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参考人(
別府悦子君) 本日、この場にお呼びいただいたことに深く感謝申し上げます。
私は、
文部科学省や岐阜県の事業によって小
中学校を訪問し、
LD、
学習障害ですね、
ADHD、
注意欠陥多
動性障害、そして高
機能自閉症などの特別な
支援が必要な
児童生徒の相談
活動を行っております。
まず最初に、私がある
小学校で相談を受けた
子供さんの漢字
学習の様子をごらんいただければ幸いでございます。(
OHP映写)
この
子供さんは、ごらんのように、一生懸命字を書こうとしています。けれども、どこから書いたらいいか分からなくて、次のようにつなげていくわけですね。無限の無という字ですけれども、混乱してしまって消してしまっております。もう一度書き直すわけですけれども、今度は横、縦四本、横棒というふうに無という字を書いています。
ところが、次ですね、次は右から二番目からというふうな形で書いています。というふうな書き方になるわけです。
恐縮ですが、お手元にパワーポイントのスライドを印刷していただきましたので、それを見ていただければ大変幸いに存じます。
その三枚目ですけれども、ここにこの
子供さんが書いた作品があります。ここに帯という字がありますが、この
子供さんの特徴は、今ビデオでもごらんいただきましたように、書けば書くほど間違い、あるいは、この帯という字ですね、縦が、上の部分が縦三本線なんですけれども、それが四本になったり六本になったりというふうに、書けば書くほど間違っていくというふうなことになります。そして、書き順も、今ごらんいただきましたように、毎回どこから書いたらいいのかなというふうに迷いながら書いているのでございます。先生が修正されて、帯の上の部分を正しくなったら、今度は下の巾の部分が上下ひっくり返るというふうな具合になっております。
この
子供さんは、就学のときには
学習困難を指摘されませんでした。それで、
通常学級に
在籍しているわけですけれども、
小学校三年生になるまでこういう
状況が
学校では把握されていませんでした。しかし、本人は、今ごらんいただきましたように、うまく書けないという悩みを抱えながら、あのように何度もせき込みながら何度も書き直すというふうなことを繰り返しておりました。決して怠けているせいでも意欲がないわけでもないのです。
授業中に鉛筆を持ったままじっと動かずに過ごしている場面にも出会いました。ついには
学校にうまくなじめずに欠席するということもありました。
そこで、
学校から要請がありまして、
教育委員会の主事と相談に入り、そして
文部科学省の
LD児の
指導体制
充実事業の
対象校になったこともありまして、
学校を挙げてこの
子供さんの漢字
学習に取り組まれました。様々な教材や
教授方法による
LD、
学習障害児の
実践が活用されたのです。この
子供さんには、
通常の
子供さんがよく使うようなドリルですね、そういうものを使って繰り返し覚えれば漢字が定着するというような漢字
学習ではなく、心理検査から把握された特別な分かり方、いわゆる認知特性というふうに呼ばれておりますが、そういうものに配慮した特別な教え方、特別な
指導方法を一斉
授業の中で実施されました。その結果、この
子供さん、かなり漢字が書けるようになりました。
そして、大きな変化が二つありました。
一つは、
クラスの
子供たちの漢字
学習にとっても好影響があったということです。いわゆる、丁寧に様々な教材が使われる中で、ほかの
子供さんにとってもいい影響があったというふうなことです。東京の成蹊大学の牟田
悦子先生も指摘しておられますが、特別配慮の必要な
子供さん
たちにとって必要な
教育は、周りの
子供たちにとっても必要なユニバーサルな
教育というふうなことです。これは、現代、
学力低下、これは私、大学勤めていても感じることでありますが、この
学力問題を考える際にも重要な点を示唆しているのではないかというふうなことを考えております。
二つには、
学校の先生方がまとめられた中に、この
子供さんへの取組を通して
学級に、互いの良さを認め合い尊重し合う温かい
学級になっていったというふうなことです。その
学校の
教育相談の質が向上しました。これは、人権や思いやりの意識向上が
子供たちから育っていったという点で、単に上から徳目的に教えるというのではなくて、真の
意味での心の
教育というふうなことを考えてもいいのではないかというふうに考えております。
このように、
発達障害児を
クラスの中で位置付けることは非常に重要であり、
共生社会の担い手を育てる
意味でも非常に重要ではないかというふうなことを感じています。しかし、
通常学級の中ではこうした
LD、
ADHD、高
機能自閉症などの特別
支援の必要な
子供に対しての理解や対応、そして
支援体制が十分ではなく、様々な混乱や誤った対応が行われているのも事実です。
今、このような
子供たちを軽度
発達障害児と呼ばれておりますが、この
子供たちの対応の不十分さからくる二次的な問題が生じていることが
児童精神科医師や
教育研究者の中でも重要視されています。それは、例えば先ほど見ていただいた
子供さんのように、
学習障害の
子供さんが一般の
子供さんの中においてよりも不登校の率が高いというふうなことです。
これは京都府の総合
教育センターの
調査により、一般の
子供の
学習障害の率よりも不登校の
子供の中においての
学習障害児の率がかなり高いというふうな数値が出ております。さらに、
ADHD、
注意欠陥多
動性障害児の併存
障害、これはほかの精神医学的
障害を併せ持つという、この特定の疾患だけではなくてほかのものも併せ持つという
意味ですが、この併存
障害として非行や反
社会的な行動を起こす
グループに移行する
