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参考人(
高原明生君) 御紹介いただきましてありがとうございます。ちょっと風邪を引いておりまして、お聞き苦しい点があるかと思いますが、何とぞ御容赦くださいませ。
それでは、時間に限りがございますので、早速ではありますが、御報告申し上げたいと思います。
何について
お話し申し上げようか迷いましたが、
日本の
アジア外交、特に対
中外交ということを
お話し申し上げますが、それをする上でも、やはり
等身大の
中国、
中国が今どういう姿にあるのかということを知らないと的確な
外交政策も打ち出せないということは自明のことでございますので、
中国、主には
政治経済の問題ではありますが、今どういう
状況にあるのかということを簡単にまず御説明申し上げた上で、私なりに
日本がどのように対
中外交を進めていったらいいのか、何を考えているかということを
お話し申し上げようと思います。
大体
レジュメの順番に沿って
お話し申し上げてまいりますけれども、まずは、これは皆様もよく御承知の点だとは思いますけれども、
中国の
マクロ経済というのは非常な
速度で
成長しつつあります。
経済成長率は、その
レジュメに六年ほど前から
数字を出しておりますけれども、特に去年、その前の年、九%以上の高
成長ということで、ただ、これは後で申しますけれども、
中国当局がこのように速い
速度で
成長したいと必ずしも思っているわけではなくて、どちらかといえば
経済の過熱が
心配事でございまして、
マクロコントロールがうまく利かなかった結果としてこういう
速度になっている面もあるということをまず押さえておきたいと思います。
しかし、高い
成長率であることはいずれにせよ間違いのないことであって、
中国社会、
経済社会が非常な速さで変わりつつあると、
変化が非常に速いということは、私
たち、大事な点として理解すべきだろうと思います。
同時に、
中国というのは広い国でありますから、
多様性に富んだ
社会であって、私もこれから
中国の
現状はこうだという
お話をするわけですけれども、実は
中国というのは
一言では語れないと。
中国はかくかくしかじかでありますという人の話は皆さんは是非信じないでくださいといいますか、まゆにつばを付けて聞いてもらうという方が私はよろしいのではないかと思って、ちょっと
最初に、あらかじめ変な話でありますがお断り申し上げておこうと思います。
そういう
変化の大きい
中国の中でもやはり基本的な
心配事というのは
人口のことでありまして、そこの点から触れたいんですけれども、今、大体一千万人、毎年一千万人ずつぐらいのオーダーで
中国の
人口は増えているわけですね。様々な
予測があってばらばらですけれども、それ、いつ止まるのかと。一説では二〇三〇年代に十五億弱で止まるんじゃないかと、あるいは二〇四〇年代に十六億弱で止まるんじゃないかとか、様々な
予測がありますが、この
人口の重荷というのが
中国社会に今のし掛かっていることは間違いない、これが多くの問題の基本にあるわけですね。
御存じのように、一九八〇年からもう既に二十五年の長きにわたって
一人っ子政策というのを実施してまいりましたけれども、しかし、その次に申し述べますように、
少子化・
高齢化社会というもう
一つの大問題が迫っておりますので、実は九〇年代の後半から徐々に
一人っ子政策の緩和というのが始まっております。九〇年代の後半から多くの
地方におきまして
一人っ子同士が結婚した場合には二人目も産んでよろしいという、そういう
政策を取っている
地方が実は多いです。ただ、これまではそれにも
制限がありました。条件がありました。例えば、女性は二十八歳以上でなければならないとか、あるいは間隔を四年以上空けなければならないとか、そういう
制限を設けている
地方が多かったんですけれども、そういう
制限を取り払うところが最近増えているというのがここ一、二年の
現状であります。
ただし、
中国社会、やっぱり大きく変わっているなと私なんかも感じますが、伝統的な
中国のその
家族観からしますと、
家族はもちろん多ければ多い方がいいと、そういう
考え方でありましたが、最近はそうではないんですね。特に、
都市におきましてはもう
子供は要らないよと。本当に変わったなと思います、
中国社会。
子供を欲しがるのは
高学歴者、高
所得者。
所得が足らない者は、やっぱり
教育費にすごくお金が掛かるものですから、
子供は要らないと。今いる
子供も邪魔だと、そこまで言う人もいるくらいであって、
一般庶民の
