○木村
参考人 弁護士の木村裕二と申します。
私は、全国ヤミ金融対策
会議とヤミ金融
被害対策弁護団の事務局長をしています。弁護団は、山口組五
菱会の
やみ金融事件の
被害者百七十五名の依頼を受けて、やみ
金融グループ幹部の梶山進らに対する損害賠償請求の裁判を行っております。
今回、御審議いただいております
改正組織犯罪処罰法及び
被害回復給付金支給法は、
犯罪収益を確実に剥奪するという意味でも、また
被害者救済という意味でも、実に画期的な
制度であると思います。このことを、五
菱会やみ金融事件に具体的にかかわっている立場から申し上げたいと思います。
全国ヤミ金融対策
会議は、二〇〇〇年十二月、全国の弁護士、司法書士、
被害者の会らで結成しました。二〇〇二年九月から昨年十二月まで、七度にわたって、延べ二万七千件の
やみ金融業者の集団告発を行っております。
この集団告発というのは、一時に多数の情報を集中して悪質業者の存在を浮かび上がらせ、また、まとまった
人数で捜査に
協力できる体制を用意することを目的としています。しかし、それでも二〇〇二年ごろは、
やみ金業者の数は余りに多く、その全容もつかめない状態で、
被害は全国的に拡大する一方ではな
いかと感ぜられていました。
しかし、二〇〇三年八月、
やみ金の帝王、梶山進が逮捕され、ピラミッド構造の巨大な
やみ金融組織の存在が明らかになりました。五
菱会やみ金融組織は、およそ二十七のグループで構成され、最盛期には一千店舗を傘下におさめて、数千億円の収益を上げていたと言われております。
そして、この
犯罪収益の一部、米ドル札二億円相当と現金一億円が
国内で押収されました。また、五十一億円相当の預金が
スイスで凍結されました。これが二〇〇三年十一月ごろから二〇〇四年初めごろの
状況です。このように巨大な資金の存在が浮かび上がってきて、果たしてこれをどうするかという問題に直面したわけです。
ところが、現行法上、
犯罪収益であっても、それが
犯罪被害財産である場合には
没収することができないとされています。その趣旨は、
被害弁償を優先するためというのですけれ
ども、国が
没収とともに
犯罪被害者に
被害弁償金を分配するという
制度はありません。現行法上、個々の
被害者自身が民事訴訟を提起して、民事執行を行うよりほか道はありません。
没収もできず、民事執行も受けなければ、
犯罪収益が
犯罪組織の手元に戻ってしまうおそれがあります。これを阻止することがまず第一の目標と
考えられました。同時に、
組織犯罪処罰法が、
犯罪被害財産は
被害者に
返還されなければならないと
規定している以上、これを空文にしてはならない、これが第二の目標となりました。
さらに、海外への
没収資産の
返還、分配を求めるための法的枠組みがないという問題で、
スイス当局の方は、
没収した資金を日本側に一部返してもよいという意向を示し、日本の事情はわかっているので気長に待つ方針だというふうに言ってくれておりました。ですが、日本の
被害者が一人も、だれ一人、具体的行動を起こさず、いつまでたっても
被害状況が明らかにされないのであれば、
スイス当局としてもこれ以上無理して待ってあげる必要はないというふうに言わざるを得なくなることもあるのではな
いかというおそれがありました。
そこで、前例のないことで成否のほどはわかりませんが、時期を失うわけにも
いかないということで、二〇〇四年春、訴訟を提起する方針を決めました。ところが、ここから実際に裁判を提起することができるまで、なお半年近くかかりました。
五
菱会やみ金融事件の場合は、全国に何万人もの
被害者がおります。彼らは、末端の店舗は知っていますけれ
ども、それが五
菱会系列の
やみ金融店舗かどうかは知らないでいます。何万人もの
被害者は、
自分が
当該事件の
被害者だったということさえ知らないままでいます。
私たちもまた、五
菱会系やみ金融事件の
被害者情報を特に持っているわけではありません。民間の私的弁護団には、捜査の秘密やプライバシーを侵害して全
被害者にアクセスするような
