運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

2004-03-18 第159回国会 参議院 予算委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十六年三月十八日(木曜日)    午前十時二分開会     ─────────────    委員の異動  三月十七日     辞任         補欠選任      福島啓史郎君     田中 直紀君      小林美恵子君     小泉 親司君      林  紀子君     大沢 辰美君      福島 瑞穂君     大田 昌秀君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         片山虎之助君     理 事                 尾辻 秀久君                 小林  温君                 伊達 忠一君                 林  芳正君                 朝日 俊弘君                 高橋 千秋君                 山根 隆治君                 渡辺 孝男君                 大門実紀史君     委 員                 愛知 治郎君                 有馬 朗人君                 扇  千景君                 木村  仁君                 岸  宏一君                 山東 昭子君                 清水嘉与子君                 武見 敬三君                 段本 幸男君                 中川 義雄君                 保坂 三蔵君                 舛添 要一君                 森田 次夫君                 山崎  力君                 小川 勝也君                 小川 敏夫君                 大塚 耕平君                 榛葉賀津也君                 中島 章夫君                 樋口 俊一君                 平野 達男君                 峰崎 直樹君                 高野 博師君                 森本 晃司君                 山本 香苗君                 大沢 辰美君                 小泉 親司君                 大田 昌秀君                 島袋 宗康君    事務局側        常任委員会専門        員        吉田 成宣君    公述人        東京大学大学院        経済学研究科教        授        井堀 利宏君        エコノミスト   紺谷 典子君        拓殖大学国際開        発学部教授    森本  敏君        日本労働組合総        連合会事務局        長        久保田泰雄君        東洋大学経済学        部助教授     駒村 康平君        神奈川県立保健        福祉大学保健福        祉学部教授    山崎 泰彦君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○平成十六年度一般会計予算内閣提出衆議院  送付) ○平成十六年度特別会計予算内閣提出衆議院  送付) ○平成十六年度政府関係機関予算内閣提出、衆  議院送付)     ─────────────
  2. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) ただいまから予算委員会公聴会を開会いたします。  本日は、平成十六年度一般会計予算平成十六年度特別会計予算及び平成十六年度政府関係機関予算につきまして、六名の公述人方々から順次項目別に御意見を伺いたいと存じます。  この際、公述人方々に一言ごあいさつを申し上げます。  お二方には、御多忙中のところ本委員会に御出席いただき、誠にありがとうございます。委員会を代表して厚くお礼申し上げます。  本日は、平成十六年度総予算三案につきましてお二方から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうかよろしくお願いいたします。  次に、会議進め方について申し上げます。  まず、お一人二十分程度で御意見をお述べいただいた後、委員の質疑にお答え願いたいと存じます。  それでは、財政税制について、公述人東京大学大学院経済学研究科教授井堀利宏君の御意見を伺います。井堀公述人、どうぞ。
  3. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 東京大学井堀です。よろしくお願いします。  それでは、私のレジュメに沿って、簡単に、財政再建財政構造改革という視点から、平成十六年度予算に関する公述を行いたいと思います。  今日私がお話しする基本的なテーマというのは、量的な財政再建についてどういったシナリオをこれから検討すべきかということと、それとの絡みで、景気対策あるいは財政構造改革をどういった形で両立させればいいかと、そういった視点から、平成十六年度予算あるいは今後の予算編成について私の見解を述べさせていただきたいと思います。  それで、まず十六年度予算財政状況、非常に厳しいわけですけれども、公債発行残高あるいは公債依存度等を見ても過去最悪と言っていいほどの数字になっているわけですが、そういった財政状況の厳しい状況をどういう形で受け止めるかというときに、二通りの考え方があり得ると思います。  一つは、もう既に日本財政が破綻してどうしようもないという相当悲観的な見方と、それからもう一つ公債の、そうはいっても公債金利水準はそれほど高くないわけですし、財政再建に差し当たって気にする必要はないんじゃないかという、そういう楽観論で、私から見ますと過度悲観論過度楽観論が両立している、共存しているような、そういう状況であると思います。その中で、現実的でもっともらしい財政再建シナリオをもう少し信頼性のある形で打ち出すべきではないかと思います。  具体的に言いますと、今年の一月に内閣府の方で作成した政府の現在の量的削減目標といいますのは、御存じのように二〇一三年度にプライマリーバランス均衡を図ると、あるいはその黒字化を図るということなんですが、黒字化というのがどのくらいの黒字化意味しているのかというのは、黒字というのはプラスですけれども、なかなか、均衡というのはゼロですけれども、黒字というのはどのくらいの黒字なのかというのがよく分からなかった面もあるんですが、一月十六日に諮問会議に提出されました内閣府の資料によりますと、今日の私のレジュメの五ページにそれお付けしてありますけれども、二〇一三年度のプライマリーバランス基礎的収支黒字幅はほとんどゼロに近い数字が出ております。ということは、やはり政府の差し当たっての、今後十年ぐらいの目標というのはプライマリーバランスのほぼ均衡想定しているのではないかと思います。  私が最初に強調したい点というのは、レジュメの一ページに書いてありますが、プライマリーバランス均衡化というのは量的削減目標としては不十分であると。これはどういう意味かといいますと、量的削減目標の基本的なターゲットは、公債残高の対GDP比があるところで発散しない、頭打ちにさせるというのが基本的なターゲットで、まず、対GDP比公債残高が今どんどん上昇しているわけですけれども、現状で一四〇%ぐらいの数字、十年前が六〇%ぐらいです。これがどんどん上昇しているので、あるところで抑えるというのが財政再建の第一段階で、抑えた後、その後どの水準まで削減していくのかというのが次の量的削減の第二のステップになるわけですけれども、差し当たってどのレベルで抑えるかというのが当面の財政再建目標になるかと思います。  そのときに、プライマリーバランス均衡公債残高の対GDP比が安定するかどうかといいますと、これは利子率経済成長率が等しいというのが前提条件になるわけですね。要するに、プライマリーバランス均衡というのは、新規の公債発行で追加的に公債残高を増やさないということは言っているわけですが、今まで出した公債はすべて借換債で無限に先送りして一切償還しないということを意味しているわけで、その意味で、プライマリーバランス均衡しても、金利水準でどんどん国債残高は、公債残高は累増していきますので、GDP成長率との兼ね合いでどちらが、公債残高の対GDP比がどうなるかというのが決まります。  内閣府の資料を見ても、その六ページのところに、ちょっと見にくいんですけれども、コピーが。基本的に、将来の経済成長率利子率は、名目成長率名目利子率は同じ、来年度以降同じ水準で推移するという、こういう前提を置いております。そうであれば、プライマリーバランス均衡で、対GDP比で見た公債残高はある値で収束するわけですけれども、一定になるんですけれども、実は過去二十年ぐらいのデータを見てみましても、あるいは直近のデータを見ても、金利の方が経済成長率よりも高いというのが、これが通常です。  そうしますと、レジュメですと二ページ目に移りますけれども、やはり公債残高の対GDP比を仮に今から十年後の二〇一三年度に安定化させるとしたときに、経済成長率よりも金利の方が多少高いという、そういうより現実的なシナリオの下でもう少し、経済状況がある程度悪くなってもなおかつ財政再建というのが量的に少なくとも達成可能になり得るという、そういうシナリオを出す方が、国民にとっても、市場関係者にとっても、あるいは納税者にとっても、より責任のある財政再建シナリオの出し方ではないかと思います。  仮に、ここ二十年間ぐらいの利子率経済成長率との差を取ってみますと、大体二%ぐらいの、成長率よりも名目利子率の方が二%ぐらい高いというのが過去二十年ぐらいの平均的な数字です。  それから、現在の公債残高、対GDP比は一四〇%ぐらいですけれども、十年後ぐらいになりますと、十年間どんどんこれが上昇し続けるわけですけれども、そうすると常識的に見て二〇〇%ぐらいに達するのではないかと思います。もちろん二〇〇%以下で収まればそれにこしたことはないわけですけれども、今後十年間プライマリーバランス赤字であるということは、対GDP比で見た公債残高は上昇し続けるという、こういう前提を立てざるを得ないわけですから。  そうしますと、大ざっぱな数字ですけれども、金利成長率よりも二%ぐらい高くて、かつ公債残高の対GDP比が十年後に二〇〇%ぐらいになると。そこの段階公債残高の対GDP比一定にさせるという目標を量的な財政再建目標の第一段階だという具合に考えますと、そのときの、つまり二〇一三年度の財政安定化のためのプライマリー収支黒字幅はどのくらいかといいますと、これ単純な掛け算になりますけれども、四%ポイントぐらいの黒字幅が必要になってくる。  次はレジュメ四ページ目に移りますけれども、そうしますと、現在の政府目標では、現在のところ五%ポイントぐらいの赤字幅があるわけですけれども、それを十年掛けてほぼゼロにするというのが政府シナリオなんですが、それは本来必要とされる収支改善幅の約半分ぐらいしか改善することにならないということですね。実際にはその二倍程度の規模の収支改善が必要になる可能性が高い。もちろん、これは将来の経済成長率金利と等しくなるぐらい経済成長率が高くなる、あるいは早めプライマリー収支改善幅が進めば多少この数字はもう少し良くなりますけれども、そうはいっても、余り将来に対して楽観的過ぎる数字の下に財政再建シナリオを書きますと、また二、三年たってそのシナリオ自体を見直さざるを得ない。つまり、信頼性のあるシナリオとしてはある程度堅めの数字で見積もっておく方がより望ましいのではないかと思います。  その意味でかなり状況は厳しいということなんですけれども、もう一つ状況の厳しさというのは、現在の政府目標で二〇一三年度にプライマリーバランスを五%ポイント幅ぐらい縮小させるというシナリオ自体も、かなり楽観的な、相当楽観的な想定を置かないと達成できないだろう。つまり、歳出削減を大幅に進めると、それから、マクロ経済が好調で、実質経済成長率がこれから平均的に二%を超える成長率が十年間続くと、しかも、その下で税収が相当入ってくるという、こういう前提を置いております。  さらに、もう一つの大きな点というのは、現在デフレですけれども、来年度以降は、デフレが終わって、GDPデフレーターその他、物価水準に関する指標プラスに推移して、これから名目成長率がどんどん上昇するという、その次のグラフに書いてございますけれども、これは内閣府の試算ですけれども、二〇一〇年度以降は名目成長率は三%を超えて四%ぐらいになるという、こういう想定を置いております。こういった想定を置いてかなり歳出削減をやったとして、初めて五%ぐらいの収支改善幅が期待できるということですけれども、それでも、それでも公債残高の対GDP比を安定化させるのは苦しいと。残りの四%ポイント程度は裁量的に増税せざるを得ない項目として残ります。しかも、こういったマクロシナリオが多少下の方にずれてしまいますと更に財政状況は悪化しますので、より厳しくなるだろうと思います。  その意味では、財政再建に関しては早めに取り組むべき必要があると思いますけれども、そうしますと、景気対策との兼ね合いをどう考えるのかということが一つの大きな争点になりますが、私のレジュメ七ページのところで景気対策財政再建に関して少しコメントをしております。  小泉政権になってからの基本的な特徴は、景気が後退しているときに公共事業マクロの総需要を量的に支えるという伝統的なケインズ政策に対してかなり消極的であったと。それ自体は、またこれは評価が分かれるところですけれども、私の立場はそれは非常に評価できると思います。景気対策で裁量的にマクロの総需要を支えなくても、民間の活力を引き出す形で民間需要を誘発すると、そういう政策を取ってきたというのは、これは評価できるわけですけれども、問題は、九〇年代後半の伝統的なケインズ政策による量的な財政再建がどの程度景気後退を支えてきたのか。  これに関しては、アカデミックな世界でもいろんな実証研究が行われています。私も九〇年代後半の日本財政政策がどのくらい効果があったのかについて幾つかの統計的な指標を用いて検証したことはありますけれども、大ざっぱに言いますと、短期的な刺激効果にはやはり限界があったんだろうと思います。歳出を増やしても、それから減税してもそれほど景気を刺激する効果はなかったと。逆に言うと、量的に財政再建、つまり歳出を削減しても、増税してもそれほど景気の足を引っ張ってこなかった、あるいは今後もそういう可能性が高いのではないかと思います。  さらに、景気対策をやることのもう一つの問題は、景気対策効果を大きくしようとしますと、どうしても民間と競合しないものに支出、例えば公共事業をやれば、支出を増やすのが一番短期的には効果的なわけですね。民間と競合しているものに支出を増やしますと民間需要がその分引っ込みますから、トータルのマクロ需要は増えないと。つまり、政府支出が増えた分、民間消費なり民間投資が減ってしまえばGDPは増えないわけですね。  その上で、民間と競合しないものというのは、一つには、本当に公的なところがやらなければいけなくて、やらざるを得ない、あるいはやることによって社会全体の便益があるものもあるんですけれども、もう一つのものというのは、全く無駄なもので、民間から見てもあるいは民間経済活動から見ても何ら影響も及ぼさないような完全に無駄な歳出というのもあり得るわけですね。それに関しては、民間に対して全く影響はないわけですから、公共事業を増やした分だけ乗数効果は必ず一だけ増えると。だから、確実にGDPは増えます。確実に短期的にはGDPは増えるんですけれども、全く無駄なものが残るわけですから、中長期的には非常に国民経済全体にとってコストが掛かる。  その意味では、景気対策を優先すると、どうしても民間と競合しないものの中で結果としては無駄なものに偏りがちですから、むしろ、民間需要を誘発させるとすれば、量的に支えるよりは、規制改革のような形で民間インセンティブを付けるような改革が必要で、これは量的な財政再建と十分両立するんだろうと思います。  その次に、じゃ、具体的な増収策をどうするかということなんですけれども、今までお話ししましても、ある程度財政再建をやっても裁量的に増税をせざるを得ない、中長期的には、そういう状況だろうと思います。そのときの具体的な例として、例えば消費税率段階的に引き上げると。毎年一%ポイントずつ、八年間で一三%まで引き上げれば、四%ポイントぐらいの増収に大ざっぱな計算としてはなります。だから、一つのめどとしては、消費税率を徐々に引き上げていくと、一〇%台の半ばの水準に落ち着かせる。  それから、地方の方も財政状況非常に厳しいわけですから、例えば住民税均等割を大幅に引き上げる。十六年度には住民税均等割多少上がりますけれども、まだ数千円のオーダーですから、それを一けた上げて、例えば五万円程度均等割を上げてちゃんと取ると。それから所得税に関して言えば、例えば人的控除本人控除のほかに子供の扶養控除だけに限定して、成人の扶養控除を一切外すとか、そういった抜本的な税制改革をすることによってある程度増税が可能になるんだろうと思います。  ただ、増税をするにはそれなりの国民支持も必要なので、そういうような環境整備が当然必要になるわけですが、差し当たり一番重要なものは、納税者番号制度を導入してきちんと、特に資産関係の課税が公平に行われるように捕捉体制をきちんとする。これは非常に重要なことなんですけれども、もう一つ、せっかく国会で発言する機会を与えられましたので、霞が関ではなかなか出てこない一つのアイデアとして、是非、納税者投票というのを国会皆さんで検討していただきたいと思います。  これはどういうものかといいますと、所得税個人所得税使い道について、納税者自分所得税使い道をある程度その使途を特定できるようにすると。具体的に言いますと、確定申告の時期に確定申告する方は、確定申告自分所得税の徴収額分かりますから、その配分先をある程度指定できる。サラリーマンのように源泉徴収ですべて終わる人に関しては、源泉徴収額が確定した段階で、あなたの源泉徴収額はこのくらいです、その使い道について何か使途を、したいとすればどういった使い道使途をできるかに関して、郵送等できちんと意見を反映すると。  このメリットは、その結果として納税者がある程度納税するということに関心を持つと同時に、納税者がどういった使い道に対してより自分評価をしているのかというのが数字ではっきり出ますので、政策評価の面でも、これはもらう方というのは基本的に各省庁予算に入るわけですけれども、どういった予算配分の仕方について納税者が意向を持っているのかというのを数字で客観的に出てくる。そうすると、各省庁から見ると、こういった形の政策にはこれだけの便益があるということを国民により数字でもってアピールするインセンティブが出てきます。  その意味で、これはすべての税金についてはこれできませんけれども、直接税であってかつ個人所得税というのは、個人というのはいろんな人がいるわけですから、一人当たりの税額というのはそれほど大きくありませんので、是非検討していただきたいと思います。  それから、もう時間が来ましたので、財政構造改革に関して簡単に、社会保障制度地方分権の抜本的な改革が必要であると。  最後ですけれども、改革進め方については、量的な財政再建というのは、徐々に財政再建増税を行うのが必要であって、何らかの、市場に追い込まれて財政が破綻するという状況で危機的な状況に追い込まれてから、結果として必要に迫られて財政再建をするとなりますと、短期的に大幅な歳出カットとか増税に追い込まれます。それはその時点での国民に非常に過大な負担を及ぼしますので、ここで財政再建というのは徐々に負担を平準化する形でなるべくやるのが望ましい。その上で徐々に行うのが望ましいと思います。  構造改革の方は、制度改定に伴うものは改革後の将来像を早期に明示することによって国民支持を取り付けつつ、いったん改革がスタートする以上は後戻りできない形で改革にコミットする、そういった政策信頼性を確立するのが重要だろうと思います。  それでは、時間になりましたので、このくらいで私の公述を終わりたいと思います。
  4. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) どうもありがとうございました。  次に、景気経済について、公述人エコノミスト紺谷典子君の御意見を伺います。紺谷公述人
  5. 紺谷典子

    公述人紺谷典子君) 紺谷でございます。よろしくお願いいたします。  どうして改革政権が出てくるたびに国民生活は悪化して国民の不安は高まるんでしょうか。国民のための改革ではないからじゃないだろうかという疑いをかねてから強く持っております。景気対策は効かないというお話が今ありましたけれども、しかし景気対策のやり方が間違っていたんではないでしょうか。  これまで世界の歴史を振り返りましても、緊縮財政増税財政再建に成功した国は一つもないということでございます。このバブル破裂以降の日本経済を振り返ってみましても、緊縮財政を取ると、景気が悪くなって税収が細って、より多くの国債を発行せざるを得なくなるということを繰り返してきたんではないでしょうか。  景気対策が効かなかったかのように見えるのは、一つにはツーリトル・ツーレートです。アメリカは、例えばナイン・イレブンの直後にITバブル破裂と相まって、アメリカ発の恐慌かというような懸念が一部に生まれたことを皆さん承知だと思います。ですけれども、非常に積極的な経済対策を打ちまして、今や元気になっているということは皆さん承知のとおりでございます。言ってみたら、アメリカはお年寄り一緒に歩いているときに、そのお年寄りがけつまずいてよろめいたときにすぐひじを押さえてやるんですよ。ひじを押さえればお年寄りもすぐ体勢を立て直して、ひじをつかんでいてもらえるんですから、より安心して以前よりもしっかりした足取りで元気に歩いていけるということなんですね。  ところが、日本の場合は、一緒に歩いているお年寄りがけつまずいてよろめくと、こうやって見ているんです、手をこまねいて見ているんです。一時的なことかもしれないからしばらく様子を見よう。自分で立ち直るかもしれないじゃないか。年寄りだからといって甘やかしてはならないというような話になってしまうんですね。そうすると、ばたんと転んでひざのお皿を割ったりしちゃうわけですよ。背負ってお医者さんに連れていかなきゃいけないと。ひじをつかんであげればそれだけの手間で済んだものが、高い治療費が掛かると。ひざのお皿を割っているんですから歩けなくなって、その後寝たきり老人になってしまうかもしれないわけです。適宜適切にタイムリーな必要十分な景気対策をやらなかったことによって、余分な費用を掛けてきたということだと思うんですね。  しかも、その薬は不十分だったわけなんですけれども、その不十分な薬でももらって多少良くなってくると、もう良くなったじゃないかといって薬を途中で取り上げてしまうわけでございます。ところが、薬で熱を抑えているだけですから、すぐぶり返すんですね。中途半端に薬をもらったから耐性菌ができちゃっているかもしれないわけですよ。ぶり返すたびに状態が悪化するということを重ねてきたんじゃないでしょうか。  景気対策を打ったにもかかわらず、経済がいつまでも低迷しているというのは景気対策が効き目がないということではなくて、景気対策のやり方がとても下手だったんだということであろうと私は思っております。  昨今、年金の問題なんかも言われておりますけれども、年金も実は景気対策をきちんとやっていただけば今の料率でも大丈夫なのではないかというふうに私は思っているぐらいでございます。もちろん高齢化の進展とか、日本経済全体が豊かになってきたと、個人でも相当部分の手当てができるようになったということですから、総体的に社会保障制度を見直すということはもちろん必要です。しかし、年金財政が悪化した悪化したということで、それで給付を引き下げ保険料を上げるということを安易にしなくてはならなかったほど今の年金財政が本当に悪いのかどうかというと、相当の疑問を持っております。  例えば、政府は本当のことを公表しておりません。年金の積立金は百四十七兆円としばしば言われますけれども、これは全体ではありません。厚生年金の代行部分三十兆円がこれには含まれておりません。さらには、共済年金の積立金の五十兆も含まれておりません。ですから、実際には八十兆円少なめに公的年金の積立金を言っているということでありまして、何のためにそういうことをなさるのかなと。年金財政の危機をあおるためではないかというふうに考えたくなってしまうわけでございます。  二〇〇一年度の数字で申し上げますと、年金の保険料収入二十七兆円でございます。それから国庫負担分が五・六兆でございましたかね。それから給付が三十九兆だというんですね。しかし、二百三十兆前後の積立金があるわけでございますから、これが従来の年金の運用利回りの半分以下である三%で回ったとしても、六兆円を超える運用益が上がってくるわけでございます。経済が立て直ってその程度の、三%程度の利回りというのは決して過大な期待ではないと思うんですね。そういたしますと、六兆円入ってくると年金は赤字から黒字になっちゃうんですよ。現に四年前までずっと黒字で推移してきたわけでございます。しかも、経済が良くなって給与が増えれば、保険料率が同じでありましても保険金収入は増えるわけですね。そういう設計というのが一番望ましいのではないかというふうに考えているわけでございます。  改革改革といって、改革のたびに国民生活が悪化すると申しましたけれども、例えば年金改革、医療保険改革財政改革というのを見ましても、中身は国民生活は蚊帳の外に置いて、ただ単に財政再建といって、すべてお金の話なんですね。すべてお金の話なんです。ですから、例えば国民に痛みを求めてまでも財政の健全化を図ると、国民生活の健全性を犠牲にして財政の健全化を優先するというのは本末転倒もいいところではないかと私は思うわけでございます。  財政というのは、元々国民自身が国民生活を守るために拠出した税金ではないですか。財政担当の役所が権限を振るうための資金ではないわけでございます。であるにもかかわらず、国民生活の健全性を犠牲にして財政の健全化を図ってきた結果、何が起きたかということなんでございますけれども、今小泉政権財政改革とおっしゃっていただきましたけれども、その結果何が起きたか。税収が十兆円も減っちゃったということですね。  九〇年代以降に入りまして税収は二十兆減っておりますけれども、それでもその約半分をたった二年で減らしてしまったと。非常にラジカルな改革と称するものが行われた結果ではないかと私は考えているんですね。  改革というのは名ばかりでありまして、年金改革にいたしましても、医療保険改革にいたしましても、単なる国民負担増、単なる社会保障の削減でありまして、国民は何ら安心も安全も得ていないということでございます。  しかも、年金の危機と医療保険の危機というのをさんざんあおってきたわけですね。先ほど申し上げましたように、実際以上に危機をあおってきたわけです。医療保険に関しましても、政府管掌保険は赤字赤字だとずっと報じられてきたわけですけれども、本当は黒字であるということをもう日本医師会のシンクタンクである日医総研が計算して示しております。本当は黒字であると。年金も、先ほど申し上げたように実際に政府が公表なさっている積立金は、一部を除いて、非常にその危機をあおるような形になってきているということですね。  医療保険というのは、医療保険の財政をもたせるために存在しているわけではなくて、国民が安心して医療を受けられて健康な生活を送るためにあるんではないでしょうか。年金も、国民が将来不安を感じずに最低限の老後保障があるというふうに思えるためのものではないでしょうか。それなのに年金が危ない、もたないと。医療保険がもたない、危ないとさんざん国民の将来不安をあおった結果、何が起きたかということです。そんなもたない年金だったら入ってもばかばかしいよということで、未納率を高めてかえって年金財政を危うくする一因を作ったんではないでしょうか。  しかも、年金と医療保険のそうした経過の結果、改革と称するものの結果、何が起きたかといいますと、国民は非常に将来不安に駆られて、当初は、橋本行革のときでございますけれども、医療保険改革、年金改革を行うために医療と年金の危機をあおったということで、国民はそれじゃ自分で貯金しなくちゃなということで、消費激減、デフレ経済に突入するきっかけを作ってしまったわけでございます。  今回も、保険料の値上げとそれから給付の引下げその他を決めましたけれども、それでも国民はもう年金のシステムに安心できないと、多くのアンケート調査がすべて同じ結果を出しているんですね、全然安心できないと。改革を行ったら不安が高まるというのは一体どういうことなんでしょうか。  改革と称するものの多くは国民のためじゃないじゃないかという疑いをずっと強く抱いてきておりました。例えば、道路公団の民営化って一体何なんだろうかと、なぜ民営化すれば良くなるのかと、どこが改善されるのかということはさっぱり分からないですね。最終段階になってようやっと会計がどうのこうの、財務諸表がどうのこうのという議論が出てくるのも順番が違っております。まず最初に現状分析です。どこに問題があったのか、どこで意思決定を誤ったのかという現状分析をしっかりやった上でなければ、対策も講じられませんし改革の方向も見えないということです。初めに民営化ありきというのがなぜ改革なのか、私には一向に分かりません。道路四公団の四十兆円の借金を民営化すればすべて民間にツケ回しができるなという感想を強く持ちました。  国鉄を民営化したときにいろいろな形で国費を使ったわけでございます。郵便局のお金からたばこ税から何からいろいろ投入したと思うんですね。国鉄をつぶした方が道路公団の民営化を論じるというのもとても変わった事態だなというふうに思っておりますけれども、でも道路公団を民営化すればなぜ改革なのかということは一切見えないんです。  しかも、採算、採算、採算とおっしゃる。採算って何なんですか。いつ政府は営利企業に成り下がったのかというふうに私は思いました。採算が取れることでしたらばほうっておいても民間がやるからです。事業としてやるからです。もしも高速道路が採算の取れる事業であるんでしたらば、ほうっておいても民間の高速道路会社ができているんじゃないでしょうか。なぜできないんでしょうか。  採算が取れることはほうっておいても民に任せていただきたい、民に任せよとおっしゃる小泉政権なんですから、民に任せていただくということでもいいんですけれども、でもですね、皆さん、採算が取れる高速道路だけ造るということでいいんですか、仮にそんなものがあったとして。ないから道路会社ができてないんだと思いますけれども、仮にあったとして、採算が取れる高速道路だけ造っていていいんでしょうか。高速道路網と申しますね。網というのはネットワークという意味です。道路というのはつながって初めて意味を持つものですね。それなのにぶつ切り状態でいいんですか。ここは採算が取れるから造ると、ここは造らないと、そんな高速道路網なんて聞いたこともないですね。  空港も港湾も非常に利用率が落ちているということを御承知と思います。利用料金が極めて高いからなんですね。高速道路も同じでございます。造って使わないというのが最大の無駄であると私は思うんですけれども、ほかの国は、高速道路にいたしましても、例えばアメリカであれドイツであれ一〇〇%税金で造っているわけですね。それで、原則的には無料で提供していると。使うために造っているからでございます。  もちろん無駄な道路は要りません。だとしたら、道路の改革というのは、どれが必要な道路で、どれが無駄かという選別をすることでこそありまして、やたらめたら削減、凍結する、工事を中止するということではないはずでございます。まして、地球は何年か前から災害のサイクルに入ったと言われ、大地震から鉄砲水から様々な自然災害が起きているということですね。日本に限らず全世界で起きているわけでございます。道路というのは、そういう局面におきまして、国民が災害から避難するための道でもあるわけです。救援車が来るための道でもあるわけです。単に生活の便宜とかあるいは産業育成のためだけのものではないですね。危機管理として道路というのは存在しているんだということも忘れてはならないことだと思うわけです。  さらに、改革と称するものがすべてお金の話であると。それも、中央の財政の節約ということだけを目指しているんではないかという疑いは、地方分権改革にも非常に如実に現れたと思うんですね。地方分権改革の三位一体というのはなぜかすべてお金の話なんですね。国庫補助負担金の削減、地方交付税の見直し、税源移譲と全部お金の話で、何で分権改革推進会議が分権を論じずにお金ばっかり論じるのかなという不思議がございます。  さらには、最近財務省がおっしゃっているのは、中央の財政が非常に危機なんだから、この赤字地方にも分担してもらおうと。とんでもないことでございます。地方赤字はだれが作ったのかと。もちろん、地方自治体が非常に甘えて、安易な箱物を造ったという事実はございます。しかし、箱物だったらばお金が出やすいという状況を作ってきたのは中央政府ではないですか。さらに、この景気悪化に関しまして地方は何の責任も負っておりません。地方日本経済を良くすることはできないんですよ。限界があるんですね。  マクロ政策は中央政府の責任でございます。中央政府マクロ政策を失敗したそのツケを地方に回すなんていうのはとんでもない、本末転倒でございます。もしも本当に地方分権、地域の活性化ということを目指すんであれば、重荷を背負って自由には動けませんから、地方の借金の二百兆は国が肩代わりすると。元々国に責任があったことでございますから、そうやって自由に地方は活性化してくださいと。そうすれば、長い目で見て、地域から日本全体が良くなるという動きが出てくると思うんですけれども、元々中央が作った借金を地方に上乗せしてやろうなんというのはとんでもない発想だというふうに私は考えております。  実は、国債発行が五百兆に及ぶというような話があるんでございますけれども、これは景気対策のせいなんだと、公共事業のせいなんだと思われておりますけれども、既に国会でも度々指摘されておりますように、公共事業は九五年以降、毎年毎年減ってきております。一方、財政赤字の方はその時点から急増しているということですね。  さらに、景気対策のせいなんだという意見もございますけれども、約百三十兆ほどの景気対策をやってまいりまして、そのうち真水と言われる本当に財政支出をした分は五、六十兆と言われております。これは正確なデータがないので分からないんですけれども、まあそのぐらいというふうに言われております。ところが、その間に幾ら国債が発行、増発されたのかというと、三百兆ほど発行されちゃっているわけですね。じゃ、残りの二百数十兆は一体どうしちゃったんですかということではないですか。それは何のために使われたのか。簡単な話なんです、税収不足なんですね。  じゃ、どうして税収不足が起きたのか。景気が悪いからではありませんか。法人税収も落ちた、赤字法人ばかりになったからでございます。所得税収も落ちた、国民所得が落ちてきているからでございます。消費税収も落ちた、物が売れないからですね。景気が悪いから税収不足が起きて、そのために財政赤字が増えて、より多くの国債を発行しなくてはならなかったということでありまして、多くの国民財政赤字の最大の原因は公共事業だ、景気対策だというふうに思い込まされておりますけれども、これは財政担当の役所のキャンペーンの成果ではないでしょうか。しかし、本来はここまで税収を落ち込ませてしまったという税務当局、財政当局の責任というのは重大ではないでしょうか。  銀行の経営責任を追及しておいでの大臣もおいでですけれども、なぜ銀行の経営がここまで悪化したのか。小泉政権になる前は不良債権だってどんどん減ってきていたわけですね。ところが、不良債権の処理を加速した結果、逆に不良債権が増えるという結果になったわけです。各地で堅実経営で有名なしにせ企業がばたばたつぶれるという事態を招いているわけですね。  こんなに元気な企業があるじゃないか、頑張っている企業があるじゃないかというふうにおっしゃいますけれども、物すごくできの悪い教師が百点取れる学生がうちのクラスにいるんだからいいじゃないかと言っているのと同じでございます。本来、合格点を取れるはずの企業が合格点を取れずにいるということですね。平均点は幾らであるのかということを考えないといけないんですよ。みんな優等生のまねをしろというのは間違っているんじゃないでしょうか。  普通の人、普通の企業が普通の努力をしたらば生活していけるという環境を作るのが政府の務めであるというふうに私は考えております。そうであるにもかかわらず、一部の非常に優秀な学生がいい点取っているんだからこれでいいんだと、みんなも頑張れという、そういうたぐいの政策をお取りになっているかなというふうに思っております。  景気は良くなってきたというふうに言われておりますけれども、それは間違いであるというふうに思います。どんなに不況のときでも、サイクルを持って経済というのは動いておりますから、波がありますから、若干上向くというときはあるんですね。これまでも度々ございました、九〇年以降ですね。一方、どんなに好況のときでも経済が落ち込むということは、日本の高度成長期を振り返っていただいても、高度成長期にさえ不況があったんだということを考えていただけば御理解いただけると思うんですね。  確かに、経済は良くなっていて数値も改善しております。しかし、それはどこと比べるかということでございまして、小泉政権がお作りになった大底と比べたら多少は良くなっております。しかし、小泉政権以前と比べると非常に悪化したままであるということなんですね。  ですから、今多少景気が良くなったとしても、これは国内の景気が良くなったからではないんだと、アメリカと中国に引っ張ってもらっているからなんだということはもう皆さん承知のとおりです。そのアメリカも夏ごろまでじゃないのかなというふうに言われているわけですね。夏の、夏までの結果がちょうど大統領選のころに数字となって表れるからでございます。中国も、先ほど申し上げたように、高度成長は続くと思いますが、それでも波がございますから、落ち込んでくるということはあり得るわけですね。ですから、そういう中で日本景気対策をやらないと、アメリカと中国が下り坂になったときに非常に重大な危機を迎えるという事態に至るんではないかというふうに思っております。  現在、一見景気が良くなったように見えるのは、下山途中の上り坂。山登りをして下りてくるときだって下り坂ばっかりではないはずですよね。上ったり下ったりしながら上っていき、上ったり下ったりしながら下りてくるわけです。あるいは、重病人の小康状態と言ってもよろしくて、どんな重病人も、例えば今日は調子がいいなと思って庭へ出て少し散歩してみようかなということはあるわけですね。それと同じように、重病人がたまたま最近調子がいいということであって、病気が本復したわけでも何でもないと。  是非、景気対策をおやりいただきたいと申し上げて、私の話を終わらせていただきます。
  6. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) はい、ありがとうございました。  以上で公述人の御意見の陳述は終わりました。  それでは、これより公述人に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  7. 小林温

