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参考人(
小川和久君) 皆さん、おはようございます。御紹介いただきました
小川でございます。今日はお招きいただきまして大変光栄に思っております。
私は、
軍事専門家の端くれといたしまして、主に
国家戦略の立場から現在の
イラク復興支援に関する
日本の議論の問題点というものについて若干の問題提起をさせていただき、皆様方とより良い
日本の進路について考えていくことができればと思っております。
私自身は、お手元の配付
資料に、一枚目にございますように、
イラク復興支援に関する
日本の議論の問題点というのは、いまだ非論理的である、非科学的である、非現実的であると、その三点において
世界に通用しないという部分を残しているんじゃないかという立場でございます。その中で、頭に三角が振ってある上の
二つでございますが、やはりこれは象徴的であろう、その辺はやはり整理しなければいけないだろうということでお話をしたいと思います。
まず第一点は、
自衛隊の派遣が
イラク復興支援のすべてであるかのごとく錯覚され報道されている、こんなばかな話はないということなんですね。
イラクがつぶれて、この国が立ち上がっていく上でのお手伝いを
日本の国はやっていこうと、
世界の国々もそういう形でかかわっているわけでございます。
復興支援全体が一〇〇だとすれば、その大部分は
民間が
主体にならなければできないものなんです。しかも、十年二十年と掛かるようなものでございます。
自衛隊という
軍事組織、あるいはほかの国の軍隊もそうでございますが、できることは限られているということなんです。そこを明確にしない限り、
イラク復興支援を語ったことにはならないということなんですね。
自衛隊という
軍事組織は、私も今日、
自衛隊と、陸上
自衛隊と同じ色の背広を着ておりますが、私も十五歳で陸上
自衛隊へ入った人間でございまして、同い年の仲間はトップになっているわけでございます。ただ、そういう中で、皆様方よりは少し
内部のことを知っている立場として問題提起をさせていただきたいわけでございますが、
軍事組織はなぜこの
復興支援の中で必要性が求められるのかという点でございます。
最初から
民間でやれればやったらいい、私もそう思います。しかし、
軍事組織を持っていかなければならない理由がある。それは、国がつぶれ秩序が崩壊している、そこにおいては治安もやはり危うい
状況にある、その中ではやはり戦場じゃなくても危険な
地域はたくさんある。ですから、最初から
民間の人たちを持っていったらその危険に耐える能力がないという点で大変な問題が出てくる可能性がございます。ですから、そういった危険に対応できる能力を持った
軍事組織を持っていき、一日も早く
復興支援の足場を固める、言わば骨を折った後のギプスや添え木を当てるような
位置付けで
軍事組織を使うということでございます。
これが分からないということになりますと、やはり我々は税金の使い道を通じて民主主義のシステムを機能させているのだろうか、あるいは
国民が
軍事組織の暴走などをコントロールするという
意味での本来的な
意味でのシビリアンコントロールを放棄していることになりはしないか、そういう疑問にも突き当たるわけでございます。
例えば、
イラク戦争に反対をしたカナダという国が、
復興支援に関しましてはいち早く軍の輸送機を三機持っていった。これだって、
戦争に反対した立場だったらチャーター機を持っていけばいいんじゃないかということもございますが、パーフェクトに
民間でやろうとしますと輸送機を地上でサポートするチームも
民間人だけにならざるを得ない、これではやはり治安が不安定な
状況での対応は不可能でございます。ですから、
軍事組織を、輸送機を持っていったというのがカナダの考え方なんです。
私はこれで
日本の
国民の一人として自問自答をしなきゃいけないわけでございますが、やはり
軍事組織の使い方というのは、外見を見たら、米軍と同じようなヘルメットをかぶり、防弾チョッキを着け、ライフルを持っているからいわゆる戦闘行動しかできないのかと。そんなばかな話はない。
