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参考人(飯塚尚己君) 御紹介いただきました飯塚でございます。簡単にちょっと自己紹介だけさせていただきますと、これまで十年間、民間のシンクタンクの方で、景気動向でございますとか
経済予測、こういったことに携わってくると同時に、その
経済政策という観点で早稲田大学の方で研究をしてきたというところでございます。本日、政策に絡む観点ということで、早稲田大学
特別研究員ということでお邪魔させていただきました。
実は、私、必ずしも
税制に関する専門というわけではございませんので、本日、こちらの法案につきましてどこまで御意見述べられるかというところはあるわけでございますけれども、いただきました資料を拝読させていただきまして、例えば中小企業に対する優遇
税制、こちらの拡充でございますとか、あるいは人的な投資に対する減税措置の創設、非常に意義深い
内容、結構な
内容が多いのではないかなと思っておる次第でございます。
ただ、一点のみ、いろいろ報道などでもございましたけれども、こちらの
定率減税の縮減、廃止といったことでございますが、こちらの時期につきましては若干時期尚早の嫌いがあるのではないかということを
考えております。その点につきまして、こちら、本日横長の資料をお持ちさせていただきましたが、こちらに沿いまして私の
考え方を
お話しさせていただきたいと思っております。
こちら、一枚おめくりいただきまして、本日
お話しさせていただくポイントでございますが、三つほどございます。
まず第一点目でございますが、ただいま
参考人の井堀先生からも
お話がございましたけれども、やはり財政
再建というのは
日本経済にとって極めて重要な課題と認識しております。そうした中で、
個人所得課税、こちらも増税の
方向で見直さなければいけないということは私も深く認識しておる次第でございます。
ただ、そうは申しましても、やはりその増税につきましては、それは景気への配慮が極めて重要ということでございまして、その縮減の廃止の時期としては、もしかしますとちょっと早過ぎるのかもしれないのかなという感想を持っております。
また、三点目としましては、それでは、じゃ、どのようにこの縮減のタイミングを
考えていけばいいのかというところにつきまして、私は
一つ名目GDP成長率が四%に達したような段階ということを
考えておる次第でございますけれども、そこの辺りの
お話をしたいと思います。
では、一枚おめくりくださいませ。
まず第一点目、二ページ目でございます。まず、やはり財政
再建を
考える上で
個人所得課税の
見直しは必要不可欠ということでございまして、今恐らく財政
再建が
日本経済にとって極めて重要な課題であるというのは研究者あるいはエコノミストの間でも完全なコンセンサスになっていると思います。また、やはり最近は、この増税、財政
再建等を行うに当たって、自然増収あるいは歳出削減だけではなく、やはりある
程度制度的な増税をもってやっていかなければいけないということにつきましてもほぼコンセンサスになっていると思います。
その際に、やはり基幹税の
所得税、こちらの
部分、図表一の方に、こちらグラフを示しておりますが、ピーク時に比べますと非常に税収が減っており、また
所得に対するその
割合というものも低下しているということでございますので、ここの
部分を
見直していかなければいけないということは間違いないのかなと思います。
ただ、問題はやはりそのタイミングということでございまして、三ページ目の方でございますが、現時点における
定率減税の縮減ということにつきましては、場合によっては少し時期尚早になってしまうかもしれないと、このように
考えております。
そう
考える理由、二つございます。
一つ目でございますが、まず
日本の消費者を取り巻く環境ということを見ますと、まだなかなか景気回復の
恩恵が伝わってきていないということがございます。
こちら、まず
日本の景気ですが、二〇〇二年の一月から回復しているということでございまして、企業の方を見てみますと、相当体質の改善が進んでいるということでございます。
日本経済、三つの過剰、こういう重荷があったと言われますが、こちら、図表の二の方には、企業の設備あるいは雇用に対する過剰感、このグラフをお示ししておりますけれども、いっときに比べまして相当過剰感が下がってきているというのがごらんいただけます。
また、図表の三の方は、これは企業の債務、これは借入金と社債の合計でございますが、これのキャッシュフローに対する倍率を見たものです。簡単に言いますと、何年間、キャッシュフローをその借金の返済に充てると何年間で返せるかと、こういうことでございますが、いっときこれが七年間を超えるような非常に高い
