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参考人(
益田哲生君)
日本弁護士連合会の副
会長の
益田でございます。
本法案につきまして、私
どもの
意見を申し述べたいと思います。
それでは、恐縮です、座ってやらせていただきますので。
本法案につきまして、まず結論から申し上げますと、私は、
司法書士法の改正
部分のうち、上訴の提起の代理業務について、後に
指摘いたします点を除き、それについては基本的に反対するものではございません。特に、
土地の
筆界特定手続につきましては、運用いかんによっては現在の
制度よりも簡易迅速に
土地の
境界が
確定するのではないかと期待するものであります。
御承知のとおり、現在、
土地の
境界をめぐる
紛争につきましては、最終的には裁判所における
境界確定訴訟においてその
解決が図られているわけですが、
当事者が適切な
訴訟資料を提出できない等の事情から判決までに相当時日を要することがございまして、これでは有効な
紛争解決制度として機能していないのではないかとの
指摘を受けております。
境界の
確定をもっと円滑に行うことができないのかと、こういった御要請があることは私
どももよう承知しておるところでございます。しかしながら、この
土地の
境界をめぐる
紛争は国民の
権利義務に影響を及ぼす
争い事の最たるものですから、その
解決に当たりましては、国民の裁判を受ける
権利を十二分に保障したものでなければならないと
考えます。
当初示されていた
土地境界確定制度では、
境界確定登記官は
土地所有者からの
申請がなくても
職権で
境界確定の
手続を開始することができ、しかも
境界確定登記官の行った
境界確定の処分につきましては行政事件
訴訟法に基づく取消し
訴訟等でのみ争うことができまして、現下、現在認められております民事
訴訟としての
境界確定訴訟は提起することができないとされるなど、国民の裁判を受ける
権利に重大な影響を及ぼすものでした。
これに比して、今回示されました
土地筆界特定制度は、あくまで
関係者の
申請に基づき
手続が開始されることとされておりますし、
筆界特定登記官が行った
筆界特定について不服あるときは従来どおり裁判所に
境界確定訴訟を提起することができるなど、国民の裁判を受ける
権利に対して一定の配慮がなされておりまして、私
どもとしてもこれを評価するものであります。
しかしながら、この
制度の運用に当たりましては、以下のような点についてなお十分な配慮、対応が必要ではないかと
考えるものです。
まず第一点ですが、
手続上、
当事者に十分な主張、立証の機会を与える必要があると
考えております。
筆界の
特定、
確定といいますのは
公法上のものですから、直接国民の
権利義務に影響を及ぼさないという
考えがございます。確かに
概念上は、
筆界とは
登記された
一筆の区画の
土地とこれに隣接する他の
土地との
公法上の
境界であり、個人の
土地所有権の
範囲を画する
私法上の
境界、いわゆる
所有権界とは異なるとされております。しかしながら、
筆界確定は
所有権の
範囲に実質的に大きな影響を与えるものです。
恐縮ですが、お手元の図をごらんください。
この図は、左側の一番の
土地を甲が所有し、右側の二番の
土地を乙が所有していたといたします。甲が図のように建物を建てたのに対して、乙が一番と二番の
土地の
境界はABの線であり、斜線部は
境界を越えているから撤去せよと、こういったことで
争いになった場合を例に挙げてみます。
この場合、甲の方は、両方の
土地の
境界はAB線ではなくCD線であるから、斜線の建物は自分の所有地内に建てたものであると、このように主張します。したがいまして、裁判の第一の争点というのは、
筆界が果たしてどこなのかということになります。そして、もし
筆界がABということになりますと、甲の方では、仮にそうだとしても、ABCDで囲まれた
土地については自分が二十年以上占有しているのであるから、時効でこの
土地の
部分を取得したと、このような主張をするのが一般の事例としては多いわけです。
このように見ますと、
土地の
所有権の
範囲をめぐる
争いであるとはいいましても、
筆界というものはその結論に大きな影響を及ぼすものであります。このように、裁判の実務とか国民の認識では、
土地の
筆界問題と
所有権の
範囲、すなわち
所有権界の問題とは密接不可分と言うことができるわけです。
また、
法務省の
説明では、
筆界特定登記官による
特定といいますのは、
筆界確定の効果を持つ行政処分ではなくて、
登記官による認識の表明であり、
筆界の位置についての
証明力を有するにすぎないと、このように御
説明になっておられます。しかし、今お手元のような事例で
考えますと、甲乙間の
争いで、仮に
登記官が
筆界はAB線であると
特定するならば、乙に有力な証拠を与え、裁判の帰趨に大きな影響を及ぼすことになります。
このように、
筆界の
特定は事実上国民の
権利義務に大きな影響を及ぼしますので、
特定の
手続を行うに当たっては、
当事者に十分な主張や立証の機会を与えるよう格段の配慮が必要であると
考えるものです。
当事者に主張や立証を尽くさせる適正な
手続の詳細を
法務省令で規定することが必要だと存じます。
第二に、この
制度が正しく定着するためには、この
制度を担う人的な面での
整備が必要だと
考えます。