    小林温君 自民党の小林温でございます。  お二人の公述人には、今日は朝からおいでをいただきまして貴重な御意見を賜りました。大変ありがとうございます。  今、景気の現状、それから今後の行方については、この予算委員会を通じても様々な議論があったわけでございますが、今の紺谷公述人のお話にもありましたように、上向きである、それが例えば循環型なのかあるいは先、行方がどうなるのかは別にしても、というのは間違いないんだろうというふうに思います。  しかし、今の景気回復が一つには輸出主導だということ、それから大都市そして大企業、製造業中心の景気回復だという現状を見て、やはりこれから政治の課題というのは、いかにこれを地方景気回復を波及させるか、あるいは中小企業そして非製造業にもこの景気回復の波を波及させていくかということが大きな我々に与えられた使命なんだろうというふうに認識をしているわけでございます。  お二方のお話をお聞きして、非常に対照的な御意見をいただいたわけでございます。井堀公述人には、緊縮財政そして増税も含めたオプションで財政再建を成功に導くべきだという御意見。片や、紺谷公述人からは、緊縮そして増税では財政再建に成功しなかった、した国は今までないという御意見だったかと思います。  九〇年代から二〇〇〇年初頭の我が国の財政運営というものを振り返ってみますと、裁量的な景気対策とそれからルールとしての財政構造改革との引っ張り合いというものが続いてきたんだろうというふうに私は思っております。小泉内閣が誕生して、ある意味では少しそのせめぎ合いにも決着が付いたのかなと我々は思っているところもあるわけでございますが、今のお二方のお話をお聞きしておりますと、必ずしもそうでない部分もあるのかなというふうに思うわけですが。  ここで、紺谷公述人にまず一つお聞きしたいのは、景気対策それから公共事業の必要性についてお話をいただいたわけでございますが、ツーリトル・ツーレートだった、タイムリーでなかったとここ十数年の景気対策について総括をいただいたわけでございますが、それでは、一方、じゃ、タイムリーな、そして今具体的に必要な景気対策のもう少し中身について少し御意見をいただければというふうに思います。
  8. 紺谷典子

    公述人紺谷典子君) 例えば、社会資本整備も今こそどんどんじゃんじゃんやっていただきたいというふうに私は思っております。  日本社会資本整備は終わったんでしょうか、終わっていないと思います。大地震対策一つ進んでいないんですね。世界第二位の経済大国と言われる日本で下水道整備が先進国の中でも後れている方であると。それは国交省がおっしゃってきたように、今はもう変えておりますけれども、どんな過疎地にでも下水道を整備する必要はないと、集落排水や合併浄化槽で十分な地域というのも多々あると思うんですね。ですから、いろいろな意味で見直しとか無駄を排斥するということはあろうかと思うんですけれども、いまだに社会資本整備というのは非常に重大なことであるというふうに思っております。  例えばアメリカのFEMA、皆さん承知と思います。あの阪神大震災のときに助けに来てくれたところがありますね。あそこがロサンゼルスの大地震のときに何をやったか。御承知のように、高速道路が倒壊したわけです。そのときに建設を、工事を請け負った建設会社にこういうふうに言ったんです。予定よりも一日早く工事が終わったらば二十万ドルの報奨金を出そう、一日につき二十万ドルの報奨金を出そうというふうに言ったそうです。そうしましたら、何と二か月半も早く工事が終わったと。それでいいんだとFEMAの長官はおっしゃっているわけです。どうしてか。あの高速道路は全米で最も利用効率が高いところであって一日につき百万ドルの経済価値があると、二十万ドル払ったって八十万ドルのお釣りが来るんだとおっしゃっているわけですね。そういう考え方が悲しいことに日本ではできないということです。  もう一つ、FEMAの活動を御紹介したいと思います。  FEMAは、昔は核戦争対策であったんですけれども、途中から自然災害対策と対応ということに変わったんでございますけれども、あれは何年でしたかね、九九年でしたか、フロイドという大台風がアメリカの大西洋岸を襲ったことがあるんですね。直径五百六十キロという大ハリケーンでございまして、事前に住民を避難させたんでございますけれども、事前に住民にアンケート調査をしておいて、それで、あなたはハリケーンが来ると分かったらどっちの方向に逃げますかと、どの道路を使いますかと聞いておいて、きちんと必要な道路を整備するということは前からやってあるわけなんですけれども、それだけではなくて、そういう道路の利用状況予測に応じて信号を変えたと。だから町中では一切渋滞は起きなかったんだけれども、高速道路に入ってから渋滞が起きたんだそうでございます。そうしましたら、どうしたかというと、反対車線をすべて同方向に使うという指令をすぐに出したということなんですね。  FEMAは、大統領から緊急事態だという認定をもらいますと、すべての省庁を傘下に置いて事後承諾で何でもできるという権限を持っている役所でございます。それで、そういうことをやったと。  さらに、そうやって三百万人の住民大移動で一人の被害者も出さなかったんですが、予測に反して内陸部で洪水が起きてしまったと。それで被害が出たんですけれども、洪水が起きたと分かるや否や、すぐに水が出ていない最も近い町に事務所をこしらえまして電話調査を始めたと。電話調査をして、それで、あなたの被害はどのぐらいですかと事前にこしらえたあった調査票に基づいてどんどんどんどん被害状況を確認していったと。そうやって、電話調査から一週間以内に担当の調査員がやってきて、現場と照らし合わせて、あなたの被害額はこれこれという認定をするんですね。それでもしも、自力回復できるんだったらもちろんほうっておくわけなんですけれども、その見通しがないとなりますと、認定して、国が補助金というんでしょうかね、支援金をプレゼントしてしまうんです。  今私が話した、話をさせていただいているのはNHKのスペシャル番組なんでございますけれども、黒人のお巡りさんが映っておりました。それで、被害額相当の七千五百ドルの小切手が、調査員が帰って一、二週間のうちに届くわけでございます。七千五百ドルの小切手がすごいと涙ぐんでいるところが映るんですね。これは私の四か月分の収入だというふうに言っているわけです。  どうしてそういうことをするのかということをFEMAの長官がまた語っております。住民が一刻も早く元の生活に戻るということが大切なんだ、今の一ドルは将来の二ドル、三ドルの節約になるんだ、何となれば、失業者やホームレスが増えることによって町が疲弊し、産業は壊れ、どんどんどんどん住民の流出を招き、地方財政が悪化していくと。そういう将来の危機を救うために今の一ドルはむしろ安い支出なんだと言っているんですね。そういう措置を日本は取れないということなんです。  社会資本整備に限らず、おやりいただけることはもう数々あると思うんですよね。そういうことを是非選んで、きちんと選んで、透明で公正で効率的なやり方を工夫してくださるということが本当の改革でありまして、単に財政を絞ると、財政を絞ることによって更に税収を減らして財政悪化を招くというような悪循環はもういい加減でやめにしなくてはいけないんじゃないかというふうに考えております。
  9. 小林温

    小林温君 ありがとうございました。  井堀公述人は、御自身のお言葉で、過度悲観論楽観論が共存している中でいかに現実的な処方せんを見いだしていくかという形で財政再建の道筋について御意見を述べられたわけでございます。利子率成長率の関係についてはこの予算委員会でも既にもう議論が行われてきたわけでございますが、政府の見通しが少し甘いんじゃないかという御指摘もいただいたわけでございます。  そこで、その現実的な財政再建のための一つ歳出削減努力、この中身について、例えば公共事業であるとか補助金、それから特に社会保障費などについてどういったアプローチでこの削減を実現していくかということについて、公述人の御意見をいただければというふうに思います。
  10. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 歳出を、特に無駄な歳出、それから必要以上に既得権化している歳出を削減するというのは景気対策とは独立に非常に重要なことだろうと思います。  公共事業に関していえば、ここ数年は公共事業費、一般会計で見ても対前年度比で微減の状況が続いているわけで、徐々に公共事業の全体の額を減らして、もちろんその中身に関してはより必要なところに効率化して調整していくということは大事だと思いますけれども、トータルの額として公共事業費を徐々に減らしていくという方向は私はもっともらしい方向だろうと思います。  十年ぐらい先までを見据えようとすると、毎年三%から五%ぐらいずつ減らしていって、十年ぐらい先にほぼ半分から三分の二ぐらい、対GDP比ですね、現状よりもですね、そのくらいまで落としていくと、ほぼ先進国の公共事業費の対GDP比に並ぶ水準まで落ち着きますので、そのくらいのレベルの公共事業というのは、ある程度はトータルで維持する必要があるのかなと思います。  問題は、公共事業に関していいますと、やはり中身について、相当、地域間で見ても、それから部門間で見ても、その中身の便益が、国民全体に及ぼす便益、あるいはその生産関連でいいますと、民間の生産活動にどれだけ寄与するのか、生活関連でいえば、国民の生活環境にどれだけ寄与するのか、に関して相当なばらつきがございます。これについては、地域間にしろ部門間にしろ大胆に今見直すというのは当然必要だろうと思います。  それから、社会保障関係は、御存じのように歳出の中では一番大きな項目ですし、それから少子高齢化社会で、これからほうっておけばどんどん社会保障関係費は増えざるを得ないものなんですね。これの歳出をより効率化していくためには、単に今の制度の下で微調整をして、それで不必要なところをなるべく無駄を削っていくというその努力ももちろん必要ですけれども、やはり団塊の世代が年金、医療の受給世代になる前に、これから五、六年先を見据えて、抜本的な年金改革社会保障・医療改革をしないことにはやっていけないんだろうと思います。  私は、特に年金改革に限っては、紺谷さんとは、かなり悲観的でして、多少現状で、もちろん運用金がうまく運用すれば多少のメリットは出てくるわけですけれども、これから団塊の世代が引退すれば、賦課方式の年金を取っている限りは、やっぱりどう見ても将来、年金財政悪化するのはこれはもう目に見えているわけですね。しかも、若い世代と、それから私も含めて中高年の世代との間の世代間の不公平感は、これは現在の賦課方式を前提とする限りはますます拡大せざるを得ない。それに対する若い人の不信感が出ているわけですから、これを解消するには生半可な微調整ではむしろ限界があって、抜本的な制度改正に徐々に踏み込んでいくと。  具体的に言いますと、基礎年金部分に関しては今の賦課方式で維持するとしても、厚生年金等の報酬比例部分に関しては早め個人勘定別の積立方式に移行すると。今の既に入っている人から移行するのはこれは無理なわけですけれども、例えば来年度から年金に入ってくる二十代の若い人から徐々に新しい制度に移行して、来年から二十歳になる人に関しては個人勘定型の二階部分とそれから基礎年金の部分とに、そういう新しい年金制度に入って、今のお年寄りの人たちを自分たちの年金で支えるという賦課方式から基本的に抜けるという、そういうような形で徐々に移行していくと。  結果とすると、そうしますと今の年金制度に入っている人たちの間で何らかの形の年金財政の立て直しをせざるを得ないわけですけれども、将来の人たちの年金保険料が賦課方式として二階部分に入らないという、そういうある意味予算制約のハード化があって初めて、既年金受給者も含めてより公平で効率的な年金受給の在り方、あるいは年金課税、あるいは年金の保険料のきちんとした取り方の仕組みも政治的にでき得るわけですね。  苦しくなれば常に将来世代に先送りすれば何とかなるだろうという、そういう状況の下で年金制度の改革をしようとしても、政治的にはどうしても受給者が強い発言力を持っているのが年金制度に限らず社会保障制度の基本的な姿ですから、若い人にどうしても負担が偏りますので、そこのところはきちんと考える必要があるのかなと思います。
  11. 小林温

    小林温君 今の社会保障、特に年金のお話についてはもっと議論を深めたいところでもございますが、少し予算財政の方に絞らせていただきたいというふうに思います。  小泉内閣になって平成十四年、十五年と二回の予算編成が行われたわけでございますが、この二年間の予算編成振り返ってでも、かなり新しい取組はしてきたんだろうと。例えば、先ほど来お話にありますような歳出のカット、効率化、重点分野への積極的な予算配分、私はこれはある程度評価をすべきだろうというふうに思うわけでございます。そして、十六年度の予算においては、昨年の例えば経済財政諮問会議で新しい予算編成プロセスのイノベーションというようなことも取り上げていただいて、例えば政策群であるとかモデル事業、複数年度予算というものが今年のこの十六年度の予算案の中に組み込まれているわけでございます。  そこで、井堀公述人一つお伺いしたいのは、予算それから財政の単年度主義の弊害というものをどういうふうにお考えであるかということ、それから、先ほど来申し上げているような新しい取組の中で、例えば予算でいいますと三年間モデル事業で複数年度化を認めているということもあるわけですが、例えばこれ、財政再建においても、あるいは公債発行においても、中長期的な目標設定をするということにどういった効果をお考えになるかということについて御意見をいただけますでしょうか。
  12. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 御存じのように、景気あるいはマクロ経済変動自体も、一年でサイクルが閉じるわけでもありませんし、それからいろんなその政策効果を見る場合でも、単年度ですべてその効果が終わるわけではありませんので、中長期的な視点予算編成を考えるというのは、当然試みる価値のあるものだろうと思います。  その意味では、単年度の枠を超えていろんな形で予算編成の柔軟性を持たせるというのは非常に有効な、メリットは大きいと思うんですが、問題は、一つは、そのときに結果として財政収支自体を多年度で閉じようとしますと、どうしても最初の一年ぐらいは甘めに予算編成が行われて、後で収支じりを合わせようとするという、そういうバイアスが掛かり得ますので、一年の単年度予算に比べると、公債発行に関して何らかの縛りを同時に設けて、その前提の下で単年度予算を多年度の予算編成に何らかの形で拡張するというのは、まあ非常に有効だろうと思います。  どういった形の公債の縛りを入れるかというのは、これはいろいろと難しいところだと思うんですけれども、例えば毎年の財政赤字の発行額自体に対して、何らかのウエートを掛けて、今年の財政赤字の発行額と来年度の財政赤字の発行額を一で評価するのじゃなくて、今年の方が財政赤字を出すということが来年度財政赤字を出すということに比べてよりきつく評価するような、そういうような予算編成のシステムを入れておいて多年度で予算編成をやるというのは、ある程度財政再建的な、要するに財政状況をある程度規律化させるという意味もありますし、それから単年度ではなかなか評価しにくいものをきちんと評価できるという、そういう面もありますので、両方のバランスから見て、まあ検討に値するのかなと思います。
  13. 小林温

    小林温君 私、ITの予算の関係をやらせていただいておりまして、その中で特に複数年度予算というものが効果的な分野であろうというふうに思うわけでございます。  なぜかというと、例えば初年度に多額の投資がシステムの場合必要で、二年目以降はそのメンテナンスに掛かる少額の費用で済むということで、現在の財務省と要求官庁側が毎年単年度で同じ金額を積み上げていくというやり方にはなじまない分野であるということでございますが、この点についても、実は今回の十六年度の予算の中でモデルとして取り上げていただいて、そして実は幾つかの部分で実現をしていただいたわけでございます。  今の井堀公述人のお話の中で、中長期的な目標の設定、財政再建においても必要だというお話もございましたが、ただ、例えばこれを一九九〇年以降の、先ほど来申し上げている財政再建景気対策とのそのせめぎ合いという文脈に戻って考えますと、なかなか政治のシステムが安定しない中で、どうも絶えずその揺れ戻しが現実的に財政再建の道筋に影響を与えてしまうというところも現実的には起こってきたことかというふうに思うわけでございますが、まずその点について、その政治のシステムの安定性と中長期的なその財政再建の道筋等について御見解をいただければというふうに思います。
  14. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) そうですね、政治システムでいいますと、大きく分けまして二大政党制と連立政権という二つの代表的な政治システムがございますが、我々財政をやっている者から見ますと、これは日本だけじゃないんですけれども、一般的に言いますと、連立政権の方が財政赤字は累増しやすいというのがクロスセクション、クロスカントリーのデータで出ております。  これは、基本的には、なかなか連立政権の場合は財政赤字を短期で処理するのが政治的に難しくなるという、そういう見方が出てくるわけですけれども、その意味で、二大政党制が日本でより根付いていけば、結果として財政再建に、財政赤字の面ではよりもう少し規律が働き得るという点はあると思います。  ただ、連立政権の場合のその、じゃ財政の面でデメリットばかりかというと、必ずしもそうじゃなくて、連立政権の一つの大きなメリットは、連立政権というのはある意味である一つの党だけが政策にコミットしていませんので、どの党も政策運営にかかわり得るそういう可能性が高いので、結果として政権が連立政権の中で微調整が行われる、あるいは大きな政権が、交代が起きてもそれほど極端にマクロ財政政策が大きな変化を受けない。  で、一つの大きなポイントは、財政運営が政権交代で極端に大きく変わりますと、それがマクロ経済に悪いショックを与えることもありますので、その意味ではどういった財政運営をするかに関して、特にこれは財政運営だけじゃなくてそれとの絡みでいいますと、財政構造改革の制度改革については、与党、野党を超えた幅広い政治的な合意の下で、むしろ財政再建って基本的に制度の改革も伴わないとできないことですから、国民全体が支持できるようなそういう基盤の下で財政再建が進むということになると、政治的な支持も与野党を超えた形で広がりますので、国民もそういった政策にコミットして何らかの準備もしやすくなる。そういう意味では、政治システムからいえば、与野党を超えた大きな広がりの下での制度改正を同時にやっていただければと思います。
  15. 小林温

    小林温君 財政再建に向けて与野党で、あるいは国民も巻き込んだコミットメントが必要だという御意見でございます。私も正にそのとおりだろうというふうに思います。  井堀公述人にもう一つお伺いしたいんですが、増税への環境整備という点についてもお触れをいただきました。財政再建という言葉がいろんなところで叫ばれまして、消費税の増税についても、比較的過去に比べれば国民の間にも何らかのコンセンサスが生まれつつあるのかなというふうにも思うわけでございますが、先ほどお触れをいただきました納税者投票の導入、これは正にタックスペイヤーとしての……
  16. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) 簡潔に、もう時間でございます。
  17. 小林温

    小林温君 意識を国民に持っていただくという意味で大変重要なことだと思います。この点についてもう少し具体的にお聞かせをいただければというふうに思います。
  18. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 具体的に言いますと、確定申告のときに、所得税使い道について各省庁がこういった項目に関してどういうのがいいのかというのをある程度リストを作って、それに対して投票して、その投票に応じてシェアを決めて配分すると。だから、例えば政策群のように、各省庁がこういったものについては国民の信を問いたいというのを一応リストを作って、それについて国民が、納税者自分の納税額に応じて投票して、そのシェアで決めるというのが差し当たっては一番手っ取り早いやり方かなと思っています。
  19. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) 時間が参りました。
  20. 小林温

    小林温君 これで質問を終わります。
  21. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) ありがとうございました。
  22. 朝日俊弘

    ○朝日俊弘君 民主党・新緑風会の朝日でございます。今日はお二人の公述人、今日はありがとうございました。  限られた時間ですので、幾つか用意した質問もあるんですが、実は井堀公述人のあの最初の問題提起を聞いていまして、びっくりしたというか、大変興味深いけれどもにわかには理解し難いなというところが幾つかありましたので、その点を中心に補足的な御説明をいただければということで、まず最初にお伺いしますのは、今もお話がありましたけれども、消費税の問題ですね。  御存じのとおり、小泉総理は私のときにはやらないと、議論は勝手にやってくれと、こういう無責任なことをおっしゃっているんですが、私どもはかなり野党という立場ではありながら、年金制度の問題をぎりぎりぎりぎり詰めて考えていく中で、何とかこの消費税に財源を求めて年金目的税的に引き上げることができないのか、そのことはぎりぎりのところを国民皆さんにも御理解をいただけるんじゃないかというふうに思って、近々提案をしたいと思っているんですが、先生のお話でいくと、毎年一%、一ポイントずつ、一%、八年間で一三%までと、こうおっしゃった理由というか、根拠というか、思いというのをまず御説明いただければと思います。
  23. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) これは、私の最初の説明のところにございますように、十年間で四%ポイントぐらい増税が必要となってくると。四%ポイントといいますと大体二十兆ぐらいですので、五百兆のオーダーでGDPを考えますと。消費税でいきますと、大体消費税一%ぐらい上げますとまあ二・五兆円ぐらいの消費税の税収が見込まれますので、八%ポイントぐらい上げますとそれで二十兆ぐらいという、そういう、大ざっぱに言うとそういう感じになります。それを十年ぐらい先に実現するとなりますと、一年間で一%ずつ計八年間やりますと八%ポイント、八%ポイント上がれば八年後にほぼ二十兆円ぐらいの、年で見て、年次で見てまあ税収増になるかな、大体そんな感じで考えております。
  24. 朝日俊弘

    ○朝日俊弘君 そうすると、全体の大きな流れの中で、主としてその増収策を消費税の引上げに求めたらこうなるという数字だというふうに理解してよろしいですか。
  25. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 必ずしも消費税を上げなければ増税にならないということはなくて、所得税であれ、それから地方に仮にその財源も移すということであれば住民税の充実ということもあり得ると思いますけれども、仮に消費税中心でいくとすると、このくらいの必要、上げ幅必要だろうと。  ただ、これは誤解のないように補足させていただきますと、これは年金財政の話として基本的にここでは除いておりまして、国と地方の通常の財政収支に関して消費税で対応するとすれば八%ポイントぐらいの増税幅が必要になってくるわけで、それに加えて年金財政の将来、近い将来見込まれる赤字をどういった形で調達するかというのはまた別の議論でして、それも消費税でやるとなると更に消費税率を上げなきゃいけない、こういう話になると思います。
  26. 朝日俊弘

    ○朝日俊弘君 年金の話はまたちょっと後でお尋ねしますが、その次の項目で、住民税均等割を大幅に引き上げるということで、例えば五千円を五万円程度にというのでちょっとびっくりしたんですが、こういうことを提案されている点について、もう少し御説明をいただけますか。
  27. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) これは、地方税の基本的な考え方の話になると思うんですけれども、地方税は基本的にはそれぞれの住民がそれぞれの便益に応じて、いわゆる便益に応じて課税するという応益原則は地方税の基本だろうと思います。  国税に関して言えばある程度所得の高い人が累進的に所得税で払う部分も残す必要があると思うんですが、地方税に関しては、そのサービスに応じて課税するのが基本であって、そうである以上は、成人はそれなりにある程度自己負担を出すと。  今の均等割というのは、所得の低い人はほとんどもちろん払っていないわけですけれども、所得のある人も余り払っていない税金ですので、本来、所得のあるなしにかかわらず、便益に応じてそれなりに税金を負担するという観点からいいますと、五万円ぐらいの税負担額は、もちろん五万円以上の便益を当然もらっているわけですから、五万円ぐらいは負担してもおかしくない。  問題は、その辺を払えない人をどうするかということなんですけれども、これは政策的にいろいろな対応あると思うんですね。例えば、課税最低限以下の人については、当然、今の住民税の場合には均等割も出ませんし、生活保護のような方は当然ないわけですけれども、そういう人たちに対しては、一応五万円払ったことにみなして、その分、交付税で上乗せして対応してという形の政策的な対応はあり得ると思うんですが、原則として、基本的にその税金を払える人からはきちんと税金を均等割で取るというのが地方税のあるべき大原則だろうと思います。
  28. 朝日俊弘

    ○朝日俊弘君 そうしますと、今の話と関連してくると思うんですが、十ページのところに財政構造改革ということで、「地方分権 交付税制度を抜本的にスリム化し、」という項目がございますね。今、いわゆる三位一体改革の問題で、昨日も随分議論になりまして、ホットな議論をやっている最中なんですが、そのことに関する公述人の御意見も含めて、この交付税制度を抜本的にスリム化しというとこら辺をちょっと御説明いただければと思うんですが。
  29. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 地方分権の問題は必ずしも、もちろんさっき紺谷さんが言われたように財政だけの問題じゃないんですけれども、ただ、その財政面で受益と負担がある程度それぞれの地域でリンクが行われて初めてそれぞれの地域で効率的な行政サービスもできますし、地域間で行政サービスをより良くしようという形で競争も生まれて、結果として、住民にとってもより良い行政サービスが相対的に少ない税負担で行われることになります。  そのときに、大きな問題は、これまでの日本地方財政一つの問題は、その地域で財源を基本的に用意しなくても、国の方からいろんな形で政策あるいはいろんな理由でお金が出てくることによって、どうしてもそれに依存する体質になってしまう。そうすると、地方全体は創意工夫も見られませんし、独自性も発揮することができないわけですね。その場合に、一つのやり方としては、お金は国から出すけれども、口は国が出さなくて自由に使っていいと、こういうやり方もあり得るわけですけれども、お金を全く、お金は完全に国から依存して、しかし使い道に関して全く自由にしろと言われても、住民から見れば自分の税負担でお金が出てくるわけじゃないわけですから、その使い道に関してはどうしても甘い形にならざるを得ないわけですね。住民が税金を、基本的に自分の税負担自分たちの身近な行政サービスがより改善されるという、そういう緊張関係があって初めて、例えば住民税増税するけれども、その見返りとしてきちんと住環境が良くなる、逆に多少住環境悪くなっても、それは自分でちゃんとやるから税金を減らしてほしいとか、そういった形の緊張関係が出てきます。  その意味では、交付税制度というのはその緊張関係をかなり緩める制度になりますので、最終的にはスリム化して交付税に依存しないような形に地方財政面を立て直すのが究極の理想だと思います。ただ、現状は交付税に依存する形でこれまで財政制度は組み立ててきましたので、即座に交付税を抜本的に、大胆に大幅にスリム化するということは難しいわけですが、私の一つの考えというのは、例えば二十年とか三十年掛けて徐々に交付税の基準財政需要額を減らしていって、三十年ぐらい先には、基本的には多くの自治体に関しては、交付税に依存しなくても受益と負担が対応できるようにそれぞれの地域で住民の税負担を拡充する方向に持っていくと。もちろん、すぐにはできませんけれども、二、三十年掛けてそういう方向に持っていくんだという、そういうシナリオ早めに示すということは大事だと思うんですね。  そうすると、その間に各地方から見ればいろいろな形の準備もできますし、その二、三十年の間に、最初に例えば基金が来ればそれに応じていろいろな形の対応もできるわけですね。一番まずいのは、ずるずると今のような制度のままで微調整で交付税改革が行われると、その交付税改革はまたその政権が交代するとまた元に戻るんじゃないかと、そうすると、また国からの交付税がまた増えるんだったらあえて苦しいことをやらなくても、自助努力、やり過ぎるとインセンティブがなくなるわけですね。  だから、二、三十年掛けて、本当にこういった形で交付税制度がスリム化していくということに関して、ある程度党派の枠を超えたコミットメントができて、そういった形で全体が進んでいけば、日本の自治体は極端な過疎のところを除けば経済的には相当豊かになっているところが多いわけですから、国民自体は資産にしても所得にしてもそこそこあるわけで、それをきちんと地方の財源に回すだけの、マクロで見ても地方でそれほどの財政的な差は実はないんですね。その意味ではきちんとやっていけるところが多いと思います。どうしてもやっていけないところに関しては、これは別の形で調整するしかないわけですけれども、多くの自治体に関しては交付税制度がなくても、なくても、交付税制度に極端に依存しなくてもやっていける形になります。
  30. 朝日俊弘

    ○朝日俊弘君 確かに交付税に依存しない形でその財源を確保していくというのは方向としては正しいと思うんですけれども、ただ、じゃ、その際の財源の確保を何に求めるか、あるいは今格差が余りないんだとおっしゃったけれども、私は随分あるような気がするんですが、その地域間格差をどうしていくのかと、また交付税の問題にまた戻ってきちゃうんじゃないかという気がしてならないんですが、その辺はどうでしょうか。
  31. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 格差をどうとらえるかということだと思うんですけれども、個人間の格差はもちろんあるわけですね。問題は地域間の格差をどう考えるかということですけれども、結局は人なわけですね。人に関しては、いろんな所得税の累進的あるいは社会保障を通じてそれなりの再分配政策は取られているわけですけれども、じゃ人とは別の指標で地域に限定して再分配をすることにどういう意味があるのか。極端な話、全く人が住んでいない地域に再分配しても、その地域が経済的に恵まれているか恵まれていないかというのは全く意味がないわけで、人が住んで初めてその地域は経済的に再分配の対象になり得るわけですね。だから、結局、最終的には人だろうと思います。  人でいいますと、もちろん平均的な所得水準で見れば東京と沖縄との間には相当な格差があるわけですけれども、それにしてもかなりな分は個人ターゲットにした再分配政策で解消すべき問題で、実際にもそれでやっているわけですね。問題は、それを超えて地域で格差があり得るのは、例えばその地域でそれなりの基本的な、小学校の義務教育のような基本的な行政サービスに関して、いわゆる外部性あるいは固定費用という面がありますから、それを狭い地域で、人口の少ない地域でやることに関してはそれは限界があります。それについてはそれなりの対応が必要ですけれども、そうはいっても、多くの地域に関していえば、ある程度集積して住むことによってそれほど極端にそういった意味での不利はないはずですし、一人当たりの税収で見ても、一人当たりの平均所得で見ても、県別で極端に差があるというほどのことはないわけですね。  それからもう一つ、中長期的な話をすれば、日本はほかの国と違って地域間の経済的な交流、人の移動は結構ありますので、ヨーロッパやアメリカ以上に日本は地域で人が動いているわけですから、地域で人が動いているということは、逆に言うと自分にとって一番住みやすい地域を選択できる可能性が高いので、そうである以上、地域間を指標にして極端な再分配政策というのは余りする必要はないのかなと思います。
  32. 朝日俊弘

    ○朝日俊弘君 それで、今併せてお尋ねした、主として自治体、地域の財源は何に求めていくべきだとお考えですか。
  33. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 市町村に関していえば、やはり住民税と固定資産税が中心になるんだろうと思います。  住民税に関していえば、均等割の部分をある程度充実化させると。五万円ぐらい充実化すれば、それだけで数兆円のオーダーの住民税収が入ってきますので、これは市町村レベルでいうと相当な増収効果があります。  それから、固定資産税もある程度、特に環境が良くなって、地価が上がることについての税負担という意味ではそれなりに税源として求めるべきものであろうと思います。  もう一つの有力な財源は消費税で、消費税については確かに地域間で消費水準にはそれほど差がありませんし、実際、今、地方消費税導入されていますから、これをもう少し拡充して、私は、今、外形標準課税が導入される動きですけれども、むしろ外形標準課税を入れてそれを拡充するよりは地方消費税の税率を上げて地方消費税の形でそれを地域にうまく配分する方がより、地域間での消費の偏在というのはそれほどありませんし、それから、あえて中小企業に税負担を出すよりは、個人に最終的に帰着する形の税金で地方の行政サービスを賄う方が、受益と負担の関係がよりはっきりするという意味では望ましいんだろうと思います。  その意味で、地方税は、特に市町村段階では住民税と固定資産税を中心に、それから都道府県も入れるとすれば、地方消費税もそれに組み合わせるというその三つの主要な財源をベースにやるべきだろうと思います。
  34. 朝日俊弘

