○
湯浅公述人 おはようございます。よろしくお願いします。
私、年末年始に年越しの派遣村というところの村長を務めたんですが、こういう
活動をやっているのは九五年からですから、十四年ぐらいになります。もやいという
団体で今は事務局長をやっておるんですけれども、派遣村の方は終わりましたが、もやいの方は、相談日になると、やはり今でも百件ぐらい電話がかかってきてパンク状態です。あした、自民党の議員さんの方にも視察に来ていただくことになっておりますが、そういう状態ですね。
この間新潟に行ったら、新潟でも、いのちの電話の方が、やはりパンク状態だ、電話がずっと鳴り続けだと言っていました。つながると、ようやくつながったと言われるんですね。
福井の東尋坊、あそこで見守りをしている茂さんという、地元の警察署の元副署長さんですけれども、その方が一カ月に保護した方が八人、うち五人が派遣切りの被害者。こんなことはいまだかつてなかったとおっしゃっている。
それから、去年の十二月の二十四日に、私
たち、年越しの電話相談会というのをやったんですけれども、そのときは、一日十四時間の間にかかってきた電話が二万件です。クリスマスイブの一番晴れやかな時期なんですけれども、それどころじゃないという状態ですね。年を越せないという電話が山のようにかかってきてしまう。そういう事態になっているということです。ですから、かなり大変な人
たちが膨大に生まれていて、これをどう支えていくのかということを全体で考えていかないと、
国民生活はもたないと思います。
それで、レジュメの方に入りますと、二
ページに書いたことですけれども、私は、今の
社会は滑り台のようになってしまっている、滑り台
社会だと言っています。それはどういう意味かというと、滑り出すととまらないんですね。するっと底まで行ってしまう。
制度はないわけじゃないんです。
制度はあるんですが、漏れちゃうんですね。たくさんの人が漏れちゃっています。それは、実際に現実の人間に対応するような、きめ細かい形になっていない。それを、本人がだらしないんだというところで切り捨てないでいただいて、もうちょっと、どうやったら支えられるかというふうに考えていただきたいと思います。
労働して
生活できるという状態がどんどん壊れてきちゃった、これは皆さん御存じのとおりで、今回の派遣切りのようなことが起こると、もう八割、九割、十割ですからね。無遅刻無欠勤でやっていて、一度も仕事で大したミスを犯したことがないという人まで、さよならと言われているわけですね。
何でその間にお金をためられなかったんだとよく聞くんですけれども、三
ページに載せたのは、私
たちのところに相談に来た方の給与明細で、ちょっと印刷状態が悪いので現物がほとんど見られなくて申しわけないんですけれども、右側に出しておいたのは、この方は毎月皆勤手当をもらっている。つまり、一度も休んだことなんかないんです。
だけれども、最初の月が、十月から始まって、額面で十四万円ですね。寮費等が五万六千円取られて、結局仮払いを受けないと
生活がもたない。これは、最初にその工場に行くまでの交通費だったかもしれません。そういう中で、手取りは三万四千円です。仮払いを入れても八万円です。翌月は二十日でした。十二月になると十二日に減っているんですね。そういう中で、前借りしていかないと
生活がもたなくなっちゃっているので、十二月の給与は三万一千円です。仮払いされたお金を入れても七万円ですね。
この状態で、さよならといって出される。それは、すぐお金がなくなっちゃうわけです。それを、なくなった、では、おまえがためていなかったのが悪いのかで済むかということですね。
では、そうすると失業保険ですね。例えば、厚生労働省、一月三十日に、十二万四千人の人が今後も含めて切られる
可能性がある、でも九九%の人は雇用保険に入っていますというデータでした。
ですが、四
ページを見ていただくと、これは産経新聞です。一月十六日に記者さんが取材の苦労話みたいなコラムを書いていて、線を引いておいたところですが、詳しく
説明はしませんが、「雇用保険まで行き着かないのが現実だった。」と。実際、取材しようと思っていろいろな人に話を聞くと、雇用保険まで行き着かない、そういう現実があるんだということを書いておられるんですね。これは、私
たちのところに相談に来る方
たちの現実でもあるわけです。
そうすると、つなぎの融資が得られるか。雇用保険を受け取るまでの間、
生活資金のつなぎがあるかということになりますね。では、それはないのかというと、やはりあるんです。
社会福祉協議会というところが緊急小口貸し付けというのをつくっていますが、五
