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内田参考人 このような
機会を与えていただきまして、ありがとうございました。
私は、三十数年にわたって
子供の
現場で
相談活動をしてまいりましたので、
子供の立場、
子供の視点から、
いじめの問題が今どういうことになっているかということについてお話をさせていただきたいと思います。
私が仕事を始めましたのは一九七三年からですが、私が勤めていた民間の病院のすぐ近くで、一九八〇年代の半ば、鹿川君が命を絶ちました。彼は、私の勤めている病院にうちを出た後毎日のようにいて、
学校には行かず、病院の待合室で過ごしていたという時期がありました。そういう点で、うちを出ても
学校にたどり着かないとか、いろいろなことが
子供の中に起こってくるわけで、その辺のところを
現場の
相談活動からお伝えしたいと思います。
病院の心理室、及び今
子ども相談室「
モモの
部屋」で
相談活動をしております。この「
モモの
部屋」の
モモは、ミヒャエル・エンデの小説「
モモ」、人の話を聞くことが上手な、お話が聞けるということと、
子供が奪われた時間を取り戻す、人が奪われた時間を取り戻す、そういうふうなことをしている少女の物語です。その名前にあやかって
相談活動をしております。
病院及び
相談室に来る
子供たち、親御さんの話を聞くと、
子供同士の
いじめ、
先生による
いじめなどが原因で登校渋り、登校拒否、不登校になる
子供たちがたくさん来院いたしたり、来室いたしました。その
子供たちがつくった資料があります。これは、登校拒否の
子供たちによる登校拒否アンケート、東京シューレの
子供たちがつくったものですが、当事者がつくった唯一のデータです。
登校拒否、不登校の原因を三つまで挙げてもらいました。一位は「
子ども同士の
関係」四〇%、それから「
学校の雰囲気」三九%、「
いじめ」三二%、「
先生」二六%です。これは、一人三つ答えていいという複数回答です。「
子ども同士の
関係」も「
いじめ」も非常にダブりますけれども、十人のうち三人から四人は
いじめで
学校を休むに至ります。それから、
学校で居場所を失った
子供たちが追い詰められて考えたことを上位三つ挙げてありますけれども、一位は「
自殺」、十人に四人は
自殺を考えています。二番目が「家出」三四%。追い詰められて物を壊す子、三〇%です。
次に、私が東京都内の私立大学で、非常勤講師として人間学という
授業の中で、
子供の当事者性について学生とともに学んできました。その資料を用意してあります。資料一「
大学生がふり返った
学校生活」で、ここには主に
いじめの問題を中心に学生が書いた小レポートを取り上げてあります。
一番、二番、三番は、
子供同士の
いじめが
メンバーを入れかえながらぐるぐる回っていくという
実態について書いたものです。一番最近のニュースにも
対応するものですけれども、違う小
学校出身の
子供に対して、あの子は嫌われているから近づかない方がいいよといううわさが最初に流れて、周りの
子供たちが無視したり、かかわらなくなっていくということで、小
学校からの
いじめが継承される例です。そういう場合に、
子供たちは、
いじめられているというレッテルが張られることを非常に恐れて、非常に緊張しながら
学校生活を送っています。
二番目の方は、小
学校の経験で、五人が仲よしグループをつくり、四人で一人の
子供を
いじめて、それをぐるぐる回すという経験を書いています。
三番目の方は、体操部、運動系。スポーツ系の部活というのは、非常に厳しいトレーニングや勝利を
目的の競争心理がありますので、
いじめが多発いたしますけれども、やはり
メンバーの
子供たちを次々に
相手をかえて
いじめる、そのことによって団結力のようなものを感じながら過ごしていたということが書いてあります。
次に、
いじめられるという
関係が既に固定してしまっている例について、四番、五番の学生が書いています。
いじめられの四天王と言われる
子供たちが中学の中にいて、特徴としては、太っている、身長が高い、いつも口をあけている、そして背が低かった、そういうふうなことが
いじめのターゲットになっていって、それがずっと継承される。それは、
いじめる側にいないと
自分の安全が守られないということがあるわけです。この学生は後で、この中で一人、かなり長身だった
子供が中学三年で命を絶ったということを後のレポートで書いています。
五番目は、
授業中に
いじめが起こったということについて書いています。
ふだんから
いじめられている
子供、やはりこの子も太っているというふうなことで
いじめのターゲットになっていますが、
授業中にその子に対してボールを集中的にぶつけるというふうなことがあって、その後その子は
学校に来なくなり、中
学校でも、数回来た後でずっと
学校に来なくなっているということについて書いています。
それから六番目。これは、
学校の
授業の給食
指導の中で、厳しい
先生の給食
指導の結果として
子供が
学校に来られなくなった例。そして、来られなくなった
子供に対して、そういう不登校を認めることは甘やかしだということで、ほかの
子供たちが非難する。嫌なことを我慢してやらないということは非常に納得がいかないということで、
いじめられたり傷ついた
子供を守るという事態を
子供たちが受け入れないという状況が書かれております。
