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白川参考人 お答えします。
最初に、
日本の
金融危機から学ぶ教訓ということであります。
これは、どの時点から議論するかにもよりますけれども、現に危機が起きてしまったというところからまず議論をいたしますと、第一に重要なことは、
流動性の危機、
流動性に原因を発した
金融システムの危機を絶対に回避をするということが大事だというふうに思います。
振り返ってみますと、九七年以降、やはり一番大きかったのは、九七年の三洋証券のコール
市場におけるデフォルト、このインパクトが私は非常に大きかったというふうに思います。そういう
意味で、
金融市場の安定を保つということがまず大事だというふうに思います。
第二点は、しかし、
流動性は
中央銀行がなし得る最大の貢献ではありますけれども、このこと自体で問題が解決するわけではないことも明らかであります。問題の本質は、資産価額が下落をして資本が不足をしてしまったという事実でございます。そのことがまたさらにいろいろなルートを通じて
実体経済への
影響を与え、資本が減っていくという悪循環になるわけですから、問題は、資本をどうやって補てんするかということであります。これは、もちろん民間ベースの
努力が最優先いたしますけれども、その上で、もし資本が不足したような場合には、公的な
対応もあり得る話であります。
いずれにせよ、まず損失の額を確定し、最終的に資本を何らかの形で補てんしていく
努力を促していくというのが二つ目であります。
三つ目は、先ほど危機が起きた後の
対応を申し上げましたけれども、今度は危機が起こる前の話でございます。
過去二十年間、
内外の
経済を見ますと、いろいろな形でバブル的な現象が、以前に比べると発生の頻度がふえております。
日本のバブルもそうですし、アジア危機もそうですし、LTCM、ITバブル、それから今回の住宅バブルという形で、明らかにそれ以前の二十年に比べますとこの二十年はバブルがふえております。
この間、なぜバブルが発生したかということを
考えた場合に、これは私は
金融政策だけで発生したというふうには思いませんけれども、しかし、長期間にわたって低金利が続くという期待が生まれたことがバブルを生む一つの原因になったことは間違いないというふうに思います。
そういう
意味で、
金融政策の
運営というのは、これは長期的に
物価の安定を目指していくわけですけれども、しかし、余りにも短期の、足元の
状況に左右されますと、結果として
経済の大きな
変動を引き起こす可能性もある。そういう
意味で、先々の
リスクを見据えた
金融政策、これは時としてその時点では不人気ではありますけれども、そのことも必要であるというふうに思います。
この三つが、私
自身が
日本の
経験、それからその後の海外の
経験も踏まえて引き出している教訓であります。そうしたことをいろいろな場で申し上げたいというふうに思っております。
それから、
日本の
景気でございますけれども、去年は建築基準法の改正に伴う住宅投資の減少、これから
景気は
減速傾向になりましたけれども、足元はそれ以上に、
エネルギー価格あるいは食料品価格の上昇、こうしたものがいろいろな形で
日本の
経済に対して今マイナス
方向に作用しているというふうに思います。
景気はそういう
意味では
減速をしているというふうに思います。この点は、今般の短観にも明確に出ているという感じがいたしますし、それから、設備投資の数字を見ましても、足元は少し弱目のスタートになっているなという感じがいたします。
ただ、一方で、今回足元の
状況を見ますと、幸いなことに、設備それから雇用、在庫の面で過剰を抱えていないというのは、これは非常に大きな違いであります。過去の
景気後退はすべて、そういう過剰があったところに負のショックが加わって
景気を下押ししていくということでございますけれども、今回は、そういう
意味での過剰は、現状は観察されておりません。
いろいろな不確定
要因はございますから、
注意しながら
景気を見ていく必要がありますけれども、標準的なシナリオとしては、見通しとしては緩やかに
成長をしていく、足元は
減速しているけれども、少し長い目で見ると緩やかに
成長していくということであるというふうに思っています。
ただ、繰り返しになりますけれども、不確定
要因について十分目を配る必要があるというふうに
考えています。
そういう中で、
金融政策ですけれども、現状、短期金利は〇・五でございます。
物価上昇率を差っ引きますと、実質ベースでは今ゼロという感じでございます、これは数字のとり方で若干変わってまいりますけれども。それと
経済の潜在的な力を比較してみますと、今潜在的な力は、
成長率は多分一%台の半ばから後半というような感じだろうと思いますけれども、足元の
金融政策が
景気に対してどういうふうな作用を及ぼしているかという面からいきますと、これはそういう力を発揮している。
ただ、これも、この後、実はきょう、あした、また決定会合がございますけれども、先ほど申し上げたような
景気情勢も含めて、慎重に、入念に点検をしていきたいというふうに
考えています。
それから三番目の、鉄のトライアングルということでございますけれども、私
自身五十八ということで、
日本の重要な
政策形成を担っている方、あるいは財界の方、いろいろな方と比べまして年齢的には若いということももちろん十分に認識していますし、何よりも、つい一カ月前までは大学の教師をしていまして、若い人に対して教育をする、今度は全然違う
世界に入りまして
仕事をやっていく、そういう
意味で当惑がないかというと、これは明らかに当惑はございます。
ただ、若さだけがもちろんすべてではございませんけれども、この若さを、それは弱さでもありますけれども、これを強さにして、いろいろな改革に取り組んでいきたい。もう一回、いろいろなことを
自分の目で見て実現していきたい。若いころから
日本銀行の
仕事に対していろいろな思いはございましたけれども、それを、たまたまこういうことでもし御
指名をいただくことになりましたら、その夢といいますか思いを実現すべく頑張りたいというふうに思っております。