○
公文参考人 公文でございます。
本日提案されている
日本年金機構法案及び
国民年金法等の一部
改正案を中心にしながら、若干御
意見を申し上げさせていただきたいと思います。
言うまでもないことですけれ
ども、既に日本の
年金は、
皆さんも御承知のとおり、形としては
国民皆
年金の体裁を整えております。したがって、
年金制度の整備、
改善についての
法改正は、常に、
年金を受けている人たち、
年金に加入している人、いわばすべての
国民の今そして将来の
生活そのものがよくなるか悪くなるかということを判断の基準にすべきだと
考えています。
そこで、私は、いささか
年金問題を研究してきた者の一人という
立場と、この十数年間私自身が
年金生活を送ってきているという
生活の現実から、この
法律案に対する
意見を述べてみたいと思います。時間もありませんので、主として
政府・与党の
皆さん方が提案をしている
日本年金機構法案及び
国民年金法等の一部
改正案への
意見が中心になることをお断り申し上げておきます。
そこで、まず全体像といいますか総論的な
意見を申し上げてみたいと思います。
与党提案の二つの
法律と、本日の案件とはなっていませんけれ
ども同じように今国会に別途提案をされている厚生
年金と共済
年金の一元化
法案、この
法案も含めまして言えることですけれ
ども、いずれも今
国民が最も強く望んでいる本格的かつ緊急の
年金改革が置き去りにされているということに対して、少し不安を感じます。
いろいろな世論調査でも明らかにされているように、
年金制度に対する多くの
国民の不安や不満、そこから生まれてくる
公的年金への不信感は、負担はふえる一方なのに
年金額はさっぱり上がらない、これでは、
老後や残された遺族、障害を持った人たちの
生活はとてもじゃないがやっていけないということに尽きると思います。特に、これはもう
皆さん方御承知のとおりですが、二〇〇四年の
年金改正がその不安や不信を加速させていると私は思っております。ここから、常々言われている
制度空洞化という深刻な事態が
社会問題化してきていると思います。
今回の二
法案に添付された
参考資料の中でも、そうした深刻な現実が読み取れます。私、ここに資料をいただいているわけなんですが、この
参考資料の百十六ページに
公的年金制度全体の
納付状況という一覧表があります。一号被
保険者の
保険料未納者、滞納者という表現もとられていますけれ
ども、これが三百七十四万人、未加入者が二十七万人、合わせて四百一万と記載されています。未加入者二十七万人も、実際は、届け出漏れなど
制度上の不備がもたらしている非加入者という数としてここには明示されていますが、九十万人です、百二十八ページに載っています。
なぜ加入しないのかという理由については、資料の百三十ページに記載されています。数からいっても、事の重要性からいっても、未納の理由の調査が大切だと思うのですけれ
ども、どういうわけかここには示されていません。私が知る範囲では、九九年度の
国民年金被
保険者実態調査で、未納の理由、滞納の理由の六二・四%の
方々が、経済的に
支払いが困難と答えており、信用できないからとにかく金を払わないんだという方が一二・二%、これは
公的年金に対する不信感だと思いますけれ
ども、そういう大変深刻な実態が報告されていました。現時点での未納の理由、滞納の理由について現実を把握する意味でも、ぜひ
委員の
皆さんからも御指導いただいて、発表していただけるようにしていただけると大変ありがたいなと思っています。
今回の資料の未加入の理由でも、加入したくないという方が約半数の四九・八%。しかも、全体の二三%の人が、
保険料が高くて経済的に困難だから加入しないんだというふうに答えていらっしゃいます。さらにまた、
保険料に比べてもらえる
年金が少ない、
資格期間が二十五年を満たしそうもない、そういった
制度の不備の問題に対する不満も加えますと、未加入者の三人に一人が
制度の不備を訴えているということがわかります。
未納者の三百七十四万人も、注にありますように、実際には二年間全く
保険料が支払われなかった人の数であって、今の納入率、御承知のとおり六七%ですが、これを単年度分として計算をしてみますと六百万人になります。つまり、滞納せざるを得ない、未納の状態になっている
方々が六百万人。
こうした
保険料の高さに対して、
年金額はどうなのか。資料では、
国民年金の平均的
年金額を五・八万円と明示しておりますけれ
ども、実際には、老齢基礎
年金だけの受給者が約九百万人いらっしゃいますが、その
方々の平均
年金額で見ると四・六万円にすぎません。未納、未加入以外の免除者が、学生の猶予者まで含めると三百二十八万人。全部合わせた、
保険料の払えない、払わないという人たちの総数は、この
政府が出している資料でも、単年度で一千万人を超えるという推計が成り立ちます。表現はよくないんですけれ