七番目。今、少子化の中で、エリート校をめぐって受験のストレスが
子供たちにすごく加えられていますけれども、受験のストレスから
いじめが始まった。これもやはり太っている
子供に対しての
いじめです。初め、その子をこの書いた学生がかばったら、今度は
自分が
いじめられるようになった。かばうことによって、今度は
自分が
いじめられるという経験を書いています。
それから八番目は、
クラスのリーダー的な、勉強もよくでき、
クラスのまとめ役をしている中心的な
クラスメートが陰で
いじめをしていたということと、
クラス会で話し合ったときに、
いじめた当事者が、毎日迎えに行って
学校へ連れてきますというふうなことを発言して、いわゆる見えない
構造の中でさらに
いじめられている子を追い込むというふうなことについての
実態が書かれております。
それから九番目。これも、
いじめがずっと継続した経験について、当事者が書いています。
いじめの中身としては、最初は無視から始まったけれども、その後、死ねとか
学校に来るなとか、天然危険物、菌、生きている価値はない、いいところなんかないという、言葉による
いじめ。それから、持ち物を隠す、仲間外れをする、体育などのときにペアを組むときに、組む仲間に入れてもらえない、掃除のときに、いすや机を、その子のものは運ばないというふうなことが小
学校三年のときからずっと続いているということについて書いています。
しかし、休んだら負けになるということで頑張って行き続けた結果として、その苦しみを今も引きずっている、そして、その苦しみを和らげるためにリストカットという行為が始まっています。初めは死にたいという思いから、その後は、死ねるという安心感を得るために、そして
自分自身を罰し、生きている実感を得るためにリストカットということを始めて、いまだにやめられないというふうなことが書かれています。
それから十番の方は、
授業の中で、登校拒否ということについて、一つの
子供の
いじめからの非常口、脱出口だという話をしたことについて返ってきた学生の経験ですが、登校拒否をできる子はとても強いと思った、家族
関係がすばらしく、親も
子供を受け入れてくれるから登校拒否ができるんだろう、多くの
子供は、この世の中では、
いじめられていても登校拒否をするという強さを持てず、何もできずにただひたすら
学校に行き、毎日
いじめられるしかない
子供たちがいる、そういう
子供の方が多いというふうなことを書いています。
それから、
学校に行く中で、
教室に入れない、
教室が怖い、そういう
子供たちがたくさん出て、保健室登校というふうなことが起こるわけですけれども、そのことについて、保健室にいることについて否定されたりしたことから、もしあの状態が続いていれば、
自分は命を絶っただろうというふうなことが書かれています。
十二番目も、保健室に登校していいよと言われて、そこにいる時間が長くなったら
教室に戻るように働きかけられて、そのことで非常に
学校が逆に怖くなったというふうなことを書いています。
今、保健室にいる
子供たちがふえているために、保健室にいる時間は二時間以内というふうに決められている
学校があちこちでふえてきております。ですから、
学校の中における居場所、逃げ場所を奪われてしまっているという状態があります。それで、その結果として、いろいろなアンケートで、
子供たちが
いじめを原因に
学校を
休みたいとか、それから死にたいと思ったというふうな統計を出してあります。
それから、各地の
教育委員会で不登校対策、最初の一ページの
レジュメですけれども、五番、「各地の不登校対策(
学校復帰策)」の中で、
子供が
学校を休むことを認めないさまざまなきつい対策が起こってきております。そのために、ここのところに来て
子供の
自殺がふえているというふうなことがあります。
それから、資料としては「不登校の
子どもたちの推移」。ここのところ急激にふえていることに対して
学校復帰強化対策が起こって、
子供たちは非常に
学校を
休みにくくなっているということが起こってきております。そのために、休めなかったり、登校を働きかけられた
子供たちの
自殺の
実態については、二のところの六で具体的に問題点を整理しております。
最後に、提言をしたいと思います。
いじめによる
子供の自死、
自殺を抑止するための方法として、不登校対策の見直しが必要です。
いじめられ、
学校での居場所を奪われ、自尊の感情をずたずたにされている
子供たちの命と尊厳を守るために、
学校を休む権利が保障されることを
子供たちに伝えてほしい。
それから二番目、
学校外で学び、成長する
機会、フリースクールやフリースペースなどを保障する。
三番目、
学校を休んだ
子供たちが不利益をこうむることがないように、
学校外で安心して学び成長できる条件を整え、
子供たちに知らせる。
四番目、
学校を休んだ
子供たちに対して働きかけるときは、くれぐれも慎重に、
子供の人権を尊重し、傷ついている命を数値
目標の
対象とはしない。
五番目、
子供たちと
保護者及び教職員に対して、
子供の持っている権利を正しく伝え、その権利が現実に使えるような
実態を
子供とともにつくる取り組みをする。
六番目、
日本の社会にある
いじめや不登校に対する誤解や偏見を取り除く
活動をする。
以上の提言をしたいと思います。(
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