○田英夫君 これは本当に
政府全体で取り組んでいただかなければならない問題で、この問題が、こういう問題が本当にきちんと終わって初めて戦争が終わったということが言えるんじゃないか。私のような世代は、本当に我々の世代の残したものを後ろに継いではならないという気が非常にするものですから、その点を非常に
心配をいたします。
これは、ここに七三一部隊という本があります。七三一部隊というのは、御存じのとおり、化学兵器を戦争中旧
日本軍の中で研究をしていたグループなんですけれども、この本を書いたのは吉永春子さんというジャーナリストですが、もちろん中国にもしばしば行って、リポートをまとめたのがこの本ですけれども、毒ガスに限らず、正に生物化学兵器の研究を
日本軍はしていたと。
この中にも出てきますけれども、細菌をトマトなどの野菜に注射して歩く。便衣隊と書いてありますが、便衣隊というのは、中国側の、平服で、軍服を着ないで平服で、一種の特殊部隊ですね、その、今度は
日本側が中国人の服装をしてトマトや野菜に細菌を注射して歩いたということがリポートされています。
そういうところまでやっていたわけですから、中国だけ例に取っても非常に膨大な化学兵器あるいは生物化学兵器が使われたに違いない。その後起こったいわゆる太平洋戦争中の、
アジアからニューギニアまで行っているわけですから、そういうところで一体どういうことがあったのか、何が起こっているのか、そういうことも視野の中に入れておかなければいけないことだと思います。
もう
一つ申し上げたいのは、
先ほど三億円というお金で、結局は、ずばり言ってしまえば、中国側にそれを渡して、処理をするのにも使うし、被害者の見舞金といいますか、そういうものにも使うという、そういう非常に大ざっぱな処理の仕方になっているわけですけれども、本当にそれでいいのか。本来ならば、
日本政府がはっきりと賠償を支払うということをしていれば、こういう事態にはならなかったのかもしれません。しかし、むしろ中国側から周恩来総理が積極的に提起して、
日本には賠償を免除するということが日中国交正常化から平和友好条約結ぶという段階で確定したものですから、今度はその後に起こってくるこの種のことに対する
対応が非常に難しくなりました。
そのことをいろいろ取り組んできましたけれども、例えば強制連行という問題、そのことによって起こった被害、被害者自身が
政府が何もしないから仕方なく訴訟を起こすという、
日本の法廷で訴訟を起こすという、そういうことにならざるを得なくなってきました。この毒ガスの問題も、本当に被害者が納得しているのかどうか。ほかの場所でもあり得ることであって、その場合に、被害者が
日本の法廷に訴訟を起こすということになってくると、政治的な解決はできなくなってしまう。
例えば、花岡事件というのを御存じだと思いますが、これは中国から
日本が強制連行で連れてきて、大館の花岡という地区で強制労働をさせていた約千人の中国人が重労働に耐えかねて蜂起した。戦争が終わる直前の六月三十日ですよ。結局、千人のうち六百人ほどが死んだ。生き残った人が、そのときにはもう賠償の問題もすべて終わっていたために提訴をするしか方法がないという形で裁判に訴えました。結果は、五億円を支払って、それは
日本の企業がです、支払って和解する、こういうことになったんですね。中国側は大勢の人ですから全部合わせれば五百億ほどの金額になるものを、五億円を
日本の、そのときにその人たちを重労働させた企業が支払って和解をしたということになったんですが、そういうことでいいんだろうかと私は思わざるを得ないんですね。今度のチチハルの三億円もそういう感じを持ちます。
今後もそういうことは起こり得ることであって、政治が本来解決しなければならないものを司法の場で解決をすると、解決と言えるかどうか、これは私ども政治に携わる者、そして
日本政府の皆さん、是非深刻にお考えいただきたい。この負の遺産を清算しなければ、本当に
日本は国際社会の中で一人前の顔をして行動できる国ではないと言わざるを得ないと思います。
終わります。