    ○朝日俊弘君 そうすると、所得税地方に移譲するという考え方については余り賛成できない。
  35. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 住民税所得税は課税ベースは同じですから、住民税の課税ベースを拡大するということは所得税を移譲するのと同じなわけですね。  地方分権の税源移譲について一言触れますと、税源移譲というのは、基本的にトータルな税収一定のときに国と地方でどういった形で税金を配分するかという、こういう問題なわけですけれども、現在の日本状況は、国も地方財政状況非常に厳しいので、税源移譲すると同時に増税せざるを得ないわけですね。  そうすると、せっかく所得税を減税して、それを、住民税をその分増やしても、じゃ国の方はどうするかというと、その分税源が足りませんから、本来であれば、その部分、歳出も削減している分だけ中立的になるわけですけれども、財政赤字の分がありますから、財政赤字を全部消費税でやれば別ですけれども、当然所得税も国の基幹税として重要なわけですから、その意味で、所得税を減税して住民税を増やすというよりは、所得税はそこそこ基幹税として維持しながら地方の基幹税として住民税を重視する。その一つの方法としては、均等割を大幅に上げると同時に、比例部分に関してはある程度下のところも含めて、例えば一〇%ぐらいの比例税を同時に課するというのは検討に値すると思います。
  36. 朝日俊弘

    ○朝日俊弘君 じゃ、あともう一つ。  先ほど、ちょっと議論になっていました年金制度のところ、先生のレジュメで言うと十ページですね。公的年金は基礎年金のみとして、二階部分は段階的に個人勘定に移行する、この二行ですが、一つは、その場合の基礎年金の財源はどうお考えなのか。現行の制度をそのまま想定されているのかどうかということと、個人勘定というのは、ある意味では積立方式というか、そういう考え方で、公的年金の中でそういう方式を取るということで理解してよろしいのか。この二点。
  37. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 基礎年金に関しては、税方式でやるのか、今のように保険料方式でやるのかという選択はあると思いますが、保険料方式でやる方が筋だと思うんですが、その場合の前提はきちんと保険料が徴収できると。例えば、社会保険庁が保険料を徴収するのではなくて、国税庁で年金保険料を徴収することができれば保険料方式で構わないと思います。  つまり、保険料方式と税方式の違いというのは、要するに所得に連動した形で取るのか、それから消費の課税ベースで取るのかというのが大きな違いで、もう一つは、ちゃんと取れるのかどうか。建前として取るけれども、実際、社会保険庁の場合は取ろうとしても取れないということがありますので、その二つの観点からいいますと、私は、消費よりは所得の方が基礎年金の課税ベースとしては望ましいと思います。ただし、それを今のままで取れるのかという、そういう問題がありますので、社会保険庁で取れないということであれば、しかもそれが国税庁が保険料を取るということが無理であるとすれば税方式で消費税にしてもやむを得ないかなと思います。  要は、どちらにしても、所得税か消費税かというのはそれほど大きな差ではないと思います。問題は、きちんと基礎年金の財源を広く国民からちゃんと取るにはどうしたらいいかということが重要で、それが現状の社会保険庁による保険料方式でかなり無理だとすれば、それは抜本的に変えざるを得ないだろうと思います。  それから、後者のお尋ねですけれども、個人勘定別の部分は、これは私的年金で対応すべきであると思います。公的年金でやりますと、どうしても全体の積立金を公的に運用する形になりますので、個人ベースの勘定というのはなかなかリンクが付けにくくなりますので、私的年金で運用せざるを得ないと。  ただ、問題は、完全に私的年金にして自由にしてしまいますと、これは運用のリスクを個人が完全にしょい込む形になりますので、何らかの制約を設けて、例えば安全資産を超えた株式のような危険資産の運用の割合に関して厳しい制約を設けるとか、それから運用の期間とそれから配当を受ける期間との間に厳しいリンクを付けて、例えば六十より以前の段階ではどういう理由があっても払戻しを認めないとか、いろんな形の制約を付けて、長期運用が安定的にできて、そこそこの収益ができる形にする。それから、ある程度、運用する場合も、拠出段階税制上の優遇措置を付けて、それなりの個人の資産形成に役立たせる。いろんな形の工夫はあると思うんですけれども、基本的には個人勘定で運用するのが筋だろうと思います。
  38. 朝日俊弘

    ○朝日俊弘君 ありがとうございました。  時間が残り少なくなってしまいましたけれども、紺谷公述人に一、二点お尋ねします。  先ほどのお話では必ずしも詳しく御説明なかったんですけれども、私たちが今心配しているのは、雇用形態が非常に多様化して、いわゆるフリーターという人たちが四百万とも言われると。同じ勤労者でも随分と所得格差が付いてきていると。そういう、なぜそうなのかということが一つと。現実にそうなってきているし、かなり今後もそのトレンドが続くとすれば、そういう方たちの社会保障をどうするのかというのはどうしても考えなきゃいかぬ。ところが、なかなか現実の問題を考えると、今負担をしてくださいと言うと、いや、これ以上の負担は困ると言う、企業側もそう言う、御本人もそうおっしゃる。しかし、将来考えると、そういう人たちはまるっきり社会保障がないのかと、それでいいのかということにもなってしまう。  この辺の問題について、私の持ち時間あと三分ですので、済みませんが、その範囲内で御説明いただければ。
  39. 紺谷典子

    公述人紺谷典子君) フリーターがどういう原因で増えているのかということを考えておかないといけないと思うんですね。要するに、若い人が定職を持たずに自由にやりたいというフリーターが本来であったわけなんですけれども、最近はやむを得ざるフリーターというのがたくさん増えてきてしまっているわけです。そういう方たちは、景気が回復していけば自然と減っていくというふうに思うんですね。  先ほど来、年金に関しましてもいろいろな御意見がありますけれども、若い人にとって不公平だと言うんですけれども、私は不公平は当然だと思うんです。だって、政府がやることは助け合いなんですから。公平だ不公平だと言い始めたら政府自体が成り立たないんですね。むしろ、そうやって対立感をあおって増税とか国民負担を増やしてきたのがこれまでの財務省の戦略でございます。ですから、年金に関しても、若い人は損だ損だということを言ったから若い人の年金加入率、未納率が増えてきたということではないですか。  ですから、民主党がおっしゃっているようなスウェーデン方式に近い方法を取ったとしても、報酬比例部分の、その報酬比例の保険料というのは、累進性は給付の累進性よりも高くていいと私は思っているんですね。  そうやって、年金というのは生活保護とは違っておりまして、これまでの生活を最低限維持したいということですね。そうやって将来の生活の安定を得たいというのが本来の年金の役割でありまして、最低限の生活ができればいいよというものじゃないんですね。子供は大学にやっていると、大学は続けさせてやりたいとか、それから住宅ローンはまだ残っているとか、そういうその生活の保障です。これまでの生活が老後も続けていけるかどうかということでございますから。所得比例の部分と報酬比例の部分というのは当然必要と思うんですけれども、それでも、それを原則といたしましても、基礎年金をベースにして報酬比例部分を作っていくということであっても、その保険料率の累進性は給付の累進性よりもきつくて当然と、そういう形の助け合いであるということを忘れてはならないと思うんですね。  どこの国でも公的年金というのは賦課方式が原則でございます。日本政府は賦課方式一〇〇%のときの危機と積立方式一〇〇%の危機の両方を言い立てていると。どういうことかというと、四人に一人が近い将来二人に一人になる、大変だと、一方で、積立金が四百五十兆足りないと、これは民間年金と同じ考え方のときでございます。今申し上げましたように、二百三十兆前後の積立金があって、これを運用していけば大丈夫なんでございますけれども、高齢化は未来永劫ずっと続くわけではなくて、二〇四〇年か二〇五〇年にはピークを迎えるわけでございます。それまでの間、積立金の運用と、それで足りないほどに高齢化が進んだ暁にはそれを取り崩していくという前提で厚労省は年金の設計をしてきたはずでございます。それなのに積立金の議論がつい最近まで出てこなかったということも非常におかしいと思っておりますし、それから景気に関しましても……
  40. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) はい、もう時間が来ましたので、よろしくお願いします。
  41. 紺谷典子

    公述人紺谷典子君) はい、これでやめます。あと二言です。  あるシンクタンクが、きちんと景気対策をやっておけばGDPは七百五十兆になっていたと、現在の一・五倍でございます。税収は九十八兆になっていた、二・五倍でございます。非常に控え目な数字でありまして、実質成長率二%、インフレ率一%という前提でございます。これはアメリカの熱心さの景気対策の半分以下と言ってもよろしいような景気対策で、それが実際実現できたんだということでございます。
  42. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) はい、時間超えました。  ありがとうございました。
  43. 山本香苗

    ○山本香苗君 公明党の山本香苗でございます。私の持ち時間は十分でございますので、もうすぐに質問の方に入らせていただきたいと思っております。  今、朝日委員の方からお話ございましたけれども、いろんな意味で、今、若者対高齢者、年金の問題も雇用の問題もいろんな形で対立感をあおられていると今お話ございましたけれども、今、私も若者の、同じ立場に立っていろんな形で感ずるところが多々ございます。  そうした中で、まず一番初めに、紺谷先生の方にお伺いしたいんですけれども、とにかく雇用、経済という、これからの日本経済を担っていく若者たちというのが今非常にフリーターだとか失業率が高いとか、そういう状況にあるわけなんですけれども、この状況につきまして、政府としてどういう対応を取っていくべきだとお考えになっていらっしゃいますでしょうか。
  44. 紺谷典子

    公述人紺谷典子君) 先ほども申し上げましたけれども、まずは景気対策です。日本経済は病気でございますから、病気を治してくだされば、それですべては解決できるというわけではないんですけれども、かなり多くの部分が解決していくであろうというふうに思っております。  若い人の不公平感と言いますけれども、しかし、現在のこの繁栄した日本経済状況というのは、現在の高齢者が戦中戦後苦労して築き上げてきたものではありませんか。それを何の苦労もなく今の若者は享受しているわけでございます。しかも、現在の高齢者が非常に、ろくな掛金も払わないにもかかわらず非常に多くの年金を受け取っているかのように言われておりますけれども、それでも積立金が二百兆以上あるということは、賦課方式でいったらば過分に過ぎるほどの保険料収入を得てきたと、政府は徴収してきたということではないですか。つまり、現在の高齢者も含めて、余分な保険料をこれまで払ってきたと、今後に備えて払ってきたということだと思うんですね。  ですから、若い人と高齢者を対立させるというような考え方では、そもそも政府の役割ということを理解していないと言わざるを得ません。
  45. 山本香苗

    ○山本香苗君 いや、年金の問題もそうなんですけれども、雇用の問題、そういう形で単にあおるべきじゃないと、政府としての立場としてもうちょっと、そういう形だとは思う、雇用の、景気対策がとにかく大事だという話であるわけなんですが、それに対して、井堀公述人の方からまた違う御意見があるわけなんですが、ちょっと井堀先生の方にお伺いしたいところなんですけれども、今日、このレジュメを今いただきまして読ませていただく中で、とにかく伝統的な景気対策というものに対して消極的な点は評価できると。今回の平成十六年度予算についても一定の工夫がなされているという形で報道にもなされておりましたけれども、この一定の工夫というのはどういうところにお感じになられて御感想を述べられましたのか教えていただきたいと思います。
  46. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 量的なところで言いますと、公共事業を削減しているわけですね、三%。これは今年に限らず、小泉政権になってから基本的に公共事業を当初予算では減らす方向でいっているわけで、今年はたまたま景気の回復期ですけれども、去年、おととしまでは、景気が悪くても、悪いときに公共事業を当初予算で増やさなかったと。補正で多少面倒を見るというのが今までのパターンだったんですけれども、補正でも量的な意味での景気対策はやらないという、そういうスタンスでいろいろと工夫、工夫していた。そういう、そういう政策運営の基本的な哲学自体評価できると。これはもう紺谷さんと百八十度違うところだと思いますけれども、と思います。  今までの九〇年代と二〇〇〇年以降の日本財政運営を見て大きな違いというのは、今回の景気回復というのはそういった建設的な公共事業で支える政策を取らないにもかかわらず、景気が良くなってきた。そういう意味では非常に喜ばしい景気回復じゃないかと思います。  それから、量的なところ、失礼、項目別で言えば、歳出の中身についても、先ほど政策群の話も出ましたし、公共事業の中身の配分についても、まだそれほど大胆とは言えませんけれどもそれなりの工夫が見られて、必要なところに付いている方向は感じられると思います。
  47. 山本香苗

    ○山本香苗君 いろんな形での財政歳出削減という形で切り込むべき分野がいろいろあるはずだという形で御意見があったわけなんですけれども、具体的にその切り込むべき分野としては何をお考えになっていらっしゃいますでしょうか。
  48. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 公共事業で言いますと、やはり相当まだ無駄なところがございますので、例えば抜本的な制度改正として、公共事業はすべて国交省に移管して、農水省とかあるいは厚労省は公共事業から基本的に外れると。すべての公共事業予算を国交省が一括して管理して、その中で望ましい予算配分を決めるというのが一つの考え方だと思います。  日本公共事業の大きな問題は、特に農水省関係の公共事業は、これデータで見て非常にパフォーマンスが悪いんですね。生産性、それから便益の面でも何かほとんど寄与していないというのがデータで出ていますので、ここを大胆に変えて、農業に関しては、公共事業で支えるよりはもう少し所得保障とかいろいろな形で支える形の方がより望ましいかと思います。
  49. 山本香苗

    ○山本香苗君 今、歳出削減のいろんな具体的なことをおっしゃっていただいたわけなんですけれども、先ほど国と地方財政の在り方についてもお話が及んでおりましたが、今回のいろんな三位一体の改革につきましての先生のお考え方を教えていただけますでしょうか。
  50. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 三位一体に関しては、もう方向はいいと思うんですが、先ほどから私少し述べさせていただいているように、まだ抜本的な改革がどこまで本気で進むのかに関しては、地方公共団体も含めてまだそれほど、半信半疑のところもあると思うんですね。  だから、こういった三位一体の改革が、交付税改革も含めて、あるいは税源移譲、これだけの削減がこれから三年間のいわゆる小泉政権を超えた後、本当に後戻りできない形で進んでいくのか、それから交付税も本当にスリム化する方向で進んでいくのかどうかに関してもう少し、要するに改革の、三位一体の改革の後の将来像を、国と地方地方分権がある程度進んだ後でどういった形で財政的にあるいは権限も含めて役割分担をして、国の役割はここまで、地方がどういった形で税あるいは歳出、それに伴う権限も含めてどういう形のことができるのかについての青写真をもう少し早く国民あるいは地方公共団体に示していただければ、それに応じていろんな形の改革も進むんじゃないかと。要するに、三年を超えた先の議論がまだ不十分かなと思います。
  51. 山本香苗

    ○山本香苗君 井堀先生のお話の中で、最後に納税者の話が出ておりましたけれども、情報公開が進むにつれて税金がどういうふうに使われているのかということに関心が少しずつ高まっているように思うわけなんです。  地元に帰りましても、例えばODAの予算どうなっているんだとか、国がこういうところにどういうふうに使うべきなのかとか、いろんな御意見をいただくところもたくさんあるわけでございますけれども、少しずつこの納税者、単に知るだけじゃなくて自分たちが選ぶところまで踏み込まれた御意見というのは非常に一つ大きなヒントをいただいたなと思うわけなんですけれども、これからの納税者と税金の使われ方ということに関して、納税者に更に関心を呼び起こしていく方法としてこの方法を考えられていると思うんですが、その他どういったことを考えていらっしゃるのか。
  52. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 納税者投票とかなり似た効果を持つものは、納税者の税金の寄附控除をかなり大胆に認めると。例えば一〇〇%の税額控除を認める、ただしその税額控除の寄附の対象を相当厳選する必要はあると思うんですけれども。非常に公益性の高いNPO法人に対する寄附控除を大幅に認めると、何が起きるかというと、税金を国に払って国が公共サービスをする代わりに、自分が本当に評価しているNPOが公的に非常に望ましいことをやってくれると思えば、そこに財源を振り替えることになるわけですから、公と民、官と民が同じような行政サービスをするときに競争関係がより生まれると思います。  その意味では、もう一つの方法というのは、選定対象を厳格にするという条件付きですけれども、NPOに対する寄附控除をもう少し大胆に認めるという、そういう方向が考えられると思います。
  53. 山本香苗

    ○山本香苗君 紺谷先生にはいろいろ本当はお伺いしたいことがあるわけなんですけれども、あと一分しかございませんので、最後、コンパクトに、本当にこれからいろんな形の景気の見通しということについてさっきちらっと述べられたわけなんですけれども、見通しにつきまして教えていただければと思います。
  54. 紺谷典子

    公述人紺谷典子君) 非常に重大な事態が進展していると思います。  先ごろ発表されましたように、国民が資産を食いつぶし始めたということです。資産を取り崩さなくては生活できない人たちが出てきてしまったわけですね。ですから、株式の含み益の増大という分を除きますと、国民金融資産が初めて減少したわけでございます。さらには、国民の二二%が貯蓄を持たないという状況になってきたわけです。ですから、かつて貯蓄率は世界一高くて一六、七%あったものが、今六%に落ちてきてしまっているわけですね。  これは日本の様々な経済の基盤を取り崩していくものでございまして、景気対策の誤りの結果であると、一刻も早く逆転させなくてはいけないし、公明党には是非、小渕政権のときにおやりいただいた政策を思い出していただきたいと思います。
  55. 山本香苗

    ○山本香苗君 以上です。
  56. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) ありがとうございました。
  57. 大門実紀史

    大門実紀史君 今日は、お忙しいところ、大変ありがとうございます。日本共産党の大門実紀史です。  時間がないので、もう端的にお伺いします。  井堀公述人に二点伺いますが、一つ景気との関係、財政再建との関係なんですけれども、今まで歳出削減増税はそれほど景気の足を引っ張っていないという御認識の上で、さらに、先ほど触れられましたけれども、かなり大胆な増税策が打ち出されておりますけれども、今まではそれほどという認識も私とは違いますけれども、仮にそうだとしても、これだけの増税策をもし本当にやっていったら、私はかなり景気の足を引っ張ると思いますが、いかがかというのが一点です。  もう一つは、これも井堀公述人資料にありますが、「民間需要を誘発させるには、規制改革の方が有効である」とお書きになっていますが、私は、総需要が低迷している下で規制改革を幾ら頑張っても民間需要は誘発できないと、これはこの間示していると思いますが、その二点、まずお伺いします。
  58. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) ここで大胆な増税という具合に言われたんですが、私の理解では、むしろこれは相当控えめな増税策で、これをやらないと、この程度のことを今から準備しておかないと将来大増税をせざるを得ないと、そういう状況に追い込まれるので、一番まずいのは、短期的に消費税を例えば一年間で一〇%ポイント上げるとか、大幅に社会保障費を明日から、来年度から半減してしまうとか、年金の給付を約束したのを来年度三分の一にせざるを得ないとか、そうした大胆な、極端な歳出削減とか増税に追い込まれることを避けるには、準備して余力のあるうちに徐々にやっておいた方がトータルで見て負担感が小さくなりますと、こういう話なんですね。トータルな負担感を小さく、トータルな負担感を避けるためには、増税、じゃ、これをしないとどうなるかというと、その分公債発行で先送りして済むかというと、そこが無理なので、いずれ増税せざるを得ないのであれば前もってやりましょうと、そういう発想です。  問題は、そのときに、これはどの程度景気の足を引っ張るのかというんですけれども、例えば、消費税を徐々に上げるというのは、駆け込み需要を毎年引き込むわけですから、民間消費にとってはむしろ刺激効果になるんですね。今年より来年の方が消費税上がる、その分物価水準も上がるわけですから、インフレ期待を毎年毎年入れ込んでいくということは、駆け込み需要が毎年出てくるわけですから、短期のマクロ政策としても消費税を段階的に引き上げるというのは、それなりに消費を刺激する効果が出てきます。しかも、財政再建に寄与しますから、将来の財政負担が、財政不安がなくなるという意味で、これは長い目で見れば民間経済にとってもプラスになると思います。  だから、トータルの税負担は将来増やさざるを得ないという前提で考えるときには、なるべく極端に、一時期に集中して増税しない方が民間経済にとってプラスだという、そういう発想です。  もう一つの、民間需要を誘発させるときに規制改革が余り利かないんじゃないかという、これは規制改革をするときに、する前の段階で規制があるがために民間需要が、民間の活動がネックになっているということが前提になります。ネックになっているということは、ネックになっていれば、それを払うことによって出てくるわけですね。  問題は、その規制改革が、民間需要を全然阻害していないところに規制があっても、あるとすれば、それを阻害取っ払っても何の効果もないわけですけれども、それはそもそも規制改革とは言わないわけですね。規制があるということは、何らかの形で民間の活動を縛るために規制をしているわけですから、それが経済原則以外の安全とかいろんな形で意味があるというのがこれまでのロジックだったわけですけれども、その安全性とかいろんな形のものがそれほど時代の要請に合わないときにその規制を取っ払おうとするわけですから、それはそれで規制が有効に働いている限りにおいては、規制改革でそれを外すということはそれなりに民間需要を刺激するんじゃないかと思います。
  59. 大門実紀史

    大門実紀史君 ありがとうございました。  紺谷公述人にお伺いします。  景気の現状、重病人の小康状態というのは、もう見事に私と認識一致でございますけれども、先ほど、山本議員が見通しを、今後の見通しということで、時間が少し短くて終わりましたが、その今後の見通しも含めて、こういう小泉構造改革を続けていくと、もっと経済だけではなくて日本社会がどうなってしまうのかということを、詳しくお話しいただいて結構ですので、御意見伺います。
  60. 紺谷典子

    公述人紺谷典子君) 国民生活を本気で心配していれば同じ発想が出てくるんですよ。  今、国民は非常に傷んでおります。国民の努力が足りないがゆえに不況が進展しているのではなくて、国民が努力しているからこそどんどんどんどんデフレ経済が進むんだということを是非御認識いただきたいんですね。つまり、賃金が減れば所得を抑えざるを得ないわけです。回り回って、消費を減らせば回り回ってまた賃金が減るという状態になっているわけですね。企業がリストラをすれば失業者が増える、取引先企業の収入が減るという形でまた自分に跳ね返ってくる、また新たな節約、リストラを迫られるという悪循環がデフレスパイラルでございます。だからこそ国の政策が必要と。国民が将来不安を持っている中でもっとお金を使えと言われたって使えないわけでございますから、だからこそ国がいつか必ずやらなくてはいけない社会資本整備を今前倒ししておやりいただくと。前倒ししてやるだけだったらば将来の支出が減るんですから、それで財政赤字の解消をしていただいてもいいと。  先ほどから財政悪化の話が非常に多く出ているんですけれども、財政悪化の原因は、私はもう既に申し上げました、税収不足なんです。なぜ税収不足なのかと。景気が悪いからでございます。だとしたら景気を良くするということがすべてに勝る政策であるというふうに考えているわけでございますけれども、これまで改革と言われてきたものは、特に小泉改革はそうでございますけれども、国民の将来不安をあおって負担増を納得させる、国民の将来不安をあおって社会保障の削減を納得させるというやり方でございますから、更に国民は不安を増大させる、改革を行えば行うほど国民の不安は高まるという形になっているわけです。国民が不安になればなお物が買えない、なお縮こまってしまう、新しい事業は始められないという形になって、そこでも悪循環が生じているということでございますね。ですから、まずは国民に安心を与えることこそが本当の改革ではないでしょうか。  そもそも改革というのは、非常に勉強をして、歴史も制度も様々なことについて知識をお持ちいただかないとできないことなんです。どうしてか。人により立場により地域により利害というのは対立いたしますから、それぞれにとって望ましい改革というのは違うんですね。男と女でも違う、都会と地方でも違う、従業員と経営者でも違う、大企業と中小企業でも違うし、高齢者と若者の世代でも違うわけでございます。ありとあらゆるところに利害の対立というのがあるわけでございまして、それを調整して、それぞれに譲ってもらって、全体として一歩でも二歩でも前へと、最大多数の最大幸福を求めるのが改革ではないでしょうか。  それなのに、私の改革に反対する者は抵抗勢力だ、私の改革に協力しない官僚は辞めてもらうというような改革進め方というのは余り正しくないなと。もっとよくほかの立場の御意見に耳を傾けていただければこの改革も成功したんではないかというふうに思っております。医療保険改革も年金改革も、小泉総理はたった五年前に厚生大臣としておやりになっているわけでございますよ。たった五年でまた給付の削減とそれから国民負担の増加というものを必要とするということになった反省というのは今回の小泉改革には見られないわけでございます。  改革というのは、まずは多くの人々の利害関係をきちんと知って、歴史的経緯とか制度的な制約とか、そういうものを知りながらやらなくてはいけないので、勉強たくさんしていないとできないんですよ。で、一人の勉強では限りがありますから大勢の方の御意見を聞くということでありまして、これまで様々な報道を拝読しておりますけれども、概して族議員とおっしゃる方の方が正しいことをおっしゃっているわけでございます。  道路も、先ほど申し上げましたように、国民の生活を守るための危機管理であるということは忘れてはならないんですね。国が採算採算と言うのはおかしいと申し上げました。採算が取れないことをやってほしいから国民は税を払っているんです。採算の取れることだったらばほうっておいても民間が行います。採算が取れないけれども国民の生命、生活を守るために必要なことが多々あると思うからこそ国民は税を払っているわけではありませんか。それなのに政府が採算採算とおっしゃるというのは非常に間違っているなというふうに思うわけでございます。  改革というのは、ですから多くの利害の対立を調整するというところにありまして、みんなの意見を聞いていただくということなんでございますけれども、改革と名前を付けたら改革かということです。なぜこの改革をしなくてはいけないのか、つまり、高齢化が進んでも国民は安心できるのか、中国が台頭してきても日本の産業はつぶれないで済むのかと。私はどちらも大丈夫だと思います。お元気な高齢者がおいでだからこそ高齢化が進むんです。中国は十三億のお客さんがいると、工業化が進んでこれから経済的に豊かになる日本のお客さんがあそこにいるんだという発想の転換をすればよろしいだけのことでございます。  ですから、そういう明るい将来ビジョンを示してそれを実現するように現在の仕組みを変えるのが改革であるにもかかわらず、将来ビジョンなき改革と、手段のみ論じる改革財政の健全化のみ希求する改革というのは国民のための改革ではないと、改革という名前は詐称であると思っております。
  61. 大門実紀史

    大門実紀史君 どうもありがとうございました。
  62. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) はい、ありがとうございました。
  63. 島袋宗康

    ○島袋宗康君 お二方の今日の参考人、非常に貴重な意見を拝聴させていただきまして、ありがとうございます。  まず、井堀先生にお伺いしたいと思いますが、現在のいわゆる財政状況というものは非常にこれは破綻寸前だというふうなことが言われておりますけれども、いわゆる九〇年代の財政運営を振り返って、そして、裁量的な景気対策とルールとしての財政構造改革とのせめぎ合いであったと、結果として橋本内閣財政構造改革が破綻したように、その場しのぎの景気対策に明け暮れた十年であるというふうな位置付けをしておりますけれども、私は今の小泉内閣においても場当たり的ないわゆる財政運営をしているんじゃないかというふうな気がしておりますので、その辺について、どうすればいわゆる日本財政の健全な運営ができるのかというふうなことについてお尋ねしたいと思います。
  64. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 九〇年代の財政運営とそれから小泉構造改革一つの大きな違いというのは、先ほどから出ていますように、要するに量的に、景気後退したときに特に公共事業を中心とした公的な需要で支えるという政策を積極的に採用するかどうかだろうと思います。  九〇年代に関して言うと、やはり景気後退のときにはやはり公的に何とかしようというそういう力が強過ぎて、結果としてその効果がないままに財政赤字拡大したと。  で、先ほどから、要するに財政赤字拡大した大きな要因は景気が低迷したからだという議論もあるんですが、問題は、要するにGDPがそれほど伸びなかったということをすべて政府景気対策の失敗と考えるかどうかということなんですね。要するに、景気対策というのはGDPを増やすことに効果が余りなかったということは、逆に言うとGDPを減らすことにもそれほど利かなかったわけで、要するに日本の九〇年代の経済状況が悪くなったというのは、政府財政運営とは別のところでいろんな大きな問題が起きた、そのことの結果として潜在的なGDPが下がったということが大きな点だろうと思います。  そう考えますと、その教訓からいきますと、二〇〇〇年代の、二十一世紀の日本財政運営というのは、まず潜在的な成長率を上げるために景気対策以外の形で、特にサプライサイドを強化するような、要するに効率、特にいろんな形のデータで見てみますと、人の、労働者の生産性を上げる、これは私のように大学で働いている者から言うと、教育のスキルを高めた人材を労働市場に供給するということもそうなんですけれども、そういったレベルの対応が非常に重要であって、そういう方向に小泉政権も二〇〇〇年以降行っていますので、つまり経済政策あるいは景気対策ターゲットが、それまでの公的な需要民間需要を支えるというところからサプライサイドを強化して潜在成長率を高めようという方向に変わったというのが大きな違いだろうと思います。
  65. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) 時間がもう……。
  66. 島袋宗康

    ○島袋宗康君 地方交付税をいわゆる削減するというふうな方向で今進めておりますけれども、それによっていわゆる地方における合併問題が非常に、まあ交付税が削減されるので合併を急がなければならないというような地方も多いわけですね。これは現実の問題として交付税を削減するということが方向性としては正しいのでしょうか。
  67. 井堀利宏

    公述人井堀利宏君) 合併自体は、それによってその地域の財政力が強化されて、要するに住民がたくさん集まればそれなりにその集積のメリットもありますし、いろいろな形で優秀な人材を登用する選択の余地も広くなるわけですから、合併しないよりはした方が、それによるメリットが享受できるところというのはする方が望ましいと思いますが、交付税の削減の問題はそれとは独立に、やはりそれぞれの地域でそれぞれの税負担を、特に限界的なところで対応させるという、そういう基本的な地方分権のメリットを生かすには、やはり交付税に依存しない体質に徐々に変えていくということが重要だろうと思います。これは合併をするかしないかとは別に、独立に進めるべき方向だろうと思います。
  68. 島袋宗康

    ○島袋宗康君 紺谷先生にお伺いします。
  69. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) もう時間がありませんから、簡潔に。
  70. 島袋宗康

    ○島袋宗康君 はい。  この場においでになって、もう少し言いたかったと、言い足りない部分があるのではないかというふうな感じがしますけれども、もしありましたらお伺いいたします。
  71. 紺谷典子

    公述人紺谷典子君) さっき話題になった地方分権について申し上げます。  アメリカの場合は、財政的な措置の取れていないことを地方に、州政府に押し付けてはいけないという法律ができておりまして、ナショナルミニマムとして国家が地方自治体に委託する仕事に関しては全額国が財源保障するということでございます。  それから、義務教育に関しては、フランスもイタリアも一〇〇%国が負担しております。日本はたった五割、それを更にもっと削減しようとしているわけでございますね。ドイツは連邦でございますけれども、州政府が市町村に委託した仕事は全額市町村が負担するということでございます。むしろ、連邦制でございますから、州税という形で徴税してそれを国に納めるということなんですね。つまり、中央交付税方式を取っているということでありまして、地方分権というのは何よりも財源を渡さなくてはいけないんだという基本に立ち返って御議論をいただければと存じております。
  72. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) 以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。  この際、公述人方々に一言お礼を申し上げます。  本日は、有益な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚くお礼を申し上げます。  午後一時に再開することとし、休憩いたします。    午後零時二分休憩      ─────・─────    午後一時開会
  73. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) ただいまから予算委員会公聴会を再開いたします。  休憩前に引き続き、平成十六年度総予算三案につきまして、公述人方々から御意見を伺います。  この際、公述人方々に一言ごあいさつを申し上げます。  お二方には、御多忙中のところ本委員会に御出席をいただき、誠にありがとうございます。委員会を代表して厚くお礼を申し上げます。  本日は、平成十六年度総予算三案につきましてお二方から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうかよろしくお願いいたします。  次に、会議進め方について申し上げます。  まず、お一人二十分程度で御意見をお述べいただいた後、委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。  それでは、外交・防衛について、公述人拓殖大学国際開発学部教授森本敏君の御意見を伺います。森本公述人
  74. 森本敏

