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参考人(
原田泰君) 大和総研の
原田です。このような重要な会議にお招きいただきまして、大変ありがとうございます。
では、座ったままでお話しさせていただきます。大体二時ちょっと過ぎまでお話しさせていただきたいと思います。(資料映写)
後ろの方の方、このスクリーンお見えになりにくいかもしれませんけれども、事務局からお
手元に資料が届いて、印刷して配ってありますので、見にくかったらそれを見ていただければと思います。
本日は本当に立て込んでいるところ、こういう会議で私の話を聞いていただきまして、大変ありがとうございます。
人口減少によって一人
当たりが豊かに幸福になれるかについて私の
意見をお話しするわけですけれども、まず、その幸福というのはなかなか難しいものでありまして、現在の人たちは何か自己実現できないと幸福と言わないということですから、これを政治でかなえるというのはなかなか難しいことだと思います。
中国人は極めて現実的な人々で、昔から中国では幸福は福禄寿であるということを言っております。この福というのはそもそも子宝に恵まれることなわけです。禄は財産を得ること。寿は健康で長生きをすることです。
そうしますと、
人口減少社会、少子
社会というのはもう福を除外しているんですから、これではもう幸福になれないのが定義で決まっちゃうんじゃないかと思いますが、これは外しまして、高齢
社会というのはもう寿を実現しているわけです。禄は、禄自体が幸福ではないわけですけれども、禄が安定的に可能でないと幸福にはなれないと思います。ですから、安定した
所得が得られる上で幸福な
人口減少社会は可能かどうかということを考えてみたいと思います。
それからまた、
人口減少が国力の停滞をもたらすという
意見もあります。国力が停滞すると個人は不幸かという問題もあると思います。直接的にはないと思いますが、恐らくイエスだろうというように思います。つまり、国力が減退するということは、恐らく個人の不幸に何らかの形で結び付くと思います。
しかし、
世界中で
先進国は
人口が
減少しておりまして、
人口増加している
先進国というのは、ほとんど
アメリカだけが
人口が増加しているという状況にあります。先ほど
堺屋先生からもお話ありましたけれども、その国がうまくいっていない国ですね、うまくいっていない国の方が
人口は増えているんじゃないかというように思いますので、
人口がむしろ減っている国の方がうまくいっている、個人も幸福な国の方が多いということは確かだろうと思います。
ということで、
人口減少で安定的な
所得が得られて、その上で幸福になれるかということについて具体的に考えていきたいと思います。
この
委員会では、
人口減少で大変だということではなくて、
人口減少しても幸福になれるかという非常にユニークな問いを投げかけられまして、それについて私がお答えしようと思っているわけですが、幾つかその前に確認することがございます。
それは、
人口減少というのは
高齢化していくということです。まあ
当たり前なんですけれども、例えば六十五歳以上の
人口の比率というのは二〇五〇年ぐらいには
人口の四割になってしまいます。これ、比率をかいてあるわけですけれども、青いラインが六十五歳以上の
人口比率で、それが四割になってしまいまして、六十五歳以上
人口対生産
年齢、十五歳から六十四歳までの生産
年齢の比率をかきますと、これがピンクのラインで、二〇五〇年には八割になってしまいます。ということは、ほとんど一対一になってしまうということなんですね。ですから、例えば年金などというものも、こういうマンツーマンで年金を払うというような状況になってしまいますので、現在のような高い年金を払うというのはもうほとんど不可能なんじゃないかというように思います。
それから、この
高齢化が徐々に進むだけではなくて、あるとき急に進むということがございます。
堺屋先生が
団塊の
世代という言葉をつくられておりますが、これは
人口構成を折れ線グラフでかいて、その
人口構成が二〇〇五年から二〇五五年まででどういうふうに動いていくかというのをかいたものです。そうしますと、大体これが
団塊世代の山なんですけれども、この
団塊世代の山がどんどん移っていきまして、二〇二五年には七十代以上の人に
団塊世代がなって、七十を過ぎればなかなか元気に働くということは難しくて、
医療費もかなり使うということになりますので、この辺りでかなり大変なことになってしまうんじゃないかというように思います。
先ほど申し上げましたように、
世界中の
先進国で
人口が
減少して
アメリカだけが増えているという状況ですから、
人口減少というのはもう
前提で考えるしかないんじゃないかということであります。ここで、一人で伸びているのがフィリピンですね。ですが、フィリピンの
