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参考人(
坂田宏志君)
兵庫県立大学の
坂田といいます。
私からは、兵庫県、私は兵庫県の
野生生物の
保護と
管理のための
調査研究、それと、それを地方自治体でやっていくための体制づくりにかかわっております。そういう立場から
意見を述べさせていただこうと思います。
鳥獣保護法をめぐる私自身の
現状認識ですけれども、
被害対策、
生物多様性や生態系の保全についての課題は深刻で複雑になってきていると思います。これは、これまでこちらの場でも
議論されてきたことだと思いますけれども、
野生動物の
生息の
状況なり
被害の
状況というのは、
場所によっても、時期によっても大きく変わっていくものです。例えば、
外来種なんかはそうですけれども、三年たてば、もうその
被害の
状況や
生息状況というのは圧倒的に増えてしまうというような
状況です。
そういうような中で、
動物の種類や
地域の
状況に合わせた対応が絶対に必要になってきます。その中で、一九九九年の
特定鳥獣、あの
保護管理計画の
制度などを含めた
改正以来、
地域ごとに科学的、
計画的な施策を実施するという方向での
改正、今回もその流れにある
改正だと思います。その中で、一方で地方自治体の責任や
負担というのは非常に増えてきて、地方自治体の担当の方は、
被害の問題、保全の問題、いろいろある中で、なかなかきちんとした
情報も集まらない、
予算も
確保しにくい、そういう中で四苦八苦しながら何とか
状況の改善をという方向で努力しているというのが
現状だと思います。
今回の
改正に対する認識ですけれども、
捕獲数
制限のための入
猟者数の承認
制度ですとか、
休猟区における
捕獲の特例措置、特定猟具を指定して、
区域と猟具を指定しての
禁止や規制というようなことで非常に
対策のための選択肢が増えて、細かい設定をして
地域地域の事情に合わせた
対策を取れるようになるという方向の
法改正だと思います。これは是非、今の
野生動物の
対策にしても、保全に対しても必要なことだと思います。
ところが、一方で、選択肢が増えて
制度が高度になっていったことで、それを判断する、それを決めていく行政機関の方ではより高度な
情報とそれを判断できる能力、あるいは判断したとして、その意思決定のための合意形成ですね、いろんな
意見の方がおられますから、その辺の合意形成をしていくかなりの力量が必要になってくるんだろうということを強く感じています。それをサポートする体制や
人材というのが非常に大きな課題だなと思っていますのは、先ほど
吉田参考人の言われたことと同じことです。
それで、人と
野生動物のあつれきが増える要因ですけれども、先ほどこれまた
吉田参考人が言われたことと同じ、
個体数
管理、
被害管理、
生息地管理につながっていくことですけれども、大きく分けて
三つの要因があります。
一つは
動物の数です。これは分かりやすくて、
動物の数が増えれば
被害も増えるでしょうし、減れば
被害も減るでしょうというようなことですね。あと、
動物の数が減り過ぎれば、
絶滅という意味でもう
一つの別なあつれきになります。それともう
一つ、
動物の数が幾ら同じであっても、
動物の行動が変化して、例えば里に慣れて出てくると。そうすると、少ない
動物でも大きい
被害を、
イノシシでも何遍も出てくればこれは甚大な
被害になるわけです。そういう意味で、数とは関係なく行動の変化というのも
被害を、人間とのあつれきを引き起こす大きな要因になります。それで、最後の
一つが環境の要因です。これは
生息環境が保全されなければ
野生動物生きていけませんし、あるいは環境の攪乱なり食物が急になくなった、食べる物が急になくなったということで里に出てくるということもあり得ます。これは、やはり数の問題や行動の問題とも連動することですけれども、独立に
生息地の
管理ということがあると思います。
これらの要因がどれだけ影響して今の
被害なりあつれき、あるいは
絶滅の危惧なりが生じているかということをきっちりと判断しないといけないわけです。これを間違ってしまいますと、例えば
動物の数は減っていないのに、行動が変化したり環境の問題で里に出てくるようになったという、本当はそうであるのに勘違いして、よく
動物が出てくるようになったから数が増えてしまったんだと勘違いして
個体数
調整をしてしまうと、これは
被害は収まらないし、最後の一頭まで捕らないと
被害は収まらない、
絶滅も危惧されるということになります。
また、逆の勘違いもあります。
動物は数が増えてきて、環境条件もいいし、それで
被害が出ているのに、これは環境条件が悪いせいだと、そういうふうに勘違いをしてしまって山の中でのえさの供給を増やす。そういうことをすると、今度は
動物の数、増えて出てきた