ページを見ていただくと、これは現役の社協の職員さんが書いてくれたものですが、その方が働いている自治体では、年間相談件数総計七百八十九件あるうち、貸付件数は十件足らず。一%しか借りられていない。九九%が断られてしまっています。
そういう状態ですと、結局、二枚目のセーフティーネットでとめてもらえないので、
生活保護に行っちゃうんですね。
生活保護へ行くのはだれも喜んでいない。それはぜひ誤解のないようにしていただきたい。本人
たちだって、受けたくて受けるわけじゃないんです。だけれども、手前でとめてくれなかったら、生きていこうと思ったら、では、それ以外どうしたらいいんだという話になってしまうんですね。
そういう結果、
生活保護がふえていますが、しかし同時に、それ以上の人
たちが漏れちゃっています。これは、例えば、今、同志社に行かれている橘木さんの試算ですと、八百万人ぐらいの人が漏れちゃっているんですね。六百万人から八百万人の人が漏れちゃっているというのが、おおむね学者さんの一致しているところです。
そうしますと、貧困に行っちゃうんですね。問題は、この貧困になった人
たちは、生きていくということです。非正規労働者が物のように捨てられていると言われています。実際、物のように捨てられるんですけれども、でも、物のように捨てられた人
たちは人間ですから、生きていくんですね。では、生きていこうとなるとどうなるかというと、いろいろなパターンがあります。自殺、犯罪、ホームレス。まあ、家族のもとに帰れる方はいいでしょう。
そしてもう
一つは、私は、ノーと言えない労働者になるんだと言っています。例えば、派遣村に来た方
たちがすぐに仕事につこうと思ったら、ではどういう仕事があるかということですね。まず、ハローワークに行っても意味がないんです。なぜかというと、月給仕事だったら、最初の給料が入るまでの
生活費がもたないですから。それでハローワークに行けなくなるんです。アルバイトニュースも
基本的には日給月給ですから、ああいうのでもだめです。最近、日払いのものもふえましたけれども。
では、どういう仕事だったらつけるかというと、スポーツ新聞とかで寮つき、日払いと書いてある、そういう仕事以外、行きようがないんですね。それで、寮つき、日払いという仕事は、
一般的には余りいい仕事じゃないです。できれば避けたい。でも、そういう中で避けられなくなる。
そうなることによって何が起こるかということです。労働市場の中に、私はこういう人
たちをノーと言えない労働者だと言っているんですけれども、例えば雇用保険がついているか、
社会保険がついているか、そんなことは見えないわけです。きょう
収入を得ないと
自分が食えないので、とりあえずきょう、つまり極端な話、日給についてもどうも言えなくなってしまいます。
そういう中で、ノーと言えない労働者がふえていくと、労働市場の質が壊れていくんですよ。だって、低賃金でどんな条件でも働くという人がどんどんふえていったら、だれがまともな賃金で人を雇おうと思いますか。そうやって労働条件ががたがたに崩れていってしまうと私は思っています。
なので、貧困の放置というのは、労働市場が壊れてきた結果として貧困がふえてきているんですけれども、そこだけで終わらないんですね。貧困がふえたら、それは労働市場を壊す原因にもなる。つまり、そこは
循環しているわけです。貧困というのは、労働市場が壊れた結果であると同時に労働市場を壊す原因なんですね。この
循環を見ないと、その人
たちが頑張れば何とかなるんだというところでは、
社会全体の地盤沈下はとまらないと私は思っています。
六
ページを見ていただくと、そういう中で私
たちがやったのは、さっきと同じような図ですけれども、私
たちがやれたのはごくごくわずか、たった五百人の人
たちに、右側の、派遣村というのをやって階段をつくったんです。貧困状態に陥った人
たちが、滑り台を逆から駆け上れと言っても普通の人は無理ですから。できる人はいいんですよ、ほっておいたってできるから。だけれども、普通の人は無理ですので、階段をつくったんですね。寝られる場所を確保して、食事をとれるようにして、それで緊急小口を受け、
生活保護を受け、アパートに入った。
これは、たくさん批判をもらいました。何だ、あいつら働く気がないのかと言われました。だけれども、実際は、
自立して仕事を見つけようと思ったら、そのためにはお金が要ります。就職
活動をするためのお金、面接に行くための交通費、洗濯をするためのお金。着たものも、ずっと一月着っ放しのもので面接に行ったって受かるわけがないですから。そういうお金が雇用保険から漏れちゃうと出てこないんですね。
