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中村参考人 二十年前から
消費者庁の創設を言っている日弁連でございます。よろしくお願いします。
私は、日弁連に
消費者委員会というものができる以前からたくさんの
消費者被害事件にかかわっておりまして、日弁連が二十二年前に
消費者委員会をつくるときの創設にも関与いたしました。そして、日本
弁護士連合会人権擁護大会というのを毎年やっておりますが、二十年前に松江で開いた大会で、この
消費者行政の一元化、
消費者庁の創設を提言しました。そのときの提言の取りまとめにも関与し、現在、日弁連で
消費者行政一元化推進本部本部長代行ということで、この創設に向けて
努力させていただいているわけです。
日弁連がこの
消費者庁の創設をなぜ言い出したかというところを、もう一度ちょっと説明しておきたいと思います。
私たち
弁護士というのは、日常、たくさんの
相談を受け、そして
消費者の
被害を何とか救済しようということでたくさん取り組むわけでありますが、私が
弁護士になったのは三十五年前ですが、そのころから二十五年ぐらい前までは、いろいろな
取り組みをしてもなかなか思うようにいかない。何でこの
被害を受けた方が救われないんだろうか、そして、悪徳な商法をやっている
業者が何で利得を懐に入れたまま返さないんだという思いを非常にしました。
裁判に訴えてみても、
裁判官もなかなか理解しない。
行政はどうなっているかということで、
行政庁を見てみますと、これもなかなか規制を発動してくれない。そういう中で、私たちは、たくさんの不合理、矛盾というものをいっぱい集めて感じておりました。
そういう
弁護士が
全国にたくさんおりまして、やがて
消費者委員会をつくり、そして、
消費者行政を何とかしよう、
消費者の現状を何とか救う
方法はないものかということで、シンポを開いたのが二十年前でありました。
このときに私たちがやった手法は、世界の国々は一体どうなっているんだろうか、日本のことを見るときに、外から一回見てみようということで、海外の調査に参りました。アメリカ、ヨーロッパ、それからオーストラリアとか韓国などにも行きまして、皆さん、一体どんな
方法で
消費者被害を
実現しているのかというところを研究したわけでありました。
そのとき一番感動いたしましたのは、やはり、アメリカの
消費者運動家、ラルフ・ネーダーさんとお会いしたときです。ネーダーさんはこういうことを言いました。私も、昔、
弁護士になりたてのころ、
消費者被害に取り組んだけれどもなかなか思うようにいかない、なぜだろうと考えたときに、実は、自分が大学の
法学部で学んだ
法律というのは、すべて産業
保護育成の時代に産業
保護育成をやりやすいようにつくられていた
法律だ、そうなるとやはり
消費者にはなかなか使いにくい
法律であるということに思い至った、それで、自分は
消費者保護に邁進しようという決意をされたというお話を聞きました。
私は、これだ、日本もまさにこの点が今の大きな問題なんだということを感じ、本当にあのとき目からうろこが落ちる思いをいたしました。それで、日弁連の人権擁護大会にもネーダーさんをお呼びしてお話をいただき、そして自信を持って私たちは
消費者庁の創設を提言したわけであります。
私たちの国の
法律も、思えばやはり、明治の殖産振興、富国強兵政策の中で、まさに国を富ませる、欧米列強に追いつけ追い越すために
法制度を欧米から輸入して整えていったわけでありまして、省庁もそれを執行する
行政としてそれぞれ立ち上がっていった。
ですから、産業
保護育成については、私は一定の成果を果たしたんだろうと思いますが、その省庁がやがて、本来の
業務ではなかったものを、
消費者政策を取り入れて、
消費者安全課とか
消費者保護に関する部署を少しずつふやしていって、担当されるようになりました。
しかし、やはり、そもそもの生まれが産業
保護育成の省庁でありますので、そこが同時に
消費者保護を担当してみても、なかなか思うようにいかない、法改正も、私たちの希望するほどスムーズに進まないという時代がずっと続いたわけであります。
そこで、私たちは、ネーダーさんの言われるように、やはりここは、産業
保護育成省庁から切り離して、独立した、
消費者目線で
消費者のことを専門に考える
行政機関、そういうものが
一つ要るんではないかということに思い至ったわけであります。
それが諸外国にはあったんです。
消費者庁あるいは
消費者省、あるいは、
地方自治においても、
地方行政の中にも独立した
