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参考人(
塩見洋介君) 大阪
障害者センターの
塩見と申します。
大阪
障害者センターは、
障害者団体や
事業者が会員となり、共同で研究調査活動や
障害児・者の
権利擁護、
権利保障の
取組を行っている
団体です。私
たちは、これまでの活動を通して、今回
提案の
障害者自立支援法は、慎重の上にも慎重を期して、十分な議論と検証の上に立って、
本当の意味での
障害者の自立、
家族の自立に寄与するものへと内容を抜本的に改めるべきであると考えております。
そもそも、今回
提案の
障害者自立支援法案はさきの国会で廃案となった法律です。しかも、廃案の最大の理由は、
法案への
障害者家族や
関係者からの
批判がかつてない規模で急速に高まったこと、また、衆議院
厚生労働委員会の審議の中で
法案の欠陥や議論の前提となる基礎データの間違いが次々と明らかになったことによるものです。
法案が抱える問題が余りにも大きかったために当初の審議日程の中に収まり切らず、五十五日間という大幅な会期延長を経た七月十五日、ようやく与党単独で衆議院を通過させ、その後、国会解散で廃案となったのです。
私がまず疑問に思うのは、このような経過で廃案となった法律を、施行日を遅らせただけでそのまま再びなぜ上程したのかということです。これまで
障害者やその
家族、
関係者が繰り返し繰り返し訴えてきたことが一顧だにされていないではありませんか。
障害者の自立をうたいながら、
障害者の声を一切受け付けないやり方を押し通すのは、この法律が何よりも
障害者の自立ではなく
政府の都合を最優先させているからではないでしょうか。
こうした
政府の姿勢に対して
全国各地で怒りが広がっていることは当然と言えます。大阪でも、かつてない幅広い
障害者関係団体が一堂に会して、
障害者自立支援法案の慎重審議を求める
運動が急速に進んでいます。四月十四日には、大阪城野外音楽堂を埋め尽くす三千八百人の
障害者が、七月三十一日には、中之島中央公会堂からあふれ出る二千百人もの
障害者がこの
法案への不安や心配を訴えました。そして、今回の再上程を受け、
法案の一方的な押し付けに反対する声は更に広がりを増しています。
障害者、
家族が抱く
障害者自立支援法案への不安、心配は、大きく次の二つに整理することができます。
第一は、
応益定率負担や食費等の全額自己
負担が導入されることへの不安です。
これまでの所得に応じた応能
負担と比べて一気に
負担額が引き上がることや、
障害が重く、多くの
福祉サービスを受けなければならない人ほどたくさんの
負担が支払われなければならないことの不条理は、これまで様々な人から繰り返し述べられてきました。
重度障害者ほど
負担額が引き上がる
応益負担は、一般的に
障害が重ければ重いほど
就労が困難であることを考え合わせると、二重の逆進性を持つ
負担方式です。この一点からも、
障害者福祉に
応益負担を絶対に導入すべきではありません。どうしても
負担を求めるのなら、現行の応能
負担を基本にすべきです。
政府は、こうした声に対して、低
所得者への配慮措置を講じるとしていますが、その内容は次の点で非常に厳しいものとなっています。第一は、一定の配慮が受けられるのは低所得一、低所得二と呼ばれる
市町村民税非課税世帯に限られていることです。課税世帯のうち所得階層の低い世帯には何の配慮もされません。第二は、
政府が準備している配慮措置においてすら、
負担を軽減するという視点からではなく、いかに
負担を求めるかという視点から
制度が組み立てられているということです。
今日、お
手元に三つの
資料をお配りしております。
資料一は、
知的障害者更生施設の入所者が個別減免を受けた際に
手元金が幾らになるのかを示した表です。これまでの審議でも問題となりましたけれ
ども、本人月収が四万八千円から十万円の階層における
手元金は一律二万五千円しか残りません。本人収入が四万五千円未満の人においては
手元金が二万五千円を割り込んでしまいます。これでは、日中の作業的な
取組を通して
障害者に支払われる工賃が、例えば今月は千円から二千円上がったとしても本人の
