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吉岡参考人 本日も、当小
委員会で日弁連の
意見を述べる機会を得られましたことにつきまして、まず感謝申し上げます。
これまで配付させていただきました、日弁連の二〇〇五年二月十八日付及び二〇〇六年八月二十二日付の
二つの
意見書を、本日の
テーマにつきましても御
参考にしていただければ幸いであります。また、本日の
テーマではございませんが、日弁連は、
与党案、
民主党案の中の
憲法改正の
発議のための
国会法の一部
改正についての
意見書を、つい先日、十一月二十二日の理事会で採択をして公表しております。本日配付させていただきました。
それでは、本日の
テーマにつきましては、レジュメに沿って順次陳述をしていきたいと思います。
まず、
国民投票運動を
規制することについてであります。
憲法改正国民投票運動に対する
規制につきましては、十一月二日の小
委員会でも
意見を述べさせていただきましたが、そのとおりであります。
憲法改正手続においては、
公職選挙法の手法による
規制がなされるべきではなく、いかに
主権者である
国民が萎縮することなく自由に
憲法改正についての
意見表明ができるか、
憲法改正の最終決定者である
国民の間においていかに自由闊達な
議論ができるかといったことが特に重要であります。
次に、
国民投票運動が
規制される特定公務員の範囲について述べます。
裁判官、検察官は、法曹として、諸立法について
専門家として
意見を述べたり関与する
立場にある者であります。これらの者について、
法律の上位にあり、かつ、
法律等が合憲か違憲かの
判断の前提となる
憲法の
改正の
是非について自由に
意見を表明することを
規制するということについては
反対いたします。
また、公安
委員会の
委員、警察官についても、これらの者が
憲法改正の
是非についての
意見表明をするという自由を全面的に
規制することも合理的根拠がないものと
考えます。
それから、公務員、教育者の地位利用による
国民投票運動の
禁止についてであります。
与党案においては、公務員と教育者について、地位を利用しての
国民投票運動も
禁止しております。しかし、地位を利用してという概念は、極めてあいまい、不明確でありまして、どのような行為が地位を利用したことになるのかということの特定ができず、公務員や教育者が
憲法改正についての
意見表明や活動をすることはすべて地位利用に該当するというような解釈運用がなされるおそれがないとは言えません。このような地位利用という不明確な概念でもって公務員、教育者の活動を
規制することは、これらの者の
意見表明や活動を萎縮させる現実的危険性を持つものであり、
反対であります。
公務員が、公務員の地位を利用して、職務権限に直接絡めて
賛成投票もしくは
反対投票をすることを強制するなどの事態が万一にも生じた場合には、職権濫用罪その他既存の法規にも抵触するものでありまして、
憲法改正手続法に
規定を置くという必要はありません。
教育者につきましても、この地位利用の
規定が教師に対して萎縮効果を与える可能性があります。そのため、学校において
憲法改正についての
議論がタブー視される、そして、本来、これからの社会を担っていくべき学生たちにこそ
議論してほしい
憲法問題が、学校では
議論されないという現象すら生じかねないものがあります。
次に、
組織的多数人買収・利害誘導罪の
設置についてです。
与党案は、
組織により多数の
投票人に対し買収や利害誘導等をした者に対する罰則
規定を設けております。しかしながら、通常の
選挙と異なりまして、そもそも
憲法改正国民投票に関して買収や利害誘導等がなされ得るのか、また、罰則で
禁止することは
投票についての自由な活動を阻害しないのかなど、このような罰則
規定を設けること自体疑問があります。
また、同罪の
構成要件を見ますと、極めて不明確な要件のもとに、広範な
規制を招きかねない
内容となっており、罪刑法定主義に抵触するとともに、
憲法改正にかかわる
国民の自由な
表現活動を萎縮させる危険性が高いものと言えます。この点、より限定的な
規定にしようという
意見もあるようでありますが、
国民の自由な
表現活動を萎縮させることについての危惧を容易に払拭することはできません。
メディア規制における
広告表現の
規制について述べます。
本日の
テーマのうち、
憲法改正国民投票に関する
メディアにおける
広告表現のあり方などにつきましては、十一月七日の小
委員会で
意見を述べさせていただきました。したがいまして、本日は、その際に述べました
意見の要旨を述べさせていただくとともに、
投票日前の
テレビ、ラジオによる
広告表現の一律
禁止の
規制について、多少敷衍して
意見を述べさせていただきます。
まず、
メディア規制における
意見広告です。
