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2006-04-06 第164回国会 参議院 法務委員会 第8号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十八年四月六日(木曜日)    午前十時開会     ─────────────    委員異動  四月五日     辞任         補欠選任      浜四津敏子君     荒木 清寛君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         弘友 和夫君     理 事                 荒井 正吾君                 谷川 秀善君                 簗瀬  進君                 木庭健太郎君     委 員                 青木 幹雄君                 山東 昭子君                 陣内 孝雄君                 関谷 勝嗣君                 南野知惠子君                 江田 五月君                 千葉 景子君                 前川 清成君                 松岡  徹君                 荒木 清寛君                 仁比 聡平君                 亀井 郁夫君    国務大臣        法務大臣     杉浦 正健君    副大臣        法務大臣    河野 太郎君    大臣政務官        法務大臣政務官  三ッ林隆志君    事務局側        常任委員会専門        員        田中 英明君    政府参考人        警察庁刑事局長  縄田  修君        警察庁交通局長  矢代 隆義君        法務省刑事局長  大林  宏君        法務省矯正局長  小貫 芳信君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○政府参考人出席要求に関する件 ○刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案(  内閣提出)     ─────────────
  2. 弘友和夫

    委員長弘友和夫君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。  昨日、浜四津敏子君が委員を辞任され、その補欠として荒木清寛君が選任されました。     ─────────────
  3. 弘友和夫

    委員長弘友和夫君) 政府参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案の審査のため、本日の委員会警察庁刑事局長縄田修君、警察庁交通局長矢代隆義君、法務省刑事局長大林宏君及び法務省矯正局長小貫芳信君を政府参考人として出席を求め、その説明を聴取することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 弘友和夫

    委員長弘友和夫君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  5. 弘友和夫

    委員長弘友和夫君) 刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案を議題といたします。  本案の趣旨説明は既に聴取しておりますので、これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  6. 荒井正吾

    荒井正吾君 自由民主党の荒井正吾でございます。刑法及び刑事訴訟法の質問をさせていただきます。  今回の改正は、窃盗罪公務執行妨害職務強要罪選択刑として五十万円以下の罰金刑新設する、あるいは業務上及び重過失致死傷罪罰金刑上限を五十万円から百万円へ引き上げることを主な内容とする刑法及び刑事訴訟法改正でございます。  罪刑法定主義と言われますように、刑罰規定国民代表機関であります我々が、代表しております国会が具体的に決定するということでございますが、立法府の我々は、どのような罪にどのような罰を科すべきかということについて専門的知見はないわけでございます。罪刑制定の基本的な考え方をどこかに法定されているかどうかお伺いしたんですが、そういう法定規定もないということでございます。今次改正案妥当性を判断する具体的な尺度が身近に見当たらないように思ったわけでございます。  まず、法案の審議に当たりまして、どういう罪にどういう罰を与えるかということについての法務省の基本的な思想考え方をお伺いしたいと思います。
  7. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) お答え申し上げます。  我が国においては罪刑法定主義がきちっと守られております。その法定刑を定めるに当たりましては、処罰の対象となるそれぞれの罪の罪責、その犯罪個人社会にもたらす被害、危険の内容程度、その犯罪動機として類型的に考えられる事由、その犯罪によって獲得される不当な利益の有無や大きさ、他の罪との均衡、背景となる社会経済事情等々、様々な観点から総合的な考慮がなされるべきものでございます。事案内容に応じ、犯罪抑止等目的を踏まえまして、適切な刑罰を科すことができるようなものでなければならないと考えております。
  8. 荒井正吾

    荒井正吾君 ありがとうございます。  これはいろんな尺度がたくさんありまして、どの尺を当てたらいいのかということは若干迷うものでございますが、今回は処理の量的な拡大でなかなか処理がかなわないというようなことが具体的な背景にあるようでございますので、その点については後ほどお伺いしたいと思います。  罪と罰の体系というのは日本外国とちょっと違うようにも感じるんですが、日本神道では罪汚れをはらうというふうに言うわけですが、罪は包む、身を包むという罪という言葉だそうでございます。神様から与えられたすばらしい体を包んで隠してしまうと。汚れ神様から与えられた気を枯らしてしまうと、気が枯れると。まあ気が枯れるということで、その結果、悪いことをするという、神様に背くことをすると。それを元に戻せば悪いことをしないと。元に戻すというのがはらうと、包みをはらうと、こういうのが神道の教え、奈良でございますといつもそういうことを聞いております。隠れみのになるのは人間我欲であると、我欲をはらうと。教育効果を信じている刑罰思想で、大変更生思想が勝ったような感じがするんで、人生、はらいの連続だと、こう教えられるわけでございますが、西欧の罪刑主義原罪思想があって、悔い改めるとか神に償うとか、その結果、生命、自由、財産を奪うというような厳罰思想が強いように思うんですが。  それをどのように近代刑法罪刑法定主義の中で調和するかというのは、心の中ではなかなか日本人の法律の決め方ってちょっと複雑に思うときが時々あるわけでございます。ただ、これは罪刑思想法定されてないということもございますし、まあ尺度がいろんなことを出されるということは、どれを適用していいか分からないけれども、どれか当たっているだろうというようなこともありますので、その尺度からはなかなか具体的な刑罰が決まらないような気がいたします。  ただ、具体的に刑罰体系の中で入れないと罪刑法定になりませんので、今回は罰金刑が中心、罰金刑法改正と言われるように罰金刑でございますが、これも調べてもらったんですが、刑法には何種類の罪がありますか、二百四十ぐらいあるんだそうでございます。死刑適用されるのは十二罪、無期懲役が十九罪、二十年以下は二十五罪、十五年以下が十四罪、十年以下が三十八罪、七年以下が十七罪、五年以下が三十二罪。一々犯しているともう人生幾つあっても足りないんですが、罰金選択刑があるのは二百四十のうち七十八罪なんだそうでございます。なお、懲役刑選択的刑罰として罰金刑新設するのは刑法始まって以来というか、初めての新設だというふうにお聞きいたしました。  ある面、ちょっと歴史的な改正のような気もするんですが、そうすると、いろんな事犯が多量になってきているとかいうことでありますが、刑罰体系の中での罰金刑の位置付けというのはこれまたちょっと分かんないことなんですが、そのことについてちょっとお考えを伺っておきたいと思います。
  9. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) 先生おっしゃられたとおり、罪刑法定主義を採用する、民主主義国家は大体そうしておりますけれども、その下においても、それぞれの国によって採用されている内容は、その国の独自の歴史、文化、宗教、そういったものの影響を色濃く受けておりまして、様々でございます。  我が国は明治以来、罪刑法定主義の下で幾多の変遷を経て今日に至っておるわけでございますが、現行法上、刑罰として定められているのは、死刑懲役無期有期禁錮、これは無期有期罰金拘留科料のほか、付加刑として没収がございます。これは刑法九条に定められております。  罰金刑は一万円以上の金額を剥奪する刑罰でございますが、刑法十五条で規定されております。現行法上、罰金刑は、死刑懲役禁錮よりも軽く、拘留及び科料よりは重い刑、ちょうど真ん中にある刑として定められてございます、刑法第十条一項でございますが。そして、その罰金刑の言渡しを受けた者がそれを完納できない場合には、その者を労役場に留置することとされております。刑法十八条でございます。
  10. 荒井正吾

    荒井正吾君 体系的なことから考えて今回はどうかという、なかなかアプローチが難しいように感じました。しかし、法定の具体的な必要性を確認しとかなきゃいけないというふうに思うわけでございます。  今回の改正において、窃盗罪公務執行妨害職務強要罪罰金刑新設あるいは加重する具体的な必要性ということをもう少し御説明願いたいと思います。  お聞きしますと、窃盗なんかでは罪が公判で決まるまでに、そうならない、万引きなんかが事例が多いということで、店舗でもう釈明すりゃそれでいいとか、刑事訴訟法二百四十六条の微罪処分で、警察でもうするなよと言って帰してもらって済むとか、あるいは検察に送致して、しかし自由剥奪刑しかないので起訴猶予にするとか、あるいは場合によっちゃ公判請求に行くとか、この分かれ道があるようでございます。  選択的罰金刑を導入すると、起訴猶予公判請求かの分かれ道罰金刑が入ってくるというふうに理解されるわけでございますが、刑罰適用実情を反映してこういう罰金刑新設されるようにも思うわけですが、罰金刑選択的な罰金刑新設の具体的な必要性を御説明願いたいと思います。
  11. 大林宏

    政府参考人大林宏君) お答え申し上げます。  今回の改正は、公務執行妨害罪職務強要罪窃盗罪について罰金刑新設するものでございます。  まず、公務執行妨害罪とは、暴行又は脅迫により公務員の円滑な公務を阻害する犯罪であり、その影響我が国社会に広く及び得ることなどから、一般違法性が高いと考えられておりますが、近年、この罪に係る検挙件数が急増をするにつれ、例えば酔余あるいは感情の行き違い等から警察官に暴行を加えたものの、すぐに制圧、検挙されるといった比較的影響の大きくない事案も見られるようになりました。  また、窃盗罪につきましては、その利欲犯的性格考えるとその責任を看過することはできないものの、例えば万引き事犯等については、その犯罪類型としての特質や偶発的に行われる場合が少なくないことなどから、被害金額が少額にとどまり、かつ速やかに被害回復がなされるといった類型事案が存在するところでございます。  このような事案の中には、一方で、相応の刑罰を科し、刑罰が有する一般予防及び特別予防効果により同種事犯の再発を防止する必要があると考えられるものの、他方では、法定刑自由刑に限られていることから、現実には起訴をすべきか否かの判断に困難を伴うものが少なくありません。さらに、窃盗罪については、交通事犯に係る業務過失致死傷罪を除く全刑法犯認知件数の約八〇%を占めていることに照らすと、その事案に対応した適正な処分科刑を実現することは、我が国犯罪情勢市民生活の安全に与える影響が極めて大きいという意味で重要であると考えられます。  そこで、事案に対応した適正な処分科刑を実現する観点から、公務執行妨害罪とその補充的な犯罪である職務強要罪、さらに窃盗罪について、選択刑として罰金刑新設し、刑の選択の幅を拡大することとしたものでございます。
  12. 荒井正吾