手元金には一切反映されず、働くことへの意欲や喜びを奪い取ってしまうことになりかねません。正に取り上げるための配慮ではありませんか。
資料二は、
グループホームと通所施設を利用している
障害者の
負担を示したものです。
グループホーム利用者は補足
給付の
制度がありませんから、二万五千円すら
手元金として残らないということは昨日の
委員会審議でも取り上げられました。
グループホームの家賃と食費が
政府の基準額四万五千円の場合でも、本人月収が七万六千百七十七円以上なければ二万五千円が
手元に残りません。
私が問題にしたいのは、そうした人に仕送りをした
家族がいた場合です。例えば、
手元に二万五千円を残すために、何とか今よりも良い暮らしをさせてやりたいと、そういう
願いを込めて
家族が仕送りをすれば、月収六万八千円以下の階層では九千百円が収入認定され、その半額の四千五百五十円が
定率負担として徴収されます。大阪では家賃と食費で通常六万円
程度掛かりますから、
家族の
負担は更に膨らみ、ホームでの
生活がままならなくなります。
家族の切なる
思いからもお金をむしり取っていく、正に追い込みとも言えるような、そんなえげつない取立てはやめていただきたいと
思います。
また、十月六日の
障害保健
福祉関係主管課長会議で、個別減免の全額控除においては稼得収入を優先して充てることが示されました。
資料三は、全額控除
対象を稼得収入を優先した場合とそうでない場合の
負担額の違いを示したものです。無
年金障害者など低所得の
障害者にとってこの違いは重大です。例えば、稼得収入四万円と仕送り四万円の合計八万円によって
グループホームで
生活をしている
障害者の場合、稼得収入分を控除枠に組み込むと、収入認定額が一万四千円、
定率負担分はその五〇%の七千円となるのに対し、仕送りを控除枠に組み込むと、収入認定額が一万一千円、
定率負担分はその一五%の千六百五十円で済むことになります。この例の
障害者の場合、月額八万円で食費、家賃をすべて
負担しなければなりません。そうした人
たちにとってこの差額五千三百五十円の違いは極めて大きいものです。配慮措置といいながら、控除する順序が全く逆ではないですか。
このように、低所得への配慮措置と呼ばれるものは、低所得の
障害者とその
家族からきめ細かく取り上げるためのものとも言えます。こんなおかしな配慮を行わなければならないのも、およそ
障害者施策にはなじまない
応益定率負担を無理やり持ち込もうとしているからではないでしょうか。
とりわけ、これまで利用料がゼロ円だった
市町村民税非課税世帯からの利用料徴収には大きな無理があります。無理を承知で強引に押し切ろうという姿勢は何としても改めていただきたいと
思います。
加えて、補装具の交付についても費用
負担の面で大きな心配があります。
参議院厚生
労働委員調査室の
参考資料によると、補装具の費用は、まず
障害者が
事業者に支払った上で、その九割を
市町村に請求するいわゆる償還払い方式となっています。現在、補装具
制度の見直しの中で、安価でかつ一般的に普及していないものしか補装具として認めない
方向が示されていますが、そうであるならばなおのこと、償還払い方式では支払ができない
障害者が多数生まれてしまいます。
さらに、一割
負担部分についても、
介護給付と訓練等
給付は合算して上限管理がされるものの、補装具は別建て、それ以外にも、
自立支援医療と
地域生活支援事業はそれぞれ別に費用
負担しなければなりません。これでは、月によっては一割
負担だけでも十万円前後となる場合も起こります。補装具は
障害者の体の一部とも言われます。そんな大切な補装具ですら支払ができないために受けられない事態を絶対に招いてはなりません。
障害者、
家族が抱く
障害者自立支援法案への不安、心配の二つ目は、これまで受けることができていた
福祉サービスが継続できなくなるのではないかということです。
自立支援医療や補装具については、所得制限を
強化することで
制度対象者が絞り込まれようとしていますし、
介護給付や訓練等
給付においては、
障害の
程度で
制度利用の可否が決められてしまいます。また、訓練等