児童が一定数あるというふうな
調査結果が国立精神・神経センターの
調査より明らかになっております。
また、昨年の長崎の少年の事件のように、高
機能自閉症やアスペルガー症候群の
子供の犯罪についても看過できない問題です。もちろん、
発達障害児がこのような問題を起こすということではなくて、問題の発見が遅れ、
支援が十分でない、適切でない
支援が行われていることが様々な要因と重なり合って特異な事件になったというふうなことを強調しておきたいと思っております。
先ほどもありましたように、文科省の方から六・三%、このような
子供さんがいるという結果が
報告されました。私が岐阜大学の宮本
教授と共同で岐阜市
教育委員会の協力を得て教師に
調査をした結果では、教師が
指導の困難ととらえている
児童が
小学校で二・七%おり、言わば二
学級に一人
在籍する数になっております。そして、そうした
児童のうち、算数や国語など教科
指導に困難のある
児童が約六〇%おり、先生方がかなり個別に対応と努力をしていることが明らかになりました。その中でも、教室から出ていったり、あるいは
授業中に席に座っていない、あるいは友達とトラブルを起こす、又は家庭との協力体制が取りにくいという場合に困難度が大きいというふうなことが挙げられております。
中学校でも同じような傾向が出ております。集中力がなく、一斉
授業の中で教えることが困難な
児童が
指導のしにくさの中で多い
状況が挙げられております。
こうした中で、
小学校で三・七%、
中学校では十人に一人ですね、この困難な
児童の十人に一人、一〇%に今の
ところ方策が見付からないというふうに教師が回答されております。言わば、教師としての効力感というふうなものが感じられないというふうな
現状が
調査の中で出てまいりました。そして、
小学校の
子供さんの、困難
児童の
子供さんを
クラスター分析、言わばそういうふうないろんなタイプの
子供さんに分けた統計
調査の結果、多動・衝動的な行動を示す
子供に今の
ところ方策が見付からないというふうに挙げた割合が多く出てまいりました。
中学校においても、多動や
社会性の
障害、
学習困難の
グループに今の
ところ方策が見付からないというふうに教師が答えている割合が非常に多くなっております。
こうした
現状の中、教師と
学校現場のサポートが是非とも必要だというふうに考えております。昨今、教師のストレスや疲労などによる心身の健康破壊や休職が増大しています。この十年間に二倍にもなったというふうなことが
報告されておりますが、そのサポート体制を強化していくことが急務のように感じております。
最初に述べたように、
障害児がいることの
教育的
意味は大きく、
学校教育の中での
共生社会が作られることには大きな意義があるというふうに実感しております。しかし、一方で、そのためには単に
障害児と一緒に過ごすというのではなくて、特別な配慮や
教育方法、あるいは教師の専門的な知識や
視点が必要であり、そのためには条件を整えることが不可欠だというふうに考えております。
先ほど述べましたように、この
子供たちへの対応が不十分であるならば、それが不登校や反
社会的行動など、様々な問題につながる懸念もあるということが、今、専門家の間からも危惧が出ております。そういうことを考えるならば、是非とも次の点での
支援や対策を考えていただくようお願いしたいと存じます。
一つは、
発達障害に対応できる
児童精神科医師や臨床心理士等が教師や
学校現場に援助でき、そして教師の研修に携わる体制の強化でございます。二つには、特別配慮の必要な
児童に個別
指導や配慮ができる加配の
教員や
指導の場所の確保です。十分な人手とスペース、そして教師へのサポートが是非とも必要だというふうに考えております。三つ目には、基礎となる
学級定員の削減です。是非、諸外国のように三十人以下の
学級が実現できるよう切にお願いいたします。
さらに、今こうした
LD、
ADHD、高
機能自閉症児への
教育は、特別
支援教育への転換ということで、
文部科学省も推進の指針を出しておられます。これが現在の
養護学校や
特殊学級などで進められている
障害児教育の
充実の上に立って行われること、決して現場の混乱や負担を招くような改革でないよう希望したいと思います。
お手元に添えさせていただきましたオーストラリアのブリスベーン市というふうな
ところに昨年の夏に研修に出掛けましたが、ここでは
障害児教育の
充実の上に、更に
学習困難な
児童の施策が出されております。
現在、岐阜県においても
養護学校に
在籍する
子供の数がどんどん増え、
親御さんのニーズが増えている
状況にあります。こうした中で、教室がない、空き教室を削ってあるいは教室を二つに分けて
教育している
ところもあるというふうな
現状でございます。こういった、今現在進められている
教育の上に立って進められていくというふうなことを是非お願いしたいと思います。
岐阜県でも
NPO法人アスペ・エルデの会などの
当事者の団体が、医師や研究者と連携して幼児期から成人期までの取組を進めております。そこでは
社会に出て仕事を持ちながら
自立した
生活を送っている
人たちもたくさんいるのです。その中ではきちっとした納税者もたくさん生まれてきております。
幼児期から成人期まできちっと適切な
支援を行うことが非常に重要であり、この
子供さん
たちに適切な、そして十分な予算を投じていただくことが効果があるというふうに私は考えております。是非、この
子供たちへの
支援を併せてよろしくお願いいたします。
学校教育において
共生が図られ、
子供一人一人によって
学校の中で豊かな育ち合いがなされていくためにも、条件を整え、
学校現場や教師へのサポートを強化していただくように切にお願いする次第でございます。
ありがとうございました。