○
参考人(
原田泰君) 大和総研の
原田でございます。座ったままで御
説明させていただきます。(
資料映写)
私が基本的に
お話ししたいと思っていることは、
少子高齢社会というのは一般的に、これから大変になる、大変だ、暗いというイメージで語られていることが多いわけですけれ
ども、そういうふうに暗く考えることはないんじゃないかと、必要な
制度改革ができれば、
少子高齢社会というのはむしろ
日本にとっていいことなんじゃないかということを
お話ししたいと思います。
まず、先ほど
阿藤先生からも御
説明がありましたが、
人口が
減少するというのは
日本だけのことではなくて世界のことであると。それは、中国ですら
人口はこれから
減少していくわけですし、それから
アジアNIESの国々もみんな
人口は
減少していくわけです。みんな
人口は
減少していくんだから大丈夫だというのは理屈にならないんですけれ
ども、我々が昔高校で習ったマルサスの
人口論というのは、
人口が増えると大変だと、
人口が増えても食料を生産することができないので大変なことになってしまうと、人類を飢餓が襲って大変悲惨なことになってしまう、そういうのがマルサスの
人口論だったわけです。ですから、それを考えてみれば、
人口が減るということはむしろいいことも一杯あるのではないかというように思います。
いいことを御
説明する前に、まず
人口を増加させることは可能なんだろうかということを考えてみたいと思います。何で
人口が
減少するかというと、基本的にはやはり
子供のコストが大変だということだと思います。
子供はかわいいということについては
日本人が
日本列島に住み着いて以来変わりはないと思うんですね。ですから、
人口が減ったのは、
子供のコストが非常に高くなっているということが
人口が減った大きな
要因ではないかと思います。
じゃ、その
子供のコストというのは、当然、その
子供を養ったり教育をしたりする費用もありますけれ
ども、一番大きな費用は、母親が
子供を育てるために
仕事を辞めなければいけない、休まなければいけないと、そういうものが一番大きなコストだと思います。
ここで
女性の年功賃金カーブというのを書いてございます。二十七から三十三ぐらいのときに退職して
子育てに専念したとしますと、その間の賃金が二千三百万円ぐらいになります。そうしますと、
子供のコストというのはこの二千三百万円を足せば、つまり、養育費に二千三百万円を足したのが
子供のコストかというと、そうではありませんで、こういう年功賃金カーブがありますと、ここで辞めますとここの年功賃金カーブには戻れないわけです。通常の場合には、
出産、
育児として退職後はパートタイマーとして働くというのが普通の労働のパターンになってしまいます。そうしますと、年収百万ぐらいになってしまいまして、
女性の年功賃金カーブとパートで働いたときの差、これが三十三から六十歳まで続くといたしますと、この部分が一億四千万円、で、退職金もございますので一億六千万円。そうしますと、これは二千万円と一億六千万円足しまして一億八千万円掛かるということになります。ですから、これが
子供のコストということになりますと、これが非常に大きなものになってしまいます。これに見合うような
児童手当を増やすとか休業補償するというのはほとんど不可能だと思うんですね。
ですから、
人口を増加させることは、もちろん幾らでも財政支出を増やせば、
人口を増加させることは可能ですけれ
ども、それは年金財政よりももっとお金が掛かるという、そういうことになってしまいます。
ただ、先ほど
松谷先生からも
お話がありましたが、こういう年功賃金カーブとかそういうようなものはこれから崩れていくわけです。そうしますと、この年功賃金カーブは寝てしまいますと、この賃金にもう一度戻ってこういうカーブになるだろうと思うんです。そうしますと、ここの部分だけが
子供のコストということになります。つまり、二千万円が母親が
子供を育てるために、
出産、
育児のために退職したことに伴うコストということになります。
恐らく、
ヨーロッパのフランスとか北欧の国、
アメリカの場合には年功賃金カーブが非常にフラットでございますので、この一億六千万円ではなくて二千万円が
子供のコストになっていると、そういう
状況なわけです。そういう
状況の中で数百万単位の援助を、それをどういう形でするのかというのは非常に難しい問題ではありますけれ
ども、数百万単位の援助をすることによって
出生率が上がっている。もちろん二・一までにはならないんですけれ
ども、
日本の一・二九に比べれば、一・六とか一・八とか、より高い
出生率を得るということは可能なんだろうと思います。そしてまた、その年功賃金カーブが崩れていくということも現実に起きることだと思いますので、そのときにはよく考えてある程度