    公述人森本敏君) 本公聴会にお招きをいただき、大変光栄に存じます。安全保障、外交防衛の専門家として、今日日本が直面している主要な安全保障問題並びにその課題について所見を申し述べたいと思います。  我が国は、言うまでもなく各種の改革に取り組んでいるところでございますけれども、私の見るところ、安全保障・外交分野についてのみ基本的な改革がいまだ取り組まれていないわけですが、しかし時はそれを許さず、日本は今日、実質的に非常に重大な安全保障・外交問題の改革に必然的に取り組まなければならないような事態に直面しているのではないかと考えます。  日本の安全保障を考える際、政策に現時点で最も大きな影響を与える要素とは三つの側面を持っていると思います。  一つは、アメリカの冷戦後における国家戦略であり、特にその中でも、現在行われているアフガニスタン並びにイラクにおける各種のテロ、大量破壊兵器作戦というものがどのような結末を迎えるのかという点が第一に考慮すべき要因だと考えます。さらに、アメリカは現在、その国防戦略、具体的に言えば同盟戦略並びに前方展開戦略を根本的にトランスフォームするための政策見直しを行っているところであります。その結論はまだ十分に見えておりませんが、これが日米同盟を含む日本の外交・安全保障政策に非常に大きな影響を与えるのではないかと考えます。これが第一の点です。  第二は、日本を取り巻く東アジアの情勢であります。正に今は、台湾の総統選挙を控え、韓国の内政も非常に不透明な状況にあり、中国といえどもその将来がどうなるか分からず、ロシアもプーチン政権が一応再選されたとはいいながら、極東におけるロシアのアジア政策はいまだ不透明な状況にあり、インドネシアの総選挙もあり、米国は今年選挙を迎えるわけで、その意味で、日本を取り巻く客観情勢は北朝鮮の核開発問題や拉致問題にとどまるというわけではなく、東アジア全体において日本を取り巻いている客観的な安全保障環境がどのような影響日本政策に与えるかということを我々は留意しつつ政策を考えていく必要があるということだと思います。  もう一つ、我々が現在直面している安全保障を考える際に重要な点は、日本の国内における変化であります。これは近年、特に冷戦が終わってからの十年、従来、冷戦期に日米同盟に依存をして、日本の外交・安全保障政策というのはほとんど同盟を堅持することのみにその優先課題を置いていたのですが、冷戦が終わるや周りの環境が変化し、国内においても国民の意識が著しく変化をし、やはり国として国家の安全保障あるいは外交の優先課題をどのようにするべきなのかということについて、一般の国民の皆様が非常に健全な物の考え方と真剣な議論を始めているのではないかと考えます。これは決してナショナリズムということではありませんで、いささか日本社会とか政治の在り方に対する現状不満がその背後にあると思いますけれども、いずれにしても、日本の国内世論あるいは国内情勢が日本政策に与える要因は無視できないものがあるのではないかと考えます。  このような諸要因を考えた場合、日本が現時点で当面する安全保障課題とは何かというと、これは第一に、言うまでもなく、自衛隊のイラク作戦というものがどのように成功するのかということが今後の日本の外交・安全保障政策に非常に大きな影響を与えると思います。  私は、自衛隊の活動が現在の基本計画どおりこの年内に終わるとは必ずしも考えておらず、法律の許すところによればあと三年半その期間があるわけですが、イラクにおける自衛隊の作戦がその成果を発揮し、日本が中東湾岸のみならず国際社会の中で高い評価を受けてこの一連の作戦が終了するよう強く期待しているのですが、この期待どおりになるかどうかということが日本の外交や安全保障政策に大変大きな影響を与えるのではないかと考えます。  北朝鮮の核開発問題も身近にある非常に深刻な問題であり、私は六か国協議の結末に余り楽観的な見方をしておりません。北朝鮮はイランと並んで間違いなく核開発計画を進め、核保有というものが体制が生存するために不可欠なプロジェクトであると考えている節があると思います。その意味において、我が国は核を持っている隣国とどのように向き合うかということを深刻に考えないといけない時期に来ているのではないかと考えます。  日本の防衛については、御案内のとおり、現在の防衛力整備は、一九九五年十一月に閣議で裁可されたというか、採決された現大綱に基づいて防衛力整備が進められているのですが、我々が現在直面しているのは、防衛力の在り方ではなく、むしろ日本の防衛の在り方なのではないかと考えます。  日本を守るに必要最小限度の防衛力として我が国憲法下で保有している日本の防衛力を、今やゴラン高原あるいは東ティモールあるいはインド洋あるいはイラク、これでとどまるとは私は思いませんが、海外に展開をさせて重要な役割を果たしていますが、依然としてその任務は自衛隊法第三条に言う基本的な任務には規定されておらず、しかもこのように海外における防衛力の展開と防衛力を使って行う我が国の国際貢献が質的に量的に広がっている今、我が国は、日本の防衛とは何なのか、防衛力をどのようなことに使うのが我が国の国益に合致するのかを基本に返って考え直すという時期が来ているのではないかと思います。  政府は、現在、大綱の見直しの作業に着手していると承知しますが、これは次々期会計年度から始まる新中期防に必要な大綱の見直しであり、その中でミサイル防衛という非常に重要な防衛計画が策定されなければならないわけで、その意味においても、日本の防衛も安全保障という枠の中で非常に大きな転換期を迎えているのではないかと考えます。  その意味において、従来、例えばテロ特措法、イラク特措法のように、その都度、事態対処法的な法体系で海外に自衛隊を展開しているこのやり方をどのようにして一般的に基準化するかということも我々の考慮の中になければならないと考えます。それに大きな影響を与えるのは、先ほど冒頭に申し上げたようにアメリカの前方展開戦略であります。  これは必ずしもまだ結論が出ていないと申し上げましたが、将来、在日米軍及び在韓米軍の指揮系統やこの地域における兵力構成が、日米同盟協力のみならず日本の防衛力あるいは日本の防衛にどのような影響を与えるのかということを見極めていく必要があり、それは近くといいますか、年末ごろまでにその姿がはっきりと現れてくるのではないかと考えます。  そして、これらの一連の問題は、結局のところは、日本の憲法下において領域外において武力行使及び集団的自衛権の行使を許可されていない、許されてはいないという現在の憲法の解釈に基づく制約要因を持ちながら日本は今までこの半世紀の間日本の防衛力を育て、日本の安全保障政策を進めてまいりましたが、結局つまるところ、そのような制約、そのような枠組みを今後ともどのように持ち続けるのか、もしそれに不合理、不都合なことがあれば、日本の憲法をどのように考えるのかという最も根本的な作業に取り掛かる時期というのが来ているのではないかと思います。  以上のような政策の背後にある基本的な問題意識は、第一に、一体日本の国益とは何なのかということを具体的、個別的に考え直してみるということであります。  御承知のとおり、アメリカは超党派で国益委員会というものが編成され、国益が具体的にディファインされる、定義されるという作業が行われ、その国益にのっとって、リスクを負って海外に軍事力を展開することによって追求できる国益とは何かということが、その都度アメリカは議会の中で審議が行われていることを承知すれば、我が国としては、このたびイラクに自衛隊が送られる際、総理のお言葉によれば日米同盟と国際貢献という二つの大きな国益があるとの説明でありましたけれども、これでは必ずしも具体的な説明として国民が納得できる、つまり高いリスクを負って自衛隊を海外に出すことによって得られる利益と、それによって得る、被るリスクとどのようにバランスするのかという問題を考えるに必要十分な説明がなされていないのではないかと私は考えます。  同時に、一体外交と防衛というものをどのように考えるかということです。我が国は、戦後、軍事的な役割を果たすことなく、主として経済協力、ODAを使って日本の外交上の大きなてこにしてきました。しかし、今や防衛力が他の先進諸国とほとんど並び称されるぐらい重要な役割を果たすことができるようになった今、この防衛力に基づく国際貢献というものを外交の場でどのように活用するのかということを考える時期に来ているのではないかと思います。  日米同盟については、私はインド洋に出ていった時点で日米同盟が新しい領域の中に入ってきた、すなわち、従来、日米安保条約第六条に言う極東の範囲の中での日米協力というものが、より広いグローバルな役割を日米間で果たすという、世界の中の日米関係という新しい分野に日本は踏み込んでいるわけです。これ自身が私は良いと思いますけれども、しかし先ほど申し上げたように、そのことによって得られる日本の国益というものをどのように考えるかということを十分に国民に説明しながら、グローバルな中での日米の役割を広げていくという必要があるのではないかと思います。  いずれにしても、国際社会全体の平和と安定のために日米が協力するというものに私は余り歯止めは必要ないと考えますけれども、具体的に政策のクライテリアというか評価基準というものを国民にきちっと示した上でグローバルな役割を日米協力の下で果たしていくということでなければ、際限なく日本アメリカのグローバルな役割分担が広がっていくということになると思います。その意味において、そのような役割を果たす日本の防衛力を考える時期に来ているとは先ほど申し上げたとおりであります。  個別具体的なことをあと二、三申し上げると、やはり我々が住んでいるアジアというものの中で地域機構あるいは地域的な安全保障協力が進んでいくときに、この地域で重要なのはやはり紛争を予防するということでありますが、一体日本がアジアの紛争予防に具体的にどのような役割を果たすのかということは、外交・安全保障政策の中で真剣に考えるべきであります。  従来のように、対話あるいはいろいろな防衛交流でこの分野の活動がとどまるとは思いません。より実質的な、あるいは行動をともにするような協力関係がいずれ出てきてアジアにおける紛争予防に日本が重要な役割を果たす時期が来ると思いますが、それは現在の憲法の枠の中でなかなか制約が多くて簡単に自衛隊をアジアの中に送って役割を分担するということはできない状態にありますが、しからば、どこまででき、どこまでできないのかということを我々は考える時期に来ているのではないかと思います。  核の問題については、先ほど申し上げたように、従来日本は非常に厳しい核の軍縮を進めてきましたが、冷戦後に核保有国が確実に広がり、我々の周りでも、アジアにおいても既にインドやパキスタンが核保有国になっており、今目の前にイランや北朝鮮の核保有というものが大きな懸念を持って見られているわけですが、これを完全に廃絶するということは非常に難しい現実世界の中にあって、核の抑止の理論というものが冷戦後に確立されていない現状の中で、日本は新しい核の抑止の理論を確立するという必要があるのではないかと考えます。  最後に、日本は今、衆参両院で有事法制関連七法案の審議に取り掛かっていただく時期に掛かっているわけですが、一連のこの立法の審議が終わっても、これから我々が考えるべきことは、立法ではなく立法の、立法された法案を具体的に国家の危機管理体制としてどのように実行し執行し国家の安定と国民の安全を維持するかという次の段階に我々はいよいよ踏み込むということだろうと思います。  そういう意味で、おおむねこの有事法制の法的な整備が終わった次の段階として、国としての大きな危機管理、あるいはこの一連の有事法制を実効ならしめるための国家の仕組み、体制の整備というものが次の大きな課題で、これは必ずしも立法府の責任ではないと思いますけれども、各地方公共団体や行政府がこれから取り組むべき諸問題を立法のプロセスの中でどのようにして先取りをして立法に生かしていくかということは立法府の大きな責任であると考えます。  我が国は、言うまでもなく先進国の一つとして、この五十年、大きな戦争に巻き込まれることなく平和を維持してきましたが、我々が住んでいる世界は依然として不透明で魑魅魍魎の住む世界であります。この中で、日本が国家の安定を維持し、国家の繁栄を維持し、国民の安全を守るためには、相当思い切った将来を見通した政策転換を図る時期に来ており、その意味において私は、一連の政治改革経済改革構造改革が進んだ後、日本が取り組むべき次の大きな課題は安全保障改革というものなのではないかというふうに考える所存でございます。  以上でございます。ありがとうございます。
  75. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) ありがとうございました。  次に、雇用について、公述人日本労働組合総連合会事務局久保田泰雄君の御意見を伺います。久保田公述人
  76. 久保田泰雄

    公述人久保田泰雄君) 連合で副事務局長をやっております久保田と申します。よろしくお願いしたいと思います。  二〇〇四年度の政府予算案につきまして、雇用に焦点を当てながら連合の考え方を述べたいと思います。  まず、申し上げたいことの最大の課題は、雇用改善に今こそ全力を挙げるべきと。多少明るさが出てきたということで、ここで手を抜いてはいけないということを強く訴えたいというふうに思います。  現在、GDP統計など、経済データからは景気回復の兆しがうかがえることは事実でございます。政府小泉構造改革の成果が現れてきた結果であるとしていますが、実際は雇用リストラや一〇%にも上る若者の失業など、勤労者生活の犠牲の上に成り立っているにすぎず、多くの国民が雇用や社会保障への将来不安から支出を減らしている、この現実をまず強く認識していただきたいと思います。  日銀の資金循環統計によれば、二〇〇三年度は、企業業績が改善傾向を示しても、家計部門では雇用や所得が伸び悩んでおり、住宅ローンや教育費は減らせず、預貯金を切り崩しているという実態が浮き彫りにされています。  今後ともリストラ効果に依拠した企業経営が続けば雇用なき景気回復となり、そこに年金などの負担増も加われば勤労者家計は一段と厳しくなり、経済全体を萎縮させかねません。動き始めたこの民需を国民生活と雇用の改善に直結させると、そして地域社会を活性化させ好循環へつなげていくと、そういう経済財政運営こそ今求められているのではないでしょうか。この場で改めて皆様に御要請を申し上げたいと思います。  次に、雇用対策について具体的に意見を述べさせていただきます。  昨年の今ごろは本当に深刻な状況でございました。雇用のセーフティーネットが大きな論議のテーマであったと記憶をしています。その際、連合としては、失業が量的に増えていると同時に、失業期間の長期化、中高年リストラの進行など、質的にも極めて深刻な状況になっていることを申し上げて、構造的な対応をお願いいたしました。  一年前と比べまして失業率の上昇は収まったかに見えますけれども、その水準は依然として高く、質的に見ても正社員の減少と有期の不安定雇用の増大など、トレンドは変わっていません。引き続き構造的な対策が必要であると考えています。  政府の雇用関係予算案を拝見しますと、若年者雇用問題が大きく取り上げられています。若年者対策の目玉として日本版デュアルシステム、ジョブカフェ、ヤングハローワーク、ジョブサポーターなど、実に多くのメニューが出されていますけれども、細切れで予算措置も少なく統一性に欠けるという印象を受けています。連合は、若年雇用問題を重要な課題であると受け止めています。是非積極的にやるべきだと考えます。  また、今回の予算案は、数年来の大きなテーマであった雇用創出・安定策がほとんど入っておりません。雇用情勢が急激に悪化している局面では対策として様々な施策がパッチワークで導入されましたけれども、やはり構造的な問題はこれでは解決されません。雇用政策をより明確化して、これを軸とする統一的な対応が必要とされているのではないでしょうか。  若年者雇用対策費についてOECDのエンプロイメントアウトルックということによれば、GDP比は、一九九九年の数値ですが、フランスは〇・四%、イギリスは〇・一五%、ドイツは〇・〇八%に対して、日本は何と〇・〇〇三%となっています。フランスとは百倍以上、ドイツと比べても三十倍近い差があります。職業訓練を受ける青年への生活保護や国、自治体が直接間接に行う雇用創出事業など、ヨーロッパの経験を参考に日本でももう少し統一的に、本腰を入れた雇用対策に取り組む必要があるんじゃないでしょうか。  雇用政策の明確化と、それをどう評価するかという仕組みも必要です。政策評価については、昨年六月、厚生労働省、日本経団連、連合の三者で雇用対策評価委員会というものを持ちました。効果が上がったものもありますが、十分そのねらいが生きていないものもあります。評価視点を含めて、今後更に継続してこのプラン・ドゥー・チェックという仕組みを積み上げていくことが必要だと思います。  雇用政策の明確化に関連して、三つのことについて申し上げたいと思います。  一つは雇用創出、一つは円滑な雇用の労働移動、一つは多様な働き方の選択肢の拡大の問題であります。  まず雇用創出ですが、環境、保育、介護、福祉、教育など、将来にわたる社会が必要とする分野についてはやはり政府、自治体が良質な雇用を作り出す、こういうことについては依然として重要なテーマだと考えております。政府予算支出に伴って、公的社会サービス部門にどれだけの具体的な雇用量を張り付けたのか、そのことは明示をしてもらいたいというふうに思います。  また、つなぎ雇用として措置された緊急地域雇用創出特別交付金については、地域における産業・雇用政策と連動させながら常用的な雇用機会創出につなげる仕組みに再編していくことが大事ではないかと思っています。  第二は、円滑な労働移動の支援です。  現実に再就職の厳しい人々が多く出ています。かなりきめ細かな支援体制や行政インフラを整備していくことが求められていますが、政府予算案ではキャリアアドバイザー、コンサルティング、支援員、様々なことが配置をされていますけれども、それぞれの役割分担を明確化すること、そして、現場の連携体制が非常に重要だと思います。地域、現場の職業紹介と能力開発を結び付ける仕組みをどうやって再構築していくか、ここに知恵を絞るべきだと思います。  現在、発足したばかりですが、地域労使就職支援機構というものがあります。そこでのノウハウを蓄積し、かかわりを持っていくようなことも今後考えられてよいのではないかというふうに考えております。ミスマッチ対策は大変重要な課題でございます。  次に、若年層、若者の対策でございます。  日本版のデュアルシステムの導入で七十五億円計上されていますが、その対象はわずかに四万人でございます。学卒未就職者は二〇〇一年では高卒が十三万人、大卒が十四万人おり、フリーターが四百十七万人もいる中で、対象が四万人では余りにも少な過ぎるのではないでしょうか。  団塊二世の労働力が、労働、二世が労働力市場への参入が続いています。ここ数年の雇用機会の不足と良好な雇用機会に恵まれずに不本意な就労に滞留していると、こういうフリーター、そして、そこに毎年新規学卒者が労働市場に入ってきますから、この三つどもえで新卒の未就職者も増加するという、こういう構造的問題に陥っているというふうに見ます。  対象者を増やすということも大事だと同時に、若者からすれば、企業実習や教育研修を受けるには、自らの生活もあるわけですから、当面の生活支援を含めた予算措置を講じていかなきゃならないんじゃないでしょうか。そうしないと日本版デュアルシステムも実効性を上げられないんじゃないかというふうに懸念をしております。  第三は、多様な働き方の選択肢の拡大についてでございます。  均等待遇も含めて、公正な処遇条件を確保することが真の選択肢の拡大につながると確信をしています。景気が回復しつつある今こそ、緊急避難型だけではなくて多様就労型のワークシェアリングに本格的に取り組む、そして、社会的な枠組み作りを進めるチャンスだというふうに思っています。連合では、時間当たりの賃金は下げずに維持し、その上で、現在の問題となっている不払残業を根本から解消して仕事の分かち合いができるのではないかと考えています。  また、現実の職場では、パート、派遣、請負など多様な雇用・就労形態の労働者が混在するようになってきていますので、今問題になっている現場力といいますか、安全管理体制を法制的にも見直していくことが必要じゃないかというふうに思っています。  多様な働き方の選択肢の最後の項目は、地域の活性化で雇用を生み出していくという方策でございます。それぞれの地域における雇用や生活と密接にかかわっている中小企業を核にして、これまでの産官学を機能的に拡大をして、産官学、そして金融、労働組合、それも含めたネットワークを構築して地域経済の活性化を推進していくことが重要であると思います。  中国が迫ってきておりまして、地方に行けばやはり工場というのは、大変空洞化というのは進んでいるというふうに思います。東京と地方とは全く風景が違うというのが実態でございます。是非この地域の活性化のために知恵を絞るということも含めて、連合は今実態調査、シンポジウムの開催などを進めておりますが、政府にも是非積極的に関与をしていただければというふうに思います。  最後になりましたが、今国会最大の課題であります年金改革についても雇用との切り口の中から少し触れたいというふうに思います。  今、国民の年金不信はピークに達しております。連合総研の調査でも七割以上の人が年金制度を信頼できないというふうに答えています。これは年金制度の見直しのたびに水準の切下げと保険料の切上げを繰り返してきたからにほかなりません。年金不信は国民政府と政治に対する不信の表れで、とも言えます。にもかかわらず、今回出された政府の年金法案はこうした国民の年金不信を払拭するどころか更に増幅する内容になっていると言わざるを得ません。  まず第一に、国民年金の保険料を支払わない人が四割にも達するいわゆる空洞化を解消するための抜本改革が何ら示されていないばかりか、基礎年金の国庫負担二分の一の引上げ、パート労働者の厚生年金の適用拡大あるいは第三号被保険者の改革などもすべて先送りをされています。今回の政府法案は給付削減と負担増のみを先行する単なるつじつま合わせの内容にすぎないと思っています。これでは国民年金の保険料アップと相まって空洞化は更に進行し、更なる財政悪化という最悪のパターンとなるのは必至ではないでしょうか。私どもはこのような年金法案を認めるわけにはいかないと考えています。  政府は、今回の抜本改革なき給付削減と保険料アップをまず撤回し、真の安心と信頼につながる二十一世紀の年金制度と社会保障制度の再構築に向けて国民的議論を尽くすべきだというふうに考えます。  雇用と年金との関係の問題ですが、やはり支える側を増やすということが最も重要だと考えています。就労者と年金加入者を増やすために、少子化を加速させている雇用労働環境を改善し、若者やフリーター、女性や高齢者の就労促進策を強化することこそが今最も重要ではないかと考えます。  なお、パート労働者の厚生年金への適用拡大は政府の各種審議会等でも提言されていますけれども、業界団体の強い反対を受けて残念ながら今回五年先送りをされようとしています。これでは若者やフリーターなども含めて厚生年金の未加入者がますます増大し、国民年金だけでなく厚生年金制度の空洞化も進行しかねません。一定の経過措置は必要ですが、今こそパートの適用拡大に向けて筋道を明確にする必要があると考えます。  時間が迫っておりますが、お手元に配ったパンフレットの三ページに、連合は批判をしておりますが、一体連合は年金についてどう考えているんだということについて、三ページにこの図で示しております。(資料提示)  時間もございませんので簡単にいたしますが、国民年金の空洞化を解消すると、そして皆年金制度を確立するためには、基礎年金を現行の保険方式から税方式に転換すべきであるということを提案しています。そして、二〇〇四年度にはまず基礎年金の国庫負担を確実に二分の一に引き上げる、そして二〇〇九年度の年金制度改革のときに全額税金で賄う税方式への転換を求めています。  具体的には、年金目的間接税あるいは現行の事業主の社会保険料に対応する社会保障税という考え方を示しております。この税方式に転換するということで国民年金の保険料負担はなくなって厚生年金の保険料率も下げることができます。直近では五、六%ぐらいは下がるのじゃないかと思いますが、もし現在の給付水準を維持しても、二階の厚生年金の保険料率は二〇二五年時点で一五%で十分に制度維持が可能ではないかというふうにシミュレーションをしているところでございます。  以上、二〇〇四年度の政府予算案につきまして勤労者、国民の生活不安、将来不安の払拭、そして若年雇用対策の抜本強化、そして年金制度の抜本改革なき給付削減、負担増の撤回ということを求めまして、以上、私の意見とさせていただきたいと思います。  御清聴ありがとうございました。
  77. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) ありがとうございました。  以上で公述人の御意見の陳述は終わりました。  それでは、これより公述人に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  78. 林芳正

    ○林芳正君 ありがとうございます。自由民主党の林芳正でございます。  お二人の公述人、お忙しい中、お越しいただきましてありがとうございました。時間が限られておりますので、若干安全保障の方に偏るかもしれませんが、御質問をさせていただきたいと思います。  森本先生には、もうかねてから長い間御指導をいただいておりまして、おっしゃること大体、いつも興味深くというか、本当に参考にさせていただいておるわけでございまして、今日もまたいろいろ深い洞察に基づいてお話をいただいたわけでございます。  そこで、まず大変キーワードだなと思いましたのは、健全で現実的な議論が行われるようになってきたということでございまして、私も昨年の予算委員会におきまして、若干例が適切だったかどうか分かりませんが、映画に例えまして、マトリックスという映画が非常にはやっておりまして、今ボリュームスリーまで、完結編までまいりましたけれども、あの映画は、実は今の現実世界だと思っていたものが実はイメージで、バーチャルであったと。本当の現実というのは物すごくどろどろした、ロボットに支配をされておるような、こういう世界であると。こういう筋なんでございますが、正に我が国が今議論が健全になっているという背景はあれに例えると分かりやすいなと。今まで日米同盟の中で、いわゆる吉田ドクトリンといいますか、軽武装でやってきても差し支えがなかったと。  しかし、世の中では、冷戦が終わってからいろんなことがあって、実は我が国もそこと無関心に、あのマトリックスの中の映画のようなことでは済まなくなってきたということが国民の間にだんだんと広がってきておるんではないかなというふうに思うわけでございまして、正に先生おっしゃった魑魅魍魎が世界にあふれておるということがこのことではないかと。そして、それに本当にどうやって対応していくのかということを現実的にきちっと対応していかなければいけない、こういう議論になってきておるんではないかと、こういうふうに思うわけでございます。  そこで、まずイラクとアフガン、アメリカの外交戦略という意味で、アフガンのときには非常に国際的なコンセンサスもあって、国連の支持もあってということでございましたが、イラクについてはいろいろ世論が分かれて、我が国の国内も多くの反対意見もある中で我が党並びに政府が決断したと、こういうことでありますが、一体違いは何なんだろうかと、こういうふうに考えてみますと、アフガンの場合はいわゆる国内の刑法に無理やり例えますと既遂であったと。ワールド・トレード・センターが実際に破壊をされたということでございますが、イラクの場合は未遂といいますか、非常に危険があるという蓋然性はあるんだけれども、具体的にじゃ何かを、今回ですね、クウェートのときはやりましたけれども、今回においてはそういうことが既遂というところまで行ったかどうか、そこが議論が分かれるところでございまして、では既遂でなくては何も行動が起こせないのかと、ここが大きな私は問題になってくると。未遂の場合にもある程度蓋然性がある危機の場合には国際社会として対応していかなければならないんではないか、こういうことの、じゃ未遂というのはどこまでが未遂として処罰されるべきなのか、そこから先はまだ蓋然性がないのでそこを、武力を行使するところまで至らないという、この線の引き方に対するこのケースの積み重ねというのが今までなかったですから、ある意味では最初のケースでありましたので、当然、議論も巻き起こるし世論も分かれると、こういうことだったと、こういうふうに思いますけれども、そういう考え方で今後は、明らかに既遂でない場合でもやはり国際社会が協力をしてああいう脅威に対応していかなきゃならないと、こういうふうに思いますが、その線をどういうふうに引いていくべきかということにつきまして森本先生、御意見あれば承りたいと思います。
  79. 森本敏

    公述人森本敏君) イラク戦争が起きた後、日本のみならず、特に日本ではアメリカの始めたイラク戦争の大義についての議論が盛んに行われたわけですが、基本的にアフガン作戦とイラク戦争の違いは、御案内のとおり、アフガニスタンのテロ戦争は安保理決議がありません。  安保理決議がない理由は、アメリカが国連憲章第五十一条に基づく個別自衛権を行使してアフガンにおけるテロ作戦を行うということを、当時の段階で安保理の常任理事国がすべてこれを了とし、NATO諸国は同盟国アメリカが個別自衛権を行使してアフガン作戦を行うことを了として、NATO諸国は集団的自衛権を行使してこれに同調したという経緯があります。この意味において、アフガニスタン戦争というのは、実態は何であれ、国際法上は国連憲章五十一条に基づく個別自衛権の行使の世界のオペレーションだったということだと思います。  イラク戦争は、自衛権行使のオペレーションとはどう考えても考えられないといいますか、合理的には判断されないし、イラクの中にアメリカに対するテロが行われる主犯がいるわけでもないと。したがって、アメリカは大量破壊兵器の武装を解除するという理由でこの一連のオペレーションを始めようとしたのですが、言うまでもなく、国際社会の中で他国に武力を行使できる国際法上の根拠がある行為とは二つのケースしかない。一つは武力行使を容認する安保理決議がある場合と、もう一つは国連憲章に基づく自衛権を行使する場合とであります。  アメリカは、したがって、できれば安保理決議があって、安保理決議の下で武力行使を容認した形、容認された形でイラク戦争を始めたいと考えていたのですが、残念ながら、昨年の三月十五日までに安保理決議が新たに通るということはなかったので、したがって、ちょうど一年前、三月十七日に、ブッシュ大統領は全米向けのテレビで、イラクを武装解除するために四十八時間以内にフセイン及びその親子が国外に出ること、それがなければ、アメリカは武装解除するために武力行使のやむなきに至った旨を説明し、三日後に、三月二十日、イラク戦争が始まったわけです。  こう考えると、結局、国際社会の中で、これは新しい国連安保理決議、あると言えば、英米、日本は安保理決議六七八を根拠に説明していますが、これは少し無理があると私は思います。  そもそもイラクがクウェートに侵攻したときに、この秩序を元に戻すために一九九〇年十一月に通った安保理決議と、六七八というのは、あくまでイラクのクウェート侵攻を元に戻すための安保理決議であって、これを根拠に今回のイラク戦争を始めたということについては、これは安保理のそもそもの経緯と趣旨にかんがみて少しく無理があると思いますので、私は、やはり国際社会の中で未遂と既遂の限界と、あるいは分かれ目というのは、明文で武力行使を容認する安保理決議があるかないかという一点に懸かっているのではないかと、かように考えます。
  80. 林芳正

    ○林芳正君 非常にすっきりとした御説明だったと思いますが、そこで、そういう国連においての議論も非常に今から重要になってまいるわけでございますが、一方で、先ほど先生おっしゃったように、この米国自体のいろんな戦略の行方というものが今から非常に大事になってくるわけでございますが。  ああいう、非常にある意味では民主的な選挙に基づいて大統領を選んでいくという国でございますから、世論といいますか民意というものが、特に今年は選挙の年でございますので色濃くこれ反映をされざるを得ないと。そして、共和党、民主党、今一生懸命やっておるところでございますけれども、大統領選の行方も、まだあと七か月もあるわけでございますから今からあれこれ言っても始まりませんけれども、かなり拮抗を今の段階ではしておると。  ただ、面白いのは、民主党の候補のケリーという上院議員も戦争を支持をしておったということでございまして、先ほど言った既遂の方のアフガンの、要するにアルカイダに攻撃をされたという被害者としてのアメリカの、もうこれは全国民共通、アメリカ国民の共通の立場だと思いますが、そういうことをベースに大統領選が行われ、そしてその大統領選の結果によって次なるアメリカの国防戦略が出てくるということになりますと、この選挙の結果によってはそれほど影響は出ないのかなと、こういうふうに思いますが、その辺りの分析につきまして、今先生どういうふうにお考えか、お聞きしたいと思います。
  81. 森本敏

    公述人森本敏君) 九・一一以降、アメリカは、テロと大量破壊兵器というものが結び付く脅威こそ冷戦後の最大脅威であると認識し、これに対して戦いを挑むという決断をアメリカはしているわけですが、この場合、どれぐらいの期間掛かるのかということについて、九・一一事件が終わった直後、あった直後、マイヤー統合参謀本部会議長が、国防省の記者会見において、テロ作戦の期間は自分の一生を懸けてだという説明をしています。これはいわく言い難い期間であり、よく分からないわけですが、昨年秋、下院軍事委員会でペース統合参謀本部会議副議長が証言したところを見ると、二年続いたテロ戦争は、今後最低まだ十年ないし十五年掛かり、これはいかなる政権が誕生しようともアメリカのこの目標に変わりはないという説明をしています。  ということは、共和党が再選されようが民主党の政権ができようが、アメリカがテロと大量破壊兵器という冷戦後最大の脅威に戦うという決断は、政権のいかんにかかわらず引き続き行われるものと考えるべきではないかと思います。  他方、もし民主党が政権を取るということになった場合、そのやり方については、恐らく現在の共和党政権よりも国際協調的な、特に米欧関係を改善し、より国際社会を協力的な形で取り組んだアプローチを取りつつこの一連のオペレーションを始めるという、どちらかというと、新保守主義というよりか国際協調主義に重点を置いて一連の作戦を引き続き行うということになるのではないかと考えます。
  82. 林芳正

    ○林芳正君 ありがとうございました。  共和党のブッシュが再選された場合でも、ラムズフェルド、パウエルといった人は退任をするんではないかと、こういうことが言われておりますし、今先生正に御指摘になったように、もし民主党政権になればナイ先生のような考え方の方が入ってくるだろうと、こういうことになるわけでございまして、今の段階でどちらがいいとか、どうなるということを申し上げるつもりはございませんが、そういうことを前提にして我々は物を考えてまいらなければならないということだと思います。  そこで、先ほど先生がおっしゃった韓国の話でございますが、私も非常に昨年来、今の盧武鉉大統領が選出をされましてからいろんな方からお話を聞くわけでございますけれども、ここまで話がこじれるかどうかは別として、なかなか容易ならざる事態になるんではないかなということを思っておったわけでございます。それは、大統領が選ばれる過程においても内包していた問題であったと、こういうふうに思いますけれども、それが正に今出てきているということであろうかと思いますが。  この安全保障上の問題といたしましては、この政局の混乱が北に対して誤ったメッセージを与えないようにしなければならないということであろうと、こういうふうに思うわけでございます。ああいう国でございますから、こちらが幾ら説得をしたり説明をしたりしても、それを曲解してということはあり得るわけでございますが、それにしても、この韓国の、韓国といいますか朝鮮戦争起こったときのことを考えましても、いわゆるそういう間隙を突いていろんなことをやってくるということが昔もあったわけでございます。  先生の世界週報のやつに、この韓国軍の近代化計画に関連して、在韓米軍がソウルより下へ下がっていくというようなこと、これ、韓国の間でも、与野党の間で大分見解が違うようでございます、決定した経緯が。ちゃんと最初から話し合ってやったんだという人と、いや、突然やられたんだというようなことが政局絡みでも言われておるような話でございますが。  例えば、こういったことを取ってみても、非常に誤ったシグナルが北へ出ていってしまうんではないかと。そういう誤ったシグナルを与えないようにきちっとこの、特に日米韓、この三つの国が協調してきちっとやっていくんだという姿勢を出していく必要性があると思いますが、御見解をお願いいたしたいと思います。
  83. 森本敏