    荒井正吾君 具体的な事情を聞きますと、結局、万引きのため、酔っぱらいのため、交通事故のためにこの刑罰罰金刑新設加重するというようにも聞こえるわけでございますが、そういうものは刑法犯罪として規定しておりますので、検察の方ではそのように扱わないかぬ。  ところが、万引き窃盗、酔っぱらい、例えば公務執行妨害になっても、ある面、対応する人が民間人であったり民営化された後の職員であったりしますと、みなし公務員だと思って突っ掛かったら公務員じゃなくて、あの、もう私、民営化になっていますから、あなた、公務執行妨害じゃありませんと、こういうことにもなったりして、その現場がこの刑法規定している実情現場実情がちょっとずつ変わってきているというような気もするんですが。  大量生産されるこういう軽微犯罪ということにつきまして、それがどんどん検察に来るというのは、処理に今困っておられるというようには分かりますが、社会実情に合わせて、刑法で受けるのか他のやり方で受けるのか、訴訟ではADRということの道を付けられましたが、こういうところの、ADRというのかその別途の仕掛けというのを、これだけ大量に生産されるものであれば何か考えないかぬのじゃないかなというちょっと思いはいたしたんですが、今回提案されたのは罰金新設という法案でございますので、そこまで立ち入っていろいろ議論するということもいかがかと思ったんですが、実情を伺うとそのような考えも浮かびました。  そういう観点で、今回の改正案動機になりましたのが、平成三年と十六年の衆参法務委員会附帯決議がきっかけということでございます。十六年の参議院附帯決議では、財産犯全体の罰則在り方を視野に入れつつ、強盗等の盗犯に係る罰則について更に検討してくださいということで、それを受けて改正されたということでございますが、今のような全体のマクロ動向を見て、刑法であるいは刑法処分で受けること、その他の受けること、他の財産犯への罰金刑選択適用の全体の検討ということを考えられますと、今次改正でそのような検討がもう尽きているのか、更なる検討が、検討対象あるいは検討項目が存在するような影も見えるんですが、今後の検討在り方ということはどのように考えておられるんでしょうか。
  13. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 今の御指摘附帯決議におきましては、財産犯全体の罰則在り方という問題が取り上げられております。  今回、窃盗罪について罰金刑新設することにいたしましたが、それ以外の財産犯につきましては、例えば横領罪の場合は目的物所有権のほか委託信任関係侵害も見られるということ、詐欺罪では欺罔という相手方を錯誤に陥らせる行為を要件としているということで、財産権侵害にとどまらず別個に保護すべき利益侵害等を伴うことなどから、もちろん当罰性はあるんでございますけれども自由刑では酷に失すると評価すべき類型的な事案は今のところ見いだし難いと、罰金刑新設するまでの刑の選択の幅を拡大する必要性があるとは認められないということで、今回、財産刑については窃盗罪のみについて罰金刑を付けることにいたしましたが、ただ、当委員会附帯決議もございますし、検討することを求められているところでございますので、今後引き続いて、他の罪に罰金刑を付けることが妥当かどうかということは更に検討させていただきたいと、このように考えております。
  14. 荒井正吾

    荒井正吾君 いろんな罪の類型が、新しい罪が出てくるというのと、それと旧来の刑法の一条に入っていたのが、非常に一つ類型多発するとかという犯罪発生動向、構造、メカニズムというのは、これは適用をされる役目のお役所ですけれども、それはどうなっているのか。それを事後監視社会という中でどのように受ければいいのか、その受けた結果が発生を抑止するメカニズムに転化するのはどうすればいいか。  法務大臣再犯防止研究諮問機関でされると、副大臣でございましたか、されるということですが、マクロ的に、いろんなほかの犯罪類型マクロから見た再犯防止と再発生防止という研究もこういう大量に発生する犯罪には要ると思うんですけれども、その点についての、研究してほしいと思うんですけれども、御所見をもう一度お伺いしたいと思います。
  15. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 先ほど委員から御指摘になりましたように、例えば公務執行妨害の場合の公務というものについて、相手が公務員かどうかと。確かに今、民営化の問題がありまして、公務員、いわゆる公務性民間に移動していくと。ですから、その対象範囲も異なっていくところもあります。  それから、近時いろんな、特に、経済罰則関係において特に見直しをするようにという国会先生方あるいは国民の方からの要求もございます。罰則適用は私どもですることになりますので、それについて私どもも御相談を受けているところでございます。  やはり、冒頭大臣が申し上げたとおり、やはり時代に沿った刑罰適用というのは非常に大事なことであると考えております。今回は刑法を主体としておりますけれども、今後の罰則在り方についてはやはり多角的な面から、あるいはいろいろな方々の意見を聞きながらやっぱり直していかなきゃならない問題だと、重大な問題だというふうに認識しておりますので、御指摘も踏まえて真剣に検討していきたいと、このように考えております。
  16. 荒井正吾

    荒井正吾君 経済罰則は今回の法改正議論対象じゃないんですが、グローバル化が進むといろんな罪の犯し方が増える。しかし、何を罪にするかというのはまだ議論の途中の状況であることも多いわけでございます。  そのときに、最近の傾向ですと、アメリカの傾向を踏まえて日本罰則新設、強化すると。ところが、一方ヨーロッパじゃそこまで行ってないとか違う考えだというようなこともあるわけでございます。その点を日本はどういうふうにするか。グローバル化が進むけれども、その経済犯罰則をどうするかというのは一つ悩みかもしれませんが、これ法務省一つの大きな、民事、刑事、まあ経済犯ですので罰則を与えるのは刑事ですけれども伝統的刑法対象じゃないように思いますので、その研究も、今回の法律案とは関係ございませんが、いろんな評価があるところでございますので、広く弾力的な御検討をしていただきたいというふうに思います。  次に、もう一つ業務上又は重過失致死傷罪罰金刑上限が引き上げられるということにつきまして、具体的な必要性を伺っておきたいと思います。  生命、身体の自由、財産を奪われる側からすれば、世の中が富んでくると個人財産保有額は多くなってくるので、自由な時間を奪われる方が身にこたえると。人間の時間というのは割と限られておりますが、財産というのは割と差が出て限りがないという面、その償う方の痛みからすると、その痛みの量といいますか、変わってきているように思うんですが。そうすると、罰金刑がどの程度であれば罰を与えたということになるかという量的なこともあるわけでございますけれども罰金刑全体、七十八か八十ぐらいあるようですが、最高でも二百五十万円、あと百万円、五十万、三十万と、こうなるんですが、どちらかというとお金持ちにとっては名目的な額ということになるわけでございますけれども。  今回の業務上・重過失致死傷罪上限、特に交通事犯を念頭に置いてこういう選択加重をするという、選択刑加重をするということでございますが、これはもう罰金刑全体を見渡しての改正じゃなしに実情に反映した改正と、まあ先ほどの改正もそうですけれども、見受けられるんですが、その業務上及び重過失致死傷罪罰金上限引上げの具体的な必要性について、もう一度伺っておきたいと思います。
  17. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 業務過失致死傷罪のうち、とりわけ致死罪に係る近時の科刑状況におきましては、法定刑罰金刑上限が五十万円でございますが、この上限が科される割合が増加しておりまして四割を超えているという現状にございます。そして、業務過失致死傷罪の大部分を占める交通事犯に係る検挙件数が年間八十万件を優に超えている現状に照らしますと、これに対する適正な科刑の成否が我が国市民生活に与える影響が極めて大きいと考えられます。  そこで、業務過失致死傷罪及びこれと同様過失致死傷罪加重類型とされている重過失致死傷罪について、罰金刑相当事例の中で事案に応じてより適正な科刑の実現が図られるよう、今回の法改正では選択刑としての罰金刑上限を五十万円から百万円に引き上げ、罰金刑を科すことができる範囲を広げるものでございます。
  18. 荒井正吾

    荒井正吾君 特に、重過失致死罪について交通事故が大きな原因を占めるというふうにお伺いいたしましたが、例えば八十万件あると、ところが、事故件数は全体二百万件を超えるぐらいあるわけですね。それで、死者が大体、最近減って七千人ということでございます。大量に発生する、刑法の立場からいえば刑法犯罪ということになるんですが、その刑罰適用、これ交通事故というのは、私、万国共通になってきておりますが、刑罰の役割あるいは適用の仕方をもう少し調べるとちょっと違うように思うんですが。  外国では、その原因調査優先犯罪捜査優先かということがありますが、明らかに外国原因調査優先日本はどちらかというと犯罪捜査優先と言われております。何が原因かということを調べるよりも、だれが悪いのかと調べるのが現場では優先してきたというふうに思います。  交通事故凶器型と棺おけ型があるとか。凶器型で他人に加害するのはこれ犯罪性がかなり高いように思いますが、自分も死ぬ可能性のある棺おけ型でありますと、自分も死んでしまうと死人に口なしなので、事故原因が分からないままである。そうしますと、犯罪として送検されてくると、過失認定死人に対して、あるいは本人に対して重くなる傾向外国に比べてあると言われております。  原因が分かれば、例えば事故多発地点という看板が以前よくありましたが、多発する地点、確かにあるんですが、それは例えば交通信号が見えにくい、右折信号が見えにくい。すると、そこで事故が幾つも起こると。すると、警察事故多発地点という看板を掛けていたわけですね。そんな看板掛けて何を注意喚起するんだと、事故多発する原因が分かればそれを除去すればいいじゃないかということを警察と掛け合って、事故多発地点という看板はもう恥ずかしいからやめたらどうかと言ったら、だんだんやめて、なくなってきたんです。それは、多発事故原因を究明するというふうに姿勢を変換してもらった。  で、事故が起こったときに、いや、あれは信号が見えにくかったから起こったと死人は言えないわけですね。周りの遺族は言っても伝わらない、まして裁判の公判に行ったらそういう認定ができない、したがって過失認定が過重になると、こういうメカニズムがあったわけです。信号が見えにくいというのは知らないままに直すことが多いわけでございますが、もし信号在り方過失認定が行けば、そちらの方の、まあ国家賠償になったりしてなかなか日本は難しい。しかし、そういうことは、罰と別に原因究明をするという思想が勝てば、その地点での事故は、同種事故発生しないという立派な成果が得られるわけです。  過失認定を何件してもやはり事故を起こす人がいると。これ、原因究明優先かどうかというのは大きな法の適用の仕方になるんですが、これ医学基礎医学と同じように、いい薬を発明すれば千万人の命を救えるけれども手術だと一人一人しか救えないというのと同じようなことがあるんで、刑罰限界といいますか、マクロ発生する事犯に対して、注意は促せるけれども原因除去というのには刑罰限界があるんじゃないかなというふうに感じるところがございます。  今後の交通事故ということになると、それは警察と他省庁と関係するんですが、交通事故類型をもう少し研究して、調査と捜査のバランスを取るとか、事故に起こる過失認定類型傾向、これは裁判官の判断によられるわけですが、裁判官もその部分の知見が積み上がるわけじゃありませんので、その処罰の在り方、あるいはそれを事故防止に役立てる犯罪後の処理の仕方ということをもう少し総合的に他省庁と一緒に検討してもらえないかという気持ちなんですが、刑法は個別処理ですが、マクロ発生、多量に発生するこの刑法犯再犯防止、再発防止のシステムを是非研究していただきたいと、特に交通事故その他について研究していただきたいというふうに思うんですが、その点について御所見を伺いたいと思います。
  19. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 委員がおっしゃられるように、例えば米国なんかは、過失犯については原因調査の方に重点を置くというようなお話も伺っているところでございます。  今、過失犯というのが特に最近問題となっておりまして、交通関係、特に例えば飛行機の問題、列車の問題、さらには最近は医療過誤の問題、過失犯の認定というのは非常に難しくなっておりまして、それとともに、その原因追求、再発防止に重点を置くべきではないかという御意見も伺っているところでございます。  私どもとしても、そういう御意見を参考にしながら、この問題については検討させていただきたいと思っております。
  20. 荒井正吾