子供を増やすということは可能なのではないかと思います。それは北欧やフランスがやっていることですので、できるのではないかと思います。
それから、外国人労働力の話ですけれ
ども、それは
松谷先生もおっしゃっておられましたけれ
ども、
人口が百年後には半分になるという、そういう話ですから、その
人口、労働
人口が減らないように外国人労働力を導入するというのは、それはもうほとんど不可能な話だろうというように思います。
私は、
人口が
減少したとしても豊かな
日本を維持していくということは可能だと思います。ただ、それは年金
制度を始めとした
人口減少と
制度の不適合というものを解決する必要があるだろうと思います。
人口が減っていきますと、高い年金を払うことは当然できなくなってくるわけです。つまり、あらゆる世代が同じ、所得の同じ
割合の年金保険料を払うと、そういう年金
制度というのを考えてみますと、私はそれは非常に公正な年金
制度だと思うんですね。そういう年金
制度の下でも、若い世代が豊かになれば、
高齢者は自分が納めたよりも、自分が給料が安いときに一〇%納めていたのが、
成長して若い人が豊かになれば、その若い人が納めた一〇%というのは自分が納めた一〇%よりも高いわけです。そういう高い年金をもらえると。でも、それはその前の世代が一生懸命働いた結果、
成長しているわけですから、それをもらうというのは非常に公正な年金
制度ではないかと思います。
さらに、
人口が増えますと更に高い年金、一人当たりの
成長以上の高い年金がもらえるわけです。
人口が一%で増えていても、実際自分がもらう年金というのは三十年後の
成長したときの所得の一〇%ですので、三十年間で
人口が毎年一%ずつ違いますと三割違うわけです。そうすると、これまでは、高度
成長のときには八%で、一人当たりの所得が八%で
成長して
人口が一%で伸びていたわけですから、そうしますと九%、毎年九%増えると、そういう所得になりますので、三十年後にもらえる金額というのは自分が納めた金額の十三倍ということになります。ところが、ゼロ
成長で
人口が一%で
減少してしまいますと、自分が納めた金額の七割四分ぐらいしかもらえないということになってしまいます。ですから、年金というのはどうしても減らすしかないというように思います。
これは、私いろいろな方に話してだれも信じていただけないんですけれ
ども、
日本の年金というのは金額で見ると世界一高いんです。大体、フルに納めますと月に二十四万円ぐらいなんですけれ
ども、スウェーデンでは十二万九千円、イギリスでは七万円ぐらいにしかなりません。ただ、これはもちろん
日本の物価が高いという問題がありますので、その
日本の物価が高いことを考えて調整しますと、スウェーデン十七万円で、
アメリカ十八万円と。ただ、それでも
日本の年金というのはやはり世界一高いということになります。ですから、やはり年金はカットするしかないと思います。
ただ、年金をカットしても、別にどうしようもなく暮らせなくなるほどカットするというわけではなくて、世界一の福祉
先進国と言われるスウェーデン並みにカットすればそれでほとんどの問題は解決するということになります。ですから、私は
日本というのは何てすばらしい国なんだろうというように思うわけです。つまり、世界一の福祉
先進国であるスウェーデン並みに年金をカットしさえすれば
高齢問題というのはすべて解決してしまうということなわけだからです。同じことは財政問題についても言えるわけですけれ
ども、それは
松谷先生ももう
お話しされましたので、時間が迫っておりますので、それはカットさせていただきます。
話はそれるんですが、
日本の
児童手当の方は世界一低いということになっております。
これから、じゃ
高齢社会をどうしたら明るいものにできるかというと、答えは三つしかないわけでありまして、
一つは
高齢社会のコストを引き下げるということです。これについては年金をカットするしかないということで御
説明申し上げました。もう
一つは、
人口、労働
人口が減るわけですから、一人当たりの生産物を大きくする。それからもう
一つは、より多くの人が働くということで、これしか
高齢社会、
人口減少社会を解決する道はないと思います。
基本的に私が
人口減少社会について楽観的でありますのは、
人口減少している国の方が一人当たりの生産物の伸びが高いんですね。これはアジアの国で見た場合なんですが、この横軸に
人口の
成長率で、縦軸に一人当たりの所得の伸び率というのを取りますと、右下がりの関係があります。つまり、
人口が減って、減っているというか
人口が余り伸びていない国ですね、こっちの方、
人口が余り伸びていない国の方が一人当たりの生産物の
成長率は高いということになっております。
次は、OECD、
先進国のを見ているわけですけれ
ども、この
先進国の場合もやはり右下がりの関係がございます。既に労働
人口が減っている国が、これは九〇年代の