登記官は、御承知のとおり、従来は
登記手続について専ら書面による形式的
審査を行ってきたわけですが、この
制度の下では、
筆界調査委員の
意見を踏まえてという条件付ではありますが、自ら事実の認定を行い、
筆界の
特定を行うことになります。しかも、
法務省の
説明によれば、
筆界の
特定を行うのは
筆界特定登記官であるから、その
判断は必ずしも
筆界調査委員の
意見に拘束されるものではないとされています。
筆界特定登記官に対して十分な研修を行い、
手続の迅速性だけでなく、民事
訴訟手続に準じて
当事者の主張等を十分に聴く
手続についても教える必要があろうかと思います。また、この適正な
手続を進めるに当たっては
調査委員の陣容を整えることも極めて大切であり、今まで
筆界確定の裁判を担ってきた
弁護士の
調査委員の
役割も大きいと
考えております。
次に、必要な
資料の開示も進めるべきだと
考えます。
当事者に十分な主張、立証を尽くさせるためには、相手方から提出された
資料や取り寄せた
資料を開示するだけではなくて、
法務局が元々持っている手持ち
資料、特に
調査委員が
調査に利用した
資料も
当事者に開示して
手続を進めることが必要です。省令を検討するに当たりましては、こうした情報公開の点についても十分に配慮することが必要であろうと
考えます。
さらに、
申請人が負担すべき費用についても格段の配慮が必要だと
考えます。
筆界特定の
申請人は、測量に要する費用その他の
手続費用を負担しなければならないこととされていますが、
筆界の
特定は、一面、
登記所備付地図の
整備という公的な意義も有しております。この
手続が国民にとって利用しやすい
制度として定着するためには、手数料は最低限のものとして
制度設計する必要があると存じます。
先ほど申し上げましたとおり、隣接する地番の
土地の
境界を定める
筆界問題と
所有権の及ぶ
範囲を定める
所有権界とは密接不可分の
関係にあります。
筆界の
争いの背景には、必ずと言っていいほど
所有権の
範囲に関する
争いがございます。
筆界特定の
制度はあくまで
公法上の
境界を定めるだけだとされていますので、問題の速やかな
解決を図るためには
土地家屋調査士会が
弁護士会との協働で進めているADRの
境界問題相談センターや簡易裁判所等との
手続の連携を図っていくことが是非とも必要であろうと存じております。
境界問題は隣近所の問題でありまして、感情的な面も含んでおります。まず話合いを進めながら
特定手続を行った方がいい事案が多いのではないかと存じます。その
意味で、ADRや簡易裁判所の
手続等との連携というものが欠かせないのではないかと存じます。
冒頭申し上げましたとおり、私は今回創設される
筆界特定手続に反対するものではありませんが、以上のような様々な問題をクリアする必要があろうかと存じます。いずれにいたしましても、市民に利用しやすい
司法を目指すという
司法改革の精神にのっとり、
法務局、
土地家屋調査士会、
弁護士会などが
制度実施の前後を通じて協議し、本当に国民にとって使い勝手のいい、そして国民の利益に資するようなものにする必要があろうかと
考えております。
最後に、冒頭述べましたように、
司法書士法の改正について、一点御
指摘申し上げたいと存じます。
今回の改正法案では、認定
司法書士は自ら代理人として関与している簡裁事件の判決等について上訴の提起の代理業務を行うことができるとされています。その
理由につきましては、二週間という限られた上訴期間内では
弁護士に引き継ぐなどの適切な対応が困難であるから、取りあえず上訴の提起だけは認定
司法書士でもできるようにするということにあるようです。
通常、上訴しますときには、上訴を提起する旨記載したにとどまる書面、いわゆる控訴の場合でありますと控訴状を裁判所に提出いたしまして、後日詳しい上訴
理由を記載した書面、一般には準備書面と呼ばれておりますが、これを裁判所に提出することになります。この上訴
理由が上訴裁判所における
当事者の主張の基本となるものです。認定
司法書士は、御承知のとおり上訴裁判所での
訴訟活動はできませんので、上訴審においてこうした書面の提出はできないということになります。
ところが、民事
訴訟規則の条文上は最初に提出する上訴状に上訴の
理由を記載してもいいということになっております。ただ、この場合、民事
訴訟規則では、上訴状に上訴
理由を記載したときには当該上訴状は上訴裁判所で提出されるべき準備書面を兼ねることとされておりまして、上訴状という一通の書面に書かれておりましても、その中で上訴
理由を主張することは、上訴審における
訴訟活動であることを明らかにしております。したがいまして、もし認定
司法書士の方が裁判所に提出する上訴状に上訴する旨の記載だけではなくて上訴
理由まで記載してしまいますと、認定
司法書士が上訴裁判所における
訴訟活動にかかわったと同様の結果を招来することになります。これでは法の趣旨に反することになってしまいます。
したがいまして、今回の改正により認定
司法書士が上訴するときには、あくまで上訴状には上訴する旨の記載のみにとどめ、上訴
理由の記載はしないことを明らかにしておく必要があると
考えます。この点、特に御
指摘申し上げたいと存じます。
今回の法案に対する
日本弁護士連合会としての
意見は以上でございます。以上をもって私の
意見陳述を終えたいと思います。
ありがとうございました。