暮らしは実は大変厳しいものがあるという、そういう話でもあります。
その
高齢化の
状況ですが、3.のところで一応リストにしておいたんですけれども、じわじわっと、徐々に六十五歳以上の
年齢の
割合、六十五歳以上の方の
割合が増え、そして十四歳以下の
子供が減っておりまして、多くの町で保育園や幼稚園が
老人ホームに替わっています。それは非常に普通に見られる
状況となっております。
問題は、もちろん
年金ということがその最大の問題なんですけれども、例えば
経済的な
先進地域である上海の例を取りますと、既に六十五歳以上
年齢が二割近くなっているのでありまして、
年金の資金が足らないと、もう四年前の
数字で大赤字だという、そういうことであって、大問題ですね、やっぱり。
それから、そうした
庶民の
暮らしということで申しますと、お金持ちが増えていることは間違いないんですね。よく最近では
日本でもテレビ放映されますが、
ニューリッチとか
中産階級とか、後でちょっと御説明しますけれども、私
たち、私なんかよりはずっといい
暮らしをしている人が非常に多くなっているのですが、しかし問題は
格差です。
いろいろなレベルの
格差があるんですけれども、特に大きな問題は、やっぱり
政治的な問題を考えますと大きな問題は、
都市、
農村間格差であって、
収入の
統計で見ますと、マクロ的に総合すると三・二対一という、そういう二年前の
数字がありますが、しかし、
農民の場合はその
収入の中から肥料を買ったり種を買ったり、
生産コストがまた出ていってしまいますので、あるいは税金も払わなきゃならないというようなことがこれまでありましたので、大体五倍から六倍の
格差があるのではないかというふうに
中国当局も認めているところであります。これはならした
数字ですから、もちろん
都市のリッチなところとそれから
農村の貧しいところというのは、もう何十倍もの開きがあるというわけであります。
ただ、よくある議論は、底上げさえされていれば
社会が不安定になることはないんじゃないかということですね。九・何%も
成長があるのに
社会がぐらぐらすることがあろうかというふうによく言われますけれども、実は絶対的な
所得水準を落としている、そういう人も多いんですね。これも
中国の公式な
統計でありますが、二〇〇〇年から二〇〇二年まで、
農家の間で絶対的な
所得水準を落としている
農家が四割以上あるという、そういう
統計が実はあるので、これはゆゆしきことだということなんですね。
で、どうするのか。
農家の
収入を上げるというのは
日本でもどこでも大変なんですけれども、
一つの
対策は
農民を減らせばいいじゃないかということなんですね。
農民を減らせば
農民の
収入は増えるはずだということで、これまでの厳格な
戸籍制度、つまり
都市住民と
農民とを厳格に分けて
農民を
都市に入れないという、そういうやり方を改めて、もっと
都市への
農民の移住を認めようという、そういうことになってきているのが
現状なんですけれども、しかし、その
制度がやはり問題、壁にぶち当たっていまして、何かというと、
都市住民と
農民の大きな違いは
社会保障を得ることができるかどうかという、そういう違いがあったんですね。要するに、
都市住民として認定されれば
社会保障を受けることができると。
ところが、
都市の
政府にそんな財政的な
ゆとりはないものですから、つまり
農民が
都市にどんどん入ってきて、その
人たちにもこれまでの
都市住民に対するのと同じような
社会保障を手当てできませんので、表面的にはもう
都市の
住民と
農民の
区別はやめましたと言いながらも、実は
区別を続けている、
実態としては続けている、続けざるを得ないというそういう
状況で、
社会保障制度の整備というのは大問題なんですけれども、やっぱり財政的な
ゆとりが
中国政府にありませんので思うようには進んでいないという基本的な
状況があって、これはやっぱり
セーフティーネットの欠如ということで
社会の大きな
不安定材料になっているわけですね。
じゃ、
市場化は他方進んでいるわけで、
経済成長もできて明るい面もあるわけなんですけれども、ただ、そのときに
社会主義の
倫理体系に代わる新しい
市場の
倫理というものができていない、治安も悪い、どうするんだということで、最近は孔子様の
復活なんということが見られます。その
完全復活といいますか、全面的に認めているわけではもちろんなくて、封建的な
部分は除いたいい面だけをまた取り入れていこうというような
考え方があります。
他方、
生活、明日の
生活に対する不安とかいうことが昔とは格段に大きくなっていますので、