    公述人森本敏君) 韓国の内政は、正に隣国としてといいますか、同じアメリカの同盟国である日本として大変心配もし、懸念し、しかし、ただ心配とか懸念とかという問題だけではなく、日本の国家の安全保障に非常に深くかかわる問題として、我々はできるだけ韓国の内政が早く安定した形になることを期待して見ているわけでありますが、現実の問題としては、この盧武鉉政権誕生後に米韓関係が必ずしも健全な状態になく、その結果として、現在米韓間で話し合われている結末は、在韓米軍をソウルの南、漢江の南に何段階かに分けて移転するということであり、移転することに伴って韓国にとっての人質である在韓米軍がなくなる、と同時に北朝鮮にとっても人質がなくなるということであります。  すなわち、アメリカにとっては、いつでも北朝鮮に必要な軍事的圧力を掛けることのできるフリーハンドを持つということでありますので、そういう意味で北朝鮮にはプラスとマイナスのメッセージがともにあるということだと思います。つまり、目の前の在韓米軍が引くので安心できるというだけではなく、アメリカが手を出したら必ず北朝鮮からDMZ、非武装地帯を越えずに在韓米軍に攻撃できるという状態がなくなるという意味において北朝鮮にとっての人質がいなくなるということでありますから、北朝鮮にとっては非常に不気味な面もあると思います。  私は、在韓米軍のリロケーションといいますか、南部への移転というものが日本の安全保障にどのような影響を与えるのかということについて、日米韓国、三か国で相当、本当は専門家が集まって議論しておくべき問題だと思いますが、まだそのような兆候は見られません。  在韓米軍は、従来、朝鮮半島に非常に特化するというか、拘置されるというか、ホールドされる戦力として今まで運用され、維持されていたわけですが、南に下がることによって、むしろCINCPAC、太平洋軍にとっては割合アジア太平洋全域に使える非常にフレキシブルな戦力に性格が変わっていくということを意味しますので、したがって在韓米軍と在日米軍の共同運用ということも可能になり、日本にとって安全保障上良いという面はもちろんあると思いますが、しかし、先ほど申し上げたように、北朝鮮がこの人質がなくなったということをどのように受け止めるのかということは少し注意をして分析しておかないといけないということなのではないかと思います。  御承知のとおり、先生が正に今引用されたように、朝鮮戦争というのは、当時アメリカ軍が、北朝鮮が韓国に南進しないという情報見積りの下で、韓国軍に必要な防衛力、戦車、戦闘機を全く与えないで当時の在韓米軍を運用していた。そのすきをつかれて入ってきたわけですから、そのレッスンといいますか教訓を十分に生かして、我々が抑止力をいかに高めた状態でこの一連のリロケーションをどのように進めるかということについては、米韓、二国だけの問題では決してないというふうに考える次第でございます。
  84. 林芳正

    ○林芳正君 大変示唆に富む先生のお話だったと思います。  正に日米韓できちっと話合いをして、それは公式に、表でやるだけではなくて、あしたそういう発表をしますよと、来週しますよということをあらかじめお互いに情報を共有して、そのときのリアクションが、ああ、そんなことするのというふうにならないようにしておくと、これが大変私は重要ではないかというふうに思っておりますし、また、北朝鮮にとっても実は人質というお話は非常に私もはっと気が付かされた問題でございまして、むしろその辺りをうまく組み合わせながら北朝鮮に対峙をしていく必要があるなということを再認識をさせていただいたわけでございます。  そこで、先ほど先生がおっしゃったように、ミサイルをもう実験を重ねて、日本海を飛び越えて、列島を飛び越えて太平洋まで到達をするということはもう周知の事実でありますが、それに対応するためにこのミサイルディフェンスというものを我が国も検討開始をしておるわけでございますが、この中で一つ、集団的自衛権と絡みまして、このミサイルディフェンスというのは、ちょっとややこしい話になりますが、ブーストフェーズで発射をして、ミサイルはですね、そしてローンチして、ミッドコースになって、そして最後はローンチになると。この三段階があるわけでございまして、もうだれが考えてもブーストフェーズでたたくというのが一番効果的であるわけでございますし、もしABCというような物質を積んでおれば、なおさら、ローンチで撃ち落としてもそれは降ってくるかもしれないわけでございまして、このブーストフェーズでたたくということが非常に有効であるわけでございますが、集団的自衛権との絡みで、このブーストフェーズではまだ我が国に対する攻撃かどうかが明確ではないと。そうすると、個別的自衛権ではいけないので集団的自衛権で、しかも我が国と同盟関係にある国に発射されたということがないとやれないということをおっしゃる方がおられるわけですが、それでは非常にミサイルディフェンスの持つ有用性が損なわれるというふうに私は思っておりますが、先生の御見解をお尋ねしたいと思います。
  85. 森本敏

    公述人森本敏君) この問題は、ミサイル防衛を、我が政府がミサイル防衛そのものを導入するという決断に至ったプロセスの中で随分といろいろな議論が行われたと承知しますが、結局は、ブーストフェーズの段階日本がこれを探知し識別して、その時点でこれを排除するためにミサイル防衛そのものを作動させるということは、どこまで飛んでいくか、どのような方向に飛んでいくかというようなことが必ずしも明確に判別できない段階でこれを排除するということなわけですから、したがって、この問題は日本の自衛権、つまり個別自衛権の行使の一環としてこれを概念するということでなければいけないんだろうと思います。  もっとはっきり申し上げると、例えば、どちらかの、どこかの国に飛んでいくということが明々白々になってから対応するのでは技術的にも軍事的にも遅いという段階でこれを処理するということなわけですから、その場合はいかような方向になろうとも、例えば、もっと卑近な例を言うと、日本の方に飛んでくるといっても、実際にはそれが在日米軍あるいは日本の周辺、近海にいる、日本の領海の中にある米国への攻撃であるかもしれないわけで、そういう意味では、技術的にそういう問題についてはブーストフェーズでこれを処理するという技術的な問題をすべて法律の中で解釈しようとすれば、これは個別自衛権を行使してこれに対応するという以外に、私は説明の方法がないのではないかというふうに考えています。
  86. 林芳正

    ○林芳正君 時間が参りましたので、まだまだたくさんお聞きしたいことがあるわけでございますが、大変示唆に富む御発言をいただいたということを御礼を申し上げて、また、久保田公述人にはいろいろと御説明の中でお聞きしたいこともあったわけでございますが、ちょっと時間の都合で、またの機会に譲らせていただきたいと思います。  以上で終わります。ありがとうございました。
  87. 山根隆治

    ○山根隆治君 本日は、大変お忙しいところ、ありがとうございました。  時間もございませんので、端的に御質問をさせていただきます。  まず、森本先生にお尋ねをいたしたいと思います。イラク問題についてでございます。  自衛隊がああした形で派遣をされていて、当初かなり世論でもイラクの派遣、自衛隊派遣については批判的な御意見は多かったんですが、時とともに自衛隊大丈夫だろうかという、論理を超えた、理屈を超えた国民の感情というものが今出てきていて、世論調査をすると、自衛隊の派遣についてそれをよしとする、数字的には、ものは多くなってきている。これは当然な、ある意味では当然なことでございますし、私たち民主党という立場からしても、派遣はおかしいと言いながらも、やはり自衛隊員の身の安全というものについて非常に心配をしているということでは国民感情と一致しているところであります。  さて、イラクがああいうふうな状態になっている中で、連日、テロのニュースというのが私たちの茶の間に飛び込んできて、非常に心配いたしております。特に、先般のスペインにおける爆破、列車の爆破事件ということについては、これイラク国内にとどまらないで、イラクに派遣された国々にもその危害が及ぶという心配を国民も持っているかと思います。  それでは、このテロを本当に抑えていくのには米軍のああした攻撃、そして駐留ということだけをもってしてそれを抑えることは到底でき得ないと思うわけでありますけれども、私はその根本にあるやはり貧困の問題の解決などがこれはもう不可欠であろうというふうに考えますが、自衛隊も派遣された今となって、本当にテロに対する、テロの根絶についてはどのような手法を持って行い得るのかについて先生の御見解を聞かせていただきたいと思います。
  88. 森本敏

    公述人森本敏君) 現在アメリカがイラクの中で行っている作戦というのは二つの系統、二種類から成っていて、一つは御案内のとおり、ジョイント・タスクフォース・セブンという米中央軍隷下にある実力部隊であり、ざっと見てアメリカ軍が十二万、イギリス軍が一万三千人でできている、イラク全土にわたる治安を維持、回復をしてテロと戦うというこれは実力部隊であります。もう一つが、御案内のとおり、CPAという暫定連合統治機構という、これは司令部機能でありますが、千数百人から成る司令部機構で、実際にはこれは統治、民生、石油管理並びに人道復興支援、これに三十八か国ぐらいの国が約兵力六万人を送ってイラクの人道復興支援及び石油の管理、民生の安定その他をやっていると。  この後者の方については、六月の末にイラクに統治権を移譲するという計画になっているわけです。  前者の方については、テロを依然として抑圧し、抑制し、イラクの治安を回復するという活動をやっているのですが、実体がよく分からないのですが、イラクの中でテロをやっている主体は、国外から入ってきたアルカイーダのメンバーや旧バース党の党員、旧軍人、旧スンニ派の勢力、あるいはフセインの残党、これのシンパなどなどで、アメリカ軍が見るところ、ざっと二千万の人口のうち五、六千人という先鋭分子だと思います。国外から入る者を最近は国境を非常に警備を厳しくして閉じ込めているので、これ以上人数が増えないとすればテロリストたちは一定の領域の中に閉じ込められているということでありますが、しかし、自己主張をするためにはこのテロの活動がますます先鋭化し、ますます過激なものになるという現象は、全体の件数は減っているものの依然として根絶できないという状況になるのではないかと思います。  したがって、アメリカの行う一連のこのテロの抑圧作戦がまだ相当長く続くと思いますが、これがどのような成果をもたらすのかということと、CPAが中心になっている人道復興支援によって民生の安定と復興人道支援がどんどんと成果を広めていくということとは、正に車の両輪のごとく作用してイラクの治安が維持、回復されていくというふうに考え、それが進む限り、自衛隊の置かれている客観的な環境状態は悪くなることはないと、徐々に改善、ゆっくりであるが改善されるというふうに私は理解しております。
  89. 山根隆治

    ○山根隆治君 今回のイラクへの攻撃ということで、イギリスはいち早くアメリカ支持し、日本も追従していったという形があります。ヨーロッパの中で、フランスはまず反対しておいて、そこからいろいろな条件を付けてアメリカと交渉する。非常にイギリスとフランスというのは違った外交手法を持っているというふうに私には見えます。  イギリスについては、まず賛成しておいて、その中でいろいろな条件というものを、自分たちの思いというものをアメリカに伝えて、そしていさめるところはいさめると、こういう手法のように思えます。  そこで、日本の場合にはそうした国家戦略というか、そうしたものがどうも希薄なような気がして、私はもう思えないわけでございまして、ずるずると戦略もなくアメリカに引きずられていく、唯々諾々としてアメリカを受け入れていくということがどうも頼りなげな外交のように思えてならないんですけれども、その点について、先生、日本の外交というものについて、アメリカとのかかわり方について、日本政府の取っている選択というものについて御見解があればお聞かせをいただきたいと思います。
  90. 森本敏

    公述人森本敏君) このアメリカの始めたイラク戦争にアメリカの同盟国がどのような対応をしていったのかということは、日本の外交を考える際、非常に参考にはもちろんなりますけれども、私は先生の御指摘と少し違う印象を持っていて、去る三月の二十日、昨年の三月の二十日、イラク戦争を始めた同日、総理はこれを支持するという非常に強い外交上のメッセージを出しておられて、その態度は極めて鮮明に初めからアメリカ支持するという態度に終始変わりはないということなのではないかと思います。  ただし、具体的にどのような協力をするかということについては、私の個人の推測するところ、三月の二十日の段階ではまだ自衛隊を送ってこの一連の作戦に貢献しようというところまでは十分には考えておられなかったのではないかと思います。三月の二十日から始まったイラク戦争は、四月の九日、おおむね三週間でバグダッドが陥落し、その後、正に戦後の復興という段階に入り、五月の初め、エビアンのサミットがあった日米首脳会談から、五月の二十三日、クロフォードの日米首脳会談のこの三週間の間に、総理がどこかの段階で、自衛隊を送ってもこれに必要な貢献をするという決断が行われたのではないかと思います。  そういう意味で、クロフォードの首脳会談から帰られた後、実際に法案の整備が指示され、準備が行われているところを見ると、どこかの段階で、五月のどこかの段階政府は現在の人道復興支援にこのような形で実質的な貢献をするという決断が行われたのではないかと思います。  ただ、そのことに戦略がなかったというふうに私は思いません。当初は外交上の問題として、日本アメリカのこのイラク戦争を強く支持すると言って支持表明を明確にし、その後、具体的な政策を幾つかのオプションの中で選択をし、自衛隊を送るというための法案を整備するという決断を行われた。この一連の過程に私は明らかに一つの明確な意思決定が行われていたのではないかと考えますので、戦略はなかったと思いません。  ただ、その後の経緯を考えると、もう少し、イラクの中にある七十一の油田を現在アメリカが占有してしまっているのですが、日本が石油の幾つかをよこせなどと言う必要はもっともありませんが、しかしイラクの中にある石油の精製のプロジェクト、あるいはナフサで石油化学製品を作る企業の活動その他、イラクの石油にかかわる下流部分のプロジェクトに日本が提案をしコミットし、日本経済的な利益を享受するというんでしょうか、そういう方法を日米交渉を通じてやるという余地は依然として残されているのではないかと思います。それは、余りにアメリカに独占される必要はないと思います。  アメリカは明らかに五〇年代、イギリスが中東湾岸から引いた後、フランスとロシアが中東湾岸地域に入ってきた、この影響力をすべて排除をして、アメリカが長期にわたる中東湾岸地域における影響力を行使しようとして一連のイラク戦争を始めたと私は考えておりますので、それに同盟国として必要な協力をする限り日本としてアメリカに要求すべきものは堂々と要求してもよい、その点についての政策はもう少し明確であってもよいのではないかと、かように考えています。  以上でございます。
  91. 山根隆治

    ○山根隆治君 それでは次に、北朝鮮の問題についてお尋ねをさせていただきたいと思います。  少し前にさかのぼって考えてみますと、北朝鮮と韓国との関係、金大中大統領は太陽政策を取られた、融和策を取られた。結果として、私は、余りそれはいい状況を今日もたらさなかったというふうに思っております。一方、我が国も北朝鮮の拉致の問題を始めとする一連の措置で非常に弱腰であったということが、今、内外からも強く批判もされているし、その結果も明らかになる。今の小泉内閣においては修正をしてきてはいるところでございますけれども、この太陽政策日本の今日まで取ってきた北朝鮮への外交政策というものについては私は失敗だったというふうに思うわけでございますが、この点について、北朝鮮との今後のかかわり方、交渉の仕方も含めまして、アドバイスいただければ有り難いと思います。
  92. 森本敏

    公述人森本敏君) 韓国が、前政権から現在の政権に至る一連の政権下で太陽政策及びそれに準ずる政策を取り続けていることは御案内のとおりで、その点については御指摘のとおりだと思いますけれども、日本は日米韓国という三か国の連携を維持しながら、実態はアメリカの、言葉は非常に良くないのですが、アメリカのおしりをひっぱたいてずっと来て、北朝鮮については、現在の六か国のメンバーの中では北朝鮮に対して最も厳しい立場をずっと維持し続けてきたのではないかと思います。  それは二つの理由があって、一つは、核開発問題というのは、ほかならぬ日本にとって他の国よりもはるかに重大で深刻な国家の安全保障上の影響を与えるということなので、何としてもこの問題を解決したいと考えていること。拉致問題というのは、結局は北朝鮮がこの問題に真剣に対応するという姿勢を見せない限りこの問題は前に進まないと考えていることから、日本は北朝鮮に従来余り、弱腰であったり妥協をしたということは、私は余りそういう印象は持っていないわけです。  ただ、一般にそう見えるときにどういう問題が起きているかというと、北朝鮮の中にはやはり政策に手法を論ずる考え方があって、物事を余り単純化すると危険なのですが、どちらかというと、他国と交渉をし、その交渉を通じてエネルギーや食料を取り付け、体制が生き残ろうとするいわゆる国際派と称する人々と、一切の妥協をせずに、他に依存することなく北朝鮮は自らの政策を続ける必要があり、他の国と外交交渉によって必要なものを手に入れたりする必要がないと考えている手法を取る考え方とが北朝鮮の指導部の中にやはりあるのではないかと考えます。  その意味において、日本はできるだけ他の国、周辺国との関係を重視しながら北朝鮮を国際社会の中に招き入れて、この国の体質、体制を変えていくということに従来から努力してきたわけで、その意味において、日本の対北朝鮮政策そのものは割合強い姿勢でずっとあり続けたのではないかと私は思います。  この姿勢は途中で変えるべきではなく、北朝鮮が一番嫌がっている、この一連の問題をやがていずれの日にか国連安保理に出して、国際社会を巻き込んで、きちっとした制裁なり国際社会の圧力を掛けるというための外交努力を続けるというそのプロセスの中で、日本は日朝の二国間問題や六か国協議に前向きに対応するよう北朝鮮に働き掛けるという必要が常にあるのではないかと、かように考えています。  以上でございます。
  93. 山根隆治

    ○山根隆治君 次に、台湾の問題についてお尋ねをいたします。  選挙が行われて、最高指導者がだれになるかということによっても随分変わってくるかと思いますけれども、今年はオリンピックがあります。そして、二〇〇五年からは、様々な軍事専門家の分析等では、中国が相当軍備増強してくると、また、そうした経済的な力を持ち得る分岐点になるのではないかというふうに言われているところでありますけれども、もし台湾有事の際、日本の取るべき安全保障上の措置というものについて先生の御意見をお聞かせいただきたいと思います。
  94. 森本敏

    公述人森本敏君) 台湾の今回の総統選挙及び国民投票がどのような結果になるのかということはなかなか予断を許さないところでありますが、御質問の向きは、正に台湾有事の際、日本が取るべき対応と措置という御質問でございますので、このことに限定して言えば、中国は、御指摘のように、現在は国内の経済発展と安定を二つの重要課題としながら、新しい指導部が中国の発展のために邁進しており、当面、二〇〇八年のオリンピック、二〇一〇年の上海万博を成功させるために、国際社会の中で信用を失墜するようなことを起こしたくない。それから、米中関係を万全の状態にして右肩上がりで経済成長を続け、そのためにはアメリカとの緊密な協力が必要であるということで、必要以上にアメリカとの関係に配慮して中国は国家を運営しているのではないかと考えます。  しかし、御指摘のように、二〇一〇年以降に一連の問題が解決、過ぎるまでの間に台湾との軍事バランスを有利に展開させようと考えており、人民解放軍に、中国解放軍、人民解放軍の近代化に邁進していると、させているということも事実のように思います。  これら一連のことを考えると、二〇一〇年ごろまでに台湾海峡が緊張するという可能性は比較的低く、仮に緊張しても、アメリカとの関係を決定的なものにしないよう中国新指導部が配慮するという条件下で中台関係の緊張が続くということであれば、我々は日米関係を万全の状態にしておくことによってこの問題を乗り切れると思いますが、そこから先はバランスが変わって、中国の方が有利な軍事バランスになったときに、やはり台湾の人々がどのような方向を自分たちで選択するかということによって中台関係が変わり、かつ、二〇〇八年以降の米国の新しい政権、次の次の政権が対中政策をどのように考えるかということにこの問題は深くかかわる問題だと思います。  我が国としては、台湾が国境を接しているということを十分に念頭に置きながら、台湾の軍事力というのは台湾の真ん中を走っている山脈の南部にありますので、この南部を中国軍が侵攻するときは沖縄の領域の中に入ってくるということが当然考えられますので、同時に台湾が不必要に日本の中に、例えば回避したり逃げ込んできたりするということを防ぐように台湾にどのように働き掛け、そしてどのようなことが起きようとも日米同盟をきちっとしたものにしてこの問題に対応できるという体制を常に維持していなければいけないということなのではないかと、このように考えております。
  95. 山根隆治

    ○山根隆治君 久保田先生にお伺いをいたします。  先ほどのお話の中で、統一的構造対策という表現がなされたかと思いますけれども、これは一体どのようなものなのか、もう少し御説明いただければ有り難いと思います。
  96. 久保田泰雄

    公述人久保田泰雄君) まず、先ほども申しましたけれども、やはり雇用対策というのが緊急性も含めてパッチワーク型で様々に出てきたのではないか。それから、各省庁のメニューもそういう部分も多分にあるのではないか。それは、現場レベルから見ますと、そのことが本当に整合性を持って、しかも現場の知恵を入れながら使い勝手のいいものになっているか、あるいはそういうことはどうなのかと、こういう視点一つは問題意識としてあります。  それからもう一つは、やっぱり、この雇用の問題は、日本はやっぱり世界の中でも優等生と言われてきて、石油ショックや、二次の石油ショックでも二%台だったかと思います。それが、やっぱり九〇年代に入ってバブルの崩壊の後、二%から三%、四、五と、こういうことでウナギ登りになっているという。私も労働組合で交流する機会があるんですが、ドイツのIGメタルなんというのは随分前は話が違っていたんですが、ここ数年前のところは、日本の連合と会っても、にやりと笑って、ドイツに似てきたななんということで。  そういう意味では、やはり基本的に右肩上がりで、そして非常に完全雇用に近い形で、そして働く者の意識もまず就社と、そして企業の中に入って、企業の中の内部労働市場では非常に柔軟で、転勤だとかたくさんあるけれども、まあ定年まで、終身雇用とまでは言えるかどうか分かりませんけれども、やっぱりそういうことの中で、企業の中でということがずっと多く、そういう労働市場、あるいは雇用慣行、あるいはそういうことに支えられた日本のやっぱり労働政策だったんではないかと。  しかし、それがもう急激に変わってきて、この五%が大体、実質的には、一部で言えば実態は二けたに近い実は失業率ではないかと言われていることもあります。ジョブレスリカバリーかもしれません、この景気回復は。そういう意味からすると、やっぱり日本のその雇用のそういう構造が変わってきたということからすると、それに対する雇用政策というのも、従来型のそういうもので、しかも何かあったらパッチワーク型で、その都度その都度やってきたということから、本気で、何といいますか、腰を据えた、やっぱり一本筋の通った雇用政策が必要ではないかと。そういう意味で、その両面から統一的な構造政策といいますか、そういうものが必要ではないかという言い方をしておるつもりでございます。  以上です。
  97. 山根隆治

    ○山根隆治君 ありがとうございます。
  98. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) ありがとうございました。
  99. 高野博師

    ○高野博師君 お二人の参考人には、公述人ですか、貴重な御意見ありがとうございました。  まず最初に、森本先生の方に一、二問お伺いしたいと思います。  先ほどのお話の中で、日米同盟がグローバル化する中で、インド洋に出ていった、自衛隊が出ていったときから変化があったと。しかし、日米同盟については歯止めを掛ける必要はないということをおっしゃったかと思うんですが、私はむしろ歯止めを掛ける必要があるんじゃないかと思います。  これは、外務大臣も総理も世界の中の日米同盟ということをもう公然と話されておりますが、極東からアジア太平洋の平和と安定ということで日本のこの安保政策が変わった、もうガイドラインのときには大変な議論をされたんですが、今もう世界の中の日米同盟という。しかし、こういうこの進め方をしたときにやはりちょっと私は懸念がありまして、むしろ歯止めをどこかで掛けなくちゃいけないんではないかと。その歯止めをどういうふうに掛けるのかと、地理的に掛けるのか、あるいは国益という観点から掛けるのか、これは議論する必要があると思うんですが、先生はどういう、どういうふうにお考えでしょうか。
  100. 森本敏

    公述人森本敏君) 日米安全保障条約に基づく日米協力は、従来の国会の論戦を通じて、安保条約第六条に言う地域にある種の領域といいますか、がある、領域があるということは従来から政府が説明をし、そのような理解で進んできたと思いますが、今我々が直面しているのは国際社会全体の平和と安定のためにグローバルな役割を日米同盟間で行うということであり、このグローバルな役割に私は歯止めは要らない。歯止めは要らないとはどういう意味かというと、具体的に、地理的に、役割的にこういう歯止めを掛けるということは私は余り合理的でないと思います。  つまり、どこの同盟国の関係であれ、どこの国の軍事的役割であれ、この種の歯止めというものがある国はありません。なぜ我が国は、我々は歯止めという議論をするのかというその根元に立ち返ってみると、やっぱり日本人は歯止めのないことをやると、どこまで、際限が、どこまで行くか際限がないという不安感が我々の中に、根元に我々、我々の中にあるから、したがってある程度の歯止めを法的にあるいは解釈的にする必要があるという議論になるんだろうと思います。これはあえて言うなれば、日本人の過去の歴史的な経緯に立ち返る場合の日本人、自分、自国民に対する自信のなさということなのではないかと思います。  本来は、歯止めというのは政策判断をすればそれでよいわけであって、時の政権が国民の負託を受けながら、どこまでどのような活動をするかということを国民に諮りながら、世論を見ながら政策論議をし、国益を追求するに最もふさわしい内容と範囲とを、地域を考えればよいわけで、本来ここまでしか駄目ということをあらかじめ法的に、政治的に決めるその必要はないという趣旨を私は申し上げたわけでございます。
  101. 高野博師

    ○高野博師君 はい、よく分かりました。  もう一つだけ、これはほかの委員会でもちょっと質問したんですが、自衛隊を海外に派遣するときに原則をきちんと決めたらいいんではないか。要するに、PKO五原則というものがあります、PKO法という法律もあるわけですが。そこで、これは私の考えなんですが五つほど挙げまして、一つは国連決議に基づく、二つは憲法の範囲内、ということは非戦闘地域、それも人道支援に限定する、三つは国会承認、それから四つ目は単独では派遣しない、それから五つ目は重要な国益にかかわるというような原則をきちんと作ってもいいんではないかと。  日米同盟と国際協調というんであれば、これは昨日もちょっと話したんです、なぜハイチに行かないんだと。ハイチはアメリカもフランスもカナダもチリも派遣しているではないかと、人道上大変困っているではないかと、日米同盟もあるではないかと、こういうことになる。しかし、ハイチには派遣しないというのは、余り、国益という観点から見るとちょっと遠過ぎるかなという感じもありますので、こういう原則についてどう思われるか。簡単で結構でございます、お願いします。
  102. 森本敏

    公述人森本敏君) 自衛隊を海外に展開させるための基準、ある程度のガイドラインを法的なものとして整備しておくという必要は私はあるのではないかと思います。  といいますのは、今のように、事態が何か起きて、その都度法律を作るということになりますと、それだけ政治的リスクを負い、時間が掛かり、対応が遅れ、結果として法律があるということはどのような活動をするのかということがあらかじめ自衛隊に分かるわけですから、分かるということは、そのために訓練を行い、装備を整備し、そして、あっ、こういう基準で活動するんだなということが分かっているということが、客観的に跳ね返って自衛隊の諸活動、装備、訓練の目標を設定するという非常に便利なところがあるので、私はやっぱり基準法を作る必要があると思います。基準法の正にクライテリアとして先生の御指摘の五点は私は賛成します。  ただ、一つだけ、この国連安保理の決議に基づくということに少し引っ掛かるわけですが、それはどうしてかというと、御案内のとおり、今アメリカは必ずしも国連安保理決議に基づかない、有志連合という言葉は悪いのですが、価値観を共有する各種の活動に必ずしも安保理決議がない状態で、いろいろな活動を同盟国、あるいは、同盟国とは言わないんですが、価値観を共有できる国々がみんなで協力をして活動する、これに日本が加われないということになると、これはかなり国際貢献といいながら実態としてはバランスを欠くので、したがってこの場合、最後の先生の御指摘のように、国益というクライテリアでそれを読むのか、あるいは何で、価値観という、あるいは国家目的というクライテリアで読むのか分かりませんが、いずれにしろ、国連安保理がなければ、国連安保理がない活動には一切かかわれないという基準については、私は例外的な措置が一つあってもよいのではないかと、このように考えます。
  103. 高野博師

    ○高野博師君 ありがとうございました。  時間がないので久保田先生に一言、一問だけお伺いしたいと思いますが、外国人労働者の受入れについてどのようにお考えか、これからFTAをどんどん進めていく中で、人と物と金、特に人の動きが大きくなってくるんですが、それと、また一方で少子高齢化が進んでいるという中で、労働力も足りない、あるいは年金とか医療制度を支える人口も減ってきている、そういう中で、年間数十万の人を受け入れないと日本社会というのは活力を維持できないんではないか、こう言われているんですが、その辺、簡単で結構ですのでお願いします。
  104. 久保田泰雄

    公述人久保田泰雄君) 大変難しい問題だと思っています。  今、様々な労働、連合の中でも論点を整理をして、日本経団連でもそういうことを整理しようとしていますので、そういう動きに対して遅れないような内部議論を今進めている最中ですので、かちっとした形で体系的に今答弁はできかねないというのが今状況ですが、基本的には専門的な、そういうことについて絞って、やっぱり外国人の労働者というのはそういうことでやるべきと。ただし、水面下で大変そういう事態が進んでいるということについてはしっかりコントローラビリティーの上に置いて、オープン化して、そして、人道的な問題とかそういうことについてはしっかり対応しながらも、無制限に入れていくということについては極めて慎重にやるべきだと。国内の雇用、中高年あるいは男女共同参画、様々なワークシェアリングも含めて、やはりまずそこを基本にしていくべきではないかというふうに考えております。
  105. 高野博師

    ○高野博師君 ありがとうございました。
  106. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) ありがとうございました。
  107. 大門実紀史

    大門実紀史君 日本共産党の大門実紀史でございます。  最初に森本公述人にお伺いいたします。私は、外交・安保の方は専門ではございませんので、少し違う角度で経済的な問題でお伺いします。  先ほど、アメリカのイラク戦争含めて一連の行動の大本に、中東でのイギリスとかフランスの影響力を排除してアメリカ影響力を拡大するというふうなねらいがあるというふうなお話をちらっとされましたけれども、このイラク戦争全体の経済的な背景について森本公述人の御見識を伺えればと思います。
  108. 森本敏

    公述人森本敏君) イラク戦争が何ゆえアメリカによって始められたのかということの真なるねらいはまだ十分によく分かっておらず、アメリカは必ずしもすべてのことについて真実を語っていないというふうに思います。  私の説明は、今申し上げたように、イラクに新しい戦略拠点を作って中東・湾岸政策をダイナミックに進めることにより、イラクの石油を手に入れて、OPECの石油価格を自由裁量することによってOPEC主要国の財政にも大きな影響を与える地位を確保し、将来にわたる中東・湾岸政策の重要な拠点を作ることに今回のイラク戦争の目標、ねらいがあったというふうに考えます。  もしこの考え方が正しいとすれば、サウジアラビアに次ぐ世界第二の産油国と言われるイラクの石油を自由に動かすことによってやがてはサウジアラビアの民主化にもアメリカが手をかし、世界第一と第二の産油国に大きな影響力を持つことによってOPECの石油価格に大きな影響力を持ち、結果として、それはイランやシリアなど主要なOPEC諸国の財政にも影響を与える経済的利益を、経済影響力をアメリカが保持すると、これがイラク戦争の経済的な側面なのではないかと考えております。
  109. 大門実紀史

    大門実紀史君 先生のおっしゃるようなことが根底にあるとすると、今回、テロの撲滅とか大量破壊兵器があるからというようなことはほんの口実にすぎなかったというようなことにもなるかと思いますが、その辺の兼ね合いはいかがお考えですか。
  110. 森本敏