そして、さらにアパートに入ることによってハローワークに通えるようになります。
生活の下支えを受けて居所を定めていれば、ハローワークで仕事が探せるようになるんですね。そうすると何が起こるかというと、余りにもひどい条件の仕事だったら、
自分は行けない、行かないと言うことができるようになる。それによって労働市場の質というのが保たれるんだと私は思っているんです。
つまり、セーフティーネットというのは、どうしようもないだめな人間を、しようがないから食わしてやる、そういうものじゃないんですね。セーフティーネットというのは、そういうのがあって初めて
社会がうまく回っていく、労働市場の質が
一定に保たれる、そういうものだと私は思っています。
もともと、思い起こしたって、十九世紀の
社会保障立法を最初に始めたのはドイツのビスマルクですか、富国強兵のためにやったわけですね。戦後すぐ、イギリスのビバリッジ報告ですか、揺りかごから墓場まで。あれは、対共産圏との関係の中で、資本主義も国力を強めなきゃいけないという話でやったわけですね。セーフティーネットというのはもともとそういうものだ。要するに、一人一人がぼろぞうきんのように使われていくような
社会は、
社会全体として弱くなっちゃうんですよ。
なので、
社会全体を強くするために、やはり底上げが必要だと私は思っています。それは決して無駄なお金ではない。そうじゃなくて、
人々が
生活していく、それによって次のステップが見えてくる、頑張れる、それによって
消費が進んでいく。
例えば、私、ずっとこういう
活動をやっていましたから、多分何万人という野宿の人、ホームレスの人に会ってきたと思いますが、よく言われるんです。野宿なんかでごろごろしていないで、仕事をしてお金をためてアパートに入ればいいじゃないかと言われるんですけれども、私が会った中で、
自分でお金をためてアパートに入った人というのは二人しかいないんですね。では、あとの人はどうしようもない人
たちかというと、私が見る限り、人間的な
努力ではそんなことはできないですよ。冬場、一日二日路上で寝たら、私もしょっちゅうやっていましたけれども、日中、頭がぼおっとなっちゃって就職
活動どころじゃないんですね、夜寝られないから。なので、そういう中でやるというのは、これは普通の人間的な
努力ではそんなことはできません。
でも、すごく例外的にやっちゃえる人がいるんですね。では、その人はどうなったかということなんですけれども、私が一人知っている人は、五十六歳だったかな、路上にいながら五十万ためて、
自分のお金でアパートに入りました。私、彼に保証人を頼まれて保証人になったんですけれども、びっくりしました。こんな人がいるんだと思ってどぎもを抜かれました。だけれども、その人は、余りにもそのときの無理がたたって、肝臓を壊しちゃって、その後ずっと入退院。それで今、それ以降はずっと働けなくなって
生活保護です。
五十六歳で、この後何年生きるかわかりません。二十年かもしれない、三十年かもしれない、ひょっとしたら四十年かもしれない。四十年間ずっと
生活保護ですよ。そのためにかかるお金と、早目にちょっとサポートしてあげて、働けるうちに仕事をして、税金を払ってもらって、
消費してもらうようになるのと、どっちが
社会全体にとって得か、私は見えていると思うんですね。そういうふうなお金の使い方をぜひお願いしたいというのが、私からのお願いです。
結局、六
ページの右側に書いたのは、私
たちが派遣村でやったようないわば救貧、貧困状態に陥った人
たちに階段をつけて上れるようにしました。だけれども、本当に必要なのは、
左側の滑り台に階段をつけることだ、防貧だと思います。貧困状態に陥る前に防ぐことですね。
そのためには、労働市場の中と外で、労働市場の中の規制も必要だし、外のセーフティーネットも必要です。そこの、労働市場の中の質と
社会保障の質というのは連動しています。例えば、最低賃金が
生活保護基準と連動するようになったのと同じで、
社会保障の質が落ちていけば労働市場も底なしになります。
社会保障の質が上がっていけば労働市場の質も上がっていきます。推移は一緒なんですね。そういうところでいろいろな施策が必要になるだろうと思います。
ここの矢印で書いたのが、私が考えるようなさまざまな施策です。今、大きな補正が打たれて、たくさんのお金がこの危機を乗り越えるために使われるということになっています。ぜひとも、こうしたことにもお金を回していただいて、
人々の
生活の底上げに向けていただきたいと思っています。
それで、その中と外がリンクしているという話は七
ページのことにも言えて、よくこれは出てくるんですが、
左側にあるのは、正社員の年功型の賃金カーブと非正規のフラット型の賃金カーブ、この