手段は持ち合わせていません。したがって、まず一部の原告で裁判を起こして、さらに、そこに参加してくださいという呼びかけをしていくしか
方法がありませんでした。そこで、二〇〇四年十一月、過去の集団告発の案件の中から、五
菱会系列の
やみ金店舗による
被害案件を抽出して、まず八十二名の原告で東京地裁に訴訟を提起したのです。
そもそも、
やみ金融ですとか振り込め詐欺のように、広く市民社会を標的とする
組織犯罪の場合、
被害者が
自分で民事訴訟を提起することは極めて困難です。もともと、
被害者は背後の大物との接点はありませんので、
自分が
当該事件の
被害者であることさえ知りません。知らな
いから、名乗り出ようがないということです。たとえ、そうかもしれないと想像できたにしても、その背後関係を明らかにする手がかり、証拠は
自分の側には何も存在しませんので、自信を持って名乗り出ることもできません。これが最小にして最大の問題です。
仮に、
自分とその大物とのつながりを知ったとしても、報復を恐れて提訴に踏み切ることが難しい。そこを踏み切ったとしても、
犯罪組織の実態を解明したり証拠を収集するような
手段は民間人の
被害者にはありませんので、刑事記録の閲覧、謄写に依存せざるを得ません。そうすると
費用がかかりますので、
自分の
被害額と照らし合わせて
費用対効果を
考えればちゅうちょせざるを得ないということになります。
さらに、
費用をいとわず提訴しようということであれば、多数の
被害者が同じように検察庁に記録の謄写の
申請をするということが同時に行われることになりますので、社会的に見れば極めて非効率ということであります。
さて、今回御審議いただいています
改正組織犯罪処罰法と
被害回復給付金支給法というのは、
犯罪収益を確実に剥奪するという意味でも、
被害者救済という意味でも、画期的な
制度であるということが言えると思います。
犯罪収益を確実に剥奪することは、同種
犯罪の再発を抑止するということにつながります。もしも巨額の違法収益が放置されるなら、違法行為のやり得を許してしまうなら、いつまでたっても違法行為はやむことがないでしょう。単に悪事が繰り返されるというだけではなくて、連綿として続く違法行為の集団、人脈が、さらに悪質化し、拡大していくことが懸念されます。そのつなぎ目となるのが、やはり金です。加害者の手元に残った違法収益です。
巨額の違法収益を放置すれば、市民社会は危険にさらされます。違法収益をその都度吐き出させて、危険な流れを断ち切らなければならないと思います。この
制度は、違法収益吐き出し
制度の、日本における初めの一歩という貴重な
制度であると思っています。
次に、
被害者救済における大きな前進について述べますが、この
制度は、
先ほど申し上げましたような、
被害者自身が民事訴訟を提起する場合に負わされる困難を大幅に取り除いてくれます。
この
手続では、
被害者は
自分の住所、氏名を加害者にさらす必要はありませんので、報復の心配はなくなります。
犯罪収益であることは
刑事裁判で認定済みでありますので、あとは
自分の
被害について、検察官や
被害回復事務管理人の側で収集している証拠と突き合わせて裁定をしてもらえばよいのであって、
被害者の側で全部の証拠をそろえて出す必要はありません。大量の
被害者がいる
事件で公平な
被害回復を図るための集団的な
手続として、実に画期的な
制度であると思っております。
ただ、この画期的な
手続に参加する機会をすべての
被害者に保障するためには、
手続を主宰する側において
被害者の
掘り起こしをする努力が必要であると思います。
官報は見たことがない、そんなものは知らない、役所のホームページは見たことがないというのが
被害者の多くの実情であろうと思いますので、知らな
いから名乗り出ない
被害者にどうやって接近して、どうやって掘り起こすことができるか、これがこの
制度の最初の試金石となるのではな
いかと思っています。
以上が、この
法案に対する評価と運用上の基本的な問題であると思います。
