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参考人(
山家悠紀夫君) 山家でございます。よろしくお願いします。
私は、日ごろ、
暮らしの立場から
日本経済とか財政の在り方等を研究しております。今日は、いわゆる
行政改革推進法案それから市場化テスト法案、その
二つを中心に
意見を申し述べたいと思います。
私の
意見のあらましは、別にA4判で七枚ぐらいの
レジュメと
資料でお付けしております。大体この最初のページに書いたような内容を申し上げます。
まず、
二つの法案を拝見しての感想といいますか、総合的な印象でございますが、このような法案を制定するについては、まず最初に
政府とは何かとか、
政府はいかなるサービスを行うべきかと、そういうことを十分に検討すべきではないかと、そういう感想を持ちました。そういうふうに
政府のなすべきサービスが決まったところで初めて、そのサービスをいかに簡素で効率的に実現するかとか、あるいはサービスの提供方法をどのようにするかと、そういうことが問題になるかと思います。
ところが、これらの法案を拝見したところ、どうもそうした
政府のあるべき姿とか、
政府がいかなるサービスをなすべきかというその姿が見えてこないのであります。皆さんの頭の中にはそれぞれそのイメージがおありかと思いますけれども、そういうものの十分な検討あるいはあるべき姿の確立しないままで、簡素で
効率化とかあるいは市場、
民間、民営化ということを検討するということは、目的を検討する前に手段を検討するということになるんではないかと思います。その結果、何が起こってくるかといいますと、手段によって目的が制約されてしまう、簡素で効率的な
政府というのを絶対的な価値判断といいますか、第一の価値判断としますと、それによって
政府サービスの量とか質が逆に決まってしまうと、そういうことを招くんではないかという懸念を大いに持つわけであります。
以下、若干具体的に申し上げます。
そうした視点といいますか、
政府のあるべき姿というところから考えて、懸念されることが大きく三つございます。
一つは、
日本の
政府は既にほかの先進国と比較して十分に小さな
政府であるということであります。そこから出てくる問題であります。
小さな
政府であるということは既に皆さん十分御承知かと思います。
参考までに一ページめくっていただきまして、
資料一に幾つかの、これは
政府の財政経済白書などから取った表等でございますが、表を付けておきました。GDPに対する
政府支出の比率、OECD三十か国中、
日本は下から五、六番目という小さな
政府であります。先進国、ヨーロッパ諸国と比べましても、一の二のところでございますが、全体でも極めて小さいし、支出
項目別に四つに分類しておりますけれども、経済・公共
関係、いわゆる公共
事業関係の支出を除きましては
日本の
政府は極めて小さい、支出が少ないということになっております。
それから、一番下は千人当たりの
公務員数、さっき最初に御指摘もありましたが、
日本の
公務員は非常に少ない、こういう現実があります。
問題は、こうした現実から何を読み取るかということであります。ヨーロッパ、その他他国の
政府はよほど無駄な支出をしている、あるいは人の無駄な使い方をしているという解釈の仕方もあります。
日本政府は小さいけれどもまだまだ無駄があるからなお
効率化できる、そういう読み方もできるかと思いますが、逆の読み方、
日本の
政府はほかの国の
政府ならやっているような、当然のこととしてやっているようなことをやっていないんではないかと、
政府サービスが不十分であると、だから小さな
政府になっている、そういうことも言えるかと思います。それも
一つの読み方であります。
どちらが正しいかいろいろ実証してみなければなりませんが、現象面からいろいろ見えますことは、後で申し上げた方、
日本の
政府がやるべきことを十分にやっていないんではないかというのが正解ではないかという感じがいたします。いろんな具体的なデータがそれを裏付けております。
例えば、今の表で見ますと、保健・社会保障
関係の
日本政府の支出はフランス、ドイツの三分の二、GDPに比べて三分の二であります。十分な社会保障政策が行われていない、これはしばしば指摘されていることであります。
あるいは、その次のページに
資料を付けましたけれども、小中学校の教育というサービス、これはOECDの調査で、小学校あるいは中学校の一学級当たりの児童数を比較したものであります。
日本は、OECD三十か国中、韓国に次いで生徒の数が多い。ごらんいただきますように、
日本は小中学校とも大体三十人内外、ヨーロッパの国あるいはアメリカも二十人内外であります。言うならば、
日本の子供は先生のサービスの三十分の一しか受けていない、欧米の子供は二十分の一のサービスを受けている、それだけ貧弱なサービスに甘んじているという状況であります。
