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2010-04-07 第174回国会 参議院 国際・地球温暖化問題に関する調査会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成二十二年四月七日(水曜日)    午後一時一分開会     ─────────────    委員異動  三月十一日     辞任         補欠選任      松田 岩夫君     浅野 勝人君     ─────────────   出席者は左のとおり。     会 長         石井  一君     理 事                 主濱  了君             ツルネン マルテイ君                 藤田 幸久君                 有村 治子君                 牧野たかお君                 加藤 修一君     委 員                 相原久美子君                 犬塚 直史君                 大石 正光君                 大久保潔重君                 大島九州男君                 風間 直樹君                 室井 邦彦君                 森 ゆうこ君                 浅野 勝人君                 加納 時男君                 川口 順子君                 佐藤 正久君                 丸山 和也君                 山下 栄一君    事務局側        第一特別調査室        長        杉本 勝則君    参考人        青山学院大学国        際政治経済学部        教授       納家 政嗣君        京都大学大学院        地球環境学堂教        授        松下 和夫君        慶應義塾大学大        学院政策・メデ        ィア研究科准教        授        土屋 大洋君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○国際問題及び地球温暖化問題に関する調査  (「日本国際社会における役割リーダーシ  ップの発揮」のうち、アジア安全保障及び我  が国の軍縮外交国際安全保障の新たな課題)  について)     ─────────────
  2. 石井一

    会長石井一君) ただいまから国際地球温暖化問題に関する調査会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。  去る三月十一日、松田岩夫君が委員を辞任され、その補欠として浅野勝人君が選任されました。     ─────────────
  3. 石井一

    会長石井一君) 国際問題及び地球温暖化問題に関する調査を議題といたします。  本日は、「日本国際社会における役割リーダーシップの発揮」のうち、アジア安全保障及び我が国の軍縮外交に関し、国際安全保障の新たな課題について参考人から御意見をお伺いした後、質疑を行います。  本日は、青山学院大学国際政治経済学部教授納家政嗣参考人京都大学大学院地球環境学堂教授松下和夫参考人及び慶應義塾大学大学院政策メディア研究科准教授土屋大洋参考人に御出席をいただいております。  この際、一言ごあいさつ申し上げます。  各参考人におかれましては、御多忙のところ本調査会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。  本日は、各参考人から忌憚のない御意見を賜りまして今後の調査参考にいたしたいと存じますので、何とぞよろしくお願い申し上げます。  本日の議事の進め方でございますが、まず納家参考人松下参考人土屋参考人の順でお一人二十分程度意見をお述べいただいた後、午後四時ごろまでをめどに質疑を行いますので、御協力のほどお願い申し上げます。  なお、御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、納家参考人から御意見をお述べいただきます。納家参考人
  4. 納家政嗣

    参考人納家政嗣君) 青山学院大学納家でございます。  二十分ということですので、早速お話しさせていただきたいと思います。  私は、国際安全保障という考え方がどういう考え方かということをまず概論というか総論的にお話ししてほしいというお話をいただきました。  安全保障というのは、もちろんセキュリティーという概念は、従来、国家安全保障という文脈で使われてきた言葉であります。ところが、一九八〇年代くらいから、特に冷戦が終わった後だと思いますけれども、国際安全保障インターナショナルセキュリティーという言葉がよく使われるようになりました。  その中身はいろいろであります。私がお配りしましたレジュメの1のところの最初に書いてありますけれども、その中身は、例えば環境悪化、これから詳しいお話あると思いますが、それから金融危機、それから国際テロ、それからWMDというのは大量破壊兵器でありますが、その拡散の問題、海賊、それから途上国破綻国家感染症と、こういうふうなものをほとんどひっくるめて国際安全保障というふうにまとめることが多くなってまいりました。つまり、内容的には、従来のような特定国家が侵略してくるとか攻撃してくるとか、そういうふうな安全保障問題ではなくて、そういう脅威ではなくて、ないんだけれども、国家国民生活に重大な支障をもたらす事態と、こういうものを指しているというふうに思います。  最初に、国際安全保障というときの性格特徴を少し整理してみますと、一つ脅威が非特定であるということですね。これは、どこかの国が攻めてくるという、そういう脅威ではないということで、とりわけ問題になっておりますのは、非国家主体という言い方をいたしますが、テロ、それから様々な非国家主体を含んでいると。そのほかに、全体的なシステムの混乱というのも国際安全保障一つの重要な原因であるというふうに見られているということであります。  それから、その被害でありますけれども、特定の国あるいは団体も被害を受けるわけではありますけれども、その被害というのは一般には国際社会全体の一般利益を毀損するものであると。したがって、犯罪とか危機というふうな認識が強くて、個別の主体影響を受けるんですけれども、全体として対応しなきゃいけない問題であるというふうに考えられているということがあろうかと思います。  それから、三番目は問題に対する対処でありますけれども、これは、従来の安全保障であれば、どこかの国が侵略しそうであるということになれば、こちらも軍備を強化するとか同盟を組むとかという形で防衛する、抑止をするという、そういう対抗措置をとるわけでありますけれども、これは相手がよく分かりませんし、どういう形で、どういう手段で出てくるか分からないので、そういうふうな対応ができないと。つまり、相互主義的な国対国の解決ができない。従来の安全保障とはそういう意味でもかなり違っているということであります。  一般的に、国際安全保障という言葉を使うときの特徴というのは、この三点ぐらいに性格付けられるかというふうに考えます。  次に、なぜそういう国際安全保障というのが最近増大しているのかということ、背景について少しお話し申し上げたいと思います。  国際安全保障中身というのは、いよいよ増えていくという状況にあります。多分、一九八〇年代のアメリカクリントン政権時代貿易摩擦が非常に多かったものですから、それを反映したんでありましょうけれども、経済安全保障という言葉が非常によく使われました。これも考えてみると、経済安全保障を付けるというのは余り意味がよく分からない。学者の中ではこういう言葉を使わない方がいいという方の方が多いと思います。しかし、経済安全保障という言葉がよく使われました。  それから、一九九二年ですか、リオデジャネイロの会議があった後は環境安全保障という言葉が、今日お話があると思いますが、よく使われるようになりました。その他、食料安全保障とか資源安全保障、それから最近は途上国人間安全保障というような形で、いろんなところでこの安全保障セキュリティーという言葉が使われるようになっていって、それはいよいよ増えていくという状況に現在あろうかと思います。  その背景でありますけれども、そこに一つ典型的な事例として環境安全保障論考え方を取り上げました。2の(1)のところでありますけど、環境安全保障論という考え方は、トーマス・ホーマー・ディクソンというアメリカ学者でありますが、一九九〇年代初期ころに唱えた考え方であります。  二ページ目のレジュメのところの真ん中ほどに環境安全保障論の枠組みというのを付けました。これは、このホーマー・ディクソンが考えた、なぜ環境問題が安全保障問題かということを整理したものでありますけれども、一番これの左側環境悪化原因と。これは再生エネルギー再生資源の減少という問題、あるいは人口の増大、それから資源に対するアクセスの不平等性といったようなものが問題になるということですね。  その結果、環境問題、環境が次第に悪化していくということが出てくるということなんでありますけれども、この部分については安全保障問題というふうには一般的には考えないわけですね。だけど、その結果として環境悪化したために、例えば途上国ではかなり大きな人口移動が起こる、難民避難民という形で出てくる、あるいは生産性が落ちるというふうなことが出てまいります。  そうすると、その社会的な影響として様々な問題が出てくるんですけれども、一番大きい問題は、国家統治能力というのが低下してしまうという問題であります。その結果、民族紛争とかクーデターとか価値剥奪つまり物が足りなくて紛争が起こるというふうなことがしばしば起こってくる。  この一番右側民族紛争とかクーデターと、こういうふうな問題になると、安全保障問題という認識になってくるわけでありますけれども、左側環境問題が悪化しているという程度では安全保障問題と一般的に考えないわけですね。これが、問題はこの右側と左の要因がぎゅうっと圧縮された形で一緒になってしまっていると。環境問題というものがほぼ直接的に安全保障問題の原因になっているので、環境安全保障問題の一部として考えるべきであろうと、こういうふうな考え方であろうかと思います。  なぜそういう連関が大きくなってくるのかと。これは環境問題だけではありませんで、国際社会全般に様々な問題が一体化してくるという状況が現在起こっております。これは一九八〇年代以降の経済市場化、それから九〇年代、冷戦が終わった後の市場経済とか民主主義というのが世界に広まっていくという状況の中で、世界一言で言うとグローバル化してきたということであります。  この結果、市場経済でいいますと、冷戦時代の西側十億人ぐらいの市場経済が、今途上国を含めて四十七億人の市場経済という状況になっているわけであります。その結果、世界が一体化する。遠隔地での混乱、様々な異なるイシュー間での混乱とか危険、脅威というものが乱反射的に結合してしまうという状況が起こっていると。これが様々な問題に安全保障という言葉を付けて呼ぶようになった重要な背景であろうというふうに思います。  この中でとりわけ大きな問題になっておりますのは、一九八〇年代以降のアメリカ中心にしました市場経済金融化という問題ですね。市場経済世界に浸透していったという状況、これが非常に大きな問題かと思いますけれども、なぜ大きい問題かというと、基本的に、世界冷戦が終わって、それから国際社会が、第二次世界大戦後、国際連合ができたときには、五十一か国ぐらいの原加盟国で始まったのが今もう百九十二か国になっている。その大半が途上国であると。要するに、発展段階文化も物すごい違うわけですね。それが市場経済という一点でつながって一体化していくという、そういう状況があります。発展段階とか文化によって市場経済が浸透していく、その結果として起こってくる社会変動がもう全く違うわけですね。  (3)のところに書きましたけれども、先進国では、市場経済の浸透、金融経済化という結果として起こっているのは産業高度化ということであります。金融とかサービスとか、つまり第三次産業の方に、経済の六割、GDPの六割、七割、雇用の六割、七割がそっちの方の産業に移っていくと、こういう状況であります。そういう先進国の高度な産業社会というものは非常に緻密な通信とか輸送とかのインフラに支えられておりまして、これが非常に脆弱になっていると、こういう問題があります。  新興国、これは世界的に金回りが良くなって、それによって投資を呼び込んで輸出主導経済発展するということで、経済発展を急速に遂げてくる国がありました。現在、BRICsと言われている中国、インド、ブラジルとか、そういう国々が中心かと思いますけれども、これが高度成長を遂げてくるという状況があります。その結果、一つは、現在、中国アメリカ以上にCO2の排出量が増えてしまうと、こういうことがもう十五年、二十年の間に急速に起こってくるということですね。  それから、新興国市場経済への参入で一つ重要なのは、低賃金の労働力というのが大量に供給されるということで、その国はもちろんでありますけれども、国際的にも、格差とか、そういうふうな新しい経済問題というのが非常に大きくなってくるということであります。  それから三番目に、最悪な状況を迎えているのが途上国、とりわけアフリカとかイスラム圏アラブ諸国というところで、ここの場合には、市場経済が入っていくことによって伝統的な人間関係中心にした社会の構造というのがかなり緩んでしまう、壊れてしまうという状況が起こりました。すべてではありませんけれども、伝統的な社会が壊れて、まだ近代的な市場経済とか近代的な政治制度というのは根付かないという状態のままで国家混乱していく、内戦に突入すると。内戦を繰り返しているうちに国家破綻が生じる。そこで、難民とか様々な武装勢力によるテロとか海賊とか、そういうふうな問題が出てくる、こういうことであります。  こうしてグローバル化というのは安全保障の側面から見ると、異なる発展段階あるいは文化が混交して先進国のような同質的な国民国家の空間にいろんな様々なコントロールしにくい異物が入り込んでくるという、そういう状況を指しているというふうに考えられるわけであります。  何でも最近は安全保障という言葉を付けて呼ぶことが多くなってきているわけですけれども、例えば我々先進国にとっての安全保障というのは具体的にはどういう課題があるのかということをお話ししてみたいと思います。  3のところであります。何が安全保障かというのは、実は国家安全保障と違って、これは国によって、地域によって物すごい内容に違いがあります。環境問題はもちろん世界全体にとって非常に大きな問題ではあるわけでありますけれども、例えばこの間の台風とか津波とか地震とか来ると、ハイチなんかはもう大変ひどい目に、ひどい状況になって、あれはまさに国家安全保障の問題にそのまま直結するわけであります。  しかし、ちょっと思い出してみると、一九五九年に伊勢湾台風というのがあって、この間調べてみたら、あのときに亡くなったのは、五千何十人という方が亡くなられているわけですね。昨年ほとんど同じコースで台風が通ったわけでありますけれども、あのときは十人も亡くなった方はいらっしゃらないということで、これはやっぱり河川の改修であるとか堤防を造るとか、その他警報とかあるいは避難の仕方とか、こういうふうなものがきちっと手当てできている場合というのは相当に被害というのを軽減できる。これは安全保障問題というよりは、やっぱり自然災害とか環境問題として対処するという方が妥当であろうというふうに考えられるわけであります。  それから、金融危機なんかの問題も途上国にとってはすぐ食料問題とかそういう食料危機というふうな形で安全保障問題に直結する形で出てくるわけでありますけれども、先進国の場合では国際協調によって、財政政策あるいは金融政策国際協調によって克服できる可能性が高い、そういう問題としてあるということであります。ですから、安全保障問題の中身というのは、この国際安全保障の場合にはかなり国によって違う。  それでは、先進国の場合の国際安全保障というのは一体何かということになりますと、一番大きいのはやっぱり国家が統制できない、国家間の制度でもなかなか統制できない脅威で、一言で言うとこれは非国家脅威ということであります。  具体的には、一番大きな問題はテロネットワークということになろうかと思います。これが、国家が非常に混乱しているような状況の中では、元々は反体制とか反政府という形で活動が始まっているんですけれども、すぐに国際化していくということですね。そして、世界に存在する様々な破綻国家というものを拠点にしてネットワークを張っていくという、そういう状況が起こってきていると。これに資金洗浄であるとか海賊の問題、麻薬、それから大量破壊兵器拡散の問題というふうなものが絡んでくるという、こういう脅威が今多分一番大きいのではないかなというふうに思います。  そして、これに一番弱いのは多分先進国であります。というのは、科学技術情報化に支えられた高度に発展した社会インフラというのは一か所脅かされると全体に非常に波及するという、そういう性格が強いからであります。  とりわけ、アメリカブッシュ政権の、九・一一事件の後強調されておりましたのは、テロリスト大量破壊兵器が結び付くこと、これが安全保障の最大の脅威であると、こういう位置付けになっておりました。  これについては様々な研究があるわけでありますけれども、実際にはテロリスト集団大量破壊兵器を入手して使うという可能性というのは技術的に、物理的に非常に難しいというのが研究がだんだん進んだ結果言われていることではないかなというふうに思います。今可能性があるのは、むしろ放射線物質、これはもちろん原子炉原子力発電所も含みますけれども、そのほかに医療用原子炉、それから農業とか工業用に使っているもの、これが事業所だけでいいますと六千以上あると思うんですけれども、これがねらわれて、これを要するに単なる通常の爆弾の中に込めて散らばらせるという、いわゆるダーティーボムというやつですね、これの可能性が非常に高いということで、今度、オバマさんがニュークリアサミットというのを開く、ニュークリアセーフティーのサミットを開くわけでありますけれども、これは要するに核が使われるという可能性よりも放射線物質を防護するという、そちらの方のセキュリティーの問題、これが多分一番大きいかなというふうに思います。  それからもう一つ大きいのは、情報基盤ということで、現在の高度産業社会というのはインターネットに支えられているわけでありまして、これが非常に脆弱であるということであります。三月に出たアメリカのQDR、四年ごとの防衛体制の見直しという報告書の中でも、これが初めてと言っていいほどアメリカのサイバーウオーの戦略の中に位置付けられておりました。これは日本にとっても非常に重要な問題、これも後からお話があろうかと思います。  もうそろそろ時間でありますが、最後に日本対応ということで一言だけお話し申し上げたいと思うんですけれども、日本安全保障問題というのは、安全保障問題についての割合制限的な、平和主義的なアプローチというのがこの国際安全保障問題というのを考えるときに非常に難しくしているということがあるように思います。国際安全保障問題に対応するというのは基本的に警察活動と軍の活動のちょうど中間ぐらいのところの活動なんですね。その体系をつくることに今非常に苦労しているという状況でありまして、これは管轄組織統合度が低いとかインテリジェンス、諜報の組織が非常に弱いという問題があります。  それから、国際的な活動をする場合には、一種の、世界政府はありませんけれども、実際にはこれは国際的な警察活動という性格が非常に強いんですが、その国際的な警察活動をするときにも日本は伝統的な国家安全保障考え方、制限的な安全保障考え方で、武器使用であるとか自衛隊を海外に送るとか邦人の保護であるとかについて非常に制限的であると。これではなかなか国際安全保障について新しいきちっとした政策体系をつくるのが難しいのではないかなというふうに考えております。  その他、国際安全保障政策をこれからつくっていく上で幾つか指針があろうかというふうに思って考えたのですけれども、もう時間が過ぎておりますので、後で質疑の中ででもお話しできればというふうに思います。  私はこれで総論ということで終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。
  5. 石井一

