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衆議院議員(前原誠司君) ただいま議題となりました
北方領土問題等の解決の促進のための
特別措置に関する
法律の一部を改正する
法律案につきまして、提案の理由及びその主な内容を御説明申し上げます。
まず、北方領土の歴史的経緯について申し上げます。
我が国は、ロシアより早く北方四島、樺太及び千島列島の
存在を知り、既に一六四四年にはクナシリ島等の地名を明記した地図が編さんされ、幾多の
日本人がこの
地域に渡航していました。我が国の松前藩は、十七世紀初頭より北方四島を自藩の領土と認識し、徐々に統治を確立してきました。
これに対し、ロシアの勢力は、十八世紀初めにカムチャツカ半島を支配した後にようやく千島列島の北部に現れて我が国と接触するようになり、一七九二年には、ロシアの使節ラクスマンが北海道の根室に来訪して我が国との通商を求めています。当時の幕府は、これを拒否しつつ、国後島、択捉島や樺太の実地調査を行い、これら
地域の防備に努めるとともに統治しておりました。このため、ロシアの勢力がウルップ島より南にまで及んだことは一度もありませんでした。
一八五五年、我が国はロシアとの間に通好条約を締結しましたが、条約調印に際し、ロシア側の全権代表プチャーチン提督も、将来の紛争を避けるため細心の調査を行った結果、択捉島は
日本国の領土であることが証明されたと述べています。
一八七五年には樺太千島交換条約を締結しましたが、同条約第二条には、
日本がロシアから譲り受ける島としてシュムシュ島からウルップ島までの十八の島々の名を列挙しております。このことは、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞諸島が、一度も他国の領土になったことがない
日本固有の領土であることをはっきり示すものであります。
一九〇五年のポーツマス条約においても北方四島の位置付けに何ら変更はありません。
第二次
世界大戦終結に当たり、我が国が受諾したポツダム宣言は、領土不拡大の原則を確認したカイロ宣言の条項は履行されなければならないとしており、ソ連も、ポツダム宣言に参加した結果としてカイロ宣言の領土不拡大の原則を認めたものと解されます。
しかし、当時有効であった日ソ中立条約を無視してソ連は対日参戦しました。
日本がポツダム宣言を受諾した後の八月十八日、ソ連軍はカムチャツカ半島から千島列島の占領を開始し、八月二十八日から九月五日までの間に北方四島のすべてを占領したのであります。
一九五一年のサンフランシスコ平和条約により、我が国は千島列島と南樺太を放棄しましたが、同条約は千島列島の地理的範囲をはっきり定めていません。同条約の起草国である米国
政府は、一九五六年九月七日の国務省覚書で、択捉、国後両島は北海道の一部たる歯舞群島及び色丹島とともに常に固有の
日本の領土の一部を成してきたものであり、かつ、正当に
日本国の主権下にあるものとして認められなければならないものであるという公式見解を明らかにして、我が国の立場を支持しました。
以上述べてきましたように、北方領土は我が国固有の領土であることが明らかであります。
次に、本案の
趣旨及びその主な内容について申し上げます。
いまだかつて一度も外国の領土となったことがない我が国固有の領土である北方領土が昭和二十年八月以来旧ソ連に不法に占拠されたことにより、北方
地域の元居住者は、北方
地域に帰島することはもとより、その周辺の漁場において我が国漁業者が円滑に操業を行うこともできないという特殊な
状況のままに今なお置かれています。
また、根室市、別海町、中標津町、標津町及び羅臼町の一市四町は、かつては北方領土と一体の社会経済圏を
形成して
発展した
地域にもかかわらず、北方領土問題が未解決であることから
地域社会として望ましい
発展が阻害されるという特殊事情の下にあります。
こうした
特別の事情を抱えた北方
地域元居住者や北方領土隣接
地域に配慮し、昭和五十七年、
北方領土問題等の解決の促進のための
特別措置に関する
法律を制定し、
北方領土問題等についての
国民世論の啓発、北方
地域元居住者に対する援護等措置の充実並びに北方領土隣接
地域の
振興及び住民の
生活の安定に関する
計画の策定及びその実施の推進を図るための
特別措置について定めました。
北方領土の返還
実現に向けた様々な活動が行われる中、昭和三十九年から実施されていた北方領土への墓参に加え、いわゆるビザなし交流と呼ばれる四島交流が
平成四年から、自由訪問が
平成十一年からそれぞれ開始され、交流等事業が定着した一方、元島民の高齢化の進展や北方領土返還運動参加者の減少傾向といった経年による変化、北方領土隣接
地域における活力の低下が顕著になってまいりました。
本案はこのような情勢の変化を踏まえ所要の改正を行おうとするもので、その主な内容は次のとおりであります。
第一に、
法律の目的に、北方領土が「我が国固有の領土」であることを明記すること。
第二に、四島交流、墓参及び自由訪問の交流等事業を定義に追加するとともに、国は、北方領土問題が解決されるまでの間、交流等事業の積極的な推進に努めることとし、交流等事業の円滑な推進のため必要な財政上の配慮をすること。
第三に、国は、北方
地域元居住者が北方領土返還運動の有力な担い手として引き続きその重要な役割を果たすことができるよう、返還運動の後継者の育成を図るために必要な措置を講ずること。
第四に、
振興計画に基づいて特定事業を行う北方領土隣接
地域の市及び町が実質的かつ確実に
特別の助成が受けられる仕組みに改めること。
第五に、国は、北方
地域の領海における我が国漁業者の操業の円滑な実施を
確保するために必要な措置を講ずるよう努めること。
第六に、北方領土隣接
地域振興等基金の対象事業として、技能研修に係る事業に加え、
知識の習得に係る事業を加えること等であります。
なお、この
法律は、
平成二十二年四月一日から施行するものとしております。
以上が本
法律案の
趣旨及び内容であります。
何とぞ速やかに御可決あらんことを
お願い申し上げます。