ども、まさに
年金難民の滞留が極めて深刻な形で進行しているとしか私は
考えられないわけです。
問題はそれだけにとどまらない。働く人たちの雇用不安、それから、低い賃金、収入額からワーキングプアと呼ばれている人たちがふえて、若い人たちを中心に非正規短時間労働者が既に一千五百万人を超えるという現実があります。この中の相当数の
皆さん方が厚生
年金にも健康保険にも加入していないということで、
制度空洞化はすべての分野に広がっているとしか言いようがありません。この
制度空洞化に今すぐ歯どめをかけて解決することこそ
年金改革の緊急
課題だと私は
考えます。
そのために、数年前から、民主党の
皆さん方を初め共産党、社民党さんなど野党のすべての
方々が、普遍的公平、平等の最低を保障する
部分については、全額税金、国庫負担で賄う最低保障
年金制度のようなものをつくるべきだという主張をなさっています。私も全く賛成です。そういう正当な政策提言を、一日も早く
制度の立法化をするように急いでほしいと願っております。
部分的な
制度いじりは二の次、三の次だというのが私の総論的
意見です。したがって、今出されている
政府提案二法につきましては、今国会での成立はぜひ見送っていただいて、再検討を
お願いしたいと思います。
さて、具体的な中身について幾つか御
意見を申し上げてみたいと思います。
まず、
日本年金機構法案ですけれ
ども、この具体的な中身は大体
三つの点で要約できるのかなというふうに感じました。
すなわち、
一つは、
社会保険庁を廃止して非
公務員型の
公法人を設置する、そして
年金事業をそこで行う。
二つ目が、可能な限り
年金業務を
民間企業に委託する。それから三番目が、悪質な
年金保険料の滞納者に対する滞納処分は国税庁に委任するという大きな
三つの柱で組み立てられているように思います。特に二番目と三番目に重点が置かれているというふうにうかがうことができます。
言うまでもないことなんですが、全
国民の
老後、遺族、障害に対する国家的保障の
制度として
公的年金制度があることは言うまでもありません。それを保障し義務づける理念として憲法二十五条の
規定があることも明白です。
釈迦に説法ですけれ
ども、日本の
社会保障に関する
法律の中で、前文または基本的な
部分で、日本国憲法二十五条の
規定に基づいて
運営をしていく、あるいは中身を組み立てていくということを明言している
法律は二つしかありません。もうちょっとあるかもしれませんが、私が知る限りでは
生活保護法と
国民年金保険法だけです。
したがって、憲法二十五条が意味する、健康で文化的な最低限度の
生活を営む権利と、それから、それを保障し発展させる義務が国や地方自治体にある。このことがやはり
年金でも基本に据えられるべきだろうと思います。それを事実上、表現も余り適切でないかもしれませんが、分割・民営化するという
法案の建前自体、本来あるべき国の
責任と義務を投げ捨てるものであって、二十五条の理念に反するものとして、到底納得できるものではありません。
新たに設立される
年金新
法人は、適用、徴収、給付、記録管理などを複数の
民間企業に委託するとしています。言うまでもないことですが、今の
年金制度は他の
社会保険と違って、中長期的計画性と記録管理の継続性、
信頼性が極めて重視されなければ
運営できないような仕組みになっています。だから、
内容、信憑性はともかくとして、与党自身も百年の安心などという表現をお使いになっているんだろうと思うんです。
ところが、今回の
民間委託では、契約期間は長くて三年から五年、そして経営者の交代、あるいは
民間企業ですから倒産、破産といった事態も当然起きてくるでしょう。そういう実態の中から
制度への理解や習熟度の安定的継続は保てないということになるんじゃないでしょうか。その結果として、給付漏れ、
保険料の記載漏れなど、常々言われている重大な事故が発生しかねないという懸念があります。
私たち
国民にとって最も関心が強いのは、
民間委託になったら、先ほど
谷澤先生も言っておられましたけれ
ども、
サービスの
向上や、負担や給付の安全が保障されるのか、よりよい
制度になるだろうかということだと思います。
五月十七日の朝日新聞では、「
民間委託、
コスト優先に
課題も」という見出しで、二〇〇五年秋から東京、大阪など五都府県で行われた
保険料未納督促の
民間委託の実態が報じられております。それによると、委託を受けた
民間会社は、遠隔地や長期滞納者など
コストのかかる人たちへの督促はしない、手間のかかる戸別訪問などは全然やらない、せいぜい電話や文書を出すだけで、全く成果が上がっていないと報じています。この点について、
民間会社の側は、
コストをかけてもやらねばならない
部分は公の役割だろうというふうに言っております。
