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参考人(
浅岡美恵君)
浅岡でございます。
本日は、このような
機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
私は、
消費者の立場で被害者救済など実務をやってまいりました
弁護士でございますけれども、あわせまして、
日本弁護士連合会が
製造物責任法や
消費者契約法、
情報公開法などの
消費者に関連いたします
制度の制定に当たりまして関与をいたしました。そして、今般の
国民生活審議会の審議には一員として参加させていただきましたので、その経験を踏まえまして
意見を申し上げたいと思います。
今般、既に
消費者基本法が成立しておりますけれども、この
消費者基本法に係ります
部分につきまして、
消費者部会の
報告につきましては、私は、細部で
意見はございますけれども、この
公益通報者保護に関する
部分を除きましては賛成をいたしました。しかし、この
部分につきましては異議を留保させていただいております。この国会で、
消費者基本法は
国民生活審議会の
報告を更に前進させて立法していただきましたので、その点については敬意を表したいと存じます。
なぜ
公益通報者保護制度に関します
部分について異議を申し上げたかと申しますと、これはそもそも今回の
報告が
消費者政策の実効性の確保の方策の
一つとして位置付けられたものであります。その
政策全体は、
消費者に、
市場にも参加し、積極的に自らの
利益を確保する自立した主体としての行動を求める、その
前提といたしまして、
消費者が必要な
情報を得て選択ができる、そうした権利を認めていこう、
事業者にも
情報公開と
コンプライアンス経営を求めようというものであります。
しかしながら、今般のこの
公益通報者保護制度についての審議会
報告の
部分、またさらにそれを
消費者の立場から見ますと、
保護の
対象を詳細、厳格にいたしました、小さくいたしました本
法案につきましては、こうした
消費者の役割あるいは権利をどう実現していくのかという
観点が欠落していると、そうした点で異質なものと感じましたからであります。
この
議論の過程で、日弁連や
消費者団体は
意見を申してまいりました。先ほどの
大村委員の御
発言ですと、これらが十分配慮され、微妙に調整されたということでございますが、私どもはそう考えておりません。
例えば、検討
委員会の第四回、
最後から一回目でありますが、そこでもう
消費者側代表の
委員の方は、この
委員報告案は余りに
事業者の
保護に偏り過ぎていると苦言を呈しておりますし、そこから更に後退したということでございます。
こうして見ますと、私の個人的な関心も含めてでございますが、今般、この国会で成立いたしました
消費者基本法の本当に真価がここで問われる、ここで目指したものは何かということが、まず同じ国会で問われていると私は考えるところであります。
まず最初に、私どもは
事業者性善説あるいは性悪説、いずれに立つものでもございません。
事業者があるいは
行政組織が自主的に
内部で
取組をされるということはこれは必要なことでありますし、それを推奨していくという
制度の必要性も考えます。また、こうした
内部告発制度について、常に
外部への
通報が必要だと考えているものでもございません。
しかし、これらの
バランスをどのように取っていくか、これは大変慎重な審議が必要でございます。特に、今般は
通報者の
保護に関する
民事ルールを作ろうということでございますので、決して
行政の一部の規定を作ろうというわけではないわけでありますので、そうした
バランスを特に取っていただかなければならないと思います。
先ほどの
松本先生のお話の中でも、
告発イメージあるいは
通報イメージというお話がございましたが、こうしていずれかに切り分ける、どちらかというようなことは本
制度にはなじまないものであると思います。これらをいかに
バランス取っていくか、相互に補完し合う関係、これが必要である。
と申しますのも、
事業者の秘密
保護という
観点、それも重要でございますけれども、
通報者の
保護や
消費者の知る権利、これに
バランスを取ることによって
事業者との関係が緊張関係が生まれ、
事業者の適切な措置が担保されていく、これは今日の法
制度の
基本の
考え方であろうと思います。
本日、私の方で用意いたしましたものは、A3の用紙で、英国
公益開示法と、そして
国民生活審議会報告、そしてパブリックコメントに付されました
内閣府からの骨子案について、また、本
法案につきましての各項目を一覧表にいたしました。そして、オレンジのパンフレットは
国民生活審議会の
報告を整理したものでございます。
本日は、先ほどの
大村委員のお話にもありましたように、英国でいろいろ
議論の末、
バランスを取られたと
評価されております英国
公益開示法と比較いたしまして、本
法案の問題点を、大きな
二つの点について指摘申し上げたいと思います。
まず、
通報の
対象でございますけれども、本
法案は犯罪
行為あるいはこれにつながる
規制違反に限っております。犯罪
