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参考人(
柴垣雅子君)
社団法人日本消
費生活アドバイザー・コンサルタント協会の
柴垣と申します。
本日は、
裁判外紛争解決手続の
利用の
促進に関する
法律案について
意見を述べる機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
私は、
山本先生や
吉岡弁護士のような
法律の
専門家ではない、全くの素人なんですけれども、昨年一年間、それからまた今年も続けてやっておりますが、
ADRの実証実験をやっているというところで、今までの経験とそれからその経験の中から見えてきたものについて
意見を述べさせていただきたいというふうに思っております。
皆様のお手元に資料が行っているかと思いますが、それは昨年度私たちが実証実験をやった報告書の中から一部抜粋したものでございます。
御存じない方が多いかと思いますので、ちょっと簡単に私たちの団体を紹介させていただきますと、私たちの団体は、先ほど申しましたように、社団法人の
日本消
費生活アドバイザー・コンサルタント協会と申しまして、消
費生活アドバイザーとコンサルタントが一緒になりまして昭和六十三年に当時の通産
大臣の許可を受けて設立した団体で、現在約四千名近くの会員が北海道から沖縄まで、言わば
消費者問題の
専門家として活躍しております。どんなことをやっているかについてはここのところに出ておりますので、ちょっとごらんいただければいいかと思います。
私たちの団体の中で、
平成三年からウイークエンドテレホンという
消費者相談室を立ち上げておりました。これは、ウイークデーは地元の消費生活センターの窓口が開いているけれども、土日でも
消費者被害がないわけではありませんし、土日にしか相談できないお勤めの方なんかもいらっしゃるということで、主にその行政の消費生活センターの相談員をやっている者が中心となってウイークエンドテレホンという電話相談を始めたわけです。だんだん実績を積みまして、現在では、今年の相談は、土日だけですけれども、もう二千件近く相談が入っているというような
状況です。
そういうふうな相談を受けている中で、
司法改革の流れの中で
ADRの
検討が始まっている。私たちも、
是非私たちの相談室も将来は
ADRを立ち上げたいという思いがございまして、それにはやはり、先ほどの先生方もおっしゃっていましたように、
ADRの
担い手を養成しなければいけないんではないかということで、コンシューマー
ADRエキスパートという講座を昨年二月と六月に行いました。先ほど御
意見を述べられました
山本先生を始めとして、
ADRの
専門家の方を講師に招いての勉強会をやりました。
ちょうどその講座が終わって間もなくですけれども、経済産業省の方から
平成十五年度の特定商取引研究調査というのの委託を受けまして、それでコンシューマー
ADRというのを実証実験を始めたわけです。
それは、次のページにこういうフローチャートがございますので、それをちょっとごらんいただければと思います。
実証実験は
平成十五年の七月四日から
平成十六年の三月三十一日までやりましたけれども、受け付けたのは二月末までで一応終了しまして、受付件数が千六百三十件でした。
私たちの相談から
ADRへの流れがここに出ておりますけれども、特定商取引に関する研究調査ということでしたので、まずそれに該当するかどうかというところから始まりまして、特定商取引に関するものであっても自主的に
消費者が
解決できそうなものについては助言とか情報提供によって自主
解決をお願いしています。
しかし、自分だけでは
解決できそうもない、もう非常に、既に
消費者が事業者と交渉しているけれども相手が応じないとか、また、契約してから長い経過がたっているとかというような自主
解決が困難なものについては私どもが
あっせん交渉をしております。ここで
合意ができて
あっせん解決ができますとここで終わるわけですし、それからまた、不調に終わった場合には、でも、ここで通常は終わってしまうわけですね。今までですと、これでは、不調に終わった場合には
裁判所を御紹介するとか
弁護士さんへ紹介をするとかで終わっていたわけですけれども、ここに
ADRという新しい流れができましたので、もう
一つ消費者にとっては
ADRを選ぶという
選択肢ができたということになります。
これに従って
ADRを私たちは昨年四回行いました。それに当たりましては、まず、
手続実施者という、今回の
法律案では
手続実施者というふうになっていると思いますが、その
調停、裁定をする方をお願いいたしまして、
弁護士さん二名と
大学の先生お一人と
消費者団体の代表の方を入れております。
調停、裁定は四回やりましたというふうに申し上げましたけれども、事案は九事案でした。九つの事案で
当事者は八人です。というのは、一人の