経済というのは余りうまくいっておりません。というわけで、大体成功しているアジアの国の
人口も
減少しているわけです。
ここで、
日本と韓国、お隣なのにいろいろトラブルあるわけですけれども、このままの
出生率が続きますと最後の
日本人が二九五六年に生まれるんですが、韓国は二五七六年に生まれますから、韓国の方が先に最後の韓国人が生まれることになりまして、日韓いろいろトラブルがありますが、五百年後にはトラブルはなくなってしまうということになります。ここで言いたかったことは、
人口が減っていって
高齢化するというのはもうやむを得ないことで、これを覆すということはできないだろうということです。
それからもう一つ、
人口増大、
日本の
人口減少を逆転させるために
日本人が本気かどうかということを考えてみたいと思います。
先ほど
堺屋先生からいろいろ、
政府が面倒を見ても
子供は増えないとおっしゃいましたが、面倒を見ているということは、
政府が何とか必死に
子供を増やしたいと思っている証拠だと思うんですね。ところが、例えば児童手当を見ますと、ほかの国は大体二万円以上の、
先進国は大体二万円ぐらい払っておりますが、
日本は五千円で、第三子からは一万円ですけれども、五千円ぐらいしか払わないですし、小学校終了までしか払わない。ほかの国は大体二十歳ぐらいまで払っているというような国がいっぱいあるわけです。ですから、
ヨーロッパの
先進国はかなり本気で増やしたいと思っているんじゃないかと。それに比べると、
日本は
世界一低い児童手当ですから、
政府あるいは
国民がと言ってもいいと思うんですけれども、何としても
子供を増やしたいと実は思っていないんじゃないかと、それがこの証拠だというように思います。
さらに、今女性も自己実現ということで働きたいという女性が増えておりまして、働くためには子育てが非常に難しくなる。働けば非常に高い
所得を得られるのに、子育てで働かなければ、働いた場合と子育てで働かなかった場合の差というのは非常に大きくなりまして、大体その差が二億四千万ぐらいになるという試算がございます。この試算、大き過ぎるという批判はあると思いますけれども、それでも一億五千万ぐらいは違いがあると思うんですね。ですから、多少の児童手当を配ったからといって、その母親の機会費用を考えますとそう簡単には増えないだろうというように思います。
というわけで、
人口減少を
前提として、高齢
社会のコスト削減と
所得の安定というのを図るしかないんじゃないかというように思います。
まず、
人口減少していても、一人
当たりの
所得が伸びればいいじゃないかと、全体で増えなくても一人
当たりの方が大事だということも皆様方のお考えだと思います。
中国は全部集めればもちろん非常に強大なわけですけれども、一人
当たりの
所得で考えれば
日本の方がまだ十倍以上豊かなわけです。中国の一部の人々は大変なお金持ちですけれども、中国人全体として見ればまだまだ貧しい。そういう貧しい
国民よりも豊かな
国民の方が恐らくは幸せだろうと思います。
ですから、その幸せ度というのは一人
当たりだと思うんですね。その場合、一人
当たりGDPの増加率を高くするためにはどうしたらいいかというと、働いている人一人
当たりの生産物がどんどん増えていくこと、つまり
労働生産性が上昇すること、それから働く人が増えることですね。ただ、そこから働いていない人を含んだ全
人口の増加率も引いてあげないと一人
当たりGDPの増加率というのは決まりません。
というわけで、
人口が、
人口がというか、
労働人口の増加率よりも全
人口の増加率が大きければ、大きければというか、これはマイナスで大きければということですね、一人
当たり小さくなってしまいます。その関係を表にしたのがこの下の表なんですけれども、ここで
労働人口を生産
年齢人口で書いてございますが、生産
年齢人口から全
人口を引くと、二〇〇五年から二〇五〇年ぐらいまではマイナス〇・五%のインパクトが働くことになります。この意味は、全然
生産性が上がらないと、毎年毎年〇・五%ずつ
日本人は一人
当たりで貧しくなってしまうということなんですね。ですから、
生産性を上げなきゃいけないということになります。
というわけで、
人口減少を
前提としますと、一人
当たりを豊かにするためには、高齢
社会のコストを引き下げる、より多くの人が働く、一人
当たりの生産物を大きくすると、この
三つしかないということになります。
皆様方、とんでもないとおっしゃるかもしれませんけれども、高齢
社会の負担というのはやっぱりカットしていくしかないんじゃないかというように思います。
これは字が小さくて読めないと思うんですけれども、
日本の年金というのは実は
世界で一番高いと言ってもいいんですね。夫婦で二十三万六千円になります、専業主婦の場合です。一方、
アメリカを見ると、これは為替レートで計算しますと大きく変動しますので購買力平価で計算しておりますが、
アメリカの場合は夫婦で十九万円。それから、