軍事組織を使おうという意思があり、頭を働かせれば、百通り二百通りという使い方が出てくるはずじゃないですか。
国内においても、国防の任務とは別に例えば災害派遣に使っているということなんです。だから、そういったことをきちっとわきまえながら、この一枚紙の下の方の「
日本の大義」に即したような形でどうやって持っていくかということを考えなければならないと思います。
ですから、私自身は、
自衛隊という
軍事組織で最初の足場を一日も早く固め、そして
民間主体の
復興支援にシフトしていくべきだと。そのことが、この後述べますけれども、テロの根絶という問題でもございますが、暴力が暴力を生むという暴力の連鎖を断つための
一つの方向性を示すのではないか、
民間主導の
復興支援のためのギプスという
役割が
自衛隊という
軍事組織の派遣にはあるのではないか、その辺はきちんと整理をして
自衛隊の派遣についても議論していただきたいと思っているわけでございます。
第二点でございますが、
日本の議論は、
イラクという国の安定を抜きにしてテロの根絶ができるかのような錯覚に陥っているという感じがいたします。本当にそうなんでしょうか。
例えば、
自衛隊を派遣すれば
日本の心臓部を攻撃するといったようなメールが中東の放送局に届いたとかなんかということになりますと、いや、
自衛隊は派遣しない方がいいという議論が出たり、それを殊更強調する放送局が出てきたりするわけでございます。私は、そういったときに、じゃ
自衛隊を派遣しなければ
日本を攻撃しないということをだれが保証するのか、
世界じゅうで
活動している
日本のビジネスマンや
世界じゅうをうろついている
日本の観光客がテロのターゲットにならないという保証をだれがするのかということを問い返したいわけでございます。そんな
言葉に踊らされていたら、
世界の平和を実現しようという
日本国憲法の精神にももとるのではないか、やはりこれは科学的、論理的に、現実的に考えながらテロの根絶や暴力をなくしていくための営みをすべきではないかということで考えるわけでございます。
冷静になって考えてほしいんですが、
日本という国は、
自衛隊を派遣しようとすまいと、あるいは何をしないでいてもテロのターゲットになる可能性は極めて高い国であるということを自覚しなきゃいけない。
例えば、アルカイダのようなイスラム原理主義者の過激派
組織などが目指すのは何でしょうか。これは近代文明の否定という
側面が極めて強い。そして、彼らが勝手に解釈しているコーランに、コーランの教えなるものに基づいて
一つの秩序を作っていこうとしている営みでございます。そうであればこそ、タリバンの支配下にあったアフガニスタンを根拠地にしたということなんですね。
そういう中では、女性の教育の受ける権利というものは否定されるような大変前近代的な
状況が創出される。そして、彼らがそういう近代文明の象徴として、そして
世界経済の象徴として目標としたのがあのニューヨークのワールド・トレード・センターであったということは忘れてはならないと思います。
アメリカであったからやられたという面だけではないんです。
日本はたまたま極東の離れ小島でございますし、アルカイダの中に
日本人のメンバーがどれぐらいいるか分かりませんが、
日本に潜り込んでくればすぐばれるからというようなこともあって、彼らは
日本をターゲットに今までしていない。しかし、既に資金の洗浄、マネーロンダリングにおいては
日本の金融機関を使っているじゃないですか。ですから、我々はターゲットになり得る国だという自覚の下に、
国内のテロ対策をきちんと取る、これはまあ当然でございますが、やはり
世界からこういったテロ集団の根拠地がなくなっていくための営みをきちんと科学的に進めていかなきゃいけない。順序よく進めていかなきゃいけない。その
中心にあるのが
イラクの安定であり、これが
復興支援であるということなんです。
そういう
日本でございますが、やはりこの今の二点に関する議論を整理する中で、これは今
酒井参考人がお話しになった考え方と大筋で一致いたしますし、その中身については
酒井参考人のような
専門家にお任せするのが妥当だと思いますが、私は、
日本が描くべき
イラク復興支援の青写真というもの、これはやはり