    会長石井一君) ありがとうございました。  次に、松下参考人から御意見をお述べいただきます。松下参考人
  6. 松下和夫

    参考人松下和夫君) 京都大学松下でございます。よろしくお願いいたします。  私の方からは気候安全保障意味を考えるというテーマで、現在の世界の議論の動向を紹介し、その上で私の考えを申し上げたいと思います。(資料映写)  先ほどの納家先生お話大変関連が深いわけですが、まず最初人間安全保障でございます。  人間安全保障につきましては、冷戦崩壊後の一九九四年にUNDPの報告が出されています。ここでは国家安全保障を補完するものとして、個々の人間を重視して、軍備による安全保障よりむしろ持続可能な人間開発による安全保障によって恐怖からの自由と欠乏からの自由を目指すものとして提唱されております。具体的な人間への脅威としては、経済食料、健康、環境、個人、コミュニティー、政治安全保障の分野を挙げております。こうした中で、環境安全保障人間安全保障の一環として、あるいは新たな外交手段として注目されるようになってまいりました。環境問題の深刻化紛争要因となり得ること、それから国家存亡国民にとっての重大な脅威となり得ること、それから地球環境問題の深刻化によってオゾン層破壊、あるいは気候変動によって生態系破壊と人類の存亡にかかわる問題になっているということが認識されるようになってきたわけであります。  特に、近年では、気候安全保障という考え方が注目されるようになっております。これは、イギリスの元外務大臣であったベケットさんが二〇〇六年の国連総会で演説したのが最初であるというふうに言われておりますが、彼女によりますと、気候安全保障なくして国家安全保障経済的な安全保障を確保することは困難であると。温暖化によって気候が不安定になれば、政府基本的責任である経済貿易、移民問題、貧困問題などへの対応を果たせなくなるというふうに述べております。  気候変動による脅威一つの指標として、損害保険会社自然災害に対する保険金支払があります。この図の棒グラフが各年の被害額の推移を示しておりますが、薄い色の棒がそのうち保険で支払った部分であります。折れ線グラフがトレンドを示しておりますが、被害額それから保険支払額共に上昇傾向でありまして、特に近年、急速に増加しております。  日本にも大きな影響が予測されております。ここに示しました図は、日本真夏日日数変化大雨日数変化を予測したものです。真夏日は、現在は六十日程度ですが、二〇四〇年には百日程度に増えます。また、大雨日数も大幅に急増することが予測されております。  次の図は、地球温暖化社会に与える深刻な影響気候安全保障論という考え方でまとめてみたものであります。温暖化の進行によって極端な気候現象の頻度が増大し、水資源自然生態系沿岸域といった自然環境影響が出て、それが農林水産業金融業、国土の保全、産業エネルギー、健康などの人間社会影響を与え、それがひいては経済への打撃、世界の安全への打撃、人間の生命への打撃を与えて、トータルとして世界レベルでのリスクを増大させるといったことが示されております。  こうした議論を背景にして、先ほどのイギリスのベケット外務大臣の演説をきっかけとして、気候安全保障論に関する国際的議論が最近展開されております。  イギリスでは、気候変動経済というテーマでスターン・レビューが出されておりまして、これは、気候変動影響は、環境だけでなく経済社会活動に大規模な混乱を引き起こすリスクであるということを経済的な分析から明らかにしております。  それから、アナン前国連事務総長は、気候変動は、環境問題のみならず、あらゆる分野に対する脅威であると演説をしておりますし、EUのディマス環境委員は、気候変動は何世代にもわたる世界戦争であるといった演説をしております。こういった演説は、気候安全保障論を裏付けるものであると言えると思います。  一方、アメリカでは、バイデン・ルーガー決議案が上院の外交委員会で採択されております。これは、地球規模の気候変動が与える影響は、地域の国際緊張を高め、不安定性を増す可能性があると。すなわち、気候変動国家安全保障影響を与え得るとの見解が示されております。  二〇〇七年の四月には、国連の安全保障理事会で、気候変動問題が初めて公開討論の議題として付されました。これは、当時の安全保障理事会の議長国であったイギリスが主導したものであります。この討論には日本を含めて五十五か国の国がスピーチを行っています。日本やEUなど先進国、それから小島嶼国ですね、小さい島国から成る国はイギリスの議論に賛同して安全保障理事会における気候変動の議論と取組の強化を主張いたしました。一方、中国、インドを含むほとんどの途上国は、気候変動問題は安保理事会の権限の範囲外であると、また安保理事会には気候変動問題を議論する専門知識もないといったことから、安保理は気候変動を議論する場として不適切であるとして、今後の継続的な議論に反対しております。  二〇〇七年には、日本の中央環境審議会の専門委員会が気候安全保障に関する報告を出しておりますし、ドイツの連邦政府気候変動諮問委員会が、安全保障リスクとしての気候変動という報告書を出しております。また、欧州委員会とソラナ安保上級代表が欧州理事会に共同報告書を出しております。また、二〇〇九年にはアメリカ下院でエネルギー安全保障法案が可決されております。これには気候安全保障への言及があります。  次に、これらについて見ていきます。  中央環境審議会専門委員会の報告、これは今日の資料にも添付されておりますが、この気候安全保障に関する報告では、安保概念の拡大によって気候変動脅威になっていること、そして従来日本で展開された総合安全保障の概念によって気候安全保障を包摂し得ること、さらには、安定した地球大気や気候は地球公共財として考えるべきものであることということが述べられておりました。そして、気候変動安全保障が関連付けられることによって、気候変動に本来与えられるべき高い優先順位を与えられるべきであり、また、首脳が直接関与するハイポリティックスによって途上国や主要排出国を巻き込むことができると期待されるというふうに言っております。さらに、国内での対策や国際的な連携の推進も期待されるというふうにしております。  ドイツ連邦気候変動諮問委員会、WBGUと訳されていますが、この報告は二百五十ページ以上にわたる非常に膨大な報告ですが、この中で気候変動原因とする紛争要因として、水資源食料生産、台風や洪水の増加、環境難民の四つを挙げております。これらの要因とリスクを組み合わせることによって世界紛争危険地域、いわゆるホットスポッツを特定しております。北アフリカ、サヘル地域、南部アフリカ、中央アジア、インド・パキスタン・バングラデシュ、中国、カリブ海・メキシコ湾、アンデス及びアマゾニアです。  この地図はそれを世界地図に落としたものであります。この地図を見て分かることは、いわゆる気候変動のホットスポットの国の多くは、既にいわゆる脆弱国家になっているということであります。これらの国は、気候変動による影響への対処能力が乏しい国であります。日本であると、例えば同じ規模の台風であっても被害はごく限られているわけでありますが、非常に大勢の死者が出たりインフラが壊されるということが起こっております。これらの国が、気候変動による変更に伴いまして元々脆弱な国家の安定性が更に損なわれて、更なる地域の不安定化や破綻国家の発生が危惧されております。  ドイツ連邦気候変動諮問委員会の報告によりますと、気候変動による国際安全保障への脅威として以下のような点を挙げています。第一点は、脆弱国家の増大、あるいは元々脆弱であって統治能力の乏しい国が更に脆弱化し、破綻国家に陥ると。二点目として、世界経済開発のリスクが増すこと。三点目として、気候変動対策をどの国がどのように負担するか、負担の配分をめぐる対立のリスクが増大することであります。四点目として、人権とグローバルガバナンスの主体としての先進国の正当性に関するリスクが増大することであります。これはどういうことかといいますと、世界的には現在気候変動による影響を人権の問題としてとらえる議論があります。先進国がその責任に見合う取組をしていないというふうに国際的にみなされた場合、人権やグローバルガバナンスのリーダーシップの正当性が問われるということになるわけであります。五点目として、移民、いわゆる環境難民の誘発と増大であります。しかしながら、環境難民は現在の国際法では難民としては認められておりませんので、こうした人々の発生を防ぐということと同時に、適切な保護を図るための国際法上の措置の検討が必要となっています。  以上の点から、委員会の報告は全体として気候安全保障は伝統的な安全保障政策の限界を超える課題となっているという認識を示しております。  一方、アメリカでありますが、アメリカはバイデン・ルーガー決議案の採択に見られるように、伝統的に国家の軍事的安全保障の観点からの関心が高い国であります。オバマ政権になってからのエネルギー安全保障法案が下院で可決されて、ここで気候安全保障への言及がされています。それに加えて、オバマ政権で特徴的なことは、グリーンニューディールということで示されるように、気候安全保障を軸として国内の関係する諸政策を統合して、一つの整合的な政策パッケージで取り組もうとしているということであります。  これはオバマ大統領の主要な環境エネルギー政策をまとめたものであります。ただ、現実には下院で温暖化対策法案の審議が難航するなど、実施過程は必ずしも順調ではありませんが、注目すべきことは、整合的な公共政策のパッケージとして、エネルギー環境政策、それから雇用、新産業育成、地域振興など、そうした政策の実行を通じて気候変動におけるアメリカの指導力の復権とアメリカ経済国際競争力の強化を目指しているという点であります。  次に、こうした国際的な議論から見えてくる気候安全保障意味するものについて考えたいと思います。  第一は、国内対策として、低炭素社会の構築に向けた政策統合の推進であります。これは低炭素で成長する経済社会への転換、いわゆるグリーンニューディールでありますし、エネルギー産業競争力の面での安全保障の強化をすることであります。  第二には、気候安全保障を軸とした国際秩序の再編成であります。これはEUなどが非常に関心が高い分野でありますが、国際交渉において多国間の協調枠組みと早期の対策の必要性を強調していくと。特に、対策しない場合のコストという考え方によって、また首脳を巻き込んだハイポリティックスによって交渉を促進することであります。ドイツ政府、先ほどの連邦気候変動諮問委員会では国連に世界開発環境理事会の設立を提言しております。  第三に、国際協力として、気候変動に対する適応と緩和の包括的戦略を進めることであります。これは国際的に連帯して国民生活生態系気候変動脅威から守り、公害などほかの環境問題への対応につながる対策、いわゆるコーベネフィットの採用といったアプローチがあります。また、気候変動への適応を進める上で貧困撲滅など人間として必要な生活基盤の確保にも力を注ぐことが必要であります。  最後に、人間気候安全保障における日本役割を考えてみます。  まずは、国内で低炭素経済を政策統合によって率先して構築することであります。また、外交と内政を一体化し、気候変動を軸に内政、外交政策の統合を図ることであります。さらに、平和のための環境協力としまして、環境協力を通じた安定あるいは平和の醸成。環境を軸とした戦略的外交を進めて、国際的な環境協力の枠組みへの貢献があります。これには多国間主義と有志国主義の適切な組合せが必要であります。また、経済的にも一体化が進み、生態系の面からも密接なつながりが深まっている東アジア地域において、東アジア環境共同体、あるいは東アジアにおけるグリーンニューディールの取組、あるいは環境面における脆弱な途上国への支援を強化することが必要であります。  以上、伝統的な安全保障考え方国家中心とした軍事的安全保障でありましたが、グローバリゼーションと地球環境悪化が進行した今日では、人々が人間らしく真っ当な生活を送れるようにするためには、人間に焦点を当てた人間安全保障環境の持続性に着目した環境安全保障が重要になっております。  気候変動に対する迅速で適切な対応国際社会で取られないならば、気候変動による影響によって、人間そして国家への安全保障上の重大な脅威となるわけであります。気候安全保障という観点から、国内及び国際的な取組に必要な優先度が与えられるべきであるというふうに考えます。  御清聴ありがとうございました。
  7. 石井一