二つの
グラフがよく出てきます。これで、では、どうやってこの状態を解消するんだということになると、間をとろうという話になるんですけれども、私はそのためには条件があると言っていまして、右下の
グラフを見ていただければわかると思うんですけれども、
日本の
消費支出は山型なんですね。山型の
消費支出ですから、賃金はある程度山型を描いてくれないと
生活できないということになります。つまり、年功型賃金の背景には年功型支出があるんですね。
そのときに、人の
生活というのは
収入と支出のバランスで成り立っていますから、
収入で均等待遇を実現しようとして、正規と非正規の山が一緒になっていくというためには、支出も抑えていかないといけません。そうじゃないと、山型がこのままだと、正規も非正規も暮らせなくなる。それは、労働市場の中の、今いろいろもめている労働条件の整合性をどうやってとるかということと、支出の山型を下げていく、つまりセーフティーネットを強化していくということですね。
日本の大学の費用は、残念ながら世界一高いです。その大学の費用をちょっと下げてくれれば、そこまで
収入が上がっていかなくても
生活はできる、子供を大学に行かせられます。そういうふうな
収入と支出のバランスをとっていく、そのためには労働市場の中と外をセットで見ていく必要があるんじゃないかと思います。
そういう中で、たくさんの
政策、案が出されていますが、私からぜひともきょう改めてお願いしたいのは、八
ページに書いておきましたけれども、三月までにやってもらいたいことがあります。来年度
予算のこの
委員会で言うのは恐縮ですけれども。
よく言われているように、三月、大量の人が切られます。それは、もうとめようがない
現状ですね。厚労省は十二万四千人と言っていますが、
製造業派遣や請負の会社は四十万人だと言っています。十二万四千人という数字も、毎月毎月ふえていっていますから、また今後もふえていくでしょう。そうすると、かなりの、少なくとも万単位の人が路頭に迷うことになります。そうなったときに、ではその人
たちをどうするのかということですね。
ほっておくと自殺はぼんとふえるでしょう。そうなって、だれも喜ばない、だれもうれしくないです。だとしたら、今全体が大変な中ですけれども、だからこそ全体で支えるしかないんじゃないかと思います。そうやって
社会復帰できるようにしていただきたい。
そのためには、シェルターや総合相談窓口をつくっていただきたいと思います。これは、大都市圏だけということになると、自治体が、うちに集まってきちゃうといって嫌がるので、やはり全国各地につくっていただきたいんですね。全自治体が等分に
負担するような形をとらないと、うちだけに集まってきちゃうというような、それでなかなか各自治体が動けないという事態がクリアできません。
それから、やはり雇用保険
制度から漏れちゃう人
たちが大量にいますので、そこの法
改正等は四月以降必要だと思いますけれども、その前に、漏れちゃっている人に何らかの手当てを考えていただきたい。そのために基金のようなものを創設していただきたいと思っています。きょうは時間がないので詳しく話せませんが、十一
ページ以降に、それについての、私
たち素人がつくったアイデアが書いてあります。ぜひ、たたいてちゃんとしたものにしていただきたいと思います。
それから、三点目と四点目については、現行法上も違法です。
余り知られていないのは四点目の方ですが、寮からの退去というのは、派遣会社が周辺家賃相場と同じぐらい家賃を取っているとき、寮費を取っているときは借地借家法の適用を受けるので違法です。これは最高裁の判例、判決があります。ですから、さっきお見せしたような、寮費を五万円も六万円も取っているような派遣会社が、仕事がなくなったからさようならだよといって追い出すのは、これは違法なんですね。普通の大家さんは、家賃滞納が一月、二月あっても簡単には追い出せないというところで御苦労されているわけです。同じような規制を人材派遣会社も受けているんですね。
だけれども、そのことが知られていない、本人
たちにも知らされていない、なので、しようがないといって追い出されている。それが
生活の状態を非常に深刻化させてしまっている、ホームレス状態にさせてしまっているというのは御存じのとおりです。それを何とか、これは現行法でも十分規制されていることですので、皆さんに伝えていただいて、三月、寮を追い出されている人が一人でも減るように、ぜひ御尽力いただきたいと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)