ドイツの場合は十一万円ぐらい。スウェーデンの場合は両方、二人とも働いていますから、二人ともというか、夫婦とも働いているのが普通ですから、夫婦というのはなくて、男性は十六万、女性が十万六千円となっております。
しかも、ほかの国はみんな六十五歳以上ですが、
日本はまだ六十五歳支給になっていないわけですね。しかも、
日本の方が長生きしますから、
世界一高い年金を
世界一長く払うということになっております。しかも、二〇五〇年ぐらいには生産
年齢人口と
高齢者人口の比率というのが一対〇・八になってしまうわけですから、
高齢者の方にはこれから我慢していただくしかないんじゃないかというように考えております。
実際に、公的年金を受け取っておられない方は、年金で生活、足りないんじゃないかって答えられる方が多いんですね。例えば、年金をまだもらっていない方は、八割ぐらい賄えるだろうというのがこのピンクですね。この青が十割ぐらい賄えるんじゃないかということなんですが、それが三十何%しかないわけです。
ただ、実際にもらっている人に聞きますと、十割以上、十割賄えているという人が五割いまして、八—十割賄えているという方が六割いらっしゃるんですね。というわけで、実は
日本の年金というのはかなり潤沢なんじゃないかと。
実際、例えば二十三万円というのは、今、派遣切りとかいろいろなことを言われておりますけれども、そういう人たちが稼ぐお金よりも大きいわけですね。ですから、現在、なかなか
若者に高
所得のいい
仕事を与えられない状況の中で、なかなかこういう高い年金をお支払いするというのは無理ではないかというように考えております。
実際、
日本の場合は、
若者の、
社会保障から国際的に見ると見放されているということが言えると思います。これは
社会保障支出の対GDPをかいたものなんですが、この青いところは
高齢者向けの
社会保障支出で、これは
高齢者向けというのは大体年金なんですね。この年金を見ますと、イギリスや
アメリカよりも
日本はいっぱい払っていると。スウェーデンや
ドイツのような
ヨーロッパの高
福祉国にはかないませんけれども、イギリス、昔、揺りかごから墓場までと言われたイギリスよりもいっぱい払っていると。ところが、家族支出ですね、つまり児童手当であるとか保育所なんかへのお金ですね、これが緑のところなんですけれども、それを見ますと、イギリスなんかは年金は少ないのにかなり払っている。
日本は非常に低くて、
アメリカ並みということであります。ですから、
若者は
社会保障から見放されているんじゃないかということです。
それからまた、消費税で、三年後の消費税で
国会が大もめされて、自民党の中も大もめされたわけですけれども、この消費税というのは実は今まで
高齢者は負担していないんですね。といいますのは、消費税で物価が上がりますと、年金は物価スライドされますので、消費税で上がった分だけ年金が増えます。ということは、
高齢者は消費税を負担していないというのと同じです。ところが、
高齢者の消費支出のシェアというのが今どんどん大きくなっているわけです。今これ三割ですけれども、これがだんだん大きくなっていきまして、やはり二〇五〇年ぐらいには五割ぐらいになるのではないかというように思います。ですから、消費税を増税したときに年金の支給額を上げるか上げないかということが非常に重要な問題になります。
多くの政治家の皆様方は、消費税を引き上げることは将来
世代のために責任ある政治だと思っていらっしゃると思うんですけれども、消費税を上げたときに年金は上げないと決めない限り、将来
世代のための責任ある政治にはならないと思うんですね。このことを皆様方が
国民に訴えていただかないといけないというように思います。
ですから、消費税上げますけれども
高齢者の年金は上げませんとだれも言っていらっしゃらないと思うんですが、だれも言っていらっしゃらないというか、
学者もだれも言っていないと思いますが、これが大問題だというように考えています。
時間がだんだんなくなってまいりましたので、あと少し大急ぎでお話しさせていただきます。
皆で働くということでは、九〇年代の不況において若年
労働を無駄にしてしまったという大失敗があると思います。つまり、
若者が
仕事を訓練できるような職に就くことができなくていつまでも単純
労働しかすることができない、そういう
仕事しか与えられないということで、そういう
若者がだんだん年を取っていくとなおさら
仕事が見付からないということになってしまいます。ですから、そういう
若者、
若者がもう
若者ではなくて三十、四十になっているわけですけれども、その人たちから年金保険料を取って
高齢者に配るということは非常に難しくなっているということが言えると思います。
女性が働きたがっているということはよく言われていることですので、それは省略いたします。
それから、
生産性を上げるということですけれども、これは横軸に
人口増加率をかいて縦軸に一人