    会長石井一君) ありがとうございました。  それでは、土屋参考人、お願い申し上げます。
  8. 土屋大洋

    参考人土屋大洋君) 本日はお招きいただきありがとうございます。慶應義塾大学の土屋と申します。  私のお話は、いわゆるサイバー攻撃ということになるわけですが、片仮名、横文字が非常に多いですので、もし御不明であるということであれば後ほど聞いていただければというふうに思います。  今回、こちらに呼んでいただく際に、最初、参議院第一特別調査室の小沢さんから電子メールで最初のお誘いをいただいたわけです。これを見たときに、私は本当かなというふうに思うわけですね。それは、近年非常にそういう形で誘いを掛けてくる危ない電子メールというのが増えてきているからなんです。  例えば、私たちは学者ですので、海外から電子メールが来て学会に参加してくださいというふうなものが来るときがあるわけです。学会の案内というのは、ここのインターネットのURLをクリックしてくださいと、ここに載っかっていますからというふうに電子メールの中に書いてあるわけです。そこをうっかりクリックをしてそこのウエブサイトに行ってしまうと、何てことがない普通の学会の案内が載っかっているんですが、そこにいわゆるウイルス的なプログラムが仕込まれているということがあるわけです。分かりました、もう喜んでヨーロッパでもアメリカでも行きますとかいって返事をすると、いや、この会議は中止になりましたというふうに連絡が来るわけです。何だというふうに我々はがっかりするわけですけれども、その間にそのコンピューターの中に、我々が使っているコンピューターの中にプログラムが仕込まれるということになるわけです。  今までの問題になってきたコンピューターウイルスというのは、どんどんどんどん感染して増殖していくということが問題だったわけです。ところが、現在の悪意あるプログラム、マルウェアと、マリシャスという悪意あるという言葉を略してマルウェアというふうに言っていますが、そのマルウェアは皆さんを特定してねらい撃ちして送ってくる悪意のあるプログラムということになるわけです。  私のような学者の情報を取ってもどうってことはないわけですが、先生方は非常に機微な情報を持っていらっしゃると思います。先生方のパソコンをねらい撃ちして、先生方のパソコンから情報を引き出すために特定のわざわざカスタムメイドのウイルスのようなプログラムを作っている、そういうことが起きてきているわけです。  このレジュメの方に、一番最初に、「新しい戦場」の下にゴーストネットというお話を引用しております。これはカナダの研究者が昨年明らかにしたものでして、その中で言われたことなんですけれども、彼らがふとしたことから怪しいネットワークの通信というのを見付けたわけです。  それを解析していったところ、百三か国、少なくとも千二百九十五台のコンピューターが今申し上げたようなプログラムに感染しているということが分かったわけですね。その感染したコンピューターから持ち主が知らない間にデータが送信をされていると。大体この千二百九十五台のうち三〇%ぐらいが、ハイバリューターゲットというふうに彼らは言っていますが、政府機関であるとか一流企業であるとか、そういうところの非常に重要な機密情報を持っているコンピューターだったということが分かっています。残念ながら、日本も二十四台がこれに感染していると彼らの報告書の中では言っています。  これ、だれがやったのかということは確定していないんですが、そのトラフィックですね、つまり通信の流れを追っかけていくと中国に行くということを彼らは言っています。中国政府はもう完全に否定をしていますが、中国に少なくとも流れていっていると、彼らは研究の成果としてそういうことを主張しています。こういったことが起きているということを我々はたまたま彼らが気付いてくれたから分かったわけですけれども、なかなか分からないわけですね。先生方のパソコンが感染している可能性というのもなきにしもなわけです。  今日、何人かの先生方から名刺をいただきましたが、皆さん、ウエブサイトをお持ちのようです。そのサーバーというのは恐らくレンタルをされているんだと思いますが、どこまでそれがちゃんと管理されているかということはよく分からないわけですね。まさに、皆さんが個人用として使われているパソコンがもしそういう形でねらわれたとしたら、非常に危険な可能性があるということです。  今までの戦場というのは、陸、海、空だったわけですね。陸上であり、海上であり、空、上空であったわけです。そこに最近宇宙というのが入ってきていまして、アメリカ報告書などをいろいろ見ていると、五つ目の戦場としてこのサイバースペースというのが入ってきています。このサイバースペースが一番違うところは、人工的につくられている空間ということになるわけですね。陸、海、空、宇宙というのはもう自然がつくっているものですけれども、コンピューターとネットワークがつくり出す不可思議な世界というものの中で戦争が起き始めている、こういうことになるわけです。  ここに、サイバー攻撃は発射主体が分からない小型ミサイルのようなものというふうに、あえて極端な例を使いました。皆さんのそのコンピューターをねらい撃ちするような、どこから飛んでくるか分からないミサイルがひゅっと小さな形で入ってしまって情報を取るということもあります。あるいは、一斉に、もう数え切れないぐらいのアクセスが皆さんの例えばウエブサイトに殺到すると。皆さんがどこかで例えば失言をしてしまう、それに対して反発をした人たちがわっとアクセスをするということは御経験があるかもしれませんけれども、ある特定の目的を持ってそういうことをオーガナイズしてやるということができるようになってきています。それも、どこか特定の人がやっているということではなくて、世界中から皆さんのウエブサーバーにアクセスをしてくるわけですね。  それは、さっき申し上げたような形で、コンピューターの悪意あるプログラムを世界中にばらまいてしまうわけです。その感染したコンピューターの持ち主は全くそれに気付いていないわけですが、ある日突然、今二時十分前ですが、二時になった瞬間に動けというふうに設定をしておくわけですね。そうすると、世界中のコンピューターがいきなり目覚めて、ぶわっと特定のところに攻撃を仕掛けると、そういうことが今では簡単にできるようになっているということです。  こういった現状を踏まえて、二番のところ、サイバーセキュリティーに注目する米国というふうに書いてありますが、アメリカが非常に大きく動いてきています。このRMAですね、軍事における革命ということが九〇年代に盛んに言われました。これは簡単に言えば、ハイテク化でありネットワーク化ということです。コンピューターを使って軍事的なオペレーションをやるということがどんどん進んできている。これは、アメリカ軍は全面的にこちらの方に移行していますし、我が国の自衛隊もそういう方向に進んでいるわけですけれども、特に空軍がこれに注目をしています。  船だったら海の上に浮かんでいればいいですし、陸だったら陸上で待機していればいいわけですが、飛行機というのは落ちてしまうわけですね。長い間、空に浮かんでいるというわけにはいきません。空軍にとっては、通信システムというのは非常に重要な役割を担っています。ですので、空軍はやはりこのサイバーテロあるいはサイバー攻撃というものに非常に関心を持って取組を始めているということです。  実際にどんな攻撃が起きているのかというと、ここに書いてありますが、二〇〇七年にエストニアがねらわれ、二〇〇八年にリトアニアあるいはグルジアがねらわれました。これは犯人は分かっていません。どこがやったのかということは確定はしていませんが、恐らくロシアが関係しているだろうということは報道で言われていることです。さらに、二〇〇九年七月ですね、昨年になりますが、韓国とアメリカネットワークというのが非常に被害を受けました。これは北朝鮮を発信源にしているんではないかというふうに言われていますが、これも、乗っ取られたパソコンが世界中から攻撃をしているということになっているので確定できないということになっています。  これはもう報道で載っかっていたことですけれども、二〇〇五年、国防総省ですね、アメリカの国防総省に対して行われた電子的侵入は七万九千回、一日二百回以上のアクセスの侵入の試みがあるということですね。そのうち千三百回が成功しているというふうに言われていますので、これはもう日常的に行われているということが言えると思います。  じゃ、こういったサイバー攻撃への対処方針というのはどうしたらいいのかというと、なかなか決まっておりません。敵は国家なのか、本当にロシアなのか、本当に中国なのか、人民解放軍がこれに関係しているのか、これはよく分からないわけですね。当の国家政府というのはそれを認めようとしません。あるいはアルカイダのような組織なのか、あるいは個人が愉快犯的にやっているのか、これも分からないわけですね。これに対して犯罪として扱うべきなのか、戦争として扱うべきなのか、あるいはテロというふうに考えるべきなのか、これにどうやって対処したらいいのか分からないというのが今のところの現状です。  サイバー攻撃の専門家の間の中では、ひそかに言っていることは、これは理想的な第一撃であるということですね。一発目の攻撃としては非常にやりやすい、自分たちの責任じゃないと言い逃れもできる、だけれども相手の国にダメージを与える、確実なダメージを与えることができる。そういう面では、これは最初に、本当のミサイルを撃ち込むよりは、先にやってしまって、相手の国の機能を麻痺させた後で本当の攻撃を仕掛ければ非常に効率的にできるんじゃないかというふうなことを言われています。  そこに、下に図1として変な図がかいてありますけれども、いわゆるハッカーというのは、間違って使われておりますが、元々は善意のオタクみたいな人たちのことをハッカーというふうに言っているわけですね。悪意を持っている人たちというのはクラッカーというふうに正式には言っております。こういった、今まで個人ベースで行われていた行為というのがだんだんだんだん集団化されてきている、あるいは国家がスポンサーをするというような形で変わってきているというのが現在の問題である。このサイバー戦士、サイバーウオーリアーという言葉はまだそれほど普及した言葉ではありませんが、いずれそういった形でオーガナイズされていくものというのがあるんではないかというふうに思っています。  また、その一番下のところにあります抑止という概念も、サイバー空間の中では変わらなくてはいけない。これは、ミサイルの抑止ということであれば、ある程度相手が何発の弾道弾を持っているかということを認識した上で抑止をし合うわけですね。それはある程度だまし合いというところがあるということはもちろんあると思います。しかし、このサイバー空間の中の抑止というときには、自分が何をできるかということは徹底的に隠すということになりますので、実際、抑止にならないという難しいところがあるというふうに思います。  二ページ目に行っていただきまして、これは二〇〇七年の十月になりますが、アメリカの会計検査院というところが報告書を出しました。これはアメリカの例になりますが、じゃ、一体どれだけ我々はそれに対して備えができているのかということですね。  もう二年半近くたっていますから進展はしていると思いますが、この中では十七の産業部門、いわゆるクリティカルインフラストラクチャーと言っていますが、重要インフラですね、ほとんど全部が備えができていない。そういったサイバー攻撃を受けたときには何らかの機能不全に陥るだろうというふうに言っています。  政権が替わりまして、昨年になってからオバマ政権は非常にこの問題に対して焦りを感じて取組を深めています。二〇〇九年の春に、政権ができた直後に、オバマ大統領は六十日間掛けて徹底的にレビューをしなさい、どういうふうな問題があるかということを検証しなさいということで報告書を書かせました。それが五月に発表されましたが、そこでは、サイバーセキュリティーのリスクというのは、二十一世紀の最も深刻な経済的・安全保障的な挑戦になるだろうということを指摘しています。  その後、二〇一〇年二月、今年の二月ですね、先ほど納家先生の方からもお話がありましたが、QDRという報告書ができました。これはクワドレニアル・ディフェンス・レビューと言うらしくて、私も発音がちょっとできないんですが、四年ごとに国防計画を見直すというときの報告書になります。ここで、包括的な対応をしましょう、意識の向上をしましょう、集中化をしましょう、連携をしましょうという四つの指針というのを出してきています。集中化をするときに、USCYBERCOMというこのサイバー空間に特化した司令部というのをつくろうじゃないかということも出てきています。これまだ司令官が承認待ちになっているようなので正式には動いていませんけれども、こういったものをつくるということで、オーストラリアもあるいは我が国もこれに準じた組織をつくろうということで動いているというふうに思います。  こうした問題にどうやってアメリカが対処しているかというときに、通信傍受ということをちょっとお話をしたいと思います。通信傍受というのはいわゆる盗聴というふうに言われることが多くて、問題が多い案件だというふうに思います。それを承知の上でちょっと申し上げたいんですが、これはテロ対策あるいはサイバー攻撃に対する対策としては非常に有効であるというふうに思います。これはブッシュ政権のときに、二〇〇一年の九・一一テロが起きた後始まったことですが、法律で定められている令状を取らずにブッシュ政権は大量の通信傍受というのを行っています。  例えば、先生方がワシントンに電話をされる、あるいは電子メールを送られるということがあると思います。その内容というのはほぼ間違いなく傍受されています。それは脅しでも何でもなくて実際にやっているというふうにブッシュ政権も認めたことですし、いろいろなところで報告をされていることですし、裁判もたしか四十件ぐらい行われている中で明らかにされていることです。  AT&Tという通信会社がそれに協力をしているわけですが、そこの元従業員というのが内部告発を行っておりまして、資料を持ち出した上で、太平洋から上がってくる光ファイバーを傍受している専用の部屋があるというふうに公開をしています。そういう面では、これは、ブッシュ政権は同盟国を傍受したいというわけではなくて、もちろんパキスタンだとかインドだとかあるいはアフガニスタンだとか、あっちのところから流れてくる、例えばヨーロッパ向けの通信というのもアメリカを通ることがあるわけですね。そういったものを傍受したいということでやっているわけです。  なぜ法律に定められたやり方をしなかったのかというと、それが余りにも大量になったからということです。国際電話を一々掛けている時代ではなくて、もう電子メールでどんどんどんどんメッセージが飛び交う時代になっている。一々一々、それ一件一件について令状を取っていることがもうできなくなったということで、ブッシュ大統領はそれを回避して秘密裏にそれを指令したということになっているわけです。  ところが、オバマ政権は非常に人権に配慮した政権というふうに言われていましたから、これをひっくり返すだろうというふうに考えられていたわけです。ところが、オバマ政権、続けています。逆に言うと、規模を拡大させているというふうに言われています。これを最初のうちは、ブッシュ政権のうちは違法行為であろうと、憲法に違反するだろうというふうに言われて訴訟がたくさん起きているわけですが、それを合法化するための法改正というのをオバマ政権はやってしまったわけですね。つまり、これはテロ対策としては非常に有効であるということを政権内部で検討しているということではないかというふうに思います。  そこに示した図2のグラフというのは、これは令状をしっかり取った通信傍受の数ということになります。二〇〇一年以降急増している、あるいはクリントン政権のときにいろいろ、スーダン、アフガニスタンの問題、テロの問題が、アルカイダの問題が起きていましたから、それに対応してちょっとずつ増えていたということもお分かりになるんではないかと思います。ここに表れていないぐらい大規模な通信傍受というのを実際は行っているということになるわけです。  サイバー攻撃への対処ということで三番のところに最後行きたいんですが、今のところこのサイバー攻撃による死者というのはいないと思います。これは間接的に、自分の銀行口座が操作されてしまって破産をして自殺をしてしまったというような方はいらっしゃると思いますけれども、直接これで死んだという人はいないんではないかというふうに思います。  しかしこれは、これも冗談でよく言うことなんですが、大量破壊兵器のことをWMDというふうに言っていますね。これはウエポンズ・オブ・マス・ディストラクション、破壊をディストラクションと言っていますが、これ、大量迷惑兵器というふうに我々は言っていまして、ウエポンズ・オブ・マス・ディスターバンスというふうに言っているわけですね。これもWMDというふうに言っています。これは直接的な危害を加えるものではないんですが、迷惑を掛ける、一時的に機能を麻痺させるという面では非常に有効な手段ということになります。  国家安全保障から見たときには、このサイバー攻撃というのはとにかく相手を戦えなくする、軍隊が動けないようにする、あるいは心理的な、社会的な影響を与えるということをねらいとしている、ここが重要な点ではないかというふうに思います。言い換えるならば、国家の神経系ですね、脳神経系を麻痺させるというのがこのサイバー攻撃の一番重要な点ではないかというふうに思います。  我が国は遅れているかというと、そうでもなくて、内閣官房の情報セキュリティセンター、ナショナル・インフォメーション・セキュリティセンターというのがありまして、私もここにちょっと関係させていただいていますが、非常によくやっていると思います。特にコンピューター犯罪、あるいはコンピューターセキュリティーネットワークセキュリティーということでは非常に良い対策をやっています。情報セキュリティ補佐官をされていた山口英先生という奈良先端大学の先生がいらっしゃいますが、非常に頑張ってやっていらしたと思います。残念ながら三月で退任をされたというふうに思いますが、そういうふうに、遅れているわけではないということです。ただ、私から見たときには、その国家安全保障という観点はちょっと薄いんではないか、そこのところは改善していく余地があるんではないかというふうに思います。  もう二つだけ申し上げたいんですが、一つ目はセキュリティークリアランスという、これはちょっとお話しするとまた長くなるんですが、情報を扱う人の身分というのをしっかり固定して、機密情報にアクセスしてはいけない人がアクセスすることはないようにするという制度というのもやっぱり政府全般でつくっていただきたい。  それと呼応して、これぐらいの規模の委員会でいいと思うんですが、インテリジェンス委員会ですね、つまり高機密情報を扱うための委員会というのも是非国会の中につくっていただきたい。これは各国どこの国に行っても普通はあるものですが、日本は歴史的な経緯によってありません。ここはやはり改善していかないと、同盟国からもいい情報が流れてこないということがありますし、気を付けなければいけないんじゃないか。そうした国会の中での監査ですね、チェックの機能を徹底的に強くした上で、この行政傍受という、テロ対策、安全保障のための通信傍受の枠組みというのもつくっていただけないかというふうに思っています。  平成十一年だと思いますが、通信傍受法というのが国会で成立をしました。これは犯罪捜査のための通信傍受というものでして、テロ対策だとか国家安全保障のためには使えない通信傍受法ということになっています。ただ、実際にテロが起きてからでは遅いんではないか、あるいは何か問題が起きてからでは遅いんではないかと。ここはチェックをしっかり国会がやった上でこういった形の通信傍受というのを認める、そういう枠組みをつくっていただけないかというふうに思っております。  以上になります。ありがとうございました。
  9. 石井一