    公述人森本敏君) 今申し上げたのは、アメリカの戦略的なねらいであり、あくまでアメリカの大統領が公に言っていたことは、イラクの大量破壊兵器を武装解除し、イラクの国民を自由解放し、そしてイラクの民主化を進めるということであり、結果として、一年たった今、今までのところ、このアメリカが公に言っていた目的はおおよそ半分が達成され、まだ半分は達成されていないということなんではないかと思います。  達成されていないからアメリカが言ってきたことにうそがあるというのは、私は断定が早過ぎると思います。現にイラクの中でテロをやっている数千人のテロリストたちにもしアメリカが敗北するということがあった場合、イラクの石油を手に入れ、膨大な資金をバックにテロが世界じゅうに出てくるということは可能性としてあり得るわけで、それをできるだけ低いレベルに、根絶できないものの低いレベルに抑制し、テロリストたちに資金が渡らないようにし、自由社会にテロリストたちが出てくることをできるだけ抑制するというんでしょうか、抑制することができれば、それ自身はアメリカの目的の一つであります。  その意味において、大目的はあくまでアメリカの中東・湾岸における影響力の行使ということでありますが、目の前にある二次的、三次的なねらいは、あくまであそこに集まっているテロ、あるいはイラクの中にあったかもしれない大量破壊兵器、あるいは将来フセイン政権が大量破壊兵器を手に入れるかもしれない可能性を未然に防いだということにあったことは事実ではないかと、かように考えています。
  111. 大門実紀史

    大門実紀史君 ありがとうございました。  久保田公述人に伺います。  今、労働者置かれた状況、大変厳しいものがあるというのは先ほどお述べいただいたとおりだと思います。時間が短いので、もうまとめて三点ほど、現場の労働者の実態といいますか、声を是非聞かせてもらえればと思います。  一点は、裁量労働制を現場の労働者の皆さんはどのように評価しておられるか。二点目は、今、業務請負制度というのが大企業の現場に相当入っておりますけれども、それについて現場ではどういう、他の労働者ですね、とらえておられるか。三つ目には、成果主義賃金という下で、の言い方でいろんなことやられておりますけれども、これもいろんな面があると思います。  その三点について、残された時間で結構です、現場の声といいますか、そういうものを聞かせていただきたいと思います。
  112. 久保田泰雄

    公述人久保田泰雄君) いずれも一言で言えない、要は様々な意見があると、それから同じ職場の中でも運営とかそれによって様々にあるということですから、どの労働者の意見を代表するかみたいなことについては非常にすぱっと言うのは難しいと思いますが。  裁量労働制については、サービス残業やそういうことにつながらないかということのおそれのある部分と、それからやはりそういう部分については積極的に受け入れてやっていくべきと。要は、きちっと管理をし、労働組合がちゃんと関与し、そういうことができれば前向きにやっていくべきじゃないかと思いますが、往々にしてサービス残業あるいは不払残業につながっているんじゃないかと。この辺についてはしっかりチェックをすべきだと思っています。  それから、業務請負の問題については、請負と、そして今回派遣法の改正ができまして、派遣法、これもいろいろ議論はありますけれども、従来から比べるとちゃんと管理をし、そこについてしっかり労働組合も関与をしということでは、その間にあります疑似請負のようなグレー的なものが本当にどうなのか、そういうことについてやっぱりもう一度この法改正、今の法律を前提にしっかり労使でそういうことについてやっていく必要があるんじゃないかと。職場の現場の実態については、そういう部分についてはやっぱりグレーゾーンのようなものがあるのではないかという問題意識は持っています。  成果主義賃金についても同様でございます。一言で言って、このパターンというのはありません。各社によって全部違うと思います。それから、職種によって随分意識が違います。技術職やSEやそういう部隊というのは、やっぱり何でもかんでも平等というのはあれだと、むしろもっと差が付いてもいいと、しかし正確に納得いく評価をちゃんとしてくれと、評価事項をはっきりしてほしいと。そういうことではこれは大分受け入れられたのではないかと思いますが、しかし、職種によっても違いますし、問題はオープンな形でそういうことがちゃんとできるのか。それから、ミニマムがちゃんと管理されているのか。それと、問題は苦情処理なんですね。そういうことがあったときにちゃんとそれができるのか。もちろん導入のときにちゃんとしっかり労働組合が絡んで、会社の勝手に入れさせるみたいなことはとんでもないと。間違っても人件費、人件費を安くするための成果主義賃金への移行ということについてはそれは間違いだというふうに思っています。
  113. 大門実紀史

    大門実紀史君 時間がちょっと余りましたので、もう一問だけお聞きします。  フリーター問題、私もこの委員会で取り上げたんですが、正社員を大企業が採用しなくなっているということが根底にあると思うんですが、大企業現場ではこれから正社員を増やす方向というのはあり得ますか。
  114. 久保田泰雄

    公述人久保田泰雄君) 正社員を雇わないというようなことはもちろんないと思います。ただ、要は必要なときに必要な即戦力をみたいな意識は非常に強まっています。したがって、危惧していますのは、企業の中の雇う力だとか育てる力が減退していってないかということについては非常に労働組合も危惧をしています。  しかし、フリーター問題は、これ、雇う側の問題と同時に、実は雇われる側の本人の意識の問題や、職業について、教育の中でしっかり職業ということについてやるという本人側の意識の問題もこれ両面あるんじゃないかというふうに思っていますので、両方からのアプローチでなければ解決にならないんじゃないかというふうに考えています。
  115. 大門実紀史

    大門実紀史君 ありがとうございました。
  116. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) ありがとうございました。
  117. 大田昌秀

    大田昌秀君 社民党の大田でございます。  今日、五分しかございませんので、端的に質問させていただきます。  まず、森本先生にお願いいたしますが、冒頭、国益についてお話がございましたけれども、現状における国益を先生御自身はどのように定義なさいますか。
  118. 森本敏

    公述人森本敏君) これはアメリカとかイギリスの場合、ケースですが、国益というものは国家目的と国家価値から出てくる国の利益であります。したがって、これを一言で述べるということはなかなか難しいんでございますが、基本的なクライテリア、評価基準は、政治的国益、あるいは外交的国益、軍事的国益、経済的国益、あるいは資源エネルギーという面での国益と、いろいろあります。  だから、例えば、日本がなぜイラクに自衛隊を派遣してまで貢献をする国益とはどういうものかということであれば、どういう国益ということが答えられるんですが、一般論として日本にどういう国益があるかというのはこれはなかなかいわく言い難く、アメリカの場合は御承知のとおり国益を五段階に分けていまして、非常に、ベリークリティカル、それからクリティカル、インポータント、レスインポータントというふうにして分けて、最も高い国益の中にアメリカが何を置いているかというと、大量破壊兵器の排除だとか同盟国の防護だとかアメリカ経済的利益だとかを維持するとか、あるいはアメリカの領土を画定するとかアメリカの国際社会のリーダーシップを維持するとかということが抽象的な表現として出ているわけであって、そういう意味日本は、先ほど申し上げたように、国益というのは抽象的にどういうもので、具体的にどういう問題を処理するときにどのような国益があるかということの評価基準を議論しておく必要があるとの趣旨を述べたわけでございます。
  119. 大田昌秀

    大田昌秀君 先生のレジュメの二番目の、二項目の五番目に前方展開戦略の見直しとSACO・沖縄問題を挙げておられますが、簡潔に御説明いただきたいと思います。
  120. 森本敏

    公述人森本敏君) アメリカは結局今、いわゆるトランスフォーメーションといって、アメリカの国防戦略を基本的に見直しているわけですが、その一つが前方展開戦略の見直しであります。  これは、いつ見直しの報告が明らかになるかということがなかなか分からないんであります。推測の記事は随分たくさんございまして、あと三か月以内とかいろいろございますけれども、私のどうも感触は、今の政権が大統領選挙を迎えるまでの間に取りあえずのレビューというんですか、見直しの結論を明らかにするのではないかと思います。  その結論とは何かというと新しい、アメリカにとって新しい脅威というものをリファインして、グローバルに現在おる三十万の駐留米軍というものをどのように見直したらよいかというある方向をアメリカは出してくると思います。それは、兵力を下げるという部分もちろんありましょう。ドイツとか在韓米軍については多少そういうことが言えるかもしれませんが、あとは指揮系統を相当にスリムな形にして、もっと柔軟にホットスポットに対して米軍を動かせるというもので、つまり重点的に海外に、べったりと海外にプレゼンスを置くという必要は必ずしもなく、オペレーションをやっている間にアメリカの本土から常に動かせる、つまり運用可能なといいますか、トランスファーブルなといいますか、展開能力を高めておけば何かあったときに動かせるわけで、平時からべったりと前方にいる必要がないという考え方に立って新しい前方展開戦略の取りあえずの見直しの結論が図られ、その観点で在日米軍がどのような形になっていくかということに我々は関心を持っていて、そのコンテクストでSACOというものが、今進められているSACOの一部が見直しを図られるという可能性があるのではないかと、かように考えているわけです。
  121. 大田昌秀

    大田昌秀君 一言だけ久保田参考人に、もう時間がないので、簡潔にお願いします。  ワークシェアリングに必要なのはどういう点だとお考えですか。
  122. 久保田泰雄

    公述人久保田泰雄君) 緊急避難型と多様就労型がありますが、多様就労型がこれからの課題だと思っています。  均等待遇のキーワード、そして男女共同参画、そして時間管理をしっかりすると、これが最低限の条件じゃないかと思います。
  123. 大田昌秀

    大田昌秀君 ありがとうございました。
  124. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) どうもありがとうございました。
  125. 島袋宗康

    ○島袋宗康君 森本公述人にお伺いいたします。  今日は本当にお二方、大変御苦労さんでございます。  米国はトランスフォーメーションを進めております。その中に在日米軍も含まれているとのことであります。これを日本政府も認めております。これから協議の中で、抑止力重視に偏らないで、在日米軍、特に在沖米軍、とりわけ海兵隊の削減というものは今絶対に進めるべきだというふうに思いますけれども、その辺の積極的な取組、問題について先生のお考えをお聞かせください。
  126. 森本敏

    公述人森本敏君) 前方展開戦略を含むトランスフォーメーションの結果がどうなるか本当に分からないのですが、私の印象は、沖縄の海兵隊を含む在日米軍の兵力数に大きな変化は起きないのではないかというふうに考えますが、ごく一部、部隊の指揮系統が変えられて、その結果としてアメリカ軍が、特にCINCPACといって太平洋軍という地域統合軍がもう少し隷下にある部隊を柔軟に運用できる指揮系統に変更が加えられるという可能性が恐らく在日米軍についてのトランスフォーメーションなのではないかと、このように考えています。
  127. 島袋宗康

    ○島袋宗康君 じゃ、久保田公述人にお願いします。  緊急創出特別交付金事業についてどのような評価をしておられますか。
  128. 久保田泰雄

    公述人久保田泰雄君) これはあくまで期間限定のつなぎ雇用という形で発足をしています。来年の春までですか、たしかそういう期間だったと思うんですが、現在のやつは、やはり県から市町村レベルに落ちていく段階において必ずしも、運用が画一的であり過ぎたり、あるいは雇用創出ということにちょっとこの範囲が入るのかなみたいな部分も若干はあるんじゃないかと思っていますが、基本的には、現場を重視して多様な発想やそういうことを生かした雇用創出につなげようという点では評価したいと思っています。ただ、必ずしもそういう運用がきちっとできているかということです。  労働組合としては、是非この基金を基に新しい需要が起きて、それが常用雇用につながっていくような仕組みができるように再編成できないのかと、そういう形で、やはり基本的には必要であると、しかし再改革をしていくべきじゃないかと、こういうスタンスでおります。
  129. 島袋宗康

    ○島袋宗康君 動産や債権譲渡の担保制度の見直しにつき、労働債権保護とセットで行うべきとはどのような保護を考えていらっしゃいますか。
  130. 久保田泰雄

    公述人久保田泰雄君) 債権保護の強化については、連合は、一定の範囲で担保権に優先させる労働債権の一般先取特権制度の創設、あるいは労働債権確保のための社会的な基金制度の創設というのが基本的な解決策ではないかというふうに思っています。倒れたときの、やっぱり中小企業に働く従業員で、そして賃金や退職金が、結局最後は泣く泣くしわ寄せがそちらに行くということを何としても今防いでいくことが今必要じゃないかというふうに思っています。
  131. 島袋宗康

    ○島袋宗康君 統一的構造対策という表現がなされておりますけれども、どのようなものですか。
  132. 久保田泰雄

    公述人久保田泰雄君) 先ほど山根先生からも同じ質問があったと思うんですが、続けて言いますと、結局、従来のパッチワーク型、しかも量を中心にして、取りあえずの今をやれば、しばらく時間がたてばまた完全雇用に近い形で戻っていくということから、今完全に違うステージに来ているんじゃないかというふうに思っていますので、雇用政策を構造的な問題に方向転換すると。そして、そのときのポイントは、外部労働市場をやっぱりしっかり作って、客観的なそういうものを作って、労働力の移動が本人の損にならないように、あるいは会社を替わるということが恐怖にならないような仕組みをどうやって作るかと。企業の中でしっかり労働者を守ると同時に、安定して納得できる外部労働市場もしっかり作って、やはり最悪の場合は会社が替わっても本人の職業能力がちゃんと生かしていく作りをどうするかというような意味での、構造的な、しかも一貫した雇用政策を従来とは違った形で新しい視点で作り上げていく、作り上げていくもう時期に来ていると、そこにはちゃんとお金も付けろと、こういうのが連合のスタンスでございます。
  133. 島袋宗康

    ○島袋宗康君 ありがとうございました。
  134. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) はい、もう時間来ました。  以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。  この際、公述人方々に一言お礼を申し上げます。  本日は、有益な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚くお礼を申し上げます。(拍手)  速記を止めてください。    〔速記中止〕
  135. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) 速記を起こしてください。     ─────────────
  136. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) それでは、引き続き公述人方々から御意見を伺います。  この際、公述人方々に一言ごあいさつ申し上げます。  お二方には、御多忙中のところ本委員会に御出席いただき、誠にありがとうございます。委員会を代表して厚くお礼申し上げます。  本日は、平成十六年度総予算三案につきましてお二方から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうかよろしくお願いいたします。  次に、会議進め方について申し上げます。  まず、お一人二十分程度で御意見をお述べいただいた後、委員の質疑にお答え願いたいと存じます。  それでは、社会保障について、公述人東洋大学経済学部助教授駒村康平君及び神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授山崎泰彦君から順次御意見を伺います。  まず、駒村公述人にお願いいたします。駒村公述人
  137. 駒村康平

    公述人(駒村康平君) 東洋大学の駒村でございます。年金改革に関連した意見を申し上げたいと思っております。お手元の方に資料があるかと存じますけれども。  まず、公的年金改革ということが今年度この場で議論になっているわけでけれども、現在、社会保障制度、これは二〇〇〇年から二〇一〇年までの期間で集中的に改革が進められるべきテーマだと、こういうふうに思っているわけです。そのときに、社会保障、今後すべての分野、つまり医療、介護、年金、福祉、これをすべて充実するということは、この高齢化、財政状況経済成長の状況、これを考えれば、これはかなり難しい状況になっているだろうと、こういうふうに思うわけです。  そういう中で、やはり社会保障、特に年金が、八十兆円、約八十兆円のうち四十兆円を占めるわけですけれども、この年金の扱いというのは非常に難しい部分であると思います。年金中心型で、年金を十分出しながら、一方で医療、介護の自己負担を求めていく、これ高くしていくというモデルの年金中心型を求めていくのか、それとも現金、現物サービス中心型、医療・介護中心型、年金の給付水準は多少低くなっても、医療、介護の自己負担、保険料負担は余り上げないと、こういった組合せで行くのかですね。どちらを行くのか、これによって年金の水準も決まってくるんだろうと、こういうふうに思うわけです。  もう一つは、国民負担率五〇%という議論がございますけれども、これは五〇%を超えたからといって経済成長が急激に鈍化するということではないと思います。これは、国民経済成長と国民負担率の因果関係というのは科学的、統計的にも証明されている問題ではないと思いますので、五〇%を過度に意識する必要はないだろうと思います。もちろん、高ければ高いほどいいというわけでもないでしょうし、低ければ低いというほどで、いいわけでもないかと、こういうふうに思うわけです。  社会保障は、それ自体富を生み出す仕組みではございません。再分配の仕組みであることは依然として変わらないわけですね。ただ、良くデザインされた社会保障制度は、国民に安心とそれから働く能力、意欲を与えるということですから、コスト面も重要なわけですけれども、良くデザインされた社会保障というものを目指していくべきで、社会の要請、社会の変動、財政的な安定性を確保できる制度というものを求めていくべきだろうと、こういうふうに思います。  一ページ目の二の段でございますけれども、こういった中で、今後、今年金が非常に注目されているわけですけれども、医療、介護といった部分も今後十年遅れで急激に増えてくるだろうと。これは、医療、介護という部分が後期高齢者になればなるほど必要になるわけですから、六十五歳以上に占める高齢者の割合が、六十五歳以上に占める、その中での後期高齢者の比重は今後上がってきますので、このことによって、二〇二〇年あるいは二〇二五年辺りから急激に医療、介護の費用が上がってくるのではないかと、こういうふうに予測されております。  二ページ目の方には、これは厚生労働省の資料、推計でございます。いろいろ数字があるかもしれませんけれども、それを使わせていただきましたけれども、かなり医療、介護も膨らんでくるということが予測されているわけですね。  二ページ目の四には、最初に私が申し上げた二〇二〇年あるいは二五年でも持続可能な社会保障制度、これをどうデザインするかというのが求められていると、こういうふうに思うわけです。  三ページ目の五の方に移らさせていただきたいと、こういうふうに思うわけです。  現在の社会保障制度はいわゆる社会保険中心型、皆保険皆年金で成立しております。しかも、それは職業単位で分立した形になっているわけですね。いわゆる分立型社会保険というものになっていると思います。これは、一九六〇年代、低失業、高度経済成長、若い人口構成、人口増加社会、安定雇用といった時代に形成されて定着したものだろうと思っております。しかしながら、九〇年代を経て、高失業、低成長、高年齢増加、人口減少、雇用流動化社会の中では、こういった現行の分立型社会保険制度が今後も維持できるかどうかというのが大変な問題点になっているだろうと思うわけです。  六には、そういう社会保険制度が直面している問題点としては、若い世代の不満と空洞化、年金の空洞化という問題があると思います。年金は払い損ではないかということ、あるいは世代間の移転が多過ぎるのではないかと。それからもう一つは、厚生年金と基礎年金の関係がよく分からない、会計が明朗ではない、自分の厚生年金の保険料のうちどこからどこまでが基礎年金の保険料であり、未納者の影響はどこまであるのか、いわゆる専業主婦の負担によって積み増した、負担が、しわ寄せが来ている部分はどこなんだろうかと、こういった部分が明確ではない。これは不明朗ということが一つの不信への要因になっているのではないかと、こういうふうに考えているわけです。  四ページ目、七に入らせていただきたいと、こういうふうに思います。  七は、今回の年金改革に対する評価でございます。問題は二問あった、政府に提示されている問題は二問あったと思います。  第一問目は財政論、世代間の公平、将来保険料の負担、これをどうするのかというもの。第二問、これは体系論。現行の二階建て年金のままでいいのか、雇用の形態に、変化に対応した社会保険制度、こういったものが必要ではないのかということが問われていたわけです。政府の解答は、今回は主に一問目のみということになっておるわけです。これをどう採点するかは国会が審議されることだろうと思いますけれども、今後、この二問、第二問に対する答えを用意する予定があるのかどうなのか、これについてはなかなか私は外から見ていて不明であろうと、こういうふうに思っております。  ただ、制約条件というのがあって、これは、政府がこのタイミングで第一問から解いたのは、これは予測するには、団塊の世代の引退前にこの財政の見通しの問題を、第一問の問題を終えなきゃいけないと。それからもう一つ、抜本的な改革といっても、完全に建物を壊してゼロから造り直すわけではなくて住みながらのリフォームであると。どの程度のリフォームにするのか、大型リフォームにするわけですけれども、従来のような日本家屋のままでいいのか、それともコンクリートのものに建て直すのか。これを人が住みながらやらなきゃならないというところが大変難しい点だろうと。こういうところは政府案というのを評価するに当たってなかなか難しいところだろうと、こういうふうに思うわけです。  ただ、いずれにしても、この八に書いてある、これ、若干の式がありますけれども、簡単に申し上げますと、保険料というのは高齢化率と代替率、所得代替率、高齢化率というのは依存率とも呼びますけれども、依存率と所得代替率、これは年金水準で近似されるわけですけれども、これの掛けたものに等しいということになりますので、依存率が上がって所得代替率、つまり年金水準を維持すれば、当然保険料は上がってしまうと。逆にそれを避けるためには所得代替率を下げなければならなくなってくると。これは現行制度のフレームワークの中ではこの仕組み、この組合せどれかを選ばなきゃならない。  ということで、五ページ目には九で、その際の現行体系の中で四つの選択肢があろうと。これは一番目、五九%に固定して二五%まで保険料を上げるという方法、これは従来の方法。二番目、一三・五八に固定して給付水準を三割から四割程度までカットする、程度カットするということが二問目。三番目、今回政府が出しているような、両方とも中程度に調整すると。四番目、いずれもやらずに足りない分を消費税等で、特別会計を作るなりして穴埋めするというような、四番目というのはかなりドラスチックに改革になりますけれども、これ四番目までの案があろうと、こういうふうに考えるわけです。  今回の改革のインプリケーションというか意味は、この五ページ目の下の方に書いてあるこの四角い絵であると思います。左の方が、現在の年金の財政が九十五年間で入ってくるだろうという、これは従来から出された絵を組み合わせただけのものでありますので、最終的な今回の年金改革影響というのはどうなるかは数字でもって示されていませんけれども、イメージ的にはこうなるだろうというふうに考えているのがこの絵でありますけれども。今後入ってくる保険料の見通し、この試算を保険料試算と呼びますけれども、これを引き上げておいて年金の債務、もう既に約束してしまった年金、あるいはこれから約束するであろう年金の給付水準を下げることによってこの左の資産部分と負債部分がほぼ均等になるようにするんだというような意味合いがあるんだろうと、こういうふうに思うわけです。  これは現行のフレームワークの中ではこういう微調整を繰り返していく、あるいはまた五年後なりに財政検証が行われていくわけですけれども、これが本当にこうなっているのか、数字がどうなっているのか。これは私の不勉強かもしれませんけれども、まだ政府の方から出されていないんだろうと、具体的な数字は出されていないだろうと、こういうふうに思うわけです。  六ページ目は、十ですけれども、これは今回の年金改革によって、従来の仕組みに比べれば負担の抑制が、二五%まで行かない分だけ負担が抑制されていくわけですね。それでも一八・三%まで上がっていくわけですけれども、抑制される。一方で給付はそれ以上に、特に若い世代、現役世代を中心にカットされるわけですから、この下の絵で見るように、一九三五年から八五年の世代、生まれの世代については、この上に出ているこの山の部分だけですね、給付水準負担に対する給付の倍率が下がっていると。九五年生まれの以降の世代は、これについては今回の年金改革プラスのメリットがあるということになるわけでして、はっきりとここで大体現在五十歳から四十歳ぐらいの世代のところでこの新しい方向に切り替えるということのコストが集中的に発生するんだろうというふうに評価できるわけです。  こういう年金改革財政の話を中心にいたしましたけれども、七ページ目の方でこの評価を行いたいと思いますけれども、十一ページに書いてあるように、政府案の評価としては、評価できる点としては、従来の方式のままでは限りなく上がっていくかもしれないというのは、ことはないという約束は一応してあると。それから、現行方式に比べれば、まだ生まれていない世代あるいはこれから出てくる世代、これについては多少は改善していると評価できるわけですけれども、問題点としては、この積立金を一年分だけ九十五年後に持ちつつ、五〇%の給付水準を維持しつつ、なおかつ保険料一八・三五%というものを維持できるのかと、これをすべて同時に維持することは可能なんだろうかと。  この点については、これは幾つかのシミュレーションが出されているように、高齢化が進む、運用の問題あるいは寿命の問題、少子化の問題、あるいは五年後の財政検証そのものによってもうおのずと五〇は切ってしまうんではないかと、五〇という約束は守れるのかというところが一つ大きな論点になってくるだろうと思うわけです。  それからもう一つ、体系面での評価については、これは体系面での改革が余りなされていないと思います。段階免除というものが入ってきて、これが段階保険料に移行するならば、所得比例年金ということで一個の見通しが出てくるわけですけれども、そういうことははっきり出されていないと。この基礎年金の部分、体系的な部分についての議論はまだ不十分ではないのかなと、こういうイメージを持っております。  それから、物価スライドからマクロ経済スライドという形で調整をしてしまいますので、これは基礎年金にもこの調整対象がなるわけですから、基礎年金の方も実質的にカットということになるわけですね。この際に生活保護とのバランスがどうなるのかということもよく考えなければならない。現行の体系の中でやり続けていていいのかどうなのかと、これについては十分な議論がないわけです。重さを先に決めて、年金の重さ、ウエートを決めて、形はまだどうなるか分からない、まだいろいろ問題点がある、又は限界まで来ているという状態になっているだろうと思います。  それから、依存率を引き下げる、つまり高齢期も働こうというインセンティブを持つ仕組みも十分に組み込まれているとは言えないだろうと、こういうふうに評価しているわけです。  八ページ目の十三、十四という方向に入っていきたいと思いますけれども、従来のような分立型の二つの目標、つまり例えば基礎年金、厚生年金という財政が一個になっている中で再分配と老後保障二つの目標を同時にやっていこうというのは、高齢化、経済成長鈍化の中でかなり難しいテーマになっているだろうと。むしろ、再分配セーフティーネットの部分と老後の所得保障という部分は二つに分けていくという形で新しい形の年金を志向すべき時期ではないのかと。雇用に対して中立的な制度にもすべきではないかと。  分かりやすい年金というものをひとつ出すというものをこの新型年金と取りあえず名前を付けておりますけれども、いわゆる俗に言われるスウェーデン型所得比例年金と最低保証年金の組合せという形で一つの新しい年金を目指していくというのも、これもじっくりと腰を据えた議論が必要ではないかと、こういうふうに思うわけです。  新型年金については、所得比例年金、これは先日、社会経済生産性本部というところで私が委員長を引き受けて報告をさせていただきましたけれども、概念上の拠出建てと、自分の買う口座は自分で管理できると、働くインセンティブに対しては自分で年金額と労働時間を調整できるということで就業インセンティブを阻害しないと、それから最低保証部分については税財源を投入して生活保護との密接にリンクした最低保障体系を改めて作り直すという形で役割分担をはっきりさせるということも一つの理念だろうと思います。  九ページ目には、このイメージとして、これは、全部金額もスウェーデンの通貨でございますのでこれは日本では必ずしも参考になりませんけれども、スウェーデンの例がイメージとして出ているわけです。このまま、スウェーデン方式が日本にそのままこのデザインで入ってくるとは私もそれはできないだろうと思いますので、これは日本型に修正していくという形が必要だろうと。  その下の段には、概念上の年金口座残高と年金額の関係と。つまり、自分で毎年、自分の保険料を概念的な口座に積み上げておいて老後それを取り崩すという形で、このことによって、実はこれと財政的な自動安定装置を入れることによって持続可能な年金制度というものが形成可能になるということは、スウェーデンはこれを実際に導入してみせているわけです。  このいわゆるスウェーデンのやり方、概念上の拠出建てというのは、NDCと俗に呼ばれておりますけれども、これはヨーロッパでも注目されておりまして、イタリアとか幾つかの複数の国で導入されております。もちろん、これを導入したからといってすべて重要な問題が解消できるというわけじゃないわけで、このデザインこそが実はまた重要になってくるだろうと思います。  また、その新型年金、スウェーデン型を参考にしながらこれを日本に導入する際には、所得捕捉は、年金財政、高齢化の状況、こういったものもスウェーデンと日本では違うわけですから、これも考慮しなきゃならないですし、単年度の収支を長期的に維持できるような仕組みを同時に入れていく、又は旧型年金からこういう新型年金に移行するときの約束、もう既に約束してしまっている債務、これをどういう形で償却していくか、これも、イタリアも大変苦労しているようでございますけれども、これもいろいろ検討する必要があろうと、こういうふうに思います。また、最低保障生活政策体系というものも同時に整備していく必要があるだろうと。  十六としては、所得比例年金と最低保証年金体系、それから生活保護のこの関連なんかを整理した表を付けておりますけれども、説明は省略させていただきたいと思います。  十一ページの方には、最後に十七番として、社会保障改革・年金改革の方向性ということをまとめさせていただいております。二十一世紀の最初の十年、正に今の時期ですけれども、社会保障政策改革を体系的に、つまり横断的に、個別ではなくて横断的に進めていく必要があると。  特に年金が、どう設定するかは将来の世代に大きな影響を与えると。現在、これから上がってくる保険料の多くは、これまで既に過去の改革の後れ又はその予測のずれによって生み出されたものであるわけですね。それを将来世代に負担してもらうということについて、どうやって若い世代に説得をさせることができるのか。なぜ、今一三・五%、一三・五八%しか負担できないのに、将来一八%以上の負担が若い世代に求めることができるのか。給付水準は現在五九%なのに将来は五〇%でいいということに対して、若い世代に説得的な、納得できる説明ができるのか。この辺も含めて、現行の仕組みの中での議論ではなく、やはり今回は差し迫った団塊の世代というものの対応も必要ですし、直ちに一八%になるわけではありませんけれども、早急に、今回の改革に終わらせるのではなく、体系論まで踏み込んで改革をすべきであろうと思います。  その際に、国民負担率五〇%というものについては特に根拠はないので、横断的な視野のない過度社会保障カットは無用な不安を呼ぶことになりますので、そういう視点も考慮にして、長期的な視点で、短期の視点での調整ではなくて、透明性のある、長期的に維持可能であり分かりやすい年金というのをじっくりと議論していくときであろうと思います。  最後に、五番目に書きましたけれども、社会保障制度は、そのものは、先ほども申し上げたように富を生み出す制度でもございません。負担なくして給付は存在しないわけですし、これからどういう改革をやってもすべての国民が得をするという改革はもう存在しないだろうと思うわけですね。何らかの費用負担はこの切替えの時期に発生するだろうと思うわけです。この辺は、そのコストもすべて国民に行くわけですけれども、それが分かりやすい形でよく議論されて納得してもらった上での制度設計が必要だろうと。社会保障、よく制度され、よく建設された社会保障制度は、単なるコスト分野ではなくて、安心というサービス、個人の能力を発揮する機会を生み出す制度であろうと思いますので、そういう視点も重要かと、こういうふうに思います。  どうも、お時間いただきましてありがとうございました。
  138. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) ありがとうございました。  次に、山崎公述人にお願いいたします。山崎公述人
  139. 山崎泰彦

