○古本
委員 資料の八、九をごらんいただきたいと思うんです。
実は、造船疑獄
事件というのは、一九五二年ごろから海運業界が不況に陥りまして、政府、国会に助成措置を要望した。そして、五三年一月に外航船舶建造融資利子補給法が成立した。しかし、業界は助成策が不十分として、改正法案審議や
計画造船割り当てなどを有利に運ぶため、国
会議員や運輸官僚に働きかけ、五三年四月実施の総
選挙で自由党に巨額の献金をした。こういうことが端緒でありまして、いろいろな
証拠物件、メモやらも出てまいりまして、結果、衆参議員四名、運輸省官房長らを収賄罪で起訴したということであります。
その際に、これは大変著名な
事例ですので、諸先生方御
案内のとおり、当
検察庁法十四条、指揮権を発動し、
逮捕を免れた当時の
佐藤栄作自由党幹事長は、後に政治資金規正法違反で在宅起訴された、利子補給法公布後などに船主協会、
日本造船工業会などから四千万を超える献金を受領しながら帳簿に記載しなかったということで、これは政治資金規正法違反ですね、起訴されたんですが、国連恩赦で五六年に免訴。これが概要なんですが、少しおさらいをしておきました。
問題はこの九番なんです、資料の九。これは少し調査室の方で時系列でまとめていただいたんですが、なかなか示唆に富んだやりとりがありまして、昭和二十九年の四月十七日にまず第一回
検察首脳
会議というのがあります。左の軸が衆議院の当
委員会での政府答弁です。右側が当時のマスコミ等々の報道あるいは専門書から拾っていただいた時系列なんですけれ
ども、四月十七日、
検察首脳
会議を開いて、そして、
法務大臣に
逮捕請求許可の指揮を口頭で仰いだところ、問題が重大だから慎重に検討した上結論を出すように、そういうふうに指示があった。
これは困ったということで、後刻、第二回目の
検察首脳
会議を行っているんです。再び処分請訓をし、
法務大臣は、
逮捕延期の指揮権発動の意向を示したんですね。これを受け、翌日四月二十日、後日、第三回目の
検察首脳
会議、再び処分請訓、そして
検察の最終方針を伝えたんですね。そして二十日の深夜、稟議書という形で正式に書面で
逮捕請求の許可申請が出た。
これに対し、四月二十一日未明、吉田内閣総理
大臣の命を受けたとされる犬養元
法務大臣から、指揮書の内容を確認すると同時に、指揮権の発動を決意なされ、四月二十一日の午後零時過ぎ、指揮権を発動。その名目は、米印の二にありますように、「
佐藤栄作氏の
逮捕請求許可の請訓については、
事件の
法律的性格と、重要法案の審議に鑑みて、別途指示するまで暫時
逮捕を延期して、任意
捜査すべし、この指示は
検察庁法第十四条に基づくものである。」という請訓に対する回訓が回った、こういうことであります。
そのときの理由を、後日当
委員会でも随分議論になったようでありまして、資料の七、一枚戻っていただきまして、当時、国務
大臣、副総理であったかと承知しておりますが、国会での
質問にこう答えておられるんですね。なぜ指揮権を発動したかの理由、ここが、実は刑事局長初め
検察の皆様が今日的にずっと内在してきた十四条の何とも言えぬ課題がここにあると思っているんです。
実は、副総理はこう答えています。「
検察庁法第十四条によりまして指揮権を犬養前
法務大臣が発動いたしましたのは、」その理由ですね、線を引いています、「今日の政党政治におきましては幹事長の位置、特に重要政務に当つておりまする、国務に当つておりまする政府与党の幹事長の位置というものは、政府の
動向をきめる上からも、また国会の運営におきましても、非常なかけがえのない重要な位置でありますので、もしうわさせられるような事態が発生いたしますると、」これは
逮捕ということですね、「実際において国政の運営に非常な支障を来す、そういう意味から、
検察の
捜査あるいは処分というようなものの内容には立ち至らないが、できればその
逮捕というような時期を延ばすことはできないか、」と。
さらに、飛ばしますけれ
ども、下段に目を移していただきますと、三行目あたりからですが、「政治的の考慮を加えるのは、すなわち内閣の一員である
法務大臣が政治的考慮を加える、」「異例ではありまするが、指揮権を発動しまして、今日国際的にも国家的にも非常に重要な諸法案、しかもこの時期にぜひとも政府が国会を通過させたいと考えております諸法案、それを通過成立させたいという絶対的な必要から、あの処置に出たものと想像しております。」これは本人じゃないですから「想像しております。」と。
ここから恐らく読み取れるのは、政府・与党の幹事長だから守らなければならないんだ、何よりも国会で重要法案と呼ばれている
幾つかの課題を成立させなければならない、この二つの
要求を満たすためには、指揮権を発動し、
逮捕を延期してもらえないかということが唯一表ざたになっている指揮権の発動なんですよ。こういたしますと、
検察の側も、その後、この十四条については相当慎重なことに恐らくなってきているんだと思うんですね。
そこで、解説が随分長くなりましたので、念のため、少し
委員の先生方にも紹介させていただきましたが、この指揮権というのはそもそも内閣総理
大臣も有しておる、こういう理解でいいでしょうか。きょうは法制局も来ていただいています。