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森田参考人 国立国会図書館の
森田でございます。
当館では、
平成十四年度に、
主要国における
緊急事態への
対処について総合
調査を行いました。その一環として、北欧を
中心に、緊急時の
食料供給
確保策について現地
調査を実施しています。本日の案件と関連のある事項の外国事情ということで、この
調査の結果の概要を御報告いたします。
お話しするのは、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドとスイスについてですが、これらの国は、防衛
政策の一環として、緊急時に
食料供給を
確保するための
施策を重視してきたことで知られております。その
制度と現状についてお話しします。
まず、スウェーデンですが、この国の
食料自給率は高く、二〇〇一年には八五%です。一九九九年以前は、緊急時への備えとして、
農業生産の
転換計画を持ち、また、
農業者については可能な限り軍務免除としていました。
加えて、総合防衛に関する議会決議に基づいて備蓄を行っておりました。備蓄物資の所有と管理は
農業庁が行い、使用するのは、戦時に生産や輸送が妨げられる危険性がある場合とされておりました。備蓄の目的は、播種、収穫と牛乳生産を保証することでありまして、このために、窒素肥料、農薬及びたんぱく質
飼料を備蓄していました。
食料の備蓄は、南からの物資に依存している北部
地域で行われ、孤立に備えて、加工を要しない
食料、具体的には豆類、米、植物性油脂、缶詰肉を一カ月分備蓄しておりました。加えて、戦後も不足が予測される
地域には、戦後数カ月分のパン用
穀物、砂糖、ドライイースト、植物性油脂が蓄えられていました。
備蓄の費用は、一九九四年の数値では、管理費が一億クローネ、購入費が一億クローネの計二億クローネ、約三十億円であったとのことです。予算は
農業食料漁業省の所管でした。
備蓄の量は、戦争があるとして、その継続期間や物資の輸入の
可能性の
程度を考慮して決められていました。冷戦終結により、一九九〇年代半ば以降は、スウェーデンに対する軍事的脅威は存在しなくなり、貿易が全般的に妨げられることはないとの判断になりました。そのため、現在は備蓄は行っておりません。コストの問題や一九九五年のEUへの加盟も備蓄廃止を決めた理由とされます。
ただし、備蓄は、必要があれば再構築をするということになっておりますし、
農業庁の中に
食料供給
確保のための部署は残っております。
食料自給率については、今もスウェーデンは高いのですが、現在の
考え方では、
食料供給の基盤は、自給に置くのではなく、EU内の物資の自由な流通に置くとしております。
次に、ノルウェーでございます。
ノルウェーは、山がちで耕地が少なく、
食料自給率は五〇%から五五%ほどです。緊急時の物資供給の根拠法は、供給及び民間防衛上の
施策に関する法律です。戦争のほか、生産や供給が妨げられるような事態も
緊急事態として位置づけられています。
食料部門の所管については、計画の調整は貿易産業省が行い、
農業食料省と漁業省が所管部門の
政策に責任を持つことになっています。
ノルウェーが冷戦終結以前に想定していた
緊急事態というのは、具体的には、危機または戦時に数カ月間孤立、その後も生命維持に不可欠な物資の輸入が困難または不可能となるというものでした。このため、冷戦期には、
食料の自給を目指すことが重視されておりました。緊急時のための
農業生産の
転換計画も策定していました。
ノルウェーは、一九九四年から欧州経済
地域に参加しております。また、冷戦の終結によって、自国が通常の輸入元から切り離される
可能性は低くなったと判断するようになりました。
食料生産については、自給の率よりも
農業生産の潜在力の維持の方を重視するようになりました。現在は、
農業生産の潜在力維持のために、
農地の保全が重要であることを強調しております。
備蓄については、二〇〇〇年までは、食用の小麦を六カ月分、
飼料用
穀物を三カ月分備蓄しておりました。以降は量を減じているようですけれども、北部
地域につきましては、リスク分析を行いまして、その結果、十日分の非常用
食料が必要であるとしております。ほかに、戦時には北部
地域に
食料の供給
組織を設立することなども
提案されているようです。
次に、フィンランドです。
フィンランドは、スウェーデンと同時にEUに加盟したのですが、EU加盟後も備蓄の
制度を維持していますし、