消費者部門、
消費者行政部門というのがあるんです。そういうことを日本でも取り入れるのが必要だろうということを感じて、
我が国の
消費者行政の見直しを提言したわけです。
私たちの二十年前の提言は、もちろんそれだけで救えるというつもりで言ったのではなくて、司法の場においても立法の場においても
消費者目線で
活動するようにということを、あわせてあのときは提言しております。
あれから二十年たちました。この間、
消費者関連のいろいろな
法律ができ、あるいは改正がなされておりますが、私たち日弁連は、そういう
法案等に対する
意見を言う都度、必ず、
消費者行政の一元化ということを念頭に置いて、
消費者目線から
行政の一元化をあわせて行うということを、各
法案の改正
意見を申し述べるたびに、常に触れさせていただいてきたわけであります。以来二十年言い続けてきたというふうに御理解いただきたいと思います。
このたび、ようやく、政府筋あるいは政党筋から、いろいろな
消費者行政の一元化の方策について
法案が出され、この場で議論されているわけです。私どもから見れば、まさにきょうまでの
審議の中で、ずっと傍聴しておりましても、与野党を問わずすべての政党の
方々から、
消費者行政の今の問題点、そしてこれを是正するために必要な一元化の方策、こういうことを口々にそろっておっしゃっている、この状況は、私たちからすれば本当に感動物でありまして、ようやく時代がここまで来たんだと、時代の大きな変化を感ぜざるを得ません。
私たちは、そういう
消費者庁創設を主張してきた
立場から、現在、
内閣提出の
消費者庁設置法案ほかの三
法案につきまして
意見を述べさせていただきたいと思います。
特に、現在この
審議が大分大詰めを迎えまして、修正協議も取りざたされる時点に参りましたので、そういう意味で私どもは、その修正のポイントを御紹介するという意味合いを含めまして、きょうは何点か御指摘させていただきたいと思います。
私たちは、既に、昨年の九月二十九日に
消費者庁関連
法案が
国会に
提出され、その後、臨時
国会ですぐ
審議が始まると思っておりましたので、十一月の十九日にはこの政府
提出法案の検討をして
意見書を取りまとめております。本日お配りした資料一と二、この
二つの
意見書を添付させていただきました。さらに、三でポイントを述べた一枚物にし、四でポンチ絵にしたものをあわせて添付しておりますので、御参照いただけたらと思います。
この
意見書を述べてからも、もう五カ月たちましたけれども、本日その内容をここでお話しできるという
機会がようやく訪れ、ほっとしているところであります。
参考人質疑もずっと続いておる中で、なかなか日弁連の出番がなかったんですけれども、最後にお呼びいただいて大変光栄に存じます。(
発言する者あり)最後にしてください。
私どもは、政府
提出法案につきましては、内容としては、
消費者行政を一元化しようという方向性、それから
消費者庁という
行政機関を創設するということなど、基本的には日弁連の主張に沿うものであり、賛意を表します。
しかし、
組織づくり、
制度づくりに関するものですから、一たんつくってしまうと、そう簡単に変えることはできません。スタートしてから
機能しにくいものになってもいけません。
そこで、発足に当たって、少なくとも次の点は修正していただきたいという
意見であります。詳細は、本日お配りした
二つの
意見書のとおりでありますし、また日弁連のホームページでもごらんいただくことができます。
時間の
関係でポイントのみ申し上げたいと思います。
第一点であります。条文に
消費者の
権利をうたい、
消費者庁が
消費者の
権利擁護のための
行政機関であることを明確にする修正を求めます。
世界の国々は、憲法の中に
消費者の
権利や環境権を位置づけている時代です。こういう時代に、日本が
法律にすらうたえないというのでは情けないのではないでしょうか。既に
法律レベルでも、
消費者基本法には第二条、三条、四条、五条に四回も「
消費者の
権利」という文言は登場しております。今
国会でも、議決権を有する議員の皆様方からは、
消費者の
権利をうたうことについて反対の
意見は
一つも聞いておりません。
ただ、
一つ、担当大臣の答弁が気になりました。所掌
事務に
消費者利益の擁護があり、
消費者基本法を所管するからそれで足りるのではないかという御答弁だったと思います。
しかし、それではわかりにくい。
消費者庁は
国民にわかりやすく、
消費者目線に立った
行政の推進を
目的としているのですから、やはり設置法にも
消費者の