この点についての日弁連の基本的な
考え方は、できるだけ
制限をしないで自由に認めるという原則に立ちつつ、
憲法改正案に対する
賛成意見と
反対意見とをできるだけ対等に扱う。例えば
テレビ、ラジオといった
放送であれば
賛成意見も
反対意見も同じ時間が使える、
新聞であれば
賛成意見も
反対意見も同じような回数、字数が使えるといったような工夫が必要であるということであります。また、いわゆる
資金力のある方が多く
意見広告をすることができるという、公平性を欠くような事態を生じないような工夫も必要と
考えております。
政党にのみ
無料広告を認めることについて述べます。
両
法案とも、
政党等のみが
無料で
放送や
新聞による
広告をし得るとし、しかも、
無料広告の
放送時間や
広告回数、
新聞広告の寸法や回数はいずれも当該
政党に属する
議員の数を踏まえて定めるとしていることに対し、日弁連は、これでは
国会における多数
意見、少数
意見がそのまま反映されることとなり
反対であるとの
意見を述べておりました。
このうち、
政党等については、
賛成意見も
反対意見も、同等の時間、同等の回数の
放送や
広告が利用できるようにする
方向での
修正意見が有力になりつつあると聞いております。しかし、これにとどまらず、
政党等以外の
団体や市民も、
無料で
放送や
新聞広告による
広報活動ができるようにするための工夫も
検討されるべきであるというふうに
考えております。
投票日前の
放送規制についてであります。
両
法案は、
投票の七日前からは、
政党等によるものを除いて、
テレビやラジオを使用して
国民投票運動のための
広告放送をし、またはさせることができないとしております。さらに、最近では、この
期間をもっと延長すべきであるとの
意見や、
発議から
投票までの間、一切
禁止するとの
意見もあると伺っております。
これに対しては、
テレビやラジオが
国民の
情報取得の大きな手段であることを
考えましたとき、これを利用した
広告活動の一切を
禁止することは、
主権者たる
国民の正しい
判断の道を損ねることにもなりかねず、
表現の自由を侵害すると言わざるを得ず、到底許されないものと
考えます。
確かに、
テレビ等の
影響力の大きさは事実上無視し得ないものがある一方、
テレビ等の電波は限られた媒体であり、多大の費用がかかることからすれば、
資金力のある者のみが
テレビ等を利用できるという不公平なことになりかねないとも言えます。その点から、
テレビ等の利用については、広く
国民が
意見広告を平等、公平に利用できるようにするためのルールづくりを慎重に行う必要はありますけれども、そのためには、
政党以外の市民や
団体なども
無料で
テレビ等を使えるような工夫や、
賛成意見も
反対意見も同じ時間が使えるような工夫こそがなされるべきであります。
政党のみが
テレビ、ラジオを
無料で利用でき、
政党以外の市民や
団体はたとえ有料でもこれらを利用できないというのでは、
国会は
憲法改正を
発議する
機関であり、
憲法改正の主体は
国民であること、その
国民の中においてこそ自由闊達な
議論がなされるべきであるということを軽視しているのではないかと
考えざるを得ません。
憲法の定める
表現の自由、特に民主主義社会を根底から支える政治的な言論の自由を
規制することについては、極めて慎重であるべきであります。一たび言論の自由を
法律で
規制できるのだというような例をつくってしまいますと、民主主義社会そのものを揺るがす取り返しのつかない事態を起こしかねないと
考えます。
国民に対する
周知広報についてであります。
国民に対する
周知広報についての日弁連の
意見も十一月七日の小
委員会で述べたとおりですが、ここでは、その中でも特に
広報協議会については、周知の
公正性、平等性を担保するために、
賛否の
意見が平等に反映されるような
委員を選出すべきであるとともに、
外部委員の選出も
検討すべきであることを強調しておきたいと思います。
その他、最後になりますが、日弁連におきましては、本日の
テーマ以外においても
意見を述べておりますが、特に、真に
憲法改正についての
国民の承認を経たと言えるためには最低
投票率を定めるべきであること、
国民に十分に
意見を表明し
議論をなし得るために
発議から
投票までもっと長い
期間を置くべきであるという
意見を述べていることを強調させていただきます。
また、十一月二十二日の理事会において採択した、先ほどお配りいたしました
意見書におきましては、
憲法改正案を
審議する常設の
機関として
憲法審査会を
設置することの
問題点、さらに両院の
憲法審査会の合同
審査会を
設置すること及び両院の
意見が不一致の場合に両院
協議会を開催することのそれぞれの問題性などを指摘しておりますので、ぜひお読みいただければと思います。
以上、御清聴ありがとうございました。