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齊藤参考人 齊藤忠夫と申します。
きょうは、
衆議院総務委員会において、
放送・
通信に関連して
意見を述べさせていただくということで、御礼申し上げたいと存じます。
私は、もともと、
東京大学で
通信工学を教えていたエンジニアでございます。
通信における
技術の
発展をどのように
社会に結びつけ
国民のものにしていくかということに関して、
総務省の
審議会、その他を通していろいろお
手伝いをさせていただいたということでございますが、
放送と
通信の
連携、
融合ということに当たって、いかにフェアな競争を保ちつつ、
技術の
進展を
国民が享受できるようにしていくかということについて、一言述べさせていただきたいと存じます。
申すまでもございませんが、
技術の
進展は時間軸上での
進展でございます。一九六〇年ごろから急激に
電子技術が
発展してきたということでございまして、エレクトロニクスの
コストパフォーマンスと申しますか、
性能当たりの
コストは、一九六〇年ぐらいから今日までにほぼ十億倍に達した。同じ値段で十億倍のものが買えるようになったということでございます。これによって、それ以前極めて困難であったことがたくさんできるようになってきたということでございます。
きょうの話題のことでいうと、
ネットワークの
ブロードバンド化というのはその代表的な
成果でございます。現在、各種の
方法を通して、
ブロードバンド加入者は
日本では二千万というふうに言われておりますが、これは総合的な
性能、価格を含めて
世界一の
状況になっているわけでございまして、これは、こちらの
委員会の適切な
通信政策上の御指導があったからである、
日本の
通信政策の勝利であるというふうに申し上げてよろしいと思います。
問題は、これをいかに次に続けていくかということであります。
世界一になったからそこで安心しているのではなくて、それをどのようにその次につなげていくかということについていろいろ御
議論になっていらっしゃるということで、深く敬意を表したいと存じます。
現在、
インターネットの
通信容量というのは、
皆さんが使っていらっしゃる
容量ということでございますが、
電話で
お話しになる
通信量の、昨年の五月の段階で
電話の二十五倍でございます。一九九九年ぐらいに
電話の
通信量と
インターネットの
通信量はほぼ等しかったというふうに推定されておりますが、
インターネットの
通信量は毎年ほぼ二倍増加しているわけでございます。
今、
放送のオール
デジタル化ということが言われております。二〇一一年にはすべての
アナログの
放送は
デジタルに変わるということでございますが、そのころには
インターネットの
容量は
電話に比べて千倍になるというふうに推定されています。これだけの
容量があれば、ネットを通して現在のテレビに相当するものを日常的に送ることもできるようになる。
しかし、そのときには、より
コスト優位性のある
電波のほかにもう一つ同様の
容量を持つ
ネットワークができるということでありまして、それの両方をどのように
活用して
連携させながら
日本の全体の
発展を図っていくのかということが、
世界最大の
ブロードバンド国となった
日本の、これから数年かけて実現していかなければならないことではないかというふうに思います。
しかし、それもすべて時間軸上のことでありまして、そのとき、どのようなビジネスをやったらこれが成立するかということについて確定したものがあるわけではありません。これは
世界一になったということの宿命でありまして、模範にするものがないということであります。これから五年間、いろいろなことを
皆さんで知恵を出しながらやっていく、試行していく、そういうことができるようにすることが非常に重要であります。それには、新しいトライアルの障害になっているようなことがもしあれば、それは取り除いていただくということが非常に重要ではないかと思います。
そういう問題の中で、
技術的な
発展は恐らく間違いなく来るわけであります。適切な
マーケットを形成していかなければ、今申しましたような千倍になるというような
発展も期待できない。これは
技術だけでできるものではなくて、
技術が
マーケットをとらえ、それに対して適切な投資をなさる方がおられるということが、すべての
発展の前提でございます。現在まではそれがうまく回転していた。どのようにそれを回転させていくかということでございます。
それと同時に、今まで、
通信も
放送も
社会の
文化の基礎であったわけでございます。
通信は、例えば
電話でいえば、
電話機の形をしていれば
基本的にはどこでもつなげるということがございました。そういった
相互接続性、
相互活用ができるということが重要でございます。
放送においても、
受信機があればどのような
放送でも受信できるということでございます。それぞれに
皆さん自由になさっていてもそれが実現できる、そういう不都合の生じないということとは違う、
相互接続性、
相互活用性ということが、
放送も含めて
ネットワーク型の
技術にとって非常に重要な問題でございます。どのように
秩序を保っていくのかということが大事でございます。
それとともに、
通信でも
放送でも、それが果たしてきた
社会的なインフラストラクチャーとしての
役割、
放送を通して見れば多くの
信頼できる
情報が得られるということもございますし、多くの
国民が同じ
情報をシェアすることによって共感を持つことができるということもございます。そういう
社会の
基本的な
文化のもととしての性質をどのように
変化の中で維持していくのかということも重要なのではないかというふうに思います。
また、
技術開発におきましては、
日本の
IT技術はアメリカに依存するところが多いということもいろいろ言われるわけでございますが、例えば、
放送においては、現在のハイビジョンの
技術というのは
NHK技研が過去三十年にわたって積み重ねてきた結果である。
日本には、それを利用して、たくさんの機器製造会社が存在するわけであります。非常にたくさんございますので、メーカーさんの間で標準をつくることが大変難しくなっているというのが一面の問題であります。
アメリカのような国へ行きますと、同じようなものをつくる会社は大変数が少ないわけでございまして、そういう場合には、ベンチャー的なものも含めて、自分のいっている標準をそのまま国内の標準にするということが比較的抵抗がないわけでございます。そのかわり、独占的な供給というもので
マーケットをとることはありますが、競争的な供給になると大変難しいことが生じてくる、たくさん生じております。
日本では、たくさんのメーカーさんが競争しながら、現在の
放送の場合でいうと、
NHKさんの先行的な研究ということで、両方生かしながら、
世界の
放送機器市場における大きな存在を持つようになっている、大きな産業のもとになっている。これも
NHKさんの
社会還元の一つではないかというふうに思う次第でございます。
今後、こうした
技術の
発展とそれを支える競争の促進、さらに
社会文化の安定な
発展、この中には矛盾する要素もあるわけでございますが、そういうことを全体でとらえながら、どのようにブロードバンド大国としてのその次の地位を保っていくかということが、現在の
放送・
通信政策に課せられている
課題ではないかというふうに存ずる次第でございます。
そういうことに向けて、
技術の
進展、
社会の安定、
文化の
発展、これを両立していくための知恵が求められているということではないかと思います。それは、現在の
技術の
発展が急速である、四十五年で十億倍というふうに申しましたが、今後ともその調子の
発展は続くわけでございます。そういう中でどのようにそれを進めていくか、これが成功するかどうかが
日本の二十一世紀の成功のかぎになっているというふうに思います。
こういった問題は
世界じゅうで
皆さん知恵を絞っているところであります。
世界に負けない知恵が
日本の
通信政策の中で出てくることをぜひお願いして、私の最初の話にさせていただきます。
どうもありがとうございました。(
拍手)