当事者が二つの事案を抱えていたということになります。
調停、裁定をした結果、ここにありますように、
調停、裁定が成立すればそれで終わりですし、それが不成立の場合にはやはり
裁判所などの紹介ということになるわけなんですけれども、ここで一番困ったのが、ちょっと後で詳しく申し上げますけれども、事業者がテーブルに着かないということなんですね。
消費者の方は
是非ADRで
解決したいというふうに望みましても、もう一方の
当事者である事業者がなかなかテーブルに着いてくれません。今八
当事者がいるというふうに申しましたけれども、八人の事業者の中でテーブルに着いてくれたのは一事業者だけです。あとはじゃどうしたかといいますと、一方の
当事者である
消費者だけが出てきて、
調停、裁定の先生方の
意見を聞いたということとか、あるいはまた、私どもが
あっせんをしていることについて、先生方がこれについてはどういうふうに考えるかというようなことを教示してもらうとか、もう既に
解決したものについてこれでよかったかというような、言わば事後検証みたいなことをしたこともあります。
これが
ADRかということになるかと思いますけれども、私たちは、これは実証実験だからどんな形でもありでいいんじゃないかということでいろんな形を探ったわけですけれども、その
一つの事業者とそれから
消費者の両
当事者が出てきた案件は、これはその人が二つの契約を
一つの事業者からしていたんですけれども、二十五歳の地方公務員で、茨城県の北の方に住んでいる人でしたけれども、足が不自由だということはもう電話で聞いていたんですね。その彼が、百七十六万と百九万の二回、宝石のセット、だからネックレスとかイヤリングとかタイピンとか、そういうものを買ったということなんです。これを解約したい、返品して解約したいというような相談だったわけですけれども、ある場所を借りまして
調停、裁定を行ったんですけれども、そのときやってきた青年を見て、私もはっと思いましたし、相手の事業者もはっという顔をなさいました。というのは、足が不自由だとは聞いていたんですけれども、松葉づえをついて、しかし足が下に、両足とも下には着かないんですね。宙ぶらりんなんですよ。松葉づえだけで歩いているというような感じの青年だったんですね。
やっぱり、そういうふうに現実には、両
当事者が同じテーブルに座りますと、言わば障害の程度とか、それから判断力の有無だとか、それから、そういうことがやっぱり現実によく分かりますし、やはり両
当事者が向き合って、じっくりとその
事情を説明したり話し合える
ADRというのの存在はすごく大きな
意味があるというふうに思いました。
ここにお集まりの議員の
皆様方はどのような
ADRというのを念頭に置いていらっしゃるのかというふうに思いますけれども、例えばBツーB、事業者間、それからCツーC、言わば
個人間のような対等の関係の二者の
ADRに対して、私たちがやっているのはBツーC、事業者と
消費者という、非常に情報力とか経済力とか交渉力の間に大きな格差がある
当事者の場合なんですね。そういう場合に、
法律などにとらわれずに
解決に向けて
話合いを尽くすだけでいいんだろうかという思いが私たちにありました。
私たちは、今まで
消費者問題の、
消費者関連の
法律については提言したり、要望したり、いろいろな活動を重ねてきて、その結果実現してきた
消費者関連の
法律というのがたくさんあります。やはり、その法を守って、公正な
合意解決ができる
消費者問題に特化した
ADRが必要ではないかというふうに考えて、これを行ってきたわけです。
私たちは、相談があったときと、それからもう
一つ、私たちの団体のホームページで
ADRについてアンケートを取っております。それについてはここにちょっと入っておりますので、後でごらんいただければと思うんですけれども、その結果を見ますと、私たちのNACSの会員は、私たちの会員は大体知っている人が多いんですけれども、
一般の方には
ADRの認知度は非常に低いと言えます。しかし、幾らかお金を出してでも
紛争の
解決をしたいという人が意外に多いというのが私の印象でした。
今までのその経験から私たちが感じている
問題点を四つほど述べさせていただきますけれども、まず
一つは、相談から
紛争解決まで
一つの流れでとらえることが必要ではないかということです。
消費者のトラブルは、被害額が少ないことというのが通常ですね。
消費者は、トラブルに遭ったとき又は遭いそうになったとき、すぐに
紛争解決機関に申し出ようとは考えないと思います。まず、身近な相談窓口にちょっと相談してみよう、いいアドバイスが受けられるかもしれない、いいアドバイスを受けたら自分の力で
解決できるかもしれないというふうに考えて、電話でも相談できる近くの消費生活センターとか、あるいは私どものウイークエンドテレホンなどへ相談してくるんだというふうに思います。その相談窓口で