また、最近の
民間大企業の不祥事も、
民間委託による私たちの不安をかき立てます。最近、国会でも、生保協会、損保協会の会長さんがお出になって、不払いに対する問題について頭を下げていますけれ
ども、頭を下げれば済むという問題じゃないと思います。とにかく経営
コスト主義あるいは競争原理、そして利潤追求を経営理念とせざるを得ない
民間大企業に国家的
社会保障の
業務をゆだねること自体、無理があるというふうに言わざるを得ません。
次に、よく御承知のとおり、この数年間でさえ
民間企業の不祥事は後を絶たないという実態、今申し上げたとおりですが、現
社会保険庁長官の村瀬清司氏の出身
会社である損保ジャパンも、不払いなど不祥事が指摘されています。その手法をそのまま
社会保険庁に持ち込んだ結果、
納付率向上のためのごまかしが明るみに出ている、これは
皆さん御承知のとおりです。
公務員、
社会保険庁職員の不祥事というだけでは片づかない、根深い官僚的体質、政治主導の構造的不祥事こそ徹底的に究明をして、真剣な再発防止策の確立を優先すべきではないかと思っております。
この不祥事の問題につきましても、先鞭を切ったのは、
皆さん御承知のとおり、大型保養基地グリーンピア事件や、自主運用規制緩和で
年金福祉
事業団が株で大赤字を出した、そういった構造的な不祥事があります。
それと、最近は、私
ども率直に申し上げて、長年にわたる官僚支配のもとで生まれた一部の
職員の倫理観の欠如や不祥事などを十把一からげで論じて、だから民営化だという世論誘導は余りにも短絡的であるというふうに
考えざるを得ません。しかも、これらの不祥事を盾にとって
公務員労働者一万人の首を切るなどということは、絶対に許されていいことではないと思います。まさに国家権力をかさに着た恫喝的な
公務員減らし、これは
年金制度の一層の不安定を助長するものであり、到底許されません。
さらに、
民間委託による個人
情報の管理の不安定化にも大きな心配があります。
法律では、委託を受けた企業には秘密保持義務を課すなどと言っておりますけれ
ども、本当にそんなことが可能なのか。憲法または
公務員法で厳しい規制のある官庁の中でさえ、機密漏えい問題が最近あからさまになってきています。防衛省問題な
どもそのたぐいだろうと思います。個人
情報の流出、新たな利益誘導の温床が生まれるなどの懸念がこの
法案では深まるばかりだと言わざるを得ません。
さらに、この分割・民営化とあわせて、
国民年金法等の一部
改正案では、
国民年金の
保険料滞納者に、全く別個の
法律であり目的も異なる医療保険へペナルティーを科すということが決められようとしております。すなわち、
年金保険料を滞納したら
国民健康保険の保険証を取り上げる、短期被
保険者証を出すということになるわけなんですけれ
ども、きのうもテレビ朝日のTVタックルというところでこの問題が取り上げられておりましたけれ
ども、大変深刻な問題が提起されております。
周知のように、
資格証明書は、病気になりましたら、治療を受けるときにまず医療費の全額を窓口で払うということになっています。こういう制裁措置
そのものが問題なんですけれ
ども、
生活が苦しくて
保険料の払えない人がどうして医療費の全額が窓口で払えるのか、こういう矛盾した
制度なんですが、今度は、
国民健康
保険料を払っていても
年金保険料を滞納したら短期被
保険者証を発行するという制裁を行うというのですから、お話になりません。そうした被害を受ける人が二百万人にも達するという推計もなされております。
あわせて、こうした制裁措置を
社会保険労務士にも科すというのも大きな問題だと思っております。この
社会保険労務士に対する制裁措置は、滞納した場合に登録を取り消すだとか、事実上の
社会保険労務士の
資格取り上げという大変恫喝的な制裁措置の提起をしている。
なぜこの
社会保険労務士だけが殊さら取り上げられているのかということも、何となくうさん臭い感じがいたします。
社会保険労務士の
皆さん方も、実態としては、ほとんどの方が
生活の苦しい中で
保険料を払っていらっしゃるという実態が明らかになっているのに、わざわざこの
社会保険労務士に対してペナルティーを科す、召使のように思っているんじゃないかなとさえ感じます。
とにかく、この制裁措置については、医療保険といい、
社会保険労務士に対する制裁措置の提起といい、隣の芝生が気になるからというので塀のすき間から除草剤を勝手に散布するようなことであって、到底認めるわけにはいきません。
最後に、一時的、便宜的に行ってきた事務費を
保険料から流用する
制度を恒久化するということは、大問題です。国家的
年金制度の事務費は当然全額国の負担にして、
保険料は給付のみに使用するという常識を復活させることを
考えるのが当然ではないかというふうに思います。
大変大ざっぱですが、私の
意見といたします。(
拍手)