    公述人山崎泰彦君) 神奈川県立保健福祉大学の山崎でございます。本日は本委員会にお招きいただき、意見を申し述べる機会を与えていただきましてどうもありがとうございます。  私は、提案されています十六年度予算案に基本的には賛成するという立場から発言させていただきますが、しかし、将来に向かっての課題についても意見を申し述べさせていただきます。    〔委員長退席、理事林芳正君着席〕  年金を中心にお話をさせていただきたいんですが、本当に難しい問題だというふうに思っております。一方、若い世代を中心に非常に不安が高まっております。これは、先生方も日々実感されていることだと思いますが、不安の高まりというのは、裏を返せば、年金の将来は不安はあるけれども何とか、やっぱり年金という基盤がないと老後の生活の安定は図れないという期待の裏返しだというふうにも思っております。  今回、改正法案が提案されているわけでございますけれども、この改正に対して、抜本改革になっていないという批判があるわけでございます。これが非常にまた難しいわけでございますが、前回の改正の辺りから制度体系そのものを見直すという提案がいろいろ出されております。  一つは、基礎年金の税方式論というのがあります。すべて基礎年金の財源を租税負担で賄おうということでございます。それから、二階の厚生年金につきまして、これを民営化するという案でございます。もう民間の私的年金にゆだねるということでございますが、民営化しないまでも、厚生年金そのものを後代世代に依存しない財政の仕組み、つまり完全に積み立てるという仕組みに切り替えてはどうかという提案も累次の提案としてあるわけでございます。それから、最近急に注目をされるようになった提案が、スウェーデンを参考にしまして、今駒村さんも紹介していただきましたけれども、一階、二階という区別、あるいは自営業、サラリーマンの妻、サラリーマンあるいは公務員という職種別の区分をなくして、社会保険方式を基本にしながらも所得比例方式一本に組み替えると。そして、所得比例一本だから低い所得の方には年金が当然非常に低くなりますが、その分について重点的に租税財源を活用して一定の保障を図ると。こういう大きく分けて三つくらいの抜本改革を求める提案が出されてきたというふうに思います。  しかし、どの案にもいろいろ問題がある。大多数の合意を得るというところまで行っていないわけでございます。このように意見が非常に多様化しているわけでございます。立場によって意見の違いがあるのは当然だろうと思うんですが、我々研究者の間でも随分意見の違いがありまして、また流動的であります。昨日まで基礎年金全額税方式と主張されていた方が今はスウェーデン方式がいいなんていう話もあるわけでございます。あるいは、積立方式がいいと言っていた人が、いやいや、やはり基本的には賦課方式がいいというふうな、学者の中でもころころ意見が変わるような状況でございます。そういう意味では、果たしてどこまで実現可能性のある、しかも本当の抜本改革案なのかということになると自信がないわけでございます。  で、そういう中で、何とか合意を得たいと思うんですが、実は駒村さんと私は日常的な研究仲間でございまして、かつての職場の後輩でもありまして、学者の中でも非常に意見の違いがあるというんですが、彼と私はほとんど違いがないんでございます。恐らく一週間で大きな柱立て、間取りだったら彼と僕は一致できると思うんですよね。一か月ぐらいたって、最終的に何かインテリアが違うだとか好みが違うとか、その程度の差しか本音で話をすると駒村さんと私はないと思うんですが、そういう二人の公述人をお招きいただいたというのは、何かの偶然かも分かりませんが、将来に向けての手掛かりになる委員会になるのかも分かりません。  ところで、そういう抜本改革といっても、実現可能性という意味で非常に問題があるし、しかも様々な意見の対立があって一つの方向に向けての集約ができない状況の中で提案されたのが今回の改正法案だろうというふうに思います。  今回の改正法案は、制度体系としては基本的に従来の方式を維持するということでございます。つまり、社会保険という方式でございます。それから、一階、二階を区別した二階建て年金、そして賦課方式を基本にしながら、将来の負担増を緩和するための一定の積立金を今後とも保有しようという財政運営であります。  いろいろ問題があります。私も十分に承知しておりますが、抜本改革についての合意が十分に得られない段階では、ともかく当面の緊急の課題にこたえつつ、将来に向けての抜本改革になるかどうか分かりませんが、大きな改革への道筋を付けるというのが現実的な対応で、恐らく今回の改正法案はそういうものになっているんだろうというふうに思います。  実は先生方も随分医療保険制度改革では御苦労されてきているわけでございます。平成十二年の改革というのは実は抜本改革を予定していたんですが、それができなかった。取りあえず財政対策をやらせてくださいというのが政府提案でございました。十四年の改革も同様でございました。総理は三方一両損ということで痛み分けで、ともかく財政対策をしようと。しかし、いつまでも先送りは許されないということで、法の附則に基本方針の策定というのが義務付けられていて、昨年三月に政府の基本方針が出たわけでございます。医療保険制度をめぐりますと、自営業者とサラリーマン、もう財政的には全く縁を切ろうという突き抜け方式という提案もありました。  それからもう一つ、高齢者につきまして、介護保険と同様に、高齢者一人一人を被保険者として、それに対して税負担や現役からの保険料負担の支援による制度を構築しようという、いわゆる独立型の高齢者医療制度の提案もありました。    〔理事林芳正君退席、委員長着席〕  それから、制度分立と、制度の分立を前提にし、所得だとかあるいは年齢構成という構造的要因に着目して全面的に財政調整をするというリスク構造調整の提案もありました。大きく分けて三つぐらいあったと思います。  昨年の基本方針では、そのうち独立型の提案とそれからリスク構造調整の提案を高齢者医療制度について七十五歳を境にそれぞれ組み込んだという、私から見ますと余り根拠のない、ただ厚生労働省はリスク構造調整を志向し、それから与党自民党の方は独立型を主張し、間で割ったというような、非常にそういう意味では中途半端な方向性が示されているわけですが、その中で、例えば高齢者医療制度につきましても七十五歳以上は独立させるというわけですが、その引受手はどこになるのか。市町村なのか、都道府県なのか。恐らくみんな嫌だと言っているわけですね。ですから、一番のポイントでまずぐらついている、全く展望が見えないという状況でございます。  私自身はもう絶望的だと実は思っているわけでございますが、そういう中で、我々専門家の間では意外に老人保健制度はよくできているということでございます。あれほど、一九八二年にスタートしながら直後からいろいろ問題が指摘され、争いが繰り返されてきた老健制度ですが、二十二年ももっているわけでございます。むしろ、そういう意味では、今の老健制度のようなものを基本にしながら微調整をしていく、繰り返していくというのが現実的な対応かも分からない、あるいは結果的にそうなるのかも分からないということでございます。今、医療保険制度改革を例に、引き合い、例に出しましたのは、何か年金も同じような状況にあるのかなという感じがしないでもありません。  ところで、改正案では、当面の課題にともかく手を付けなければいけない緊急の課題が幾つかあったわけでございます。  一つは、国庫負担割合の二分の一の引上げでございまして、前回附則で書いたことが五年間全く手が付かなかったわけですが、今回、法律の本則にお書きになった。しかし、十分な財源対策はまだ出されておりません。これは本当に先延ばしするのではなくて、与党の合意では定率減税も検討する、あるいは将来に向かっては介護、医療も含めた税財源を確保するために消費税を財源とすることも検討するということになっておりますが、早急に結論を得ていただきたいというふうに思っております。  それから二点目は、厚生年金、国民年金の保険料の凍結を解除したということでございます。  実は現在の一万三千三百円という国民年金の保険料、それから厚生年金の一三・五八%という保険料は平成六年の改正で定めたものでございます。前回の十二年の改正では、当面の経済状況等にかんがみ凍結するという決断をされたわけでございます。経済状況は恐らく当時よりもっと悪くなっておりますが、しかしこれ以上、後の世代に負担を転嫁できないという中での決断だったんだろうと思います。  百五十兆円もの積立金があるというんですが、しかし実質的な単年度の収支は平成十三年度以降赤字でございます。で、昨年の平成十五年度の予算では三兆三千億円の赤字ということでございます。つまり、将来に向けて蓄えておかなければいけない積立金に既に手を付け始めている。そういう中では、保険料の凍結解除はどうしてもやらなければいけないということだというふうに思います。  それから、女性と年金の問題についてもいろいろ議論がありました。残念ながら、抜本的な改革についての合意は審議会でも得られなかったし、学識者の間でも随分意見が違います。そういう中で、ともかく離婚時の年金分割を入れたのは大きく評価したいと、高く評価したいというふうに思っております。  それから、次世代育成支援という観点から、育児休業期間中の保険料免除を現在一年のところを三年まで延ばすというのも新しい方向性を示しているものだというふうに思います。  それから、そのほか、年金制度の理解を得るための取組を強化する、あるいは国民年金の保険料徴収対策を強化するといったようなことも、地道ではございますが、これに本格的に取り組もうとしているわけでございます。  ところで、今回の改正法案の最大の柱は、保険料を、従来は五年間の保険料しか決めなかったんですが、将来に向かって毎年引き上げていく、そして最終的に一八・三%まで引き上げる。一方、給付の水準を自動調整するという、最終保険料を固定し給付を自動調整するという、こういう仕組みを入れたわけです。これはスウェーデンの改革の一部をヒントにしたものだというふうに思っております。恐らく今回の改革の中で抜本改革への道筋を付ける要素があるとしたら、この部分だというふうに思います。  つまり、今の若い世代は、際限なく将来の保険料負担が上がっていくことに対して非常な不安感を持っています。ある程度給付は抑制されても、負担については一定の歯止めを掛けてほしいというのが多くの世論でございます。そういう世論にこたえようとしているものだというふうに思います。つまり、負担に軸足を置きつつ、その一方で、老後保障の基盤となれる年金水準を確保しようということでございます。  最終保険料は一八・三%、給付水準はモデル年金で五〇・二%ということでございます。これが絶対に約束できるのかと言われますと、それは無理でしょうと。絶対ということはこの世の中にないんだろうと思います。国庫負担を二分の一に上げること、そして一定経済成長を予定をしておりますし、何よりも新しい人口推計の中位推計に基づいた推計でございます。実績値は中位推計をかなり下回りつつあります。今年の六月ごろ新しい人口、昨年の合計特殊出生率の実績値が出ると思いますが、かなり悲観的な数字が出るんだろうと思います。  そういう状況での一八・三%の上限、五〇・二%の給付の下限ということでございますが、しかし、裏返して言いますと、何とかそれが実現できるように、特に今後の次世代育成支援の施策を本格的に強化しなければいけないということを、逆に言えば言っているんだろうというふうに思います。  もう一つ国民の間でいつも議論されているのは、世代間の保険料と負担との関係、倍率でございます。若干変更されるような要素はありますが、全体として見て、ただいまの駒村さんのペーパーにもありましたように、大きくは改正されていないわけでございます。つまり、若い世代になるほど倍率が低くなるということでございます。  これについては、私は年金制度の中だけで解決を図るのは困難だろうと思います。特に年金、現実に受けておられる方、あるいは受給を手前にされている方の給付を大きく削るわけにはいかないわけでございます。ただ、社会保障全体として見ると、今大きく改善されようとしていると思います。  一つは、年金課税の強化でございます。私は、今回の提案でも不十分だと思うんです。勤労世帯に比べると、なおかなり優遇されていると思うんですが、高齢者にも年金課税という形を通して相当な負担をお願いするという方向に踏み出したと思います。それから、御承知のように、医療保険制度の改革では、平成十四年の改正で定率完全一割負担が入りましたし、一定所得以上の方は二割負担をお願いするということになりました。それから、介護保険では、施設と在宅とのバランスという観点もあり、施設入所者についてはホテルコストといったようなものに着目して適正な負担をお願いしようということでございます。それから、その一方で、本格的に次世代育成支援を強化しようということで、昨年、次世代育成支援対策推進法ができました。それから、市町村をベースに子育て支援を行うという児童福祉法の改正もありました。そして今年、児童手当の支給対象を就学前を小学校三年終了時までというふうに大きく改善しようとしているわけです。  ですから、全体として、社会保障全体として見ると、相当世代間の不均衡を是正する方向で動いている。ですから、年金だけでなくて、こういった全体像をきちっと国民に示す必要があるんではないかというふうに思っております。  さて、今後の課題でございますけれども、やはり非常に残念だと思うのは、少なくとも審議会ではある程度合意を得ていたことで実現しなかったことがあります。それは短時間労働者への適用拡大でございます。これは、しかし五年、今後五年を目途に一定の措置をするということになっているわけですから、これは本当に先延ばしすることなく実現していただきたいというふうに思います。  それから、女性と年金の問題も、離婚時の分割は導入することにしました。それから、一応五年という先になりますけれども、短時間労働者への適用の拡大もすることになるんだろうと思います。しかし、それによってもなお多くの女性の不満は解消されないんだろうというふうに思います。引き続き、この女性と年金の問題についても検討が必要だというふうに思います。  以上をもって私の発言を終えさせていただきます。  どうも御清聴ありがとうございました。
  140. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) ありがとうございました。  以上で公述人の御意見の陳述は終わりました。  それでは、これより公述人に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  141. 愛知治郎

    ○愛知治郎君 自由民主党の愛知治郎と申します。  駒村、山崎公述人におかれましては、お忙しい中をお越しいただきまして、その貴重な御意見をいただきまして、誠にありがとうございます。  私自身、この問題、今お話を聞いていても本当に複雑多岐にわたってすごく分かりにくいし、難しい問題だなと思うんですが、基本的に私自身は、構造改革小泉総理が言って旗を振ったわけですけれども、抜本的な改革、すべての分野において抜本的な改革が必要な時期であろうというのは寸分も疑っておらないんですけれども、この点において社会保障もやはり抜本的な改革が必要であり、それから将来にわたってどのような形を取っていくのか、今議論をやっぱりすべきだと思うんですね。  お二人ともおっしゃっていましたけれども、だからといって目先に迫っている問題もあるということは前提なんですけれども、取りあえずは一つ一つそのステップというか、基本的な部分からお話を伺いたいというふうに考えておったんですが、抜本的な改革だからこそ、そのそもそも論というのはやはり必要だと思うんですけれども、これは年金制度そのもの、これはどういうものなのか、それをしっかりと哲学を持ってこういう制度を作り上げていこうというのをもう一度お伺いをしたかったというふうに思うんですが。  といいますのも、例えば具体的な話、基本的には社会的扶養関係というか、社会的な扶養制度ということで間違いないとは思うんですけれども、負担と、給付と負担の関係ですけれども、通常言われているのは、給付の部分が負担の部分の何倍、何倍という計算をされていますが、賃金水準が上がっていない状況で絶対に給付の方が何倍にならなくちゃいけないのか、それすらもはっきりと見えてこない。どういう形を取っていいのか、年金制度そのものがどういうふうにあるべきなのかというのがどうも分からないんですね。  これは本来ならば政治家が哲学を持ってこういうものを作っていきましょうと言わなくちゃいけないんですけれども、あくまでもこれは参考で結構ですので、お二人の価値観も踏まえた上でのこの年金制度そのものに対する御意見をまず聞かせていただきたいというふうに思います。
  142. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) それじゃ、順次お願いします。
  143. 駒村康平

    公述人(駒村康平君) まず、年金の役割でございますけれども、私はこれはいわゆる基礎年金の税方式なんかの議論で言われているように、六十五歳を過ぎたらすべての国民に自動的に一定の生活水準を保障すべきであるという考え方に対しては必ずしも賛成しておりませんで、十分な年金を、これは厚生年金という現行のものでもいいでしょうし、所得比例年金という別個のものでもいいと思いますけれども、そういうものがある方に対しては全員に対して税なんかで出す必要は私はないだろうと。何も高齢者という切り口でそこを切るのではなくて、高齢者も若い世代も含めて最低所得保障という体系の中でそれは処理していくべきだろうと、こういうふうに思っております。  一方で、年金は老後の予定以上に長生きしたリスクに対してこれをカバーするものであろうと、こういうふうな考え方を持っているわけです。いわゆる長寿のリスクを担保するものであると、こういう評価をしているわけです。  年金に関する基本的な考え方でございましたので、このとおりで。
  144. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) はい、ありがとうございました。
  145. 山崎泰彦

    公述人山崎泰彦君) 年金とは何かといいますと、あるいはねらいは何かといいますと、高齢期の自立の基盤を提供するものだというふうに思っております。マクロ的に見ますと、家族内扶養から社会的扶養へと、先生がおっしゃった仕組みへの切替えでございますが、家族による扶養ということですと、家族に依存するわけでございます。  今、年金という形で現役世代から税や社会保険料を負担していただき、そしてそれを高齢者に配分しているわけですが、そのことによって現役世代の負担マクロ的には変わらないんですが、一つの世帯に二つの財布ができたというわけでございます。つまり、経済的に高齢者が自立したということでございまして、非常に、私は福祉というのは自立だと思っているわけですが、そういう自立の経済的な基盤を提供しているものだというふうに思います。
  146. 愛知治郎

    ○愛知治郎君 ありがとうございます。  大変分かりにくく質問してしまったと自分なりに思っているんですが、やはりどうしても、もうちょっと具体的にお話をさせていただきたいと思います。  私自身は三十四歳なんですけれども、やはり若い世代を代表しているということもありますし、同世代の方によく質問されますし、私自身もとても不安に思っているし、必ず解決しなくちゃいけない問題だというふうに考えておるんですが。不公平感というふうなことをおっしゃられておりますけれども、単純に考えて本当に不公平なのかどうかよく分からないと。不公平だろうという漠然とした不安、それからもう一つは、年金そのものがシステムが破綻するんじゃないかという不安が一番若年世代にとっては大きな問題だとは思うんですけれども、一般的に、若いのにもう老後の心配をしているのかと言われる方もおられますけれども、決してそういうわけではないと思うんですね。  といいますのも、まず破綻して全く受けられなくなるのはさすがに不安だと。もう一つは、払う方が多いと、もらうよりか払う方が多いんだったら、そもそもそういうところに加入しないで自分でためている方がいいんじゃないかと。そういった漠然としたいろんな不安、問題があると思うんですけれども、結果として、若年世代の未加入者、これも大きな問題になっていると思うんですが、増えてきていると。この原因について、私なりの考えもありましたけれども、お二人の御意見、何でこうなっているのかと、どう解決すればいいのか、御意見をお聞かせください。
  147. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) 今度は逆に山崎公述人
  148. 山崎泰彦

    公述人山崎泰彦君) マクロ的に見ますと、私の世代は兄弟四人でございます、今の若い世代は平均的に二人弱ということですね。そうすると、家族扶養という形を取ってもやっぱり負担は二倍かもうちょっと高くなるわけですよね。ですから、これはマクロ的には逃れることのできないことだというふうに思います。それが一つと。  それから、そもそも損得論が出るのはなぜかというと、一番の問題は、やはり国民年金の一号被保険者について、これは国保も同様の問題がありますが、保険料の徴収力が不十分だということですね。サラリーマンは逃れようがないわけです。しかし一方、出入りが自由な人たちがいるわけですよね。ですから、社会保険ですからこれは強制適用、強制加入、当然、負担能力があれば応分の負担をしていただくということなんですが、その担保する仕組みになっていないということが一番の問題だと思います。そのように考えると、出入りが自由な世界で六割もの人が年金を信頼して払っているというふうにも考えられるわけでございます。  ただ、そういうことなんですが、しかし本来は損得で考えるべきものではなくて、やはり若い世代の義務なんだろうと思うんですよね。家族扶養という形を取っても、子供が少なくなれば若い世代の負担は重くなっているんですから。ですから、きちっと入っていただくという、そして保険料を払っていただくと、そのための制度的な仕組みをきちっと担保するということが必要で、私は審議会でもちょっと暴論だと言われるんですが、一定のペナルティーは必要だろうというふうに考えております。それともう一つ、払えない人からは徴収できないということです。ですから、免除も今回緩和しようとしているんですが、一つの前進だというふうに思います。
  149. 駒村康平

    公述人(駒村康平君) 私は世代間の問題から少しコメント、世代間の公平性という視点でコメントをしたいと思っております。  私の資料の六ページ目にございますけれども、生まれたタイミングによって負担と給付の倍率が違うと。いわゆる、これがいわゆる損得論になってくるわけですね。これは過去の例えば戦争を挟んだ世代に生まれた方は十分な保険料を払えないということもあるわけで、その世代を、何もたくさん倍率もらっているじゃないか、ずるいじゃないかというふうに言うことはできないんだろうと思います。  ただ、一方で、経済成長が非常に鈍化して、今後も保険料は上がっていく。過去のように、経済成長高い時代のように十分負担を気にならないぐらい成長があるときは、余りこういう世代間の関係には敏感にならなかった、世代間の損得論には敏感にならなかったかもしれませんけれども、これから先は非常にこれが気になる世代が増えてくるんだろうと、こういうふうに思うわけですね。ここをどうやって説明するかと。必ずしも私は払ったものともらっているものが一致するとは限らないと思います。ただ今後も、高度成長期に現役世代を過ごした世代も含めてその人たちまでもが高い倍率をもらっているとか、今後、その倍率のゆがみが将来も続くということであれば、これはなるべくそのゆがみは小さくしていかなきゃならないだろうと思います。  八〇、七〇年代、八〇年、七〇年代に大きく給付水準を引き上げているわけですけれども、その後、八〇年代に経済成長鈍化して引き締まりが始まったわけですけれども、これは不十分である。又は政治の調整の遅れ、又は推計の誤差、こういったものも後世代の負担を引き起こしている原因だろうと思いますので、こういう部分については、もうもらい始めているところは難しいかもしれませんけれども、これからもらう世代を含めてなるべく負担と給付の倍率が大きくならないように、今程度水準、もうちょっと今よりも小さくするような工夫をする必要があろうと、こういうふうに思っております。
  150. 愛知治郎

    ○愛知治郎君 ありがとうございます。  これだけちょっと確認、しっかり確認したいんですけれども。いわゆる倍率がという問題はありますけれども、はっきりと払う方がもらう方より多いと、負担の方が額として客観的な数字として大きいということになってしまうと、先ほど義務的なものだと言いましたけれども、これは若い世代の中でも高齢者の方々を支えているんだと、そういう気持ちはもちろんありますし、何とかしようと。絶対嫌だだけではないと思うんですが、さすがに今仕事もない、賃金も下がっている、負担がかなり増えている中で、プラスアルファとして払う方が多いんであれば、これはさすがに勘弁してほしいと。加えて、年金制度自体が破綻してしまったら本当に苦しいと、夢も希望もなくなっちゃうというイメージがあるんで、そのことだけ確認したいんですが、負担と給付、これで負担の方が大きくなるというのはさすがに私は説得できないんですけれども、お二人の御意見を聞きたいと思います。
  151. 駒村康平

    公述人(駒村康平君) 既にもう発生してしまった費用というか負担のゆがみについては、もうこれは既に発生してしまっている部分はどうやっても、まあ多少税なんかで小さくすることはできますけれども、年金体系の中では、もう既に生まれてもう支給してしまっていて、もらい始めてしまっているところの負担と給付の倍率のゆがみというのは、これはもう解消できないだろうと思います。  ただ、今後については、負担と給付がなるべく対応するような仕組みというのは、このスウェーデンが入れたような仕組みが一つの方法だろうと、こういうふうに思っています。過去の発生してしまった分はかなりこれを解消するのは今となっては難しいだろうと、こう思うわけです。
  152. 山崎泰彦

    公述人山崎泰彦君) 先ほど申しましたように、年金制度だけの中では、過去の経緯もあり、急激に世代間の負担、給付の倍率を変更するのは非常に困難だろうと思いますが、社会保障全体あるいは税も含めて考えると、今大きく均衡を取る方向に向かって改革が進んでいるというふうに私は考えております。  ですから、若い世代に対してはむしろ次世代育成支援、子育て支援という形で、あるいは女性がもっともっと仕事と育児の両立が図れるような形で支援しますよと。今の高齢世代にはそういう支援はなかったんですね、若いときに。そういう形で全体としてのバランスを取るというのが正解じゃないかなというふうに思います。
  153. 愛知治郎

    ○愛知治郎君 ありがとうございます。  全体のバランス、一番最初の山崎公述人のお話の中でも、年金だけじゃなくてすべてのいろんな制度を組み合わせた上での判断だと、そういう制度を作り上げなくちゃいけないと。おっしゃるとおりだと思うんですけれども、やはり全体見渡して、全部分かれと言っても、これはなかなか難しい話で、個別具体的なもの、一つ一つを見て、まあ損得というのはどうしても出てきてしまうのが人間だと思うんですけれども。  いや、私自身は、今現在の水準で、例えば国民年金ですよね、これを固定した状態で単純計算をしてみたんですね。といいますのは、今月々一万三千三百円、これを二十年間払い続けて、八十歳まで生きたとして、六十から六十五まで間空いているとして、六十五から八十まで十五年もらった。今この段階で固定したとして、払う方は六百三十八万、それで受ける方が十五年間受けると千百九十五万五千円ですか、大体の数字ですけれども、明らかに多いですよね。このままずっとその制度が維持されれば、もらう方が明らかに多いと。二十年になれば倍以上には明らかになってくる。若い方にも言うんですけれども、入っておいた方が絶対に得なんだよと、これは。保障されていて、普通の例えば金利なんてほとんどないような状態なんで、年金今のうちに払っておいた方が必ずプラスになるよという言い方は、これはもう破綻しないことを前提にですけれども。    〔委員長退席、理事尾辻秀久君着席〕  どの数字を見ても大体二倍以上というか、年金に限って言っても二倍以上は受けられるような数字を、皆さんというか、いろんな案で出てきていると思うんですけれども、さきに戻りますけれども、賃金の水準、物価の水準が現状維持だったら、それでも二倍じゃなくて一倍、払ったものだけ戻ってくればまだ納得いくと思うんですよ。その分、今の給付を受けている方々を支えているんだという大義があれば納得がいくと思うんですけれども、果たして必ず何倍かにしなくちゃいけないのか。それから、今のデフレとか、いろんな状況ありますよね。それに合わせて、先ほど哲学と言いましたけれども、その都度変えるのか、それとも今ここで抜本的な見直しをした上で五十年先までのプランを立てられるのか、その点だけちょっと聞きたかったんですけれども、重なるかと思うんですけれども、駒村参考人、特に数字の話言いましたけれども、今の倍率の話ですね、その点をちょっと御意見をください。
  154. 駒村康平

    公述人(駒村康平君) この倍率の議論でございますけれども、一つは、事実関係としては、今倍率は若い世代も含めて二倍程度と。払ったものの二倍程度はもらえると。これはモデル世帯を想定しておりますので、専業主婦世帯でありますので遺族年金なんかも入ってきます。割と有利なケースであると思います。  ただ、これは二倍というのを表面的にどう理解するか。それだけで終わりじゃなくて、これは事業主負担という本人以外の負担が入ってくる。これはちょうどそれが半分ありますので、そうすると一倍ぐらいになってくるわけですね。非常に話が分かれるところは、この払ったものは、払ったものともらうものの倍率を見るときに、事業主負担というのは、本人の負担と考えるのか、企業の負担と考えるのかというのは非常にこれは実は学者の世界でも評価分かれておりまして、私が研究すると、大体事業主負担の半分ぐらいは本人負担に、実質的には賃金が伸びなかったという形で負担が帰着しているというふうに計算しております。世界の研究もそういう傾向が多いんですけれども、何とか今のところはそれでも、モデルのケースですけれども、一倍は何とか超えているだろうと。  ただ、これが高齢化が進むと一倍を切ってくる可能性もあるだろうと。そうなってくると、やはり今の厚生年金も国民年金も、ともにこれはもうイリーガルなことなんですけれども、脱法的なことなんですけれども、要するに、払ったものが返ってくると期待している、金融商品の方が得なんだと若い世代がこう思わせちゃうと、これは年金に参加する意欲を下げちゃうわけですね。  したがって、やはり将来の見通しも含めて、ある程度自分の払ったものともらうものの対応関係がある程度あるというのはやはり国民に見せ続けていかないと、年金に参加すると、インセンティブはなくなっちゃうと、そういう、それが今分からなくなってくるからどんどん空洞化が進んでくるだろうと。  二〇三〇年、四〇年のことを今考えてもしようがないという見方もあるかもしれませんけれども、二〇三〇年、四〇年でも年金が続くという安心感を見せないと、若い世代は年金に参加しないわけですね。そうすると、二〇三〇年、四〇年に年金が壊れるんではなくて、今からすぐに解け始めてしまうわけですね、入らないということによって。それが問題だろうと思いますので、やはり必ず入ったものと給付の倍率が一を超えてなきゃならないとか、これは言えないと思います。  山崎先生おっしゃるように、社会保障全体、税も含めてやらなきゃならないと思いますけれども、過度に損をするというふうな見込みを持たせたり、そう思わせてしまうことはこれは大変深刻なことをもたらすだろうと、こういうふうに思うわけです。
  155. 山崎泰彦

    公述人山崎泰彦君) 実は医療でも介護でも同じような要素はあるんですね。なぜ年金だけ世代間の問題がこんなに議論されるのか不思議でなりません。恐らくエコノミストが計算しやすいというだけのことかも分かりません。  それからもう一つ、実はこれは財政当局は非常に懸念していることだと思うんですが、社会保険料負担がどんどんどんどん上がるということは税の課税ベースがどんどんどんどん縮小していくということなんですね。つまり、社会保険料をたくさん払うということは、それだけ減税されているんですね。民間の銀行に貯蓄していてもそれは全く控除の対象にならない。社会保険料というのは控除になるんですね。ですから、税金を払っている人について見れば一万三千三百円の保険料じゃないんですね。サラリーマンはうんと減税されているんですね。そういう前提で計算すると、駒村さんの計算うんと変わってくるんですよね。将来世代の保険料が上がるほど税による軽減効果が大きくなるということになりますね。そういう計算だれもしてないんです。
  156. 愛知治郎

    ○愛知治郎君 ありがとうございます。  正直に申し上げますと分かったような分からないような、やっぱりどうしてもそうなっちゃうんですが、一番これは専門的にされている方でも複雑で分からないということがあるんで、我々は特に国民皆さんに向かって説明をしなくちゃいけない、若い人に入ってというふうに説明するときにどうしたらいいのかというのをすごく苦しんでいるんですが、いずれにせよ、その世代間のこれは抗争というか、闘いにならないようにしっかりと組み上げていかなくてはいけないんで、またお知恵を拝借したいというふうに思います。  最後に一点なんですが、運用の問題なんですけれども、黙っていて国庫負担であるとか、それから黙っていてもうまくいくんだったらいいですけれども、やっぱり運用も必要なのかなと。いろんなことを組み合わせてやっていかなくちゃいけないと思うんですけれども、この運用に関してどのような形がいいのか、それともしない方がいいのか、御意見をお二方にお伺いをして、私の質問を終わりたいと思います。
  157. 駒村康平

    公述人(駒村康平君) 運用の問題は、積立金の運用の問題だと思いますけれども、これは今大変問題になっているわけですけれども、過去に還元融資という形で、還元事業という形でこれ使ってしまった部分ですね。この部分に関してはもう本当に長い歴史があるわけですけれども、その国民の年金に対する理解を得るためでという非常に私はナイーブな、根拠が余り不明な理由で本来使うべきじゃなかったところに使ってしまった部分が多いだろうと思います。  金融資産での運用でございますけれども、こちらの方は従来財政投融資の方である程度利子が付いていたわけですけれども、これからは金融市場で運用して、これは時として大きくマイナスが出るときもあれば、小さくリターンが出るときもあるだろうと、これは思います。  問題は、どの程度積立金を持てばいいのかということになってくると思います。これは、スウェーデンの方法なんかはそうなんですけれども、四十年ぐらいの中で一応財政を閉じて、それで必ず年金の債務と資産がイコールになるようになっているわけですね。そのためには、高齢化のピークのときに備えて一部積立金というのが必ずあって、これをかなりスウェーデンは積極運用をしているわけですね。問題は、日本の高齢化に合わせて必要な積立金はどのくらいなのかと、これをまずきちんと出す。それについては、やはり年金という資産の性格でありますので、多少長期的な視点に立った運用が必要ではないかと、私はこういうふうに思っております。ただ過大な積立金を持って、それをリスクにさらすべきではないだろうと思います。
  158. 山崎泰彦

    公述人山崎泰彦君) 私は運用の問題についてはよく分かりませんが、百五十兆といいましても、厚生年金でいえば五年分、国民年金は三年分程度でしかないわけでございます。そうすると、余り運用に期待するのではなく、むしろ安定的な運用に心掛ける方が正解じゃないかなというふうに思います。    〔理事尾辻秀久君退席、委員長着席〕  以上でございます。
  159. 愛知治郎

    ○愛知治郎君 ありがとうございました。  時間なので、これで質問を終わらせていただきます。
  160. 高橋千秋

    ○高橋千秋君 民主党・新緑風会の高橋千秋でございます。  今日はお二方、急な申入れで来ていただきましてどうもありがとうございます。  先ほどからずっとお話を聞かさせていただいておりまして、愛知さんが率直によく分からぬという話をされましたが、私もはっきり言ってよう分からぬところがたくさんございます。  この前の公述人のときに、自民党の国際派の林理事の方からマトリックスという映画の話が出ましたが、私はドメスティックに「たそがれ清兵衛」の話をしたいと思うんですが、「たそがれ清兵衛」という映画がありまして、見られた方多いかも分かりませんが、アカデミー賞にも、までノミネートされた映画の中で、冒頭、葬式の場面が延々出てくるんですね。余りうだつの上がらない当時の役人である武士が、非常に貧しい中で葬式を出して、毎日、酒飲みに行こうというのを、誘われるのを断って家へ帰って、子供たちの面倒を見、痴呆のお母さんの面倒を見るという中での話が進んでいくわけですが、そのころから見ると、先ほどずっとお話がありましたこの年金制度というのは、やっぱりみんなが負担をしながら社会全体として老後を守っていこうという、そういう思いでやってきたことということは、これはもう一定の成果を収めてきたわけで、目的も私は正しいことだと思うんですが、先ほど山崎公述人の方から絶望的だというお話がございました。  絶望的だと言ってしまうと、それじゃ、もうどうしたらいいのかというふうになってしまいますし、非常に複雑なこの年金制度の中で、絶望的ではなくて、何とかどこかに光を見いださなければいけないということで、この予算委員会の中でもこうやってお二人をお呼びしていろいろ知恵を授かろうということで来ているわけでありますけれども、お二方からいろいろ、新しい年金制度をどうしていくのかというお話がございました。特に駒村公述人の方からは二十一世紀型の年金制度についても出ておりましたけれども、この絶望的の中で多少とも光が見える方向というのは、何かヒントがあればまずお二方にそれぞれお伺いをしたいと思います。
  161. 駒村康平

    公述人(駒村康平君) 私の資料でも最後のところで申し上げましたけれども、高齢化が進んでいきますと、それからそのこと自体社会保障の費用を引き上げますし、経済成長も鈍化させてしまうと思います。高度経済成長がこれからまた来るということは、これは若い世代も含めて余り期待できない、これはもう前提だと、こういうふうに思います。日本の人口規模も徐々に小さくなっていくだろうと、これも織り込まなきゃならない。  ただ、一人一人の日本人が豊かになっていく方法というのは、GDPが仮に成長しなくても、一人頭GDPを増やすという方法はまだあるだろうと。これは正に、一人一人が持っている能力を発揮できるような社会にする、そのために社会保障を使うんだと。  社会保障というのは、個人の持っている能力や潜在能力や安心感を高めていくというのが必要だろうと。そのためには、例えば老後に不安がないようなデザインをしたり、医療とか介護、これが非常に大きなリスクになってどのぐらい続くか分からない、こういうものに対しては国がきちんとケアをしてくれるとか。  こういった、私は、医療、介護の方に重点を置いて社会保障をデザイン、考えておりますけれども、そういうふうにめり張りを付けてよくデザインすることによって、個人が持っている潜在能力を高める、能力開発、能力発揮ができるような社会保障、福祉国家というものを目指すべきだろうと、こういうふうに思います。
  162. 山崎泰彦

