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参考人(
渡辺達朗君) 専修大学の
渡辺と申します。
本日は、このような場で
意見陳述の
機会を賜りまして、誠にありがとうございます。
私は、流通論あるいは流通
政策論という分野を専門にしておりまして、特に流通関係の
企業あるいは
企業活動と公的な
政策との関係について、
まちづくりであるとかあるいは取引の仕組みや情報、そういった側面について研究をしてまいりました。
特に
まちづくりの問題につきましては、八〇年代後半以降の大店法、大規模
小売店舗法の緩和から
まちづくり三法の制定、そして現在に至るまでの経緯について比較的近い立場でリアルタイムでいろいろ見聞き、研究しております。
そうした関係から、今回せっかくの
機会をいただきましたので、申し上げたいことはいろいろあるわけなんですけれ
ども、時間も限られておりますので、
中心市街地活性化法の
改正を
中心に
まちづくり政策の転換が今なされようとしている、その意義と評価という観点から幾つか
意見を申し上げさせていただきたいと思っております。
レジュメとして一枚紙の、A4一枚のものを配付させていただいております。これに基づきまして
お話を進めさせていただきますが、併せて
参考資料を二点配付させていただいております。いずれも近々、流通経済研究所というシンクタンクの機関誌に掲載される予定の論文であるわけなんですが、まだ未定稿の部分がある、その中の抄録であります。一本は私自身の論文でありまして、今回の
お話の、話させていただく内容のベースになっているものです。もう一本は、私の研究室で学んでいる
社会人大学院生が、
まちづくりの現場におりまして、その彼の経験をまとめた論文であります。
それでは、
本題に入らせていただきます。
レジュメの2の
政策転換の意義というところから申し上げさせていただきます。
従来、
まちづくり三法、とりわけ
中心市街地活性化法につきましては、
政策効果が上がっていない等の厳しい評価を受けてまいりました。その要因としてよく指摘されるのが、三法間で矛盾ないし不整合があるという問題であります。
すなわち、これよく言われていることですけれ
ども、大店立地法につきましては、出店等の
審査基準の関係から、結果として
中心部での出店を減少させ、
郊外部への出店を促進してしまうと。あるいはまた、既存の
大型店の
中心部からの撤退を、これもまた結果としてなんですが、促してしまう側面もあると。
同様に、
都市計画法も、これまで従来は徐々に
郊外部への規制強化というものが実施されてきておりますけれ
ども、やっぱり概して
中心部よりも
郊外において容易な、出店容易な法体系になっていたと。
これに対して
中心市街地活性化法においては、
都市中心部の
商業等の活力向上などが行われるわけなんですが、せっかくこの
法律に基づいて様々な
政策支援が行われても、
まちづくり三法という
一つのくくりにくくられている他の二法が結果として
郊外出店を後押しするような効果を持ってしまっては、せっかくの中活法の効果が減殺されてしまうという、そういう問題であります。
こうした問題が矛盾、不整合を内在していることから、今回様々な
議論を経て三法それぞれの
改正という方向が打ち出されたと、そう
理解しております。
今回、実現が目指されている
政策理念として、2の(2)に示しておりますように、スプロール的な
郊外開発から
コンパクトシティーへの転換、これが
政策理念として明確に打ち出されました。
この背景にありますのが、背景というのか、前提にありますのが、少子高齢化の下で
人口減少が進んでいくと、そこから日本の経済規模自身がどんどん縮小傾向にある、縮小基調にあると。そうした中で、これまでと同じような拡大型の経済、拡大していく、成長していくようなタイプの
政策でいいのかという、そういう根本的な疑問が出てきているわけです。そういう疑問がある中でも、やっぱり成長拡大時代の慣性の法則が働いているかのようにショッピングセンター等を含む様々な
施設が
郊外において開発がなされてきたと。その結果、
都市、とりわけ
先ほど来御指摘ありますように、
地方都市において
中心部の経済的な
衰退、沈滞という問題が出てきたり、あるいはそれに伴う様々な
社会的な問題が発生したということであります。
ただ、これは、こういう問題というのは消費者あるいは住民が買物行動等において
選択をした結果でありまして、市場の行動の結果であると。
企業も消費者の
対応に対して合理的な
対応をしたんだという、そういう論理でくくられることが多いわけです。そういう市場の論理という側面ももちろんあるわけなんですが、
都市の問題について市場の原理、市場の論理だけで語るというのはよろしくないのではないかと。やっぱりこれは正に市場の失敗と言われる事態だと言える状況でありまして、
都市というのは
社会的な共通資本と呼ばれたり、あるいは一度ダメージを受けると回復が難しい存在であると。回復しようとすると非常に労力が掛かる、コストが掛かる、時間が掛かる。そうであるならば、やっぱりそういう傾向が見られる時点で早めに失敗を補正する、あるいは失敗しないような対策を事前に打つということが必要だと。