動物の数をもっと増やすことになります。そうなってくると、また間違った判断ということがあり得るということで、
保護管理のためのオプションというのは増えていくわけですけれども、その選択を誤ると
対策を誤ることにつながるんではないかというふうなことがあります。
それで、例えば、私の方で
シカと
イノシシの例を簡単に挙げて説明します。
シカも
イノシシも兵庫県では非常に農業
被害多いですし、
シカの場合は、これ、下の
写真はウバメガシの林、備長炭を作るウバメガシの林なんですけれども、これが
シカの食害のために全く再生しないという
状況になって、大台とか尾瀬などでは
シカの、国立公園の中で植生が
シカのために衰退していくという事情がありますけれども、これは国立公園じゃなくても普通の里山なり森林の中で
シカによる食害で自然の植生が衰退していくということもあります。
イノシシの方は農業
被害が深刻だということですね。
兵庫県の中で
イノシシや
シカの
状況がどうなっているかというのを次のグラフ、これは赤いところで多いという。ようやくこの
調査が完了して
イノシシ、
シカの分布図出せるのは、これ、いる、いないで分布図を作ってみますと、兵庫県のほとんどの
地域で
シカもいる、
イノシシもいるというふうな、いる、いないレベルの
調査というのは割と簡単にできるんですけれども、こういうふうに密度の勾配、どこに多くてどこに少ないかということをデータを挙げているのはかなり大変なことになるわけです。それを挙げてみますとはっきり見て取れると思いますけれども、
イノシシのいるところと
シカのいるところが全く分かれていますね。
イノシシの多いところで
シカは少ない、
シカの多いところで
イノシシは少ないという
状況です。
この辺の要因をなぜかと考えてみます。次の図が、左の図を見ていただけたらと思いますけれども、緑に濃い緑と薄い緑、分かりづらいと思いますけれども、あります。濃い緑は杉、ヒノキの植林地です。薄い緑は二次林だったり雑木林だったり、主にコナラの林が多いんですけれども、そういうところです。振り返って見てみますと、杉、ヒノキの多いところに
イノシシはほとんどいないということが分かります。
シカの方は、杉、ヒノキの多いところでも
シカはたくさん、むしろそっちの方にたくさんいるぐらいです。というようなことで、環境条件というのは、
動物によって
生息しやすい条件というのは違うわけですね。それが
一つと。
もう
一つは、これはデータを分析してみて分かったことですけれども、
シカが増えてきたところでは
イノシシが減っているという
状況があります。
イノシシと
シカは別々に分布域は分かれているんですけれども、
シカが増えると下層植生がさっき言ったようになくなります。
イノシシは主にやぶの中で子供を育てたり繁殖したりしますので、それがなくなってくると
生息に都合が悪くなるわけですね。そういう意味で、
シカが増え過ぎるとほかの
動物、ここでは
イノシシを例に挙げましたけれども、ほかの
動物が住みづらくなるということはあります。
その辺のところを考えますと、種を、
特定鳥獣を指定しての
休猟区、
休猟区での
捕獲というのは非常に、
場所によってはきちっと
状況が分かってこの
場所で必要だということが分かれば非常に有効に機能するものだと思います。一方で、それがきっちり分からなければなかなか道具、いい道具を持っていても使い方が分からないというふうになってくると思います。
それともう
一つ、右の方の図を見ていただけたらと思いますけれども、銃猟の出猟回数、これを集計したものです。黒が多いところが
狩猟者がよく入っている
場所ですね。これは、
狩猟者というのは大体
イノシシを捕りたい、
シカは余り捕りたくないというのが今例えば兵庫県ではそういう方が多いです。それで、出猟する人がどこに行っているかということを見ると、例えば
イノシシの
被害が深刻な北の方ですね、北の方の
イノシシ、真っ赤になっているところ、ここには余り
狩猟者が入っていないことが分かります。一方で、
イノシシが少なくなっているところ、そういうところに割とたくさん
狩猟者が入っているというようなことがあります。この辺も、
被害の防除なり
対策のために
狩猟を生かすということであれば、うまくこういう
情報を行き渡らせて、
狩猟者、こっちの方に行ったら捕れますよと、捕れるだけじゃなくて
被害に対しても
効果がありますという具合になればいいなと思うんですけれども、この辺りも、
狩猟者はそれぞれ趣味、趣味というか自分の好きで行っているものですし、その辺りでこれをどのくらい
調整できて、例えば今回の
改正にある入
猟者承認制度などの
仕組みをうまく生かしてできるかどうか。これも
情報なり、その
調整能力、力量、地方自治体の力量が問われるところかなと思います。
あと、
生息環境の例をもう
一つお話ししたいと思います。
よく私が聞くストーリーに、山の環境が荒れて
動物が出てくるようになって