    荒井正吾君 終わります。ありがとうございました。
  21. 松岡徹

    ○松岡徹君 民主党の松岡徹でございます。  杉浦大臣になられてから初めての質問をさせていただきます。荒井先生のように格調高く入れませんが、率直に今回提案されています法案について御質問をさせていただきたいというふうに思っております。  今回の法改正の部分でありますが、まあ近いのでは、先ほどもありましたように平成三年の法務委員会での附帯決議、すなわちまあ法務委員会で様々議論がありました、財産犯について選択刑を導入すべきであるということを附帯決議として挙げられております。その後、十六年の附帯決議、そして大臣諮問の、第七十五号の諮問というふうになっていっているわけでありますが、最初の平成三年から見ますと、もう実に十五年期間を経ております。えらい長いこと時間が掛かったなというふうな気がするんですが、これだけ時間が掛かった理由というものはどんなものがあるんですか、お聞かせ願いたいと思います。
  22. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) 先生御指摘のとおり、平成三年の当委員会における附帯決議以降長い年月が経過して、いろんな経過がございました。まあ当局にこの点、詳細を説明させたいと思います。
  23. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 恐れ入ります。  ちょっと詳細にわたりますけれども、ゆっくりでよろしゅうございますか。  御指摘のとおり、平成三年の当委員会における附帯決議で、財産犯公務執行妨害罪等に関し、選択刑として罰金刑を導入することについて検討を求められたところであり、法務省におきましては、その後も、平成五年までに開催した法制審議会の審議等も踏まえ検討を継続してまいりました。ところが、この平成三年ないし五年ころにおきましては、公務執行妨害罪や成人による万引き事犯検挙件数が昭和四十年代後半以降ほぼ最低水準にあったのが、その後これらがいずれも急増傾向に転じました。  数値を具体的に申し上げますと、成人による万引き事犯検挙件数平成四年に三万三百三十九人と、連続的な統計が得られます昭和四十七年以降最低の数値を示しておりましたが、平成七年には四万五百八人となり、更に十年後の平成十六年には七万七千三百六十人となっております。  また、公務執行妨害罪検挙件数平成五年に九百三十四人と、同様に昭和四十七年以降最低数値を示していたものが、平成七年には千百二十九人となり、平成十六年には二千八百五十三人となっており、またこのうち警察官に対するものについて見ますと、平成五年には八百四十五人、平成七年には千四十四人、平成十六年には二千五百四十三人となっております。  このように、ここ十年を取ってみても、公務執行妨害罪窃盗罪、特に成人による万引き事犯検挙件数が急増しておりますところ、この中には国民の日常生活の安全等の観点から再犯防止の要請が高い一方で、犯行が偶発的であるなど比較的軽い類型事案も見られ、自由刑を求めて起訴すべきか否かの判断に困難を生ずる事案も急増するとともに、特に万引き事犯への歯止めを求める声も高まっております。さらに、平成十六年にも衆参両議院の各法務委員会附帯決議がなされ、盗犯に罰金刑選択刑として導入することなどについて、政府として格段の配慮をすべきであるとされました。  以上の事情から、今般、公務執行妨害罪窃盗罪などについて早急に罰金刑を導入すべきとの判断に至ったものでございます。
  24. 松岡徹

    ○松岡徹君 事前にもいろいろと聞かせていただきまして、そこで今回の改正法案の提案理由で、大臣が主なところで、今もありましたように、犯罪の増加、近年犯罪が増加しているということを言われました。そしてもう一つは、最近の国民意識に照らしてというふうにあります。  大臣にお聞きしたいんですが、この国民意識というものをどういうふうに今大臣はとらえられておるのか、お聞かせ願いたいと思うんですが。
  25. 河野太郎

    ○副大臣(河野太郎君) 近年、特に交通事犯に対する国民の目が非常に厳しくなっております。これをとにかく減らすために罰則の整備を求める声が高まってきておりまして、刑法における危険運転致死傷罪の新設、あるいは道路交通法違反に対する罰則の引上げなどを行ってまいりました。  業務過失致死傷罪罰金刑につきましては、交通事故被害者の方々あるいは御家族の皆様から、重大事故懲役禁錮刑になるとはいえ、人の命が奪われて罰金上限が五十万円では余りに軽過ぎるのではないか、そういう上限引上げの御要望をいただいております。また、現に、業務上又は重過失致死罪罰金刑が相当とされた事案で、罰金刑上限額である五十万円が科される割合が四割を超えておりまして、もう上限に張り付いているということを考えますと、この上限額を二倍の最低限百万円に引き上げるということは国民の意識に合致するものと考えております。
  26. 松岡徹

    ○松岡徹君 その提案理由の中にそう言われてます。それだけ聞くと、要するに厳罰化といいますかね、重罰化というものを望む声にこたえるような提案理由としか聞こえないんですね。  先ほどもあったように、様々この間議論されてきたことがたくさんあると思うんですが、その中で、もう一つの提案理由の中にある、起訴するかどうか判断に困難を伴う事案もあるということもあります。そういう意味ではそれは窃盗罪のところでもあると思うんですが、私はその辺のところを中心にして聞きたいんですが、今回の改正によってどのような効果というものが期待されるのか。私は、単に重罰化をすることによって、これらの犯罪が減るのか、あるいは再発防止につながるのかという、こういう視点がしっかりと議論されていなければ、単なる、国民意識は、重罰化を望んでいる国民意識にこたえるというための改正だけになってしまうんではないかというふうに思うんですね。  そもそも、先ほどあったように、こういった犯罪が起こらないように抑止し、防止し、そして再犯を防ぐような、そういったものにつながっていくこと、そういう理念がしっかりと入っていなかったら駄目だと思うんですね。そういう意味で、今回の法改正によってどのような効果というものを見通しされているのか。
  27. 河野太郎

    ○副大臣(河野太郎君) 検察官は捜査を経た上で公訴を提起するか否かの判断を行うことになっておりますが、現行法上、窃盗罪あるいは公務執行妨害罪というのは懲役又は禁錮しか認められておりません。一、二回の万引きの前歴があった方が、数百円、数千円のものをもう一度万引きをした場合、こういう場合にどうするのか。あるいは、公務執行妨害ではありますが、若干酔っ払っていたとか、あるいは早く帰りたいのに職務質問が長かったといって公務執行妨害罪を構成するような事案を形成した場合に、今はもう懲役又は禁錮しかないわけでございますから、検察官の方も公訴を提起するかどうか非常にちゅうちょをする、起訴猶予になってしまう件数が多いわけでございます。  そういうことになりますと、万引きをしても起訴されない、見逃してもらった、じゃ、いいではないかということになってしまうと、抑止力が働かなくなります。今回のように罰金刑を導入することになれば、検察官も罰金刑ということで公訴を提起することができるわけでございますから、今までのように自由刑かあるいは起訴猶予かということではなくて、その間の罰金刑を科せられるということであるならばしっかりと公訴を提起をする。そういうことによって、例えば窃盗罪であっても、軽い窃盗罪であってもしっかり罰せられるということは、やはり犯罪を抑止するという効果はあるというふうに考えております。
  28. 松岡徹

    ○松岡徹君 先ほどもありましたけれども窃盗の場合、要するに起訴するか否かの判断に困難を伴うという理由があるように、現場のところでは、様々な窃盗事案のところでは、起訴猶予あるいは不起訴にするというような事案がたくさんあるというふうに思うんですね。  その件数はどれぐらいかというのをいったってなかなかつかみにくいというふうに思うんですが、そのときにこの選択制の罰金刑を導入すると、当然今まで起訴猶予あるいは不起訴にしてきたものが罰金刑として成立していくということが、確かに一方で抑止にという部分もありますけれども、私たちは再犯防止というのをいいますと、例えば自立更生を促していくとか、それこそ現場検察官の人たちは、窃盗事案に出くわしたときにこれは起訴をするべきかしないかという判断するときに、やっぱりその人の状況をずっと見極めて、いやむしろ不起訴に、起訴しない方がいいだろうという判断は、その人が自立していく、あるいは再犯はしないだろうと、こういう判断が働いていると思うんですね。  今回、それがこの選択刑を導入することによってどういう形で機能していくのかというのが非常に不明なんです。私は、そういう意味では、今までのものが、そういった理念といいますか考え方が今回の法改正でなくなっていくんではないかというおそれを感じます。それぞれの犯罪事案は様々いろいろな状況がありますので、その辺を是非とも考えていく必要があるんではないかと思います。  その中で、特に私は再犯防止ということを考えますと、お聞かせ願いたいんですが、例えば資格制限というのが各法律のところによってありますね。例えば交通事案でも免許停止あるいは免許取消しという様々な資格のやつがあります。それ以外で、再犯をさせないというのは、正に自立させていく、更生させていくということへ導いていくことが大事なんですね。その資格制限というものが具体的にこれまでのところで、身体刑のみであったためにこのままいけば資格制限がきつくなるということで、この事案の場合ちょっと一ランク下ろしてとか、そういう資格制限に配慮をするというような判断はこれまであったのかなかったのか、お聞かせ願います。
  29. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) これは、個々の事件に対応する検察官等が事案に、それぞれ即して判断しているかと思うんですが、一般論として言うと、それはないと思います、そういう配慮は。これをやったら、刑罰刑罰ということでやっておられると私は承知しております。  最近、私のところへ個別恩赦が随分来るんです、大臣決裁で。一番多いのは復権ですね。医師の国家試験受かったけれども、あれ罰金刑を受けていると医師になれないんですね。それで恩赦してほしいという。結構あるんです。若いものですから、まあ反則切符で済まなくて罰金になったという人たちですね。これは、そういう人たちは個別恩赦の道が開かれておりまして、医師の場合、医師試験通って医師になる障害になるということですと大体個別恩赦が認めているように感じます。これは刑事政策上取られるべき配慮であって、そういう道もございます。復権、恩赦等々ございますので、それはそれとして有効に機能しておると思うんです。  ですから、刑罰刑罰として、もちろんその刑罰を科された者が果たした後に円滑に社会復帰できるよう配慮することも刑事政策上当然のことで、その道は開かれておると思いますので、私は、ここで罰金範囲を拡大したということによってそういう方々の社会復帰の道がふさがれるということはないと思います。例えば医師になるにしても、故意犯に近い飲酒運転なんかで懲役刑を受けたというような人はなれませんからなかなか恩赦も厳しくなる。これは当然であって、もちろん医師として社会復帰するということも大切なことではありますが、それは個別恩赦の手続上で、中央更生審査会ですか、そちらの方で検討された上で出されればよいと思っております。
  30. 松岡徹