当たりの実質GDPをかいているんですけれども、そうすると
人口増加率が低い国ですね、低い国ほど一人
当たりのGDP成長率が高いという関係がございます。ですから、
人口が減っても一人
当たりの
生産性が上がるということは十分に期待できるというように思います。
それからまた、
日本は、これは現在
生産性の低い部分がいっぱいあるわけですね。このグラフは
アメリカを一〇〇とした
生産性を産業ごとにかいたものです。横軸の幅は、そこにいる就業者数のウエートで幅を作ってあります。
ということで、例えば
日本は製造業のごく一部分、ごく一部分だけで、これが
アメリカですから、
アメリカと
生産性比べて高い、ないしは同等なんですけれども、それ以外のところでは非常に低いと。農林水産業とか建設、卸小売、飲食・宿泊、運輸・通信、ビジネスサービス、対企業サービスですね、そういうところで
アメリカよりも
生産性が低いわけです。ただ、
生産性が低いというのは過去については失敗だったわけですけれども、将来についてはむしろこれを引き上げる余地があるということなわけですから、未来についてはむしろいいんじゃないかというように考えられます。
人口減少が更に直接豊かさを生むということもあると思います。
ヨーロッパ、カナダ、
アメリカ、オーストラリアの豊かさというのは、人々がまばらに住んでいるからこそなんじゃないかと思うんですね。そういう国では
土地が安くて、また
住宅に価値があります。インフラを
人口減少社会にふさわしいものにすることも重要だと思います。つまり、コンパクトシティーと言われる。先ほど
堺屋先生がおっしゃった
地域ごとの
中核都市にある程度
人口が集中することもやむを得ないのではないかということですね。
ヨーロッパの
都市というのはまさにコンパクトシティーで、その中で歩いて何でもあるような、小さな、しかしきれいな町がいっぱいあります。
日本もそういうことを目指す必要があるのではないかと思います。
今、需要の
減少で
日本は困っているわけですが、一方
アメリカの
住宅投資というのは非常に大きいわけですね。
アメリカの
住宅投資が今まで大き過ぎたがゆえに
住宅バブルになって今
アメリカが困って、その
アメリカ発の金融危機が
世界金融危機になって
日本も襲っているわけですけれども、
住宅投資が大きいこと自体は別に悪いことではないと思います。
ここに書いてございますのは、
日本と
アメリカの家計の
資産の内訳を比べたものです。ここにゼロのところがありまして、このゼロから下はマイナスですから、借金ですね。これが
日本の
住宅ローンの借入れで、これが
住宅資産です。
アメリカを見ると、借入れが非常に大きいんですね。大きいと同時に
資産も、
住宅資産もあります。
日本では
住宅ローン残高はGDPの四割ですけれども、
アメリカでは八割あります。
日本人は物すごい覚悟でお金を借りて一生懸命家を建てたつもりなんですけれども、それでも
アメリカに比べると半分です。何で
アメリカ人はこんなにいっぱい借金しているかというと、借金をしても
住宅資産が残っていますから大丈夫だというふうに考えているわけです。ところが、
日本ではその上物が全く価値がすぐなくなってしまうわけです。
アメリカでは上物の価値があるから、一生懸命借金して一生懸命家を建てれば大きな家でその大きな家が財産になって、いざとなれば、このでかい家を売って小さな家に住めば老後は安泰だというふうに考えているわけです。
つまり、
アメリカ人にとっては
住宅は貯蓄なんですね。しかも、
アメリカの場合は、
住宅ですからこれは内需ですよね、
住宅を建てるというのは内需であると。ですから、
アメリカ人は内需と貯蓄が同時にできるわけですが、
日本は貯蓄するだけで内需は増えないわけですね。
アメリカはやり過ぎたから大失敗なわけですけれども、
日本だって
アメリカに多少近づけても全然リスクはないわけで、上物の価値が残るような
政策によって
住宅投資を増やすということも重要なんじゃないかというように思います。
最後にまとめですけれども、
人口減少、少子高齢
社会は覆せないと思います。また、そうするための本気でやるという意思が
国民にはないと思います。その中で
経済安定は可能であって、一人
当たりではより高い成長もできるというように思います。これまでの
高齢者の
経済状況が良かったのは、思わぬほど成長して、若年
労働者が多かった。これ、七〇年代の最初までですね。しかし、結局これ他人の
子供に依存することになるわけですから、私は他人の
子供に依存するということは幸福ではないわけで、自分に頼ることが幸福であって、多少年金が減ってもそれで食べていけないわけではないと思います。これからの
日本の幸福というのは、
人口の少なさを生かすことが重要なのではないかと思います。
済みません、多少時間を超過いたしましたが、以上で私の
意見陳述を終わらせていただきます。
どうも大変、御清聴ありがとうございました。