宗教を信仰し始める人も最近は非常に多いです。
医療保険が整備されておりませんので、今
病気になると大変なんですね。病院もかなり
拝金主義になっていまして
治療費も高いですので、なるべく
病気にならないようにしなければならない。じゃ、
太極拳や
気功をやるかということで
太極拳や
気功をやる人増えているんですよね。ところが、そういう
流派の中には準
宗教的なといいますか、いろいろな、悪く言えばカルト的な教えも混じったようなものもありますので、
共産党はそういうものとして
法輪功なる一派を邪教と認定して数年前から弾圧しているといったような
状況もありますが、しかし、今申しましたような基本的な
社会状況というのは変わらないわけで、私はどれだけ弾圧されてもいろいろな
宗教の
流派が
社会の間に広まっていくことは避けられないのではないかというふうに思っています。
その
宗教が絡みますけれども、新疆やチベットではいわゆる
独立問題があって、
中国はもう何十年も前からいわゆる
テロ、
中国当局から見ると
テロですね、
独立の側から見れば正当な
独立運動ということになりますけれども、その対応にも今後も悩まされ続けていくだろうというふうに思われます。
それからもう
一つ、
成長の影ということで見落とせないのは
環境の問題であって、エネルギーについてはよく
日本の新聞にも出ておりますけれども、あるいは
レジュメの二ページ目に参りまして、深刻なのは水不足の問題ですね。
中国の北部、本当に水がないですね。もう冗談じゃないんですよ。よく聞く話は、
北京の
ゴルフ場の
ウオーターハザードはみんな水がなくなってしまって、全然
ウオーターハザードではなくなってしまったとか、あるいは
北京オリンピックが二〇〇八年にあるので、今一生懸命周りから水をかき集めて
北京市の緑化をやっています。一見するとスプリンクラーで非常にふんだんに水をまいて、何といいましょうか、
大変北京市内は緑になったんですけれども、
北京の数百キロ西側に大同という石炭や
雲崗石窟で有名な町がありますが、そこの六階のアパートに住んでいる住人の話では、もう夜中三十分しか水が出ないそうです。そういったような
状況があります。
北京オリンピックの
オリンピック村の人工の池があるらしいんですが、その池の大きさも、
設計図上の池の大きさがどんどん小さくなっているらしいですね。これだけ水があるはずだと思っていたのが、やっぱりないということで、何遍もかき直して今はかなり小さくなってしまったというふうな話もあります。
北京の場合ですと、三分の二の水を
地下からくみ上げているということがもう五年前にあって、そうすると、
地下水には再生される
部分と再生されない
部分とあって、もう
陥没事故が起き始めているという、そういう深刻な
状況のようです。
あと、汚染でいいますと、水もそうですし、大気もそうですし、それからCO2の
排出ということで申しますと、今もう
世界二位の
排出国であって、
中国も
ポスト京都議定書の話合いでは相当厳しい局面に立たされるのではないかというふうに思っております。
こうした
状況に対しまして、
共産党はもちろん
無為無策でいるわけではなく、さっき申しましたように、
戸籍制度の
改革であるとかいうような
具体策もありますし、基本的にこういう
バランスの取れた
発展をしていかないとやっぱり持続的に
発展していけないんじゃないかという、そういう
認識はかなり深くもう根付いたと言っていいと思います。特に、
胡錦濤、
温家宝政権になってから、いわゆる
科学的発展観という
言い方の下に、
バランスの取れた
発展をしていこうということを大々的に宣伝しているわけですね。
例えば、
都市と
農村の間の
バランスであるとか、
地域の間の
バランスであるとか、あるいは
経済開発と
社会開発の間の
バランスですね。つまり、おととしには
SARS騒ぎもあったわけで、衛生であるとか
教育であるとか、そういった
経済成長とは直接
関係のないといいますか、いわゆる私
たちの言う
社会開発的な分野も大切ではないかとか、あるいは
環境ですね、
環境、
生態系とそれから
経済成長との
バランスを取っていかなければならないとか、そうしたことを
スローガンとして強調はしているんですけれども、ただ、なかなか
地方の
指導者にしますと、
人事考課の中にそういう
バランスの取れた
発展ということがまだきちんとした
項目になっていないんですね。やっぱり
成長第一の
人事考課制度になっていまして、ここを変えないとやっぱりなかなか実際は変わっていかないんだろうというふうに思います。