    会長石井一君) どうもありがとうございました。  これより質疑を行います。  本日の質疑はあらかじめ質疑者を定めずに行いますので、質疑を希望される方は、挙手の上、会長の指名を待って御発言くださいますようお願い申し上げます。  なお、質疑の時間が限られておりますので、委員の一回の発言は三分程度となるよう、またその都度答弁者を明示していただきますよう御協力のほどをお願い申し上げます。  それでは、質疑のある方は挙手をお願いいたします。  大島九州男君。
  10. 大島九州男

    大島九州男君 本日は、大変お忙しい中、三人の参考人の皆様、ありがとうございました。  それでは、簡潔に御質問をさせていただきます。  まず、納家参考人、よろしいでしょうか。  食料自給率というのを私もよく考えるんですけれども、いろんな意味での安全保障と。先ほど、後進国は非常に貧困の部分で厳しいけれども、先進国はある程度経済的なものでその食料は確保できていくというような内容のことをおっしゃったと思うんですが、私自身が日本のことを考えたときに、日本の戦後を考えたら、先進国がある程度都会で後進国が仮に田舎と考えたときに、やはり食料を持っているところということがやはりああいった戦後のときには非常に力を持ったという部分で見たときに、先進国であればあるほどこの食料自給率というものを向上させておいていかないと、国際的ないろんな脅威にかなわないんではないかと。そういった部分食料自給率を上げることによる国際安全保障という概念は成り立つのかどうかというのを納家参考人にお聞きしたいと思います。  それから、松下参考人にお聞きをしたいのは、地球温暖化という防止のために原子力を推進しなくてはならないんだというふうによく日本も言うわけですけれども、結局、原子力の、安全に運行されているときにはそういう問題はないんでしょうけれども、いろんな事故があったり、例えば原発に一つミサイルを撃ち込まれたりというような形のことを考えたときのリスクと、その地球環境に対するCO2削減だとかいう部分のあれを比べたときに、どっちのリスクがどうなんだというようなことは非常に言いにくいと思うんですけれども、先生のそういった考え方をいただきたいというのと。  もう一つは、それこそ日本が原子力をいろいろ推進をしていく中においては、放射能というのを除去すると。まあ昔のあのヤマトの話じゃないですけれども、コスモクリーナーみたいなのがあって、そういう放射能を除去をしていくというような技術の革新みたいなのがあればそれは非常にすばらしいことだなと、安心できるなと思うんですが、そういう研究をされているところがあるのかなというようなちょっと素朴な疑問がありまして、もしお分かりであればその点もお願いしたいと思います。  それから、最後、土屋参考人。コンピューターでサイバーテロと、いろんな形のことが考えられると思うんですが、例えば、今言う原子力の発電所とか原子力のいろんな研究している部分のところにそういったテロ攻撃を仕掛けてそういう原子力の危険を誘発するというような、そういうサイバー攻撃というのは現実的に可能なのか、もし、そういったことを何か考えているようなテロ集団があったとかいうようなことがあるのか、その点について御質問をさせていただきます。
  11. 石井一

    会長石井一君) それでは、納家参考人からお願いいたします。
  12. 納家政嗣

    参考人納家政嗣君) 食料自給率の問題で、確かに先進国の場合は海外から食料が買える、自分たちは工業に特化していくというのが一般的な傾向ですから、だんだん自給率は低くなってくるということですね。一般的に言えば、先進国の自給率が低くなるというのは、安心感が小さくなるという意味では国際安全保障の問題の一部というふうに考えていいと思いますね。  ただ、これは、自給率が低いという問題と、それともう一つ、外から買えるかどうかという問題があるわけですね。貿易の問題があるわけですね。途上国の場合というのは、食料というのは要するにマーケットに乗っかっているわけですから、途上国の場合、基本的に値段が物すごい高騰してしまって買えなくなる、食えなくなるという問題、これが途上国食料安全保障の問題。先進国の場合には、要するにお金があって買える、貿易が基本的に確保できるということであれば、これは基本的には安全保障の問題というふうには考えなくていいだろうというふうに私は思っております。
  13. 松下和夫

    参考人松下和夫君) 原子力の問題について御質問いただきまして、ありがとうございます。  私自身は原子力の専門家ではないんですが、地球温暖化対策という観点から考えると、原子力発電所は発電時においてCO2を出さない、そういった電源であると思います。しかしながら、先生御指摘のとおり、事故の問題であるとか安全性の問題、それから放射性廃棄物の問題、最終処分の問題ですね、そういった問題もありますし、それから、原子力が事故に遭った場合の、それをバックアップするバックアップ電力も必要であると、そういったことも指摘されておりますので、これはやはり国民的な議論で選択をしていくものだと、その際にはできるだけ情報を公開し、共有して議論していくべきものだというふうに考えております。  それから、放射能を除去する技術ですが、ちょっと私はまだこの分野については十分勉強しておりませんので、また後で勉強させていただきたいと思います。  ありがとうございました。
  14. 土屋大洋

    参考人土屋大洋君) 御質問ありがとうございます。  これは非常に、何というのか、難しくて、確定した情報というのは私からもちょっと申し上げられないんですが、非常にゼロに近いことは近いがゼロではない、可能性は残っているというふうに思います。特に、発展途上国の中ではそういう可能性というのはまだ残っていると思います。  ただ、幸いなことに、コンピューターの西暦二〇〇〇年問題というのがありましたが、あのときに、関連するこういう重要なインフラのコンピューター網あるいはコンピュータープログラムというのは徹底的に調査されたんですね。あのとき結局何も起こらなかったじゃないかという批判がたくさんあったんですが、それはやっぱり対策がかなりうまくいったからという側面があって、この原発の問題というのもその中でかなり検証されていると思います。  ただ、先ほど申し上げたアメリカの会計検査院の報告の中では、やはりこの原子炉、核廃棄物、核物質についての設備でもサイバー攻撃に対する備えは万全ではなかったというふうなことはちゃんと書かれているわけですね。そういったものがどこまで被害を及ぼすかと。例えば原子炉が停止するレベルなのか、原子炉が爆発するレベルなのか、そこまではちょっと言い切れるところではないんですが、少なくとも送電が止まるとか、そういったレベルのことは起き得るんじゃないかと個人的には思っています。  ちょっとそこら辺、確定した情報を申し上げられないんですが、そういうふうな印象を持っています。
  15. 大島九州男

    大島九州男君 ありがとうございました。
  16. 石井一

    会長石井一君) 加藤修一理事。
  17. 加藤修一

    ○加藤修一君 公明党の加藤修一でございます。  今日は三人の参考人の皆さん、大変ありがとうございます。有益な御意見をいただきました。  まず、納家参考人にお願いなんですけれども、核テロの話で、潘国連事務総長もアメリカの大統領も現在最も深刻な脅威であるというふうに言っていて、私も非常にこの核テロの関係は懸念しておりまして、国際原子力機関、IAEAにおいては、核に関連したテロリズムが起こる可能性としては四つの例があるだろうと。核兵器そのものを盗む、二番目は核物質を盗んで核爆発装置を造る、三番目に放射線物質を盗んで先ほど話がありましたように汚い爆弾を造る、四番目が原子力施設、輸送船などを妨害、破壊する、こういう四つのケースがあり得るというふうに指摘しておりまして、原子力発電が拡大、どんどん増えていくということはそういう可能性が高まる、可能性としてはあると思うんですね。  それで、日本対応としてこういうことを含めてどういうふうに考えるかという点で、納家参考人は先ほど最後の方で、こういう面を含めた新しい安全保障課題としての認識が非常に弱いと。具体的に法的基盤の整備等々がそこに書いてありますけれども、もう少しこの辺について具体的な話をいただきたいなというのが一点目です。  二点目は、松下参考人の方からも気候安全保障という考え方について御説明があったわけですけれども、こういう気候安全保障ということについて安全保障を考える様々な学者の間ではどのようにこれはとらえられているか、あるいは納家参考人自身がこの安全保障についてどのように認識されているか、この辺についてお願いしたいと思います。  それから、松下参考人にお願いなのは、この気候安全保障、これを確保するために独自の軍事力、それをやはり確保しなければいけない、あるいは新たな軍事同盟を結ぶ必要があると、そういうふうに指摘をする方もいらっしゃいますし、環境省が調査した部分を考えていきますと、それは、気候安全保障は、国際連帯を促進しながら、非軍事的手段により、それぞれの国家国民・企業等の活動、それを取り巻く生態系気候変動脅威から守る、これが気候安全保障中身ですよと、こういうふうにおっしゃっているわけですよね。これ、両方があるんですけれども、こういった面についてどのように松下参考人はお考えかということについて教えていただきたいと思います。  最後に、土屋参考人にお願いなのは、いろいろな核兵器があって、恐らく中身はコンピューターの一部を形成しているということになるわけですけれども、マイクロコンピューターで制御している部分も当然あるので、そういうことについて、サイバー攻撃でいわゆる核爆発を止めるとか止めないとか、そういった点についてはどんなふうに考えることができるんでしょうか。核兵器の中身の問題と、それに対するアプローチ、どういう防御の仕方等々含めて、その辺について御見解がありましたらお願いいたします。  以上です。
  18. 石井一

    会長石井一君) それでは、どうぞ。順次お願いします。
  19. 納家政嗣

    参考人納家政嗣君) 御質問ありがとうございました。  最初の核テロの問題でありますけれども、核施設、核物質というのは非常に扱いにくいので、テロリストというのは隠密に活動するわけでありますから、物すごく巨大な施設とか、そういうふうなものを扱うということはほとんど不可能、持って歩くことも多分できないということで、多分可能性があるのは、放射線物質、こういうふうなものを盗んで通常の爆弾に入れ込むというふうな、あるいは原子力施設を攻撃して混乱させるというんですかね、心理的な衝撃を引き起こすといったような、そういうふうな形が考えられるだろうということであります。  実際はその核兵器とテロリストが結び付くという話は、いろいろ心配はあるんですけれども、実際に起こったケースというのはほとんどないんですね。ロシアのモスクワで、一九九五年だったと思いますけど、セシウムを公園の中の土に埋めたといって脅迫したというケースがありました。これは結局はそういうことはなかったわけでありますけれども、あるいは旧ソ連からスーツケース爆弾が流れたとか東ドイツで発見されたとかそういう話はありますけれども、実際にはそれがテロリストに渡るとかそういう可能性というのは、今のところほとんど物理的に難しいのではないかなということであります。  先ほど私がちょっとお話できなかったことでありますけれども、日本の場合にはこの問題をどういうふうに考えるのかということでありますが、既に二〇〇五年に国際的には核テロ防止条約というのができておりまして、これは、従来のウラン、プルトニウムだけではなくて、放射線物質の防護というふうなことまですべて含んでいるわけですね。日本でもこれに対応する形で国内法として放射線の発散処罰法というのができておりまして、全国の六千か所以上の事業所すべてについて放射線の防護については規制が掛かっていると、こういう状態であります。それから、原子炉や何かについても、これは警察、自衛隊それぞれちょっと時期が違いますけど、二〇〇〇年代に入ってからはほぼすべてについて、アメリカ軍施設それから原子力施設関係についてはすべて要するに防衛体制というのが整って、人間が配置されて二十四時間体制で防護が行われていると、こういう状態なんですね。  ですから、体制としてはかなりはっきりしているんですけれども、一つは、テロというのは未然に防止しないと意味ないんですけれども、その未然防止ということになると、インテリジェンス、先ほどもお話ありました諜報ということが問題です。これにかかわる人間の経歴の調査というんでしょうか、今までどういう団体にかかわったか、どういう宗教団体にかかわったか、どういう経歴を持っているかということを全部クリアランスしないと実際にはこれがテロと結び付くという可能性があるわけですけれども、そういう法律がないと。  それから、警察と自衛隊の関係も、協力関係非常によくできてきたというふうに言われているんですけれども、テロ攻撃に対しては首相が、防衛出動する、侵略や何かがあったときに防衛出動するというのは、これはもうはっきりしています。それ以下だとこれは警察の仕事になるわけですね。警察が対応してできない、いよいよ駄目だとなったときに治安出動、警護行動というふうな形でだんだんレベルを上げていくわけですけれども、防衛出動以外はすべて要するに警職法の縛りが掛かっていますから、武器の使用に制限があるわけですね。  そういうことで、実際には一つの警察と軍の仕事の中間ぐらいのところできちっとした体制を組まなきゃいけないところが、いまだに何かそれぞれの組織ごとに体制を強化するという状態が続いているのではないかというのが私の感じている懸念ということであります。  それから、最後に気候変動につきまして簡単に申し上げますが、私は専門ではありませんけれども、私は、気候変動あるいは環境安全保障という言葉は、少なくとも日本から考えた場合には安全保障問題ではないというふうに考えております。安全保障問題、何というんですかね、気候の問題について、あるいは環境を保全してもなおかつ国家安全保障というのは必要なわけですね。安全と環境の保全というのは別の価値でありまして、両方とも必要ということであります。ですから、わざわざ環境問題に安全保障という言葉を使うということについては、私は政治学の立場からいうとちょっと違和感があるということでございます。  ありがとうございます。
  20. 松下和夫

    参考人松下和夫君) 加藤先生の気候安全保障と軍事力の関係について、御質問ありがとうございました。  気候安全保障が、先ほど紹介しましたように二〇〇七年にイギリスの当時の外務大臣から提唱された背景は、恐らく、言われていることですが、当時アメリカブッシュ政権で、国際的な気候変動問題に対する議論になかなか加わってくれなかったという背景がありまして、イギリス政府はいろんな形でアメリカに働きかけたわけですが、一つの方法としてアメリカが関心の非常に深い安全保障と結び付けて議論を展開したと、そういう背景があると言われています。  アメリカの国防省の報告など、国防省系のシンクタンクの報告などによると、気候変動が進行して、そのことによって国際的な安定性が損なわれて、難民が増えると。そうすると、もうアメリカを言わば要塞国家のように、アメリカを守るための要塞をつくるみたいな、そういう議論が展開されています。そういった意味で、軍事的な力で気候による影響、外からの影響を防ごうという議論があることは確かであります。  ただ、私自身は、先ほど紹介いただいた環境省のレポートにあるように、国際的な連帯によって、非軍事的手段によってこの問題に取り組んでいくべきだというふうに考えております。ただし、気候変動による異常気象が多発して、いわゆる脆弱な国家被害が広がってきますと、これに対してはいろんな形で緊急支援が必要ですので、そういう緊急支援という形で専門的な組織が出ていく必要があるというふうには考えております。  それから、余談ですが、オバマ大統領は去る三月三十一日に、メリーランド州のアンドリュース空軍基地でエネルギー安全保障に関する演説を行っています。ここでいろいろ言っておりまして、例えば自動車の燃費を毎年五%改善するとか、あるいは石油の自給率を上げて、原油の輸入、海外依存を減らすとか言っておりまして、さらに、アメリカ空軍のグリーン化ということを言っています。  どういうことかというと、アメリカ空軍が使っている音速ジェットファイター、音速戦闘機の燃料をバイオマス燃料にするというようなことを言っております。ですから、アメリカ、オバマ大統領は軍隊自体を言わば環境負荷を下げようという発想はありますが、むしろ、やはり全体としては、国際的に軍縮を進めて軍隊を減らす方が望ましいのではないかと、これは個人的に考えております。  以上です。
  21. 土屋大洋