そういう
意味からして、今、正にこのときにスプロール的な
郊外開発による
都市機能の拡散というのを止めること、そして
コンパクトシティーを実現すると、そういう
政策を行うことは非常に今回の
改正というのは時宜を得たものだと評価しております。
さらに、
郊外規制と対極にある
都市機能の集約、
コンパクトシティーということについてもう少し見てまいりますと、この概念というのはよく持続可能性、サステーナビリティーという概念とよくセットで使われることがあります。そして、この
コンパクトシティーを実現していくに当たっては、
社会的費用、スプロールが生み出す
社会的費用を何とか削減したいと、
人口減少
社会においては拡大を続ける
郊外の
インフラを支える公共
投資負担が重くなり過ぎてしまうと、だから
市街地をもっとコンパクトにして公共
投資を節約しようという試みであります。これは欧米の
都市でも行われておりますし、
先ほどお話があった
青森市さんなどでももう既に行われていることで、これからますます自治体の財政難等が緊急化、切迫化してくるかと思われますので、この三法
改正がやはり時宜を得たものであり、更に今後普及していく
考え方だと考えられます。
こういう全体の法
改正の方向、理念そのものについては、
先ほど来申し上げておりますように、私自身非常に評価、賛成をするわけなんでありますけれ
ども、ただ、これまでいろんな形で審議がなされてきた経緯を振り返ってみる中で、誠に僣越なわけですけれ
ども、
コンパクトシティー化をすることの影響について、具体的にどんな影響があるのかということが必ずしもまだ十分
議論されていないんではないかという、そんな懸念がぬぐえません。
特に、全体的な
議論として、総論的な
議論として申し上げたいことは、当然
コンパクトシティー化を目指すということであれば、大
都市圏を
中心に土地の価格あるいは賃貸料、さらには賃金であるとか物価全般、そういったものに何らかの影響が当然もたらされると。この間、非常に全般的な景気回復が進んでいる中で、
コンパクトシティー化に向けた
政策への転換が打ち出されるとともに、地価の問題、賃貸料の問題に、だんだん地価の上昇、賃貸料の上昇ということが新聞紙上をにぎわせるようになってきております。
その背景の
一つとして指摘できるのが
小売業の
対応であるわけで、チェーンストア等の
小売業がまずは新ルールに移行する前に駆け込み出店をしようということで
郊外に出店を急いだ部分もあったんですけれ
ども、少し冷静になったところで中長期的な観点から戦略転換を行いつつあるやに見ております。それがこの(2)の①に三つの戦略として
小売業が今打ち出している方向をまとめました。
一つは、既存店の強化。
市街地にある既存店を更に強化していきましょうと。それから、
中心部それから
郊外部においても新しい
店舗の形態として小型の
店舗を開発し、それを更に強化していきましょうと。それから、ロードサイドにおいては、
郊外部を
中心にしたロードサイドにおいては、
都市計画法の基準の一万平米という基準以下の中型店というのか、超大型ではない
大型店のフォーマットを開発しましょうと、こんなことを盛んに今進められております。その結果、地価であるとか賃料の上昇というような事態がもたらされるやにあるというところであります。
せっかく
コンパクトシティー化という
政策方針が公共
投資の削減といったことを目指して進められているわけなんですけれ
ども、その余波として地価なり賃料なりあるいは物価全般の上昇などがもたらされてしまっては、これは元も子もないわけでありまして、このどちらを取るかというトレードオフ的な状況にあるような気もするんですけれ
ども、ただ、実際のこれをメリットを受ける、享受する側の
都市のレベルで見ると、どちらかというと、公共
投資削減、
コンパクトシティー化をして公共
投資削減のメリットを享受するのはどちらかというと
地方都市なのかなと、地価あるいは賃料、物価上昇のデメリットというのはどちらかというと大
都市圏なのかなと、そんなようなことも考えられないことはないんですけれ
ども、余りこの両者について二者択一的な
議論をしてしまうと非常に中央対地方的な対立構図をもたらしてしまいかねないので、ちょっとそういう
議論はすべきではないと。
そうであるならばどうするべきかというと、私なりに考えたところは、
コンパクトシティーというものについて、その意義と効果についてもう少し冷静に検証していく必要があると。その際、
コンパクトシティーということで一言でくくられているわけですが、例えば首都圏のように大
都市と大
都市が連檐しているような超大
都市圏における在り方と、あるいはその対極にある農村部のあるような小
都市の在り方、あるいは
先ほどお話がありました
熊本市さんのような地方の独自の方向であるとか、そういうそれぞれの
都市の階層ごとあるいはタイプごとに
コンパクトシティーの概念というものをより具体化していく、そういう
議論が、具体論レベルでの
議論がこれから必要なのではないかというふうに思います。
以上が総論レベルでの
議論でありまして、各論レベルで幾つか御指摘させていただきます。
一つは、中活法そのものではないんですけれ
