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櫻井充君
ODA調査第三班について御報告いたします。
第三班は、昨年八月十七日から二十五日までの九日間、ドイツ連邦共和国及びスウェーデン王国に
派遣され、両国の
援助機関等を訪問し、
ODA政策の動向等について
調査を行ってまいりました。
派遣議員は、白眞勲
議員、
谷川秀善議員、魚住裕一郎
議員、そして私、団長を務めさせていただきました
櫻井充の四名でございます。
参議院の
ODA調査は、これまで原則として
途上国における
我が国の
援助案件の視察を
中心として行われてきました。今回の
調査は、新たな試みとして、主要先進国の
援助関係者との
意見交換を
中心に、
援助政策及びその
実施の動向等について
調査を行ったものであります。
以下、
調査の概要について報告いたします。
なお、お手元に資料といたしまして、両国の
援助実施体制の概要図及び
日本との
援助政策の比較表を用意いたしましたので、適宜御参照ください。
現在、ドイツは、
援助政策の最重要目標として、世界の貧困を削減し、平和を構築するなどの目標を掲げるなど、ミレニアム
開発目標、いわゆるMDGsの達成を重視した政策を進めております。二〇〇七年のドイツの
ODA実績は約百二十三億ドルであり、米国に次いでDAC加盟国二十二か国中では第二位、欧州では第一位の
援助規模となっております。また、対
国民総所得、GNI比は〇・三七%と第十二位であります。
ドイツは、二〇一五年までに
ODAの対GNI比〇・七%を定めたMDGsの目標達成を対外的にも表明しており、二〇一〇年には〇・五一%の実現を目指すなど、着々と
援助実績を伸ばしております。しかし、目標達成のためには
ODA予算の拡大だけでは足りず、革新的な新たな
資金調達の手法も導入せざるを得ず、現在、排出権取引による収益の一部を
ODAに充当することも検討しているとのことでした。
その
援助実施体制は、お手元の資料にもありますが、政策部門の連邦経済
協力開発省、いわゆるBMZと、
実施部門でもある
援助実施機関から構成されております。BMZは独立した省として設立され、二国間
援助や世界銀行などへの拠出等を所管しており、
ODA予算のほとんどがBMZに計上されております。
次に、
実施部門は複数の
機関が所管しておりますが、今回の
調査では、特に
技術協力の代表的な
機関である
技術協力公社、いわゆるGTZ、そして
資金協力を所管するKfW
開発銀行を訪問いたしました。
このうち、GTZはドイツ最大の
援助実施機関でありますが、その特徴は、コンサルティング会社等を原則利用することなく、
事業をすべて直接
実施しております。その業務の委託先は、BMZのみならず、世界銀行や
国連機関、EUなど広範囲に及んでおり、これら国際業務による収入は全収入の約三割を占めております。また、後で触れますが、
援助に関し民間部門との
連携を進め、民間の
資金、ノウハウ、技術等を積極的に活用するなど、官民
連携をグローバルに展開しております。
次に、スウェーデンは、貧困の削減に焦点を当て、
開発援助政策のみならず、通商、貿易、経済や環境など、他の国内政策をも含めた一貫性のある施策を推進し、MDGsの達成を国家政策の目的としております。
二〇〇七年の
ODA実績は約四十三億ドルであり、DAC二十二か国中では第八位と
規模自体は大きくありませんが、対GNI比では〇・九三%で第二位であり、二〇〇八年度
予算案は
開発援助総額は一%を維持する高水準であります。その
援助実施体制は、お手元の資料にもありますが、政策部門の
外務省と、
実施部門として主に二国間
援助を所管する国際
開発協力庁、いわゆるSidaから構成されており、
我が国と似た
体制となっております。ただし、
外務省には、外務
大臣とは別に専ら
援助を担当する国際
開発協力担当
大臣が置かれております。
援助の特徴としては、
NGOの果たす役割が大きく、
政府よりSidaを通して
NGOに補助金が交付され、これによって国全体の
援助効果を引き上げており、その額は
援助全体の約八・五%を占めております。
今回の
調査ではスウェーデン最大の
NGOであるフォーラム南を訪問しましたが、その年間