    参考人土屋大洋君) 御質問ありがとうございます。  私もその問題、薄々頭の中では考えていたんですが、真剣に考えたことがなかったのでちゃんとしたお答えはできないんですが、今考えてみるに、例えば今私たちが携帯をなくすとかパソコンをなくしたときには、リモートで起動させる、リモートで操作するということはある程度可能なわけですね。私の同僚が先日、オーストラリアで携帯電話をタクシーの中に忘れましたけれども、それを自分のパソコンから操作をして、起動して、取り戻すということをやりました。そういった意味でいうと、ネットワークでつながっているものというのはいろいろな形で操作ができるようになるということなんですね。ただ、ネットワークにつながっていないものは何もできない。  ミサイルというのは、そういう意味ではネットワークにつながっているといえばつながっているわけですね。つまり、ミサイルの弾道を操作するということができたり例えば自爆させるということができたりということは通信ができているということで、ネットワークに乗っかっているということになるわけです。そうすると、全く先生が御質問されたようなことができないわけではないということも可能性としては、技術的には、理論的にはあるんだろうというふうに思います。ただ、発射されてからそういうことができるかというと、時間的な問題からして恐らく無理でしょう。  そうすると、発射される前の段階でそういうことが可能かどうかということになると思うんですね。恐らくその場合も、内部で協力してくれる人がいれば多分非常に簡単にできるようになるんじゃないかということは予想としては言えますが、外部の人が個人的なリソースだけでそこまでやれるようにはまだならないんじゃないか、そこまで国防のネットワークというのも弱くはなっていないんじゃないかなというふうに思います。ただ、御指摘のようなことは完全にないというふうに否定はできないというふうに思います。  ありがとうございました。
  22. 石井一

    会長石井一君) ツルネンマルテイ君。
  23. ツルネンマルテイ

    ○ツルネンマルテイ君 民主党のツルネンマルテイです。  三人の参考人の話は、とてもありがとうございます、非常に参考になりました。  私の方からは、納家参考人松下参考人に同じ質問をさせていただきます。  つまり、テロ攻撃の要因にはどういうことを一番主に考えているんでしょうか。例えば、紛争の場合は要因には食料の問題とかエネルギーの問題とか水資源の問題はあると思いますけれども、テロの場合はどの程度、例えば貧困と宗教は間接的に見ても要因になっていると思うんでしょうか。御承知のように、例えばイスラム系の国々から、アラブの国々からアメリカに対するテロ攻撃はあるんですね。そのときは、よくやっぱり貧困、余りにもそれは大きいですからそれは一つの理由に、あるいは宗教、イスラムとキリスト教の中の。この二つは、テロ要因にはどの程度の、テロ攻撃のどの程度役割を持っているかという質問です。
  24. 石井一

    会長石井一君) それじゃ、松下参考人からお始めください。
  25. 松下和夫

    参考人松下和夫君) 質問ありがとうございました。  テロ攻撃の要因として、広くは恐らく貧困問題とか宗教問題が根底にあるということは言われていることは承知していますが、それがどの程度具体的に関係があるのか、私自身十分に検討しておりませんので一般的な形でしかお答えができないと思います。ただ、やはりそういう貧困とか宗教対立をなくして、それから環境に対する対応をきちんとやることがテロを防ぐことの一つの、時間が掛かりますが、取組方であろうというふうに考えております。
  26. 納家政嗣

    参考人納家政嗣君) テロ攻撃に対してどういう用意をしたら、対応をしたらいいかということでありますけれども、テロの場合は基本的に未然防止ですね。起こってから対応するというのはもちろん必要なことでありますけれども、日本の対策は今基本的に、起こった後の被害を限定するという意味での対応が多いと思います。しかし、テロの場合は基本的には、特に大量破壊兵器なんか絡む場合には未然防止が決定的に重要で、これは私は、日本体制の中で一番弱い部分でありますけれども、インテリジェンスですね。人を入れない。例えば、二〇〇四年だったと思いますが、デュモン事件というのがあって、偽造パスポートを使って日本と何度もかんども行ったり来たりしている、要するにアルカイダ系の人間がいたという事件がありました。こういうふうなものを水際できちっと対応できるような体制をつくるということがテロの場合には多分一番重要であるというふうに考えます。  そして、同時に、貧困とか宗教的背景、こういうふうな問題がどの程度テロ要因になっているかということでありますけれども、これは間違いなくそういう要因はあると思うんですね。ありますけれども、テロ対応する場合に、じゃ貧困をなくすとか、それから宗教間の対話をするとか、こういう形でテロ対応するということはできないというのが政治学での研究、大方の意見ではないかというふうに思います。  対応する場合に、例えばテロリストというものに対しては、従来の安全保障でいえば敵をせん滅するのが解決でした。今は、敵をせん滅することによってかえってその周辺に共感を持っている人たちの敵意をあおってしまうという問題がありますので、そのときの対応の仕方を考えないといけないと思いますね。だけれども、貧困対策をやる、あるいは宗教間の対話をやることによってテロをなくすという、そういうふうな形では結び付かないというのが一般的な考え方ではないかというふうに思います。
  27. ツルネンマルテイ

    ○ツルネンマルテイ君 ありがとうございます。
  28. 石井一

    会長石井一君) いいですか。
  29. ツルネンマルテイ

    ○ツルネンマルテイ君 いいです。
  30. 石井一

    会長石井一君) 藤田幸久理事。
  31. 藤田幸久

    ○藤田幸久君 民主党の藤田でございます。  まず、土屋参考人にお聞きしたいんですが、エシュロンがございましたが、二〇〇一年の始めにEU議会がエシュロンを禁止したんですね。その後それがどうなっているかということ。つまり、これは冷戦が終わった後、アメリカ経済情報を得るためにアングロサクソン系がやって、それにEUが危機感を持って止めたわけですね。ということは、その後はこういうたぐいのことは起きていないのかということと、今日のお話ですと、要するに、存在が分からない人々が動いているということなんですが、他方、中国の痕跡も見られるということは、今の世界において、特定の国あるいはグループがそういう意図的な、戦略的なこういう手段を講じた動きがないのかどうか。あるとするならば、それに対応を多分しているんだろうということが考えられるので、二〇〇一年にエシュロンをEU議会が止めた段階でそれで終わったはずがないのではないかという想像の下での質問です。  それから二つ目は、最後の部分で、国会にインテリジェンス委員会を設置し、行政傍受を可能にということなんですが、例えば、ハイチにレスキュー隊を送らなかったことも含めて、日本の国のシステムの中で危機に対して対応する仕組みがないんですね、多分。そうすると、そういう仕組みがない中で、例えば立法府が委員会を設置して行政傍受を可能にしても、そもそも対応できる仕組みがないんですね。だから、むしろそこから始めないと無理ではないかなと。  そうすると、例えばアメリカなりなんなりは、国家の意思を反映する、あるいはトップが意思を決定する仕組みがあった上でのこういう対応なんですが、そもそものところのインフラといいますか仕組みづくりの方が先ではないかなという気がするんですが、それについてどうお考えかというのが二点目です。  それから、松下参考人に関して、先ほど納家参考人からお話しになったことと関係するんですが、環境安全保障とか気候安全保障というふうに考えると非常に物理的、社会的、数値的なイメージが強いんですけれども、テロというのはむしろ、今のツルネンさんの質問とも関係あるんですが、人的、心理的、個別的、主観的なことがきっかけになることが多いので、むしろ、例えば環境安全保障というような発想でいうならば、心理的環境とか主観的環境というか、個人に関する心理、反応、情緒といった意味での環境意味も、要素も非常に重要ではないかと思うんですけれども、そういう点に関するお考えはいかがかと。  というのは、実は人間安全保障って始まったころ、たしか当時の高村外務大臣に聞いたんですが、日本政府人間安全保障というメニューの中に人権が入っていなかったんです。私は、肝心の人権が入っていなくて人間安全保障はないでしょうと言ったら、それから入るようになったんですけれども。  つまり、そういう要素が欠けた人間安全保障とかいう意味もあるので、この環境安全保障という場合に、そういう心理的、個別的、情緒的な要因というものが重要ではないかと、テロとの関係等に関してはということでお聞きしたいと思います。  それから、納家参考人にお聞きしたいと思うんですが、要するに、今の国際安全保障とは何かという辺りで、脅威の非特定性、非国家主体等々の考察でいきますと、そもそもテロというのは犯罪だという認識からしますと、例えば今のこの先生が分析していただいた分析の仕方でいうと、二〇〇一年から始まった例えばテロとの戦い、不朽の自由作戦、つまりアメリカの自衛権の行使のための武力行使という形でテロを起こしたであろう主体に対する武力攻撃、あるいは大量破壊兵器という形でイラクに戦争を起こして、国連も部分的には追認したんですが、そういう形での武力攻撃ということは妥当性がまるでなくなるんではないかというふうに認識をしたんですけれども、そういう認識についてどうお考えかどうか。  つまり、敵と味方を区別できないと。テロとの戦いというのは、基本的に敵と味方を区別して武力行使をしていったという流れだろうと思うんですけれども、そもそもそういう組立て自体が恐らく今後はなり得ないのではないかというのが一つです。  それからもう一つは、オバマ政権になってから安全保障考え方が多様化したと思います。例えば、貧困の撲滅とか途上国支援とか国連PKOでかかわるなんというのも広い意味での安全保障の分担として認めてくれるようになった。ということは、安全保障のメニューとすれば広がっているけれども、ただ、こういう不特定脅威に対する対応の仕方とすれば非常に難しいと。そうすると、アメリカとすれば、安全保障に対する共同作業のメニューは広がったけれども、相手が特定しないとなると、一方で協力したいんだけれども協力する方法というものがあり得るのか、国同士で、というその在り方について、二点目としてお聞きしたいと思います。
  32. 石井一

    会長石井一君) それではまず土屋参考人
  33. 土屋大洋

    参考人土屋大洋君) 御質問ありがとうございました。非常に重要な御質問だと思います。  エシュロンというのが確かにございました。このプログラムはアナログの技術を中心にしたものというふうになっています。例えば無線通信は、例えば携帯電話を皆さん使っていらっしゃると思うんですが、携帯電話はデジタルの技術ですけれども、それ以前はアナログで、例えばハム無線みたいなものというのはアナログでやっていたわけですけれども、あらゆる無線というのはかつてはアナログでやっておりました。例えば海外に電話を掛けるときに、今は海底ケーブルを通るんですが、かつては人工衛星を介してつながるというようなこともありました。そうした無線を傍受するということは非常に簡単でして、無線を傍受すること自体というのはどこの国でも多分違法ではないんですね。  皆さんの携帯電話はある種暗号化されているので皆さんの持ち主しか通話ができない、受信することができないということになっているだけの話であって、電波はそこらじゅうに飛んでいるわけですね。ラジオもテレビもそういう面では傍受するということになっているわけです。テレビやラジオは暗号化されていないのでだれでも傍受できる。そういった形でその暗号化されていないたくさんの無線、あるいは暗号化されていてももう野放しになっている無線というのがたくさんあって、それをエシュロンというシステムは集めていました。  あるいは、海底ケーブルですね。これは有名な事例がありましたけれども、オホーツク海にソ連が海底ケーブルを沈めていまして、ここはだれも取りに来ないだろうと思ってソ連は全く暗号化せずに機密情報をその海底ケーブルに流していたわけですね。この海底ケーブルのアナログの技術というのは微弱な電波を出すというふうに言われていまして、それを記録することで後で通信内容が復元できたわけですね。アメリカはその通信ケーブルを見付けてひそかにそこに記録装置をくっつけるということをやっていました。それをソ連がアメリカの中で雇ったスパイがソ連に通報してしまったがためにソ連は気付いて、オホーツク海にだあっとソ連の艦隊が集まってきて、アメリカは人工衛星から見ていて何かやばいぞというふうに思ったわけですが、後日やっぱりアメリカが潜ってみたらその装置が取り除かれていて、今はモスクワの博物館でさらしものになっているそうなんですけれども、そういったことというのがやっぱりあったわけですね。  ところが、そのエシュロンがやっていたのはそういうアナログで非常に漏れやすくて傍受しやすい通信に対するものだったわけです。ところが、二〇〇〇年を境ぐらいに、インターネットもそうですし、デジタルの技術というのが世界中で普及するようになりました。これは、例えばその海底ケーブルから出たような微弱な電波というのも出ませんし、あるいは飛んでいる放送のものというのも非常に暗号化がしやすくなったので、傍受しても分かりにくいということになってきたわけですね。  先ほど私が最初に御説明したブッシュ政権の令状なしの通信プログラムというのは、この実はエシュロンを受け継いだものということなんですね。これはアメリカ政府の中では、プログラムという、まあ非常に何というのか一般的な名称のコードネームで言われているんですが、ザ・プログラムというふうに言われているんですけれども、これは結局そのアナログでやっていたものがもうデジタルの世界に世の中技術的に変わってきた。そこで、もう勝手に取るということができなくなってきた。そうしたら、通信事業者の協力を得た上じゃないと通信傍受ができなくなってきた。そういうことを反映した形の大規模な令状なし傍受ということになっているんです。  そういう面では、UKUSAのエシュロンの枠組みというのは死に絶えたわけではなくて、まだある程度残っていると思いますし、実は私、昨日カナダの研究者と話をしていましたけれども、まだそういうことがあるということは言っておりました。まあ政府の方ではなく研究者の方ですから内容を知っているわけじゃないわけですけれども、そういうことを言っていました。ですが、技術が変わってきたことによって政府側のプログラムというのも大きく変わってきていて、それに対応する形の通信傍受というのがブッシュ政権、オバマ政権で今行われているということだと思います。  そして、そういうインターネットの構造がアメリカ中心になっているということは否定するまでもなくて、やっぱり世界中のトラフィックの七割ぐらいがアメリカを経由するというふうに言われています。これは、中東辺りが非常にネットワークが複雑につくられているということがありまして、南アジアの通信というのが、アフガニスタンみたいなところの通信というのが、例えばロンドンと通信をやり取りするというときにもアメリカを経由してしまうということがあるわけですね。そういったものを取れたら非常に有益であろうということで、アメリカはこういうプログラムをやっているという側面があります。  二つ目の御質問の、日本には危機対応する仕組みがないんじゃないかというお話です。  恐らく私より先生方の方が御存じだと思うのでそうなのかもしれないと思っているんですが、この問題は非常に同盟にもかかわる問題ですし、日本という国が外交、国際政治の中で信頼される国になるかどうかという大きな問題と結び付いていることだと思うんですね。  同盟国から、例えばアメリカその他の国々から安全保障にかかわる情報、あるいは川口先生なんかは重要なポジションにおられましたからよく御存じかもしれませんけれども、そういった情報をもらうときに、アメリカ日本は信用できる国だというふうに思ってくれれば良い情報というのが出てくると思いますけれども、そうではないということがあるわけですね。イージス艦の情報が漏れてしまったみたいなことがあるわけです。そうしたときに、情報の管理をいかにする、どうするかということが第一歩で、そのためのセキュリティークリアランスだというふうに思っています。  もし、このインテリジェンス委員会を国会の中でつくっていただければ、そこで出てきた情報については先生方が漏らすことも違法行為になるわけですね。刑法で罰せられるということになるわけです。そこは先生方もしっかり守っていただかなきゃいけない。だから、それに基づいて、政府、行政府の方も立法府の方も適切な判断ができるようになるだろうと、そういう期待を込めて私は是非やっていただきたいと思いますし、日本がそれができない国だっていう根拠も逆に言うとないと思うんですね。やっていかなきゃいけない重要な問題じゃないかというふうに思っています。ちょっと出過ぎた言い方かもしれませんが、そういうふうに思っています。
  34. 松下和夫