農業生産を自給可能な
水準に維持することが必要であると考えています。
食料自給率は八割
程度あります。
緊急時における、
食料を含む必需物資の
確保に関する法律は
二つあります。
一つは
緊急事態準備法で、
緊急事態において、
我が国の内閣に相当する国家評議会が、物資の輸入、生産、流通、価格等を管理する権限について規定しています。ここでの
緊急事態とは、武力攻撃等のほか、必須物資の輸入が困難な事態や、大規模災害などによって、公的機関の通常の権限によって処理ができない場合を言っています。もう
一つの法律、供給保障法は、緊急時の物資の供給保障を定めています。備蓄についてもこの法律で規定されています。
食料の供給を保障するための
政策としては、必需
食料品を国内生産すること、収穫期一期分の不作をカバーすること、一人一日当たり二千八百キロ
カロリーの
需要を満たすこと、供給保障用に備蓄を行うこと等となっております。
供給保障に関する事務をとり行うのは、貿易産業省の傘下の国家緊急供給庁という
組織です。燃料等を含めて、必須物資全般の備蓄もここが所管しています。
食料関係の備蓄の内容は、パン用
穀物、
穀物種子、牧草種子と生産資材となっております。これらは、消費の一年分に見合う量を備蓄しているということでございます。
フィンランドでは、燃料等に課徴金というものを課しておりまして、この課徴金は供給保障基金に集められています。備蓄にかかる費用を含め、供給保障に関する事務の費用は、この供給保障基金で賄われています。
最後に、スイスです。
スイスの
自給率は、六〇%
程度です。二〇〇二年六月には、EUとの間の
農産物貿易協定が発効しています。
この国では、一九八〇年に
国民投票で、戦時のみならず、平時の経済危機にも備えることとなりました。憲法では、軍事的脅威がある場合などや著しく物資が欠乏し
経済活動で
対処できない場合、国家は必須物資の供給を
確保することとされています。また、国家経済供給法で、物資の供給の保障や備蓄を規定しています。
スイスにも、必須物資全般の供給
確保に関する業務を行う
組織があります。国家経済供給機構というもので、連邦経済省傘下の
組織です。
緊急時の
食料供給は、一人当たり二千三百キロ
カロリーを
確保することと、
食料が平等に分配されることを
目標としています。これを可能にする手段として、緊急時に、国家は、供給面では輸入と備蓄
食料の放出と国内生産という三つの手段で
対処する一方、
需要面にも配給や価格統制という手段で介入します。ただし、国家が介入を行うのは、国家的規模の危機に際して、通常の
経済活動が機能しないときに限られます。また、最適な手段の選択についての意思決定を支援するため、コンピューターシステムが構築されています。
食料の備蓄量に関しては、現在は、
穀物、砂糖、食用油脂、米、コーヒーが、それぞれ四カ月分のようです。ほかに肥料の備蓄もあります。
スイスの備蓄物資は、国家ではなく、民間企業が所有しています。備蓄義務のある物資を輸入する企業は、国との間で、
一定期間
一定量の物資を備蓄する契約を結ばないと、輸入ライセンスが得られません。企業には、備蓄を義務づけられるかわりに、備蓄の量に応じて、有利な利率で銀行から融資を受けられるなどの便宜が与えられます。また、国の融資保証も受けられます。
さらに、国は、義務備蓄物資の輸入の際などに企業から課徴金を徴収しておりまして、これを保証基金というものに入れているのですが、この基金から企業に対して備蓄維持費が支払われています。一方、企業は、輸入の際に課された課徴金について、価格に転嫁することが認められておりますので、最終的には、これは
消費者が
負担している形になります。
スイス当局の計算では、必須物資全体の備蓄維持のコストは、二〇〇二年の数値で約一億スイス・フラン、約九十億円とのことです。なお、スイスでは、備蓄物資は企業の所有物ですので、この数値には物資の購入費は含まれておりませんし、期限後の売買の損益というものも考慮した数値ではありません。
このように、これらの国々では、緊急時の
食料供給
確保策は防衛
政策の一環ですので、防衛
政策の変化、緊急時のシナリオの変化を反映して、その内容や
水準も変動し得ます。現在、どのように変化させるのか、あるいはさせないかという点については、国によって異なる判断をしています。
以上、北欧三国とスイスについてお話ししました。報告を終わります。(
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