    ○松岡徹君 今大臣おっしゃったように、故意犯とかそういうのは当然だと思うんですよ。だけど、まあ要するに、今までのところで起訴するか否かの判断に困るとか、あるいは実際、今大臣おっしゃったように、資格制限にかかわるところにまで行くか行かないかというところでいろんな担当の検察官の人たちの判断が働いてきたことは事実だと思うんですね。そういう意味では、私は何も故意犯だとか、まあまあ犯罪もたくさんありますから、すべての罪は罪としてしっかりと裁くべきだとはいうふうに思いますが、自立更生、すなわち再犯防止という、あるいは抑止していくとかそういった観点の中に、自立更生ができるような環境づくりに阻害のないようにそういった判断ができるのかどうかという、それは是非とも検討していく課題だというふうに思うんですね。それを明記するかどうかは別にしまして、そういう課題をしっかりと検討をしていただきたいと思うんです。  それと、この法改正による効果のところでもう一つ、今まで、この法改正によってどうなるのかということでありますが、刑務所が過剰収容の状況になっています。もし、今の刑務所の収容、全体の収容者の中でこの改正法改正対象に当たる人たちはどれぐらいになるのかということを事前に聞きましたら、例えば平成十二年でしたら、新規も入れまして、平成十二年で一万三千三百七人というふうに聞いています。平成十六年で新規収容者が九千五百九十五人で、継続も入れますと一万七千七百十九人というふうに聞いているんです。  例えばこれが、すべてとは言いませんが、選択刑を導入すると過剰収容が解消されていくというふうに思われるんですが、いかがですか、効果としては。
  31. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) 今回の改正におきましては、比較的軽い類型公務執行妨害罪及び窃盗罪等につきまして、罰金刑新設によって相応の処罰を可能にするものでございますけれども、その一方で、これまで個別の事案において検察官が、あるいは裁判官が自由刑相当としていた判断に影響を与えるものではないと基本的に考えております。不起訴にしていたところで罰金で警告するというものだと思っておりますので、したがって、今回の改正が刑務所に収容される人員数には直ちに直接影響することはないんじゃないかと思っております。  しかし、一方で、今回の改正によって一定の犯罪の再発や常習化の防止等の効果、まあ規範意識に影響を与えますから抑止力になるということもございますが、その結果として、犯罪の再発や常習化の防止等の効果が上がるということが期待されますので、その結果として刑務所収容人員が減少するということは期待できるのではないかというふうに思っております。
  32. 松岡徹

    ○松岡徹君 規範意識とか抑止の力が働いて、結果的には過剰収容の解消の一助になるんではないかとおっしゃっていましたけども、決してそれだけではなくて、今まで、実情を見れば、こういう罰金刑がなかったんですから身体刑として収容されているという事実もあるわけですから、当然のようにそこにも、結果として、何もそれをもくろんで今回の法改正をやったわけではないというのは重々分かっておりますので、そういう結果になるというのは別に悪くはないというふうに私も思っています。  そこで、罰金刑を導入した場合、先ほど、上限額とかそれぞれありますけども、引上げとか新設があります。その額の妥当性なんですね。五十万が妥当なのかどうか、百万に引き上げることが妥当なのかどうかということについても、我々自身は大きな問題はないというふうに思うんですが、その辺はちょっと、そういうふうに思いますが、問題は、罰金を払えない者が増えるんではないかというふうな気がするんですが、その辺はどういうふうに見込まれています。
  33. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) ちょっと最後のところが……
  34. 松岡徹

    ○松岡徹君 要するに、罰金刑新設する、あるいは上限額を引き上げる、そうすると罰金を払えない者が増えるんではないかというふうに思うんですが、どう思われますか。
  35. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) そういうケースも額を上げますと出てくると思います。今までも相当ございまして、何でしたら当局に報告させますが、労役場留置ということで、裁判所の言渡しに従って留置されている者は結構おります。
  36. 松岡徹

    ○松岡徹君 ちょっと時間の関係で早く言ってしまいましたけれども、要するに、罰金刑をやると要するに払えない者が増えてくる。その払えない理由も様々あると思うんですね、怠慢とかわざと払わないとか逃げ得をしようとか、様々あると思います。しかし、実際に経済的事由で払えない人たちもおることも事実であります。この額を一体だれが決めるのかというのは、当然そういう問題ありますし、その額の言渡しをするときの根拠は当然のようにそれぞれいろいろあると思うんですが、私は、この罰金刑をやると増えてくる、そうすると労役場留置の措置が増えてくるんではないかというふうに思います。  労役場留置の現状を事前にお聞きしました。この間、平成七年からのデータでありますけれども平成七年の一年間で労役場留置の措置を受けている人が二千六人、平成八年で千九百六十八人、ずっと行きますと、平成十六年で七千三百五十五人とずっと増えていっているんですね。なぜこんなに増えているのかというのが気になります。  その上で、今回の罰金刑を、選択刑を導入すると増えるという憶測というのは当然出てくると思うんですね。当然、労役場留置ということになってくるんではないかと思うんですが、労役場留置の場合、現状をちょっと私もいろいろ聞きましたけれども、これは非常に古い制度なんですが、罰金刑というのは、労役場留置に入る場合は、元々罰金刑の代替の制度なんですね。私たちは、お金がない、わざと払わないというのは別に、経済的に非常に苦しいという場合、お金のある人は金払って労役を免れると、お金のない人はそれで労役場、すなわち自由を奪われて労役場留置になると。これは、非常に不平等といいますか不自然だというふうに思うんですね。  払えないのは確かに問題です。そういう意味では、そのことについて大臣はどうお考えになるのか。私は財産刑の代替としての制度そのものの在り方というものを検討すべきではないかというふうに思うんですが、併せてちょっと大臣考え方をお聞かせ願いたいと思いますが。
  37. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) 私も、今度、窃盗罪罰金刑導入することによって労役場留置が増えるんじゃないかということを心配しております。  これは、窃盗罪というのは、最近はお金持ちの人が万引きするケースもあるようですが、貧しい時代は生活に困って貧しい人たちが盗むということだったんですね。ですから、罰金といっても納められないと、おおむね。そういうことを前提にして自由刑だけにしたという事情が立法時にはあるようでございますが、最近は事情が変わってまいりました。ですから、お金にゆとりのある人が罰金刑を受けた場合には払えるでしょうが、しかし、生活に困って窃盗する人もおりますので、そういう人たちは納められない。したがって、労役場留置になるというケースは、推測ですけれども増えるんじゃないかというふうに思っております。  その辺りは個々のケースに応じて裁判官が判断をして罰金刑金額にしても言い渡すことになる余地は十分あると思いますが、先生がおっしゃられた罰金刑在り方について、根本的に、例えば延納、分納の申立てを権利として認めたらどうかとか、そんなことをおっしゃる方もあるわけですが、本来は罰金刑は裁判に従って直ちに一括して払うべきものとして決められておるものでありますが、そういう考え方はちょっといかがかと思いますし、現行法の下でも、現実には検察官が、裁量と申しますか、当面これだけしかございませんといって一部を受け取って、後は持っていらっしゃいと、持ってこれなければ労役場留置ですよということで実質上分納を認めておる実情がございますから、法律上どう手当てするかと、実益に乏しいということも言えるわけでございます。  労役場留置そのものを納められない場合に認めないとすれば、罰金を納めない人を未納部分についてどうするかという問題が生じます。納める人が、正直者がばかを見るというようなことがあってはなりませんし、この労役場留置の制度は、罰金という制度がある以上、これは除くわけにいかない制度だというふうに思います。長い間、明治以来続いている制度でございます。
  38. 松岡徹

    ○松岡徹君 ちょっと質問の仕方がややこしかったと思いますが、今あったように現状はやっぱり社会の変化があったと。この立法趣旨からすれば、大体窃盗をする、人のものを盗むという犯罪は、大体盗む人は、犯罪を犯す人はお金を持っていない人が多いと。そこに罰金というのは、大体ない者に罰金したって無理だろうというふうな趣旨がある。これは、要するに監獄法のときからですので、もう明治の時代からの趣旨なんですが。  ただ、今の社会情勢の変化もありまして、金の、財力の差によって自由を奪われるか奪われないかということについては、やっぱりこれは不平等という議論が当然あったと思うんですね。私もそう思います。  今回の選択刑を導入するということは、当然のように、大臣もおっしゃったように、労役場留置の措置者が増えるんではないかというおそれもあります。それが本当に罪を犯した者に対する罰としての効果を期待できるのかどうか。やっぱり、今日的にこの制度そのものも、労役場留置という制度そのものも検討する必要があるんではないかと思うんですね。  もう時間もありませんから細かなことは聞きませんが、例えば罰金刑になったときに、労役場留置になったときに一日換算何ぼというふうに決めるんですね、裁判長が。一体、その差も一日大体五千円から一万円というぐらいの差があるというふうに聞いています。なぜこんなに差があるのか、どんな根拠でやるのかというのが全く見えないんですね。  そして、この制度の中に、労役場留置の制度の中には、労役場というのはどこにあるのかといえば、刑務所と留置場に付設するということになっています。刑務所とはしっかりと分けることと言っています。過剰収容の現状の中では今どうなっているんだというふうに聞けば、やはり刑務所の中の一部を労役場として認めて、そこでやってもらっていると。  そこで、労役の内容は何かといえば、結局、被収容者と同じ、懲役者と同じことはできませんから別にすると。別にするというと、労役留置を受けている人はどんな労役の場所でやっているんだといったら、独居房で一人でやっていると。その日の一日の日当換算、それこそ一日が五千円から一万円の差がありますから、非常にこの労役場の労役、要するにお金を払えない者はやっぱりどういうふうにその罪を償っていくのか。例えば先ほど言ったように、分納とか延納とかいう方法はないのかどうかということもやっぱり考えていく必要があると思うんですね。  あるいは、労役場の施設も刑務所に付設するではなくて、別途、労役場というものをしっかりと新設していくというふうなことも含めてその制度の在り方検討できないのかというふうに思うんですが、大臣いかがですか。
  39. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) 様々な御意見はおありのところと思います。  労役場は、刑務所や拘置所に附属して設置されているところでございます。現実には、懲役禁錮受刑者や未決拘禁者と収容する房や作業場所についても区分しております。  御指摘のように、全く別の場所に設置することについては、今後の全国的あるいは地域的な労役場留置件数の動向もございますが、全国で発生いたしますので、津々浦々にこの点についてのコストの問題あるいは国民一般の皆さんの理解など、様々な観点から慎重に検討しなきゃいけないと思います。  で、刑法においては、その労役場留置については罰金等の言渡しをするときにはその言渡しとともに労役場留置の期間を定めて言い渡さなければならない、これ刑法十八条四項ですが、その期間の決定を裁判官にゆだねております。これを立法論としてもう少しきちっとするとかいう議論はあり得ると思いますが、それで、現実には労役場留置の期間については一日当たりの換算額で定めるという実務が定着いたしております。最高裁の判例によりますと、その換算額は裁判官が自由裁量をもって定めることとされておりますことから、現実にはこの判例に沿って個々の事案ごとに裁判官が判断しているものと認識をいたしております。  ただ、これが適切かどうかと、金額が大きくなると労役場留置が長くなるじゃないかと、懲役禁錮と変わらなくなるじゃないかというような御議論はあり得ると思います。罰金額の言渡しについては、これは最終的には裁判所がお決めになることなんですが、そういう個々の事情を十分勘案されて、最終的に個々の事案に応じてお決めになるところだと思いますが、立法者のお立場で様々な議論はあり得ると思います。あり得ると思います。事態の推移、改正後、労役場留置の人数、中身の推移を踏まえて様々な角度から将来検討されるべき問題だと、私としては思っております。
  40. 松岡徹

