○
参考人(
磯村元史君) 本日は、
日本年金機構法案等の三
法案に対する
意見をまず申し上げて、あと続きまして今後の御審議に関連する
参考意見を三点申し上げたいと思います。
まず、いわゆる
社会保険庁改革法案につきましては、昨今のこのような情勢に照らし、かつ近い将来を展望した場合には、どうもこれは反対せざるを得ないなと、こんなふうに思っております。
その理由は、御存じのようなこの継ぎはぎの
年金制度、もう六十五年たっております。この継ぎはぎの
年金制度というこの複雑な
組織がある限り、
組織を幾らいじっても中身はそんなに良くなるものじゃございません。それどころか、今この時期に
組織をいじりますと、関連する
記録が更になくなります。そのほかに、関連する
給付判定のノウハウもなくなってしまいます。こんなことでいいのかなと。まあ例は悪いんですけれ
ども、例えば
子供が大病をした、その大病したのは部屋の造作が悪いからだといって部屋の造作を直すようなものでございますね。
なぜそう申し上げるか。これはお
役所もそうですけれ
ども、事業体の
組織というのは戦略に従います。戦略は人とシステムに従います。特にこのシステムというのは、取り扱う
制度、要するに
年金という安心を確保するもの、これの
運営面にあるわけでございます。現行の
年金制度が継ぎはぎで複雑なものになっているということは、三年前の
皆様、国
会議員の
先生方が随分未納が多かったという点を見ても明らかだろうと思います。
しかも、この
社会保険という
仕組みあるいはあいまいな財政方式というものを前提とした
制度が、
国民のみんなにとっては、二十年先、三十年先にはどうもこれ維持できそうもないなというのが本能的に分かっております。また、マクロ経済スライドの導入ということが言われておりますけれ
ども、保険料は固定された、しかし、どうもこれはイギリスもドイツも六十五歳を六十七とか六十八にしているよと、いずれ我々の
年金もそうなるんじゃないのかという不安も本能的に感じております。
まあそんなことで、
制度が複雑で本能的な不安があるものですから、当然先ほど
皆さんがおっしゃったようなことが出てくるわけなんですが、ただこのシステムというのは、当然出てくる
ミスや不備をあらかじめ想定しておいて、それをなくすのが
組織のマネジメントでございます。ですから、
ミスや不備の発生する
部分を、これが確実に発生しないように
制度を変えない限り、
組織だけをいじっても、これは
民間企業でも
役所の
組織でも同じだろうなと思っております。むしろ、こんな大事な時期であるからこそ、
組織だけをいじりますと、それに伴うリスクと追加の人手不安が出てくるのではないかと思われます。
組織改編に伴う新たなリスクというのは、先ほど申し上げた関連
記録の喪失と
給付条件判定のためのノウハウの喪失でございます。
ノウハウといいますと、例えて言いますれば、私は保険証も何にも
記録がないと言われたときに、あなた大病したことありませんか、いや、ありますと。そのときにどこへ行きました、ああ、何とか病院へたしか行きました。そのときに健康保険利きましたか、ああ、利きましたと。ああ、それじゃ、健康保険が利いているんなら多分
国民年金か厚生
年金のどっちかに入っているんでしょう、どこの場所ですかと、こんなふうな聞き方をしてさしあげると、かなり記憶がよみがえってまいります。言わば犯罪捜査で証人の古い記憶を手繰り寄せていくのとよく似ているわけですね。こういうノウハウがなくなっていくんじゃないかなと、こんなふうに思います。
言葉が非常に難しいという点もありますね。例えば、
委員の
皆様方、いかがでしょう。私は何号だよということを即座におっしゃられる方いらっしゃいますでしょうか。一号、二号、三号とございます。これが、ほとんどの方御存じないんです。また、難しい言葉にこんなのがあります。支給停止という言葉があります。支給停止というと、みんなもらえなくなっちゃうと思っちゃうわけですね。こんなふうに言葉が難しいことも、実はみんなが
記録や訂正申請を放置している
原因にもなっているわけでございます。
したがって、当面の三年間というのは
組織の改編作業に憂き身をやつすんじゃなくて、
記録の散逸防止と名寄せを図りながら
記録管理の不備を回復すべきじゃないかなと、こんなふうに思っております。何か
社会保険庁を解体して六千人とか七千人の人が首になるそうでございますが、そんな、今もったいない。ベテランがおられるんだったら、この
人たちを
記録管理の回復に費やすべきだなと思いますね。
とりわけこの原簿の備付け、何か今度やっと、
法律案を見ますと、原簿を備え付けろという規定が入っているんですね。今ごろ何だろうなと思うんですが。この原簿の廃棄が横行している上に、実は