権利をうたい、わかりやすくしておいていただきたいと思います。
次に、
消費者政策
委員会です。ここは今
法案のつぼだ、こういうふうに私たちは思っておりまして、この
消費者政策
委員会の権限強化、独立性、専任制をぜひ
確保していただきたいということで、いろいろ申し述べております。
消費者政策
委員会というのは、
消費者庁が真に
消費者を主役とする
組織たるべく、
消費者目線で
消費者庁を監視、補完する
組織として位置づけられるものであります。このために、
法案における
委員会の権限についても、
消費者庁の監視
組織たるに十分な権限として規定していただきたいということを求めておるわけです。
法案だけを見ますと、この
委員会は
内閣総理大臣に対する
意見具申の権限が規定されておりますが、単なる
意見具申だけでは、
消費者庁に対する監視、補完の権限として不十分ではないでしょうか。
特に、この
法案の中に、第十六条に、
内閣総理大臣の担当大臣に対する措置要求の権限が定めてあります。それから、すき間
事案についての、
内閣総理大臣の
事業者に対する各種権限、大変目覚ましい権限が十七条から十九条にうたわれております。これらの権限というのは、縦割りでの産業育成省庁による間接的、派生的
消費者保護に対する根本的な
改善策としての最重要権限の
一つであります。
このため、
内閣総理大臣の措置要求権限及び
事業者に対する各種権限、さらに
消費者庁が所管する法令に基づく権限が適切に行使されていない場合には、監視
組織たる
消費者政策
委員会が、実効性を持ってこれらの権限発動を要求することが必要になります。したがって、
委員会の権限として、
内閣総理大臣の措置要求権限及び
事業者に対する各種権限についての勧告権限、及び当該勧告に対する
内閣総理大臣の
委員会に対する
対応内容等の報告義務、こういうものを追加して定めていただきたいと思います。
また、
委員会の監視
機能の実効性を
確保するためには、
委員会の
意見具申権限及び勧告権限の行使のために、
関係行政機関または
事業者に対する資料提供、説明要求権限を規定すべきであります。
さらに、
内閣総理大臣が
委員会から
意見具申または勧告を受けた場合及び勧告に対する報告を行った場合には、
内閣総理大臣はその内容についての公表をする義務があることも定めるべきだと考えております。
ぜひ、この
消費者政策
委員会の
機能強化、監視
機能の強化については、万全を期していただきたいと思います。
それから、
被害防止のために
情報を集約して、それを分析し、活用するということが重要でありまして、それぞれ規定がなされておりますけれども、まず私たちは、
事故情報、
消費者被害の
情報、こういうものは、やはり
情報を持っている人、持っているところから広く漏れなく集めたい。そして、それらを調査分析し、
行政の執行、
消費者保護のために活用するという当たり前のルールをここで徹底していただきたいと感じております。
情報の収集に関しては、
行政機関の長、
都道府県知事、
国民生活センターの長がその義務として報告をしなければならないことになっておりますが、これだけで果たして十分集まるかという視点で見ますと、甚だ心もとないばかりでありまして、私たちは、
情報を一番持っているところはどこか、こう考えたときに、やはり、消防、
警察、そして病院、保健所等、こういうところに多くの
事故の
情報が入っていくわけですね。こういうところからどうやって
情報を集めたらいいか。ここはぜひ、
情報を持っているところに義務を課して集めるという改正をしていただきたい。
さらには、物をつくった
事業者は、多分自分のものに関する
情報を一番たくさん持っているはずです。こういう
事業者からも
情報が集められるように改正をしていただきたいと思います。
ここで私は思い出すんですが、平成六年、製造物
責任法の
国会審議があったときにもずっと傍聴させていただきましたが、あのとき、時の通産大臣、まだ経済産業省になっておりませんで、通産大臣の畑英次郎さんという方が、こういうことをおっしゃいました。
製品事故に関する
情報は
国民の共有財産だ、共有財産なんだから、極力
情報を公開して、みんなで共有すべきである、こういうことを
国会審議の場で繰り返し言われております。
私は、そのとおりだと思います。まさに、
製品事故に関する
情報というのは、
国民の共有財産、メーカーが持っていれば済むというものでもないし、一部の
行政機関が隠し持っていればいいというものでもないんです。やはりオープンにして、
国民と共有する、あらゆる