    ○松岡徹君 それで、やっぱり今大臣もおっしゃったように、なかなか今の現状労役場留置という状況がだんだん合わなくなってきているんではないかというふうに思うんですね。先ほど言いました幾つかの点はその根拠になると思うんですが、大体罰金刑を受けている者がお金を払えないために労役留置という措置、現状としては場所は刑務所でいきますよね。結局、懲役みたいな感じ、印象ですよ、印象を受けるんですね。懲役の人たちと同じような印象になってしまうということで、やっぱりこれは印象も余り良くない。だからこそ、この際、区分するというふうに言っていますけれども、もっとはっきりとそういった印象が持たれないような状況をどうつくっていくのかということも大事になってくるんではないかと思うんですね。  それと、労役場留置というのは正に、もう一つ、諸外国でもいろいろ検討されていますけれども社会奉仕命令というのがあります。これはいきなりできるかどうかまあありますが、そういう意味では刑務所で労役場留置という措置ではなくて、社会奉仕命令という形でそういうことは検討できないのかどうか、大臣のお考えを聞かせていただきたいと思います。
  41. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) その前に、労役場留置ですけれども、本日現在、数聞きましたら、全国で八百人、約八百人だそうです。ですから、四十七都道府県で八百人ですから、現時点では非常に数は少ないと申しますか、言えると思うんですね。ですから、そういう現実に労役場留置された人の数の動向というのを、これは中身を踏まえなきゃいかぬというふうに思うことを申し添えます。  それから、社会奉仕命令というのは、犯罪者に対しまして一定の期間、無報酬の奉仕作業を命ずる制度であると承知しております。諸外国においていろんなところでいろんな制度があります。我が国は採用しておりませんが、あることは承知いたしております。それぞれの国において、それぞれの国の社会、文化的な事情等を背景にして各国独自の制度を導入しておるというふうに聞いております。  我が国では、保護観察対象者に対する処遇の一環として社会奉仕活動を取り入れている例もございますが、まだこれは全体としてやっておるわけではございません。これは裁判所の保護観察処分内容として社会奉仕をさせるということでやっておるわけでございます。  いずれにしましても、社会奉仕命令制度を導入を検討するに当たっては、我が国において行われている活動の効果や運用面での課題等のほか、諸外国における制度の実際、運用状況等々について調査分析を行うことが必要だと思っております。一つ考え方でございますが、これは法体系刑事体系一つの新しい分野に相なると思いますので、多角的な検討が必要だというふうに思っております。大臣のPTでも検討しようかと、裁判所の判決で刑務所へ入れるんではなくて社会奉仕を命令すると、まあ軽い罪になるでしょうね、それは検討はしたいと思っておりますが、まあいろいろな面から検討する必要があると思っております。  労役場留置は、これは刑罰であります。罰金刑罰です。ですから、将来、その社会奉仕命令という制度が日本において立ち上がっていくというような将来考えた場合に、そこでこの労役場留置とどうリンクさせるかというのは一つの課題、課題というか問題にはなると私は思います。
  42. 松岡徹

    ○松岡徹君 私も大事な課題だと思うんですね。法改正とか、先ほど冒頭から申し上げたように、提案理由の中にもあったように、起訴するか否かの判断に困るとか、あるいは単に犯罪が増えているからこういう法整備をするのではなくて、犯罪の抑止やあるいは再発防止につながるという趣旨を生かしていくとすれば、是非とも重要な検討課題だと思うんですね。  ちなみに、先ほど大臣おっしゃったように、この労役場留置の収容人員は、私は一年間の延べ人数であって、今おる人は今大臣おっしゃったように八百何人です。しかし、年間今、平成十六年で七千人を超える人たちが延べとしておるんですね。元々この労役場留置というのは期間が短いですから、ですからこういうサイクルはありますが、しかしその労役場留置に、措置になる人たちの中身もたくさんあると思います。非常に軽微な罪等によってなった場合に、そういう社会奉仕命令とか、そういった点を是非とも積極的に考え検討していく必要があるんではないか。それこそ、この今回の法改正に伴って、一つの制度でありました労役場留置というこの制度そのものを、そういう観点からも制度的に見直していく必要があるんではないかというふうに思っておりますので、そのことを要望いたしまして、終わりたいと思います。
  43. 荒木清寛

    荒木清寛君 公明党の荒木清寛でございます。  まず、窃盗罪につきまして罰金刑を導入するわけでございますが、その理由としまして、先ほども成人の万引き事案が急増しているということが挙がりました。ただ、従来は懲役刑しかなかったところに罰金刑選択刑として出るわけでございますので、国民から見まして、むしろこの窃盗罪の法的評価を下げたんではないか、そういうふうに誤解されるおそれはないのかどうか、この点につきましてはいかがでございましょうか。
  44. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 今回の見直しは、窃盗罪のうち比較的軽い類型事案について、相応の処罰が必要と思われるのに現実には刑罰が科されていないものが多いという実態にどのように対処するべきかという観点から検討を行い、これに罰金刑をもって対処し得るようにして、その刑罰としての威嚇力、感銘力を期待するというものでございます。このような趣旨は今後とも明確にしていきたいというふうに思います。  そして、今回の見直しは、これまで個別の事案について検察官が懲役刑相当と判断したこと自体に影響を与えるものではなく、検察においては、これまで自由刑を求めて公判請求をしていた事案と同様な事案については、今後においてもやはり同様の判断がなされるものと考えておりますので、今回の罰金刑新設によって窃盗罪についての国民の規範意識を緩めることにはならないのではないかと考えているところでございます。
  45. 荒木清寛

    荒木清寛君 言葉を換えますと、従来処罰されなかったものが今回の罰金刑新設によって処罰されるようになる、こういう理解でよろしいわけですね。  そこで、窃盗罪につきましては、万引き事案も含めまして、平成十六年におきましては起訴猶予率が四七%だということでございます。そうしますと、現在どういう基準で起訴をするのか起訴猶予をするのかを決めているのか、そして今回の改正によりまして従来起訴猶予になっていたどの部分が罰金ということに、罰金科刑がされるのか、その辺について御説明をお願いします。
  46. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 検察官の事件処理の判断を一律に拘束するような基準はないというふうに承知しておりますけれども一般的に申し上げれば、個々の事案ごとにその犯罪の態様とか手口とか被害の額、犯行の動機、被疑者の前科の有無、被害弁償の状況、その他の具体的情状や同種事案処理との均衡などを総合的に判断して起訴の要否を決めているものだというふうに承知しております。  具体的な問題、今回の法改正の結果、罰金刑が科されると想定される事案の問題でございますが、例えば一、二回程度万引きの前歴を有する者が被害金額が数百円程度の食料品などを新たに万引きしたような事案について、懲役刑の定めしかない現行法の下では起訴するか否かの判断に迷う場合がございます。これが、やはりかわいそうだということになりますと、また起訴猶予ということになりますし、もうこれはまた再犯のおそれがあるということになりますと、やはり検察官によっては起訴をしてきちっと清算してもらう方がいいというふうに考える者があろうかと思います。  一般的に申し上げれば、初回、全くの初回で、例えば数千円前後の万引きという形でいきなり起訴ということは考えられないと思いますけれども、やはり具体的には今、何回かの前歴がある者について、あるいはその具体的情状において再犯のおそれが否定できない者については、やはりこれが一番迷うところでございまして、こういう者について一回罰金によって処罰をした方が望ましいという場合もあり得るのじゃないかと、こういうふうに考えております。
  47. 荒木清寛

    荒木清寛君 万引き事案は今急増しておりまして、特に書店やスーパー等ではもう万引き倒産という言葉があるほどの事態になっているわけでありますが、今回の法改正によりましてそうした万引き防止という面については効果がある、このように考えてよろしいんでしょうか。
  48. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 今回、窃盗罪等に罰金刑新設し、比較的軽い類型事案に対しても相応の処分科刑を可能にしたことにより、事案に応じた適正な科刑の実現を図ることができるとともに、国民の規範意識を喚起し、犯罪に対する一定の抑止効果を発揮し得るものと期待しているところでございます。  今回の法案につきましては、既にマスコミ等において報道しておられるところでございますし、法案が成立すればやはり、特にやはり万引き等に対しての問題というのは非常に今現実に委員指摘のとおり大きな問題となっております。他へ売るための万引きということで、数も多い、金額も多いということで非常に大きい問題でございますが、これについて恐らく報道もされるでしょうし、また私どもとしてもそういうふうになったということを周知するような方法を取りまして、そういうものについてもこれからは厳しくなりますよということを認識していただくということは重要であろうかと、それによって抑止力というものが働くんではないかと、こういうことを期待しているところでございます。
  49. 荒木清寛