行為に限られることになりましたのは、
国民生活審議会の
報告ではございません。この
法律案になるところで変わったものであります。これは入口を大変狭くする、そして
通報者の最初のステップを大変ハードルを高くするというものであります。一覧表をごらんいただきましたら分かりますように、英国
公益開示法はこのような
考え方には立っておりません。
法令違反と申しますときにも、民事法
違反、不法
行為を含みますし、そうした
法令違反に当たるかどうかを問わず、生命、身体、財産に影響を与えるものをそうした事実について含めております。
また、それも、起こったこと、起こっていること、また起こるだろうこと、将来のことについても含めまして、それは今
法案にありますように、正に生じようとしているというような切迫性を
要求しているものではございませんで、イズ・ライクリー・ツーという表現でございます。正にその
発生のおそれと表現しておいていただいたことで十分足りたわけであります。
こうした、この規定ぶりは英国
公益開示法の制定に大変貢献いたしましたパブリック・コンサーン・アット・ワークで働いております
弁護士のガイ・ディンによりますと、
国民にサムシング・ロング、何か悪いことを
通報させよう、してもらいたいということを
従業員に求めているというものであります。こうした市民の感覚、常識的な感覚を生かすということが今、
大村委員がおっしゃられました
企業の
社会的責任にこたえ、また持続可能な
経営に資するものであると考えるところでございます。
また、本
法案は、匿名ではなく、書面によって、あるいは氏名を明らかにしてということが随所にうかがわれる
法案になっております。私も、
公益通報が匿名ではなく顕名で、名前も姿も示してできるようなことは大変望ましいことだと思いますけれども、このような、そういう
仕組みを作ろうというのであれば、正に犯罪
行為だけを
対象とするというふうにいたしますと、あなたは犯罪をしているということを通告せよということでありまして、これは大変心に負担を感じさせるものではないでしょうか。こんなことでよろしいのでしょうかということを
通報させる
仕組みということによって、こうした名前や姿も示して
通報できるということになっていくのではないかと思います。審議会の
意見、検討
委員会の
議論の中でも、こうした
意見は私は決して少数ではなかったと、むしろ多数であったと認識をしております。
次に、
保護される
通報の要件につきましてであります。とりわけ、
外部通報先の要件について申し上げます。
審議会で
外部通報先の要件を
議論した
機会は決して十分ではありませんでした。本当に
議論もなく、この中身、この
法案の意味が、
報告の意味がどんなものかということの
議論、質問をたくさんしなければいけないと、そこはそういうものでございましたが、その答えも得られないまま最終
報告に至っております。学者
委員からも、やはりもう少しちゃんとしておかないとこの先どうなるか分からないという不安を持たせるものではないかということが、例えば第四回の
議論、
最後の
段階でも出ていたというものでございました。本
法案が、さきも申しましたように、包括的な
民事ルールを定めるというものでございますので、とりわけそうした要素が重要である、慎重な
議論が必要だと思います。
国民生活審議会の
報告におきましても、また現在は更にそれが制約されておりますけれども、
外部への
通報のルートというのは大変厳しいものに設定されております。例えば、その第一番目、審議会
報告では(a)でございますけれども、
不利益処分を受けるおそれというふうなものにつきましては先例があればということでございますが、これは例えば訴訟にでもなっているとか、紛争が公然化して顕在化しておりませんと、あったかどうかを知ることは大変難しいことであります。
また、
コンプライアンス対策の
ヘルプラインが設けられているということでありますと、それが
機能するかどうかを問わないという
仕組み、ことになりますので、それではやはり
通報者にとっては不安を禁じ得ないというのが現状ではないかと思います。
証拠隠滅につきましても、衆議院での答弁も伺いますと、例えば代表者や担当役員が関与している場合と、こう答弁がありますけれども、そのようなことを
労働者、
通報者が知ることはほとんど不能に近いのではないかと思います。こうした要件は事実上
機能することは余り期待できない、よほどの場合でなければ
機能しないというものであります。
もう、あと
二つの
通報ルートがございまして、その
一つが
内部へ
通報し、あるいは
行政機関に
通報し、それが相当期間内に適切な措置がなされない場合ということでございましたが、この要件が大変本
法案では大きく変化をいたしまして、変質、後退をいたしました。
まず、
行政機関への
通報につきましてはこの要件から外されております。これは、
事業者にとりましては
行政機関が適切に措置をするかどうか分からないので、そうした要件に係らしめることが不安であると、こういうことでありまして、
行政機関への
不信感がその背景にあるのではないかと思います。これは
消費者、いや
通報者側にとりましても、その後、