それから、
最初に申しました
マクロコントロールがうまく利いてないから期待以上の
成長率になってしまったという話なんですが、もちろん
共産党中央としましては
末端まで指示を出して、それこそ
バランスの取れた
発展をちゃんとしなさいよと、
成長第一じゃ駄目ですよと、いろんなセクターが過熱していますよと。
物価は、去年は
都市部はまだ三%台ですが、
農村の
消費者物価はもう五%近い
数字になっていますので、インフレが大変怖いわけですね。
ところが、昔と違いまして、
党中央の威令が
末端にまでなかなか届かないという、そういう
現状があります。これは非常に深刻な問題だと思います、
中国及び
共産党にとってみると。これを何とかしようということで、去年の秋開かれました
中央委員会の第四回総会、第四回
中央委員会全体
会議ということで四中全会と言っておりますけれども、党のその
統治能力、彼らの言葉で言うと
執政能力、これをどう
強化するのか。
一つは、その党の中の
コントロールをどう利かせるのか、
規律をどうするのか。
規律を正すということですね。その
規律の中には、重要なポイントとして、
汚職、
腐敗を取り締まるということも当然あります。
汚職、
腐敗は相変わらずしょうけつを極めていると言っていいと思いますね。これは本当に
党中央にすれば何とか止めたいと思っているでしょうけれども、もう
地方の幹部は
好き放題をやっていると言うとやや大げさに聞こえるかもしれませんが、そう言って言い過ぎでないようなところもあるので、これもまた
政治にとっては大問題であります。
一つの
対策としましては、もちろん
法治の
強化ですね、
法治の
強化ということを、これも二十何年間
中国共産党は
スローガンに掲げて推し進めようとしていますけれども、なかなか
人々の
意識も変わらないというのが
実態だろうと思います。
それから、ちょっと時間がないので飛ばしてまいりますけれども、七番、Ⅱの7.のところに「調和的な
社会」と書いて、これは最近になって
執政目標として立てられた
項目なんですけれども、
共産党の一
党支配の下でどうやって
人々の
利害調整をしていくのかという、そういう大問題があるわけですね。その問題に
中国共産党も気付いていないわけではなくて、このように明確に対応しなければならない
課題として挙げるところまでは来ていますけれども、しかし、やはり大胆に、例えば
多党制を認めるとかいうようなところにはまだ遠いという段階であります。それから、
社会公正であるとかその道徳の問題であるとか、そういったようなことも問題としてはちゃんと
認識はされていますよということがここに書いたことです。
そして、
最後の十一というところが外交問題にかかわるわけで、
最後の十分間はそういう
お話をしたいんですが、その前に今までのところをまとめてみますと、やっぱり
中国、表面的には非常に景気がいいんですけれども、実は大変深刻な大きな問題を内部に多く抱えている。
共産党はそういった問題の存在については分かっているんですけれども、なかなかうまく対応できないままでいると。
国民の方は
意識も多様化しますし、利益も多元化するし、外国の情報も一杯もちろん入ってきますし、そうするといろいろ文句はやっぱり募るわけですね。今、ですけれども、
胡錦濤政権がやっていることというのは
言論統制です。言うな、黙っていろ、そのうち何とかするからという、そんなのが基本的な態度で、
政治改革が進むんじゃないかと期待した向きもあったんですけれども、やっぱり
問題そのものが難しいですからね、簡単に解決できないということもあって
政治改革の方にも手を付けかねているという、それが
現状だと思います。
じゃ、こうした
中国に対して
日本あるいは
日中関係どうすればいいのかという
お話なんですけれども、多分前回、
国分先生からいろんな
お話もあったと思うんですが、まず簡単に、
日中関係今本当にどういう
状況にあるのかということなんですけれども、
政冷経熱という
言い方が
中国から始まって、面白いといいますか分かりやすい、ある意味では分かりやすいので
メディアでもよく使われますけれども、もちろん冷たい
部分もあれば協力している
部分もたくさんあるということもあると思いますし、それから今
中国側が売り出そうとしているラインは、
政冷経熱、気を付けないと
政冷経冷になっちゃうよということですよね。
例えばどういう
数字を
中国側が挙げてくるかというと、
貿易に関して言えば、これまで
日本はずっと
中国の第一位の
貿易相手国だったんですが、去年はEUとアメリカに抜かれて第三位になっちゃったじゃないのと。