    参考人松下和夫君) 藤田先生から御質問いただいた主観的、心理的要因が非常に大事だということはとても大事なことだと考えます。  私どもはどうしても、環境問題を物理的、社会的、経済的な現象としてとらえがちでありますが、そういう心理的なものであるとか主観的なものが非常に大事であります。  これは現在の、例えば昨年経済学賞を受賞したエレノア・オストロムという方がおられますが、この人は、地域における環境の管理、資源の管理を地域の人の参加によってコモンズとして共同で管理することを提唱して、いわゆる社会的共通資本という言葉を提唱してそれで評価されております。  これはどういうことかというと、地域の中で人と人とのつながりがより強くて、みんなで共同で管理することによって、持続的に地域の例えば山林だとか資源が管理されると。そういうことを世界の各地を調べて解析したものになっています。  したがって、一つは、こういう地域社会における人と人とのつながりだとか、そういうことを再生するということが大事だと思います。もう一つは、テロ要因として先ほど宗教的対立ということがありましたが、実はそれぞれの宗教ごとにいろいろと環境の持続性だとか生命の持続性について非常に重要な考え方がありますので、例えば日本ですともったいないという言葉がありますし、そういう環境教育とか環境倫理をそれぞれの異なる宗教間で対話をするなり、あるいは新しい形で環境の倫理をつくっていくことによって、心理的な、あるいは人々のつながりを高めて、それによって、時間が掛かると思いますが、共通の認識をつくっていって、環境、いわゆる持続可能な社会をつくる礎をつくっていく、そういうことが必要であるというふうに考えます。
  35. 納家政嗣

    参考人納家政嗣君) テロに対する対応の仕方でありますけれども、九・一一事件があって、それに対してアメリカがウオー・オン・テラーと言ってウオーという言葉を使った、それがもう間違いだったというのが多数派の考えじゃないでしょうか。つまり、敵がはっきりしていて、交戦法規があって、戦争終結の手続があるという場合でなければ、戦争というのは基本的に機能しないということですよね。  ですから、例えばタリバンを追放するとか、こういうことはもうアメリカにとっては簡単なことなんですよね。できないのは、その後の、タリバンが出てきた社会的な背景というか、その社会自体を安定させるという、それは軍事力を持っていてもできない。逆に、軍事力を持っていて、もうセキュリティーチェックをやって、町歩いている人をとっ捕まえて地べたにはわせて、それで武器を持っていないかチェックすると。これやったらもう住民からどんどんどんどん反発を買うと、こういう状況が出てきますね。ですから、逆に、敵はいなくなったけれども社会は不安定になって、テロが出てくる状況をかえってつくり出してしまうということになる。  したがって、先生がおっしゃるように、基本的にはこういう対応というのはもう多分できないだろうと思いますね。テロに対して戦争をやるという、こういう対応はできない。長期にわたって、つまりテロが出てきた社会を安定させていくという、そちらの方に比重を掛けていくという、そういうアプローチが出てくる。もちろん、起こったときのための武力の抑止力とかそういうふうなものはもう常に用意しておかないといけないことだろうとは思いますけれども、戦争をやって、使うまでは意味があるんですけれども、使ってしまったらテロに対しては意味がないというふうに私は考えております。  それから、もう一つの御質問ですけれども、ちょっと最後の辺りが分かりにくいというか、ちょっと受け止めることができなかったので、もし間違っていたらお許しいただきたいんですけれども、オバマ政権になってから確かに安全保障の使い方というのは広い。でも、これはオバマ政権になったからではなくて、アメリカは比較的このセキュリティーという言葉を非常に広く使うという傾向があると思います。ですから、法案や何かを見ても、エンバイロンメンタルセキュリティーとかリソースセキュリティーとかいう形でセキュリティーという言葉は非常によく法案の中に入ってきていますね。  ただ、私は、日本の方はちょっとセキュリティーというともう少し重いニュアンスで使っているものですから、ギャップがあるんだと思うんですね。余りそのセキュリティーという言葉を何にでも使いたくないという、日本語としては、というところがあります。  そのギャップが国際協調を妨げるというか阻害することになるんじゃないかという御指摘かというふうに私は受け止めたんですけれども、例えばテロなんかの場合には、これは明らかにこのギャップは大きな問題になると思いますね。例えば、あの九五年の地下鉄サリン事件の教訓というのは、アメリカの方は議会でも政府の中でも物すごい検討が行われてどう対応するかということをやったんですけれども、日本の方の対応というのは、まあ議論はされましたけれども、基本的にその制度がつくられていったのは、全部、行革とか官邸機能の強化とかいうそういうふうな機構いじりの段階でぽつぽつと発展してきたというだけなんですね。全体に危機をどうやって、レビューやってリスク評価をやってどういう対策を取らなきゃいけないかという、そういうふうに結び付けていくプロセスが日本ではありませんでした。  ですから、このギャップは、テロや何かについては非常に協力を難しくするというふうに考えます。  以上です。
  36. 石井一

    会長石井一君) それじゃ、川口順子さん。
  37. 川口順子

    ○川口順子君 三人の先生方のお話、大変に触発されまして、非常に面白く伺わせていただきました。  私の質問は、今まさに話が出ている、広がる国際安全保障に対して我が国が自らを、あるいは国際社会をどういうふうに守るかということに関してなんですが、今、納家先生がおっしゃったセキュリティーという言葉のギャップというのはおっしゃるとおりだと思うんですね。それから、ここにお書きの、我が国の、狭い意味での安全保障対応するということをもう少し広げて考える、把握をする必要があるということもおっしゃるとおりだと思うんですが、もう一つギャップがあるという意味でいうと、有志連合についての考え方のギャップというのがあるんじゃないかなという気が私はしておりまして。  どういうことかといいますと、例えばPSIのようなもの、あれは有志連合でやるわけですけれども、どちらかといえば、イラク以降、有志連合に対して日本の中では非常にマイナスのイメージがあると思うんですね。国連に持っていけば全部そこでお墨付きがあって結構である。それは最終的なお墨付きあるいは正当化をするところとして意味を持つ場合もあると思いますけれども。  例えば、地震がスマトラやタイであったときに、実際のその被害の度合いの把握は国連がするよりははるかに各国の政府の方が早くしているわけで、したがって、実際に何が起こったかというと、電話でわっと話をして、じゃこれをどの国はこれだけやりましょうということになっていって、そういった分野が、問題が多角化し多様化するにつれてもっと増えてくるというふうに思うんですが、日本対応の在り方として、何となく国連が出しなさいと言ったら出そうというところがありまして、そのコンセプト、見方を日本だけじゃなくてほかの国ももっと変えていくというのが今後の流れとしてはあるのかなという気がしておりまして、早い話、温暖化問題ですら国連の枠組みで解決をしようと思うとできない。あれ、もっと少数の国が集まって、取りあえずこれだけやりましょうといった方が早いかもしれないということもあるので、そこについての諸先生のお考えを伺いたいと思います。  という中で、特にサイバーテロ、サイバーの問題についてなんですけれども、例えばミサイル技術をコントロールしましょうという意味では、これは有志の連合で技術の輸出についての制限をやりましょうということで実際に動いているわけですけれども、サイバーテロになったときに、今一国一国がちゃんとコンピューターのファイアウオールを高くしてというような世界になって多分いるんだろうと思うんですが、もう少し国際的な連帯の中で、例えばそういう国に対しては何かの技術を輸出するのを禁止しましょうとか、何かそういう枠組みの方向性というのは今後あり得るかどうかといったことを特に土屋先生にお伺いをしたいです。  以上です。
  38. 石井一

    会長石井一君) それでは、土屋参考人からお願いしましょうか。
  39. 土屋大洋

    参考人土屋大洋君) 御質問ありがとうございます。  私も暗号技術の移転というのを実は長い間研究しておりまして、まさに御指摘の点に関係すると思うんですね。これ非常に複雑な展開を見せまして、やっぱり暗号技術というのは戦略的な物資であるということでアメリカは規制をしたいというふうに思っていたわけですね。アメリカが一番強い暗号というのを持っていましたので、それが敵対する国に渡ってしまって使われて、自分たちが解読できなくなるのは困るということで輸出規制というのをやったんです。それを各国、ほかのアメリカと近い国々にも求めるということで、ワッセナー協約ですね、ワッセナー・アレンジメントの枠組みの中でやってくださいと。日本もそれに準じる形でその規制というのをやっていたんです。  ところが、アメリカの国内の暗号を作っている会社から、それはビジネスの侵害だということを言い出したわけですね。自分たちが輸出競争力を持っている製品を輸出させないというのは、アメリカ政府はけしからぬというふうに言ってきた。あるいは、海外にあるアメリカの拠点、企業あるいは大使館なんかが、そういう強力な暗号を海外で使えないというのはアメリカとの通信で困るじゃないかみたいなことになりまして、結局、二〇〇〇年ごろだったと思いますけれども、アル・ゴア副大統領が緩和しますということで実質的な規制というのがなくなってしまいました。  それ以前は、例えば日本で暗号に対応した、強力な暗号を持っている、ブラウザーと言うんですが、インターネットエクスプローラーみたいなものをダウンロードしようと思ったらできないという状況があったんですけれども、今はもうほとんどそういうことがなくなってしまった。  そういう面では、技術を止めましょう、水際で何とかしましょうという方向は余り議論としては高まっていないというところがあります。特に、インターネットでつながってしまうともうほとんど止めるのが難しいということがあるので、止められないというところがあるんですね。  ここは非常に悩ましいところなんですけれども、今民間の方のソリューションとして言っていることというのは、なるべく逆に言うとオープンにしてしまいましょう、だれでも中身を見れるようにしましょう、だれでもその技術を使えるようにしてしまいましょう、秘密を逆に言うとなくしましょう、その技術にどういう問題があるかということもみんなで検証しながらやっていくことで逆に安全性を高めましょうというやり方になっているわけですね。その技術を使って例えばパスワードで守るとか、様々な技術で特定の人しか知らない形で守っていくという方向の方がいいんじゃないかということなんですね。  そういう面では、ミサイルなんかの規制のやり方とはちょっと情報技術というのは、やっぱり無体物であるということが一番大きいんですが、しにくくなっているという側面があると思います。これはいろんなワッセナー協約でもWTOでも議論をしているようですが、今のところは昔のミサイルとか兵器のような形で規制するのは難しいという流れになっているようです。
  40. 納家政嗣

    参考人納家政嗣君) 有志連合の話ですけれども、今後の国際社会におけるいろんな問題への対処の中では有志連合というのは間違いなく増えていきますね。これは、問題が不測の事態という形で出てくることが多いし、それから問題を起こしている主体が何かということが余り特定できないというふうなケースが非常に多いものですから、一番関心を持っている国がリードステーツになって、それでできる国で取りあえず物事を始めるというそのパターンが非常に多くなってくると思います。  例えば、先生もよく御案内の不拡散問題というのも、冷戦時代であれば、NPTがあって国際原子力機関があって査察をやっていればまあ何とか収まっていたというものでありますけれども、現在は、イランにしても北朝鮮にしても、六か国協議とかP5プラスドイツみたいな、そういうアドホックの枠組みを使ってやっていく、それにIAEAが絡むとか、いろんな形で連合した形で対応するという形ができてきます。ですから、有志連合に参加するかどうかというのはこれからの安全保障政策考える場合には非常に重要。  で、日本に警戒心があるというのは、要するに、どこか、例えばアメリカが自国の利益のためにやる戦争に巻き込まれるというこの心配ですよね。これは、日本の側できちっと政策をつくって、どういう場合にはやって、どういう場合にやらないかということをある程度明らかにしておけばいいことで、全部を決めることはもちろんできない。それは日本側の体制づくりの問題かと思います。  これを逆に国連にげたを預けて、決議があれば行くし決議がなければ行かないというのは一つ考え方かもしれませんけれども、現在の安全保障理事会の決議の作り方を見ていると、アメリカ中国の関係を一つ考えても、とても信頼性がないというふうに私は思うんですね。ですから、やっぱりこれは自主的に日本側がきちっとした体制をつくるということが必要かと思います。  それから、余計なことかもしれませんが、もう一つだけちょっと付け加えさせていただきたいんですが、有志連合に参加するかどうかというのは、例えばインド洋でも自衛隊が行きますね、参加しますと言った途端に情報がばあっと入ってきます。で、日本国際社会の一員になります。で、これで何月何日に中止します、中止したその日から情報がさっと止まって、日本国際社会で起こっていることについて全く分からなくなってしまいます。完全にその段階で日本は孤立するということになるわけですね。ですから、どれに参加してどれに参加しないかということは、大まかにきちっと日本側の政策つくらないといけないと思いますけれども、基本的には、日本はこういう戦争以外のことについては積極的に参加するという姿勢で政策をつくるべきだろうというふうに私は考えております。
  41. 石井一

    会長石井一君) それじゃ、最後に松下参考人
  42. 松下和夫

    参考人松下和夫君) 有志連合の考え方ですが、環境問題の分野で考えてみますと、先日開かれたCOP15でも国連という枠組みでは十分効果のある成果は出なかったわけですね。そうした中で、一つ考え方として、例えば主要排出国が集まって有志連合で排出行動を約束すると、そういうことはあり得ると思います。  これは、例えば過去においてEU、ヨーロッパで酸性雨問題が大変深刻になったときに、ヨーロッパ関係国ですぐには同意できないときに、いわゆる有志国、北欧諸国だとかドイツが連合を組んで、そういう国がまず自主的に三〇%硫黄酸化物を減らすと、そういう三〇%クラブという有志連合をつくって、それが広がって最終的に越境大気汚染防止条約というような条約ができたわけですね。ですから、そういう意味で、積極的な国が率先、実行して取組をする、それを全体に広げていくというアプローチは有効だと思います。  ただし、やはり気候変動問題のような問題は非常に地球規模の問題ですので、最終的には現在ある国連というユニバーサルの組織を使って、それで世界全体を包含する一つの正当性と透明性と代表性のある取決めを作っていく、その努力を引き続き進めていく必要があるというふうに考えます。  ありがとうございました。
  43. 石井一