行政機関への
通報がどのようになっていくのかということを不安に思うものでございますし、ただただその後の措置をじっと待っていなければいけないという
制度になるのでは、不安を禁じ得ないというものであります。
事業者に対する
通報につきましては、審議会
報告では相当の期間内に措置がなされない場合となっておりましたが、本
法案につきましては、最終的には二十日を経過して調査するかどうかを
報告するというようなところにとどまるものとなりました。
といたしますと、調査すると
報告がありました後、その措置がいつどのようになされるのか、そしてなされなかった場合にそれではどのように
通報者ができるのかということについては大変不明確なものになりますし、それは
通報者にとっては知り得ないもの、
通報者側に立証
責任があるものでございますけれども、立証し得ないものということになってしまっているわけであります。
これに対する、この問題につきましての
公益通報者、
公益開示法、英国法は、
外部に
通報する前に、その
事業者あるいは
行政機関に本質的に同じ問題を
通報したことがあることということであります。これは
通報者にとっては立証可能なことであります。そうしたことは、いきなり
通報するということについての先ほどの
大村委員からの御批判にこたえるものであります。しかし、今回の
法案は、いきなり
通報したことに対する対策ではなくて、
内部や
行政機関に
通報された後、次のステップとして
外部へ
通報をされるという道筋を事実上封じるということにつながる
仕組み、これは立証
責任の分配も絡みまして、そうした
仕組みになっております。
そういう意味で、ステップ・バイ・ステップの方式ではなくて、並列的と
内閣府もおっしゃっておりますけれども、これは並列的なように見えますけれども、
外部通報のルートがほとんどなきに等しいものでありますので、事実上
内部及び
行政機関への
通報ルートだけが残る。これは
消費者保護基本法の
議論にあります、
行政が
中心になって今後の
消費者政策を行うという従来型のものにまた戻ってしまっていると、こう思うわけであります。もう少し
消費者、市民の役割というものをそこに加えていっていただきたい。
さらに、
最後の、
国民生活審議会の
報告の
最後の要件は、その問題、生命、身体に対する危険が急迫していると、正に急迫したものであることということを要件にしておりました。これに相当する英国
公益開示法は、その問題の性質が重大であることというものであります。
私は、こういうふうに記載していただく
法律を作っていただくのであれば、そして英国
公益開示法の中にはすべての事情を考慮してそうした
通報が相当、
保護するのが相当である場合という規定も加えております。こういうふうに、
一般的に社会通念に従いまして、
保護すべきものが
保護されるということを
法律案の中にしっかり担保されております場合は、私どもは賛成をしたいと思います。
しかし、現状におきましては、そうしたものは
一般法理にゆだねるということで従来どおりでよろしいではないかと、こう
大村委員もおっしゃるわけでございますけれども、それは
通報者にとりましては、こうしたことで
明確化されることによりまして
保護の
範囲は大変狭いもの、そのほかにつきましては大変不明確でリスクの大きいものというふうにかえってなるわけでありますし、
一般的なその
保護要件がどのように
機能するのかということを
議論します前にこうした詳細な
通報の
ルールというもの、
通報のルートというものを定めてしまいますと、これにそぐわないものにつきまして
保護を、裁判所としては大変使いづらい
法律として登場するであろうということを懸念をしております。
最後になりますが、こうした
民事ルールを制定いたしますときは、
消費者契約法におきましてもそうでありました、
製造物責任法の立法でもそうでありました。やはり
一般、個別に
明確化することの要請は一方でございますけれども、すべてを、すべての場合を羅列することは事実上無理でありますし、どうしてもそうした中から漏れるところが出てまいります。このように、本
法案のように極めて限定をいたしますと、大変漏れるところが出てまいります。そうしたものにつきまして、ちゃんと手当てをする
一般条項というものを加えることがどの
法律の
議論でも大変
議論になってまいります。
製造物責任法ではそのような欠陥の概念規定に国会で変えていただきました。そして、
消費者契約法では、審議会の中で無効規定につきまして、そうした
一般条項を組み入れたものにしていただいて現在の
法律になっております。そのことによって今日の役割、
法律案が、そうした
法律が
機能しているのでありまして、もしこうした
制度を設けるのでございましたら、
法律の中に、
通報者にとってステップ・バイ・ステップを
基本とするのでもそれはよろしいのですけれども、ちゃんとした例外があり、ステップそのものも
通報者にとって踏み出せるものにすること、そしてその擁護につきましても、ちゃんと
法律の中で
一般条項を組み入れた
保護規定としていただくことが
民事ルールとしての
基本であろうかと思います。
よろしくお願いいたします。