給付のうち自立訓練、
就労移行支援においては利用期限が定められており、訓練期間の延長は原則として認められておりません。このうち
介護給付においては、
障害程度区分判定の結果が
制度利用の可否に直結します。
介護給付に区分されるほとんどの
事業が、
対象となる
障害者像について
重度の
障害者を想定しています。
そもそも、
制度利用の可否は暮らしの中での必要度に応じて判断すべきものであって、
障害の
程度で足切りをするべきではありません。
障害が軽いと
判定されても、
生活を維持していく上で
制度利用が欠かせない
障害者は多数存在します。おまけに、肝心の
障害程度区分を測る
判定基準自体が未完成であり、そのことに対して各界からも様々な疑問が寄せられていることも看過できません。
先ごろ、
障害程度区分判定試行
事業の実施結果速報が示されましたが、この報告で一次
判定結果が二次
判定で変更となったのは、一千七百九十ケース中九百三ケース、五〇・四%と過半数に上っています。的中率が五〇%を切る一次
判定に一体どれだけの意味があるのでしょうか。仮にどうしても一次
判定を行うというのであれば、
判定のロジック全体を抜本的に見直すべきです。
一次
判定結果で非該当とされた割合が
精神障害者で三三・二%、身体
障害者は一二・七%、
知的障害者で一一・三%と極めて高い割合で出ていることに着目して、少なくとも
精神障害、知的
障害、視覚
障害、聴覚
障害、肢体
障害、内部
障害と
障害ごとに
判定基準を策定し、それらの
障害を併せ持つ重複
障害者についての
判定基準も新たに
開発するべきです。
二次
判定を行う
審査会がしっかり
機能すれば一次
判定の不十分を補うことができるとの
意見もありますが、都市部においては
審査されなければならない
障害者が多数に上るため、十分時間を取って
審査できないこと、中山間部においては専門的知識を持った
審査会委員の選任が困難なことなど、その
機能が十分発揮できるかの不安はぬぐえません。
また、児童デイ
サービスに関しては、児童の
障害程度区分の
判定手法が
開発されていないため、現行
制度における
判定基準をそのまま援用すると言われています。このことを
一つ取ってみても、この
制度がいかに準備不足であるかが分かります。
児童と同様、成人の
障害程度区分の
判定手法もいまだに
開発途上、未完成品です。厚生
労働省は実施しつつ改善すると述べていますが、これでは、安全チェックや走行テストで問題ありとされた自動車に無理やり
障害者を乗り込ませ、突っ走るようなものです。こんな危険なやり方は絶対に許せません。なぜなら、
制度利用の可否は
障害者やその
家族の命と人権を直接左右するからです。
また、訓練等
給付においては、原則として
サービス内容に適合しない場合は
対象外となります。これは、自立訓練や
就労移行支援など各
事業の目的に
障害者を当てはめて、ふるいに掛けるようなやり方です。まず何よりも
障害者を
中心に据え、柔軟で系統的な
支援を継続して提供することこそ、自立や
就労に向けた力を着実に育てていく保障となるのではないでしょうか。そのためにも、訓練等
給付への成功報酬や有期限の持込みはやめて、ゆったりと柔軟な
支援を行えるよう改めるべきです。
利用料
負担の面でも、受け取る
サービスの内容の面でも、
障害者、
家族の中には今様々な不安が渦巻いています。こんな問題の多い法律を、国の財政事情や
改革のスケジュールを理由に、
障害者、
家族、
関係者に押し付けることは絶対にやめていただきたいと
思います。
私
たちを抜きに私
たちのことを決めないでとの
当事者の切実な声にしっかりと耳を傾けていただきたい。そして、
制度を持続可能なものに作り替えると称して、必死の
思いで自立に向けた努力をしている
障害者の暮らしを持続できなくするようなことはやめていただきたいと
思います。そのためにも、
障害者自立支援法案が持つ問題点を当
委員会の場で徹底して洗い出して、その改善の方策をしっかりと示していただくこと、採決を急ぐのではなく、慎重な審議を行っていただくことをお
願いして、私の
意見陳述とさせていただきます。