日本の占める
割合というのがどんどん下がっていきますよということを言うんですけれども、しかし、そうはいってももう数十%の
伸び率を
日中間の
貿易は示しているわけで、それは物すごく熱いか、もうあちちちちかあち
ちの違いであって、
日中間の
経済関係が熱いことはこれは間違いのないことだと思います。今
グローバル化の
時代で、
中国はもう
世界じゅうと自由に
貿易をするわけですから、
世界の
経済に占める
日本経済の
割合くらいの
割合を
日本は当然
中国の
貿易相手の中で占めるわけですよね。ですから、別に三位になろうと何位になろうとそのことでがたがたする必要はないんじゃないかと私なんかは考えます。
それから、もう
一つよく言われることは、
相手に対する
国民感情が両国で悪化の一途をたどっていると、そういう
言い方がよくされます。これは
メディアでもされますし、
会議なんかに出ましてもこういう
言い方をする人が多いんですが、それは本当だろうかということなんですね。
確かに、内閣府の毎年やっております
世論調査で
日本国民の対
中感情というのを測ってみますと、去年は一〇ポイント以上落ちたことは間違いないんですね。何が落ちたかというと、
中国に対して
親近感を感ずるという人の
割合が一〇ポイント以上減ったんですね。じゃ、その前はどうなのかといいますと、二〇〇三年までの
状況はどうだったのかというと、どこから測るかというか、どこから見るかという問題があって、例えば一九九六年という年を取ってみますと、九六年より悪くなった年はないんですね、実は。一九九六年に
中国に対する
親近感を感ずる人の
割合が一番低かったんです。あるいは、
中国に対して
親近感を感じない人の
割合が一番高かったのが一九九六年であって、それから対
中感情が良くなったり悪くなったり良くなったり悪くなったり、そういうアップス・アンド・ダウンズを繰り返して二〇〇三年まで来たんですね。ですから、九六年から二〇〇三年までを取ってみると、
日本人の対
中感情が悪くなったということはその
調査からは言えません。ところが、二〇〇四年になって、
アジアカップのサッカーの影響が大きかったと思いますけれども、だあんと一〇ポイント下がった。それは間違いのないことなんですが、しかし、だからといって悪化の一途をたどっているという
言い方をするのは正確ではないんじゃないか。
じゃ、
中国側はどうなのかと。
中国側で反日感情が高まっているように見えますね。実際高まっている
部分があると思います。じゃ、どういう
調査でそういうことが裏付けられるかというと、新聞、
中国側の新聞社がやったり
中国側の研究所がやった
世論調査なるものがあるのですが、それらは決して
社会学的に非常に確かな
調査方法に基づいて行われたのではありません。実はもう
一つ別な
調査結果があって、それによりますと、数年前と比べると、去年ですね、二〇〇四年の
中国人の対
中感情は一〇ポイント以上改善されているというそういう
統計も実はあるのです。
調査結果もあるんです。
だから、なかなか本当のところが分からない。ただ、印象論をいえば、良くなっている面もあるし、悪くなっている面もあると。
中国という国は大きいですから何か矛盾していることが同時に進行するということはよくあることであって、一部では対日感情が悪くなっている、あるいはいよいよ悪化しているということは言えると思いますし、しかし、他方においては親日感情は広まっている
部分もあると。それが
現状に近いのではないかと、実際の
状況に近い
言い方なのではないかというふうに感じているんですが、いずれにせよ、その
中国の当局は、よく言うことなんですけれども、最近はもう
国民感情を無視して私
たちも
外交政策考えられないんだと、
日本と似てきましたよということを言うんですけれども、じゃ、
中国当局は何を見て自分の国の
国民感情を測っているのか、これはよく分かりません。そのインターネットを
指導者がよく見ているという話はあるんですけれども、じゃ、インターネットが正しく
国民、
中国人の
国民感情を映し出しているかというと、決してそんなことはないのであって、この辺やや心配を覚えるところであります。
それが一のところで言いたかったことですが、
最後にもうあと五分しかありませんけれども、どういうふうにじゃこれからするべきかということで何点か時間のある限り申し上げたいと思うんですけれども、
一つは、基本的なポイントとして、好むと好まざるとにかかわらず、やはり東アジア共同体に向けて今後二十年とか三十年とか世の中が動いていくことは私は間違いないと思います。そのときに、