一つのグランドデザインでございますが、大規模な
雇用の創出による
復興支援基盤の確立というものが求められるんではないか。そしてこれが、
自衛隊員の安全のみならず、
民間がこれから
イラクの
復興支援に参入していく上での安全を保ち、それが
イラク全体の安定につながっていく条件になるのではないかなと考えております。
私は
イラクや中東の
専門家ではございませんが、たまたまこの問題にかかわる中で、
イラクの人々、いろんな立場の方に少しずつではありますがお話を聞く機会がございました。その中で、これ大枠の描き方としては適切かなと思ったのは、ここではかぎ括弧でメソポタミアの湿原という言い方をしておりますが、エデンの園のモデルだと言われている
世界四大文明を生み出したあの広大な湿原地帯、これがサダム・フセイン政権の
一つの政策によって今正に枯れようとしている。数字によっては八五%、数字によっては九三%が枯れようとしている。五年も放置したらこの湿原はなくなってしまう。
世界最大の
環境破壊だと言われている。これを復元してほしいという声が
イラクのいろんな
方々の中から出てくるんです。これはやはり
世界最大の
環境破壊への取組で、住民の帰還を促進するというだけではございません。これに取り組むことによって豊かな農業地帯が回復をする。また、淡水漁業の面でも大きな回復が見られる。当然住民は帰ってまいります。
そこにおいて行われる湿原復元の
事業というものは、内容を見れば非常にシンプルなんです。これは大規模な土地改良
事業と大規模な土木工事なんですね。これは、例えば昼間だけ働いてもらうとしたら、一か所当たり一万人ぐらいの
雇用しか出ない場所であっても、最初の二年、三年は突貫工事である。急がなきゃいけない。一日四交代でやれば一か所当たり四万人の
雇用が創出される。二十五か所の現場を作ることは簡単でございます。ということになりますと、百万人規模の
雇用が創出できる。最初から職にあり付き、給料がもらえるということになりますと、相当部分不安定な要素が排除されるであろうということは確かでございます。
また同時に、
酒井参考人のお話にもございましたが、我々が考えなきゃいけないのは、やはり
イラク復興支援のかぎを握っている港湾の
復旧あるいは商工業地帯の整備というものを取り組みながら、その中でやはり
雇用の創出にも寄与する必要があるのではないかと思います。ウンムカスルの港あるいは
バスラの港湾の問題などは極めて重要になってくるだろう。
これは、
日本の
外務省も、昨年四月、バグダッド陥落の直後にいろんな関連の会社に依頼をいたしまして、イラン・
イラク戦争当時の沈没船まで含めて、それの引揚げ、サルベージがどれぐらい可能か、あるいは機雷の除去の問題がどれぐらいあるかということは下調べはしたようでございます。もちろん、船のサルベージは一隻当たり五億円ぐらいでできるというような見積りも私は見ましたが、やはり機雷の問題がある。ですから、今朝のNHKのニュースでやっておりましたように、海上
自衛隊の機雷掃海部隊を持っていって機雷の除去を行いながらこの沈没船の引揚げなどを行うことが、やはりこのウンムカスルあるいは
バスラの港湾を
イラク復興の
一つの
中心に
位置付けていくためには極めて重要ではないかなと思います。
とにかく、私どもはこういったことで、枠組みをきちんと書く、そして
日本が担うべきは、明治期において
国家建設を行ったノウハウや、戦後
復興のノウハウをやはり
イラク復興支援のために役立てるようなきちんとした
位置付けではないか。
しかし、私自身は、この
参考のところにも書いてございますが、やはりそこにおいては、我々は
日本の大義にのっとった形で、沿うような形で理論武装を行い、間違っているところは修正しながら進まなければならないだろう。そこにおいてやはり準拠しなければいけないのは
日本国憲法の精神であり、戦後我々が原理原則として掲げてきた平和主義と
国連中心主義であろう。その辺はきちんと整理をしながら
イラクの
復興支援の中で重要な
役割を果たし、そしてそのことによる評価、そして
世界から寄せられる信頼が
日本の安全と繁栄を約束する形に持っていきたいものだと考えております。
どうも御清聴ありがとうございました。