行政が共有する、そういう中で、間違いのない
消費者被害救済の
行政がとり行えるものと確信しております。
それから、本
法案、
消費者安全法の中には重大
事故という規定がございます。この中には、いわゆる
取引被害というものが入っていないというところを大変懸念しております。
御存じのとおり、
消費者被害として
国民生活センターや
消費者センターに参る
苦情の
大半は、実は、
製品事故の方よりも、むしろ
取引被害、悪徳商法、そういうものが非常に多いわけでありまして、そこが重大
被害を起こすということも、今回の
国会でもいろいろ取りざたされている大和都市管財とかエル・アンド・ジーとか、いろいろなああいう大型
被害を見ておわかりのとおりでありまして、そういうものも
事故情報を集めて、そして
被害救済に活用するという視点をぜひ取り入れていただきたいと考えております。
それから、
地方消費者行政に関しては、
組織づくりの点だけ
意見を申し述べておりまして、
都道府県が行う
事務として「広域的な見地を必要とするもの」と規定されておりますけれども、ここにもう
一つ、専門的な見地という言葉も加えて、この
地方消費者行政が担う
責務を明確化していただきたいと思います。
それから、
消費者センターの設置義務についてでありますが、
市町村レベルですべてというのがなかなか大変であれば、ぜひ
市町村の共同設置ということを可能にする条文立てにしていただきたいと考えております。
それから、この先は、私どもが、
法案の修正ではなくて、新たにつけ加えていただきたいという条文を
二つお願いしているところであります。
その
一つは、
消費者あるいは
消費者団体が申し出権があるという形をぜひつくっていただきたいということであります。
消費者から
消費者庁への申し出、それに対する応答、
消費者団体から
消費者政策
委員会への申し出、こういう
制度をぜひ設けていただきたいというのが一点。
それから、
二つ目は公益通報であります。公益通報というのは、私どもは、いろいろ議論して、今回は
消費者庁と
国民生活センターに
消費者窓口を設置したらどうかということで提言しております。
消費者の
保護は、これを未然に防ぐ一番手っ取り早い
方法というのは、実は内部通報なんですね。これから、工場でつくった違法な添加物、あるいは偽装した食品が売り出されようとする前に社員が
内部告発してくれれば、事前にとめることができる。そういう意味では、公益通報、
内部告発というのは、
消費者被害の未然防止に最も手っ取り早くて、しかもコストがかからない
方法でありまして、ここの公益通報の
保護ということを図ることが、未然防止には非常に重要なわけであります。
そういうわけで、この
法律の中に、公益通報の
窓口を設置するところが
消費者庁にあるんだ、国センにもあるんだということをアナウンスする意味は非常に大きいと思います。
それから、ここでもう
一つつけ加えたいのは、今回、
消費者庁は
公益通報者保護法という
法律も所管することになります。今まで余り触れられておりませんが、この意味は非常に大きいと私は思っております。この
公益通報者保護法という
法律は、実は使い勝手が余りよくない。通報するならばまず社内でやれとその自浄作用に期待し、それがだめなときに
監督官庁に通報しなさい、それでもだめなときに初めてマスコミ等の外部に通報しても
保護しましょう、そういう構造になっております。非常に使いにくいです。それから、通報事実も、罰則を伴う
法律違反だけ
保護の対象にするとか、問題を抱えております。
ただ、この
法律の附則に五年後見直し規定がございまして、今ちょうど四年目であります。
消費者庁が所管して、
消費者目線を徹底して、
公益通報者保護法の改正ができたらすばらしいことだと思います。それが今、現実のものになりつつあり、
法律を所管することの威力を発揮するものと期待しております。
最後に、
消費者関連法案は、
昭和四十三年の
消費者保護基本法以来、ほとんどすべて全会一致で成立しております。産
業界と
消費者利益との対立構造が残る中で激しく応酬が繰り広げられた製造物
責任法も、あるいは政党間で多少
意見が違った
消費者契約法も、最後は全会一致で成立しました。
消費者問題はまさにすべての
国民に関することですから、党派を超えて
国会の総意で立法されるのは、この国が実に健全であることのあかしであると思います。このよき伝統を引き継いで、新しい
消費者行政を生み出そうとする本
法案についても、所要の修正を加えた上で、全会一致で御承認いただくことを切に希望いたします。
以上です。(拍手)