解決できなかった場合に、その先に
消費者問題に特化した
紛争解決にゆだねられる道筋ができていると、その
ADRを選択する場合でも安心して選択できるのではないかというふうに思います。
消費者取引に関する相談から、助言、
紛争の
解決まで一元化を図ったことによりまして、
ADRを知らない
消費者に
ADRという
解決方法があることを知らせることができましたし、自分の抱えている問題をどこでどう
解決したらいいのか知らない
消費者にとっては、相談という形で広く窓口を開けておくことが
ADRのすそ野を広げることというふうに考えております。こういう点から、相談から
紛争解決まで、
一つの流れとしてとらえることが必要というふうに思います。
二番目といたしましては、先ほど申しましたように、
ADRに対して事業者がなかなかテーブルに着いてくれないので、
是非その事業者をテーブルに着かせるための方策を何か
検討していただけないかということです。
先ほど申しましたように、この事業者をテーブルに着かせるのが一番苦労した点なんですけれども、
消費者に
ADRのことを説明して同意を得て、事業者に同意を求めても、まずほとんどの事業者からは賛同が得られませんでした。自分たちが何でそんなところに行かなきゃいけないんだとか、
話合いをしたいならそっちから出向けとか、あるいはまた何の権限があってそういうことをやっているんだとか、まあそういうような言葉を何回も聞かされたわけです。私たちが事業者の方にも、そちらの言い分を十分いただいた上での
話合いですからということを伝えても、拒否の姿勢は変わりませんでした。
両
当事者が自主的に
紛争の
解決に向けて話し合うという
ADRの理念にそぐわないというお考えがあるかもしれませんけれども、韓国の
消費者保護院では、出頭しない事業者に対して事業者名の公表などの
措置を取るということを聞いたことがあります。
民間の
紛争解決手続の
利用促進のためにも、
是非、
消費者問題を取り扱う
ADRには事業者をテーブルに着かせるための方策を
検討していただきたいというふうに思います。事業者が
ADRのテーブルに着いた方がメリットがある、着かない方がデメリットが大きいというインセンティブを与える何かがないかというふうに考えています。
三番目は、情報公開の
必要性です。
ADRは、プライバシーとか営業秘密を保持した非公開の
解決というふうに言われています。もちろん、これらを守ることは第一義的に考えなければいけないことですが、プライバシーや営業秘密に配慮しつつ、情報の公開が必要であるというふうに考えます。
ADRには、公正、公平、透明性の確保が求められていますが、情報を公開することによってこれらが担保され、私たちが
ADRを選ぶときの
基準、判断の
基準になります。また、
ADR同士が情報を共有することによって、他の
ADRとの役割分担や相互
利用ができますし、判例のように情報を蓄積することによってより良い
紛争の
解決につながっていくのではないかと思います。そしてまた、各
ADRが情報の開示をすることによって第三者の評価にも堪えるような
解決につながっていくのではないかというふうに考えます。
最後に、四番目ですが、
是非財政の援助をお願いしたいということです。
前にも申し上げましたが、
消費者被害というのは少額、ほとんどが少額なんですね。被害の回復に多額の費用が掛かれば、これは泣き寝入りするということになってしまいます。
当事者の一方である
消費者に経済力がない場合には、
法律扶助が
ADR利用の
促進につながると考えられますし、また
消費者問題を取り扱う行政型の
ADRとして各地の消費生活センターがありますけれども、これは当然無料で相談とか
あっせんをやっております。そうしますと、有料の
民間ADRで
紛争解決を求める
消費者がほとんどいないんではないかというふうに危惧しております。
民間型の
ADRの
育成のためにも、財政の援助を
是非お願いしたいというふうに思います。
私たちは、この
法案に対して、今出されている
法案に対して
基本的には賛成です。しかし、今申し上げましたように、この
法律の四条では、国等の
責務として「情報の提供その他の必要な
措置を講じ、」とありますので、
是非ADRの支援、
育成をお願いしたいと思います。
それからまた、せっかく
ADRで両
当事者の
合意が得られたとしても、その
合意が履行されないときの
執行力が
付与されていません。これは
検討会でも大きな問題になったと聞いております。この点についても更なる御
検討をお願いしたいというふうに思います。
裁判外紛争解決手続の
利用の
促進に関する
法律の名前のように、今後設立されるいわゆる
認証紛争解決事業者が
国民の
信頼を得て、
裁判と並ぶというか、いえ、それ以上の魅力のある
選択肢になることを望んで、私の
意見を終わりたいと思います。
どうもありがとうございました。