日本人の立場からすれば、でき得れば
日本がイニシアチブを取ってその共同体のデザイン作りを引っ張っていくと、
日本にとって
日本がいいと思うような共同体を作っていくといいましょうか、そういうことが大切なんではないかと思っているんですけれども、そうしたその基本的な
認識の下に対
アジア外交、対
中外交ということを考えた場合に、どうしてもクリアしなければならない問題がいろいろあって、
一つはやっぱり安全保障の問題だと思いますね。
安全保障につきましては、
中国は非常にはっきりとした軍事力
強化の
政策を持っておりますし、それから東シナ海、南シナ海において自分
たちの支配を確立したいという、そういうことも非常にはっきりとした
政策になっているわけですから、もし今の調子で
中国の
経済成長、それに伴う
中国の軍事力の
強化拡充ということが行われてまいりますと、どうしてもその日米安全保障協力とぶつかる面があると思います。なので、それをどう折り合いを付けるのか、あるいはどのようにそのクライシスを避けるのかということですね。これが大変重要な
課題だと思います。短期、長期のいろいろな危機を避けるために、もう様々なレベルで軍人も含めてですね、安全保障協議を盛んにしていかなければならない。頻度を高め、あるいはチャンネルを増やしていかなければならないと、そういうふうに私自身は考えていますし、やがては
中国を含めた新しいその東北アジアの信頼醸成のメカニズムを作らなければならない、そういうふうに考えています。
それから、直近の問題としては朝鮮半島問題とともにこの台湾海峡の問題があって、その点については
若林先生からもちろん詳しい
お話があるわけですけれども、東アジア共同体という観点からはやっぱり台湾にも東アジア共同体に入ってもらった方が
日本にとってもいいですし、台湾にとってもいいですし、それから
中国にとってももちろんいいわけであって、じゃ、それをどうするのか、どうやって引っ張り込んでいくのかというときの第一歩として、香港・マカオと台湾の間のFTAはどうだろうかというのが私自身の提案です。
それから、ODAに関しましては、私は、もちろんいずれは卒業の時が来るでしょう。もう
マクロ経済的には
中国は援助を必要としない国であるはずなんですが、しかし分配がうまくできないんですよね。分配がうまくできないというのはやっぱり途上国だからなんですね。まだそのレベルの国だということだと思います。ですので、私は、当面は対中ODAは維持する、なぜならば、その開発協力の必要がそこにあるからというのが基本的な
考え方です。
それからもう
一つは、
中国の安定、
発展ということが
日本の国益にもなるということで、しかしやがて卒業することは間違いないんで、
日本だけじゃなくていろんな国がエクシットのための道を考え始めているわけですね、口にはしませんけれども。だけれども、僕は、
日本はやっぱりエクシットするときも
最後にエクシットする国になるという宣言をするのはどうかというふうに思っています。
最後はもうシンボリックな額になるかもしれません。だけれども、
日本はやはり
中国の隣にある大国として
中国の安定、
発展に対して
最後まで面倒を見る国になりたいというような宣言をするのがいいのではないかと思っております。
あと一分ほどあるでしょうか。申し訳ございません、時間がなくなりました。
エネルギー協力、これは大消費国同士協力せざるべからずという話です。
それから、歴史
教育につきましては、私は、
日本の
子供にもっと教えるべきだと思いますし、戦争のことを、それから
中国の
子供にもっと戦後の
日本のことを教えるべきだという
考え方をしております。
それから、
メディアに非常に多くの誤りが出るんですね。誤りは困りますので、これは
日本の
メディアも
中国の
メディアも同様なんですけれども、
メディアが自発的にオンブズマン
制度を作れないかと。何か偏向報道何とかといったって、何が偏向かそうじゃないか、非常に基準は難しいですから、とにかく事実の誤りがあるかないかということを
メディア自身がチェックするようなオンブズマン
制度を作ったらどうかというのが私の提案でございます。
それから、インターネット等で
中国語情報を
日本からも増やし、
中国の側からは
日本語情報は増やしてもらいたいし、結局、相互理解が大切なんですけれども、それとともに、相互尊重するということがプライド高き両
国民にとっては大変重要なことではないかと考えている次第でございます。
済みません、
最後ちょっとはしょりましたけれども、以上で私の報告を終わらせていただきます。