    荒木清寛君 次に、杉浦法務大臣にお尋ねいたします。  今回、業務上・重過失致死傷罪罰金刑上限を引き上げる提案をされたわけでありますけれども、この提案をされた理由について御説明願います。
  50. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) 荒木委員にお答えする前に、先ほど間違った答弁をいたしましたので訂正いたします。  保護観察所で社会参加活動を実施いたしておるわけですが、この場合には本人の同意を得て実施しているわけでございまして、裁判所の命令ではございませんので、訂正させていただきます。  本人に社会参加する場を与えて、経験をさせることによって人格的、社会的な成長を促すことを目的とすると。活動の内容は、老人ホームでの介護補助や公園の清掃活動など、あるいは屋外での農作業や創作などの体験活動等をさせておるということでございます。  荒木先生の御質問にお答え申し上げます。  先生は、これまで業過の問題については非常に真剣にお取り組みいただき、当委員会でも、悪質交通事案被害者遺族の気持ちなどを考えるとこの上限額は低過ぎると、この点についても何回も御指摘いただいておったことでございます。それと、先生始め各般の皆様方の御提案、御指摘を受けまして、このような案を提案することに至ったわけでございます。  業過の、業務過失致死傷罪罰金刑上限につきましては、御案内のとおり、平成三年に現行の五十万円に引き上げられたところでございます。荒木先生から何回も御指摘いただきましたが、最近の国民の意識動向に照らしますと、特に死亡や重大な傷害を生じた事案等におきましてはこの上限額では低きに失すると。ですから上限に張り付いてしまうということで、事案に応じた適正な科刑をするのが困難な場合が生じております。  さらに、業務過失致死傷罪の大部分を占めます交通違反に係る検挙件数が、先ほども御答弁したように、年間八十万件を優に超えるという現状にございまして、これに対して適正な科刑の成否が我が国市民生活に与える影響は極めて大きいと考えられているところでございます。  この際、罰金刑上限を百万円、倍に引き上げまして、罰金刑を科すことができる範囲を広げることが相当であると考えた次第でございます。
  51. 荒木清寛

    荒木清寛君 これは立法事実に関する部分ですから私からも若干説明させていただきますと、平成十五年の九月に森山法務大臣に対しまして、平成十六年の十一月には南野法務大臣に対しまして業務過失致死傷罪罰金刑の見直しを求める署名を提出をいたしまして、その署名数は九万四千人になりました。私もその席に同席をいたしました。  実は、このきっかけとなりました事故がありまして、平成十四年の九月に名古屋市の緑区の私立保育園で片岡樹里ちゃんという三歳の女児が死亡した事故があったんですね。これは、保育園の屋上の駐車場からワゴン車が転落をしまして、園庭で遊んでいた園児が亡くなってしまったという、保育園内での事故だったわけなんです。そして、これは様々なことが考慮されたかと思いますが、加害者はいわゆる業過に問われまして、業過致死罪に問われまして罰金五十万円ということになったわけですね。  御遺族、特に御両親にしてみると、まな娘が亡くなったということとこの罰金五十万円というギャップが余りにも大きかったわけなんです。そして、これがこの法律上の上限であるとすると、罰金刑上限であるとすると、余りにも不条理なこれは司法制度ではないかというところから、先ほど申し上げました署名活動が始まったわけなんですね。御両親が中心となり、多くの市民の方が協力をされて、九万四千人という署名が森山、南野両大臣に提出をさせていただいた、こういう経過でございますので、私は今回のこの法改正の提案は極めて評価できる、このように考えます。  そこで大臣に、その五十万円を百万円にするという、なぜ百万円という提案なのかということをお聞きしたいんですね。  先般来、業過につきましては、特に死亡事案については四割がこの五十万円という上限に張り付いているというお話がございました。そうしますと、五十万円、百万円でなく、八十万円でもいいのではないか、こういう意見もあろうかと思います。あるいは、この交通事故等の被害者の立場に立ちますと、いや、百五十万円、二百万円でもいいという意見もありましょうし、フランス等では、こういう事案については最高額九百万円、約九百万円という罰金も制定されるというふうに聞いております。  そういう中で、なぜこの百万円というこの引上げを決定されたのかについて御説明をお願いいたします。
  52. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) 御指摘罰金刑につきましては、人の生命を奪う場合もあるという重みを考慮する一方で、基本的には過失犯であるということや、刑法上の罰金刑体系を考慮いたしまして、現行の倍額に引き上げるべきと考え、百万円としたものでございます。  これにつきましては、業務過失致死傷罪には選択刑として五年以下の懲役刑禁錮刑が定められておりますので、悪質な事案については自由刑処理できるということがございます。先ほどの片岡さんの事案については自由刑では処理しなかったわけでしょうが、罰金刑処理したわけでしょうが、自由刑処理することも不可能ではなかった案だと思います。刑法上の多くの過失犯の罰金上限額が二十万円から三十万円とされていることに照らしますと、必ずしも低過ぎるということは考えておりません。  他方、こういう事情もございます。現行法上、五十万円と百万円の間の金額罰金刑上限とする規定は存在しておりません。ですから、五十万円の次は百万円となって、その上は百五十万円、二百万円と、こう五十万円刻みになっておるわけですけれども、そこの間の上限とする規定は存在しておりません。仮に、七十万円とか八十万円とかいう上限を定めますと、新しい類型罰金刑を作り出すこととなりまして、その位置付けが不明確なものとなりかねない面もございます。  これは、最終的には裁判所の裁量で百万円以下ならば決められるわけでございまして、百万円を超えて百五十にすべきだとか二百万にすべきだとか、そういう議論も一方ではあるわけなんですが、今回の法改正に際しましては、百万円を超えると認められる内容については自由刑で対応するということで、そんな事情を考慮して、今回の法改正に当たっては、業務過失致死傷罪罰金刑上限を百万円とさせていただいた次第でございます。
  53. 荒木清寛

    荒木清寛君 そうしますと、今の御答弁等を総合しますと、今回の引上げはあくまでも厳罰化である、このように考えてよろしいわけですね。あるいは、従来は自由刑で処断しておったようなものを罰金刑処理に落とすという、そういう意図を含んだ改正なんでしょうか。確認させていただきます。
  54. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) そういうものではございません。今回の法改正による上限額の見直しは、業務過失致死傷罪等について、あくまでも、従来から罰金刑が相当と考えられている事案のうち、現行の罰金刑上限額である五十万円では刑罰としてやや軽きに失すると考えられるようなものを対象にして、罰金刑選択の言わば幅を広げた、広げようとするものでございます。  これまで検察当局においても、業務過失致死傷事件の処理におきましては、自由刑相当事案罰金刑相当事案に分類した上で、それぞれの法定刑尺度の中で適正な科刑の実現を求めてきたものと承知しております。  今回の法改正は、これまで個別の事案について検察官が自由刑が相当と判断したこと自体に影響を与えるものではないと考えておりますし、また今後の運用で与えてはならないと、こう思っております。
  55. 荒木清寛

    荒木清寛君 もう時間もあれですから、データは私の方で申し上げて、後質問いたしますが、この犯罪白書二〇〇五によりますと、交通関係業過につきましての不起訴率は、これは平成十六年で八五・一%なんですね。要するに、起訴公判請求するもの、略式請求するもの、あるいは家庭裁判所に送致するものを除くと、八五・一%の交通業過はまあおとがめなしということなんですね。  これも様々な状況がありますけれども交通事故発生件数は減ってない、依然として増加傾向にあるわけですから、こうした運用は、大臣、ちょっと問題があるという御認識はございませんか。
  56. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) 業務過失致死傷事件の起訴率が低いとの御指摘でございますが、まず、業務過失致死事件の起訴率につきましてはおおむね六〇%台で推移しておりますので、決して低いとは考えておりません。  一方、業務過失致傷事件の起訴率はおおむね一〇%程度で推移しておりますけれども、その大半は過失が悪質ではなく、傷害結果が軽微であり、示談が成立し、被害者も処罰を望んでいないなど、起訴猶予処分をすることが適当と考えられる事案であると承知しており、したがいまして起訴率が低過ぎるというような事情ではないものと承知しております。  いずれにしても、検察当局におきましては、過失程度、結果の重大性、示談の成否、被害者の処罰感情などを総合的に考慮し、事案に応じた適切な処分に努めているものと承知いたしております。
  57. 荒木清寛

    荒木清寛君 最後に、これも同じ白書によりますと、ひき逃げ事件件数が平成十二年以降急増しているわけなんですね。これは、私なりに考えますと、危険運転致死傷罪という罪の刑が重いために、いわゆる逃げてしまう人が多いのではないか、こういうことも背景にあるのではないかと私は推測します。  したがいまして、このひき逃げ事件についての罰則強化ということを、これは法務省あるいは警察庁においても検討していただきたいと考えますが、いかがですか。
  58. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 道路交通法自体の問題としては救護義務違反ということでございまして、これはもう警察の方の所管ということになります。また、今御指摘のひき逃げということを刑法的に当てはめれば、保護責任者遺棄罪という罪がありまして、それに類した類型であろうと思います。  委員指摘の問題は私どもも認識しております。更に付け加えれば、アルコール運転、酒酔い運転をしていて、それを隠すためにひき逃げ、逃げちゃうという事例もあると、これを放置していいのかと、今の刑罰でいいのかということで、これも議論のあるところでございまして、私ども一つの大きな検討課題としておりますけれども、ただ一方、例えば今申し上げた保護責任者遺棄罪、単純遺棄ではなくて、そういう責任者が遺棄するような事案についても五年以下と定められていると。それで、今の道交法違反の救護義務違反についても五年以下という形でございまして、これを更に引き上げていくという形になりますと、やはりそれなりの理論付けなり、ほかの手当て、例えば刑法の問題もそうですけれども、やはりそこの問題がどうしても引っ掛かってきますので、これは私ども一つの大きな課題だと認識はしております。引き続き検討させていただきたいと、このように考えております。
  59. 矢代隆義

    政府参考人矢代隆義君) ひき逃げでございますが、平成十三年の道路交通法改正によりまして、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金から五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に引き上げていただきまして、平成十四年六月から施行しておるわけですが、残念ながらひき逃げはまだ減少しておりません。更なる対策や取組が必要であります。  そこで、更なる罰則の引上げということでございますが、ひき逃げ事案発生状況や実際の科刑状況、危険運転致死罪等の他の犯罪に対する罰則との均衡等も踏まえまして、どのような対応が可能か検討してまいる所存でございます。
  60. 仁比聡平

    仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。  今回、罰金刑新設される罪はいずれも市民生活にとって密接なものでありまして、どのような事案を想定してその処分が適正に行われるのかということが市民生活にとって大事な問題だと思います。  そこで、まず公務執行妨害罪についてお尋ねをいたします。  提案理由では、起訴猶予にはできないが自由刑では重過ぎるという、そういう事案への対処と言われております。  九〇年から九三年の財産刑検討委員会、法制審の、ここでは主要地方検察庁における受理処理状況の整理表を作られて、被疑者、被告人の属性などを含めた検討を行ってこられて、それが法制審でも話題になっているように議事録拝見して思うわけですけれども、以来、現在まで十数年たっております。この間どんな変化があったと考えられているのか。  数字は先ほども答弁がありましたし、資料も配られておりますので、特徴をどういうふうに見ておられるのかという点。そういう中で、今回の改正でどういう事案対象にしようというのかということをもう少し御説明いただきたいと思うんです。
  61. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 最近の公務執行妨害事案について私ども承知している限りにおきましては、例えば警察官が非常に今積極的に活動をしておられる。まあ時代の要請といいますか、例えば家庭内暴力の問題あるいは近隣間のトラブルの問題について警察官が呼ばれ、臨場すると。その間においてまあ不満を持たれた人から暴行等を受けるという事案も少なくないと聞いております。  やはりこれは、昔はまあいわゆる公安事件等の問題があったわけでございますが、最近は今のような国民の間で起こる様々な事象において、一方ではまた、例えばそういうトラブルの際に、先ほどもちょっと触れましたけれども、酒を飲んでおられると、そこで激高するということで、その不満をぶつけるという事案も多いと聞いております。  数字は先ほど申し上げましたとおり、今委員が御指摘になった平成二年ないし四年の場合、公務執行妨害検察庁における終局受理人員見ますと四百台ということになります。それから、平成十六年には千八百八十七ということで、これはもう現に増えてきているということであろうかと思います。
  62. 仁比聡平

    仁比聡平君 数字の傾向でいいますと、法制審で、検挙件数平成五年、六年と比較して平成十六年どうかということで、公務執行妨害罪ではほぼ三倍増になっているという紹介があっていますが、そのとおりですか。
  63. 大林宏

    政府参考人大林宏君) そのとおりでございます。
  64. 仁比聡平

    仁比聡平君 先ほどの警察官が現場に臨場する際に市民とのトラブルというお話ですけれども、これは私もやみ金の問題でせんだって民事不介入ということであってはならないということを申し上げたわけですけれども、そういう近時の様々な要請の中で起こっているという、そういう理解ですか。
  65. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 御指摘のとおりでございます。
  66. 仁比聡平

    仁比聡平君 そういう中で、懲役を前提に選択をして公判請求をするというのはちょっとちゅうちょされるというような事案暴行罪として構成をされて、手続をされるというような例もあってきたと伺っていますが、そういうこともあったわけですか。
  67. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 御指摘のとおりでございまして、やはり不起訴にはできない事案があるということで、本来であれば、警察官等の公務員に対する認識があれば当然公務執行妨害罪ということで処理をしなければならないわけですけれども、今までの場合は罰金刑がないと、そうすると公判請求をしなきゃならないと。それには、先ほども御質問にありましたけれども、資格制限に掛かる方もおられるという問題で、そこで実務上の一つの方法として、相手に傷害を与えたあるいは暴行を加えたというものを単純な傷害罪、暴行罪ということで公務性を捨象して処理するという事例もあったというふうに承知しております。
  68. 仁比聡平

    仁比聡平君 念のため確認ですけれども、先ほど御紹介のあったような事案のうち、何か家庭のトラブルがあって、例えばこれがDVではないかというような形で警察官が臨場して、初めて警察官との間でトラブルが起こったというようなものが直ちに当罰性を持つものなのかどうかというような点については、罰金刑新設するとしても、いろんな配慮あるいは考え方というのはあると思いますけれども、いかがでしょうか。
  69. 大林宏

    政府参考人大林宏君) お尋ねの件につきましては、個別の事案でいろいろなケースがあろうかと思います。  一般的に例として申し上げれば、今御指摘のような事案においては、例えば暴行程度がどうだったか、例えば相手の警察官がけがをするような程度だったかとか、あるいはその人が例えば粗暴的な前科を持つ人であるのか、あるいはその後の状況が円満な形になっているのかどうか、いろいろな状況があろうかと思います。その中で、罰金刑に処せられる場合もありますし、不起訴となる場合もありますし、それは非常に悪質な事案であれば公判請求という場合もあろうかというふうに思います。
  70. 仁比聡平

    仁比聡平君 そうすると、そういった事案あるいは判断の要素の中で罰金刑を科すことを選択肢とするという改正提案だと伺ってよろしいですか。
  71. 大林宏

    政府参考人大林宏君) そのとおりでございます。
  72. 仁比聡平

    仁比聡平君 この際、ちょっとお尋ねをしたいと思うんですけれども検察官の処分に当たってこの罰金刑新設をされるということによって、事実認定が微妙な事案、特に証拠の面で公判維持が難しいのではないかというふうに思われるような事案が、これはもちろん自由刑を前提に公判請求ということではこれは余りにも酷でもある、だけれども罰金ならということで、安易に略式手続に付されるということは、これはあってはならないのではないかと思うんですね。  そうなりますと、略式手続についてのその被疑者の同意、これは現場ではもう本人は全く納得してないと、だけれども、もうどうせ金を払えばいいんだろうというような形で行われかねない事態になって、再犯防止等々の観点からしても、あるいは正義の面からしても、望ましくないことだと思うんです。  そういう意味で、間違っても薄い証拠で略式請求するということはあってはならないと思いますが、いかがですか。
  73. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 検察官は、個々の事案に即して求刑判断を行うとともに、その際、罰金又は科料が相当と判断した場合には略式手続によることの可否及び当否を判断して、これに沿った事件処理を行っているものと承知しております。今後もこの点は何ら変更はないと考えております。  略式手続におきましても、最終的には裁判官が証拠に基づいて事実認定を行うものでございますし、通常の公判手続に移行するということもございます。今委員指摘のように、罰金刑が付いたということで略式手続に安易に流れるということはないものというふうに考えております。
  74. 仁比聡平

    仁比聡平君 警察庁にお尋ねをいたしますけれども公務執行妨害の検挙について、その傾向や特徴をどのように把握をしておられるでしょうか。
  75. 縄田修

    政府参考人縄田修君) 検挙件数につきましては、もう委員御承知のとおりでございますが、先ほど法務省からもお話がございましたが、私どもといたしましては一律に申し上げることなかなか困難だろうと思いますけれども、一線の事情等を聞いてみますと、飲酒の上にけんかなどによりまして制服警察官の取扱いを受けた者が若干興奮すると、もうささいな言葉のやり取り、行き違いで興奮をし、感情的な行き違い等から暴行を受けるというようなケースが最近結構目立っておると。それからもう一つは、刃物を使用した事案というのがかなり増加をしてきておるというのがはっきりしております。もう一つは、したがいまして、公務執行妨害による、これは警察官の場合ですけれども、受傷人員、傷を、傷害を受ける人員の数、これもかなり増加をしておる、こういう報告を受けております。
  76. 仁比聡平

    仁比聡平君 今刑事局長が後段おっしゃられたような事案は、恐らく公判請求とか、これまでも対応されているんだろうと思いますけれども、前段の部分なんかの中にはかなり、従来微罪処分相当とされてきた事案も含まれるのではないかと思うんです。  今回の改正に伴って、そういった従来微罪処分相当とされてきた事案が正式送致となるようなこと、あるいはそういう事案が強制捜査の対象になるというようなことがありますでしょうか。
  77. 縄田修

    政府参考人縄田修君) 公務執行妨害事案をもって微罪処分にされるという判断では今まで実務的に動いてございません。微罪処分の場合は、犯罪事実が極めて軽微であって、検察官送致の手続を取る必要がないということでありまして、通常窃盗事案とか財産犯を中心に対象とされておりまして、公務執行妨害をもって微罪処分ということで送致を要しないというふうな形で対処するということは従前ないものと承知をいたします。
  78. 仁比聡平

    仁比聡平君 ああ、そうですか。ちょっと昨日まで勉強させていただいた上での理解と若干違っているので、今初めてそういうふうに伺ったわけです。  そうすると、公務執行妨害罪として検挙をした件は、これまで全件正式送致をしているということですね。
  79. 縄田修

    政府参考人縄田修君) 犯罪がありとして私ども捜査したものにつきましては検察庁に送致をいたしております。
  80. 仁比聡平

    仁比聡平君 そうしますと、法務省にお尋ねをした方がいいんだろうと思うんですが、今回のその改正罰金刑新設されるということの中で、従来、自由刑にするほどではないんだけれども、だからといって起訴猶予にもし難いと、処分を迷うという、場合によっては構成要件を落として暴行でも罰金起訴するというようなことを選択をされてきた、言わば限界的な場面、こういう場面を皆さん今日想定しておられると思うんです。  そうではなくて、先ほどちょっと家庭のトラブルなんかのお話もありましたけれども、従来、当罰性がないと、可罰性がないという、いろんな事案があるでしょうけれども、判断をされてきたものが、この罰金刑新設によって範囲が拡大されるのではないかという懸念を現実に私自身も伺うわけです。その処分についてどんなふうに考えられますか。
  81. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 一つ言えますことは、先ほど私が申し上げた暴行とか傷害であえて罰金を取っている事案については、今後公務執行妨害罪として罰金を取ることはあり得るんじゃないかと。ある面では、犯罪事象に対してきちっとした罪名で当てはめて取れるという意味においては、まあ正常化というのはちょっと言い過ぎかもしれませんけれども、それはそのような処理がなされる可能性が強いんではないかというふうに思います。  ただ、従来から公務執行妨害罪については起訴猶予率がかなり高いものでございまして、そういう罰金を取るまでにも至らないと、いろいろ偶発的な問題とかいろいろなことを考慮をされて不起訴になっているものについては、やはりそれは不起訴になるものも多いんではなかろうかと。  ですから、これは先ほど申し上げましたように、一概に言える問題ではありませんけれども、少なくとも私たちが予想している問題として、どうしてもこれはもう罰金は取らざるを得ないという形で従来処理していたものについては、これはやはり公務執行妨害罪罰金を取るような処理になる可能性は強いんではないかなと、こういうふうに考えております。
  82. 仁比聡平

    仁比聡平君 大臣に最後、そういった懸念を私も聞いているわけです。万が一にもそんなことがないように適正な運用を貫いていただきたいと、一言御所見をいただいて質問を終わります。
  83. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) 当局の方からいろいろお答えしたとおり、そのような趣旨、つまり今回の改正自由刑を求めて起訴すべきか否かの判断に困難を伴うような事案について適正な処分科刑を実現するための刑の選択の幅を拡大したんだということでございますので、その趣旨は今後とも明確にしていく、今日大分明確になりましたが、今後とも明確にしていく所存でございます。
  84. 仁比聡平