水準にございましたが、債務削減進めてきた結果として、もう八〇年代の前半と同じぐらいのところ、バブル前のところにまで下がってきていると、相当企業の体力強化は進んでいるということでございます。
ただ、次のページごらんいただきまして、家計の方を見ていただきますと、なかなか
状況は厳しゅうございます。こちら、図表の四というところに、就業者、あるいは失業、あるいは家計の賃金といったものをお示ししておりますが、丸を打ったところで失業者数見ていただきますと、二〇〇四年度、これまでのところを平均しますと三百十二万人ということです。景気が大幅に悪化したのは九七年のところからということでございますが、その前の九六年、この時点を正常な
状況と
考えますと、そのときとの対比ですと八十七万人失業者が多いということでございます。また、下で丸打っているところで、いわゆるサラリーマンの給与でございますけれども、こちらもピーク対比で二十八万円ほど低いと。最後の丸のところ、可処分
所得ですが、これは今までの減税などによって少しマイナス幅は縮小しているということでございますけれども、そうは申しましても、やはり二十四万円ぐらいおっこっているということでございます。
図表の五と六というところは、それぞれ現金給与総額、失業者数のグラフでお示しておりますので、御参照いただければと思います。
続きまして、二点目でございます。
減税の縮減が時期尚早と
考える二つ目の理由でございますが、こちらは、御承知のとおり、
日本経済が今まだ景気の安定的な回復というところには至っていないということでございます。先般、十一月、十二月と
政府の方でも景気判断を引き下げましたけれども、やはり
日本経済、現状では景気は踊り場にあるということでございます。
図表の七のところはGDPの成長率でございますが、二〇〇四年度に入って二回ほどマイナス成長を記録しているということでございますし、前年比で見たその伸びを見ましても、やはり足下、随分縮小してきているということでございます。私自身の
考え方も、あるいは
政府の
考え方もそうですが、この踊り場から夏場ぐらいまでにはほどなく景気回復してくるという見方も多いわけでございますけれども、一方で二〇〇五年度一杯景気の停滞が続くと、このように悲観的に見る専門家もまだ多いという
状況でございます。
このように、景気がデリケートな中でございますと、なかなかやはり増税論議というものが、家計、消費者のマインドに冷や水を浴びさせてしまうんじゃないかということをちょっと懸念しております。
七ページ目の図表の九でございますが、これは代表的な家計の気分のところ、消費マインドを示した消費者態度指数というものでございますが、年末に向けて大きくこれおっこってきておりました。年が明けまして少し
経済指標あるいは株価といったところにも少し明るさが見え始めまして、少し持ち直している感はございますが、一方で、図表の十の方をごらんいただきますと、少し増税に対する不安が高まっているかなという兆しもございます。
この図表の十の方は、
日本銀行が四半期に一度定期的に調査をしている
生活意識に関するアンケート調査というものでございますが、こちらで、大体四千人ぐらいを対象にして三千人ぐらいの有効回答者ということでございますが、消費を減らしましたという回答をした
人たちに対して、なぜ消費を減らしたんですかという、回答をいたしますと、やはり増税に対する不安というものが高まっていると、このように回答している方が少し増えているということでございます。
次のページへ行っていただきまして、仮に、増税に対する不安というものが仮に消費の減速につながってしまうということになりますと、景気、相当微妙な局面でございますので、失速のおそれもありということなんでございますが、恐らく、その悪影響というのは、場合によっては消費だけではなくて企業の設備投資にも及んでくるかなと思っております。
実は、こちら、図表十一というのは、企業の先行きの五年間ぐらいの成長期待、これをお示ししたものでございますが、非製造業の方を見ますと、足下五年間ぐらいずっとこれが下がってきていると、あるいは非常に低い
水準にとどまってしまっているということになっています。製造業が少し底打ちしたのに比べると非常に印象的なわけでございますが、この背景は、図表十二にございますけれども、こちら、非製造業の需要の構成、
売上げあるいは
利益がどこから生み出されているか、これを需要項目別に見たものでございますけれども、やはり
個人消費の
部分が五割を超えているということでございます。
これまで雇用不安でございますとか、あるいは先ほど申し上げたような
所得の減少という中で、
個人消費なかなか振るわない
状況が続いてきましたが、そういう中でやはり非製造業の方も期待成長率が下がって、それゆえに設備投資がやりづらい、こういう