データですけれ
ども、デンマーク、ポルトガル、イギリス、ドイツ、フィンランド、
イタリア、スウェーデンと七か国あります。こちらの国の方が労働
人口の増えている国よりも生産性の伸びは高くなっております。この七か国の労働生産性の伸びが大体二%であります。ということですので、私は将来
日本が労働生産性を毎年二%ぐらい伸ばすことは可能なのではないかというように思います。
じゃ、どうやって一人当たりの労働生産性を伸ばすんだということになりますが、これ例えば
アメリカと比べて産業別に見ますと、
アメリカの労働生産性を一〇〇としますと、
日本がそれよりも低い分野というのは一杯あります。こういう機械とかそういう部分については、これがまあ
アメリカ一〇〇なんですけれ
ども、
日本の生産性は高いんですが、農業とか建設業とかは労働生産性の低い部分がありますので、この部分の生産性を高めることによって労働
人口の
減少に
対応していくということができるのではないかというように思います。
さらに、
日本ではより多くの人がまだ働けるのではないかというように思います。
高齢者がまだ働くということもありますけれ
ども、
女性の労働力だけについて御
説明させていただきたいと思います。
この三角形の透明のところが
日本の
年齢別の
労働力率です。縦軸が
労働力率で横軸が
年齢を示しております。そうしますと、よく言われるこれがM字カーブで、
育児、
出産のところで
労働力率が下がっております。こういうM字カーブは外国にはないと言われているわけです。これは
アメリカの
労働力率なんですけれ
ども、確かにないんですね。
ところが、これは一九九七年の
アメリカの
年齢別労働力率ですけれ
ども、一九六四年を見ますと、
アメリカにはこう非常にはっきりしたM字カーブがありまして、
女性の
労働力率が低かったわけです。それがだんだん変わってきて、非常に高い
労働力率になったわけです。大体
アメリカで起きたことは
日本でも起きるというのは相場でございますので、私は、
日本でも起きるし、起こすことができるのではないかというように思います。
これはフランスですけれ
ども、フランスの場合もやはり同じことが言えるということです。そのことによって労働
人口自体を増やすことができるというように思います。
今までは
人口が
減少しても大丈夫ですよという
お話をしてきたわけですけれ
ども、
人口が減るということは、与えられた空間を、より少ない、
日本列島という与えられた空間をより少ない人数で楽しむことができるということなわけです。ですから、そのことによって我々が今まで得たことのない空間的なゆとり、空間的なゆとりが生む豊かさというのを
日本人が初めて享受できるのではないかというように思います。
例えば、これは通勤地獄なんですけれ
ども、通勤地獄が、今までと輸送力がこれ以上強化されないとしても、労働、働く人々が減ることによって残されたインフラをより優雅に使うことができるということです。これに対しては、労働
人口が少し減ったのであれば快適になるかもしれないけれ
ども、
人口が大きく減ったらむしろ快適にならなくてコスト高になってしまうのではないかという反論があると思います。これについては
松谷先生がおっしゃったような
高齢社会を見据えた公共事業、インフラの整備の
在り方が必要なんだというように思います。
最後に、
少子高齢社会を明るいものにということで、三つばかり述べさせていただきますと、長寿というのは本来人類の理想なわけです。
子供が死ななくなり、大事に育てられるようになった結果が
少子化なわけです。だから、甘やかされているということはあるかもしれませんけれ
ども、大事に育てられるようになったということはいいことではないかというように思います。
ただ、
少子高齢社会を明るいものにするためには、
人口がどんどん増加して高度
成長していた時代に作られた
制度、それは年金
制度がそうなんですけれ
ども、
人口減少、安定
成長時代に不適合を起こしているわけです。つまり、少ない年金保険料でたくさんの年金がもらえるという
制度は
人口がどんどん増えれば可能なんですけれ
ども、それはもう無理だということです。つまり、
制度が不適合を起こしておりますので、この不適合を直す必要があるというように思います。
三番目に、そういう
制度改革さえできれば
少子高齢社会は明るいのではないか。
日本人は初めて空間の豊かさを享受できるわけでありまして、我々が
ヨーロッパや
アメリカに行ったときに感じるような、空間が豊かであるがゆえの豊かな
社会というのを
日本人が歴史上初めて経験できるということで、そういうことを考えますと
少子高齢社会は決して暗いものではないというように思います。
以上で私の話を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。