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参考人(
福井俊彦君) 今、マネタリストという言葉でおっしゃいましたけれ
ども、そういった
金融と実体
経済と結び付けながら理論立てを行っておられる方々、まあ学者の先生方中心に、私は理論的に整合性のある分析と物の言い方を一貫して私
どもに提供してくださっているというふうに思っています。
ただ、私
どもは、現実の
経済、そして現実の
経済を構成している個々の
企業、
金融機関、そして我々個人、家計の行動というものを現実の姿として、そしてその
人々は現時点、将来に向かってどういう心持ちで動いておられるかということをいつも
認識しながら
経済政策、
金融政策をやっていく
立場にございます。学者の先生からお教えいただいている理論が理論としてそのまま実現していくためにも、我々の現実の
政策は、
人々、
企業、
金融機関の行動に現実的な意識としてこれがうまく消化され、それぞれの行動に反映させていただくという大変厄介な
過程を通さなければ実現しないというところに我々の悩みがあるわけでございます。
日本銀行が学者先生と同じことを申し上げて、
人々は、実は大変な借金があるんだけれ
ども、まあ
日銀がそう言うんなら明日からこう動こうと、そういうふうに言ってくだされば我々は非常に楽なんですけれ
ども、なかなかそうはいかない。
したがいまして、我々、量的緩和
政策、これは大きなフレームワークとしては学者先生からお教えいただいている理論的なフレームワークの中で我々は動いているつもりですが、その理論が理論として本当に最終的な
効果に結び付くための現実的なステップというものを我々は踏ましていただいている。
市場に量的流動性をたくさん供給いたします場合にも現実に見ておりますことは、個々の
金融機関の資金繰りの
状況と。非常に円滑な
金融機関もあれば、余り大きな問題もないのに市場の中であそこは問題だと思われていて、容易に金繰りの付かない
金融機関が存在するとか、そういう
状況から実は出発しておりまして、そういった
金融機関はすべて放てきしておいて次に
経済が展開するかというとなかなかそうはいかない。その
金融機関と取引している
企業にとってみれば、自分が営業上、必要上置いている資金が突然なくなってしまうかもしれない。あるいは、今現在借りている借入金をしばらくはこのまま延長していかないと自分の事業は続けられないのに、
金融機関が資金繰りが付かないといって、今まで借りている金まで返せと言われた場合は非常に困るとか、あるいはもう少し前向きの
企業であれば、少しは金を借り増したいと、でもとてもそんなどころではないということになっては困ると。
そういったときには、どうもそういう問題が起こりそうだというだけで、今私が申し上げました範囲以上に問題が広がって、隣の
金融機関についてもひょっとしたらそうじゃないかとか、また更にその隣もそうじゃないかと、これが
金融不安が広がるケースでございます。昨年の夏前までは現にそういう
状況がずっと続いていたわけですので、我々はやっぱりかなり余分と思えるぐらいの流動性を供給することによって、最低限
金融機関の金繰りに不安を起こさせないというところからまずスタートしたということでございます。
それに続いて、
企業の方で、不良債権ではありません、過剰な借入れはむしろ少しずつ返すと、
金融機関の方でも不良債権を少しずつは償却できるという
状況になってまいりますと少し余裕が出てまいります。余裕が出てきた部分は
企業が新規の
投資ができると。昨年の夏以降はそういう
状況にだんだんなってまいりました。そうなってまいりますと、今度は、今は
金融機関から非常に低い
金利で借りられると、もう少しこの低い
金利で長い間借りられれば、この先本当に苦しい場面から脱却できる時間的余裕と自分の事業計画とがマッチするんだという
段階に入ってくる。これが、緩和を少し長く約束することによって、我々は時間軸
効果と言っていますが、量的にたくさん供給するだけではなくて、その時間を約束することによって事業計画を立てやすくする、こちらに少しウエートが変わってまいりました。
今、だんだんそういうこと、この現実的なプロセスを経て、
人々はもうひどい
デフレにはならないんですねと、しかし、まだ
物価がなかなか
プラスになりませんねと、この
段階までは来たということで、期待の修正はある
意味で学者の先生方から教えられているとおりのことが遅ればせながら少しずつ実現しているというのが現状でございます。
その辺、なかなか我々のやり方も完璧ではないことをよく自覚しておりますけれ
ども、現実のプロセスは丹念に踏ませていただいているということをちょっと御説明申し上げさせていただきました。