こういう状況を考えまして、ほかにもいろいろ例はあるかと思いますが、そういうことを考えますと、今申しましたことが正解だとしますと、これ以上更に
公務員数を
削減するということは、ただでさえサービスが少ない、そのサービスを更に削る、一層
政府のサービスを貧弱にしてしまうという結果を招くと。
政府のサービスが少ないということは、逆に言えば
国民負担が重い、自己負担が重いということでありますが、その
国民の自己負担をより一層重くしてしまうことになるんではないか、そういう懸念を持ちます。これは言わば
政府サービスの量の問題であります。
次に、質の問題について、第二の疑問点でありますが、
政府サービスの質がこの法案が通ることによって維持されるかどうか。特に、市場化テスト法案に関連しての疑問であります。
法案では、サービスの質とコストをチェックして民営化したらいいかどうか検討するということになっておりますけれども、質のチェックがきちんと行われ得るかどうか、そういう疑問があります。入札によってそれが評価できるでしょうか。
そういう疑問を持つのはほかでもありません。去年の経済財政白書に、
民間サービスと
政府サービスをいろいろ比較しております。
民間サービスの方がいいという結論を出しているんですが、どういうチェックが行われているか、具体的な例を
二つ、皆さんもう御存じかもしれませんが、拾っておきました。
次のページ、
資料三というところですが、市場化テスト法でサービスの質が測れるかというところで、例えば指定
管理者制度、これによって
民間に委託した場合はサービスの質が良くなったという判断を去年の経済財政白書はしております。どういう評価をしているか。利用者に聞いて利用者からそういう答えが得られたというわけではありませんで、サービスの提供者、指定
管理者なら指定
管理者に聞いております。何を聞いているか、ここに例を幾つか挙げましたが、幾つかのカテゴリーを設けまして、それぞれについて四つほどの質問をしている、それに丸を付けてもらう、それによって評点するという
仕組みを取っております。
例えば、このページの四段目の「サービス内容の維持・向上」の欄をごらんください。評価されるのは、サービスに関するマニュアルを作成している、サービス水準を数値で設定している、業務報告書を毎月一回
行政担当者に提出している、利用者を加えたサービス改善のための
会議を設置している、この四点であります。全部丸を付けますと非常に高い点、サービスの内容の維持向上に努力しているということになります。丸付けないと零点であります。ほかの
項目も似たようなものでございますが、これはすべて形式的な評価。
会議を催しても
会議で利用者の
意見を十分にくみ上げないで形式的であれば一点は付けるのはおかしいではないかと。マニュアルは作っておっても、そのマニュアルが果たしてどうか、内容が問題でありますし、マニュアルどおりが実施されているかどうかが問題、そちらの方がより大きな問題であります。こういうふうな形で、サービスが維持できる、民営化してもよろしいという結論が出されるとすれば相当に問題ではないかというふうに思うわけです。
ただ、これはまだいい方であります。もう
一つの例を次のページに引きました。これは、病院とか訪問介護とか保育所において官民の生産性に格差がある、民の方が優れているということを結論付けた説明の
資料であります。
難しい下の方の備考はともかくとしまして、大筋を申しますとどういうことか。病院については、一か月当たりの患者数を、労働と資本ということはコストであります
人件費と設備投資、それで割ったと。それが高い数字が出れば生産性が高い、結構であるということになります。あるいは、
一つ飛ばして保育所を見ていただきますと、利用児童数と開所時間数、要するに延べ何人の子供の面倒を見たか、それを
人件費と設備投資で割っております。
こうして
民間の方が低コストでサービスが提供されている、生産性が高いというふうに言われますが、サービスの質というのは、何人の患者さんを診たかとか、あるいは何人の子供を延べ何時間見たかということではありませんで、一人一人の患者さんに対してきちんとした適切な治療が行われたか、その人のための治療が行われたかと、あるいは一人一人の子供に対してきちんとした、その子に合った保育が行われたかと、そういうもので評価すべきであります。そういうもので評価しないで単に数量だけで評価しますと、おかしな結果が出てくるのではないかと。すなわち、サービスの質が低下する。コストが安いからということでどんどん民営化が行われて、これは病院と保育所、訪問介護でありますが、例えば今予定されております職業紹介とか、あるいは
国民年金の払っていない人の取立て、そういうのを数字だけで評価されては大いに問題ではなかろうかというふうに思うわけであります。これが
二つ目の疑問点であります。
それから三つ目。この
二つの法案により