続きまして、
法案に対する意見、希望を述べさせていただきたいと思います。
配付させていただきました「意見の要旨」というA4二枚の紙がありますが、この「3
犯罪被害者保護のための基金の整備」というところをごらんいただければと思います。
法律案では、剰余金が生じた場合には一般会計の歳入に繰り入れることにしていますが、しかし、剰余金が生じてしまうというのは、
被害者の置かれた
状況などによって
手続に参加できなかった、そういう
被害者のお金でありますので、そのような
被害者の損失において国が利得するとすると、それはやはりふさわしくないのではな
いか。
そこで、
犯罪被害者保護のための基金を整備して、剰余金が生じたような
事件においてはこの剰余金を基金に組み入れて、次の
事件のために使うというような仕組みがぜひ欲しいと思っております。
といいますのは、
被害者を掘り起こす工夫をしようと思えば、例えば、いろいろな媒体を使って多数の
被害者にこの
手続を
周知させていくとか、さまざまな調査を行うなど、
費用がかかります。人手もかかります。初動
費用が必要なわけなんですけれ
ども、もしもあらかじめ
費用がないとすると、
掘り起こしも十分にはできない。そうすると、せっかくよい理想で出発した
手続だけれ
ども、さっぱり成果が上がらないということになってしまいます。そうしますと、さらにそもそも
費用不足が見込まれるような
事件については、初めからどうもこの
制度は使えないなというふうに引いてしまう、先細りになってしまうという心配があります。
事件の種類によって
被害者へのアクセスの難易度というのはさまざまであろうと思いますけれ
ども、難しい
事件であればあるほど、このような公的な
手続をぜひとも活用してほしいところであります。
もしも一般会計の予算の枠内でやろうとすると、どうしてもやはりある種の遠慮のようなものが生じざるを得ないと思うのですけれ
ども、提案させていただいたような基金をつくって、違法収益の吐き出し
制度というのは、国の一般的な財政のお世話になるだけではなくて、ある程度自前で回転できるというような仕組みをつくっておくことができれば、違法収益吐き出しの
制度が一定の継続性と発展性を持つことができるのではな
いかと思っております。
四番の「租税債権に対する優先」についても、基本的な
考え方は同じです。
被害者救済との関係では
いかがかということと、一般会計に組み入れるのではなく、この
手続の中で基金を整備する方に向かっていくことができればよりよいのではな
いかということであります。
考え方としては、やはり
犯罪被害財産に関しては、この
制度によって、租税収入の確保よりも
被害回復という国の責務を優先させたというふうに思っております。
確かに、最初からすべてを望むことはできないので、まず可能なことから実現していただきたいとは思いますけれ
ども、なお、この
制度は刑事
手続の
没収を起点とする
被害回復手続であるということに基づく限界があります。それは、例えば多数の消費者に対する詐欺商法などの
事件で、一部の
被害者についての詐欺罪でしか起訴できなかった場合について、
被害回復給付金を受ける出口の方では、
一連の行為として行われた
犯罪行為による
被害者も
手続には参加して配当を受けられますけれ
ども、
没収の
対象に関してはもともと起訴された案件の
被害額しか
原資とすることができない、入り口は狭いけれ
ども出口は広い、そういう問題があります。
それから二つ目は、
刑事裁判では厳格な立証が要求されるので、
犯罪収益とおぼしき
財産が発見されたとしても、直ちに
没収することができるとは限らないし、また、そもそも捜査機関が動かなければこの
手続は始まらないということでありますので、
犯罪収益の剥奪を超えて、より広く民事上の違法収益の吐き出し、
被害回復のための
制度を引き続き検討していただきたいと思います。
私の意見は以上とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)