予算の約九割は補助金によるものであり、これにより自ら
援助活動を行うとともに、傘下の
NGOを通じて四十か国において約六百の
援助プロジェクトを
支援しております。
また、スウェーデンは紛争後の平和構築に当たっての人的貢献を積極的に推進しており、今回、平和構築の
人材研修
機関であるフォルケ・ベルナドッテ・アカデミーを訪問し、研修の実情等についても
調査を行いました。同アカデミーは、カナダのピアソン平和維持センターと並ぶ世界有数の研修
機関であり、現在、平和構築
活動へ
派遣される文民のロスター管理、すなわち
派遣候補者の登録リスト管理を一元的に
実施し、一年に二回
人材募集を行い、
現地に
派遣できる要員をリストアップするなど、
人材をプールしております。一般市民からは多数の応募がなされ、今後もその数は増大するとのことであります。
今回、このアカデミーに行って感じたことは、スウェーデンは第一次世界大戦、第二次世界大戦に参戦しておらず、百八十年間戦争を行っておりません。そういう思いで平和構築という点にかなり重点を置いていることと、それから、
人材をこうやって管理して、それから
人材を
派遣することを可能としているのは、国家として雇用の安定性をきちんと図っている、それから流動性を担保している。例えば、病院で医者が
派遣するということになった場合にはすぐに補助員が
派遣される、それから二年以上そこで働いた場合にはその人にもそこで働く権利が与えられる、また
NGOとして参加して戻ってきた場合にはその病院でまた勤務できる等の
体制が整っているからこそこのようなことが可能になっているんだろうと、そういうふうに思っております。
以上が
調査の訪問先などの概要でありますが、以下、特に強い印象を受けました点について数点御報告いたしたいと、そう思います。
まず一点目は、
援助対象国の絞り込みでございます。ドイツは従来の九十三か国から五十八か国に、それからスウェーデンも限定いたしまして、三十三か国に限定しております。こういう絞り込みそのものが簡単に決定されたわけではなく、国
内外を通じて様々な議論が行われた結果、このような形になっています。ドイツの場合には、ドイツ自国で
援助を打ち切った場合にはEUで
援助を行いますなどということで相手国に御了解をいただいたりとか、それから、スウェーデンの場合には
ODA以外の
予算で
対応しますとか、相手国に配慮したような話もしながら、自分たちの自国の利益を確保するためにきちんとした形で絞り込みを行っていると、そのように認識いたしました。
現在、
我が国の二国間
援助の対象国は百六十七か国・
地域に及んでおりますが、こういったことに対して、両国の重点化施策をそのままの形で導入することは難しいと思っていますが、今後、
援助の効率化を向上し国際
援助でのプレゼンスを高めるためには、
援助の戦略性の検討も含め、重点化の議論を進めることが必要ではないかと考えるところであります。
もう一点、中国に対して
ODA政策をどうするんだということを質問した際にドイツから興味深い回答がございまして、
日本は地理的に中国と貿易を進めることは可能であったかもしれないけれ
ども、ヨーロッパの国として中国と貿易を進めていくことはなかなか難しかった、ドイツはほかのヨーロッパの国々に先立って中国に対して
ODAの
支援を行った結果、今ヨーロッパの中では中国との貿易高が一番になってきていると。つまり、こういう
ODAをうまく使って将来的に国の
発展のために利用していく、ちょっと言葉は悪いかもしれませんが、そういう政策が必要ではないのかなということを感じました。
それから、
現地の
援助体制の
強化と権限の移譲でございます。
ここでも面白い話がございましたが、
日本の
ODAの
関係者の
方々は
現地で本当に熱心に会議にも
出席されていろんな
意見をおっしゃるんだそうですが、
最後これでいいですかと決める段になると、ほかの国々の
方々は権限が移譲されているのでそこで皆さん了解されるんですけれ
ども、
日本は本省に確認しますと、そういうことを言うものですから、そこでなかなか決定されずかなり遅れてしまうという、そういう問題がございます。
そこで、今般、新
JICAが
現地において
技術協力、有償