状況になっているわけでございます。逆に、
個人消費が安定的に回復していくという期待が広がりますと、非製造業の設備投資も増加してくると。非製造業は、実は
日本に占める
割合、大体もう設備投資で見ても雇用で見ても七割ということでございますので、ここが安定化してくれば
日本経済全体の成長も相当安定化してくるということになると思います。
以上、二点、理由を申し上げましたが、ややちょっと
定率減税の縮小というのは時期尚早かもしれないと思っているというところでございます。
三点目入ります前に、簡単にこれまでの
お話をまとめておきますと、私、
個人的にやはり増税は不可避だと思っておりますが、
一つには、その
所得、雇用など家計を取り巻く環境がいまだまだ十分に回復していないということ、二つ目として、景気が必ずしも安定的な回復局面に入っていないということから、少し時期が早過ぎるのではないかということを
お話ししてまいりました。
では、どうすればいいのかという論点、三点目の論点でございますけれども、私としましては、基本的には、御提案といたしまして、
定率減税の縮減、廃止を行うに当たっての条件と申しますか、そういったところを少し明確にしてあげることによって
国民あるいは企業の増税に対する不安の心理というものを大きく緩和できるのではないかと
考えております。
こちら、図表十三のところに与党
税制改正大綱のところから抜粋させていただきましたが、弾力条項と申しますが、景気動向に配慮して
定率減税の縮減、廃止を決めていくということでございますが、ここをより分かりやすい形で条件を提示してはいかがかということでございます。
その条件として私が
考えておりますのは、
一つ目としましては、先ほど申し上げました失業率あるいは
所得といったところが景気が大きく悪化する前の九六年度の
水準にまで戻ってくるというのが
一つ。もう
一つとしましては、冒頭申し上げましたが、名目GDP成長率が四%ぐらいに達するということが
一つ条件になるのではないかなと思っております。
一枚おめくりくださいませ。
私が、じゃ名目GDP四%ということを申し上げておる根拠でございますが、大きく分けますと二つございます。
一つ目は、まず
日本の潜在成長率、これは大体実質のベースで見まして一・五%から二%ぐらいと言われております。これに加えまして、望ましいインフレ率、これどれくらいかというのはなかなか難しゅうございますが、例えば金融政策でインフレターゲットを導入している国、この中で
日本と
比較可能な主要先進国ということで申し上げますと、例えばイギリス、カナダといったところがございますが、こういったところは大体CPI、消費者物価で二%ぐらいという数字を置いております。この数字を正しいとしまして
考えますと、名目の四%ぐらいというのは政策目標として
考えたときにあるべき
水準ではないかなということ。
あと、二つ目の理由は単純です。こちら、図表十五の方に主要先進国の名目GDP成長率を置いておりますけれども、ごらんいただきますと分かりますとおり、
日本と
比較可能な主要先進国、G7、
日本を除くベースで見てみますと、過去平均で四%を超えるぐらいということでございます。
日本もデフレを脱却すればこれぐらいの
水準に達することは可能だろうと、正常な状態に行けばこれぐらいになるのかなというところです。
最後になりますけれども、名目四%成長といいますと非常に高い数字かなという御印象を持たれる先生方も多いと思うんでございますけれども、私は政策次第では十分達成可能な数字かなと思っております。
二〇〇三年度の成長率、二%実質であったわけでございますけれども、仮にデフレが終わっていてインフレ率が二%ぐらいであれば、実は四%の成長率だったということもございますし、多くのエコノミストが予測している二〇〇六年度の
水準は実は一・四%というところになっています。あと一押しでまあ何とかこの二%に達しそうだということなんでございますが、そのためには少し政策的な後押しがあってもよろしいのかなということを
考えています。
ごく簡単に申しますと、こういう言い方はどうかと思いますけれども、当面はやはり景気に優しいマクロ政策を行って、何とかデフレ脱却、これを実現するということがあると思います。
また、構造改革という観点について申し上げますと、生産性を上昇させることによって潜在成長率を高める、これによって
経済成長率全体を高めて財政
再建をやりやすくするということもございますし、また家計がこの後増税を余儀なくされるということでございますと、それを少し緩和する措置として、特に公共料金などの
引下げですとか、そういった実質的な購買力の面から少しその財政
再建の重荷の
部分を緩和してあげると、こういった政策も同時にやっていくということがひとつ重要になってくるのかなと思われます。
私の方からは以上でございます。