法律自体に
基礎年金番号を記載しろという規定がなかったんですね。今度入るようになりました、まあ妙な話ですが。こんな
考え方の中で
組織だけいじったらどうなるのか、極めて肌寒い感じがするものであります。
じゃ、
組織を改編しなくて何かやり方があるのか。あります。
具体的に言いますと、一例でございますが、現行の
社会保険制度を
基本から変えるんです。基礎
年金を全額国庫負担にします。これは無駄をなくせばできます。ざっと国の無駄、私
ども素人が見ても十五兆円から二十兆円はあると思います。これがあれば優に基礎
年金は全額国庫負担にできます。じゃ、それの上乗せになる報酬比例
部分はどうするんだ。これは、いろんな
制度をうまく使って任意加入ということにすればよろしいのかなと。いろんな
制度というのは何だ。企業
年金もあります、四〇一kもあります、財形個人
年金もあります、中小企業退職金共済
制度もあります。これを統一的に税制上の手当てなどを講じて任意加入できるようにすれば十分やっていける。
そういたしますと、変な話ですが、
社会保険庁の大
部分が自然に要らなくなっちゃうんです。今無理して新しい
法人をつくらなくたって、こういうふうに根元を変えれば
社会保険庁という
組織は自然に要らなくなります。あまつさえ、未納や未加入の問題は全くなくなります。そのほかに、余分なことですが、お金が手元から離れますから、不祥事や天下りの問題もなくなります。こんなうまい方法はないんじゃないかなと思っております。そんな具合でございますので、どうか
組織をつくり変えたから、入れ物をつくり変えたからこれで終わりということに是非なさらないでいただきたいなと思っております。
引き続きまして、今後の審議の
参考意見を
三つ申し上げたいと思います。
一つが、不服
審査への
対応でございます。お手元の一枚物の紙に話の順番だけ書いておきました。
現在、御存じのように、不服
審査につきましては
社会保険審査官及び
社会保険審査会法という
法律がございまして、ここでは、ちょっと時勢に合わなくなったので、次のような
問題点が考えられております。
一つは、この
審査官というのは厚生労働省の
職員の中から任命するということになっておりますが、身内に甘いんです。二つ目、
審査請求は原処分、例えば
窓口であなた駄目よと、こういった原処分があってから二年間過ぎますと、もう
時効になって取り上げてもらえないんです。実は、この取り上げてもらえないところが関門になりまして、初めて裁判を受ける権利が出てくるわけですね。後で申し上げます。三番目の
審査請求前置主義というのがございます。今申し上げました、ここの関門を通らないと裁判を受ける権利が出てこないのであります。これ、憲法で認められている権利が、あなた駄目よと言われて二年過ぎたら、もう受けられないんですよね。したがって、憲法で認められたこの裁判を受ける権利というものを行使しようと思うと、東京に
一つしかない
社会保険審査会にたどり着いてということになる、これがなかなか至難の業でございます。
一方、報道されております
総務省の
行政相談
窓口に各都道府県に第三者判定
委員会を設置するという件がございますが、六月四日、この
委員会で行われました
質疑応答を拝見いたしましたが、これでは、僣越でございますが、
現場は混乱すると思います。また、
大臣は、新聞によりますと、説得力のある話なら証拠がなくてもというふうな意味のことを述べておられるそうでございますが、全部が全部説得力を持っておりますでしょうか。障害者はどうなるんでしょうか。私みたいな老人はどうなるんでしょうか。あるいは、そこまで行けない人はどうなるんでしょう。
こんなことを考えますと、この第三者判定
委員会、不服
審査の
窓口が拡充されることは非常に結構でございますが、今の
審査会法との間の整合性を持った整理を是非やっていただきたいなと思っております。
今、庶民が頼りにしているのは
社会保険労務士でございます。この
社会保険労務士の
方々が現在の
審査会法というものに
採用されておりますこの
審査請求前置主義というものをどう評価しておられるのか、その辺を是非お調べいただいて、必要があれば現在の
審査会法を改正若しくは廃止して新しい
法律を作るぐらいの整合性のある不服
審査の
対応体制をおつくりいただきたいと思います。
現場が混乱するのが一番かわいそうでございます。
なお、この
審査会なり
審査官の
方々が過去に審決、いわゆる判決でございますね、された事例が随分たくさんございます。この事例を是非一遍お調べいただきたいんです。その中に、お
役所の
ミスで門前払いになって泣き寝入りしているケースが随分たくさんあると思います。
二つ目、社会保障番号への