公務員の給料については実際に引き下げるということが提案されておりますし、あるいは
民間委託されますと、それによって
公共サービスに従事する人の賃金が下がるということは多分生じるであろうと、間違いなく生じるであろうということが予想されます。これは
日本の経済社会にとって極めてまずいことになるのではないかということであります。
資料四をごらんください。
既に小泉内閣発足以来五年たちました。まだ、五年目、二〇〇五年度の数字はきちんとまとまっておりませんが、四年間を取りましても相当の状況が起こっております。
生活が苦しい人が増えているというのは厚生労働省の調査であります。上のグラフ。大変苦しいという人が既に二〇%を超えております。四世帯に一世帯が生活が大変苦しいと訴えている。それから、この大変苦しいに苦しいという答えを足しますと五〇%を超します。
日本の世帯の半分以上が生活が苦しいと訴えている。この比率はどんどん上がってきております。生活保護を受けている世帯も大変この五年間で増えております。こういう状況があります。
それから、下の表をごらんいただきます。ちょっと細かい表ですのでポイントだけを申しますと、二〇〇〇年度というのは小泉内閣発足前の
日本経済の状況、二〇〇四年度は四年目であります。この四年間で何が起こったか。二列目を見ていただきますと、
国民所得は全体として減っております。減っておりますけれども、それ以上に、その下の
雇用者報酬、十六兆円減っております。その代わりに
民間、その代わりにといいますか、その結果もありまして、
民間企業の所得は六兆円増えておると。要するに、
国民生活が非常に厳しくなる中で
企業はもうかるようになっている。そういうことが起こっておりまして、こういうふうに厳しくなってしまった
国民生活をいかに立て直していくかということが、
日本経済にとりましても、あるいはこれからの景気を考える上にとりましても非常に重要な問題であります。
そういう状況があるところにこの法案
二つが成立しまして、更に
公務員の給料が下げられる、あるいは
公共サービスに従事する人々の給料が下げられるということは一層この傾向に拍車を掛けることになると。
政府としてそういう政策姿勢でいいものかどうか、私は大いに疑問というのを持ちます。
以上が重立ったところであります。
そのほか若干気付いたことを
二つ、第三として書いておきました。
一つは、今までの話とは直接は
関係いたしません。
一つは、新政策金融機関でございます。
これは御承知のとおり、
二つの目的、
国民一般とか中小
企業者等の資金調達支援と、それから資源の海外における開発及び取得の促進と、この
二つを
一つの機関でやるということになっております。この
二つは目的も内容も全く別の政策金融であります。
この
二つを
一つの機関にしてうまくいくのかどうか。しかも、その全体の貸出し資金量について、GDP比、今の半分近くに落とすという目標が定められております。この
二つの間でどうバランスを取ってこの目標を達成していくのか。どちらかがどちらかの犠牲になるとか、極端に言えば、後者だけをそのまま維持して前者をなくすれば目的達成されるわけですが、そういうことの
歯止めはどこにあるのかという、非常に無理があるのではないかと思います。
それからもう
一つ、これらの法案の最初に書いてありますことが、国際
競争力の強化のためにという文言であります。至る所にこういう文言が使われているわけですが、ただ、
日本経済にとって国際
競争力の強化というのがそんなに大変な重要な課題であるかと。これは私の日ごろ経済を研究している立場から申しますと、そんなに問題ではないと、実は
日本の国際
競争力は世界で一番強いと見てもいいのではないかというふうに私は思っております。
最後のページに
資料を付けておきましたけれども、ごらんいただきますように、
日本の経常収支、大ざっぱな意味で輸出と輸入の差額ですが、ここ十年来、世界で一番の黒字国であります。一番国際取引にゆとりがある国が
日本であります。
国際
競争力を評価、国の国際
競争力は何で評価するか定説がありませんが、こういう具体的に現れた数字で見ますと、
日本の
競争力は極めて強いと見ていいかと思います。しかも、国際
競争力というのは何も世界一になる必要はありませんので、何が問題かというと、要するに輸入を十分にできる、必要なものを問題なく買えるという状況にあればよろしいということであろうかと思います。
そうしますと、下に書きましたように、二〇〇五年の
日本の経常収支の黒字は十八兆円、貿易の黒字だけで十兆円であります。国際
競争力は多少損なわれて輸出が落ち輸入が増えてもまだまだ十分にゆとりがある、言うならば世界で一番ゆとりがあるのが
日本であります。そういう
日本において、国際
競争力のためにこれらの法案を作らなきゃいけないというのは、どうも私には理解できないところであります。
以上で終わらせていただきます。