    会長石井一君) 室井邦彦君。
  44. 室井邦彦

    ○室井邦彦君 先生方には、今日はお忙しいところ御苦労さまです。お三方の参考人の方々に御質問をいたしますが、多少重複するところがあるかも分かりませんが、お許しをいただきたいと思います。  まず国際安全保障の問題で、やはり取りざたされるというのは核、核兵器、核の問題なんですが、御承知のとおり、このアジアにおいては中国、インド、この二国の軍備の拡大は年々増加の一途をたどるという、こういう世界的には平和の安定に対する猛威というか、非常に不安を与えていると。こういう中で、アジア太平洋地域の安全を確保していくために、さらに我々日本の外交はどういうところにポイントを置くというか、軍縮に向けての取組をしていけばいいのか。お三方の先生方には、お話を聞いておりますとそれなりのお答えが出ているようでありますけれども、再度、核のことについてのお尋ねを申し上げたいということと。  もう一点は、この核保有国というのは、今現在八か国ですか、で、持っているとされている国が三か国ほどあるようでありますけれども、年々核保有国が増加をしていると。こういう実態の中で、使用済核燃料と再処理事業のウラン濃縮事業に対して、それぞれの国家が管理体制を整え国際原子力機関、IAEAの査察に全面協力するならば、原子力の平和利用は当然担保されると思うわけでありますが、北朝鮮なんかはこのルールは全くもう通用しないと。どのようなこういう場合ルールで進めるか、また原子力の平和利用を守ることができるのか、所見、お考えがあればお聞かせをいただきたいなということ、これは納家参考人に特にお願いをしたいと思います。  松下参考人には、このような人間安全保障、そして地球環境安全保障という面でいろいろとお考えをお聞かせいただきました。その中で私がお尋ねしたい部分は、この人間安全保障部分で、今、人間安全保障というのは一つ定義がされているということをお聞きをしました。しかしながら現実は、多くの国や地域において内戦が、非常に地域紛争が勃発をしております。一向に期待した効果が上がってこない、その原因はどういうところにあるのかということをもう一度お聞かせいただければ有り難いと思います。  もう一点は、環境破壊の面、地球環境安全保障についてお尋ねをしたいんですが、それぞれ環境破壊によって、アフリカでは水不足でそれぞれ紛争が起きていると聞いておりますし、インドネシアでは森林火災によってまたこれもお互いの国々で紛争が起きていると。いろいろと聞いておりますが、まだ黄砂に対しては中国日本はそういう問題は起きていないようでありますけれども、今後どのようにこの黄砂の問題も、ただ砂だけじゃなく微生物とかいろいろなものをその砂の中に含んでいる、人間に害を与えるんじゃないかと、こんなことも取りざたされておりますけれども、こういう国々に対してしっかりと検証して、今後先進国途上国に対してどのような支援の取組を考えていけばいいのか、御所見がございましたら是非お聞かせをいただきたいということであります。  最後に、土屋参考人に。  私もこういうITとかそういう部分に対しては非常に弱い男でありまして、携帯をなくしてパソコンでその携帯の紛失を見付けるという、まさに私じゃ考えられないことなんですが、今先生方がいろいろ、それによって核兵器を誘導できるとか、そういう可能性があるとか、非常に恐ろしい、身の毛もよだつ思いをしているんですが。  土屋先生には、インターネットに依存する国際社会というのは、当然もうそういうことになっているわけでありまして、先ほども説明の中にございましたけれども、膨大な情報量がこのインターネット上に貯蓄されていると。こういうことに対して、当然重大な危険性をはらんでいるわけでありますが、それぞれ国々が、また日本の国が、国際社会がどのように対処していこうとしているのか。また、我々日本の国も実際具体的にどういう対処をしていけばいいのかどうか、是非お聞かせをいただきたいと思います。  以上です。
  45. 石井一

    会長石井一君) それでは、相当広範にまたがっておりますが、答えられるものだけで結構ですから。まず、土屋参考人
  46. 土屋大洋

    参考人土屋大洋君) ありがとうございます。  先ほどの携帯の例はちょっと極端といえば極端で、普通の携帯ができるわけではなくて、いわゆるスマートフォンと言われているものなんですけれども、そういうものは割とインターネットとの親和性が高いということがありまして、そういうことができるものもあるということで、すべてができるというわけではないんですけれども、そういうことも可能になってきているというものがあります。  先ほどのミサイルの誘導の話も、理論的にはできる、技術的にはできるけれども、実際に現場でそういうことができるかどうかというのも、やはりやってみないことには分からないというレベルのお話で私も申し上げております。  インターネットにどうやって対処していくかというのはこれは大きな問題でして、今日は本筋ではなかったのでそこら辺お話をしませんでしたけれども、今中国を始めとする途上国のグループが現在あるインターネットに対する挑戦というのを非常に始めています。  もうこれは十年近くになる出来事なので御存じかもしれませんけれども、これは、中国が、最初は何分、過分な誤解に基づくところがあったんですけれども、インターネットでたくさんの情報をアメリカが収集しているんではないかと。中国の電子メールというのもすべてアメリカが読んじゃっているんじゃないかというようなことを勘違いしたわけですね。例えば、中国国内でとどまっているインターネットのメッセージというのはそれは中国でしか読めませんし、アメリカが読めるということはほとんどあり得ない話なわけですね。  ところが、インターネットの中で一番重要なコンピューターのサーバーというのが世界に十三台あります。これは、ドメインネームというシステムがあるんですが、それの中のルートサーバーですね。例えば、石井会長の名刺を拝見すると、裏のところにwww.hajimeishii.netというふうに書いてあります。これはどうやったらこのウエブサイトにたどり着けるかということをつくっているシステムがドメインネームというシステムになるわけですね。  これは、hajimeishii.netというのがどこにあるのかということを登録しておくデータベースというのがあるわけです。これは世界中にもう無数と言っていいほどあるんですが、分からない、分からない、分からない、どこに聞いても分からないといったときに、最終的に上っていって教えてくれるサーバーというのが世界に十三個あるんです。そのうちのほとんどはアメリカにあるんですが、数個がヨーロッパにあり、一つが私どもの慶應大学が関連しているWIDEプロジェクトというところにあります。中国にはないわけですね。  中国はこの配分がおかしいと、インターネットはアメリカ主導になってしまっていると、これを何とかしないといけないということで、非常に攻撃をしてきました。それはITU、国際電気通信連合が主催する世界情報社会サミットというのが開かれたんですが、そこでも激しく言っていますし、その後開かれている様々な会議でも中国は徹底的にアメリカを批判するということをやっています。中国は、それが、自分たちの主張が受け入れられないと、インターネットから極端に言えば離脱する、新しいシステムをつくってしまう。中国が何を求めているかというと、政府が管理するネットワークにしてほしいということなんです。  つまり、中国では様々なインターネット検閲が行われています。皆さん御承知のとおり、グーグルの問題というのが最近取り上げられていますが、ああいった形ですべての国の政府がすべて情報を管理できるようにしたい、日本も是非やったらいいじゃないか、アメリカもやればいいじゃないかということを言っているわけですね。  アメリカあるいはヨーロッパ、日本も含めてですけれども、いや、インターネットは自由なところとしてやってきているので、この問題を政府に任せるべきではないという人が圧倒的に多いわけです。  ここまでたくさん集積されてきた膨大な情報というのはいろいろな形で我々にとって役に立つものなわけですが、それが失われる可能性がある。つまり、ネットワークにつながっているということが非常に今の社会では重要なんですけれども、そのネットワークがだれかの手によって切られる、そうすると失うものが大きいということですね。  今、ヒラリー・クリントン国務長官の下にいるアン・マリー・スローターという女性の研究者、プリンストン大学の先生だった方がいますが、彼女がフォーリン・アフェアーズ誌に昨年論文を書きまして、つながっているものだけが生き残るという強いメッセージを出しています。もうそれは非常に自信たっぷりの書き方で書かれていまして、アメリカの競争力というのはネットワークの中にあるというふうに言っているわけですね。逆に言うと、中国としてはそこがねらい目であって、アメリカの競争力をそぐためにはネットワークをねらうしかないということになっているわけですね。  そういう面で、ちょっと御質問の趣旨から外れているかもしれませんけれども、インターネットそのものの、ガバナンスと言っていますが、それも危機に直面しているというふうに言って差し支えない状況だというふうに思います。  これに対する議論というのも実は、マスメディアでは余り取り上げられないところでかなり一生懸命やっているところで、私もそれにはちょっと参加はしていますけれども、なかなかこれは解決策が見えない状況になっています。
  47. 松下和夫

    参考人松下和夫君) どうも御質問ありがとうございました。  人間安全保障が出てきた背景は、先ほど報告させていただきましたが、冷戦崩壊後で、冷戦当時は国と国と東西対立、国家間の軍事的対立が非常な関心事だったわけですが、冷戦が崩壊したことによってその軍事対立に回されていた資源が人々の生活だとか開発に回されるという期待が持たれたわけですが、結果的には、先生御指摘のとおり各地で内乱であるとか地域紛争が起こって人々の生活自体が脅かされると、そういう事態が起こってきたんだと思います。  それで、国連の方でもミレニアム・ディベロップメント・ゴール、MDGという目標を作って、飲料水だとか衛生だとか保健だとか教育だとか、そういうことの目標を作っておりますが、まだまだその達成状況は十分ではないというのが現状だと思います。  それで、人間安全保障ということを提唱している一つ背景としては、国家だけではなくて国際社会国際機関であるとかNGOとか地域社会だとか、そういったものが一体となってこの問題に取り組んでいくと、そういうことが強調されているという側面があると思います。  それから、次の質問で、環境破壊が具体的に起こっていることに対してどういった地域協力ができるかということでありますが、これは例えば東アジアを考えてみると非常に分かりやすいんですが、日本が位置する東アジアの国々は政治的にも経済的にも非常に異なる国が大勢あって、いろんな問題が起こるわけですが、環境という面で見ると、生態系で見れば継ぎ目のない一つの織物、そういう形を成しているわけです。  それで、御指摘のありました黄砂であるとか酸性雨だとか現実に問題は起こっていますが、これは、軍事的対立であれば、一方が勢力が増せば他方が脅威に感じるということですが、これが協力して取り組めばお互いに脅威を取り除くことができるし、信頼感もできます。そういう形で、例えば既にもう日中韓で定期的には環境大臣会合というのが開かれていますし、そういうところでまずは共通認識を高める意味で、共同でモニタリングするとか、あるいは日本が既に進めている技術を共有するとか、そういう形で、言わば環境協力を通じて平和の醸成ということが可能であるというふうに考えています。  現実に世界紛争地域で、かつて紛争していた国同士が、紛争が終わった後にその国境地帯を言わば平和のための平和公園として管理すると、そういう事例もありますので、よりポジティブに考えると、環境に関する協力を通じて地域の安定と平和を高めると、そういう努力を積極的に進めていく必要があるんじゃないかというふうに考えております。
  48. 納家政嗣

    参考人納家政嗣君) アジア安全保障体制をどうするかという、大きく言うとそういうことかと思います。  中国、インドの軍事費がもう物すごい勢いで伸びているわけですが、この安全保障体制を考えるときにアジアは非常に複雑で、これが何か一つの秩序とか一つ制度の中に入って安定するということは、まだしばらくないというふうに言わざるを得ないというふうに思います。  今度、アメリカとロシアの間のSTART後継条約がまとまって、大体千五百発強で抑えるということになったわけですね。これ以上下げると、多分中国とかその辺を意識しないといけなくなるので、この後の交渉というのは、多分中国をどういうふうに位置付けるかによって大分数字が変わってくる段階に入ってくると思うんですよね。  中国軍備管理の話合いには今は入ってこようとはしません。アメリカの人から聞くと、オバマ大統領が中国に行ったときに胡錦濤と話して、何とかアメリカ中国の間で、軍備管理まではいかなくてもいいけれども信頼醸成、軍事部門での信頼醸成のような話合いをしようじゃないかということは呼びかけているということであります。  ただ、これは昔アメリカとソ連がSALTの交渉を始めるときもそうでしたけれども、軍備管理をやらなきゃいけない必然性というのを劣位にある国というのは理解しないんですね。だから、当時の国防長官はマクナマラでしたけれども、ソ連の要人を呼んでは一生懸命、教育期間で、最初の五年というのは交渉ではなくてもう教育期間だったと。今の中国というのは、その段階にあるということですね。中国も実際はICBMの増強というのはそんなに急いでませんし、ですから、まあ台湾の問題とかあるんで、中距離とかああいうのはもう中国にとっては不可欠の今多分兵器になっているんでしょうね。ですから、そういうのを含めて、どういう形の枠組みをつくるか。  例えば、昔の海軍軍縮条約みたいに五、五、三とか、こういう段階を付けた安定政策を作るとか、いろんなやり方あると思うんですけれども、その方式をこれから見付けていかなきゃいけないという段階ですね。その方式が見付かるまでというのは、基本的には、一方で抑止し、他方では国際社会の中にどんどん中国を入れて責任を負わせるというやり方しか基本的にはないということです。  中国が今のような大国になったのは、基本的に、この世界経済の中に入って、輸出主導で入ってきたわけですから、WTO入って圧倒的に貿易伸ばしたわけですね。この中から外れるということは、中国にとっても大変なデメリットのあることです。ですから、適応過程にあります。いい子になろうというところもかなりあります。ですから、軍事的に、制度ができないからといって非常に危険だという話でもなくて、うまくマネージすれば何とか制度があるところへ持っていけるという話かと思いますね。  それから、もう一つの核保有国がだんだん増えてくるという話でありますが、私は、現在確かに事実上の核兵器国というのを含めると八か国ということでありますが、立場がみんな違いますね。それで実際に増えているのかどうかということを考えますと、やめている国もあるわけですね、リビアであるとか。そういうふうに考えると、私の認識は必ずしも増えてないと。確信犯的に核兵器を今造ろうとしているのは北朝鮮とイラン。その後は、一九九〇年代に入ってからは核拡散をするということはもう犯罪行為という認識一般化してますので、なかなかハードルが高くてそこには手出せないという状況になっていると思います。  ただし、環境問題の方からいうと、これは、原子炉世界に増えていくんですね。二〇五〇年には倍ぐらいになるという、現在の倍ぐらいになるという話もあります。そうなると一番問題なのは、核兵器を造ってどこかを攻撃するという話ではなくて、先ほどから出ております防護の問題かというふうに私は考えております。これは現在のNPT、それで国際原子力機関が査察するというこの体制では、今の原子炉世界の倍になってしまったらもうとてももたない。これは、一国単位で濃縮とか再処理まで平和利用の中に含めた形で許している限りは、多分統制することはできないというふうに思いますね。  ですから、もう既にいろんな案は出ておりますけれども、地域的な核燃料バンクというようなものをつくって、出し入れをきちっとして燃料を貸して戻してもらうと、使用済みは戻してもらうと、こういう体制世界的に構築していかないと非常に難しいということになるのではないかなというふうに、まあ段階的に軍縮というふうなことになるかもしれませんが、中期的に考えれば原子炉はどんどん増えていくんで危険は多くなってくる。中心は防護ということかと思います。
  49. 石井一