対応でございます。
これは、たらればの話でございますが、
基礎年金番号の導入計画の段階、すなわち昭和五十四年から六十年の段階でこのお話があったら、今のような混乱はかなりなくなっていただろうなと思われます。韓国でも導入しております、一九六二年に。これがなぜ我が国でできないのか。この
番号制度にはいろんな評価がある、議論もあると思いますが、少なくとも
年金も含め国の全体の
業務効率は格段に上がると思います。正確性も、スピードも、経費の面も、大幅に
改善されるだろうと思いますので、是非御検討いただきたいなと思っております。
幸か不幸か、今回の混乱で
国民の
皆さんが、やっぱり番号があった方がいいかねと、その方が効率面でもいいような感じもするよというふうにも思っておられるんじゃないかと思います。ただ、こんな
意見を申し上げますと、私の推薦人の方はどういうふうにお考えになっていらっしゃるのか、申し訳ありませんけれ
ども、私はそう思っております。もしそういうことになるんならば、今ここでまたその
基礎年金番号をいろいろ苦労して探し出して転記するよりも、最初から社会保障
制度番号を入れた方が二度手間にならなくて済むんじゃないかなと思います。
三番目、
国民年金のPR方法についてでございます。
今般、
年金特別会計からの
事務費の支出が
年金の教育、広報になら使えるというふうに変わったそうでございます。私は、
事務費というのは本来は全額国庫負担にすべきであると、先ほどの
西沢さんの御
意見もございましたが。今でもこれはどうかなと思いますが、少なくとも現行
制度を続ける場合には、
国民年金なり厚生
年金なりには義務だけじゃなしに入りたくなるような御説明をしていただきたいんですね。一方、今度の
日本年金機構法案第二条には、被
保険者等は、政府の管掌
年金事業に対する理解を深め、その
運営に協力するよう、被
保険者が協力するというのもこれ妙な話ですね、まあ等が入っていますから理解はできるんですけれ
ども、そうならば、政府にもこの努力規定を是非課したいと思うんです。
国民年金若しくは基礎
年金の本質的なPRを
お願いしたいなと思います。例えば、一例でございます。このレジュメにちょっと付けておきましたが、下の方の表でございます。
やっぱり人間、損か得かで判断するのが一番早うございます。仮に、
民間に同じ
仕組みの
年金保険
制度があったといたしまして、同じ
制度なら、
年金数理上の計算は、同じ掛金で同じ
給付が出るわけでございます。同じ基礎率であれば、表のAに書いてございますように、同じ掛金の
給付、
国民年金が一〇〇仮にあったとしたら、
民間の保険も一〇〇出ます。国の保険はここに国庫負担が付きます、五〇。しばらくすると二分の一になるそうでございますが。
民間の保険にはもちろん国庫負担はございません。Cにありますように、
国民年金には経費がまあほんのわずか、比率から見ますと掛かりますが、
民間の保険、これはオープンになっていませんのでクエスチョンマークを付けてございますが、多分二〇ぐらいはあるだろうなと言われております。
これ
三つ足して比較いたしますと、
国民年金というのは同じ掛金で同じ
制度であれば一五〇もらえるのに、
民間なら八〇ぐらいしかもらえないというふうなお得度でございます。倍近いお得度ですね。なぜこれをもっとPRしてもらえないんだろうか。私は、四月になって新入学生が入ってきますと、必ずこれをPRいたします。分かってもらえます。今、年間三十回ほどボランティアで市民大学等に講演に行っております。この話をいたしますと、かなり分かっていただけます。これは、
民間保険のことを悪く言っているわけじゃありません。
民間の保険には
民間の保険の特徴、利点がありますから、決して民業圧迫ではなく、単純に国庫負担が付いているということを申し上げたいわけでございます。
そんなことでございますので、入らないと国庫負担を放棄するよというふうな分かりやすい話を是非していただきたい。
年金というのは、入りたくなるような
制度、払いたくなるような
制度が本物だと思います。それを、未納者から国税庁に委託してまで強制的に取り上げるというのは本末転倒だろうと思います。どうしても国税庁から取り立てていただくのなら、正々堂々と
年金保険税というふうに名前を変えていただきます。
最後に、今
現場の
職員の方というのは随分良くなりました。苦労しておられます。だれが悪いんだというと、悪いのは別のところですね。あるいは
仕組みそのものが悪かったのかも分かりません。どうか泥のなすり付け合いや政争の具にだけはしないで、施行までの三年間に、直すべきところがあったら是非、与野党協力して、メンツにこだわらず直していただきたいと思います。
意見を終わります。ありがとうございました。