ども、三法ということでいうと今回非常に問題になる点かと思うんですけれ
ども、広域調整の問題があります。
都市計画法に関連する問題ではあるんですが、広域調整がこれまで県というレベルで行えなかったと。市が何かをやると、隣の市で何かをやると我が市で何かできないという、そういう状況ですね。
熊本市さんの場合には、たまたま
自分の市の中で問題が発生したから、市の中で起きたわけですけれ
ども、隣接する市で同じことが起きたときに
熊本市さんは何かできるかというと、そんなことはなかなか難しかったのがこれまでです。それを都道府県レベルで取りまとめていきましょうというのが今回の
改正で、これは非常に評価できる点だと思います。
ただ、やっぱり県でそれを調整するということが本当に実際問題としてできるのかどうかというところが非常に難しいところで、やっぱり県の責任がこれから重くなってくると。県自身が
まちづくりの理念あるいは
都市計画、土地利用の在り方をやっぱり真剣に考えていく、その中での独自の
取組があって初めて広域調整の役割、
機能が十全に発揮できるんではないかと思います。
二点目は、中活法の
政策効果に関連して申し上げたいところなんですけれ
ども、
先ほど来これも御指摘あるところですが、
大型店の
郊外立地を規制したからといって、それで自動的に
中心部の
活性化が実現するわけではないと。やっぱり自治体あるいはそこの
商業者は新しい中活法の下で改めて
活性化の自助
努力が必要なんだと、これはまず確認すべきだと思います。
その上で、今回、三法間の整合性が取れないということを冒頭に申し上げましたけれ
ども、それをやや解決するような観点からの
改正が行われた、ここは評価したいと思います。その
一つは、規制の側面におきましては、準工業
地域における大規模集客
施設の立地可能性についての条件を付けたところです。それからもう
一つは、振興面に関連して、中活法に大店立地法の特例措置を組み込んだということであります。
細かいその中身については省略しますけれ
ども、これはいずれも非常に、三法間の
連携を高めるという
意味では非常に評価できるわけですが、これもまたやはり自治体が、その市町村がうまくこれを使えるかどうかというのが非常に問われるところでありまして、自治体の、これについては市町村の役割が非常に重要かなというふうに感じます。
それから、三つ目でありますが、新中活法の枠組みの中で
選択と集中という
考え方で非常に整理をされている、これは非常に評価できるわけですが、従来のTMOで活躍、活動されてきた方々、これがどうなってしまうのかなというのが私、非常に心配するところでありまして、立ち枯れ化しちゃうんじゃないかという、そこの懸念が非常にあります。やっぱり現場で頑張っていらっしゃる方のモチベーションあるいはモラールが低下することがないよう、旧法から新法への移行がスムーズに行われることを期待したいと思います。
それから四点目、
大型店の
社会的責任という
議論がこの間ずっとありました。これは、
大型店だけが責任があるわけではないという
議論があって、
地域にかかわるすべての
事業者がやっぱり
地域に責任を持つべきだということで、中活法の中に
事業者の責務という条項が設けられました。ですから、そういう条項を盛ったということは非常にいいことだと思います。であるわけですけれ
ども、やはり
先ほど佐々木社長もおっしゃられていたかと思うんですが、この際、やっぱり
大型店サイドの
企業あるいは業界
団体の方々が改めて
地域の問題について、今、
先ほどおっしゃられたようなことを明確な態度表明をされることが望まれるのかなというふうに思います。
さらには、やっぱり
大型店、中小の問題というのは
地域ごとに解決していくべきでありますので、
東京都においてそういった
取組を私もかかわる形で
商業まちづくり協議会というのをつくって検討等を行っておりますが、そういう
取組が、
大型店と中小との
連携する
取組が各地で広まっていくことが期待されます。
最後にもう一点だけ申し上げますと、
まちづくりのリーダー、人材をどう育成するかというのが非常に重要な問題だと思います。
今回の
改正の中では特段の新しい制度というものが導入されているわけではないんですけれ
ども、これからやっぱり
地域におけるリーダー、人材をどう育てていくのか、育てる仕組みをどうつくっていくのかということが非常に重要だと思います。
併せて配付させていただいたもう一本の論文につきましては、呉市でおいてそういう新しい人材を見いだす、見いだしながら
まちづくりに取り組んでいる事例が紹介されておりますので、併せて
参考にしていただければと思います。
最後にもう一点だけ申し上げますと、一九九八年の
まちづくり三法の制定に際しましては、本参議院
経済産業委員会を始めとしまして、非常に真摯な
議論が行われ、高い見識に基づく
委員会決議あるいは国会決議等が行われたということを承知しております。今回も是非、中長期的な視点で日本の
まちづくりの在り方をどう考えるのかということを是非
皆様方の高い御見識の下で御
議論、御審議いただき、将来の
まちづくりに資するような
政策、制度をつくっていただければと思います。
以上、ちょっとオーバーしてしまいましたが、以上で終わらせていただきます。