    仁比聡平君 終わります。
  85. 亀井郁夫

    ○亀井郁夫君 国民新党の亀井でございます。  いろいろと質問用意しておりましたけど、これまでの真摯な質問で大体もう回答は出ていますけども、何点か簡単にお尋ねしたいと思います。  窃盗事件ですけども、随分窃盗は減ってきているけども万引きは増えているというようなことが聞いておりますけれども、外人のこういった窃盗なり万引きの事件はどのようになっているのか、これについてちょっとお尋ねしたいと思います。
  86. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 平成十六年における来日外国人による一般刑法犯検挙件数は三万二千八十七件でございまして、このうち来日外国人による窃盗事犯検挙件数は過去最高の二万七千五百二十一件に上っております。態様別に見ますと、空き巣などの侵入盗は八千三百九十六件、自転車盗などの乗り物盗が千五百七十九件、それから車上ねらいなどの非侵入盗は一万七千五百四十六件となっていると承知しております。
  87. 亀井郁夫

    ○亀井郁夫君 ありがとうございました。  それから、その次にちょっとお尋ねしたいのは、略式命令の上限を百万に引き上げられるということになりますけれども、もうこれまで罰金が百万以下のものがあるわけでありますけども、それが今度は五十万が百万になっちゃうと略式にどんどん変わっていくんじゃないかということが考えられるんですけども、そういう意味では略式裁判手続が濫用されるということが起こるんではないかということが考えられますけども、そういうことはありませんか。
  88. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 検察官は個々の事案に即して求刑判断を行うとともに、その際、罰金又は科料が相当と判断すれば、手続として略式命令の要件を満たすか否か、これを満たすとして、略式手続によることが相当か否かを判断して、これに沿った事件処理を行っていると承知しております。委員指摘の罪に関する事件に関して罰金が相当と判断されたからといって、すべてが画一的に略式手続によって処理されるわけではございませんので、略式手続は濫用されるということはないというふうに考えております。  基本的には、いわゆる交通関係、道路交通法違反とか業務過失致死傷事件について、それがほとんどの今までの略式事件の大半を示しております。したがいまして、今回五十万が百万に上がるということによりまして、やはりその五十万以下に押し込められていた部分が百万の間に移行するという問題であろうかと思います。  先ほども御質問がありましたけれども、略式手続というのはあくまでも本人の同意というのが必要でございますし、仮に同意があっても、その後の裁判所の判断等により正式裁判に移行するという、そういう性質を持っております。したがいまして、検察官において罰金相当と認めても、やはりそれは略式手続相当かどうかということは慎重に検討しているところでございまして、今回の改正によってそれが濫用されるというような事態はちょっと予想されないと思います。
  89. 亀井郁夫

    ○亀井郁夫君 次にお尋ねしたいのは、いろいろと今日議論されましたけれども懲役刑の問題についてもこれから一般的に検討されるのかどうかという話、ちょっと話が出ましたけれども、この罰金刑については引上げありましたけれども懲役刑についての引上げについては検討される考え方があるのかどうなのか、お尋ねしたいと思います。
  90. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) 先ほども申し上げましたが、法定刑につきましては、社会情勢等の変化でもう絶えず検討加えられまして新しい罪がつくられたりしておるわけでございます。一般論として申し上げれば、懲役刑を含めまして、各種犯罪における刑罰内容在り方については、その罪の罪質や他の刑との均衡、その犯罪によって起きる被害内容程度等、種々の観点から総合考慮した上で決められるべきものでございまして、事案内容に応じて適切な刑罰を科し得るものでなければならないと考えております。罪刑法定主義の基本的な考えでございます。その意味で、社会経済事情が大きく変化したときには、これを踏まえて刑罰体系を見直すことが必要と考えております。  平成十六年度の凶悪重大犯罪に対処するための刑事法の整備、かなり大幅な整備でございましたが、この整備もこのような観点から行ったものでございますけれども、今後とも引き続き所要の調査検討を行って、適切な見直し等を行ってまいる所存でございます。
  91. 亀井郁夫

    ○亀井郁夫君 それから、労役所の問題についてもいろいろ議論ありましたけれども、よく分かったんですけれども、それに絡んでちょっと聞きたいのは、労役所に入っている人の数と平均のおる日数ですね。それが分かれば大体どんなものだと分かるんですが、拘置所と刑務所にあるんだということは分かりましたけれども、その辺はどうなっているんでしょうか。
  92. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 罰金刑を受けた者のうち労役場留置に処せられた者の割合や平均留置期間につきましては正確な統計がございませんが、参考までに申し上げますと、平成十六年に全国の地方裁判所及び簡易裁判所で罰金刑を受けた人員が七十五万四千六百三件であるのに対し、同年において罰金刑について労役場留置による執行がなされた件数は八千百四十件であると承知しております。
  93. 亀井郁夫

    ○亀井郁夫君 そうすると、何日ぐらい労役所に行っているかというのは分からないんですね。
  94. 大林宏

    政府参考人大林宏君) 先ほども申し上げたとおり、その統計ございませんが、今、私どもで把握している限りにおいては三十日から六十──済みません、失礼いたしました。法律上は、例えば罰金労役場留置は二年以下、一日以上二年以下になっていますけれども、大体六十日から九十日ぐらいが多いと聞いております。
  95. 亀井郁夫

    ○亀井郁夫君 三か月ぐらい、長いのは入っているんですね。随分長いから、そういう意味では、財産刑自由刑に変わったような格好に事実上なっている面も理解されるわけですけどね。分かりました。  時間がちょっとあるものですから、大臣にお尋ねしたいのは、いつも聞いておりますけれども、裁判員制度の問題、いつもまとめて聞けなかったものですから何点か聞きたいと思うんですけれども。もうこの前もお話ししましたけれども、やはり、二十一年に実施される裁判員制度、非常に大きな問題ですので、問題点を挙げて大臣考えていただきたいと思うわけですけれども。  それで、これから政省令を作っていかれるんでしょうけれども、決まってないわけですからね。その場合に、国民の義務だと言われるんだけれども、義務にも厳しい義務もあれば緩やかな義務もあるわけでありますけれども、そういう意味で、その辺を十分PRしていかないとこの制度は定着しない可能性がある。何か、いろいろ法務省や最高裁判所の資料を見ると厳しい義務のような、感じるところが随分書かれておるわけですけれども、そういう意味では非常に大きな問題だと思うんですね。  で、どうしても出たいけど出れないということがあるわけだし、良心の自由という問題もありますから、それについて大臣としては、これから省政令を作る過程の中で、厳しい義務とされるのか、優しい緩やかな義務とされるのか、それについてどう考えたのか、大臣のお考えを聞きたいと思います。
  96. 杉浦正健

    国務大臣杉浦正健君) 裁判員制度は、広く国民の皆さんに裁判の手続に参加を求める、国民の司法参加の一番求められる制度でございます。  現実に、相当多数の国民の皆さんの参加を得る必要がございます。また、国民の負担の公平を図る必要もございます。したがいまして、裁判員候補者等が裁判所に出頭することが法律上の義務とされておるわけでございます。  国民の皆さんの良識、常識が裁判に反映されるということが眼目でございますので、除外理由、法律上もございますしこれから省令で決めてまいりますが、できる限りの国民の皆さんの御理解をいただいて、法律上の義務ではありますが、自発的に御参加いただく。裁判員の構成も、年齢からいっても性別から見ても、あるいは社会におけるそれぞれにいろんな立場の方がいらっしゃいますが、国民各界各層からバランス良く選ばれることが大変大事だと思っておりますので、先生御指摘のとおり、まだ三年、期間はございますから、この制度の意義、目標等を国民に広くPRいたしまして、御理解をいただいていくということが当面大事であると思っております。  他方、先生何回も御指摘のとおり、裁判員の方が辞退できる理由が法律上も書いてございます。  法律上書かれてございますのは、重い疾病又は傷害により裁判所に出頭することが困難であること、二番目が、介護又は養育が行われなければ日常生活に支障がある同居の親族の介護又は養育を行う必要があること、三番目は、裁判員として職務を行うことによりその従事する事業に著しい障害が生じるおそれがあること、四番目に、父母の葬式への出席その他の社会生活上の重要な用務であって他の期日に行うことができないものがあること。この四つが法定されて、やむを得ない事由として辞退事由となっており、さらに政令においてその他のやむを得ない事由の内容を定めることとしております。この点については、あと三年ございますので、各方面の御意向を伺いながら慎重に検討する予定でございます。  このうち、介護、養育の部分、それから従事する事業に著しい損害を生じるおそれ、この二点につきましては、介護、養育がない家庭は余り多くないわけでして、これを理由とされますとほとんど国民の皆さんが参加しないと。まあ極論いたしますと、そういうおそれもないわけじゃございません。それから、従事する事業に著しい損害を生じるおそれがあること、中小企業の社長さんとかあるいはサラリーマンにしても重要な職務を担当している方がそれを理由にしておそれがあるということで辞退されますと、これも余りにも拡張されますと参加する方を極端に少なくするおそれがございます。  ですから、一応こう法律上に掲げてはございますが、可能な限り、あるいは七十歳以上も辞退する理由になる、学生も辞退する理由になっていますが、七十歳以上でも辞退されなくても結構なわけですから、ともかくできるだけ御参加いただくようにPRをし、御納得をいただき、それから制度上も様々な環境整備を行いまして、例えば経団連や商工会議所には役員総会でお願いしましたが、休暇は出す義務がありますが、年次有給休暇並みに裁判員休暇を有給休暇にしてほしいと、そういう制度を設けてほしいとお願いもいたしましたが、そういった制度を関係の方に御整備いただいて、裁判員に参加しやすいように、これから三年間、様々な角度から努めてまいりたいと、こう思っている次第でございます。
  97. 亀井郁夫

    ○亀井郁夫君 ありがとうございました。  本当に、裁判員制度の問題をどうするかが一番大きな問題ですから、優しい制度に是非とも大臣、指導してつくっていただきたいと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。  これをもちまして終わります。
  98. 弘友和夫

    委員長弘友和夫君) 他に御発言もないようですから、本案に対する質疑は終局したものと認めます。  これより討論に入ります。──別に御意見もないようですから、これより直ちに採決に入ります。  刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案の採決を行います。  本案に賛成の方の挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  99. 弘友和夫

    委員長弘友和夫君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。  なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  100. 弘友和夫

    委員長弘友和夫君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後零時一分散会