資金協力及び
無償資金協力の三つの
援助を一元的に
実施、統括する機能を持つことになりました。ですから、いかに
現地体制を
強化して、かつ
現地での決定権限を強めていくかについて検討を進めていくべきではないか、権限の移譲をもっともっと積極的に進めていく
必要性があるんではないのかなと、そういうふうに感じました。
それから、適正な
援助水準の確保でありまして、
我が国の
ODAの
予算が減額されてきている中で、今回の
調査で、
日本の
援助削減によってOECDやG8の枠組み全体の
援助が後退したとの印象を国際社会に与えてしまった
状況は残念であるというそういう
発言もございました。本日は
緒方理事長にも御
出席いただいておりますけれ
ども、新
JICA発足への関心は極めて高く、両国からは
我が国との
援助協力について強い要望がなされるなど、
日本への
期待感はいまだに大きいとの印象も得ました。
派遣議員団としましては、
日本への
期待感を踏まえ、
我が国が
ODAの削減傾向を反転させ、具体的数値目標を示した上で増額に向けた姿勢を打ち出すべき時期にあるのではないかというふうに考えております。
それから、官民
連携の推進でございます。
私たちが訪ねた企業は従業員二十二名の中小企業でございました。こちらは医療システムのソフトウエアを
開発するIT企業でございまして、国内では刑務所に入っている
方々の中の麻薬中毒患者の
方々の中毒から離脱するような、そういう治療を行っている企業でございました。この企業を
ODAとして低
開発国、この場合はインドでしたけれ
ども、インドに
派遣して代替治療を
実施するというそういう政策を取っています。このことによって、要するに国際的な信用力のない中小企業を
海外にどんどんどんどん連れていって、そして、その中小企業がどんどんどんどん大きくなっていく、そういうお手伝いをしております。現在、官民
連携事業が九十か国以上、約七百七十件が
実施されております。
日本でも実は官民
連携が昨年の四月から始まったようなんですが、主に大企業を
中心として官民
連携がなされております。今のこの景気の
状況で、非常に極めて厳しい中、特に
地域経済が疲弊していることを考えてくると、こういうドイツの中小企業
対策という一環として
ODAを使ってくるということ、そのことをもう少し積極的にやっていくべきではないのかというふうに感じました。
そこの中でもう一点大事な点は、官の側が、相手国にどういうニーズがあって、なおかつ国内にどういう手法があるのか、どういう技術があるのか、そういうことをきちんと見極める能力があるかどうかということでございまして、今度は新
JICAにおいても
民間連携室が
設置されるなど、その推進が図られておりますが、まずは官側の
事業の発掘能力、そのための
人材育成、
現地支援体制の
強化などが
課題ではないのかなというふうに考えております。
以上が今回の
調査の概要でありますが、
派遣団員としましては、
調査の成果が参議院での
ODA議論に寄与することを切に願うものでございます。
私も、今回、先進国に行くに当たって、これは多分今日この
委員会に
出席されている
議員の皆さんと同じような、行って意味があるんだろうかと、そういう思いで正直行ってまいりました。
ただ、そこの中ではっきりしたことは、自国の利益、例えばドイツでは資源の確保であるとか、先ほど申し上げましたが、中国等の新興国でのビジネスの獲得であるとか、スウェーデンでは国際
援助の場でのイニシアチブの確立や外交の
強化の有効な手段として、貪欲なまでに
ODAを利用してきております。ですから、そういう点で、今の
日本の
ODAすべてが問題があるとは申し上げませんが、成功している
分野は成功している
分野として継続すること、そして、こうやって
各国でうまくいっている点があるとすれば、そういったことをきちんと学んでくることが
我が国の国益にかなってくることになるのではないのかなと、そういうふうに感じております。
今回の
調査において御
協力いただきました関係の皆さんに感謝したいと思っておりますし、できれば、今後もこういう先進国に
調査に行く価値があるのではないのかなということを付け加えて、報告を終わらせていただきます。
ありがとうございました。