というものは何であるのか、
武力行使というのは何であるものなのか、あるいは
核兵器とはどんなものなのかということを教えて、軽率にそういうものの研究開発に携わってはいけないということを教育するというようなこと、あるいは、NGOが最近非常に活動を強めておりますので、そういった面との連携も強めるというようなことが必要になってくるかと思います。
以上、簡単でございますが、私の
意見を述べさせていただきました。
ありがとうございました。