被害が起こるというストーリーはよく語られます。実際にはどうなっているかということは、しかし実際にきちんと調べないといけないと思います。
これは
クマの
人身事故が起こった
場所ですけれども、昭和五十年と
平成十四年比べています。やはり、昔は人間が山の中入って、薪を取ったり牛を放牧したり、実は森林の
状況なんか見ると、昔の方が山が荒れている
場所もあります。
そういうようなことで、きちっと
生息環境の変化、そこの実態を押さえないといけない。まあ、こういう
場所だけではないんで、これは
地域によって違うことなんで、慎重にいかないといけないことですけれども、兵庫県全体のものを見てみますと、例えば大きく変わったのは灰色のところ、一九五〇年の図には灰色のところがあります。これは荒れ地です。それが一九八〇年にはほとんどなくなっています。そういう変化が
一つ。あと、一九八〇年には濃い緑のところがあります。これは杉、ヒノキの植林です。こういう変化が
一つ。あと、ピンクのところが住宅地、市街地ですけれども、瀬戸内側ではやはり開発、住宅地や市街地が広がっていると。あと、瀬戸内側の中段辺りに薄緑のところが見えると思いますけれども、これは
ゴルフ場です。
そういう環境の変化は、荒れ地がなくなって森林化しているところ、杉、ヒノキの林が増えていっているところ、住宅地が増えていっているところ、あるいは人が撤退して森林が回復しているところ、いろいろあるわけです。その辺のところを踏まえて、
鳥獣保護区の
管理なり、あるいは
生息地管理をやっていかないといけない。
これが兵庫県の縮図だと思って皆さんにお見せします。兵庫県の縮図ということは日本の縮図かもしれません。神戸市の北区なんですけれども、昭和五十年代の地図と最近の地図です。右の方は住宅地が非常に増えて、当然、
野生動物の
生息場所はなくなっています。ところが、左側の方は林が、農耕地が非常に広がっていて、それが近年になると少なくなって、木の高さも量も豊富になってきているというような、開発されているところと、自然環境が回復していってという
場所、
被害問題がやっぱり大きいのは、人のいないところ、人が撤退していく流れにあるところというところもあります。この辺の事情なんかは、まあこれは
地域によって違いますし、
場所によって違います。この辺をきっちり押さえた上で
対策を練っていかないといけないというのを痛切に感じております。
兵庫県の中では、そういうふうに科学的な知見の蓄積というのが足りない、あと
人材が足りないということで、その課題の認識の下、森林・
野生動物保護管理研究センター、これ仮称ですけれども、十九年四月に設立するということで進めております。そこでは、
調査研究をきちっとやるということと、専門的な
技術職員による関連機関、農業、林業、場合によっては生活衛生の方もあるかもしれません、そういう方への支援、そういうことを行っていこうということで、庁内公募によって五名の候補者を選抜して二年間掛けて
研修をするという体制でやっております。今年が最後の一年の
研修期間で、オン・ザ・ジョブ・トレーニングとして今試験的に予備活動や
情報収集、
仕組みづくりの検討を行っているという段階です。
この辺が五人の
配置でどういうふうに県の中の
保護管理の体制を改善させていくかということで、今のこの財政の事情なんかかんがみますと、なかなかそうたくさんの職員を
配置できるわけではないですし、これだけでも非常に期待されている、県の中では期待されている段階だと思いますんで、これをきちっとやっていかないといけないということ。それと、時間が少なくなってきましたので簡単にいきますけれども、それは、
制度が高度になって複雑になっていく分、当然、
狩猟者にも、
狩猟や
捕獲班で
捕獲に従事される方にも高度な判断なり規制なりが掛かってくるわけです。この辺についても非常に能力や努力が求められるというところになっています。
今、ほとんどボランティア状態、まあ
地域扶助、
地域の相互扶助的な考え方で、皆さんが困っているんだったらできる者がやろうというような考え方で
駆除班活動をやられておられる方が私は多いと思っています。そういう方たち、ただ、ボランティア活動だけでは、今やはりお金がないと生きていけませんので、その辺のところで本当に社会に必要な仕事であるんであれば、能力や労力に見合った報酬が支払われるべきで、それをきちっとしていけば、規制なんかでも、これをきちんと守ってくださいという高度な規制を掛けることも
効果的かなというふうに思っております。
最後、まとめですけれども、今回の
改正、一連の
改正で、選択肢が増えてきめ細かい
対策が必要になると。それに対応するためには、多くの
情報と判断や合意形成の能力というのが必要になってきます。その意味では、私たち、私も含めて、地方自治体でその
対策に取り組む人間としましては、ますますの努力必要だなというふうに思っておるところです。
以上で終わらせていただきます。