    公述人山崎泰彦君) 何とか将来に向けての展望を見いだしたいということなんですが、恐らく今回の改革で、保険料固定方式というんですが、一八・三%まで上げるという、それは平成二十九年まで、そしてそれ以降はずっと安定させるということを書くわけですね。これは大変なことですね。従来の国会では、当面五年間ここまで上げるということしかおっしゃらなかったんですね。しかし、将来にわたってここまで上げるということを国民の前に求めたわけですね。逆に言うと、その範囲内であれば給付は保証されたということなんですね。ですから、まあ給付は自動的にかなり調整はされますが、かなり財政的には安定化する道筋を付けたんだろうと思います。  それから、将来的にはやはり少子化の問題、私は少子化対策という言葉は好きじゃないんでございますが、次世代を育成することについて社会全体で支え合うという哲学が必要だと思います。高齢期については年金、医療、介護までもみんなで支え合っているわけですね。この社会保障が存続するためにはやはり安定して子育てができる社会を、安心して子育てができる社会を作らなければいけない。余りにも、今、子育て支援という観点からいうと施策が後れていて、個人負担に余りにも偏っていると、こういう感じがいたします。
  163. 高橋千秋

    ○高橋千秋君 私も、その少子化対策という言葉が適切かどうかは別として、この部分とやっぱりセットでいかないと、この年金制度そのものがもたないんではないかなというふうに思っているんですね。  それで、さっきの「たそがれ清兵衛」の話をしますと、明治維新のちょっと前ですから百数十年前、ちょっと前ですね、全体の歴史から見てみれば。この年金というのは、国家百年の計と言われるぐらいの話で随分長いスパンの中で考えていかなきゃいけない話なんですけれども、やっぱりこの少子化対策というのはどうしても考えていかなきゃならないし、先ほど、山崎公述人の方からは中位推計の話がありました、実際は中位推計ではなくてもっと低い数値で子供が生まれてきたという。  これは、逆に言うと、推計という意味でいえば、この中位推計自体がそもそも当初から間違っていたんではないかなと私は思うんですね。ここまで出生率が落ちるというのはある程度読めていたんではないかなというふうに思いますし、今後、この五十年、百年、まあ百年先が約束できないというさっき駒村公述人の方からお話ありましたけれども、そのことを考えると、政府のいろいろ役所の方から出てくる数字、この年金のことに関して特に言えば、どっちかというといい話ばかりが多くて、どっちかというと楽観的な数字で推計をしてきた部分が物すごく多いし、現状もまだそういう楽観的な推計みたいなところが非常に多いと思うんですね。  今、今後、この計算をしていく中でも、中位推計とは言わずにもうちょっと低いところで計算をしていくんでしょうけれども、私は、もっとむしろこれから子供が少なくなっていくんではないかなという懸念を持っておるんですけれども、この推計の出し方について、山崎公述人、どういうふうにお考えでございますか。
  164. 山崎泰彦

    公述人山崎泰彦君) 新人口推計をするに当たって唯一、議論になったのは唯一ですね、今後どれくらいの子供が生まれてくるかということで、社会保障審議会の人口部会で、駒村さんとも一緒だったんですが、今の推計は三本ありまして、高位推計というのは出生率の高い十県の平均でございます。それから低位推計というのは、合計特殊出生率でいうと二〇五〇年一・一〇になっているんですが、これは今の東京でございます。中位推計というのは全国平均でございます。世の中全体が出生率の高い、どちらかというと農村地帯の出生動向に向かってだんだん動いていくのか、あるいは東京に向かって動いていくのかというと、実感としては、地方もどんどんどんどん都市化、少なくとも意識あるいは行動様式も含めて都市化する方向に動いているように思います。  そうすると、やはり実績値が低位推計の方向に向かって今までも推移してきたし、新人口推計以降も推移しているというのはまあ自然の成り行きなのかなというふうに思いますが、じゃ、これを放置していいのかというと、また別だろうと思うんですね。というふうな感じです。
  165. 高橋千秋

    ○高橋千秋君 先ほど申しましたように、この問題はやっぱり少子化対策をどうしていくかということが非常に重要な問題だと思うんですね。  私は、さっき農村と都市の話がありましたけれども、農村に住んでいまして、田んぼのど真ん中に住んでいますが、小さいころは子供が何十人もいて一緒に通っていましたが、今は七人ですね、小学生が。そのようなところ、そんなにめちゃくちゃ山村というわけではありませんが、もうそのような状況ですし、私の地元の三重県の一番端っこの紀和町というところへ行くと、六十五歳以上の比率が五五%、二人に一人以上が六十五歳、年金の給付者のような形になってしまうような状態があります。そのことを考えると、やっぱりこの年金、この問題、厚生労働省が主となって当然やっているわけですけれども、全体として、国策としてやっぱり少子化も考えていかないと、まあもたないんじゃないかなというふうに思うのと、さっき愛知さんの質問の中で損得の話がありました。若い人が掛金を掛けて、将来的に、掛けた金よりももらう金が何倍になるとかいう計算がありましたけれども、そもそも私、この年金とか保険とか、そういう言葉自体国民に誤解を与えているんではないかなというふうに思うんですね。世代間の支え合いということを考えれば、これは完璧に税として位置付けていいんじゃないかなというふうに思うんですが、お二人の御感想を伺いたいと思います。
  166. 駒村康平

    公述人(駒村康平君) 現行の仕組みだと、給付と負担の対応関係が徐々に崩れておりますので、果たして保険と言えるのか、これはすべての社会保険含めて、どんどんこのままだと乖離していくんではないかと。保険というのはやはり給付と負担の対応関係しっかりしているというものがイメージとしてあるんで、だから払うんだと。しかし、その対応関係がなくなってくれば、むしろ税なのかというようなイメージも出てくると思います。  ただ、スウェーデンがやっているような仕組みが、これは先ほど、少子化の問題とも絡んでくるわけですけれども、この負担と給付の対応関係が崩れてくるのはやはり少子高齢化でございますので、もちろんその少子化対策というのは極めて重要で、本来持ちたい人が持てるような仕組みを入れるべきだと思いますけれども、それでもやはり今後はなかなか止められないだろうと。その場合、スウェーデンが実際にやった方法というのは、推計のずれ、あるいは少子化の進展に対しても自動的に調整できる、給付の方を調整できるという仕組みを行う、入れることによって、やはり保険方式を維持できるということも選択肢としては可能であると思います。現行制度がそのまま続いていく中で、この税との接近が近づいていって、むしろ社会保険と離れていくということで、もう税と名前を付けろというのも一個の考え方だと思いますし、もう一つの方法としては、やはり老後、自分が払ったものが返ってくるんだから自分は払うんだと、多少上がっても払うんだという仕組みにするという方法もないわけではないだろうと思います。  以上でございます。
  167. 山崎泰彦

    公述人山崎泰彦君) 古典的な保険ということになりますと、給付と負担個人別に対応するということだろうと思うんですね。たくさん保険料払った人がそれに見合ってたくさん給付を受けると、世代間の不均衡もないということなんでしょうが、社会保障としての社会保険ということになりますと、私は、それはもうどこの国でもかなり崩れてきておりまして、税と保険の違いは、加入しなければ権利が発生しないというのが保険であって、納税しなくても自由に行政サービスが受けられるというのが税の世界だろうというふうに思います。これが本質的な違いです。  できれば税金を納めたくないとみんな我々思っています。これ、総理大臣も含めてそうだと思う。つまり法的に根拠のある節税は最大限みんなやりたいと思います。正直です、私は。それは、税というものは人に払ってもらって、しかし行政サービスは税を払わなくても平等に受けたいという誘因があるんですね、税って。保険の世界には理由なく保険料を払わないと保険証が交付されないという立派なペナルティーがあるんです。ですから保険料は払うんです。ですから、社会保険中心で恐らく社会保障が改善されてきた最大の理由はそこにあって、増税を訴えるというのは先生方みんなつらいと思うんですね。  ですから、やはり、全部税だと、基礎年金も医療も介護もなんという話はもう現実離れしているというふうに思います。つまり、マクロ的には保険料と税は代替関係にあるっていうんですが、個々人のレベルで見ると大きな違いがあると思います。保険料はきちっと払っておいた方がいいよ、しかし税は、できたら節税できるものは節税して払わないで、ほかの方に払っていただいた方がいいよ。消費税だって決してきちっと徴収されていない。所得税住民税だって結構滞納はあるんですね。しかし、何で問題にならないんだろう、なぜ国民年金だけこんなに問題になるんだろうかというと、国民年金は無年金者を生むからですね。税は困る人がだれも出てこないんです。  ですから、私はかなり原理的な社会保険主義者なんです。自立自助を基本にしながら、お互いに支え合うという共助をベースに社会保障を組み立てるのが一番正解だと思います。
  168. 高橋千秋

    ○高橋千秋君 私はどっちかというと柔軟的な主義者でございまして、原理的ではないのかも分かりませんが。  結局、昔はそれで良かったと思うんですね。だけれども、今、若い世代、特に二十歳過ぎぐらいから三十半ばぐらいまででしょうかね、私もだんだん年取ってきて、そろそろ年金のことを考えないかぬな、あかぬなというふうに思うんですが、どうも若い世代から見ると、まあそんな、さっき愛知さんも話していましたけれども、そんな先のこと今考えてもしゃあないわというような感覚をやっぱり持つのがこれは普通だと思うんですよ。そういうときに、さっきの無年金者の話ありましたけれども、そのときにどうなっているか分からぬからそんなこと関係ないわということで、やっぱり国民年金なんかは払っていない。やっぱり四割も払っていないというのはそういうところがまず一つあると思うんですね。  厚生年金とか共済年金というのはもう当然天引きで払われているわけですからそういうことは考えてないでしょうけれども、やっぱりそういう一般的な、その国民年金なんか払っているような方というのは、特に若い人が払ってないですよね。これはやっぱりそこに問題があるんだろうと思うし、これは国自体を信頼してないんだろう、この制度自体を信頼していないんだろうというふうに思うんですが、私は、さっきの税にしてしまったらどうだというのは、確かに我々政治家が選挙のときに、今のこの年金を税にします、全部税にします、増税しますと言ったら、これは選挙大変ですね。だけれども、そういう、実質的にはこの年金の掛金の引上げというのは増税一緒のことになってくるわけで、給付が減っていくということも同じような意味合いを持っているわけなんですよね、名前が違うだけで。  だから、その意味でも私は、ちゃんと国民に説明をしながら、その税金もそうですけれども、節税というのと脱税とは当然違うわけですから、節税をするのはこれはもう十分節税をしてもらったらいいわけで、脱税をしたときのペナルティーをもっときつくするとか、監査体制をきつくするとか、いろいろなことがあると思うんですが、それと同じように、この保険についても、年金についても、やっぱり私は、保険という名前がどうも何か国民に、特に若い人に誤解を与えているように思うんですね。  私も特に若いときそうだったんですけれども、年金を掛けていると、それは自分のために掛けているような感覚が物すごくあるんですね。年金を給与から天引きされて、私は農協に勤めていましたので農林年金に入っていました。農林年金、一元化になりまして、これが天引きされていきますよね。その天引きされていって、結構高い金額だけれども、これはいずれ自分に戻ってくるからまあしゃあないやというつもりで払っていますが、現状では、やっぱりこれ、年代間の支え合いという部分で賦課方式ですから、そうはなっていかないわけですよね。特に今後そういうことになっていくと思うんですけれども、やっぱりそのペナルティーを厳しくするだとか、中身をやっぱり厳しく監査をするとか、そういうことも含めて、私は名前をきっちりと税という形にしてやっていくべきだというふうに、原理主義者ではございませんが、そういうふうに思うんですが、山崎先生、いかがでしょうか。
  169. 山崎泰彦

    公述人山崎泰彦君) 名称を税にということであれば、十分、何ていうんですかね、折り合いが付くんじゃないかなと思っているんです。つまり、国民健康保険というのは地方税法に根拠を置いて国保税という形で取れることになっていて、大多数の市町村は国保税として取っているわけです。これは、戦後、国民健康保険の収納率が低下している中で、税と言えば国民はこれは納税の義務として納めてくれるだろう、保険料では納めてくれないのではないかということで、市町村は選択することができるようになっているんですが、実質的には同じです。国保税であれ国民健康保険料であれ同じなんです。  それから、アメリカの年金の保険料は社会保障税と言っております。これは内国歳入庁が所得税と同じように徴収している。つまり税務署が徴収しているということで社会保障税なのであって、実際は社会保険料です。つまり払った保険料に見合って給付を受けているわけで、払わない人には年金は出ないという意味で、税という名称なんですが本質的には社会保険料です。そのレベルの問題であれば、十分に先生と私、意見はそう違わないと思います。本当に義務なんだよという、語り掛けるためには税という名称の方がいいというのであれば私も賛成でございます。
  170. 高橋千秋

    ○高橋千秋君 さっき運用の話がありましたけれども、税となれば例えばグリーンピアのようなものというのはできなかったとは思うんですよね。  それは別として、やっぱり世代間の支え合いということを考えていくのであれば、将来的に、さっきの話で、幾ら掛けたからそれの何倍戻ってくるということで掛けるということもこれは当然のことだと思うんですが、やっぱり将来的にどんどんどんどん人口が少子高齢化が進んでいく中で、その倍率がどんどん減っていく、もし、ひょっとしたら掛金よりも減って、減った給付しかもらえないということが今後出てくるだろうと思うと、やっぱりそういう部分を義務化をしていく必要があるんではないかなというふうに思います。  それともう一つは、給付の方が五〇%、それから保険料率が一八・三という数字が今出ていて、これも政治的な判断の中で決まったというふうに思うんですし、まだこれから法律出てくるわけですけれども、これをどう考えるのか。このままこれで、いずれまた五年ごとの財政再計算とはまた別に、五年以上はもつかも分からないけれども、いずれまた計算し直さなきゃいけないということが出てくるんではないかなというふうに思うんですが、そのことについてどう思われるかということと、それと、もう時間がありませんが、給付を受けている方ですね、現在、その方々、我々の方、世代から見るとそういう人たちはまあもらい得じゃないかという、さっきもちょっとありましたけれども、その方々の給付を減らせというような意見も一部あるんですよね。そのことについてどうお考えになるか、お二方からお聞きしたいと思います。
  171. 駒村康平

    公述人(駒村康平君) 後の方の質問からで、御質問からですけれども、既裁定年金の部分の調整だと思います。  一つは税によって行うということで、高齢者でも高い所得のある、年金収入にしろ所得がある人に対してはきちんと税を払ってもらう、もう少し厳しくてもよろしいかと思います。今回の年金改革のもう一つは、マクロ経済スライドが入っておりますので、この中で多少は調整は行っていくんだろうと思います。そういう調整の仕組みは入っているだろうと。ただ、抜本的に今もらっている人からざっくり落とすということは、高齢者の消費行動をかなり阻害しますので、これはかなり難しいものだと思います。  それから、五年に一度の改革のインパクトでございますけれども、これは先ほどの税か社会保険料かという話ともつながりますけれども、今の社会保険料と称していても、自分のために払っていない、又は世代間の意見がある、所得再分配機能もある。つまり何なのか、何のために払っているかよく分からなくなっているということであります。これについては、賦課方式だからそうなるというわけではなくて、賦課方式でも仮想的に自分のために払って、この分ちゃんと自分のために返ってくるんだよという口座を作る仕組みもあるわけですね。これを、スウェーデンがやった仕組みはここが一番分かりやすい、分かりやすい仕組みにしたんだと……
  172. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) 簡潔にお願いします。時間が来ました。
  173. 駒村康平

    公述人(駒村康平君) というのがポイントでございますので、そういう自動調整の仕組みを入れることによって持続可能になる部分はあると思います。短期的な見直しはやはり不安定だと思います。
  174. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) 山崎公述人、簡潔にお願いします。
  175. 山崎泰彦

    公述人山崎泰彦君) 一八・三%の保険料と五〇%、五〇・二%の給付水準ということは、先ほど申し上げましたように絶対にこれで大丈夫だなんてだれも言えないと思うんですね。大体、政権が替わる可能性もあるわけでございます。ただ、今回、有限均衡方式になっておりますが、二一〇〇年までのそのコストは、どの政党が天下を取っても同じなんですね。打ち出の小づちはないと思います。若干、世代間の不均衡をならす度合いが若干違うのかな。それから、抜本的といいましても、経過措置がありますから実質的にある日突然切り替えることはできないというふうに思います。それから、既に受けている人の年金は基本的に下げられないと思います。これは憲法問題になると思います。  ですから、社会保障全体の中でバランスを取るというのが妥当な方向だろうと思います。
  176. 高橋千秋

    ○高橋千秋君 終わります。
  177. 渡辺孝男

    ○渡辺孝男君 公明党の渡辺孝男でございます。  駒村公述人、そしてまた山崎公述人、貴重なお話をいただきましてありがとうございました。  私の方からは、まず駒村公述人の方にお尋ねしたいことがあります。  先ほど、国民負担率五〇%を過度に意識する必要がないというお話がありましたが、どうしても国民負担率が五〇%を超えると、今までの経済界等の議論では働く意欲がなくなるんではないか、社会に活力がなくなるんではないか、そのような御意見が多かったわけでありますが、これは大丈夫だという、そんなに過度に意識する必要がないというそういう根拠とか、そういうものはどういうことなんでしょうか。
  178. 駒村康平

    公述人(駒村康平君) 国民負担率は税と保険料の合計が国民所得に対する比率であると。これは統計的な議論、数字の話だけでございます。これはどういう因果関係で個人の働きに影響を与えるかと。もちろん、その国民負担率が一〇〇%になったり九〇%になったら、手取り賃金これっぽっちなのかということで働く意欲がなくなる。じゃ過度、じゃ逆に言うとゼロでいいのかということもないと思うんですね。  国民負担率というのは、数字としては高齢化が進むと経済成長が鈍化するわけですから、そのファクターと、高齢化が進むと社会保障費用が上がりますので、当然国民の保険料負担、税負担が上がります。この結果、国民成長鈍化しながら国民負担の方が上がって、負担の方が上がりますので、見掛け上国民負担率が上がっていると、経済成長が鈍化すると国民負担率が上がっていると。これはどっちが理由で、どっちが原因か結果かというのはよく分からない。これをどっちがどっちか、国民負担率が上がったから経済成長鈍化したということを証明したことは今までにないわけですね。見掛け上そう見えるだけであって、そうあるかないかが分からないと。だから逆に言うと、そういうロジックでもうそうなんだといって議論を進めていくのは間違いだということです。因果関係が証明されていないということになっていると思います。
  179. 渡辺孝男

    ○渡辺孝男君 先ほどいろいろ御意見をお聞きしました。政府案についての御意見山崎公述人の方からございました。  やはり、負担の限度を決めた、保険料とかそういうものを決めたということは大きなことではないかと。また、給付の下限を決めたということも、これも大きなことではないかと。そのほかいろいろ、理想論からいえば様々な課題がまだまだ不十分だということはあるにしても、それは評価しなければいけないという、そういう御意見でありましたが、山崎公述人の方は、そのほかにもやはり次世代育成というものを非常に重要視されていると。社会保障制度は年金、医療、そして介護と、次世代の育児の方ですかね、そういうものの四本柱ぐらいになるぐらいの重要性があるというお話ですが、これからの年金制度、今回も次世代支援という考え方が入っておりますが、もっとこうすべきだというような御意見がございましたらばお話をお聞きしたいと思います。
  180. 山崎泰彦

    公述人山崎泰彦君) 一番、先ほど来の議論との関連で申し上げますと、一番分かりやすいのは、これは政界では自民党の熊代先生がおっしゃっていることですが、年金から児童に係るいろんな給付を支給するというのが一番分かりやすいと思います。つまり、保険料負担は上がるけれども、別途目に見える形で若い世代に手厚い給付が支給される、全体として世代間のバランスが確保できるというのが一番分かりやすいと思うんですが、私が今考えていますのは、実は去年、厚生労働省に次世代育成支援施策の在り方に関する研究会というのが設けられまして八月にレポートを出しているんですが、私も基本的に同じ考え方なんですが、社会保険のような仕組みで次世代育成支援施策を展開できないかということでございます。  社会保険のような仕組みというのは、高齢世代も含めて国民一人一人が目に見える形で次世代育成支援のための負担金を払い、そしてこれに企業や国、地方自治体の税負担を投入し、そして児童手当から保育サービス、幼稚園のサービス、そして地域の、非常に今遅れているんですが、子育て支援のサービス、こういったものを全部セットにして、次世代育成支援のための総合的な保険制度のようなものができないかというふうに考えております。税に基本的に依存した仕組みというのは、どうしても所得制限が入っちゃうんですね。  子供というのは社会の宝なんですね。お金持ちの、お父さんが所得が高いから、この方はお父さんが所得が低いからということで、今手当が行ったり保育料が高かったり低かったりと、こういう違いがあるわけですよね。しかし、次の時代を担う、社会保障を担ってくれる子供だということになりますと、親の職業だとか働き方に関係なく、すべての子供に平等に幅広いいろんなサービスが提供できないかと考えておりまして、そのためにはやっぱり税の仕組みでは難しいんじゃないかなと。所得制限を付けて児童手当の支給に歯止めを掛けたり、あるいは保育料も親の所得によって応能負担にし、一定以上所得があれば実質的に利用はさせるけれども、みんな保育に必要な費用を払ってもらうという仕組みでは、社会全体で支援するということにならないんじゃないかというふうに私は思います。
  181. 渡辺孝男

    ○渡辺孝男君 駒村公述人にお聞きしたいんですけれども、スウェーデン方式の場合、あるいは基礎年金を、基礎年金部分を全部税方式でやる場合には、具体的に我々、その場合にどれくらいの負担になるのかというのがなかなかイメージとしてわきにくいんですが、基礎年金の部分をもし税で賄うとした場合には、消費税で、例えば目的税として賄う場合には、どれくらいの我々覚悟をしなきゃいけないのか。あるいはスウェーデン方式みたいな形で、最低保障年金部分を税金で賄う場合には、国民としてどれくらいのそういう税で負担をしなければいけないのか。大体このぐらいというようなイメージでわくようなお答えはいただけますでしょうか。
  182. 駒村康平

    公述人(駒村康平君) 私は、基礎年金をすべて、現行のフレームワークの中ですべて税で埋めるということは考えておりません。ざっと言うと消費税一〇%は超えてくるんだろうと、もしそうすれば超えてくるんだろうと思います。  ただ、私がイメージしているのは、そうではなくて、基礎年金を全部というわけではなくて、大体一人九万円、二人で十三万円ぐらいの、生活保護の一類、二類という生活扶助に対応した部分と大体同等の仕組みの最低保障年金をセットして、それは所得比例年金というものが、要するに年金ですね、所得比例年金が足りない人にだけ上げるという形にすればよろしいかと思うわけです。  この額がどのくらいになるかというのは、所得比例年金の保険料をどのくらいにするかによって、すべて全部一対一で決定されちゃうわけですね。そこはどのくらいになるか。これは所得比例年金を一五%にしたらどうなるかとか、一八%にしたらどうなるか、一六%はどうなるか。これは実際に数字を回してみて、所得、数字を計算してみて、所得分布から見ていくだろうと。ただ、今の基礎年金をすべて税で埋めるというアイデアよりは当然少なく済むだろうと、こういうふうに思うわけです。  具体的な数字はまだ計算過程でございますので今日申し上げることはできませんけれども、以上でございます。
  183. 渡辺孝男

    ○渡辺孝男君 先ほども、社会保障制度を年金だけで考えていると、なかなか不公平感というのがぬぐい切れない面もあると。やはり社会保障制度、医療も介護も、次世代育成というような、子育て支援というような面も含めないと、本当の不公平感あるいは公平感、そういうものは論じられないんではないかというお話がありました。  これから本当に人口減社会になるんですが、そういう全体の、こう何かいい、いいバランスを取る仕方というのはどういうものがあるのか。山崎公述人に何かこういいアイデアがありましたらお話しいただきたいと思います。
  184. 山崎泰彦

    公述人山崎泰彦君) いいアイデアといいますか、もう本当に今子供の問題は深刻です。  我々、老後の問題はオープンですね。自分の親が痴呆だとか寝たきりだとか、居酒屋でみんな話していますよ。自分の親を見ていると自分も将来そうなる不安を抱えるわけですね。だから、介護保険というのは成り立っているんだろうというふうに思うんですが、子供の問題をオープンにしゃべらない世代も、みんな自分、親の責任だと、うまくいかないと、あんたの育て方が悪いんだという感じで世間を見ているわけですね。本当に子供の問題というのは、みんな家庭で一人で苦しみ悩み、それが虐待ということにもなるんだろうと思うんですが。  今、神奈川、今、次世代育成支援で市町村がこれから本格的な二次調査に入りますが、その先行市で神奈川県の秦野市で調査をやったんですが、あなたは虐待していると思いますか、あなたの子供を。二〇%強の人がイエスとおっしゃるんですね。こういう項目には丸付けたくないんです。だけれども付けるんですね。非常に深刻な問題だというふうに思います。  それから、子供が少なくなったから町中にいないという事実もありますが、子供はいても公園が今危ないところになっちゃったんです。お巡りさんだって安心できない人、ことになっちゃったんです。これは本当に深刻な問題です。  それが、本当に親が一人でそういう問題を抱えて悩んでいるんですね。何とかみんなで支え合う、そして社会で支えられているという実感の持てる社会を作れるかどうかということだと思うんですね。
  185. 渡辺孝男

    ○渡辺孝男君 ありがとうございました。
  186. 大沢辰美

    大沢辰美君 日本共産党の大沢辰美でございます。今日は御苦労さまでございます。  私も年金問題に絞ってお聞きしたいと思うんですけれども、政府が出しました年金改革の法案では、二〇二三年までに一五%の切下げを一律にすべての年金受給者に迫るものとなっているわけですが、実質このことは二か月分の収入が消えてしまうことになると思うんですね。  国民年金で見ると、平均今四万六千円の年金だと思いますが、三万九千円まで下がってしまうということになると思うんですが、国民年金だけしか受給していない今お年寄りが約九百万人おられると予想されます。  年金の制度をどうするか、そして皆さんが今お話ししてくださいましたように、枠組みをどのように作っていくか。いろいろな意見を今お聞きしたわけですけれども、生活保護費にもはるかに及ばない年金受給者の年金まで私は一律に削減するやり方は大変なことだなと思っているんですが、お二人の公述人はどのようにお考えでしょうか、お伺いします。
  187. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) お二人ですね。
  188. 大沢辰美

    大沢辰美君 はい。
  189. 駒村康平

    公述人(駒村康平君) 御指摘の点は今回の年金改革のインパクトでございます。  これは、財政的に見れば、所得比例部分だけスライド調整して基礎年金の部分を調整しなければ、非常に所得比例年金の部分がぺらぺらの薄いものになってしまう。あるいは、そうしない、最低、基礎年金の部分を調整しないと、こちらの保険料、今度、国民年金の保険料が上がってしまうなんという問題があるわけですね。私も今御指摘のような部分が非常に多い問題だと思います。  実質、名目価値は増えたとしても実質価値が下がっていくわけでして、それは生活保護とのバランスが著しく崩れていくだろうと。この場合をどう考えていくのかと。やはり、そろそろこの二階建て方式というのはそういう意味でも限界が近づいてきている、新しい体系を目指すときに来ているんじゃないかと、こういうふうに思います。  その際には、基礎年金の位置付けですね、意味ですね、これはどういうものなのか、もう一回再定義して、最低生活保障の体系の中で、これは生活保護も含めた中で、位置付け、議論をしていくべきだろうと思います。現行制度の延長上にあるならば、これしか対応はないと思いますけれども、体系の見直しが必要かと思います。
  190. 山崎泰彦

    公述人山崎泰彦君) 公的年金だけを見ますと、サラリーマングループと自営業者グループに大きな格差があるんですが、実は統計的には自営業者世帯、自営業者のOBの方とサラリーマンOBの方で世帯としての平均的な収入は変わらないんですね。もちろんばらつきはあると思いますが、平均的には変わらないというのが一つあります。  それからもう一つは、国民年金の年金が低いことなんですが、元々満額の年金でも十分かというと、いろいろ疑問があるところだと思うんですけれども、未加入期間があったり、それから今の年配の方は、特に東北はそうなんですが、長生きしなければ損だというので、繰り上げた方がたくさんいるんですよね。当時は満額の年金の六割程度しか、そういう方がいらっしゃるという問題もあるというふうに思いまして、だからきちっと入っていただきたい。それから、本当に老後に必要なときに、六十五歳から受けていただきたいという啓蒙が必要だというふうに思います。  以上です。
  191. 大沢辰美

    大沢辰美君 次に、厚生年金についてお尋ねしたいと思うんですが、駒村公述人の方は、年金への国民の不安として若い世代、将来負担に見合った給付が受けられないのではないかという不安、そして一方、高齢者は年金の支給が大幅にカットされるのではないかという不安があるという発言、また著書なども強調されていますね。また、山崎公述人は年金改革の重要なかなめとして、次世代育成支援という確立の強化を指摘されていると思うんですが、今回、国会に出されています政府の年金改悪法案では、厚生年金保険料は二〇一七年度までの十数年間にわたって上昇し続けると、毎年これは一兆円の負担増が続くことになりますね。  給付の方はどうかといったら、政府は例として夫は四十年間加入と妻は専業主婦というモデル世帯を例に出していますが、だから、現役世代の平均的な手取りを年収の五〇%は確保するという宣言をしていますけれども、それには三つの前提の条件が置かれていますね。一つは、生まれてくる子供の数、出生率が改善されていること、さらに、賃金が順調に上昇していること、そして、年金積立金の運用利回りが確保されているという前提条件がありますね。でもしかし、現在本当にますます落ち込む一方の出生率ですね、これが背景にありますので、これは本当に子供を産み育てる環境や状況が大きく私は改善されるのかどうか、とても疑問に思っています。また、雇用の面でも賃金破壊という状況が生まれているところである。ですから、大変改善される見込みが今のところ考えられないと。そういう悪化の一途をたどっている状況があるわけですね。  ですから、前提が今確保できないという状況の中で、皆さんが指摘されています積立金の運用も非常に危険極まりないという、三つとも条件が確保できないという状況は今では考えられると思うんですが、それでも、私は、政府が言うように、保険料の上限が決められ、給付水準の下限を決めたから安心だとは言っているわけですけれども、私はこの安心のメッセージというのは全く伝わらないのですが、そういう点で本当に安心の確保ができる状況にあるのでしょうかということをお聞きしたいと思います。
  192. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) どなたにですか。お二人。
  193. 大沢辰美

    大沢辰美君 はい、お二人に。
  194. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) それじゃ、山崎公述人から。
  195. 山崎泰彦

    公述人山崎泰彦君) 本当に難しいと思います。  安心のメッセージが伝わらないということなんですが、現役世代が高齢世代を支えるんだということからすると、一番基本になるのが人口構成でございまして、今の人口構成を少し変えるという努力をしない限りは明るい展望はなかなか出てこないんじゃないかなというような気がしますけれども。  そういう意味で、社会保障の大きな柱に次世代支援というのを位置付けるということが大事なんじゃないでしょうか。今までの既存のシステムを前提に、つまり高齢者の社会保障に非常に偏った社会保障システムを前提に、しかも今の人口見通しを前提にする限りは余り明るい見通しは出てこないと思います。
  196. 駒村康平

    公述人(駒村康平君) 一年分の積立金を将来保有しつつ、一八・三五%を維持しつつ、五〇%の給付水準をと。この三つを同時に達成するのは極めて私は難しいのではないかと、こういうふうに思います。もちろん、五〇%の給付水準というのはどういう意味があるのか。これも、これはあくまでもモデル年金に対する男子の手取り賃金の比率でございますので、もう少しこの意味も含めて検討しなきゃならないと思います。  いずれにしても、なかなか、現在の年金体系を前提にすれば、先ほど言った、若い世代と高齢者の不安を同時に解消するというのはなかなか難しい部分があると思いますので、新しい時代に合った社会保障、年金体系もここ五年ぐらいで議論すべき時期なのかなと私は思っております。  以上です。
  197. 大沢辰美

    大沢辰美君 ありがとうございました。
  198. 片山虎之助

    委員長片山虎之助君) それじゃ、ありがとうございました。(拍手)  以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。  この際、公述人方々に一言お礼を申し上げます。  本日は、有益な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚くお礼を申し上げます。  明日は午前十一時から委員会を開会することとし、これをもって公聴会を散会いたします。    午後四時四十六分散会