    会長石井一君) それでは、有村治子理事。
  50. 有村治子

    ○有村治子君 自由民主党の有村治子でございます。  今日は、三人の先生方、非常に興味深く拝聴いたしました。ありがとうございます。  その上で、最初土屋先生に三問ほどお伺いさせていただいて、最後の質問は三人の先生方にお伺いしたいと思います。  第一点目。エストニア、リトアニア、グルジアでのサイバー攻撃はロシアの影が、そして米韓は北朝鮮の影がというふうな旨のお話がありました。  実際に、靖国神社のホームページにおいては、日本でも大変に、何十万回のアクセスがあってダウンして、トラックダウンすると中国が多かったという報道ベースのことも伺っておりますけれども、このような、ロシアとか北朝鮮とか中国とかと言われる場合に、当局の関与というのはあるのかないのか。それともそれは、個人的にたけた人がある程度組織力を持ってやっていらっしゃるのかどうか。  そして、私自身は、どんな主張であれ、それが法律や公序良俗に反することがない限り、どんな立場を取られても、その表現の自由とか信教の自由というのは守られるべきであって、そういう民主主義国家の発展に尽くしていくべきだという立場を明確に取っておりますけれども、自らの主張に都合の悪い相手にそういうサイバーテロということをすることを許す日本であってはいけないというふうに思っています。  こういう当局の関与があるかないか、そして海外からのサイバーテロということに対して、それは個人で守らなきゃいけないのか、それとも日本なりの国家が守って、警察などが守ってくれるのか、自衛しかないのか、その辺の現在のデファクトスタンダードを教えていただければ有り難いと思います。  それから、土屋先生、日本の内閣官房情報セキュリティセンターは大きな貢献だというふうにおっしゃいました。どういうところがうまくいっているのか。人的に、資金的に、あるいはネットワークがいいのか、どこが評価されてそのような貢献があるというふうにおっしゃっているのか。別の聞き方をしますと、どこを更に強めていかなきゃいけないという御認識なのかを教えていただきたいと思います。  そして、最後の行で、国会にインテリジェンス委員会を設置して行政傍受を可能にと言われるところも、重要性を私も認識をいたします。ただ、これがすんなりと、じゃそうですねというふうにいくかなということを考えると、かなりハードルは高いものだと思われます。今までのスパイ防止法もずっと廃案になっているという経過もあります。  その中で、やはり行政傍受をしなければこんなデメリットがあるんだということを国民の皆さんが分かって、そのようなポストを乗り越えてでもこれをしなきゃいけないというような国民的合意、あるいは国民を代表される各政党、各会派の人たちの合意がなければ、これは実現を見ないと思います。そういう意味で、行政傍受がなければどういうデメリットがあるんだということを、もう少し明確に、より多くの人が納得できるような形で御言及いただければ有り難いと思います。  最後に、三人の先生方、プロでいらっしゃいますので教えていただきたいんですが、安全保障というと、どうしても固いとか、よく分からないとか、あるいは、食の安全保障というとこれに関心を持ってくださる方はたくさんいらっしゃるんですけれども、ちょっと間違うと、安全保障というだけでタカ派じゃないかというようなレッテルを張られるような時代もあってきたような気がいたします。私自身は安全保障はもう極めて大事だと思っているんですけれども。  その安全保障に対して、コストを払ってでも、やはり自らの生存、安全をより確かにしていくのは絶対に必要なことなんだと理解をしていただくための安全保障教育とか、あるいは危機に対してある意味鈍感であったというか、敏感でなくても生きてこれたというのは日本がおおむね平和であったということだと思うんですけれども、その中で安全保障に対する国民的な意識をみんなで高め合っていくためにはどのような教育やあるいは社会的な啓発が必要、有効だとお考えになられるか、教えていただければ有り難いと思います。  以上です。
  51. 土屋大洋

    参考人土屋大洋君) ありがとうございます。  まず最初の御質問ですけれども、これは確定してどこの国がやっているということは分からないわけですが、実際にどういうふうに北朝鮮なりロシアなりというふうに言っているかというと、やっぱりそのプログラムをまず解析するんですね。ネットワークの流れてきたルートを見るということもそうなんですが、プログラムそのものも解析をしてみたときに、やっぱりそこに文化的なにおいというのがあるんですね。ロシア人ぽいプログラムの作り方だとか、そういうものがやっぱりにおうんだそうですね。そういうものから判断するという要素も結構あったりして、そういう面では、怪しい根拠といえば怪しい根拠なんですが、でも消しようがない、日本人ぽいプログラムというのものやっぱりありますし、そういう形でやっています。  当局が関与しているかということに関しては、まずもってうちがやりましたと言った政府は今のところないわけですね。じゃ、やっていないかというと、やっている可能性はもちろんありまして、これはある意味笑い話ですけれども、アメリカに対する中国からの攻撃をトラックしていると、非常に軍隊的な規律に従っていて、朝何時になると攻撃が始まって夜何時になると止まるみたいなことがあるわけですね。それはアマチュアの個人がやっているような攻撃の仕方ではやっぱりないというところがあるんじゃないかということも言われています。  そういう面では、政府はいつまでたってもこの攻撃に関与したということは認めないだろうと思いますが、やっぱりそれは守る側からすると本当に非常にやりにくいというのは御指摘のとおりで、それは先ほど納家先生もおっしゃっていましたけれども、相手が国家じゃなくなってきているということは本当にやりにくい。  じゃ、そういう攻撃に対して我々がどうやってデファクトで守っているのかというと、やはり自衛しかないというのが今のところの状況になっています。じゃ警察が守ってくれるか、あるいは自衛隊がサーバーを守りに来てくれるかというと、とても考えられる状況ではないわけですね。  ただ、だれもまだ死んでいないというのが非常に大きなところでして、それは後ほどの質問にもちょっと関連するんですけれども、三番目の御質問にもちょっと触れながらやりますと、日本がこの問題に対して一生懸命やれない理由は、国民的合意ができない理由というのは、やはり大きなイベントが起きていない、大きな事件が起きていないということなんですね。  それは、研究をやっている我々も実は深く憂慮しているところでして、きっと何かが起きたときには、日本は変わるよねと。それは、九・一一並みの大きなテロが起きたときにはインテリジェンスの整備も進むだろう、スパイ防止法というのもできるだろう、セキュリティークリアランスもできるだろう。でも、これは、我々はハルマゲドンシナリオというふうに言っていまして、非常に不健全な安全保障考え方ではないかというふうに思うんですね。  そこを、なぜじゃ今までそういうふうに進まなかったかということを考えていくと、歴史的な経緯というのがあります。戦前、戦時中に政府の様々な機関が悪いことをしたということもありますし、戦争で負けたということも大きいと思います。あるいは、非常に潔癖主義になったというところもあるでしょうし、あるいはアメリカから、例えばインテリジェンスの研究や地政学の研究というのはちょっとやめておけということが戦後直後にあったそうなんですね。私たちが大学でそういうことを教えようというときにも、やっぱり講座そのものがなかったということもあるわけです。そういう面で、教育が進んできていないということはやっぱりそのとおりだと思うんですね。  そこをどうやって変えていくかといったときには、やっぱりこういう機会に呼んでいただいて、こういう機会をいただいたらもうとにかくしゃべるしかないと私自身は思っていまして、批判も物すごく受けます。行政傍受をやれとは何事だということで、多分今日も記録が残るでしょうし、土屋はけしからぬというふうに言われるんじゃないかと思います。  でも、例えば行政傍受に限らず通信傍受は、皆さんが被害者になったときには絶対にやれと言うことなんですね。皆さんのお子さんが誘拐されたときには必ず傍受しろというふうにおっしゃると思うんですね。そのときに、違法行為としてやるのかと、それはないだろうと。それは、やはりチェック機能を持った上でできるようにしておく方がいいだろうと、そういうふうな立場で私自身はずっと言っています。  これは、四つ目の御質問にお答えしたいんですが、ちょっと言葉遊びになりますが、安全というセーフティーという言葉安全保障というセキュリティーはやっぱり違うわけですね。安全であるという状態に対しては我々は非常に敏感でして、食の安全といったときにはみんな重要だ、重要だと言うわけですね。でも、安全保障といって動詞的な意味が加わってきて、だれかがだれかを安全を保障するといったときに、それはお上しかないでしょうという意識は今とても強いんじゃないかという不安、懸念を持っているんですね。  それは一人一人がやれるようにしていかないと駄目だし、先ほど納家先生から、アメリカ人は何でもセキュリティーという言葉を付けるというふうにおっしゃいましたけれども、ソーシャルセキュリティーという言葉もありますし、ファイナンシャルセキュリティーという言葉もありますし、ジョブセキュリティーですね、ジョブセキュリティーは雇用という問題ですし。  いろんな意味でやっぱりセキュリティーというのは、個人的なレベルから国家のレベルまでいろんなレベルであるセキュリティーというのが本当は重要で、セキュリティーと言うからにはだれかがだれかを守る、それは自分を守るということも含めて主体が必要なんだということを訴えていかなきゃいけないんだろうというふうに思います。  ちょっと長くなっていますが、最後にNISCですね、内閣情報セキュリティセンターについてですが、ここは、第一次、第二次ということでセキュア・ジャパンというプログラムを明確に打ち出しておりまして、個人がやらなきゃいけないこと、企業がやらなきゃいけないこと、政府がやらなきゃいけないこと、クリティカルインフラストラクチャーですね、重要インフラをどうやって守っていくかということに関してかなり明確なチェックリストを出して、皆さんに活用してくださいと。  これ、やってみると、政府の情報セキュリティーシステムというのはぼろぼろだったんです。もう余りにもひどい状況だったんですね。でも、それをNISCがかなりしつこくしつこく各省庁にお願いをする形で、チェックしてください、駄目だったら直してくださいということにしまして、今、日本政府の、省庁の情報セキュリティーのレベルはかなり上がってきているということなんですね。その地道な啓発活動を一生懸命やってくださったという面では、このNISCの貢献というのは大きいというふうに思います。  ただ、そこで国家安全保障というところに踏み込むときには、やっぱりちょっとちゅうちょされているなと、この問題は難しいなというふうにNISCのスタッフの方自体が思っていらっしゃる。警察庁あるいは防衛省、外務省、いろんなところからいらしているみたいですけれども、そこの調整をした上で、一丸となってサイバー攻撃、サイバー戦争に対処するといったときの対応策を考えるまでにはちょっと踏み込めていないんじゃないかなと。そこをやっぱりやっていただくのがこれから重要な、そのセキュア・ジャパンの第三次のところに行くには必要じゃないかなというふうに思っています。  済みません、長くなりまして。
  52. 松下和夫

    参考人松下和夫君) 安全保障の問題について、私自身が実は安全保障の専門家というよりは環境問題にずっとかかわってきたわけですが、今日お話ししましたように、気候安全保障という考え方について実は議論がいろいろありまして、正統派の政治学者の先生方は、納家先生も含めて、気候安全保障ということを取り立てて取り上げるのは余り良くないんではないかという議論もあります。それから、国連の安全保障理事会で気候変動問題が議論されたときも、中国とかインドあるいは途上国は、余り安保理事会で取り上げる課題ではないという議論がありました。  しかし、先ほど先生御指摘あった危機に対処する国民の意識を高めるという意味において、気候変動問題が、食料の問題だとか水の問題だとか保健だとか、そういった問題に、日常生活にリスクがあるんだということを認識していただいて、それを言わば国の非常に重要な政策の一環として、一種のハイポリティックスといいますか、国のトップが直接かかわる問題として取り上げていくということは必要ではないかというふうに思っております。  よく大学でも一般向けの講座とかシンポジウムをやるんですが、環境のシンポジウムというと余り人が来てくれないんですが、食の安全だとかそれから健康に関するシンポジウムは大勢、関心が近いんですね。ですから、そういう国民の方々の、企業だとか市民の目線に立った立場からリスクを広げて、どういったリスクがあって、それに対して日本としてどう対処をすべきか、あるいは国際的な仕組みをどうつくるべきかと、そういう形で国民に対する問いかけをしていく、あるいは一緒に考えていくということが必要ではないかというふうに考えます。
  53. 納家政嗣

    参考人納家政嗣君) 安全保障についての意識を、国民の意識というかな、そういうふうなものをもう少しどうやって高めたらいいかというお話ですけれども、私は、安全保障問題というのをもう何十年も勉強していて、日本安全保障問題も勉強して、これについてはちょっと絶望的な気持ちですね。多分、安全保障についての一般的な意識を高めるというのはほとんどできないというふうに考えています。  一つは、歴史的な背景もあるということで、いまだに平和主義というか平和憲法以来の考え方というのはかなり国民の間に定着してしまっているということがありますね。それからもう一つ冷戦期には、日本政府が余り安全保障というのはほとんど触れないようにしていたと。特に佐藤政権の辺りからはもう完全に触れなくなっているということがありました。それから、国内で説明するのと外で説明するのはちょっと論理がずれていると、そういうふうなやり方もしました。もう一つは、日米同盟があって、その陰に隠れて安全というのはほとんど賄うことができたということがあったと思います。  ただ、冷戦が終わった後のこの安全保障という、今日のお話ですけれども、国際安全保障については、私は、日本は今までどおりもうちょっと控えめな安全保障政策を取り続けたければ、国際安全保障についてはもっとポジティブにやらないと孤立するという考え方を持っています。別に国際安全保障というのはほかの国に軍隊を持って攻めていくという話ではないわけですから、これは大いに政策を作って積極的にやるべき話であります。日本はどうも、自分がやった戦争は全部外へ行ってやった戦争なものだから、自分が行かなければ平和だという認識がちょっとあって、そこの誤解を解かないと国際安全保障政策というのはうまく作れないんじゃないかというふうに考えております。  唯一、日本人の安全保障政策についての意識を高める、これまでの経緯を見ていますと、世論調査が変わるのは何か起こったときですね。あの湾岸戦争であり、テポドンであり、不審船が来たときでありと、そのときだけ少しずつ変わっていくんですね。政府のやり方を見ていると、その都度何かMDを持ってきたり、いろんな対応をして、ねらっていたようにきちっと体制をつくっていくというそういうやり方になっていると思います。これは、ふだんからきちんと考えてないというのは非常に危険なことで、何かが起こったときに、例えばお隣の大きい国で何かが起こったときに、世論というのはがらっと変わってしまうという可能性を常に持っているわけですね。  ですから、何というんでしょうか、全部の意識が上がるということはないかもしれませんけれども、安全保障政策についての基本的なベースになる考え方というのは、防衛白書では駄目ですね。分からない。あれでは全体の、日本が何をやろうとしているかということはなかなか伝わらないですね。あのベースをきちっとつくっておいて、ここからは外れないんだというところをしっかりさせておかないと、何というんですかね、警戒心みたいなものがなくならないという感じがいたします。  以上です。
  54. 石井一

    会長石井一君) ほかに御発言はございませんか。  それでは、御発言がないようでございますので、多少時間が残っておりますが、今日は非常に濃密な議論をやりましたから、この程度参考人質疑は終わりたいと存じます。  一言ごあいさつ申し上げます。  納家参考人松下参考人土屋参考人におかれましては、長時間にわたりまして貴重な御意見をお述べいただき、また、かつ非常に率直にオープンに、前向きな御議論をいただきましたことを、調査会といたしましても大変厚く御礼を申し上げたいと存じます。各参考人のますますの御活躍を祈念いたしまして、御礼のごあいさつとさせていただきます。  ありがとうございました。(拍手)  それでは、本日はこれにて散会いたします。    午後三時三十八分散会